定年まで勤めた会社で、盟友と呼べた唯一の男『大統領』からメールが来た。
メールには『来週から休暇に入ります』とあった。
そうか、『奴』もついに定年が近づいたんだ。
二人で切磋琢磨して、極限まで性能を追及して作った装置があった。
2006年4月東北大学 多元研 モノクロTEM
2006年10月 オックスフォード大学 高分解能TEM
今はその性能も当たり前と言う時代になった。
技術の進歩っていうものは、そうでなくてはいけない。
最初に『奴』と出会った仕事で、僕は『奴』を徹底的に叩いた。
その後は『奴』が手掛けた仕事を引き継いで作った装置を商品化して
北海道大学 超高圧電子顕微鏡
僕は一時、会社で地位を築いた。
この装置こそ、『奴』の基礎実験が無ければ成し得なかった仕事。
結果的に僕は『奴』が作った具材を使って『美味しいところ』だけを頂いたようなものだった。
その後、ちょっとした事で仲違いがあったけれど、今はそれも笑い話。
『動』の僕に対して、『奴』は『静』と性格も真逆の間柄。
僕と違って、『奴』は辛抱強い。
僕のように我慢できずに居るのとは違って、じっと我慢して自分の居場所を造る。
そう言うところも含めてお互いにリスペクトしあっているから、
僕が退職した後も、たまに飲みに行ったりと関係は続いている。
『奴』も色々と不本意な会社生活を送ってきたように思う。
奇しくも僕を誘ってくれた今の所長も、僕も『奴』も
同じ上司の下で、同じように煮え湯を飲まされるような扱いをされてきた。
『奴』は定年後をどう過ごすのかな?
雇用延長で、今の会社に残るつもりなら定年前の休暇は使えないはず。
と言う事は、定年後は会社に残らないのかも?
会社生活は決して楽には過ごせなかっただろうから、
定年退職したら楽しい事をして生きて行ってほしいな。
出来ればまた一緒に仕事したいなんて思う部分もあるけれど、
僕は仕事に生甲斐を感じていないから無理な話かもしれない。
生きて行くのに大事な事は、楽に生きること。
お金や地位じゃないんだよ。
良い仲間と、ずっと繋がって行くことだと思う。
『奴』とはそんな良い仲間関係を、これからも続けて行きたいですね。