孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  与党は極右にダブルスコア敗北 マクロン大統領の解散総選挙という「賭け」の背景

2024-06-11 22:38:56 | 欧州情勢

(第二次世界大戦の記念式典に参加するマクロン仏大統領=仏中部チュールで2024年6月10日、ロイター【6月10日 毎日】)

【予想どおりの右派・極右伸長 ただ、親EU派は過半数確保】
注目された欧州議会選挙は、予想されていたように「反EU」や「反移民」を掲げる右派・極右勢力が伸長しましたが、想定内の数字でもあり、親EU派全体では過半数を確保するということで、“劇的な変化”は避けられたようです。

右派・極右勢力が伸長した背景としては、ロシアによるウクライナ侵攻で、欧州では食料やエネルギー価格が上昇、更に、住宅の高騰もあって市民生活が圧迫されていること、また、移民・難民の流入規模は約10年前の「欧州難民危機」に並ぶ水準にまで達しており、各国の右派・極右勢力の「自国民を優先すべきだ」という主張が有権者の共感を得たことがあります。

****極右伸長、リベラル後退 親EU派が過半数確保―欧州議会選****
欧州連合(EU)欧州議会選挙(定数720)の大勢が10日、判明した。暫定集計結果によると、「反EU」や「反移民」を掲げる極右・右派が勢力を拡大し、ロイター通信によれば、計146議席程度を獲得するもよう。

欧州統合推進勢力のうちリベラル派は後退したが、中道右派・中道左派の主流2会派を中心とする親EU派全体では過半数を確保する見込みだ。

欧州委員長、続投に不安要素 親EU派過半数も極右伸長
親EUの中道右派「欧州人民党(EPP)」(ドイツ・キリスト教民主同盟、フォンデアライエン委員長など)は185議席(改選前176議席)と、事前予想を上回り、最大会派の座を維持する公算となった。同じく親EUで中道左派「欧州社会民主進歩同盟(S&D)」(ドイツ・社会民主党、ショルツ首相など)は137議席(同139議席)になる見通し。

極右会派「アイデンティティーと民主主義(ID)」(フランス・国民連合、ルペン氏など)は58議席(同49議席)、右派「欧州保守改革(ECR)」(イタリア・イタリアの同胞、メローニ首相など)は73議席(同69議席)にそれぞれ伸長。IDが選挙2週間前に除籍したドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」も、6議席前後増やすとみられている。

極右・右派の勢力拡大で割を食ったのは、2019年の前回選挙で主流派の受け皿となった親EUのリベラル派や環境派だ。暫定結果によると、中道リベラル会派「欧州刷新」(フランス・再生、マクロン大統領など)は79議席(同102議席)、「緑の党・欧州自由連盟」は52議席(同72議席)に後退する。

特に欧州刷新は、中核を担うフランスのマクロン政権の与党連合が極右政党「国民連合」に大敗。マクロン大統領は自国の国民議会(下院)解散・総選挙を表明した。

欧州議会選は6~9日に加盟各国で投票が行われた。暫定投票率は51%で、前回選挙の50.66%並みだった。【6月11日 時事】
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右派・極右の伸長はありましたが、親EUの中道右派「欧州人民党(EPP)」が善戦して最大会派を維持したこと、親EU派全体では過半数を確保することで、フォンデアライエン欧州委員長続投の可能性も(未だ不透明ながらも)強まっています。

****欧州委委員長が続投へ「支持固め」開始、右派躍進の欧州議会選踏まえ****
欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、右派勢力が躍進した欧州議会選の結果を踏まえ、早速2期目の続投を視野に「支持固め」へ動き始めている。

欧州議会選では、フォンデアライエン氏を支えてきた中道系の親EU会派が過半数を維持したものの、議席数は減少。このため同氏が欧州議会で続投を確実に承認してもらうには、より幅広い勢力に働きかけて安定的な多数派を形成する必要がある。

こうした中でフォンデアライエン氏は、緑の党や、右派ながらこれまで緊密な関係を保ってきたイタリアのメローニ首相が率いる会派などとの連携を模索するかもしれない。

ただ中道左派の「欧州社会民主進歩同盟(S&D)」、中道リベラルの「欧州刷新」、緑の党はいずれも極右と手を組むことを拒否しており、フォンデアライエン氏にとって政治的な調整は極めて難しくなりそうだ。

