TVで顔馴染みの中国政府・姜瑜報道官が、「尖閣諸島問題」について意外なことを言い出した。
「日本と中国がともに領有権を主張する尖閣諸島問題に興味のある人は、京都大学の井上清教授が執筆した尖閣諸島にまつわる歴史と帰属問題に関する書籍に目を通すよう提案した」と言うのだ。今や忘れ去られた存在である井上清の著作を、あの一党独裁国家の報道官が、「課題図書」として「推薦」してくださったとは…。こういう高圧的な中国人の態度に対しては、日本人も少しは目覚めて、”激怒”する必要がありそうだ。
その本とは、井上清著「”尖閣”列島―釣魚諸島の史的解明」(第三書館 1996年)※ を指す。姜瑜報道官は、今や絶版になった古本をamazonででも探して読めと言うのだろうか。
※ http://www.mahoroba.ne.jp/~tatsumi/dinoue0.html
※ (中国政府・姜瑜報道官)
1970年代、井上清・京都大学教授は、マルクス主義歴史学者(専攻は日本史)として有名だった。当時の文系学生であれば、彼の名前を知らなければ、恥ずかしいという雰囲気もあったくらいだ。井上は、京都大学教授という要職にありながら、一貫して体制批判を続け、「天皇の戦争責任」という本も著した。ウィキペディア(※)には次のように書かれている。
「1972年に『「尖閣」列島--釣魚諸島の史的解明』を発表し、日本の尖閣諸島領有は国際法的に無効であると主張。
昭和から平成へと代わる時期に、歴史学的立場から、元号問題について「元号ではなく、西暦を採用すべきだ」という趣旨の発言を行った。
1997年中国社会科学院から名誉博士号を授与される。」
(※) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E4%B8%8A%E6%B8%85_(%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E5%AE%B6)
井上清がもし存命だったら、姜瑜報道官の発言をどう思っただろうか。多分、自説が中国のお役に立ててよかったと喜んだに違いない。日本近代史を専攻する学者でありながら、マルクス主義の人民史観にたつ井上清は、日本の近代化を決して評価せず、近代国家日本のあら探しを続けた。その結実が、「天皇の戦争責任」などの左翼的な著作だ。
「”尖閣”列島―釣魚諸島の史的解明」という書名だけ見ても、日本を断罪し、中国に加担する立場が明らかだ。尖閣には引用符が付けられていて、その名称自体に問題があると示唆している。これに対して、釣魚諸島という中国側の名称には引用符が付けられていない。
1996年に書かれたこの絶版本が、今頃亡霊のように現れ、中国側の領有権主張の「根拠」となっている。井上清は「日中友好人士」として有名だったが、このように中国側の厚遇を得て、体制批判を続けた「進歩的文化人」が数多く存在した。「京都大学教授」という権威を利用して、売国的活動を続けた井上の罪科は特に重い。
井上清が尖閣諸島を中国領だと主張する根拠には、決定的な誤りがある。現代世界各国の国境線の根拠となっているのは、近代国際法(万国公法)だ。この万国公法の「先占権」という概念に従えば、尖閣列島は100%日本の領土である。中国側は、古文書に「魚釣島」(中国側の名称)を見いだすというのだが、それは近代以前の東アジア世界、すなわち「華夷秩序」の朝貢関係に基づく世界の出来事にすぎない。もし、中国側が領有の根拠を前近代まで遡ると主張するのなら、中国は何故、イギリスが香港を租借するのを1997年までの99年間も容認したのだろうか。香港に関しては、近代国際法(万国公法)の取り決めを守り、尖閣諸島については何故守らないのだろうか。実にいい加減なご都合主義と言わなければならない。
前原国土交通大臣は「東シナ海には領土問題は一切存在しない」と明言している。鳩山前首相が「尖閣諸島問題は…」と不用意な発言したことがあるのに対し、前原大臣の発言は冷静で適切だった。これこそ日本側が主張すべき言葉だ。
1972年、日中国交回復時に棚上げにされたはずのこの問題を、中国が経済発展を遂げ、方や日本が八方ふさがりという状況下で、突然、中国の「民間漁船」が 尖閣諸島に領海侵犯する。これが中国側の意図的な挑発でないとしたら、どれほどの偶然が重なったとでも言うのか。
中国が描く領土(版図)は、清朝時代の史上最大版図だ。この華夷秩序下の版図には、内外モンゴル、チベット、ウィグル、台湾が含まれる。さらに朝貢関係にあった琉球(沖縄)までも勢力圏におく。言うまでもなく、清朝は満州族の征服王朝であって、漢民族の王朝ではない。清王朝を倒した中華民国が、「ひとつの中国」という「大中華民族」を煽ったのであって、歴史上、中国がひとつであったことなど一度もない。にもかかわらず、中国共産党は、これらの地域がすべて「ひとつの中国」だと主張しているのだ。現代世界で、このような領土的野望を抱く国家が他にあるのだろうか。
井上清は、京都大学教授という権威のもとに、中国共産党の宣伝マンを続けてきた。祖国の領土を中国の領土だと主張した14年前の著作が、いま日の目を見ているのだから、草場の陰の井上は本望だろう。
《姜瑜報道官の発言》
姜瑜報道官は、「日本は釣魚島(日本名:尖閣諸島)海域で中国人漁船員を不法に逮捕した」と繰り返し主張し、当面の急務は日本が中国人船長を一刻も早く帰国させることだと述べた。
続けて、中国各地の人びとは日本が中国人漁船員を不法に逮捕したことにきわめて大きな憤慨を示しているとし、「国家主権および領土を守るための意志と決意を十分に示すものである」と述べた。
さらに、「中国は釣魚島をもっとも早く発見した国であり、管轄権を行使する国である」と述べ、日本と中国がともに領有権を主張する尖閣諸島問題に興味のある人は、京都大学の井上清教授が執筆した尖閣諸島にまつわる歴史と帰属問題に関する書籍に目を通すよう提案した。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2010&d=0914&f=politics_0914_018.shtml