昨年、ジェフ・ベックは母国ロンドンのジャズクラブでコンサートを開いた。すぐにブート(非合法のブツ)が出たが、私は無視した。1年後、正式に発売されたCDを聴き、己の判断が正しかったことを確信した。
餌のついていない釣り針を急いで飲み込みような愚かな行為を繰り返しているのは「精神年齢の低いおっさん」だけである。じっくり待つことができるのが「真の大人」だ(笑)
テクニシャンがバックを固め、ベックは伸び伸びとギターを弾いている。まさに職人の仕事である。ヤードバーズ出身(同門)のエリック・クラプトンはバタヤンみたいになってしまってもはや輝きを感じないし、ジミー・ペイジのギタリストとしての生命はとっくの昔に終わっている。現役バリバリなのはベック一人だ。
2006年7月の来日公演とセットリストはほぼ同じなのだが、アレンジが大幅に変わった曲が目立つ。ベースソロを組み込んだ「哀しみの恋人達」はフュージョン色が濃くなって新たな味わいが生まれている。
この曲でベックのギターは見事にむせび泣いているが、他ではアグレッシブなプレイが多い。荒削りともいえるフレーズの数々が随所に飛び出して聴く者の心を大きく揺さぶる。
来年2月、再び日本の地を踏む孤高のギタリストはどんな名演を残してくれるだろうか。今から非常に楽しみだ。