ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

「章説 トキワ荘の春 (石ノ森章太郎生誕70年叢書シリーズ①) 」(清流出版;石ノ森章太郎著)

2022-12-08 20:13:25 | 読む


本書は、石ノ森章太郎の生誕70年に、ギネスブック認定されたのを記念して出版された単行本である。
2008年にギネスブックに認定された理由が、ひとりの著者が描いたコミックの出版作品数が世界で最も多いということだった。
記念出版といっても、内容はマンガではなく、主に文章による叢書シリーズ6巻のうちのの第1巻として刊行されたのが、本書である。
さすがに単行本自体は、今は絶版になっているけれども。

私がこの本を手に入れたのは、2009年の8月に石ノ森章太郎のふるさと記念館を訪ねたときであった。

記念の意味で、叢書シリーズ6巻のうちから、「ボクはダ・ヴィンチになりたかった」と「章説 トキワ荘の春」の2冊を買ったのだった。

最初に刊行されたのは1981年で、書名も『章説・トキワ荘・春』だったらしい。
この本自体はそれからも何度か出版されたり文庫化されたり電子書籍化されたりしている。

買ってから時間が流れ、しばらく前の本になってしまったが、今年は、トキワ荘のマンガ家仲間だった藤子不二雄Ⓐ氏が亡くなったことも動機付けとなって、もう一度読んでみた。

「章説 トキワ荘の春」という書名にはいくつか意味があるのだろう。
「小説」ではなく「章説」。
石ノ森章太郎が小説風に書いたということ。
トキワ荘には多くの仲間がいたが、石ノ森章太郎から見たトキワ荘の話であるということ。
「春」には、トキワ荘が若いマンガ家たちの青春時代の話だということや、マンガ家たちの集う場所として、ボロアパートであっても華やかな時代だったということ。
そんな意味にとって、ページをめくった。

話の始まりの方を占めるのは、石ノ森章太郎の姉のことである。
彼には、3歳年上の姉がいた。
石ノ森の上京について、両親は強く反対したが、唯一の理解者が姉であった。
その姉も上京し、同じアパートのマンガ家仲間のマドンナのような存在になるのだが、その姉が、わずか23歳で亡くなってしまう。
そんな悲しい出来事があったとは、この本を読んで初めて知った。
石ノ森が受けたショックは相当に大きかったようだ。
ただ、それを知って思ったのは、石ノ森が描く女性は、いつもなんだか妖艶で年上を感じさせる雰囲気を持っていたということ。
それは、姉をイメージして描いていたのかもしれないなと思った。
(彼が描いた女の子には、さるとびエッちゃんみたいなかわいい子もいたけどね。)


その他の内容は,トキワ荘の住民だったマンガ家たちの、若きあの頃ならではの青春の物語が繰り広げられている。
この2階建てのアパートで、手塚治虫が仕事をし、寺田ヒロオ、藤子不二雄、赤塚不二夫、鈴木伸一、つのだじろう、横田徳男、長谷邦夫、園山俊二、水野英子たちと暮らした実話の数々が披露される。
ただ、藤子不二雄Ⓐが「まんが道」で描いているものとは、少し違っているのが「章説」たるがゆえだろう。
自身やトキワ荘メンバーの滑稽な話やら少し悲しい話やらが綴られていた。
手塚治虫のアシスタントをしたときに、鉄腕アトムの背景入れを依頼されたが、背景だけでなく、アトムなどにもペンを入れて描き上げてしまったこと。
アパートの炊事場の流し台で、水を出しっぱなしにためて風呂がわりに使った話など、赤塚不二夫のハチャメチャな生活ぶりは、印象深い。

新潟県人としては、「ホームラン金太郎」などを描いた新発田市出身の寺田ヒロオのことをもっと知りたいと思った。
メンバーの中で一番の年長で、「優しさと頼もしさと、清々しい初夏の太陽の輝きと匂いを持った“兄貴”」だそうだ。
少々ナマリのある言葉を放つのは、新潟県出身を表していたようだ。
「几帳面な性格その性格通りに、いつ覗いても、寺サンの部屋はきちんと片付いいていて清潔だった」とも書いている。
 やがて一人一人引っ越していって、石ノ森は、この「トキワ荘」を去った最後だった。

そして、エピローグの最後は、
………マンガは青春。
という言葉で終わっている。

そう、青春は、若いときの仲間とのふれあいなくして語れない。
そして、当時は一日一日が短いけれど、信じられないほどドラマチックなことが起こったりする。
二度と帰って来ない貴重な日々。
みんな、そんなことを知っているから、住んでいたマンガ家たちを知らなくても、トキワ荘が今も多くの若者たちに人気があるのは、そこが1つの「青春の場所」だと思って見るからなのだろうなあ。

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