一方、フォンデアライエン氏の続投には、EU諸国首脳の後押しも欠かせない。

2人の関係者がロイターに明かしたところでは、フランスのマクロン大統領はフォンデアライエン氏の続投支持に傾きつつある。欧州議会選で与党が敗北したとはいえ、マクロン氏の存在感は欧州首脳間において依然として大きい。

ドイツのショルツ首相は、フォンデアライエン氏の続投支持を公表していないが、同国も支持に回るとの見方が広がっている。ショルツ氏は10日、EU首脳ポストは早急に決定するのが望ましいとの見解を示した。

これに対してイタリアのメローニ氏は、フォンデアライエン氏の続投を決めるのはまだ尚早だとくぎを刺し、自身が影響力を行使する余地を残そうとする気配が見受けられた。【6月11日 ロイター】
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【今後のEU政治のカギを握るイタリア・メローニ首相】
フォンデアライエン氏の続投については、今回選挙で勝利したイタリア・極右のメローニ首相の意向がカギとなりそうです。

****イタリア:首相の人気投票に****
イタリアではジョルジャ・メローニ首相が、国内政治での支配力を確実なものにした。

極右政党「イタリアの同胞」を率いるメローニ氏は、投票用紙の同党の欄の一番上に自身の名前を記載。今回の選挙を利用して、自らの人気上昇を狙った。そのギャンブルは結果的に成功。得票率は29%に上り、2022年総選挙での同党の得票を上回った。

ただ、成功を収めたのは同党だけではない。中道左派の野党「民主党(PD)」も期待されていた以上の健闘をみせ、得票率は2014年以降で最も高い24%に達したのだ。(後略)【6月11日 BBC】
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【各国の様々な結果】
一方、ドイツでは、最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が大勝し、難民排斥を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が2位に。ショルツ首相の社会民主党(SPD)や環境保護政党「緑の党」などの連立与党は敗北しました。

****ドイツ:連立政権が敗北も解散総選挙はなし****
ドイツの3党連立政権にとっては残念な結果となった。だがオラフ・ショルツ首相は、マクロン仏大統領のように総選挙を求めることはしないとしている。

「社会民主党(SPD)」、「緑の党」、リベラル派の政党による連立は、前々から危ういものだった。ロシアがウクライナを侵攻すると、ドイツは経済およびエネルギー面でロシアと関係を断ち、かつての平和主義的な感情は国民の間から無くなった。

こうした状況が、一部のコアな与党支持者の熱を奪い、政党間の亀裂を生み、全体的に有権者を動揺させた。移民の急増も地方議会の財源を圧迫した。

政府は軍事費を増やし、安価なロシア産エネルギーからの脱却に成功した。だが、財政は行き詰まっている。

そこに、平和と繁栄を早期に取り戻すと約束する、ポピュリストの極右と極左が割って入った。「プーチン(ロシア大統領)と交渉し、ロシアのガスをまた買おう」。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」はそう訴えた。

結果、今回の選挙で「AfD」は得票率15.9%で国内2位となり、ショルツ氏のSPDは同13.9%で3位だった。トップは同30%の保守政党「キリスト教民主同盟(CDU)」だった。

「私たちは戦争を終わらせたい。ウクライナへの武器提供をやめ、移民が来るのを止めろ」。元共産主義者で扇動的な政治家ザーラ・ヴァーゲンクネヒト氏が率いる、ポピュリストの極左新党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)」はそう主張する。

国内の有権者や政治家のほとんどは、ロシアや移民への対処が簡単ではないと考えている。半数以上はウクライナを支持している。しかし、不安と不確実性の時代には、単純なメッセージのほうが魅力的だ。【6月11日 BBC】
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ハンガリーではオルバン首相の与党に対抗して3カ月前に設立されたばかりの中道右派の政党「ティサ」が大健闘、オーストリアでは極右の「自由党」がトップに、スペインではサンチェス首相率いる中道左派が勝利・・・と、子国ごとに見ると、各国事情を反映して様々な結果に。

