孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  21日に国会議員選挙 核合意の経緯は穏健派に逆風 国民の願いは経済改善

2020-02-17 23:18:42 | イラン

(投票風景 (保守強硬派、穏健派の推薦リストである)ビラのかわりにスマートフォンの画面を見る人も=2012年2月26日 出典: 神田大介撮影【2017年10月17日 神田大介氏 withnews】)

【「選挙は、宗教的民主主義の具現」】
今週金曜日の21日、イランでは国会議員選挙が行われます。

下記は、イラン系メディア「ParsToday」の関連記事です。

****視点;イラン国会議員選挙 - 様々な政治趣向や政党の存在****
今月21日、第11期イラン国会議員選挙及び最高指導者の選出を担う専門家会議の第5期第1回中間選挙が行われます。 

選挙は、宗教的民主主義の具現であり、同時に国民が国の運命を決定付ける場に参加することを意味します。

現在、選挙に向けて116の政党が正式に承認されています。これらの政党には、原理主義、改革派、無所属・中道派という3つの潮流が存在します。各選挙組織は、選挙の舞台にあらゆる趣向を導入すべく奔走しています。
 
(中略)いずれにせよ、4年に一度の割合で実施される国会選挙において、様々な階層や政治的派閥に属する様々な背景を持つ人々が国会での議席を得るために競い合い、有権者によって選択の対象となるわけです。中でも過去に際立った成功を収めた人物が選ばれる確立が高くなります。
 
今回、特に大きく報道されているのは、過去3期にわたり国会議長を務めてきたラーリージャーニー氏が不出馬を表明していることです。これは原理主義や改革派の間で大きな反響を呼びました。

ネット空間やメディアの予測では、ラーリージャーニー議長の国会選挙の不出馬の理由は、同議長がイラン大統領選挙出馬に向けて計画を立てているとする可能性が指摘されています。【2月15日 ParsToday】
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最後に出てくるラーリージャーニー議長・・・日本メディアでは「ラリジャニ議長」と表記されることが多い保守強硬派の中心人物です。アフマディネジャド元大統領のような庶民の出ではなく家柄も名家で(宗教権威に支えられたイラン保守派政界ではこういう「権威」が重要視されます)、以前から注目されていた政治家です。いよいよ大統領選挙に・・・ということでしょうか。

116の政党が承認されているとのことですが、日本や欧米で普通に見られる大政党は存在しないようです。しかも、
今回選挙の情報はしりませんが、4年前の前回選挙では290議席に1万2000人あまりが立候補を届け出ました。

大政党もなく、1万人を超す立候補者・・・どうやって有権者は選択するのか?(前回選挙では、人口約850万人の首都テヘランは定数が30に対し、最終的な候補者数が1111人)

後出記事でも説明されていますが、保守派、穏健派などの陣営がそれぞれ推薦リストを用意し、有権者はそのリスト(自分が気にった方)を見ながら投票する・・・というのが一般的なようです。

【「アメリカに騙された」・・・核合意を推進したロウハニ・穏健派には逆風】
最近のイラン社会では、ガソリン価格引き上げに伴う抗議デモが広がり、一部は体制批判に及び治安部隊との衝突で多くの犠牲者がでる事態に。

その後、米軍による革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害で、一転、反米的体制への求心力が高まったように見えました。

しかし、革命防衛隊によるウクライナ航空機撃墜を隠蔽していたとして、再び体制批判が表面化

・・・といったように、目まぐるしい動きがありますが、国民の間では「穏健派の言うように国際社会に譲歩して核合意を結んだのに、一向に制裁は解除されず暮らしはよくならない。アメリカに騙された」という不満が基本にあるように思われます。

「アメリカに騙された」という思いは、核合意を推進したロウハニ大統領など穏健派への批判となります。

****イラン大統領 革命記念日演説 保守強硬派の国民から罵声も ****
アメリカとイランの対立が先鋭化する中、イランのロウハニ大統領は11日イスラム革命の記念日に合わせた演説を行いアメリカとの対決姿勢を強調しました。

しかしこれまで欧米との対話路線を推進してきたことに保守強硬派の国民から罵声が浴びせられ、国内での立場が厳しさを増しています。
 
イランのロウハニ大統領は11日、現在の政治体制が樹立されたイスラム革命から41年となるのに合わせ、国民向けの演説を行い「アメリカはここ数年、イラン国民にひどい圧力をかけている。イランを壊し、降伏させようとしている」と述べ、経済制裁の強化や先月のソレイマニ司令官殺害などで圧力を強めるトランプ政権を非難しました。

そのうえで、「政府、国民、軍、国をあげてイランの国旗と最高指導者のもとで抵抗を続ける」と述べて、アメリカと対決する姿勢を強調しました。

しかし会場からは、保守強硬派の国民らが「妥協した者に死を」とか「恥知らず」といった罵声を浴びせかけ、アメリカの離脱で機能不全に陥っている核合意を結ぶなど、欧米との対話路線を掲げてきたロウハニ大統領を厳しく非難する一幕もみられました。

イランではアメリカが制裁を強化する中で経済が厳しさを増し、国内では政府を非難するデモも頻発していて、ロウハニ大統領にとって厳しい政権運営が続いています。【2月12日 NHK】
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そうした流れを受けて、今回選挙では穏健派の退潮、保守強硬派の台頭を予想するのが一般的な見方となっています。

****イラン国会選挙、強硬派台頭か 21日投票、穏健派は退潮****
米国と敵対し、核問題を巡り欧州との関係も冷え込んでいるイランの国会選挙(一院制、定数290、任期4年)の投票が21日に迫った。国際協調に重きを置くロウハニ政権を支えてきた改革派や穏健派の多数が立候補の事前審査で失格となり、反米の保守強硬派が優勢との見方が広がっている。
 
米イラン間では1月、米軍による革命防衛隊の有力司令官殺害やイランの報復攻撃で、武力衝突の直前まで危機が高まった。選挙で強硬派が台頭すれば、イランが米国との対決姿勢をより強める恐れがある。
 
イランでは最高指導者が重要政策で最終決定権を持ち、大統領や国会は従属的な立場だ。【2月17日 共同】
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“改革派や穏健派の多数が立候補の事前審査で失格”・・・毎回、選挙のたびに問題となるところです。
日本や欧米とも似通った選挙という民主的仕組みがあるものの、最高指導者を頂点とする宗教権威によって大きく制約されている、イラン民主主義の限界でもあります。

審査は、最高指導者が直接・間接に任命した『護憲評議会』という組織が行います。
下記記事は、前回選挙に関するもの。

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国(の一機関)が事前審査をします。基準は、イラン国籍がある、30歳以上75歳以下、選挙区で悪い評判がない、イスラム法学者の統治に忠誠を誓うこと、など。

審査は密室で行われ、失格の通知にも理由は一切説明されないため、国に都合の悪い候補者が落とされているのではないか、という批判が絶えません。

この選挙では、届け出の締め切りから3週間後、約7300人が失格になったと報じられました。全体の6割です。【2017年10月17日 神田大介氏 withnews】

【「今のイランの国民にとっては、経済の改善ということが、何よりもの願い」】
そうした状況でも前回選挙では国民の経済改善への期待を担って穏健派・改革派が勝利しましたが、今回は・・・

****激動のイラン 国民の選択は****
(中略)
現在のイラン情勢は

西海
「スタジオには、現代のイラン政治が専門の、日本エネルギー経済研究所・研究理事の坂梨祥(さかなし・さち)さんです。
今年(2020年)に入り、非常に緊迫したイラン情勢ですが、現地はどうなっているのでしょうか。」

日本エネルギー経済研究所 研究理事 坂梨祥さん
「イランの情勢は、とても混とんとしています。
年明けにアメリカ軍がイランの司令官を殺害して、イランでは壮大な葬儀が行われました。
その後、イランがアメリカに報復攻撃を行って、一件落着と思われたのですが、緊張が極度に高まる中でウクライナ民間航空機の誤射が起こり、体制がそれを隠そうとしていたことに批判が広がりました。あまりにもたくさんのことが一度に起こって、整理が追いつかない状況にあります。」

西海
「司令官の殺害後は体制への求心力が非常に高まったのですが、その後の民間機の誤射が分かった後は、一部で最高指導者を批判するようなデモも起きました。国民全体では、どちらを向いているのでしょうか?」

坂梨祥さん
「誤射自体は、非常に緊張が高まる中で国民を守ろうとして起こったミスなので、体制への反発は、むしろそれを隠していたことに対するものだったわけです。体制が誤りを認めたので、このまま抗議行動が広がることにはならないと思います。」

議会選挙の情勢は
西海
「来月、イランで議会選挙が行われます。まず、現在の議席数はどうなっているのでしょうか。」

坂梨祥さん
「ロウハニ政権を支持する保守穏健派と改革派の連合が多数派、対する保守強硬派が少数派です。
ロウハニ大統領は対話路線を掲げていて、保守強硬派は、より欧米との対決姿勢を前面に打ち出す人たちです。」

西海
「この内訳は、日本の議会だとはっきりするのですが、イランでは分からないものなのでしょうか?」

坂梨祥さん
「現在、イランには大きな政党がなく、議会の説明が非常に難しい状況です。」

西海
「政党がないと、どのように投票するのでしょうか?」

坂梨祥さん
「政党単位で戦われるわけではないイランの選挙では、各グループが、リストを作って選挙戦を戦っています。
前回の選挙では、ロウハニ大統領の対話路線を支持する人たちが水色のリスト、保守強硬派と呼ばれる人たちが黄色のリストを作りました。人々はこれを投票所に持ち込んで、リストに書かれている名前を書き写して1票を投じます。」

西海
「かなり独特なやりかたですけど、前回の2016年の選挙では、ロウハニ大統領を支持する勢力が勝ちましたね。」

坂梨祥さん
「前回の選挙は核合意が成立して、経済の復興に対する期待が高まったタイミングで行われました。選挙の半年前には核合意が成立して、制裁解除があった翌月に選挙が行われました。なので、核合意を成立させた立て役者であったロウハニ大統領を支持しようという人たちが選挙に勝ったということです。しかし、今回は様子が違うかもしれません。」(中略)

「今回の選挙は、前回とは真逆の状況にあります。2018年5月、トランプ大統領が核合意を離脱して、その後どんどん制裁が強化されているので、イラン経済が窮地に陥っているなかで選挙が行われます。

そのため、保守強硬派がもともと言っていた『アメリカという国を信じるべきじゃなかった』『アメリカを信じたのがそもそも間違いだった』という意見が力を持ってしまう可能性があります。

それを示すかのように、今回の選挙では、ロウハニ大統領を支持する人たちが資格審査で失格になっていると報じられています。」(中略)

西海
「今の最高指導者はハメネイ師ですけど、『アメリカとの交渉はしないんだ』という強い姿勢を示しています。
こういう姿勢は、選挙にも影響するのでしょうか?」

坂梨祥さん
「ハメネイ師はこれまで30年以上にわたって最高指導者を務めていますが、この30年の間に、実は、イランがアメリカに歩み寄ったことも何回かあったんです。

でも、イランから見るとアメリカはそのたびに、イランに結局、冷たくしてきたという認識が、体制の上層部、特に最高指導者にはあります。

たとえば同時多発テロ事件のあと、アメリカがアフガニスタンを空爆したわけですが、それに際して、イランは情報を提供したりしてアメリカに協力していました。

でも、その直後に、アメリカはイランのことを『悪の枢軸』と呼び、『イランはアメリカが倒すべき体制である』としました。

もうひとつの例としては、過激派組織IS=イスラミックステートとの戦いを挙げることができます。
アメリカが年明けに殺害したソレイマニ司令官は、イラクでISと戦っていました。

アメリカもイラクでISと戦っていたので、ISとの戦いでは、アメリカとイランは同じ側に立っていたんです。

それにもかかわらず、ISの脅威が下火になったところで、アメリカはあたかも『用済み』であるかのように、ソレイマニ司令官を殺害したわけです。

そのようなことが繰り返されてきて、ハメネイ師の目には、アメリカはイランが歩み寄っても必ず裏切る国だと、これまでもそうだったと考えているわけです。

ですから、今のイランの体制では、『アメリカを信じるべきではなかった』という考えが優勢になっていて、ロウハニ大統領の『アメリカとも話をしなければ』という主張は通りにくくなっている可能性があるんです。」

国民の思いは
西海
「体制がそちらの方向に向いているということですね。一方の国民は、本音の部分ではどうなのでしょうか。」

坂梨祥さん
「イランには、もちろんいろいろな人がいます。でも多くのイラン人が、アメリカの文化に憧れを抱いています。iPhoneを使っている人も多いですし、コカ・コーラもみんな大好きです。多くの人が、政治は政治、自分が好きなものは好き、と思っていると思います。

ただ、アメリカの経済制裁の影響で貿易が非常に困難になり、外国企業が次々とイランから撤退したことで、失業率が上がったり、あるいは大学を卒業しても仕事に就けない人も増えています。

あと、制裁の影響で、物の値段もどんどん上がっていて、去年(2019年)の11月にはガソリン価格が非常に値上がりし、大規模なデモにまで発展しています。

今のイランの国民にとっては、経済の改善ということが、何よりもの願いだと思います。」

今回の選挙は?
西海
「そうすると、この希望を託す選挙は、どのようになるのでしょうか?」

坂梨祥さん
「今のイランの国民は、イランに対して、『最大限の制裁』という圧力をかけるアメリカと、そのような圧力には決して屈しないとする体制のはざまで板挟みになってしまっていると言えます。

ただ、ロウハニ政権が掲げてきた対話路線は、トランプ大統領が核合意を破棄したことによって行き詰まってしまいましたし、かといって、アメリカの圧力にだけは負けないと言っているような人たちに、経済を改善させる具体的なアイデアがあるようにも見えません。

つまり、現在国民としては、選挙とはいっても、『誰に経済状況の改善の望みを託せばいいのか?』という状況に置かれてしまっていると思います。

ただ、イランというのは、実は驚きに満ちた国なんです。これまでの選挙でも繰り返し、投票の数日前というタイミングになって、選挙が突然盛り上がって、結果的に体制や、あるいは世界を驚かすような結果が生み出されてきました。

今回の選挙でも、どのようなドラマが生まれるか、まだまだ目が離せないと思います。」【1月27日 NHK】
******************

前出のように、核合意をめぐる経緯は穏健派には逆風となっていますが、「今のイランの国民にとっては、経済の改善ということが、何よりもの願い」という点で、保守強硬派に託してどうなるのか?という疑問も。

今月21日、イラン国民の審判は?

 

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イランの報復攻撃は実際にはかなり激しいものだった? エスカレーションに至らなかったのは幸運?

2020-01-17 23:07:26 | イラン

(米軍などが駐留するイラクのアサド空軍基地(2020年1月13日撮影)【1月17日 AFP】)

【「戦争回避の出来レース」】
アメリカによるソレイマニ司令官殺害は、イランの報復攻撃必至ということで、日本を含めた世界中で緊張が高まりました。

基本的に外国のことには無関心な当事国アメリカでも、さすがに懸念が広まったようです。

“アメリカのSNSは大騒ぎとなり、ツイッターでは「第三次大戦(WWIII)」がトレンド入りした。アメリカがイランとの戦争に踏み切れば、徴兵が始まるのではないかという不安の声も多く上がっている”(ウェスリー・ドカリー氏 ニューズウィーク日本版)【1月11日 デイリー新潮】

しかし、その後の展開はアメリカとの戦争を避けたいイランが米軍兵士に被害がでないように配慮したということ、トランプ大統領もカネのかかる戦争はしたくないということで、一応双方「撃ち方やめ」状態に落ち着いているとされています。(今後の多くの「危険」については別問題ですが)

下記記事では「戦争回避の出来レース」といった言葉も。

****米国vsイラン戦争回避の出来レース、2つの国が絶対口を出しては言えない本音とは****
(中略)
《報復を宣言していたイランが日本時間8日午前7時半ごろ、イラクにあるアメリカ軍基地をミサイルで攻撃した》
 
この攻撃については後で詳しく見るが、イランが報復を行い、同じ日の午後にニューズウィーク日本版が「第三次世界大戦」の記事を掲載したわけだ。
 
報復が報復を呼ぶ最悪の展開を想像した方は、この頃なら決して少なくなかっただろう。しかしながら、ニューズウィーク日本版の記事がアップされてから約45分後、午後3時に日テレNEWS24は「イラン外相『戦争は望んでいない』」の記事を掲載した。

《イランが、アメリカ軍が駐留するイラクの基地を攻撃したことについて、イランのザリフ外相は8日、「攻撃は終わった。戦争は望んでいない」などとして、あくまで自衛のための報復であることを強調した》

金の切れ目がテロの切れ目!?
これを1つの契機として、抑制的な報道が目立つようになっていく。例えば時事通信は翌9日の午前1時57分、公式サイトに「イラン報復、米軍基地攻撃 イラクに弾道ミサイル十数発―トランプ氏『死傷者なし』」の記事を掲載した。末尾を紹介させていただく。

《CNNテレビによると、イランはミサイル攻撃実施を事前にイラク政府に伝えていた。イラク側から情報を入手した米軍は、着弾までに兵士らを防空壕(ごう)などに避難させることができたという。事実であれば、イランが緊張激化に歯止めをかけるため、米兵に被害を出さないよう配慮した可能性が高い。イランのメディアは「米部隊側の80人が死亡、200人が負傷した」と伝えたが、国内向けの政治的宣伝とみられる》
 
こうして徐々に「すわ、第三次世界大戦か」という懸念は減少していき、「どうやら大丈夫みたいだ」と世論も変わったわけだ。(後略)【1月11日 デイリー新潮】
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結果、トランプ大統領の強硬姿勢が奏功したとの評価も。

【「彼らが生き延びたのは神の奇跡だ」】
イランが被害を最小限に抑えるように配慮したのは事実でしょうが、弾道ミサイル十数発を撃ち込むという攻撃の技術的問題で、“出来レース”と言えるほど安心していてもよかったものだったのか・・・については、やや疑問も。

****イランのミサイル攻撃、米兵に負傷者出ていた 政府発表と矛盾****
米軍も駐留するイラク軍のアサド空軍基地に対しイランが今月行った弾道ミサイル攻撃で、米軍の要員に複数の負傷者が出ていたことが17日までに分かった。米国防総省は当初、攻撃による負傷者はいないと発表していた。

イラクとシリアで過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」と戦う米国主導の有志連合は16日、声明を発表し「1月8日にイランが実施したアサド空軍基地に対する攻撃で、米軍の要員に死者は出なかった。ただ数名が爆発による脳振盪(しんとう)を起こし、治療を受けた。現在も検査が行われている」と明らかにした。

