たまたま、映画「Kimjongilia」(キムジョンジリア)を紹介するTV番組を見た。ローカル局の番組なので、ほとんどの人は見られなかったと思う。
この映画は、2009年制作の米国映画。「Kimjongilia」とは、金正日花と呼ばれるベコニア系の花を指すらしい。次の写真の下部に飾ってある、この花だ。
(赤い花が「金正日花」)
映画の内容は、金正日の賛美などではなく、北朝鮮という独裁国家に内在する恐怖、貧困、人権抑圧を告発するドキュメンタリー映画※だ。「喜び組」に所属して金王朝の秘密を知るが故に、強制収容所に送られ、すべての家族を失った老女。強制収容所で産まれ、24年間その中で暮らした後、脱北に成功した青年。日本でも強制収容所の体験記(「北朝鮮脱出」)が出版され反響を呼んだ姜 哲煥氏など、北朝鮮から脱出した人々にインタビューを試みている。
※ http://www.kimjongiliathemovie.com/
金正日の死去をめぐる日本のニュース報道は、核心となる問題を避け、どうでもいいようなことばかり報道しているという印象を受ける。核心となる問題とは、北朝鮮が専制的独裁国家であり核保有国であること、同時に「反日」を国是とする国だという事実だ。ワイドショーのコメンテーターなる人が、金正恩が東京ディズニーランドに来たという情報を根拠に「知日派だから、今後日朝関係はよくなるかも知れない」などと喋っているのを見ると、この映画を見てからコメントしろよ、と言いたくもなる。
脱北者のひとりである音楽家が興味深いエピソードを話していた。こっそりとリチャード・クレーダーマンのピアノ曲を弾いていたのを密告され、脱北を余儀なくされた。北朝鮮でピアノを弾ける環境というのは、エリート層に他ならない。私は、文化大革命期、中国から香港に脱出した紅衛兵が、香港のラジオ放送から流れてくる音楽を聴き、「世の中にはこんな美しい音楽があるのか。こんな音楽があるのは素晴らしい世界に違いない」と思ったというエピソードを思い出した。
朝鮮半島をめぐるさまざまな問題に対して、日本国および日本人は、戦後ずっと及び腰の対応を続けてきた。毅然とした態度を示すべき時も、過去のいきさつを突かれることを恐れ、そうしないできた。だが、北朝鮮という専制独裁国家をここまで増長させたのは、曖昧な日本の態度にも責任の一端があるのではないかと思えてくる。例えば、パチンコの景品交換を取り締まるだけでも、北朝鮮の独裁体制を動揺させるだけの効果があったはずなのに、「パチンコは健全娯楽」という建前でそれを見過ごした。
この映画は、北朝鮮を直視するいいきっかけになる。日本海を隔てた隣国には、二千万人の飢えた人民が、憎悪に満ちた目で日本を見ている…それくらいのリアルなイメージは持つべきだろう。