澎湖島のニガウリ日誌

Nigauri Diary in Penghoo Islands 澎湖島のニガウリを育て、その成長過程を記録します。

「太平洋の奇跡」そして戦争映画の音楽について

2011年02月13日 06時48分06秒 | 音楽・映画

 「太平洋の奇跡」という映画が喧伝されていて、今朝もドキュメンタリー風の宣伝番組が流されていた。
 

 この映画は、太平洋戦争におけるサイパン島の玉砕を描いたもので、原作はサイパン島に従軍した米国兵士であるという。敗戦後66年が過ぎ、戦争を知らない世代が映画製作者になった今、「フォックスと呼ばれた男」という日本軍人にテーマを絞って映画を作ることは、「歴史認識」「戦争責任」という煩わしさから逃れるためには、最も好都合であったかと思われる。
 実際にこの映画を見た知人は、次のように感想を書いている。

 「宣伝は見てなかったのですが、”何かやたらに日本文化をきっちり理解している、教養あるアメリカ人が出てきて、その人のお陰で最後は日本人が玉砕という過ちに気づいて、僅かな人数でも助かる”というストーリーでした。
 歴史を知らない私のような日本人は”天皇陛下万歳!とだけ信じて死んだバカな日本人を、教養ある、人道主義に溢れたアメリカ人が目覚めさせて、救った!”という、アメリカ人は素晴らしい!ということになる内容です。」

 この映画は「敗走」の悲劇を扱っているためか、その映画音楽については特に話題になっていない。
 だが、戦勝国が先の世界大戦を描いた映画には、勇ましい映画音楽を伴った作品が多い。


(「フィルム・スペキュタクラー」 スタンリー・ブラック指揮ロンドン・フェスティバル管弦楽団 DERAM POCD9020)

 この「フィルム・スペキュタクラー」には、「史上最大の作戦」(The Longest Day)がBBCニュースのナレーション入りで収められている。戦史の転換点となった、ノルマンジー上陸作戦を報じる、当時のBBCニュースを再現しているのだ。ここには、戦勝国の誇り、かの戦争が正当だったとの主張が、問わず語りに横溢している。


(「Battle Stereo」 ボブ・シャープレス音楽監督 英国近衛兵軍楽隊  LONDON 456-155-2)

 この「Battle Stereo」は、第二次大戦終結から18年後の1963年にリリースされたアルバム。デッカ・レコードの音楽ディレクター、ボブ・シャープレスが制作した、効果音入りの戦争音楽である。映画音楽ではなく、音楽とナレーション、そして効果音で戦争そのものを扱ったというユニークなアルバムだった。その構成は、次のとおり。

① アメリカ独立戦争(1775-1783)
② ナポレオン戦争(1812)
③ 南北戦争(1861-1865)
④ クリミア戦争(1853-1856)
⑤ 第一次世界大戦(1914-1918)
⑥ Battle of Britain (1940)

 例えば、⑥Battle of Britainは、英国の祖国防衛戦争だが、左側のスピーカーからヒトラーの演説が流れ、右側のスピーカーからはロンドン空襲のサイレンが聞こえてくる。さらにはビッグ・ベンの鐘が鳴り、チャーチルの言葉が流され、エルガー作曲「威風堂々」の大合唱で終わるという内容。否応なしに、英国人の愛国心を駆り立てる仕掛けになっている。   

 
(「Military Musical Pageant」 C.H.ジェイガー中佐音楽監督 英国近衛騎兵連隊音楽隊ほか 1970年 DECCA POCL4790)

 「ミリタリー・ミュージカル・ページェント」は、1969年英国ロンドン・ウェンブリー・スタジアムにおけるライブ録音。ブックレットの解説は、次のように書かれている。

「1969年6月21日午後7時30分からロンドン郊外のウェンブリー競技場にて英国陸軍慈善基金設立25周年を記念して、3時間近くに渡って開催された約1200名による陸軍軍楽隊の模様を実況録音したハイライト盤です。
 この当時はステレオレコード全盛期で各社各様にステレオ録音技術を競っていて、ここに収録されたものは英国デッカ社が世界に誇ったフェイズ4方式で録音されたものです。クリアーなサウンド、豊かな臨場感、特に競技場に持ち込んだ「1812年」での圧倒的な大砲実射音は聞き物です。」

 チャイコフスキーの「大序曲1812年」が、全隊合同演奏で演奏されている。空砲とはいえ、実際に大砲を撃ったのだから、すごい迫力だ。

 このように誇らしげに音楽で戦争を描けるのは、戦勝国だけだ。自衛隊がこんな録音を遺したら、国会で「また暴力装置の自衛隊が…」と言う議員が出るに決まっている。音楽ひとつをとっても、彼我の差はかくのごとし。「戦争をやるのなら、勝たなきゃあダメだ」という言葉は、普遍的な真実なのかも知れない。
 別に、戦争が好きなわけではないけれど…。