要員らは検査のため、ドイツの医療センターに移送された。検査を受け、任務に復帰可能との判断を受ければイラクへ戻る予定だという。

また米軍当局者の1人はCNNに対し、要員11人がミサイル攻撃によって負傷したと述べた。負傷者の存在はニュース配信サイト「ディフェンス・ワン」が最初に報じていた。

国防総省の発表と食い違う点を問われた防衛担当の当局者は、「それは当時の司令官による検証結果だった。症状はその事象の数日後に明らかとなり、念のために手当てを行った」と説明した。

国防総省の報道官はCNNの取材に答え、当初の記録を修正したと述べた。国防長官のオフィスも、負傷者について把握しているという。

16日夜には米中央軍の報道官が11人の負傷者について、8人をドイツの医療センターに、3人をクウェートの基地に移送して検査を受けさせていると明らかにした。

そのうえで「標準的な手続きとして、爆発の付近にいた要員は誰もが、外傷性脳損傷の有無を調べる検査を受ける。場合によっては別の施設に搬送し、より高度な治療を施す」と付け加えた。【1月17日 CNN】
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爆発による脳振盪を起こすということは、、相当に近い場所で爆発したということでしょう。

数日前、下記のような記事があり、報じられているような“出来レース”的な状況とは何だか違うな・・・と思っていたのですが、脳震盪云々は下記記事の状況に近いようにも思われます。

****イランのミサイル攻撃「生き延びたのは奇跡」 駐イラク米軍司令官インタビュー****
押し寄せる弾道ミサイル、何時間も塹壕(ざんごう)の中に身を潜める兵士たち、強烈な衝撃波──イラクの駐留米軍基地に対してイランが行った前代未聞のミサイル攻撃について、ある米司令官は「耳を疑った」と語った。
 
イラク西部のアサド空軍基地でAFPの独占インタビューに応じたティム・ガーランド中佐は、イランが同基地を攻撃した数時間前の7日夜、上官らから「事前警告」を受けていたと明かした。

「最初はショックを受けた。耳を疑った」。アサド基地にそんな大胆な攻撃をする能力も、意思も、イランにあるとは思えなかったとガーランド中佐は言う。イラク最大級の空軍基地であるアサド基地には米軍兵士1500人、イラク軍兵士数千人が駐留している。(中略)
 
米軍の無人機攻撃に遭い、死亡した。アサド基地は、これに対するイランの報復攻撃の対象として狙われた。
 
7日午後11時(日本時間8日午前5時)までに米軍と有志連合軍の兵士らは宿舎や配置場所から避難し、塹壕の中に身を隠すか、基地内の各所へ散って待機した。そして緊張したまま待機する時間が2時間ほど続いた。

「攻撃の第1弾が始まったときの音は、これまで聞いたことのある中で最も大きく、激しい音だった」とガーランド中佐はAFPに述べた。

■衝撃波でたわむドア
「空気が何か、異常だった。空気の流れ方、温度の上がり方がおかしかった。衝撃波がやって来てドアが折れ曲がり、前後に大きくたわんだ」
 
午前1時35分に開始された攻撃はそれから3時間続き、さまざまな間隔で約5回の弾丸ミサイルによる一斉攻撃が基地に向けて行われた。イラクへの駐留経験が複数あるガーランド中佐だが、「あれほど長時間恐怖を感じたことは久しくなかった」と語った。
 
攻撃が鎮まったのは午前4時ごろ。塹壕から出てきた司令官や兵士たちが目にしたのは、基地の至るところで上がっている火の手だった。被害は基地内の10か所以上に及んだが、奇跡的に死者はいなかった。
 
監視塔にいて吹き飛ばされた兵士2人も、脳震とうを起こしただけで済んだという。
「彼らが生き延びたのは神の奇跡だ」とガーランド中佐は言う。

ただ、ミサイル攻撃は兵士らに爆撃は終わったと思わせる間隔を置いて複数回あったという。「もう大丈夫だと思うくらい、だいぶ時間がたっていた。私見だが、死者を発生させようという意図だったのではないか」
 
攻撃の激しさを考えれば、自分たちは運が良かったとガーランド中佐は語った。「戦域弾道ミサイルによる攻撃だ。前例のない攻撃だった」 【1月14日 AFP】
********************

上記記事を読む限り、本当にイランが被害を最小限に抑えるように配慮したのかさえ怪しいような、“死者を発生させようという意図”ともとれるような激しい攻撃だったようです。

結果的にイラン側はミサイル技術の精度を見せつけた・・・・という話にもなっていますが、それは結果論で、監視塔の兵士が吹き飛ばされたり、ドアが大きくたわむような波状攻撃で、人的被害がでてもおかしくないような状況だったのでは・・・。

(監視カメラだってある時代、弾道ミサイルが飛んでくるときに監視塔での監視がどういう意味を持つのか知りませんが)脳震盪以外の被害者がでなかったのは「彼らが生き延びたのは神の奇跡だ」という「幸運」の結果だったのかも。

もし数名の死者がでていたら、トランプ大統領も「万事順調だ。イランがイラクにある2つの基地にミサイルを発射した。死傷者や被害の状況を調査中だ。今のところ、大丈夫だ。」では済まされなかったでしょう。

報復が報復を呼ぶエスカレーションに陥る危険もあり得た状況で、そうならなかったのは“神の奇跡”だったのかも。

【「そんなことはどうでもいい」ことか?】
「出来レース」と呼ぶにはあまりにもリスクの大きい事態だったようにも思えますが、そんな世界に危機をもたらすような事態の引き金ともなった司令官殺害について、トランプ大統領の発言は随分といい加減です。

****司令官殺害根拠「どうでもいい」 トランプ氏がツイート****
トランプ米大統領は13日、イランのイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害した経緯を巡って、「差し迫った脅威」があったかどうかについて「どうでもいい」とツイッターに投稿した。司令官殺害の理由に関してトランプ政権の説明は揺れており、米議会などでさらに批判が強まる可能性がある。
 
トランプ氏はツイッターで、メディアや民主党が、司令官を殺害しなければならない緊急性があったか否か、政権内で見解が一致していたかどうかを懸命に議論しているとしたうえで「両方イエスだ。彼の忌まわしい過去を考えれば、そんなことはどうでもいい」と主張した。
 
米政権は、国際法で自衛的措置と認められるのに必要な「差し迫った脅威」について具体的な説明をしておらず、与党・共和党の一部からも批判が出ている。
 
トランプ氏は、ソレイマニ司令官が、イラクの首都バグダッドを含む4カ所の米大使館を標的に攻撃する計画を進めていたと主張。だが、エスパー米国防長官は「私は4大使館については(証拠は)見ていない」と、トランプ氏の説明を事実上否定した。
 
トランプ氏は13日、記者団から「4大使館への脅威」の情報について問われると、「(説明は)完全に一貫性がある。ソレイマニは世界最悪のテロリストだ。過去に多くの米国人を殺害した。民主党が彼を擁護するのは、米国の恥だ」と強弁した。
 
バー司法長官も13日の会見で「(司令官殺害は)米国に対する攻撃を阻止し、合法的な自衛措置だった」と強調した。【1月14日 朝日】
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エスパー米国防長官がトランプ大統領の説明を事実上否定する・・・ホワイトハウス内部はどうなっているのでしょうか?

トランプ大統領がどこまで熟慮して判断・決定しているのか・・・はなはだ疑問です。
頭にあるのは「ここで弱腰姿勢を見せると再選があやうい。なんとかオバマ前大統領との違いをアピールしないと」という思いだけのようにも。

そもそも、イランや中東情勢についてどれほど理解しているかも・・・
イランの位置を正しく答えられたのはアメリカ国民の23%だった【1月21日号 Newsweek日本語版】とのことですが、トランプ大統領も位置は知っているでしょうが、それ以上は・・・。

****真珠湾訪問「何のため?」 地理歴史にうといトランプ氏浮き彫り、米記者新刊****
ドナルド・トランプ米大統領はインドと中国が国境を接していることを知らず、ハワイの真珠湾を訪問する意味もよく理解していなかった──米紙ワシントン・ポストの記者2人による新著「A Very Stable Genius(非常に安定した天才)」の内容の一部が15日、同紙に掲載され明らかになった。
 
フィリップ・ラッカー記者とキャロル・レオニグ記者が手掛けた同書は、トランプ氏の気まぐれな振る舞いの数々とともに、基礎的な地理や歴史に対する無知ぶりを浮き彫りにしている。
 
同書によるとトランプ氏は、インドのナレンドラ・モディ首相との会談の席で、「あなた方は中国と国境を接しているというわけではないでしょう」と発言したという。実際にはインドと中国は隣国で、1962年にはヒマラヤ山中の係争地をめぐって紛争も起きている。
 
このトランプ氏の発言と、インドが直面する中国の脅威を否定するような態度を受けて、「モディ氏は驚きに目を見張った」「モディ氏の表情は徐々に、衝撃から懸念へ、そして諦めへと変わっていった」と同書は記している。
 
この首脳会談の後、米国との外交関係から「インドは一歩引いた」とトランプ氏側近の一人は著者らに語ったとされる。
 
また同書には、1941年12月7日の真珠湾攻撃で日本軍によって撃沈された米戦艦アリゾナの追悼式典にトランプ氏が出席した際のエピソードも紹介されている。それによるとトランプ氏は、当時大統領首席補佐官だったジョン・ケリー氏に向かって「ジョン、一体これは何だ? 何のための訪問だ?」と尋ねた。

「トランプ氏は『真珠湾』という言葉を聞き、歴史的な戦闘のあった場所を訪れるのだという点は理解したようだったが、それ以上はあまり分かっていないように見えた」という。
 
新著は、「彼(トランプ氏)は時々、危険なほど無知だ」との米ホワイトハウス元上級顧問の言葉も引用している。 【1月16日 AFP】
*********************

私を含めて一般人は「知らない」ことは恥ずかしいことでも何でもありませんが、世界のリスク管理を決定するアメリカ大統領となると話も違ってきます。
「知らない」以上に、人間的に信用できない「嘘つき」はもっと困ります。

 

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イラン・ソレイマニ司令官爆殺およびその後の緊張を主導する「トランプ流」

2020-01-07 23:08:59 | イラン

(ペルシャ帝国の栄光を偲ばせるペルセポリス遺跡 ここもトランプ大統領の報復対象52カ所に入っているのでしょうか?)


【「戦場での戦闘経験のない、徴兵忌避を続けた、金儲けにしか興味のない人間だからこそこんなことができたのだろう」】

1月3日ブログ“アメリカ トランプ大統領指示で国民的英雄ソレイマニ司令官を殺害 注目されるイランの対応

1月5日ブログ“イランのソレイマニ司令官殺害 米国防総省も衝撃を受けたトランプ大統領の決定

に引き続き、ソレイマニ司令官殺害の件です。

 

****ソレイマニ司令官の故郷、追悼の市民転倒で30人死亡 イラン****

米軍の攻撃で殺害されたイラン革命防衛隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の故郷である同国中部ケルマンで7日、遺体の埋葬と追悼のために集まった市民が折り重なるように転倒し、英BBC放送は地元メディアの報道として少なくとも30人が死亡、40人以上が負傷したと伝えた。

 

イラン国営メディアは、「数百万人」が追悼集会に参加したとしている。(中東支局)

*********************

 

痛ましい事故ですが、ソレイマニ司令官に対するイラン国民の思いを物語るものでもあるでしょう。(後述するように、必ずしも彼を好意的に見る人々だけではありませんが)

 

トランプ大統領は司令官を“世界随一のテロリスト”と呼んでいますが、イランにおいては“とりわけソレイマニ将軍は国際的な知名度を持ち、日本でいうなら「乃木大将」「東郷元帥」「山本五十六」といったイメージに近い、アイドル的なイランの国家英雄です。”【1月6日 伊東乾氏 JBpress】とも。

 

その“アイドル的なイランの国家英雄”を、戦争状態でもないのに、いきなり爆殺してしまった今回の作戦。

 

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・・・・ロサンゼルス近郊にあるレッドランド大学のB教授(西洋哲学史)は開口一番こう吐き捨てるように言った。

「弾劾裁判を粉砕するために打ったギャンブルだ。トランプ大統領は『国の一大事だから上院での弾劾裁判など止めてしまえ』と米国民に言わせようというのだろう」(中略)

 

「ソレイマニ司令官はホメイニの超側近。百戦錬磨の将軍だ、米国で言えばパットン将軍のような存在だったらしい」「それを無人飛行機(ドローン)発射のロケット弾で「敵の将軍」を木っ端みじんに葬り去る」

 

「軍士官学校を出て、軍歴を重ねてきた職業軍人は、他国の将軍をこんな不名誉な殺し方はしないだろう」

「戦場での戦闘経験のない、徴兵忌避を続けた、金儲けにしか興味のない人間だからこそ、こんなことができたのだろう」・・・・【1月7日 高濱 賛氏 JBpress】

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【書簡下書きが流出?】

イラン側の報復の懸念は当然として、イランの影響力が強い周辺国、更には核合意をめぐる欧州を巻き込んだ問題ともなっています。(中東情勢が不安定化すれば石油供給に大きな支障が出る日本も、関係国でしょう)

 

****【米イラン緊迫】イラク、欧州も巻き込み情勢複雑化****

米国とイランの対立激化は、米軍が駐留するイラクやイラン核合意の当事国である欧州諸国も巻き込み、中東情勢をいっそう複雑化させそうだ。

 

イラクでは、イスラム教シーア派大国イランによるシーア派勢力との連携を背景に、米国を排除する動きも表面化してきた。

 

イラクのアブドルマハディ暫定首相は3日、米軍が首都バグダッドでイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を殺害したことについて「イラクの主権に対する言語道断の侵害だ」と非難。

 

暫定首相はイラクでの司令官の追悼行事にも参加した。イラク国会は5日、外国軍部隊の駐留終了を求める決議を採択したが、投票に参加したのはシーア派系の議員が主体だ。

 

決議に法的拘束力はないが、トランプ米大統領は同日、イラク政府が駐留米軍の撤収を正式に求めてきた場合には「厳しい制裁を科す」と警告。

 

実際に撤収することになれば、米国がイラクに建設した空軍基地の建設費用を支払わせるとも語った。米軍が影響力を失えば、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が再び台頭する懸念も強まる。

 

イランはイラクのほか、レバノンでもシーア派民兵組織に資金や兵器を供与、シリア内戦では軍事顧問を送るなどしてアサド政権を支援してきた。

 

周辺国に親イラン勢力を植え付ける「シーア派の弧」と呼ばれる戦略で、中心となって進めたのがソレイマニ司令官だとされる。イランが自国の影響圏とみなすこれらの国では、スンニ派など他宗派の国民が反発を強めている実情もある。

 

イランは5日、核合意の履行を放棄する第5段階で無制限にウラン濃縮を行う方針を示し、米国との緊張関係に拍車をかけた。

 

合意から離脱した米国の制裁再開で経済が悪化する中、支援策を一向に打ち出せない英仏独にしびれを切らし、「合意崩壊」の危機をあおる狙いがある。

 

英仏独は核合意の維持を図りつつ、イランの弾道ミサイル開発などでは米国と懸念を共有しているため、今後困難な立場に置かれる恐れがある。【1月6日 産経】

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こうした状況で、奇妙な文書が問題となっています。

 

*****国防長官、米軍のイラク撤収否定=書簡下書き流出で混乱****

エスパー米国防長官は6日、国防総省で記者団に「イラクを去るなどという決定はない」と述べ、米軍のイラク撤収を否定した。

 

これに先立ち、米軍がイラク軍に撤収を通知する内容の書簡が流出し、波紋を広げていた。複数の米メディアが報じた。

 

流出した書簡では、イラク議会が5日に米軍主体の有志連合の撤収を要求する決議を採択したことを受け、「われわれは撤収を命じた主権的決断に敬意を表する」と明記。「イラク国外への退去を安全かつ効率的に行うため」、今後数日から数週間はバグダッド市内でヘリコプターの飛行が増えると通知した。

 

駐留米軍幹部が差出人だったが、署名はなかった。

 

米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は書簡流出を受け、「下書きが誤って送付された」と釈明。「稚拙な文章で米軍撤収をほのめかしてしまっているが、事実ではない」と強調した。【1月7日 時事】 

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真相はわかりませんが、“書簡下書き流出”の結果として“混乱”が生じているのではなく(もちろん、結果としての混乱も生じてはいますが)、書簡下書きが流出するほどの混乱状態がすでに現状としてあるというべきでしょう。

 

トランプ大統領は往々にして異なる方向性の言動を示すため、対応するスタッフ・部下にも混乱が生じることがある・・・との背景説明も。

 

【「この金が払い戻されない限り、米軍は撤退しない」】

もっとも、イラク駐留米軍については、トランプ大統領は明快に否定しています。

 

****イラクが米軍撤退要求なら「過去にない厳しい制裁」「建設に何十億ドル」******

米国のトランプ大統領は5日、イラク駐留米軍に関し、「イラクが我々に撤退するよう要求すればイラクに対し、過去にないような厳しい制裁を科すことになるだろう」と記者団に語った。

 

イラク国民議会が駐留米軍を含む外国軍の全面撤退を求める決議を採択したことを踏まえた発言だが、制裁をちらつかせたことでイラク側の更なる反発も懸念される。

 

トランプ氏は、イラクにある空軍基地について「建設するのに我々は何十億ドルも払った。この金が払い戻されない限り、米軍は撤退しない」とも述べた。米軍など各国軍はイスラム過激派組織「イスラム国」掃討のため、イラクの同意に基づいて駐留している。【1月7日 読売】

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反発するイラクを口汚く恫喝することで、事態が更に悪化する・・・云々の話もさることながら、「この金が払い戻されない限り、米軍は撤退しない」という発言には、「カネのことしか頭にないのか?まるでそこらのチンピラみたい」という印象も。

 

イラクおよび中東の安定に果たす駐留米軍の役割を冷静に訴える・・・という対応はできないのでしょうか?

