夕食の途中で私は席を立った。TさんとRさんが迎えに来たのだ。
「それでは皆さん、御機嫌よう」
スタコラサッサッサーノサー、と退室するのを引き止めた者がいる。凶都出身のすこぶる品のないおばはんである。
「何処へ行くんですか」
「ええとこ」
わずか4文字しか使わなかった男にムッとしたのは明らかだった。KABAの目も笑っていなかった。
外に出てRさんに労いの言葉をかけた。
「KABAちゃんとは相当激しくやり合ったそうで。気まずい思いをさせてすみませんでしたね」
「予定をキャンセルして穴場に行きたい貴方の気持ちも分かるし、彼女の言い分も尤もだし。私は板挟みで大変だったのよ」
「なるほど。ところでKABAちゃんが観光客に土産物をたくさん買うように煽っていたのは何故なんでしょうか。私が一つも買わないんで不満そうでしたよ」
「訳を知りたい?」
「ぜひ聞かせて下さい」
「観光客が購入した代金の何%かが彼女の懐に入るのよ。そんな旨みがないとガイドなんてやってられないと言ったら日本人は怒るかしら(笑)」
「やっぱりマージン取ってたんだ。とすれば私なんかは目の上のたんこぶでしょうな」
Tさんは「KABAちゃんは朝からアドレナリンを分泌しっ放しだったんだ」と言って大笑いした。
夜市は賑やかである。レコード店に入って井上陽水と高橋真梨子のベストを買うことにした。店主がしきりに台湾人アーティストのCDを薦めるのでそれも包んでもらった。