「好きなものを選んで」
Rさんの言葉に甘えて私はスープとビーフンの炒め物を注文した。
「こいつを忘れちゃいけねー」
Tさんが頼んだメニューが「シジミのニンニク醤油漬け」。生っぽい身に甘辛い汁を吸い込ませた台湾の名物料理で老酒が隠し味になっている。体が温まったので紹興酒から台湾麦酒に切り替えた。
愚かな日本人は異国に来てまで「日本のビールがいっちゃんおいしいわ」と抜かすが、台湾の気候と料理に合う酒とは少し違う。やや気の抜けたような(弱炭酸の)軽い味わいの台湾麦酒は油ものとの相性が極めてよい。腹が膨れない点では日本製ビールよりもはるかに優れている。
「この麦酒はなんぼでも飲めるからいいよ」
「本当にそうですな。日本のビールではそうはいきません」
日本人が台湾麦酒を褒めて大笑いするとRさんが会話に入ってきた。
「辛口なところはちっとも変わってないのね」
「ええ。嘘のつけない性分でして・・」
私ははにかんでコップを空けた。