 

なお、イラク情勢については、下記のように緊迫しています。

 

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イラクでは現在、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討のため、約5千人の米軍が駐留している。イラクは2年前にIS掃討作戦の終結を宣言したが、テロ攻撃は続き、イラクシリアには数万人規模の戦闘員が潜伏しているとの推測もある。米軍が果たす役割は大きく、撤退すれば影響が出るのは確実だ。

 

一方、イラク治安当局によると、ソレイマニ司令官が3日に殺害された翌日から、首都バグダッドの米大使館周辺や、米軍が駐留するイラク軍の基地付近にロケット弾が連日撃ち込まれ、イラク人数人が負傷している。

 

親イランのイスラム教シーア派武装組織の「報復」との見方が広がっており、米国の関連施設を直撃すれば、情勢のさらなる悪化は避けられない。【1月7日 朝日】

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一方、米軍もイランへの警告をこめて、イラン対応の態勢を強化しています。

 

****米軍、中東に4500人増派 イランの報復に備え、B52も****

トランプ米政権は6日、イラン精鋭部隊司令官殺害への報復に備え、中東地域での米軍の態勢強化を加速させた。

 

エスパー国防長官は記者団に「いかなる不測の事態への備えもできている」と強調。米メディアによると、米軍が基地を置くインド洋のディエゴガルシア島にB52戦略爆撃機6機を派遣するほか中東に約4500人増派する準備も指示した。

 

国際社会では米イラン双方に緊張緩和を求める声が強まっており、トランプ政権も本格的な衝突は回避したい考え。エスパー氏は対話の用意があるとしつつ、イランの対応次第では「強硬に対処する」と述べ、報復を思いとどまるよう警告した。【1月7日 共同】

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【国際法無視のトランプ流本音発言】

そうしたなかで、トランプ大統領の“本音”発言が国際法違反として問題視されることにも。

 

****イラン文化財への攻撃示唆したトランプ米大統領に批判殺到****

アメリカのドナルド・トランプ大統領がイランの文化財への攻撃を示唆したことに、世界各国で批判が高まっている。

 

米軍は3日、イラン革命防衛隊の海外作戦を担当した精鋭「コッズ部隊」を長年指揮してきた、カシム・ソレイマニ指揮官をバグダッド空港の近くでドローンによって殺害。トランプ氏はその後、イランが報復として「アメリカ国民を拷問したり、障害を負わせたり、爆弾で吹き飛ばしたり」した場合は、イランの文化を含む52カ所の標的を攻撃するとツイートした。

 

これに対し国連教育科学文化機関(ユネスコ)やイギリスのドミニク・ラーブ外相などは、文化遺産は国際法で守られていると指摘している。

 

アメリカとイランは共に、紛争中であっても文化遺産を保護するという国際条約に署名している。文化遺産を標的にした軍事攻撃は、国際法上では戦争犯罪となる。

 

トランプ氏は4日の時点で、「これは警告だ」と大文字で強調しながら、米軍がイラン国内の52カ所の施設を「標的にした」とツイートした。

 

「もしイラン政府がアメリカ人やアメリカの資産を直撃するなら」、米軍は「非常に素早く、かつ非常に強力に、イランとイランの文化にとってきわめて高レベルで大事な標的、イランそのものを攻撃する」と続けた。

 

マイク・ポンペオ国務長官はこの後、アメリカは国際法にのっとって行動すると、トランプ氏の発言を和らげようとした。

 

しかし大統領は5日、記者団に対してあらためて、「向こうはこちらの人間を殺しても許される。こちらの人間を拷問して一生の傷を負わせても許される。路肩爆弾を使ってこちらの人間を吹き飛ばしても許される。なのにこっちは向こうの文化遺産を触っちゃいけないって? そういうわけにはいかない」と強い調子で述べた。

 

ホワイトハウスのケリーアン・コンウェイ上級顧問は6日、トランプ氏は文化遺産を攻撃すると言ったのではなく、「質問を投げかけただけだ」と発言を擁護した。

 

コンウェイ氏はさらに、「イランには、文化遺産とも言える戦略的軍事施設がたくさんある」と述べたが、その後、イランが軍事的標的を文化遺産に偽装しているという意味ではないと釈明した。

 

マーク・エスパー国防長官は、米軍が文化施設を標的にすることはあるのかという質問に、「武力紛争の法に従う」と答えた。

 

さらに、それは「文化遺産を標的にするのは戦争犯罪に当たるため」、攻撃を否定する意味かと聞かれると、「それが武力紛争の法だ」と述べた。

 

ツイートに対する反応は?

(中略イランのジャヴァド・ザリフ外相は、トランプ氏の言い分は過激派組織ISが中東で貴重な遺跡などを次々と破壊して回ったのに似ていると批判した。

 

ISは中東の各地で文化遺産への攻撃を行っており、シリアではパルミラ遺跡を破壊した。またアフガニスタンでは、バーミヤンの仏教遺跡群が反政府武装勢力タリバンによって破壊され、世界最大の大仏が姿を消した。【1月7日 BBC】

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BBCは、このイラン文化施設攻撃発言の影響は小さくないとの指摘も。

 

****<解説> 文化遺産への脅迫でイラン人が結束 ――サム・ファルザネフ、BBCペルシャ語****

ソレイマニ司令官殺害のニュースが広まると、イラン人はすぐに分裂した。ソーシャルメディア上では、司令官の死を悼む人と祝う人もいた。

 

ツイッターでは特に、この分裂が激しかった。ソレイマニ氏殺害に怒る人は「ストックホルム症候群」だと批判された。その一方、殺害を擁護する人は裏切り者とレッテルを貼られた。

 

しかし、トランプ大統領がイランの文化遺産を標的にするという脅しをツイートすると、イラン人は反トランプで結束した。

 

文化遺産には宗教的ものもあれば、そうでないものもある。しかし宗教を信じているかどうかに関わらず、イラン人はみなその歴史的遺産を誇りに思っており、トランプ氏の脅しに反発した。

 

国内のイラン人と国外に移民したイラン人の溝を埋めるのに、愛する過去を攻撃されるほどのものはないだろう。

イランのザリフ外相はこの機を捉え、シリアで数々の文化遺産を破壊したISにトランプ大統領をなぞらえ、ツイートを連投している。【1月7日 BBC】

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ソレイマニ司令官について“国民的英雄”という書き方をしてきましたが、イラン国内政治にあっては、自由を求める民衆を圧殺する側の保守強硬派の象徴でもあることが、“ソレイマニ司令官殺害のニュースが広まると、イラン人はすぐに分裂した。”という指摘になります。

 

ただ、その分裂の度合いについては多くを知りません。

これまでは民衆弾圧の象徴とみられていても、アメリカによって爆殺されたとなると、その評価・風向きが変わることは十分にあり得ます。

 

いずれにしても、意見が割れる部分のあるソレイマニ司令官爆殺にくらべ、イラン文化への攻撃明言は、より一致団結した反発を生むとの指摘です。

 

2017年7月にイランを観光した際に出会った方は、イラン現体制には批判的で、「イランはイスラムではない」とも。

その言葉が意味するのは、イランのアイデンティティはイスラムにあるのではなく、それ以前のペルシャ帝国以来のイランの輝かしい歴史・文化にあるということです。

 

そうした考えの人々にとっては、イラン文化への攻撃はソレイマニ司令官爆殺以上に許しがたいものになるでしょう。

 

「この金が払い戻されない限り、米軍は撤退しない」とか、上記イラン文化遺産攻撃発言とか、トランプ流本音の政治は、国際政治を良識を欠いたレベルに貶めているようにも思えます。

 

ついでに言えば、「向こうはこちらの人間を殺しても許される。・・・・なのにこっちは向こうの文化遺産を触っちゃいけないって? そういうわけにはいかない」という発言は、バーミヤンの大仏を破壊したときのタリバンの発言によく似ています。

 

「今、世界は、我々が大仏を壊す言ったとたんに大騒ぎを始めている。だが、わが国が旱魃で苦しんでいたとき、彼らは何をしたか。我々を助けたか。彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ。そんな国際社会の言うことなど、聞いてはならない」【高木徹氏著「大仏破壊」】

 

私はこのタリバン発言に少なからぬ共感を禁じえません。ですからトランプ発言についてもしかりです。

ただ、居酒屋談義ではなく、一国の最高指導者として「どうなのよ?」という問題です。

 

チンピラのような物言い、居酒屋談義のような物言いがトランプ大統領が人々を惹きつける所以でもあるのでしょうが、それで一国・世界の政治が動くことの問題は?・・・という話です。

 

いずれにしても、トランプ大統領の決断・発言は、体制への不満が抗議デモとして噴出していたイランの一致団結に大きな効果をもたらしているようです。

 

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イランのソレイマニ司令官殺害 米国防総省も衝撃を受けたトランプ大統領の決定

2020-01-05 22:35:25 | イラン

(ソレイマニ司令官の娘の1人はロウハニ大統領に、父の死に対する復讐はいつになるのか尋ねた【15日 BBC】)

(米軍の空爆で死亡したイランのソレイマニ司令官やイラクの親イラン武装勢力のムハンディス副司令官の棺と、それを取り囲む人たち(4日、イラク・カルバラ)【同上】)

 ロウハニ大統領としては、何もしないわけにもいかないでしょう。

 

【他の選択肢をより受け入れやすくための非現実的な選択肢のはずが・・・】

一昨日ブログ“アメリカ トランプ大統領指示で国民的英雄ソレイマニ司令官を殺害 注目されるイランの対応”でも、今後戦闘状態を誘発しかねない、また、中東情勢の悪化という日本など世界に大きく影響することにもなりかねないイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害という決定について、トランプ大統領がどれほどの検討・熟慮をしたのか疑問がある旨を書きましたが、「決断」に至る経緯は下記のようにも。

 

****司令官殺害、トランプ氏が決断するまで 国防総省に衝撃****

米軍が、イランのイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官(62)を殺害したことで、両国の間の緊張が高まっている。

 

トランプ米大統領は、ソレイマニ司令官の殺害をどう決めたのか。米メディアは相次いで、トランプ氏が急に決断し、政権内にも驚きが広がった様子を伝えている。

 

ソレイマニ司令官が「米国の外交官と軍人を攻撃する計画を進めていた」ため、「防衛措置として攻撃した」というトランプ政権の説明にも疑義が生じている。

 

イラクでは数カ月前から、米軍などがロケット弾攻撃を受けており、米側は親イラン派の武装組織が行っていると抗議してきた。12月27日、イラク北部のロケット弾攻撃で米国の民間人1人が死亡、米軍兵士4人が負傷したことで、一気に緊張が高まった。

 

ニューヨーク・タイムズによると、この攻撃を受け、米軍幹部らはソレイマニ司令官の殺害を「最も極端な選択肢」としてトランプ氏に提示した。

 

国防総省は歴代大統領に非現実的な選択肢を示すことで、他の選択肢をより受け入れやすくしており、今回もトランプ氏が選ぶことは想定していなかったという。

 

実際、トランプ氏は昨年12月28日に殺害計画を拒否し、親イランの武装組織に対する空爆を承認した。だが、数日後に在バグダッド米大使館が親イラン派に襲撃される様子をテレビで見たトランプ氏はいらだち、その後に司令官殺害を決断した。国防総省幹部らは衝撃を受けたという。

 

ワシントン・ポストによると、国防総省幹部らは何らかの軍事行動を求めていた。昨年6月にイランが米軍無人機を撃ち落としたり、昨年9月にサウジアラビアの石油施設が攻撃を受けたりした後、米側が何ら報復をしていないことをトランプ氏に伝え、「何もしなければ、イランは何でもできると考えてしまう」と訴えたという。

 

トランプ氏も、無人機撃墜に報復をしなかったことをめぐる批判的な報道が気になり、「弱腰」と映ることを懸念していたという。ただ、同紙も司令官殺害が「非常に大胆で、我々の多くを驚かせた」という政権高官の言葉を伝えた。

 

同紙によると、殺害計画の決定後、米当局は司令官の動きを追い、バグダッド空港の付近で攻撃することが最適だと判断した。1月3日の攻撃の直前、トランプ氏はゴルフリゾートで最終承認をしたという。

 

CNNは、攻撃直前まで政権内で攻撃の法的根拠をめぐる議論が続いたと伝えている。トランプ氏は3日の会見で「米国の外交官と軍人に対する切迫した、邪悪な攻撃を計画していた」と述べ、阻止するために司令官を殺害したとした。

 

だが、CNNは「政権は具体的な脅威を明らかにせず、法的な根拠もはっきりと示していない」と指摘。こうした点については、米議会からも疑問が出始めている。【15日 朝日】

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大統領の決定に国防総省が「衝撃」を受けたとのことですが、他の選択肢をより受け入れやすくための非現実的な選択肢を苛立つ大統領が選択し、それが「了解しました」と実行される・・・・その実態にアメリカならず世界の人々が「衝撃」を受けます。

 

****猛反発、読み違い?****

(中略)ただ、ソレイマニ司令官の殺害は、もともと本格的な対米衝突を望んでいなかったイランを追い込み、想定以上のリスクを背負った可能性がある。

 

イランのラバンチ国連大使は3日、米CNNの取材に「戦争行為だ」と反発し、報復の「軍事行動」に出ると宣言。ホワイトハウス元当局者は「トランプ氏は、イランがここまで激しく反発するとは予想していなかったのではないか」と話した。

 

今後、衝突は収束できるのか。ブッシュ(子)、オバマ両政権で、中東問題を担当した経験を持つ民主党のスロトキン下院議員はツイッターで、両政権もソレイマニ司令官の殺害を検討しながら、報復や長期的な対立を考慮し、見送ったと指摘。(後略)【15日 朝日】

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前回ブログでも書いたように、ソレイマニ司令官は大統領をもしのぐ国民支持があり、体制内の実力者でもあります。その人物を殺害して「ここまで激しく反発するとは予想していなかった」というのも理解できな話です。

 

【攻撃は国際法と米国内法に照らして合法だったのか?】

トランプ大統領の決定には、国際法と米国内法に照らして合法だったのかを疑問視する声も出ています。

 

****イラン司令官殺害、米政府の法的根拠に疑問の声****

イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を空爆して殺害したことについて米政府は、自衛行為だと正当化し、国際法に違反しているとの非難や、法律の専門家や国連の人権関係者の懸念をかわそうとしている。(中略)

法律の専門家からは、イラク政府の同意を得ずにトランプ大統領がイラク国内で攻撃する法的権限があったのか、また攻撃は国際法と米国内法に照らして合法だったのかを疑問視する声がでている。

イラクのアブドルマハディ首相は攻撃について、米軍のイラク駐留を巡る合意に違反していると指摘。またイラク国内の複数の政治勢力は米軍の撤退を求めた。

国連憲章は他国への武力行使を原則として禁止しているが、当該国が領土内での武力行使に合意した場合は例外としている。専門家によると、イラクの同意を得ていないことから米国は攻撃を正当化することは難しいという。

国際法が専門のイェール大学ロースクールのウーナ・ハサウェイ教授はツイッターで、公表された事実からみると今回の攻撃が自衛行為であるという主張は「支持されないようだ」とし、「国内・国際法いずれに照らしても根拠は弱い」と結論付けた。

国防総省は、「今後のイランの攻撃計画」を抑止するためソレイマニ司令官を標的にしたと指摘。トランプ大統領は、司令官は「米国の外交官や兵士への悪意のある差し迫った攻撃を画策していた」と述べた。

テキサス大学オースティン校ロースクールのロバート・チェズニー氏(国家安全保障法が専門)は、国連憲章上の問題を巡る政権のよりどころは自衛と指摘。「アメリカ人殺害作戦の計画を受け入れれば、それに対応する権限が与えられる」と述べた。(中略)

米国とイラクが2008年に調印した戦略的枠組み合意では、イラクの「主権、安全保障、領土の保全」に対する脅威を抑止するために緊密な防衛協力をうたったが、米国がイラクを他国攻撃の拠点として使用することは禁じている。

国際法のこれまでの基準からみて、脅威にみあった対応を必要に迫られて行う場合、国家は先制的な防衛が可能だ。

司法管轄外の処刑に関する国連特別報告者のアグネス・カラマード氏は、攻撃がこの基準を満たしているかどうか疑問を示す。

 

ソレイマニ司令官を標的にしたことは「差し迫った自衛のため事前対応というより、過去の行為に対する報復のように見える」と指摘。「このような殺害への法的根拠は非常に狭く、適用するのは想像しがたい」と述べた。

米民主党議員はトランプ大統領に対し、ソレイマニ司令官による差し迫った脅威について詳細を提供するよう求めた。

上院情報特別委員会の副委員長である民主党のマーク・ウォーナー議員はロイターに対し、「脅威があったと信じているが、どれだけ差し迫っているかという点は答えがほしい」と述べた。

米国内法からみたトランプ大統領による司令官殺害の権限と、議会に事前に通知せずに行動すべきだったかどうかについても疑問が示されている。

法律の専門家は、最近の米大統領は民主・共和問わず、標的の殺害を含む一方的な武力行使の可能性を拡大解釈しており、歴代政権内の法律専門家により支持されてきたと指摘する。

今回の場合の自衛論の論拠は、米国人を攻撃するという差し迫った計画に関する具体的な情報を政府が公表することにかかっているといえる。(後略)【15日 ロイター】

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“米国人を攻撃するという差し迫った計画”云々は、結局のところ後付けの理由・言い訳に過ぎないように思えます。

 

【「アメリカの35の重要施設」に対し「52の目標を選定」】

今後のイランがどうでるのかはよくわかりません。

恐らく、イランにとっても司令官殺害は想定外の事態で、どの程度の強度の報復で対応すべきか迷いがあるところでしょう。

 

イランとしてもアメリカと大規模な軍事衝突に至ることは避けたいところでしょうから。

イラン国民にも、「アメリカに死を!」という大きな声(いつものことですが)がある一方で、戦争への不安も広がっています。

 

****イラン、緊張激化に不安広がる 「戦争は嫌だ」市民の願い切実に****

イラン革命防衛隊の精鋭部隊のソレイマニ司令官が米軍の空爆で殺害されたことを受け、イランの市民の間では両国の対立激化が紛争に発展するのではないかとの不安が広がっている。「戦争は嫌だ」。家族を、友人を、暮らしを守りたいとの願いは切実さを増している。

 

首都テヘランの主婦マンスレさん(64)は198088年のイラン・イラク戦争を体験、貧困の中で辛酸をなめた。「私は戦争が何をもたらすのかよく分かっている。大災難だ。何としても回避してほしい」と訴えた。

 

テヘラン市内では至る所にソレイマニ氏の肖像や追悼の黒い旗が掲げられ、沈鬱な雰囲気に包まれている。【15日 共同】

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****情勢緊迫 イランが繰り返し報復宣言 米大統領が強く警告 ****

