珍しい料理があると思って頼んだ「腎臓のスープ」がこの日の白眉だった。モツの中でも腎臓という部位はアンモニア臭が強く下処理には手間がかかる。
鮮度の良さと丁寧な処理があってこそ癖のある食材が一級品に生まれ変わる。腎臓と言われなければ普通の人はまず気づかないだろう。それほど臭みがなく、やわらかく煮込んであった。
見た目からこってりしたスープを予想したが、いい意味で裏切られた。驚くほどあっさりしていたのである。畜肉と野菜のだしの見事な一体感、非の打ち所が無かった。
「うむ。言葉で表現するのがアホらしくなるほどの味ってあるんだな。このまましばらく目を閉じて余韻を楽しみたい」
Tさんは「へーえ。大当たりだね」と言ってニコニコしている。
「貴方、腎臓が悪いの?」
Rさんの妙な問いかけに首をひねった私は口を開いた。
「どうしてそんなことを聞くんですか?」
「医食同源って言葉を知ってるかしら」
「はい。一応は」
「台湾ではお産をして腎臓が弱ったお母さんに食べさせる料理なの。だから面白いなと思って見てたのよ」
「ほーそうなんですか。また一つ勉強になりました。ありがとう」
