2000年9月30日初版発行、白水社、定価2000円。現在は文庫本にもなっている。高名な料理人が書いた本は実に下らないものが多いが、これは数少ない秀作の一つだと思う。
つきぢ田村の三代目が東京を去り、高麗橋吉兆で修行するくだりは読み手を飽きさせない。失敗談を交えた薀蓄は鼻につかないのがいい。著者の知性の輝きは随所に感じられる。日本料理の枠にとらわれない姿勢も評価したい。
祖父であり、師匠でもある平治氏との想い出にはホロリとさせられる。10ページ目に出てくる初代の言葉は重みがある。
「まずいものを食べているとうまいものが分からんで。でもな、うまいものを知っているとまずいもんがよう分かるんや。本物を食べなあかんで。本物を観にゃ偽物が分からん。本物に出逢うことや‥‥」
先日、マッサージ師と魚の味の話で盛り上がった。北海道函館出身の彼は皮肉たっぷりに語った。
「瀬戸内の魚が一番うまいだろうと言われるとカチンとくるんだ。自分の生まれ育った街から遠く離れて暮らしたこともない奴に限ってこんな台詞を吐く。物を知らな過ぎる。このあたりは井の中の蛙(料理人)が多いね」
「確かに客を小馬鹿にする板前はいますよ。他人の話を聞かないというか、自分の考えが絶対正しいと思っている。でも修行先が地元では説得力ないでしょう。あれが本当の田舎者だと思います」
そう答えた私だったが、かつては内海の魚が最高だと信じて疑わなかった。それが転勤を機にいろいろ旅して食べ歩くようになり、その土地ごとにうまい魚があると舌で感じとったのだ(北は宮城、南は沖縄)。
以下は私が「これはいい」と心から思ったもの。好みが色濃く出ている点はご了承を(笑)。
三陸‥‥‥‥秋刀魚、鱈
ひたちなか‥アンコウ、戻り鰹
東京湾‥‥‥穴子
焼津‥‥‥‥鰹
北陸‥‥‥‥赤ムツ(ノドグロ)、岩ガキ、ブリ
瀬戸内‥‥‥鯛、メバル類、ワタリガニ
別府‥‥‥‥トラフグ
「瀬戸内の魚が一番うまいだろうと言われるとカチンとくるんだ。自分の生まれ育った街から遠く離れて暮らしたこともない奴に限ってこんな台詞を吐く。物を知らな過ぎる。このあたりは井の中の蛙(料理人)が多いね」
「確かに客を小馬鹿にする板前はいますよ。他人の話を聞かないというか、自分の考えが絶対正しいと思っている。でも修行先が地元では説得力ないでしょう。あれが本当の田舎者だと思います」
そう答えた私だったが、かつては内海の魚が最高だと信じて疑わなかった。それが転勤を機にいろいろ旅して食べ歩くようになり、その土地ごとにうまい魚があると舌で感じとったのだ(北は宮城、南は沖縄)。
以下は私が「これはいい」と心から思ったもの。好みが色濃く出ている点はご了承を(笑)。
三陸‥‥‥‥秋刀魚、鱈
ひたちなか‥アンコウ、戻り鰹
東京湾‥‥‥穴子
焼津‥‥‥‥鰹
北陸‥‥‥‥赤ムツ(ノドグロ)、岩ガキ、ブリ
瀬戸内‥‥‥鯛、メバル類、ワタリガニ
別府‥‥‥‥トラフグ
明石にもどった私は「土産を買って帰らないと何を言われるか・・・」と思った。それで【魚の棚】に寄ることにした。昼網が目当てなのだ。商店街はたくさんの人でごった返していた。
やはり鮮魚店が多い。活きのいい魚が飛び跳ねていた。タチウオ、ツバス(ブリの幼魚)、ガシラ(カサゴ)、マルハゲ(カワハギ)など、どれも驚くほどの安さである。迷った末、小ぶりの真鯛1尾(1500円)とハモ皮(200円)を買い求めた。
所用で急遽兵庫入り。午前中で事は済んだので半日観光できた。昼は御当地名物「玉子焼き」を食べることにした。私は本町にある小汚い店『M』につかつかと入った。
ここのメニューは玉子焼きのみ。おばちゃんは注文を聞いてから焼き始める。約5分後、傾斜のついた板に等間隔で並べられたものが出てきた。だし巻き玉子を更にフンワリさせた感じで大阪のたこ焼きとは全然別物である。
薄味のだし(薬味は三つ葉)につけて、ほどよく冷ましてから口に放り込む。体調が良ければ二人前はいける。ソースをつけて食べることもできるが、これは邪道だろう。アルコールはビールに他に日本酒もあるのがミソ。
500円を手渡して店を出た。強い陽射しに私は思わず目を細めた。腹ごなしにフェリー乗り場まで歩こうと思った。
ここのメニューは玉子焼きのみ。おばちゃんは注文を聞いてから焼き始める。約5分後、傾斜のついた板に等間隔で並べられたものが出てきた。だし巻き玉子を更にフンワリさせた感じで大阪のたこ焼きとは全然別物である。
薄味のだし(薬味は三つ葉)につけて、ほどよく冷ましてから口に放り込む。体調が良ければ二人前はいける。ソースをつけて食べることもできるが、これは邪道だろう。アルコールはビールに他に日本酒もあるのがミソ。
500円を手渡して店を出た。強い陽射しに私は思わず目を細めた。腹ごなしにフェリー乗り場まで歩こうと思った。