アメリカがイランの司令官を殺害し、イランが3日間の喪に服すると表明してから2日たちました。この間、イラン側が繰り返し報復を宣言しているのに対し、トランプ大統領は報復に出れば激しく反撃すると警告し、情勢は緊迫しています。(中略)

イランの最高指導者ハメネイ師は、国民から英雄視される司令官の殺害を受けて、国を挙げて3日間、喪に服すると表明し、2日がたった5日には葬儀が営まれました。

またイラン国民の間ではアメリカへの怒りが高まっていて、ハメネイ師をはじめ政権の幹部は繰り返し報復を宣言し、革命防衛隊の幹部は「アメリカの35の重要施設を狙うことができる」と述べました。

さらに4日にはイランと強いつながるのある武装組織「カタイブ・ヒズボラ」が「5日の夜以降、アメリカ軍基地から1キロ以上離れるべきだ」とする声明を出し、アメリカ軍への攻撃を示唆しました。

これに対しトランプ大統領は4日、ツイッターでイランが報復に出た場合、直ちに激しく反撃するとしたうえで、すでに攻撃対象として52の目標を選定し、「目標のいくつかはイランとイランの文化にとって非常に重要なものだ」として強く警告しました。さ

らに4日深夜にも「私が強く忠告したのにもし彼らがまた攻撃してきたら、今までやられたことがないほど激しく攻撃する」、「われわれの軍事装備は世界最高かつ最大で、イランがアメリカの基地やアメリカ人を攻撃すれば、ためらいなくそれらを送り込む」と立て続けに投稿してけん制しました。

イランではアメリカによる殺害の発表から丸3日がたったあとの現地時間の6日にも喪が明ける可能性があり、イラン側がどのような報復に出るのか、情勢は緊迫しています。

 

アメリカ 増派部隊が出発

AP通信などによりますと、アメリカ国防総省がイランとの緊張の高まりを受けて増派を決めた部隊の一部が4日、クウェートに向けて出発しました。

出発したのはアメリカ南部ノースカロライナ州を拠点とする陸軍第82空挺師団の数百人の兵士で、国防総省が4日に配信した映像では、兵士たちが装備の点検をしたり、航空機に搭載したりする様子が確認できます。

 

民主党 攻撃の判断に疑問 追及の構え

トランプ大統領の指示でアメリカ軍がイランの精鋭部隊の司令官を殺害したことに対し、野党・民主党は攻撃の判断に疑問を呈し、追及の構えを見せています。

民主党のペロシ下院議長は4日、法律の規定に基づき、政権側から軍事力を行使した際の報告を受け取ったとしたうえで「報告の文書からは攻撃を決定したタイミングや方法、そして正当性に関して、深刻で切迫した疑問を感じた」と述べ、攻撃の判断に疑問を呈しました。

そして「今回の攻撃は議会との協議も、軍事力の使用許可も、明確で適切な戦略の説明も、ないまま実施された」と述べ、政権側に説明を求めるとして判断の経緯や根拠などを追及する構えを示しました。

また大統領選挙の民主党の有力候補、バイデン前副大統領は3日、アイオワ州の演説で「現政権は最大限の圧力をかけてイランの侵略を阻止し、核合意でうまく交渉するとしてきたが、どちらにも失敗した。そして司令官を殺害しイランからの攻撃を防ぐというゴールを定めたが、この行動はほぼ確実に反対の影響を与えるだろう」と述べて、司令官の殺害がさらなる攻撃を引き起こすと批判しました。

アメリカではことし11月の大統領選挙に向けて選挙戦が本格化していて、今回の司令官殺害とイランとの緊張の激化が選挙戦の行方にも影響を与える可能性があります。

 

イラン軍司令官「米に反撃を実行する勇気ない」

イランのメディアが5日に伝えたところによりますと、イラン軍のムサビ司令官は「ソレイマニ氏の殺害は節度のない、許しがたい行為だ」と述べて、アメリカ軍の攻撃を改めて強く非難しました。

そのうえで、トランプ大統領がイランが報復に出た場合は、52の目標を選定して、直ちに反撃するとしていることについて「アメリカには実行する勇気がないと思う」と述べてけん制しました。(後略)【15日 NHK】

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「アメリカには実行する勇気がないと思う」・・・・相手の出方に対する読み違えから、緊張が次第にエスカレートして戦争へ・・・というのは、古今東西の戦争の歴史が示すところです。

 

イランの言う「アメリカの35の重要施設を狙うことができる」が何にを示すのかは知りませんが、トランプ大統領の「52の目標」については、“トランプ氏は、標的の52カ所について、1979年の在テヘラン米大使館人質事件で444日間にわたり人質となった米国人52人と同じ数だとし、「ハイレベルな場所」や「イランやイラン文化にとって重要な場所」が含まれるとした。「米国はこれ以上の脅しはいらない!」ともつづった。”【15日 朝日】とのこと。

 

アメリカの執拗なイラン嫌悪の背景に1979年の在テヘラン米大使館人質事件のトラウマがあると私は思っていますが、ここにきてまた事件の亡霊がさまよっているようです。

 

それにしてもこの緊張状態において、人質の数だか何だか知りませんが、言葉遊びのような真似はやめて欲しいものです。

 

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アメリカ  トランプ大統領指示で国民的英雄ソレイマニ司令官を殺害 注目されるイランの対応

2020-01-03 23:08:45 | イラン

(イランの最高指導者ハメネイ師(左)とソレイマニ将軍(2015年3月)【2018 年 2 月 21 日 WSJ】)

 

【「今回の攻撃は、この先のイランによる攻撃を防ぐために行われた」米国防総省】

正月早々、アメリカ・トランプ大統領が非常に思い切った作戦に出たことは報道のとおり。

 

****米軍、イラン有力司令官殺害=トランプ氏指示、イラク空爆―ハメネイ師「厳しい報復」****

米国防総省は2日夜、トランプ大統領による指示で、イラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官を殺害したと発表した。ロイター通信によると、米軍はイラクの首都バグダッドで空爆を実施。

 

ソレイマニ司令官とイラクのイスラム教シーア派組織「カタイブ・ヒズボラ(KH)」の指導者アブ・マフディ・アルムハンディス容疑者が死亡した。

 

ソレイマニ司令官が率いるコッズ部隊はイラン革命防衛隊で対外工作を担う。KHもイラン革命防衛隊の支援を受けている。米軍がソレイマニ司令官らを殺害したことで、米イラン間の対立が一層激化する恐れがある。

 

AFP通信によると、イラン革命防衛隊も声明を出し、バグダッドの空港で現地時間の3日午前、米国による攻撃によりソレイマニ司令官が死亡したと発表。イラクのシーア派武装勢力の連合体「人民動員隊」の報道官は、空港で車列を標的にした空爆があったと指摘した。

 

ソレイマニ司令官殺害を受け、イランの最高指導者ハメネイ師は3日、ツイッターに投稿し、米国を念頭に「手を血で汚した犯罪者を待っているのは厳しい報復だ」と宣言。イラン全土が3日間喪に服すと発表した。イランのザリフ外相もツイッターで「極めて危険で愚かな緊張の拡大だ」と非難した。

 

米国防総省は声明で、「米軍は大統領の命令で、海外展開する人員を守るために決定的な自衛行動を取った」と表明。作戦内容の詳細は明かさなかったが、「イランの今後の攻撃計画を抑止することが目的だった」と説明した。

 

米軍は先月末、KHが駐留米軍基地を攻撃したとして、イラクとシリアにある拠点5カ所を空爆した。イラクでは少なくとも戦闘員25人が死亡したとされ、在イラク米大使館前で大規模反米デモが起きるなど緊張が高まっていた。

 

エスパー国防長官は2日、国防総省で記者団に、イランと親イラン派がさらなる攻撃を計画している兆候があると述べ、自衛のためには先制攻撃も辞さないと警告していた。【1月3日 時事】 

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イランに対するトランプ大統領の嫌悪感は今に始まった話ではありませんが、年末からのシーア派民兵らによる在イラク米大使館前での大規模反米デモにはイランに対する強い苛立ちを見せていました。

 

****トランプ氏、イランは「大きな代償」=米軍、中東に750人増派****

トランプ米大統領は31日、イラクの首都バグダッドにある米大使館がデモ隊から投石などを受けたことについて、「米国の施設が損害を受けたり、人命が失われたりした場合、イランが全責任を負う」とツイッターに投稿した。その上で「とても『大きな代償』を払うことになる! これは警告ではなく脅迫だ」と強くけん制した。

 

トランプ氏はこれに先立ち、イランが大使館前のデモを扇動していると非難していた。

 

イランをめぐる情勢が不安定化する中、エスパー米国防長官は31日、中東地域に兵士約750人を増派すると表明した。声明で「米国の人員と施設に対する脅威が増していることを受けた適切な予防的措置だ」と説明。今後、さらに増派する可能性も示唆した。【1月1日 時事】 

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今にして思えば、この段階ではすでに、作戦の準備が進んでいたのでしょうね。

在イラク米大使館前で大規模反米デモの方は、“バグダッドからの報道によれば、デモ隊は同日(1日)、イスラム教シーア派武装勢力の連合体「人民動員隊」の呼び掛けに応じ、米大使館前から撤収した。”【1月2日 時事】ということで、少し落ち着きを取り戻すのかと思っていましたが・・・。

 

アメリカ側はあくまでも「予防的措置」だったと主張しています。

 

****司令官殺害 アメリカとイランはどう主張したか ****

(中略)

米国防総省「この先のイランによる攻撃防ぐため」

声明では「大統領の指示を受けてアメリカ軍は海外に駐留する人員を保護するために断固たる防衛的措置を取り、アメリカがテロ組織に指定しているイランの革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害した」として、攻撃はトランプ大統領の指示によって行われたとしています。

そのうえで声明では「ソレイマニ司令官は、イラクや周辺地域でアメリカの外交官や軍人を攻撃する計画を進めていた。彼は過去、数か月にわたり、イラクの基地をねらった攻撃を画策し、アメリカ人やイラク人を死傷させた。また、今週起きたバグダッドのアメリカ大使館の襲撃を承認していた」と批判しています。

そして「今回の攻撃は、この先のイランによる攻撃を防ぐために行われた。アメリカは、国民と国益を守るために世界のどこにおいても必要なあらゆる措置を取る」と警告しています。(後略)【1月3日 NHK】

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【国民からの信頼のあつい「英雄」の死】

今回のアメリカの攻撃が衝撃なのは、殺害されたイラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官が大物中の大物だからです。

 

単に肩書・役職の上で高い地位にあるということではなく、文字どおりイランの「英雄」であり、大統領以上(おそらく最高指導者以上)に国民から信頼を寄せられていた人物でした。

 

「予防的措置」とは言いつつも、そうした「英雄」をいきなり殺害してしまうというところが、「非常に思い切った作戦」と感じた所以です。

 

ソレイマニ司令官については、これまでも折に触れ取り上げてきましたが、2018年2月23日ブログ“シリアでのクルド人勢力と政府軍の共闘 背後にイランの同意 イランの影響力拡大を警戒するイスラエル”で紹介した、下記記事が彼の存在感をよく示しています。

 

****イラン国民に人気高まる将軍、その正体とは ****

米当局者はテロ支援者だとみなすが、イラン国民は英雄視する

米当局者たちは、イラン革命防衛隊(IRGC)の精鋭組織「コッズ部隊」の司令官を務めるカセム・ソレイマニ将軍をテロ支援者とみなしており、数千人に上る米軍兵士や中東同盟国の兵士の戦死の究極的な責任者だと考えている。

 

だが多くのイラン人は、ソレイマニ将軍が中東地域で影響力を増大させつつあるイランの顔であり、外国からの侵略を防御するための最善の人物だとみている。

 

ハッサン・ロウハニ大統領の支持率が低下しているのとは対照的に、ソレイマニ将軍への国民の注目度は急上昇している。

 

米メリーランド大学が最近行った調査によると、イラン人のうち、同将軍を「非常に好意的」に見ているとの回答は64.7%に上った。これに対し、ロウハニ大統領への好意的な見方は23.5%にとどまった。この数字からは、イランの中東での戦争の立役者が、同国で最も人気の権力者であることがうかがえる。

 

これは、イランが中東で自国の影響力保持に取り組んでいることに国民の支持が集まっていることの表れだ。(中略)

 

ソレイマニ将軍は現在60歳。イランが進めるイラクでのシーア派民兵の武装化やアサド政権への支援を代表する顔であり、イランで最も有名な人物の1人だ。

 

前線を訪れる際にはカメラマンたちが随行する。白いひげと白髪が特徴的な同将軍は、イラクやシリアの民兵たちとの自撮りにも応じている。ユーチューブには、同将軍に敬意を示す動画が数多く投稿されている。

 

同将軍が率いるコッズ部隊は国外での作戦を担当し、最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師の直属部隊だ。イラン革命防衛隊(IRGC)は国内で政治的弾圧の過去を持っているが、ソレイマニ将軍の人気から若干の恩恵が受けられるとみられる。それは、IRGCの影響力を抑えようとするロウハニ大統領の試みを阻止する一助になるだろう。(中略)

 

米国は2007年、コッズ部隊をテロ支援組織に指定。イランがイラクやシリア、レバノン、イエメンでシーア派民兵集団に資金や装備などを提供する工作の背後にいる重要人物として、ソレイマニ将軍を特定した。

 

イランは数々の拠点を設け、自分たちに忠誠を誓う集団を支援することで、隣国イラクからの軍事的脅威を防ごうとしている。また、テヘランからレバノンの地中海沿岸につながる回廊を作ろうとしており、それによって陸路で武器や人員などを補充する構えだ。

 

イラン国内でソレイマニ将軍は、過激派組織「イスラム国(IS)」を国境に近づけないようにしたとして高く評価されている。メリーランド大の調査によると、シリア内戦勃発から7年がたった今、イランがISと戦う集団への支援を増やすべきだと考えるイラン人は55%に上っている。支援を減らすべきだと答えた人はわずか10%だった。

 

多くのイランの指導者には汚職疑惑がつきまとうが、ソレイマニ将軍は富を避け、イラン・イスラム共和国のためなら進んで殉教者になるというイメージを打ち出してきた。

 

国際問題を専門とするワシントンのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」の非常勤フェローであるアリ・アルフォネ氏は、「ソレイマニ氏を公の場に登場させることは、中東におけるイランの戦争に世界中のシーア派教徒を動員しようとする作戦の1つだ。この種の英雄をイラン体制は必要としている」と述べる。

 

IRGCの評判は、2009年の反体制運動弾圧を受けて下がっていたが、財政的には、バラク・オバマ前米大統領時代に科された米国主導の制裁からかえって恩恵を受けた。IRGCはイランの治安組織を牛耳っていたため、外国企業が撤退した空白に入り込むことができたのだ。建設、空港の運営や文化面の投資といった活動により、IRGCは有力な政治勢力になっている。

 

ソレイマニ将軍は政治的争いから一線を画し、大統領選への出馬要請を無視してきた。だが、シリアやイラクで外交的なアプローチを取ろうとするロウハニ大統領らの試みには手厳しく反応している。外交では「国防の殉教者」の仕事をなし得ないと言うのだ。

 

シリアでは、ソレイマニ将軍はアサド体制の生き残りに貢献してきた。例えば2013年、アサド大統領が化学兵器を使用したとしてイラン政府が同盟関係を断ちたがっているように見えた時、将軍はレバノンのシーア派武装組織ヒズボラの戦闘員2000人に動員を要請し、シリア政府軍が要衝クサイルを奪還できるようにした。それがシリア内戦の転換点になった。

 

イラクでは、シーア派民兵を武装化し、PR工作を展開して個人的な信奉者を構築することによって、戦場を支配すると同様に政治も支配するよう努めた。(中略) 

 

ペトレイアス氏はメールで「こうした民兵組織は、イラクなどでの多くの米国人の死亡に責任があり、米同盟国などのはるかに多くの兵士の戦死や市民の犠牲に責任がある」と述べた。 

 

米国の懸念の兆候として、マイク・ポンペオCIA長官は昨年12月、ソレイマニ将軍に送った書簡で「(同将軍の部隊)管理下にある勢力によってイラクにある米国の権益が攻撃を受けたら」、同将軍が説明を負わねばならないだろうと警告した。 

 

ハメネイ師の側近によれば、ソレイマニ将軍は「私は(ポンペオ長官の)書簡を受け取らないし、読まないだろう。こうした人々に何も言うことはない」と語ったという。【2018 年 2 月 21 日 WSJ】

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上記記事は2年ほど前の記事ですが、“マイク・ポンペオCIA長官は昨年12月、ソレイマニ将軍に送った書簡で「(同将軍の部隊)管理下にある勢力によってイラクにある米国の権益が攻撃を受けたら、同将軍が説明を負わねばならないだろうと警告した。”という警告のとおりになったように見えます。

 

それも、“書簡を受け取らないし、読まないだろう”というソレイマニ司令官に、手紙に代えて爆弾を届ける形で。

金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長も真っ青の“プレゼント”です。

 

上記記事が報じられた後の2年間で情勢が変わったところもあります。

 

アメリカの制裁で経済的苦境にあるイランでは昨年11月、ガソリン値上げを機にイラン全土で反政府デモが起き、これを厳しく鎮圧する当局によって、多大な犠牲者を出す混乱がありました。

 

そこではソレイマニ司令官指揮する革命防衛隊がイラン周辺国に資金を注ぎ込んでいることへの強い反発・不満が噴出しました

 

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イスファハーンのデモ隊は、「ガザを拒否する。レバノンを拒否する。自分たちはイランに命を捧げる」と唱えていた。

 

中東におけるイランの活動をめぐり、不満があるのは明らかだ。革命防衛隊は中東各地で、民兵組織の武装や訓練、報酬の支払いに何十億ドルと費やしている。イランの国境を越えて敵と戦わなければ、敵はテヘランの路上にまでやってくるというのが、その大義名分だ。

 

しかし、国内各地で抗議するイラン国民は、その資金は国内と国民の未来に使われるべきだったと主張する。

 

ドナルド・トランプ米大統領は昨年、イランの核兵器開発をめぐる国際合意から離脱し、イランの石油生産と金融業を制裁で狙い撃ちにした。米政府の制裁に加え、国内に横行する汚職とお粗末な経済運営のせいで、イラン経済はいまや破綻寸前だ。それでも政府は、従来の方針を変えようとしていない。【2019年11月29日 BBC】

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また、上記【WSJ】にもあるように、外交を重視する穏健派ロウハニ大統領と強硬派革命防衛隊を率いるソレイマニ司令官は政治的には対立関係にもありました。

 

しかし、“アメリカの汚い攻撃”で殉死したら「英雄」です。

アフガニスタン復興支援で自民党政権とは全く異なる立場にあった中村医師も、「殉死」すれば手のひらを反すように「英雄」「偉人」として旭日小綬章が授与されるぐらいですから。

 

【報復に備えるアメリカ 成り行きを注視する世界】

これからイランがどのような報復措置に出るのかが世界中で注視されています。

イランもアメリカと正面からことを構えるのは得策ではないでしょうが、感情的なものは損得の判断を超えることもあります。

 

****「疑いなく反撃する」 イラン司令官殺害、米に報復示唆****

(中略)ソレイマニ司令官は、イランの最高指導者ハメネイ師に近い要人。イラン側は激しく反発し、米国への報復を示唆している。両国間の緊張は一気に高まり、直接の軍事衝突にも発展しかねない情勢だ。(中略)

 

殺害を受けて、ハメネイ師は3日間の服喪期間を設けると明らかにし、「偉大な司令官の血で染まった手を持つ犯罪者たちは激しい報復を受けることになる」と声明を発表。イランのロハニ大統領も、「恐ろしい犯罪に対して、イランは疑いなく反撃する」とした。(後略)【1月3日 朝日】

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****イラン司令官殺害、首都で追悼式 「米国に死を」敵意あおる****

イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」を率いるソレイマニ司令官殺害を受け、首都テヘランや司令官の故郷などイラン各地で3日、追悼式典が開かれた。

 

参加者らは「米国に死を」とスローガンを唱え、米国への敵意をあおった。国営テレビは画面の左上に黒い帯を表示して弔意を示した。

 

国営イラン放送は3日早朝から司令官殺害に関連するニュースを流し続けた。号泣する高齢男性や、「ソレイマニ氏はわれわれの心の中で生き続ける。米国に反撃する」と訴える中年女性らのインタビューを伝えた。

 

国際協調に重きを置くロウハニ大統領も「イランは、必ず復讐を行う」とする声明を出した。【1月3日 共同】

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アメリカは報復措置を懸念して、イラク国内のアメリカ国民に直ちに国外に退避するよう求めています。

 

****司令官殺害 イラクの米大使館 米国民に“直ちに国外退避を” ****

アメリカ軍によるイランの革命防衛隊司令官の殺害に対し、イランが報復を強く警告するなか、イラクの首都バグダッドにあるアメリカ大使館は3日「イラクで緊張が高まっている」として、イラク国内のアメリカ国民に対し、直ちに国外に退避するよう求めました。

 

米大使館「航空便が望ましい 無理ならば陸路でも」

このなかでアメリカ大使館は「航空便で退避するのが望ましいが、それが無理ならば陸路でもほかの国に出るべきだ」と呼びかけています。

アメリカは、イラク国内で首都バクダッドに大使館を、また北部アルビルと南部バスラに領事館を置いているほか、アメリカ軍の部隊をイラク軍の基地などに展開させています。【1月3日 NHK】

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混乱を懸念して原油価格は4%ほど上昇しています。

万一の事態になれば、中東に石油を頼る日本も大きな影響を受けることにもなります。

 

英独仏は緊張緩和・自制を呼びかけています。ただ、「英雄」を殺害されたイランとしては「何もしない」という選択肢はないでしょう。

 

トランプ大統領の「決断」で世界は正月早々非常に厄介な状況となっています。どこまで検討・熟慮された「決断」だったのか疑問がありますが。

 

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イラン・アメリカ  米軍の中東増派報道の一方で、拘束者の交換でトランプ大統領がイランに謝意表明

2019-12-08 22:05:53 | イラン

(仏リヨンで開催された米国とイランのサッカーの試合で掲げられた米国旗とイランの国旗(1998621日撮影)【127日 AFP】)

 

【アメリカ、イランの容赦ない鎮圧行動を批判】

アメリカの制裁で財政的に苦しいイランがガソリン価格引き上げ(補助金削減)を行ったところ、悪化する経済状況の中で生活に苦しむ市民の激しい反政府デモが発生し、乏しい資源をシリア・イラク・レバノン・イエメンなどの親イラン勢力につぎ込んでいる現状にも批判が噴出、これに対し政権側は容赦ない鎮圧でこの抗議行動を封じ込めた・・・という件は、1129日ブログ“イラン  容赦ない鎮圧行動で国民不満を抑え込む”でも取り上げました。

 

この鎮圧でどれほどの犠牲者がでたのかは、当時インターネットが遮断されたこともあってよくわかりませんが、百数十人、二百人超、千人超といった様々な推測がなされています。

 

“イラン、窮地の政権 不満募らす市民/勢いづく反米勢力 デモ隊、死者140人超か”【1130日 朝日】

“イラン反政府デモ死者2百人超か 人権団体、当局は「誇張」”【123日 共同】

 

****米代表、イラン死者は「千人超」 反政府デモ弾圧、各国に制裁促す****

米国務省のフック・イラン担当特別代表は5日、記者会見を開き、敵対するイランでの当局による反政府デモ弾圧で「死者が千人を超えた可能性がある」と主張した。約7千人に上る逮捕者の多くが劣悪な環境下で拘束されているとして即時解放を求め、各国に弾圧に関与したイラン当局者への制裁を呼び掛けた。

 

トランプ大統領は5日、ホワイトハウスで記者団に「(当局は)大勢の人を殺し、自国民を拘束している」と述べ、イラン政府を批判した。

 

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは2日、少なくとも208人が死亡したと発表した。【126日 共同】

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上記については、イランと対立するアメリカの発表ですから、そこを考慮する必要がありますが、体制への危機感から容赦ない鎮圧行動がとられてことは間違いないようです。

 

【アメリカ イランの脅威に直面する中東に最大14000人の増派を検討中?】

アメリカが、こうしたイランを批判しているのは当然のところですが、数日前には、イランの脅威を念頭に置いて中東に米軍14000人を増派するとの報道がありました。

 

****中東への米軍14000人増派報道、米国防総省は否定****

米国防総省は4日、米国がイランの脅威に直面する中東に最大14000人の増派を検討中だとする米紙ウォールストリート・ジャーナルの報道内容を否定した。

 

WSJは匿名の米当局者の話として、中東に駐留する米兵を今年初めの規模から倍増し、艦艇「数十隻」を追加派遣する計画が検討されていると報道。早ければ今月中にも、ドナルド・トランプ大統領が増派を決断するとの見方を伝えていた。

 

しかし、米国防総省のアリッサ・ファラー報道官はツイッターへの投稿で、「はっきりさせておくと、この報道は間違っている。米国は中東への14000人追加派兵を検討してはいない」と否定した。

 

中東では艦船への攻撃が相次いでおり、9月にはイランの無人機とミサイルによるとされる石油関連施設への攻撃も発生。米政府は既に湾岸地域の駐留部隊を増強し対イラン経済制裁を拡大するなど、緊張が高まっている。 【125日 AFP】

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しかし、国防総省も否定していますし、シリアから撤退し、アフガニスタンからも抜けたがっているトランプ大統領がなぜ中東に増派?という疑問があります。

 

火のないところに煙はたたないのでしょうが・・・・

 

“国防次官(政策担当)のルード氏は「脅威の事情に関してわれわれが懸念を持って目にしている現状に基づけば、軍の態勢を修正する必要が出てきてもおかしくない」と答え、エスパー国防長官からは必要になれば態勢変更をするつもりだと伝えられていると付け加えた。”【126日 ロイター】

 

何か動きがアメリカ側にあるのでしょうか・・・よくわかりません。首尾一貫しないのはトランプ政権ではよくあることですので。

 

【イランのスポーツ外交不発】

軍を動かすことも検討されるほどの敵対関係・・・とも思われているアメリカとイランですが、そうしたなかで(成功はしなかったものの)関係改善を模索する動きだろうかと感じさせる報道も。

 

****イラン「レスリング外交」不発 米チームを大会招待断られる****

イランが近く開催する男子レスリングの国際大会に米国の選手を招いた。対立する米国の経済制裁に苦しむイランが、「雪解け」の材料にしようとしたとみられるが、「準備期間が短すぎる」と断られた。イラン学生通信が報じた。

 

同通信によると、大会は今月中旬にイラン北東部で開かれる。

 

同国レスリング連盟は1日、米国のクラブチームを正式に招待したことを発表し、滞在費や渡航費はイラン側が負担すると明らかにした。

 

これに対して米側は2日、「選手の最大の目標は来年の東京五輪だ。(イランでの大会には)参加しない」と、代理人を通じて断ってきたという。

 

イランは米国やサウジアラビアと対立し、イラン産原油の全面禁輸といった米制裁で経済が困窮している。外交交渉は行き詰まり、燃料費の値上げに反発したデモまで起きている。

 

そうしたなか、イラン政府関係者は「スポーツ外交は雪解けを演出する」と期待する。

 

2017年には、米国代表がイランであったレスリング大会に参加し、イラン人の観客が米国選手に声援を送って話題になった。今回は不発だった模様だ。【124日 朝日】

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【トランプ大統領 拘束者交換が無事に成功したとして、イランに謝意を表明】

上記“スポーツ外交”は不発に終わりましたが、互いの拘束者を交換・解放することが発表され驚きました。

 

****イランと米国、相手国市民をそれぞれ解放 拘束者を交換か****

米国とイランは7日、双方が拘束していた相手国の市民1人をそれぞれ解放した。両国の緊張関係が高まる中、拘束者を交換したとみられる。

 

米国政府は同国人研究者のシーユエ・ワン氏が帰国途上にあることを発表。その直前、イラン政府は同国人科学者のマスード・ソレイマーニー氏が米国から解放されたことを明らかにした。

 

モハンマドジャバド・ザリフ外相はツイッターに、「マスード・ソレイマーニー氏とシーユエ・ワン氏が間もなく、それぞれの家族と一緒になることをうれしく思う」と投稿。「全ての関係者ら、特にスイス政府に対して厚くお礼申し上げる」とツイートした。スイスはイランにおいて、米国の利益代表部を担っている。

 

国営イラン通信は、ソレイマーニー氏が「違法な拘束から1年を経て、先ほど解放」され、スイスでイラン当局者に引き渡されたと報じた。
 
その一方、ドナルド・トランプ米大統領は、「イランで3年超も捕らわれの身だったシーユエ・ワンさんが米国に戻るところ」であることを明らかにした。

 

中国系米国人であるワン氏は、スパイ罪で禁錮10年の刑が言い渡されていた。

 

米プリンストン大学で歴史学を研究していたワン氏は20168月、イランのカジャール朝について調査していたところに拘束された。 【97日 AFP】AFPBB News

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ザリフ外相が「マスード・ソレイマーニー氏とシーユエ・ワン氏が間もなく、それぞれの家族と一緒になることをうれしく思う」と、自国民のソレイマーニー氏だけでなく、イランが拘束していたアメリカ人シーユエ・ワン氏も同列に触れているところが「おやおや・・・」という感じも。

 

更に驚きは、“あの”トランプ大統領がイランに「謝意」を示したとか。

 

****トランプ米大統領、拘束者交換でイランに異例の感謝示す****

米国とイランの間で緊張が高まる中、ドナルド・トランプ米大統領は7日、「極めて公正な」交渉によりイランで拘束されていた中国系米国人が釈放されるなど、両国の拘束者交換が無事に成功したとして、イランに謝意を表明した。同大統領が敵対関係にあるイランに肯定的な発言をするのは異例。(後略)【128日 AFP】AFPBB News

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国内で激しい抗議行動が起きたイランは尻に火が付いた状況で、なんとかアメリカとの関係を改善して、経済状況を改善させたいとの本音があるであろうことは推測されます。

 

アメリカは・・・やはり、トランプ再選に向けた目に見える「成果」が欲しいということですかね。

 

何はともあれ、両国関係が改善するのは世界の緊張緩和に大きく役立つものであり歓迎すべきものです。

 

ただ、上記のような緊張緩和の方向に向かうのか、あるいは、前出のような米軍の中東増派といった緊張拡大の方向にむかうのか、よくわかりません。

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イラン  容赦ない鎮圧行動で国民不満を抑え込む

2019-11-29 23:14:10 | イラン

(【11月29日 BBC】 走る車の中から撮影された、私服の治安当局者もしくは民兵が男性を拘束している様子)

 

【最高指導者ハメネイ師  外国勢力と結びついた「悪党」による「極めて危険な陰謀」】

ガソリン価格を引き上げ(補助金削減)に端を発したイランでの反政府抗議行動は、アムネスティ・インターナショナルが少なくとも143人が死亡した報告しているように多大な犠牲者を出しましたが、抗議行動を「極めて危険な陰謀」とする最高指導者ハメネイ師は「完全に鎮圧した」としています。

 

****反政府デモは「極めて危険な陰謀」、既に鎮圧=イラン最高指導者****

イランの最高指導者ハメネイ師は27日、約2週間続く反政府デモについて、「極めて危険な陰謀」によるものだと主張したうえで、デモを完全に鎮圧したと明らかにした。

政府が11月15日に予告なしにガソリン価格を引き上げたことがきっかけで始まったが、即座に政治問題に焦点が移りデモ参加者は指導部の交代を要求している。

イラン政府は、国外追放者に加え、米国やイスラエル、サウジアラビアなどの外部勢力と結びついている「悪党」によりデモが過激化したと主張している。

ハメネイ師のウェブサイトによると、同師はデモ鎮圧に加わった民兵組織「バシジ」との会合で、極めて危険な陰謀はイランの人々により鎮圧されたと強調した。

ラハマニファズリ内相は、国内の約731の銀行、70のガソリンスタンド、140の政府機関が放火され、治安部隊の拠点50カ所以上が攻撃を受けたと明らかにした。また、約20万人がデモに参加したという。国営イラン通信(IRNA)が報じた。

国会の安全保障委員会メンバーによると、7000人が逮捕さえた。ネットニュースサイト、Entekhabが伝えた。

イラン政府はデモ参加者と治安部隊の衝突などで死亡した人の数を公表していないが、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは今週、少なくとも143人が死亡したとの見方を示した。【11月28日 ロイター】

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最高指導者ハメネイ師は、当初から政府のガソリン価格引き上げを支持する姿勢を表明していました。

 

保守強硬派に近いとされる最高指導者ハメネイ師だけでなく、穏健派とされるロウハニ大統領も抗議行動を厳しく批判していました。(政策責任者としては当然ですが)

 

****イラン大統領、社会の「不安定」容認しないと警告 抗議デモ受け****

ガソリンの値上げに対する抗議デモが起きているイランで、同国のハッサン・ロウハニ大統領は17日、イランは社会の「不安定」を容認しないと警告した。2日間の抗議デモでは2人が死亡、数十人が当局により拘束され、インターネットへのアクセスも制限された。

 

ロウハニ師は「抗議を行うのは国民の権利だ。だが、抗議行動は暴動とは違う。われわれは社会の不安定を容認すべきではない」と明言。抗議デモの発端となったガソリンの値上げを擁護した。イラン政府は急激な景気悪化の中、ガソリンの値上げを社会福祉費用に充てる計画だとしている。

 

抗議デモは15日のガソリン値上げ発表の数時間後に起こった。政府の発表によると、1か月当たり60リットルまでのガソリン価格は、これまでの1リットル1万リアル(約26円)から1万5000リアル(約39円)に引き上げられ、60リットルを超えると3万リアル(約78円)になる。

 

抗議デモでは、道路が封鎖されたり公共物が放火されたりし、複数の負傷者が出て、数十人が拘束された。

 

デモ発生の翌日にはインターネットへの接続が制限された。インターネット監視団体ネットブロックスの16日のツイッター投稿によると、「イランでは現在、インターネットがほぼ全土でシャットダウンされている」という。 【11月18日 AFP】

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アメリカの制裁によって財政的に追い詰められている状況ではガソリン価格引き上げは止むしということ、および抗議行動を放置しては体制の危機につながりかねないということで、穏健派・保守強硬派ともに価格引き上げ強行・抗議行動の「鎮圧」の方向で一致したということでしょうか。

 

政府は、現金支給の懐柔策も。

 

****イラン、国民に現金支給…反政府デモ沈静化狙う****

イラン政府は19日、国民の約7割に当たる低・中所得層に対し、1世帯当たり月額最大205万リアル(実勢レートで約1900円)の現金支給を始めた。過激化した反政府デモを沈静化する狙いがある。

 

イランの推計人口は約8200万人で、地元メディアによると、現金は19日、約2000万人の世帯の銀行口座に振り込まれた。数日中に、さらに4000万人の世帯にも支給されるという。

 

政府は財源について、「ガソリン用の補助金の削減分を充てる」と説明している。

 

一連のデモは、政府の補助金カットでガソリン価格が値上がりしたことへの反発が発端となった。ガソリン価格の高騰は産業界への影響が大きく、高止まりしている物価のさらなる上昇を招く可能性が高いため、「少々の現金支給では国民の不満は収まらない」(外交筋)との見方もある。【11月19日 読売】

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【米国の制裁によって経済が疲弊し、若者を中心に社会不安につながりつつある】

国民の不満の背景には、生活苦があります。

 

****イランデモ、死者100人超か ガソリン値上げ、若者「生活苦しい」****

ガソリン価格の値上げを機に、イランでは異例の激しい反政府デモが15日から続いている。死者は100人を超える可能性がある。イランと敵対する米国の制裁によって経済が疲弊し、若者を中心に社会不安につながりつつある。(中略)

 

制裁、経済悪化の一途

(中略)イランでは17年末にも物価高に抗議するデモが起き、20人以上が死亡した。この時に発端となった地方都市のデモは、ロハニ政権と対立する勢力の関与が疑われる政治的なものだった。だが、今回はそうした組織的な関与や政治色は乏しい。

 

イランの経済専門家は「米国の制裁で原油収入が激減し、政府の財源が苦しくなる中で、ガソリン値上げは理論的には正しい。だがタイミングが最悪だった」と指摘。「輸送費が高騰して、あらゆる物の価格が上がり市民の不満は増大するだろう」と分析する。

 

ガソリンはこれまで、政府の補助金で1リットル1万リアル(実勢レートで約8円)だったが、1カ月で60リットルまでは1万5千リアル(約13円)に、それ以上購入した場合は3万リアル(約25円)に値上がりした。イランでは、平均月収が3万円程度。平均的な家庭ではガソリンは月100リットル以上は消費するとされるため、影響は大きい。

 

また、公共交通機関が十分には発達しておらず、移動は自家用車やタクシーなどの車に頼らなければならないのが実情だ。政府は貧困層を中心に1世帯で月額最大205万リアル(約1860円)の現金支給を始めた。だが、市民の不満を抑えられるかは不透明だ。【11月21日 朝日】

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また、こうした苦しい市民生活を強いている状況で、シリアやレバノンなど各地の親イラン勢力支援のために多額の資金を使っていることにも批判の矛先が向けられました。

 

【「最高指導者は神様のように暮らす。国民の我々は、物乞いのように暮らす」】

問題は「鎮圧」の仕方で、「狙撃」を含むデモ参加者への容赦ない暴力が使用されたようです。

その先兵となったのが、おそらく、冒頭記事で最高指導者ハメネイ師が会合をもったことが報じられている民兵組織「バシジ」でしょう。

 

****イラン各地のデモ、流血の鎮圧 映像流出でネット遮断****

建物の入り口を挟んで撮影された映像では、血を流して歩道に横たわる10代少年を女性が見つめているように見える。その脇を走って通り過ぎる人たちに、機動隊員が警棒をふりかざして殴りかかる様子も見える。

 

南部シラーズで撮影された別の映像では、倒れて動かなくなった男性を集まった人たちが助けようとしている。煙が充満した道路で、大勢が後退していく。怒鳴る声、悲鳴、銃声が聞こえる。

 

もうひとつの映像は、首都テヘランを走る車の中から撮影されたもので、私服の治安当局者もしくは民兵が男性を拘束している。女性が叫んでいる。


 

こうした映像が国外に流出するのを恐れて、イラン政府は11月初めに8日間以上もインターネットを遮断した。石油価格急騰に対する抗議行動が、国内各地で広がる最中のことだ。

 

今ではインターネット接続は一部復活し、それに伴いソーシャルメディアには政府の強硬な取締りによる流血沙汰の動画が再び出現し始めた。

 

その内容は恐れられていたよりも残酷で、苛烈だ。抗議に参加して命を失った人たちについても、どういう人で、なぜ犠牲になったのか、それぞれの物語が浮上しつつある。

 

錯綜する情報

イラン当局は死傷者数について、公式発表は何もしていない。しかし、国際人権団体アムネスティー・インターナショナルが入手し、信頼できると判断した情報によると、11月15日に抗議デモが始まって以来、少なくとも143人が死亡している。

 

同団体によると、デモに参加して死亡した人のほとんどは、治安当局による意図的な銃器の使用によって犠牲になった。それ以外では、1人が催涙ガスを吸引後に死亡し、1人が殴打されて死亡したという。

 

アムネスティーはツイッターで、「イランによるインターネット遮断ほどロジスティック的に複雑な対応はかつてなかったと、デジタル技術の専門家たちは言う。どうやらイラン当局は、自分たちがこうやって政府庁舎の屋根から丸腰の抗議者を狙撃している様子を、私たちに見せたくないようだ」と動画を投稿した。


 

アムネスティーは実際の死者数は143人よりはるかに多いと見ている。イラン国内の活動家や当局筋はBBCペルシャ語に対して、200人以上だと話している。

 

一方でイランの外交官は先週、こうした数字は「憶測」に過ぎないと反発し、「欧米の組織」が「根拠のない主張」をしていると批判した。

 

ハッサン・ロウハニ大統領は国内の抗議について、イランに敵対する国々が仕組んだ計画に沿って「反政府分子」が引き起こしたものだと話している。

 

しかし、イラン国民がスマートフォンで撮影した動画の多くは、生々しく残酷で正視するのが難しいが、見ればイラン政府の公式見解に疑念が生じる。

 

デモ鎮圧に使われることの多い民兵組織「バシジ」や治安部隊が、無防備な抗議者を路上で痛めつけたり、至近距離で群衆に実弾を打ち込む様子などが、こうした動画には映っている。

 

「数千人が負傷か拘束」

イランの保健当局が広く献血を呼びかけていることからも、デモ鎮圧によって数千人が負傷した可能性がうかがえる。

 

病院関係者はBBCペルシャ語に、負傷した抗議者を探して治安部隊が病院を捜索していると話した。1人の医師によると、当局は患者の包帯をめくりその下に銃創がないか確認している。銃で撃たれた傷があると、その場で逮捕されてしまうという。

 

イランの司法当局は22日、イラン革命防衛隊が「騒乱の指導者や中心的存在」を約100人逮捕したと発表した。デモに参加したものの、器物損壊などの犯罪行為とは関係ない多くの人は釈放されたという。

 

一方で、イラン国内の消息筋はBBCペルシャ語に、拘束された人数は数千人に上ると話している。

 

一部の都市では、軍の兵舎やスポーツ競技場が学校が、収容施設として使われている。そうした学校に近い高層ビルに住むジャーナリスト、アリネジャド・マシフさんはツイッターで、収容者が手荒く扱われている様子の動画を投稿。

 

「政府は事態を抑えられなくなると恐れる余り、抗議デモが続く間、テヘランの学校を休校にして、『雪』のせいにした。けれども実際には、このビデオが示すように、抗議者の逮捕に学校施設を使った。イランの独裁者はこの戦いで敗れる」と書いた。


 

イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、抗議参加者たちは「国外と関係する」と主張するものの、情報省は議会に、拘束されたほとんどは貧困家庭出身の無職な若者だと報告した。

 

「物乞いのように暮らす」

(中略)

集まった動画には、政府や国を支配する聖職者や治安部隊のシンボル、あるいは銀行やガソリンスタンドを標的にする抗議の様子が映っていた。

 

デモの中心地はもっぱら国の西側、イラク国境沿いにあるクルド系の町村や、テヘラン、カラジ、シラーズといった主要都市の近郊に集中していた。いずれも、国内でとりわけ失業率の高い地域だ。

 

シラーズではデモ隊が、「ガソリンの値段が上がる、自分たちは貧乏なのに」と繰り返していた。

 

テヘラン近郊のマラルドでは、「最高指導者は神様のように暮らす。国民の我々は、物乞いのように暮らす」と大勢が繰り返していた。

 

イスファハーンのデモ隊は、「ガザを拒否する。レバノンを拒否する。自分たちはイランに命を捧げる」と唱えていた。


 

中東におけるイランの活動をめぐり、不満があるのは明らかだ。革命防衛隊は中東各地で、民兵組織の武装や訓練、報酬の支払いに何十億ドルと費やしている。イランの国境を越えて敵と戦わなければ、敵はテヘランの路上にまでやってくるというのが、その大義名分だ。

 

しかし、国内各地で抗議するイラン国民は、その資金は国内と国民の未来に使われるべきだったと主張する。

 

ドナルド・トランプ米大統領は昨年、イランの核兵器開発をめぐる国際合意から離脱し、イランの石油生産と金融業を制裁で狙い撃ちにした。

 

米政府の制裁に加え、国内に横行する汚職とお粗末な経済運営のせいで、イラン経済はいまや破綻寸前だ。それでも政府は、従来の方針を変えようとしていない。

 

被害者は何を

イランの国営メディアや治安部隊に近い新聞各紙は、抗議に参加する人たちをごろつき、ならず者として描写し、公共の施設を荒らして略奪するのが目的だと伝えた。

 

しかし、犠牲者の遺族たちからBBCペルシャ語が聞いた内容は、別の状況を物語っている。

40歳のファティマさんは2人の子供の母親だった。テヘラン近くのデモで亡くなった。遺族によると、ファティマさんは失業とインフレに抗議してデモに参加した。

 

西部ケルマンシャーのアルミン・カデリ君は10歳だった。遺族によると、パンを買いに外出して、命を落とした。

 

被害にあった家族の多くはBBCペルシャ語に対して、自分たちの家族は経済危機への怒りを表明しようと家を出たのだと話した。政府当局はそれに、銃弾で応えたのだと。【11月29日 BBC】

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穏健派とされるロウハニ大統領は、こうした「鎮圧」をどう見ているのか?支持しているのか?

イランには保守強硬派も穏健派もない。あるのは強権支配体制だけだ・・・と言われることもありますが、今回の事態をを見ると、「やはり、そうなのかな・・・」という感も。

 

【国外への情報提供者の逮捕 アメリカは情報提供を求める】

なお、上記のようなデモ情報を国外に知らせた者への追及も強まっています。

 

****イラン、「CIAに関与した」8人を逮捕 デモ情報を国外へ共有****

国営イラン通信は27日、「米中央情報局に関与し」、ガソリン価格の値上げをきっかけとした抗議デモに関する情報を国外へ送っていたとして8人を逮捕したと報じた。

 

IRNAは情報省の防諜(ぼうちょう)機関トップの話として、逮捕した500人超のうち「最近発生した暴動に関する情報を集め、国外に送ろうとしていた」8人を特定し、逮捕したと報じた。うち6人は「暴動に参加して命令を実行していた」とみられるという。

 

イランの大敵である米国は、インターネット規制をくぐり抜けるよう人々に求め、写真や映像など抗議デモに関する大量の情報をイランから受け取ったと明かしている。

 

マイク・ポンペオ国務長官は26日、「イラン政府の不正に関する2万近くのメッセージや映像、写真、メモを(記号化メッセージアプリ)テレグラムを通じて受け取った」と述べた。 【11月29日 AFP】AFPBB News

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アメリカは受け取った情報をもとに、ここぞとばかりにイラン批判を強めるのでしょうが、その情報を発信した多くの者が厳しい弾圧を受けることにもなっています。

 

イランを追い込んで体制転換に・・・というのがトランプ政権の描くシナリオですが、体制転換の可能性は少なく、おこりうるのは厳しい弾圧、多くの犠牲者、困窮する市民、強権化する政治です。

 

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イラン  ガソリン価格引き上げで抗議デモ

2019-11-18 22:19:01 | イラン

(イランの首都テヘランでは16日、ガソリン価格の値上げに抗議した市民らが幹線道路に自動車を停車して通行できないようにした=ロイター【11月17日 朝日】)

 

【「麻薬」のように抜け出すのが困難な補助金政策】

アメリカによる経済制裁で市民生活が困窮するイランで、ガソリン価格値上げ(補助金削減)が実施され、市民からの激しい抵抗にあっています。

 

****イラン、ガソリン価格が3倍に 全土で反政府デモ****

イランで15日夜以降、ガソリン価格の値上げに抗議する反政府デモが全土で続いている。政府が15日にガソリン価格を最大約3倍に値上げしたためだ。

 

イランメディアによると、デモ参加者らは反政府のスローガンを叫び、高速道路を封鎖するなどしており、少なくとも1人が死亡した。

 

デモはイラン全31州のうち20州以上で起きた。首都テヘランでは市民が道路を封鎖するなどした。他の都市では暴徒化したデモ隊の一部が、パトカーや銀行などに火をつけたとの情報もある。

 

南東部ケルマン州シルジャンではデモに参加した市民1人が死亡したが、治安部隊による銃撃を受けたのかどうかなどは分かっていない。

 

政府は、全土で携帯電話によるインターネットの接続を大幅に制限するなどして対応にあたっている模様だが、事態を収拾できるかは不明だ。

 

デモの引き金になったガソリン価格は、15日未明に政府が値上げを発表した。産油国のイランでは、政府が補助金を出してガソリン価格を統制しており、世界有数の安さに抑えられている。

 

これまでは1リットル1万リアル(実勢レートで約9円)だったが、15日以降は1カ月間に60リットルまでは1万5千リアル(約14円)に、それ以上を購入した場合は3万リアル(約28円)に値上がりした。

 

2015年のイラン核合意から昨年に離脱した米国による制裁の影響で、イランの経済は低迷。物価高や通貨の下落が起きたため、市民生活を直撃している。

 

今回の値上げについて政府は「値上げ分の増収は、中間層や貧困層への補助金に回される」と説明しているが、市民からは、政府の経済政策の失敗とエリート層の腐敗が経済的苦境を招いているとの批判が強く、ガソリン価格の値上げが火に油を注ぐ結果となった。

 

ガソリン価格が上昇すると輸送費が増えるため、多くの商品が値上がりする。市民はガソリン価格の値上げには神経をとがらせており、07年には暴動が起きた。17年末にも全土で物価高に端を発した反政府デモが発生。治安部隊との衝突などで25人が死亡した。【11月17日 朝日】

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常識的には「1リットルが9円? そりゃ無理だろう・・・」という感もありますが、イラン市民にとっては生活の前提となっています。

 

上記記事差後に“市民はガソリン価格の値上げには神経をとがらせており・・・”とありますが、神経をとがらせているのは政府側も同様、あるいは市民以上でしょう。

 

記事にもあるように、同様騒動は2007年にもありました。

 

当時、このブログを書き始めた間もない頃でで、その時の印象が強く残っています。

 

イラン ガソリン輸入と石打刑”【2007年7月17日】

 

当時のブログにも書いたように、ホメイニ師以来の神権政治とか、アフマディネジャド大統領(当時)の強権支配とは言っても、市民の反発に非常に気を使う必要があるという点では、日本や欧米の民主主義政治とそれほど大きな差はないようだ・・・というのが、そのときの印象です。

 

以来、アメリカはイランのことを「悪の枢軸」「ならず者国家」と激しく罵っていますが、もちろんイラン固有の特殊性は多々あるものの、上記のように民意を無視できない社会であるという基本的な点では、言うほどの差異はないのでは・・・と考えています。

 

ガソリンなど燃料に対する補助金、食糧に対する補助金は多くの国が政権維持のための貧困層対策として行っていますが、このような補助金政策は麻薬のような性格があります。

 

いったん導入すると、次第に国家財政を圧迫して国家の体力を奪っていきますが、補助金の削減・廃止は国民の激しい反発を招き、場合によっては政権の命取りにもなります。それは、世間で独裁政治とか強権支配とか呼ばれている体制にあっても同様です。

 

そのため、イランを含めて補助金削減・燃料・食糧価格引き上げを行おうとする政権は、政治生命をかけた取り組みともなりますし、そのため、なかなかそこから抜け出せず、事態はますます悪化するということにもなります。

 

今回のイランに話を戻すと、政権側はなんとかこの値上げを乗り切ろうとの構えです。

 

****イラン大統領、社会の「不安定」容認しないと警告 抗議デモ受け****

ガソリンの値上げに対する抗議デモが起きているイランで、同国のハッサン・ロウハニ大統領は17日、イランは社会の「不安定」を容認しないと警告した。2日間の抗議デモでは2人が死亡、数十人が当局により拘束され、インターネットへのアクセスも制限された。

 

ロウハニ師は「抗議を行うのは国民の権利だ。だが、抗議行動は暴動とは違う。われわれは社会の不安定を容認すべきではない」と明言。抗議デモの発端となったガソリンの値上げを擁護した。イラン政府は急激な景気悪化の中、ガソリンの値上げを社会福祉費用に充てる計画だとしている。(中略)

 

抗議デモでは、道路が封鎖されたり公共物が放火されたりし、複数の負傷者が出て、数十人が拘束された。

 

デモ発生の翌日にはインターネットへの接続が制限された。インターネット監視団体ネットブロックスの16日のツイッター投稿によると、「イランでは現在、インターネットがほぼ全土でシャットダウンされている」という。 11月18日 AFP】AFPBB News

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最高指導者ハメネイ師もロウハニ大統領の施策を支持しています。

 

****イラン最高指導者がガソリン値上げ支持、抗議デモは敵対者や外国主導と批判****

イラン最高指導者のハメネイ師は17日、政府のガソリン価格引き上げを支持する姿勢を表明し、値上げに対して全国的な抗議行動が起きていることについては、イランの敵対者や外国勢力が主導していると批判した。

 

ハメネイ師は国営テレビの演説で「一部の人々が値上げの決定に不安を抱いているのは疑いない。だが破壊行為や放火はわが国民ではなく、フーリガンの仕業だ。反革命者とイランの敵はいつも破壊や安全保障の侵害をこれまで後押ししてきたし、今も続けている」と語った。

 

イランの複数の通信社やソーシャルメディアによると、政府がガソリン価格を引き上げた翌日の16日に、首都テヘランや他の多くの都市でデモ参加者と警察や治安部隊が衝突。デモ参加者は政府トップの辞任も求めた。

 

約1000人が拘束され、100カ所の銀行が放火される事態になった。当局者によると南東部の都市では15日に死者も発生した。(後略)【11月18日 ロイター】

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【穏健派と保守強硬派がせめぎあうイラン政治】

しかし、イラン政治が一丸となってこの難局を乗り切ろうとしている・・・という訳では決してないようです。

 

政権が政治生命を賭けた政策にうって出るとき(そうせざるを得ないほど追い詰められているとき)は、反対派にとって格好の狙い時となるのは、日本を含めて政治世界における共通現象です。

 

特にイランの場合は、ロウハニ大統領に代表される穏健派政権に対し、保守強硬派は「核合意で譲歩したにもかかわらず、アメリカは制裁を解除せず、経済はますます苦しくなっている」と批判を強めており、その政治バランスが微妙な状況にあります。

 

ガソリン価格値上げは5月段階でもイラン国内で報じられて騒動になっており、このときの報道は保守強硬派側の政権揺さぶりとも見られています。

 

*****「ガソリン値上げ」報道、誤報だった イラン各地で混乱****

イランで5月初旬、反米保守強硬派の有力通信2社が特ダネとしてガソリン価格の値上げを報道したことで、市民がガソリンスタンドに殺到し、各地で混乱が起きた。

 

政府はすぐさま報道を否定。司法当局が両通信社の幹部を事情聴取するなどして事態の収拾を図ったが、騒動の背景には国内の政治対立があるのではないかとみられている。

 

イランではガソリン代に政府の補助金が充てられており、ガソリンが1リットル1万リアル(実勢レートで約7円)と、ベネズエラやスーダンと並び、世界有数の安さを誇る。

 

ガソリン価格が上昇すると、輸送費もかさみ、物価上昇に直結するため、市民はガソリンの値上げには神経をとがらせている。2007年には値上げに端を発して首都テヘランで暴動が起きたこともある。


合意から離脱したトランプ米政権がイランへの制裁を再開して以来、物価高や現地通貨の価値急落などで経済は低迷。

 

米国がイラン産原油の完全禁輸措置に踏み切る矢先の報道とあって、国家歳入の約6割を占めるとされる原油収入の激減が予測される中、政府が予算不足からガソリンへの補助金を削減するのではないかとの観測が強まっていた時期でもあった。

 

各地での混乱にザンガネ石油相は「事実無根だ」と値上げを否定。市民が過敏に値上げ報道に反応したため、政府が急きょ方針転換をしたのではないかとの見方もでている。

 

また、背景には保守穏健派のロハニ政権と、反米を基調とする保守強硬派との政治的対立があったのではないかともみられている。

 

というのも、特ダネを報じたのがイランの精鋭部隊・革命防衛隊傘下のタスニム通信とファルス通信だったからだ。革命防衛隊は最高指導者ハメネイ師の直轄で、反米を基調とする保守強硬派の牙城(がじょう)だ。このため、両通信社が、対立する保守穏健派のロハニ政権の「失点」となりかねない上げをいち早く報じたのではないかとの見方もある。

 

さらに、国内では「フェイクニュースだった」との批判が高まり、タスニム通信によると、国内治安を統括する司法当局が両通信社の幹部らを事情聴取。すると、幹部らは「石油省の下部組織の人物から聞いた」と個人名を暴露した。この人物は、メディアに情報を伝えるように命じた石油省幹部とともに逮捕され、その後保釈された。今後在宅で訴追される可能性がある。

 

イランには42の通信社と353の新聞社があるが、通信社や新聞は、政府や各省庁、司法府といった組織の傘下にある。各組織の利益を代表しつつ特ダネ競争を続けている。【5月14日 朝日】

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“火のないところに・・・”で、このときも政府側は実際に値上げを検討したものの、保守強硬派系メディアのリークによって慌てて「否定」に転じたのでは・・・・という推測がなされています。

 

今回の抗議デモについても、その背後に特定の政治勢力が・・・といったことがあっても不思議ではありません。

実際のところはよくわかりませんが。

 

【相当に水増しされた「大油田」発見発表】

上記は保守強硬派の情報戦略ですが、政権側の石油に関する世論操作の試みも。

 

先日、イランで「大油田」が発見されたとの報道がありました。

 

****イランで「大油田」発見、原発も公開 米欧牽制が狙いか****

イラン政府は10日、南西部フゼスタン州で大規模油田が見つかったと発表するとともに、南部ブシェール原子力発電所の2号機の建設現場を現地メディアなどに公開した。

 

核合意から離脱した米国による制裁が続くなか、国内で政権の求心力を保つとともに、核の平和利用を国外にアピールする狙いもありそうだ。

 

ロハニ大統領は10日、油田発見を公表した際、「政府から国民への心ばかりの贈り物だ。原油が増えれば歳入も増える」と強調し、「米国の制裁にもかかわらず、大油田を発見できた」と誇った。

 

11日にはザンガネ石油相も会見し、新たに見つかった油田の推定埋蔵量は220億バレルに上り、既に発見済みだった310億バレルと合わせて、530億バレルになるとの見通しを示した。

 

英石油大手BPの統計によると、これまでに判明していたイランの原油確認埋蔵量は1556億バレル(2018年末)で、世界4位とされている。

 

ただ、イランは、トランプ米政権が核合意から離脱した影響で今年5月から自国産原油の全面禁輸を強いられ、経済苦境が続いている。

 

イランはトランプ政権に対抗し、核合意で定められた濃縮ウランの貯蔵量を超過する措置などを段階的に実施。一方で、核合意の維持をめざす英仏独に原油取引再開などを求めている。

 

10日に公開された原発は、1号機がロシアの管理下で稼働しており、2号機の建設もロシアの支援を受ける。イラン政府は「使用済み燃料もロシアに戻され、完全に平和的利用だ」と強調しており、ロシアとの協力関係をちらつかせて、米国や英仏独を牽制(けんせい)するねらいもありそうだ。

 

イランでは、2012年から同国初の商業用原発であるブシェール原発の1号機(出力100万キロワット)を稼働。イランメディアによると、10日に公開された建設中の2号機は23年の完成をめざしており、3号機の建設も予定されているという。【11月11日 朝日】

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ただ、この「大油田」発見の発表は、フェイクとは言わないまでも、相当に“見かけ倒し”のようだとの指摘もあります。

 

****イラン、「大油田」発見は見かけ倒し 実際の採掘量は?****

イランのハッサン・ロウハニ大統領は10日、国営石油会社が埋蔵量530億バレルの油田を発見したと発表した。文字通りに受け取れば、桁外れの大油田が見つかったということになる。(中略)


これほど大規模な油田の発見は、イランの経済見通しや世界の原油埋蔵量にとって大きな朗報のように聞こえる。事実、ロウハニ大統領は演説の中で、今回の発見をまさにそのように位置づけていた。

 

イランは米国の経済制裁によって原油輸出が大幅に落ち込み、経済が深刻な打撃を受けているが、大統領は発表を機に、それでも制裁に屈しない姿勢を強調したわけだ。

ところがその後、ロウハニ大統領の発表内容は、見かけ倒しに近いものだったことが明らかになった。それは、経済的な苦難が続くなかで国民の支持を集めるために、巧妙に演出されたものだった。

発表から数日後、ビージャンナムダル・ザンギャネ石油相が発見された油田について詳しい説明を行った。それによると、新油田により増えるイランの原油埋蔵量は、実際は220億バレルにとどまるという。それでも確かに相当な量ではあるが、大統領が誇示した530億バレルに比べると、ずいぶんかけ離れた数字だ。

さらに、新油田の原油回収率は10%にとどまるため、実際の採掘量はたった22億バレルほどになる見通しだという。API比重が20余りとかなり重質の油で、ベネズエラ産原油と同じように採掘が難しく、そのコストも高いからだ。

 

イランの現在の状況からすると、この油田から実際に原油が採掘される可能性は低く、市場に出回る可能性はさらに低いと言わざるを得ない。

ロウハニ大統領は巧みな宣伝をし、実際、国際的なメディアの注目を集めた。だが、今回の油田発見によってイランの運命、富が変わることはなさそうだ。 【11月15日 Forbes】

*****************

 

この種の期待感を煽るための情報操作は各国政府が常々やっているところで、特に頻繁にやっているのが「中国が農産物を大規模に購入」といった類を連発しているアメリカ・トランプ大統領でしょう。

 

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イラン  米軍のシリア撤退で追い風状態にあるものの、一気のプレゼンス拡大は難しい状況にも

2019-10-30 22:45:00 | イラン

(29日、スイス西部ジュネーブで記者会見する(左から)イランのザリフ外相、ロシアのラブロフ外相、トルコのチャブシオール外相【10月30日 共同】)

 

【依然として続くアメリカの対イラン圧力とイスラエルの対イラン警戒】

ひと頃、ホルムズ海峡タンカー攻撃事件とか、サウジアラビア石油施設攻撃事件などが続き、イランをめぐる状況が緊迫しましたが、このところはイラン関係のニュースはあまり目にしません。

 

もちろん、アメリカは対イラン圧力を継続しています。

 

****米、対イラン経済圧力一段と高める=財務長官****

ムニューシン米財務長官は28日、訪問先のエルサレムで、米国はイランに対する経済的な圧力を一段と高めると述べた。ただ具体的にどのような新たな措置が用意されているのかは明らかにしなかった。

ムニューシン長官はイスラエルのネタニヤフ首相との共同記者会見で、「米国は最大限の圧力をかけてきた。効果は出ており、制裁措置により資金が断たれている」と述べた。

 

その上で、米国は一段と圧力を高めるとし、「イスラエルの実務者と極めて生産的な昼食会を終えたばかりだが、数多くの具体的なアイデアが示された。米国はこれらを引き続き検討する」と述べた。

ネタニヤフ首相は、制裁措置の強化でイランの核兵器開発を阻止できるとし、「米国の措置に感謝し、一段の措置を望んでいる」と述べた。【10月29日 ロイター】

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イスラエルのイラン警戒は相変わらずです。中東から手を引きたがっているアメリカ・トランプ政権の対イラン包囲網継続を一番望んでいるのがイスラエルでしょう。サウジアラビアは従来のイラン批判一辺倒からはやや変化の兆しも。

 

****イランのイスラエル攻撃の可能性****

本当のことでしょうかね?


al qods al arabi net はイスラエルの公共放送が29日、イスラエルの在外公館(大使館とか総領事館とか代表部等)はイランの攻撃に備えて、警戒態勢に置かれたと報じてると伝えています。

記事はまた、イスラエル防空部隊は、サウディの石油施設が襲われたような、巡航ミサイルやドローンによるイランの攻撃があり得るとして、警戒態勢に入っているとも報じています。
但し、イランからの脅威の具体的な点には触れていない由

記事はまた、ネタニアフ首相が28日、シオニスト諸組織の会合で、イランが最近精密攻撃兵器の開発に熱心であるとかレバノン、シリア、イラク等にミサイルを配置している等、イランの脅威を強調したが、特に差し迫った脅威については言及していないとも報じています。(後略)【10月29日 「中東の窓」】

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上記記事でも「本当のことでしょうかね?」とあるように、イランの攻撃云々の信ぴょう性はわかりませんが、イスラエルがイランに対する高度な警戒を抱いていることは本当のことでしょう。

 

【基本的には、米軍のシリア撤退はイランにとっては“追い風”】

アメリカは「イランに対する経済的な圧力を一段と高める」とはしていますが、トランプ大統領による米軍シリア撤退の動きは「力の空白」を生み、その空白を埋めるのはロシアであり、イランであるという見方が多く示されています。

 

冒頭の記事にあるムニューシン米財務長官に対するネタニヤフ首相などイスラエル側の働きかけも、そうした状況へのイスラエル側の警戒感の表れでもあるのでしょう。

 

****米軍シリア撤退、敵国イランに吹く突然の追い風 ****

対立が続く米イラン関係の歴史で、ドナルド・トランプ米大統領ほどイランを苦しめることに腐心した米国の指導者はいない。トランプ氏は経済的及び外交圧力のみならず、間接的にも軍事圧力も加えてきた。

 

こうした中、トランプ氏による駐留シリア米軍の撤退決定が、実のところイランを多岐にわたって支えることになるのは最大の矛盾だ。

 

対イラン政策では往々にしてそうであったように、米国の衝動は「意図せぬ結果」を招くという中東の厳しい決まりに抵触してしまった。

 

 トランプ氏はここにきて、シリア北東部に少数の米軍部隊を残すことを検討し始めた。同地域の油田を監視することが主な目的だ。トランプ氏は当初、米軍の全面撤退を指示。トルコ軍の侵攻を招き、過激派「イスラム国(IS)」掃討で米国の最も重要なパートナーだったクルド人武装勢力への攻撃を容認した。

 

それでも、米国による撤退はイランにとって朗報である。イラン指導部が中東での影響力拡大を目指す上で、シリアは最も重要な場所であり、シリアのバッシャール・アサド大統領は最も重要な味方だ。米軍撤退は米国の役割を縮小するとともに、イランの影響力とアサド政権維持の双方に対する障害を減らすことになる。

 

しかも米軍撤収により、イラン、アサド政権のいずれの友人でもないクルド人武装勢力を排除することもできる。

 

カーネギー国際平和財団のイラン専門アナリスト、カリム・サジャドプア氏は「イランの目的は、シリア内でのアサド政権の権力強化に加え、中東における米国のプレゼンス縮小とクルド人自治の妨害だ」と指摘。「トランプ氏の決定により3つすべての達成が可能になり、しかもイランは何ら見返りを提供する必要もなかった」と述べる。

 

これに加え、シリアからの米軍撤収は、イランとロシアの関係強化へと扉を開くことにもなり、米国に悪影響をもたらしかねない。トランプ氏は事実上、米軍撤収による空白を埋めるよう、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を招いたことになる。これはプーチン氏にとって、願ってもない状況だ。

 

プーチン氏はシリア、トルコ、イラン、クルド人のいずれもが、この絡まり合ったシリアの政治状況で生きのびる道を模索するため、共同統治の仲介に乗り出しているようだ。(中略)

 

より広い観点からとらえると、クルド人パートナーを見捨てるとの米国の決定は、サウジアラビアやイラクをはじめとする中東の友好国の間で、米国が友人や守護者としてどの程度信頼を置けるものなのか、新たな疑念を生じさせることになりかねない。

 

そのような疑念も、中東での支配拡大を狙うイランにとっては朗報だ。(中略)

 

サウジやイラクなど湾岸諸国は、米国の影響力がどこまで持つか不確かな状況で、イランを一段と受け入れる方向に傾くのだろうか?

 

トランプ氏の立場は、シリアなどのような場所に米軍を無制限に駐留させる利点はコストに見合わないというものだ。米国は中東から手を引くのではなく、むしろ関与を深めすぎたとのトランプ氏の主張は確かに正しい。

 

トランプ氏の中核支持層を含め、多くの米国人は、中東における「終わりなき戦争」への関与を止めるべき時だとするトランプ氏の考えを共有している。こうした考えにおいては、米国がシリアに関与した最大の理由はIS打倒であり、イランの封じ込めではなかった。主要任務が完了すれば、撤退すべき時期だとの主張だ。

 

しかしながら、シリア撤退を目指せば、イラン封じ込めという中東全体における主要目標の達成を困難することは避けられない。

 

米国はイランに対して最大の圧力をかける、もしくは中東から撤退することが可能だ。ただ、その両方を行うことは難しいだろう。 【10月22日 WSJ】

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【トルコのシリア侵攻ではイランは“蚊帳の外”の状況 トルコとの軋轢も】

「米国による撤退はイランにとって朗報である」というのは、確かにそうなんでしょうが、イランにとって事はそう単純でもありません。

 

今回の米軍撤退・トルコの軍事侵攻に際して、ロシア・プーチン大統領が「仲介者」としての存在感を一段と高めたのに対し、イランは「蚊帳の外に置かれた」状況でもあります。

 

イランはトルコの侵攻を非難しており、トルコとの関係もギクシャクしています。

 

****シリアを巡るトルコ・イラン関係****

米軍の北シリアからの撤退から、利益を受けたのは一般的にトルコとロシアの他にイラン、IS等とされていますが、al qods al arabi net は、イスタンブール発の記事で、イランは今回のトルコの米、ロシアとの合意から、完全に阻害されていて、イランのトルコ軍侵攻に対するイランの批判に対して、エルドアンはじめトルコ政府は怒りをあらわにしていて、今後の関係の悪化を示唆していると報じています。(中略)


但し、内容については特段の判断の材料を持ち合わせていませんので、念のため。

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トルコの米、ロシアとの北シリアに関する合意では、イランは完全に蚊帳の外に置かれたが、トルコはその侵攻作戦に対するイランの数々の批判に対し、これまでのイラン支持政策を見直す可能性を口にしている。


勿論、米軍撤退後、この地域におけるイランの影響拡大に関し、両国間に何らかの了解がったか否かは不明ではあるが、トルコ外相はアナドル通信に対して、米国のこの地域における関心はイランの回廊設立防止と、その影響力拡大防止であると語っている。


この発言はそれ以上に明示的には示していないが、消息筋は、発言は今後北シリアでトルコがイランの影響力拡大防止のために、米国とより積極的に協力する可能性を示唆したものと受け止めている。


エルドアンになると、より直截で、ロシアへ出発前に、イランからトルコ軍侵攻について批判が多数出ていることについて、彼自身及び政府が困惑しているとして、ロウハニ大統領はこれら批判を抑えるべきだとして、トルコが将来イランに対する協力を減らす可能性を警告した。


トルコは現在もイランに対する制裁を緩和する役割を果たしている。


トルコ政府は、トルコとしては国連の制裁は厳守するが、米国の一方的な制裁を守る義務はないとして、通商、金融上で、イランにとって制裁の効果を緩和する重大な役割を果たしている
然るにトルコの侵攻後、イランのマスコミは多くのトルコ批判を行い、エルドアンに対する個人攻撃も行っている。


イランはシリア内戦で重要な役割を果たしているのに、今回の国境地帯に関するトルコ・米、トルコ・ロシア合意のみならず、その前のソチ合意では、イランもイドリブ地域の第3の停戦保証国となっているにもかかわらず、ロシアとトルコの了解からは、蚊帳の外に置かれていた。


トルコとイランは多くの分野で協力関係を深めてきたが、シリアは例外で、イランはトルコの影響力拡大を阻止しようとし、トルコも同様にイランの勢力拡大を阻止しようとしてきた。

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そこまで読むのは深読みのし過ぎでしょうが、仮に米軍撤退に関するペンスとエルドアンの会談で、イランの勢力拡大阻止につき、両者間で何らかの了解があったとすれば、それがトランプが米軍撤退は大成功だと自賛した背景だったかもしれません。【10月25日 「中東の窓」】

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基本的に、シリアにおけるこのところのイランの活動は、制裁の影響でイラン経済が非常に厳しい状況にあるため、制約されています。

 

イランの代理人の立場にあるヒズボラも、自国レバノンが混とんとしてきましたので、シリアどころではないのでは?

 

****レバノン首相、辞任表明 反政府デモで「手詰まりに」****

大規模な反政府デモが続く中東レバノンで、ハリリ首相が29日、事態の収拾を図るために辞任する意向を表明した。高い失業率などに苦しむ市民の不満により拡大したデモは、首相の退陣にまで発展した。

 

レバノンでは今月17日にスマートフォンのアプリを使った無料通話への課税を政府が提案したことをきっかけに、ここ数年で最大規模の反政府デモが2週間近く続いていた。ハリリ氏は会見で、「事態の打開を探ってきたが、手詰まりになった。この危機を乗り越えるにはショックが必要だ」と述べ、大統領に辞任を申し出ることを表明した。

 

デモのきっかけは、スマホの対話型アプリ「ワッツアップ」などの無料音声通話で、1日0・2ドル(約22円)を徴収する課税を政府が提案したことだ。宗派を超えた抗議運動となり、全閣僚の辞職などを求める反政府デモに発展した。

 

レバノンには18の宗教・宗派があり、国会議席などを分け合って政治的安定を保っている。権力を握る政治エリートに腐敗が指摘される一方、一般の市民に負担を強いる課税案が出されたことで、若者を中心に不満が爆発したかたちだ。【10月30日 朝日】

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ヒズボラは政権を支持する立場で、反政府デモと衝突しています。ハリリ首相辞任となると、これからの政権をどうするのか、硬直的な宗派バランスもあって組閣に長期を要する政治事情があるだけに(反政府デモが問題にしているのは、そういう硬直的で機能しない統治システムでしょう)、今後が難しいところです。

 

こういう情勢では、シリアでの「空白」を埋めるべく、イランのプレゼンスが一気に拡大するという状況でもありません。

 

【シリア新憲法委のスタートに向けてロシア、トルコ、イランの協調対応】

そうした事情はありますが、シリアの新たな事態への対応について、ロシア・トルコとの協調はなされているようです。

 

****シリア新憲法委の協議進展に期待 イランなど3カ国外相会談*****

シリアの新憲法起草委員会が30日から国連欧州本部で始まるのを前に、シリア和平に深く関与してきたロシア、トルコ、イランの3カ国外相が29日、同本部のあるスイス西部ジュネーブで共同記者会見した。

 

イランのザリフ外相は「軍事的にではなく、政治的な解決策が必要だ」と述べ、アサド政権と反体制派との協議進展に期待を示した。

 

3外相は29日に会談したほか、和平協議を仲介し、起草委の立ち上げにも尽力した国連のペデルセン特使とも面会。ザリフ氏は「シリア国民に受け入れられるものでなければならない」と述べ、時間をかけて見守る重要性を指摘した。【10月30日 共同】

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なお、“シリアの新憲法起草委員会”については、下記のようにも。

 

****シリア憲法委、和平へ一歩 反体制派との対話注目 きょう初会合****

シリア内戦後の新憲法の草案を作るため、憲法委員会の初会合が30日、スイス・ジュネーブで開かれる。内戦終結に向けた重要なステップだ。

 

ロシアの支援を得たアサド政権の軍事的優位が確立する中、反体制派との対話がどう進むかが注目される。

 

シリア和平の調整を担うペダーセン国連シリア担当特使は28日の記者会見で、「シリア政府と反体制派の最初の政治的合意になる」と強調。初会合には国連欧州本部で150人の委員全員が集まることを明かした。

 

憲法委はアサド政権、反体制派、市民社会から50人ずつ選ばれた委員で構成。これまで公の場で直接顔を合わせたことのない政権と反体制派の代表が一堂に会する形だ。

 

国連は2012年6月からジュネーブを舞台に和平協議に取り組んできた。国連安全保障理事会は15年12月、新憲法の制定や自由で公正な選挙の実施を盛り込んだ決議を全会一致で採択。今回の憲法委はこの決議に基づいている。(後略)【10月30日 朝日】

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イラン  ロウハニ大統領はマクロン仲介を評価 サウジが対話路線に転換か

2019-10-03 22:36:34 | イラン

(最高指導者ハメネイ師は10月2日、イラン革命防衛隊司令官らと会談し、「米国による最大限の圧力政策は失敗した。イランは覇権主義体制に屈することはない」と強調し、「イランが望む結果に至るまで、断固として核合意の責務縮小を継続する」と語りました。【10月2日 ParsTodayより】」

 

【実現しなかったアメリカとの首脳会談】

イランをめぐる情勢。

 

アメリカ・トランプ大統領は、泥沼に引きずり込まれる恐れがある軍事的な対応には消極的で、あくまでも取引・交渉によって成果を求める姿勢で、そのためには軍事的緊張を高めるような圧力も・・・といったところです。

 

もちろん、圧力のつもりが、何らかの事情、あるいは不測の事態で実際の行使に至る・・・というのはよくある話ですが。

 

交渉の方は、核合意の強化・拡大を求めるトランプ大統領と制裁解除を求めるイランの溝が埋まっておらず、トランプ、ロウハニ両首脳が出席した国連総会での会談は結局実現しませんでした。

 

****「自分が拒否」米イラン双方主張 首脳会談巡り****

トランプ米大統領は27日、ツイッターで、米イラン首脳会談実現のためイランが制裁解除を求めたが「私はもちろん『ノー』と言った」と主張した。

 

一方、イランのロウハニ大統領は同日、英仏独3カ国首脳から米国との首脳会談に応じれば米国は制裁を全て解除するとの見通しを伝えられたが拒否したと述べ、食い違いを見せた。

 

両首脳が出席した国連総会に合わせ、ニューヨークで米イラン首脳会談の実現が期待されたが、実現しなかった理由を巡り双方が自ら拒否したと主張している。【9月28日 共同】

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一方、フランス・マクロン大統領は、自身を含めた三者電話会談を画策して動き回ったようですが、これも実現しませんでした。

 

****米仏イラン、3者電話会談に失敗 マクロン氏仲介、米誌報道****

米誌ニューヨーカー電子版は9月30日、フランスのマクロン大統領が24日夜、イランのロウハニ大統領とトランプ米大統領の3者電話会談の機会を設定したが、最終的にロウハニ師が応じなかったと報じた。

 

同誌によると、フランス側は

(1)イランの核開発を無期限に制限することに関する新たな協議入り

(2)イエメン内戦終結への協力と、ペルシャ湾航行の自由と安全をイランが約束

(3)米国が昨年再発動した対イラン制裁の解除

(4)米国がイラン産石油輸出の再開を容認

の4項目について、トランプ氏とロウハニ師による口頭での合意を取り付ける計画だった。【10月1日 共同】

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もっとも、イラン・ロウハニ大統領は、このフランス提案に前向きな姿勢を見せています。

 

*****イラン、仏仲介案ほぼ受け入れ可能 対米協議巡り=大統領*****

イランのロウハニ大統領は2日、国営テレビで生放送された閣議で、マクロン仏大統領がイランと米国に提示した仲介案はおおむね受け入れられるとの見方を示した。

ロウハニ氏は提案の一部は変更の必要があると指摘。計画ではイランが核兵器開発をしないことや、湾岸地域および航路の安全支援を求める一方、米政府には全ての制裁解除を要求しているが、イラン産原油の速やかな輸出再開も認められるべきとした。

ただロウハニ氏は、ニューヨークで先週開催された国連総会の合間に、米国から制裁に関する矛盾したメッセージを受け取ったため、交渉の可能性を損なったとした。

またトランプ米大統領が制裁強化について公言することは容認できないと指摘。一方で欧州勢はトランプ大統領に交渉する意向がある旨を非公式に伝えてきたとし、協議実現に向け模索し続けていると述べた。

ザリフ外相は国営イラン放送(IRIB)で、マクロン大統領の仲介案は「われわれの視点を含んでいない」と言及。「論点が明確な方法で提示されるまで、こうした交渉を続ける必要がある」とし、イランは核兵器の開発を推進しているわけではないと主張した。

一方、イランの最高指導者ハメネイ師の公式ウェブサイトによると、ハメネイ師はイスラム革命防衛隊の会合で、イランは「望ましい結果」に達するまでイラン核合意の履行を段階的に停止し続けていくと語った。【10月3日 ロイター】

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“イランは核兵器の開発を推進しているわけではない”というのは、穏健派のロウハニ大統領やザリフ外相の考えであるにしても、強硬派の革命防衛隊などが核開発の無期限制限に賛同するのか・・・?

 

仮に、マクロン大統領提案で交渉に入っても、イラン国内の合意形成ができるのか・・・・やや疑問も残ります。

イランの話でいつも結論となるように“最高指導者ハメネイ師の判断次第”というところでしょうか。

 

【サウジがイランとの対話路線に転換?】

上記のようなイランとアメリカ・欧州の間の話とは別に、かつてのアラブ対イスラエルの対立軸に代わって、いまや中東最大の対立軸となっているイラン・サウジアラビアの対立について、情勢が変わるかも・・・という動きも出ています。

 

イラン側の発表によれば、サウジアラビアが他の諸国の首脳を通じてロウハニ大統領にメッセージを送った・・・とのことです。

 

****イランの大統領宛てメッセージ巡る発表は不正確=サウジ高官****

サウジアラビアのジュベイル国務相(外交担当)は1日夜のツイッターへの投稿で、サウジが他国を通じてイランのロウハニ大統領にメッセージを送ったとするイラン側の発表は「正確ではない」と説明した。

イランの政府報道官は先月30日、サウジが他の諸国の首脳を通じてロウハニ大統領にメッセージを送ったと述べたが、具体的な内容には言及しなかった。

サウジは先月14日に起きた石油施設への攻撃にイランが関与したと非難している。

ジュベイル国務相は、イラン報道官の発言は「正確ではない」とし、「何が起きたかというと、友好国が事態の沈静化を図ろうとし、われわれは常に地域の安全保障と安定を目指すという自国の立場を彼らに伝えた」と説明した。

また「(緊張の)緩和は、敵対的行為を通じて地域における混乱を悪化・拡大させている当事国が働き掛けるべきだとも伝えた」と指摘。「イランの体制に関するサウジの姿勢を伝えた。われわれは最近では国連総会など、あらゆる場でこの見解を明確に表明している」と指摘した。【10月2日 ロイター】

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サウジ側は否定していますが、“火のない所に・・・”ということでいけば、サウジ側からの事態改善を求める何らかのアクションがあったのでは・・・とも推測されます。

 

“サウジは先月14日に起きた石油施設への攻撃にイランが関与したと非難している”とのことですが、あくまでも“関与”であって、イランの革命防衛隊が実行したとかいった、イランの直接的犯行を主張している訳でもありません。

 

こうしたサウジ側の対応は、事件直後から「イランだ!」と言いたてているアメリカに比べると、非常に抑制された慎重な対応に思えます。

 

大金をはたいて用意したミサイル防衛ステムが機能せず、国家の根幹である石油施設がかくも容易に攻撃にさらされたという事実を前にして、サウジとしても不用意にイランとの緊張を高め、武力衝突の危険を煽るようなことは躊躇されるのでは・・・といったことを以前のブログでも書いたことがあります。

 

あながち見当違いでもないかも。

 

****サウジがイランとの対話に転換か?イラク首相が仲介工作****

中東情勢に定評のある専門誌「ミドルイースト・アイ」によると、サウジアラビアはこのほど、軍事衝突も辞さないとしてきたイランとの関係を対話路線に方向転換した。イラクのマハディ首相が仲介した。

 

先月の石油施設への攻撃で、原油生産の半分が停止するという緊急事態を受けた決定だが、事実ならば、イランの「戦略的勝利」(アナリスト)と言えるだろう。

 

カショギ氏殺害事件から1年の重大決定

サウジアラビアの反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏がトルコ・イスタンブールの領事館で殺害されてから10月2日で1年。サウジの今回の歴史的な決定はその節目の直前に行われた。

 

同国を牛耳り、カショギ氏殺害を命じたと今なお批判されるムハンマド皇太子がこの決定に中心的な役割を果たしたのは疑いないところだろう。

 

同誌によると、イラク首相府のアッバス・ハスナウイ氏がマハディ首相の仲介工作を確認し、サウジとイラン当局者による会談場所としてバグダッドが検討されていることを明らかにした。

 

サウジはイランとの対話を開始する条件として、イランがイエメンなどでの活動を縮小し、サウジと戦争中のイエメンの反体制派フーシに対する支援を停止するよう求めている。

 

イラン側も同様に、条件を提示しているとされるが、具体的には明らかではない。

 

しかし、国営通信の報道によると、イラン政府スポークスマンは9月30日、サウジアラビアからロウハニ大統領に宛てたメッセージが一部の国の指導者を介して伝えられたと明らかにし、サウジが態度を変えるというなら歓迎する表明した。

 

アラブ専門家は「イラクを仲介にしたサウジとイランの秘密接触が始まっているのは間違いない。軌道に乗れば、ペルシャ湾情勢が激変するかもしれない。歴史的な動きだ」と指摘している。

 

同誌の報道に先立つ先週、イラクのマハディ首相がサウジアラビアのジッダを訪問し、ムハンマド皇太子と会談しており、この際にイランとの対話について話し合われたと見られている。

 

同誌はまた、米政府も今回の調停に賛同しており、イラク首相のファリハ・アルファヤド補佐官(安全保障担当)がこの問題を米側と話し合うため訪米中、とも伝えている。

 

ムハンマド皇太子は先月末に放映された米CBSテレビとのインタビューで「政治的な平和解決の方が軍事的な解決よりもはるかに良い」と述べ、イランとの対話路線に転換したことを示唆。これにイランのラリジャニ国会議長が歓迎する意向を示していた。

 

奏功したイランの“軍事的賭け”

サウジアラビア政府がイランとの対話路線に踏み切ったとすれば、それはイランの“軍事的賭け”が奏功したことを意味するものだ。

 

先月14日のサウジの石油施設への攻撃はイエメンのフーシが実行声明を出して成果を誇った。だが、高性能の無人機と巡航ミサイルの組み合わせによる精緻な攻撃をフーシの仕業とするには無理がある。

 

「イランの犯行」(ポンペオ国務長官)とまではいかなくても「イランに責任がある」(英仏独共同声明)可能性が強い。同誌はイランの支援を受けたイラクの民兵組織による攻撃と報じているが、「イラン革命防衛隊から援助を受けた武装勢力の攻撃という可能性が最も高い」(ベイルート筋)だろう。

 

イランの最高指導者ハメネイ師やロウハニ大統領ら指導部が関与していたかどうかは別にして、この“軍事的賭け”により、アブカイクにある世界最大級の石油処理施設が損傷を受け、サウジの石油生産の半分が停止してしまった。

 

石油価格が急上昇して世界経済が動揺すると同時に、米国製のパトリオット迎撃システムによって守られていたサウジ防空網の脆弱ぶりが白日の下にさらされることになった。

 

サルマン国王やムハンマド皇太子らサウジの指導層の衝撃は想像に難くない。イランと軍事対決することの意味を心底思い知らされたことだろう。

 

つまり、ペルシャ湾での戦争に勝者はなく、イランが主張するように「イランにちょっかいを出せば、ペルシャ湾全体の戦争になる」(ザリフ外相)ことをまざまざと見せつけられたからだ。

 

「いたずらに軍事的な緊張を高めるのは得策ではない。和解する必要もないが、対話路線を模索する方向に舵を切ったとイランに思わせた方がいい」(ベイルート筋)。サウジの指導層がこのように考えても不思議ではない。

 

その背景に対米不信感が芽生え始めていることも指摘できるのではないか。

 

米軍基地壊滅を想定した訓練に何を見たか

米軍は9月29日、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する空爆など中東・北アフリカ・西南アジア地域の空軍指揮管制センターとなってきたカタールのアルウベイド基地を24時間閉鎖し、サウスカロライナ州の基地にその機能を一時的に移管する訓練を実施した。アルウベイド基地が指揮管制センターになってから初めての措置だ。

 

なぜこうした訓練が必要になったのか。それはイランとの戦争が勃発し、同基地がイランの弾道ミサイルの攻撃を受けて壊滅状態になったケースに備えてのものだった。

 

逆に言うと、米軍はイランのミサイル攻撃を完全に阻止できない現実を明らかにしたといえる。それはまた、サウジアラビアなどペルシャ湾の同盟国を完全に防衛できないことを示すことにもなった。サウジやアラブ首長国連邦(UAE)の指導者はこの訓練をどう見たのだろうか。

 

もう1つ、指導者らの気持ちに影を落とした出来事がある。国連総会が開かれていた先月24日の夜、ニューヨークでのことだ。

 

マクロン仏大統領の仲介で、トランプ大統領がロウハニ大統領と電話会談の場を設定したが、ロウハニ大統領が応じなかったという報道である。

 

ペルシャ湾岸の指導者らにとってみれば、米国の尻馬に乗ってイランと敵対してきたが、その梯子をいきなり外されかねないことを見せつけられる形になったと言えるだろう。

 

フーシとの戦争が一段と泥沼化してきたこともサウジの方針転換の一因だ。フーシが先月末の戦闘でサウジ軍兵士「2000人」を拘束したと発表したように、サウジが仕掛けたイエメン戦争はうまくいっていないどころか、大きな荷物になってしまった。

 

カショギ氏殺害事件で、サウジへの投資から撤退した多数の欧米企業が近く開かれる「砂漠のダボス会議」に復帰する見通しで、ムハンマド皇太子としては一日も早く、会議を成功させて経済発展の計画を加速させたいところだ。

 

イランとの軍事的対決が続けば、これも不可能になる恐れがある。サウジには、イランとの対話路線に転換しなければならない多くの差し迫った理由がある。【10月3日 WEDGE】

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実際のところはわかりませんが、“いたずらに軍事的な緊張を高めるのは得策ではない”とサウジ側が考えたとしても不思議ではありません。

 

特に、ムハンマド皇太子は今回の石油施設攻撃で、これまでの強硬路線がこうした事態を招いたと国内的に批判を受けているとの報道もあります。

 

****サウジのムハンマド皇太子、石油施設攻撃で王族内部からも批判****

9月14日に石油施設2カ所が攻撃を受けた後、サウジアラビアの王族や財界エリートの一部からムハンマド・ビン・サルマン皇太子(34)に対する不満が噴出している。

1人の上級外交筋や、王族や財界エリートとつながりのある5人の消息筋によると、国防相を兼任する皇太子が攻撃を防げなかったことで、サウド王家の一部有力王族から皇太子の国防手腕や政治能力への懸念が高まっている。皇太子が権力の掌握に向けて厳し過ぎる締め付けを進めてきたことも反発を招いているという。

王家とつながりのある上流階級の1人は、皇太子の統率力について「反感が多い」と吐露。「どうして今回の攻撃を察知できなかったのか」と不満をあらわにした。

この関係者は、上流階級の一部は皇太子を「信頼していない」と言っているとも付け加えた。他の消息筋4人と上級外交筋も同様の見方を示した。

王家やビジネス界とつながる関係者4人によると、皇太子のイランに対する強硬姿勢やイエメン内戦への関与が攻撃を招いたとの批判が国内の一部で出ている。先の5人の消息筋と上級外交筋によると、多額の国防費を使っていながら攻撃を防ぐことができなかった皇太子に対して失望が広がっているという。

サウジのエリート層の一部では、皇太子が権力基盤を固めようとしていることが国に害を及ぼしているとの見方もある。政府に近い関係者の1人は、皇太子は前任者よりも経験のない人材を抜擢していると指摘した。

ただ、皇太子は依然として厚い支持を受けてもいる。皇太子に忠誠を誓うグループの1人は「今回の石油施設攻撃で、皇太子が最有力王位継承者としての立場に個人的に打撃を被ることはない。皇太子は中東地域でのイランの勢力拡大を阻止しようとしているからだ。これは国を愛することに関わる問題であり、少なくとも父親である現国王が生きている限り皇太子が危険な状況に陥ることはない」と述べた。

別の上位の外交筋も、一般的なサウジ国民は今でも、強力で決断力と行動力を備えた指導者として皇太子の下での団結を望んでいると述べた。【10月3日 ロイター】

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もっとも、秘密主義のサウジアラビアの、しかも王室内部の権力闘争的な話となると、北朝鮮と同じぐらいわからないことが多く、一部の報道をうのみにすることもできません。

 

まあ、カショギ氏殺害事件、イエメンの泥沼化、石油施設攻撃・・・と、失態続きのムハンマド皇太子が、改革路線を維持するためにも、なんらかの目に見える成果を求めているというのは、ありうる話かも。

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