【フランス・マクロン大統領の「危険な賭け」】
そのなかで注目されているのはフランス。予想されていたようにマクロン与党は大敗し、極右「国民連合」が躍進しましたが、この結果を受けてマクロン大統領は下院を解散して総選挙に打って出るという「賭け」にチャレンジ。

****極右旋風に追い込まれた仏大統領、議会解散で危険な賭け パリ五輪前に政局混迷****
フランスのマクロン大統領は9日、欧州連合(EU)欧州議会選での与党大敗を受けて国民議会(下院)解散を宣言した。

厳しい移民規制を訴える極右「国民連合」の躍進に押され、大統領は政権基盤立て直しに向けて危険な賭けに出た。7月26日のパリ五輪開幕を前に、政局は一気に流動化した。

大統領はテレビ演説で、政治の安定を取り戻すため「フランスには明確な多数派が必要だ」と有権者に訴えた。下院選は6月30日に第1回投票、7月7日に決戦投票が行われる。

仏公共放送の推計によると、欧州議会選で国民連合の得票率は32%。フランスで1勢力の得票率が30%を超えたのは、1979年に欧州議会選が始まって以降2度目で、歴史的な快挙となった。マクロン氏の与党連合の得票率は15%で、ダブルスコアの差をつけられた。

国民連合は移民強硬策が看板。子育て支援など社会保障手当支給で国民と移民の間に格差を設けるよう主張し、フランス生まれの移民2世への国籍付与は制限せよと訴えている。

28歳の若さのバルデラ党首の人気もあって、今回の欧州議会選はマクロン政権に対する信任投票の様相を帯びた。推計投票率は51〜53%で、過去25年間の欧州議会選では最高になる見通し。

フランスで58年に現在の大統領制が始まって以降、大統領が下院を解散するのは6度目となる。前回は97年だった。このときの下院選で当時のシラク大統領の中道右派与党は惨敗した。大統領は左派のジョスパン首相とのコアビタシオン(保革共存政権)を迫られ、政局運営の手を縛られた。

マクロン大統領は22年の大統領選で勝利し、2期目に入った。だが、この年の下院選で与党は議席の過半数を割り込んだ。政府は予算などの重要法案を可決させるため、20回以上、憲法で認められた強権の発動を余儀なくされた。【6月10日 産経】
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****マクロン仏大統領、国民議会解散で「大きな賭け」…「極右」国民連合に過半数明け渡しのリスクも****
(中略)
フランスで大統領が下院解散に踏み切ったのは1997年のシラク大統領(当時)以来だ。電撃解散には、マクロン氏の残り任期が3年を切る中、対立構図を改めて鮮明にして局面打開を図る意図も指摘されている。
 
ただ、マクロン政権に対する支持は長期低迷しており、短期間での立て直しは容易ではない。
 
マクロン政権は、2期目始動後の2022年6月に行われた国民議会選で与党の過半数を失った。各種世論調査でマクロン政権の支持率は20%台が続いている。

27年春の次期大統領選に向けて4月にフィガロが報じた世論調査結果では、RNを実質的に率い、マクロン氏と2度大統領選で決選投票を戦ったマリーヌ・ルペン氏の支持率がマクロン氏の中道勢力の有力者を上回った。マクロン氏は憲法上の規定で出馬できない。

RNは元々、欧州議会選で勝利した場合、国民議会を解散するようマクロン氏に迫っていた。ルペン氏は9日、「準備はできている」と述べた。仏紙「レゼコー」(電子版)は9日、「マクロン氏が勝利する可能性は低い」と分析し「RNが過半数を得るリスクを背負っている」と評した。【6月10日 読売】
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【思い付きではなく、熟慮したうえでの決断・・・ではあるものの・・・】
「危険な賭け」「大きな賭け」と評されていますが、マクロン大統領は選挙結果を受けて急遽思い立ったのではなく。敗北は事前に予想されているなかで、長い期間熟慮した結果としての選択でしょう。

今回ダブルスコアで負けたのに勝算があるのか?・・・という点では、マクロン大統領が期待するのは「決選投票」制度というフランスの選挙制度です。そこで国民の「反極右」感情が国民連合躍進を阻止することへの期待があるのでしょう。

****フランスの国民議会選挙について****
フランスの議会下院にあたる国民議会は定数が577議席ですべてが小選挙区となっていて、選挙は、場合によって2回にわたって投票が行われる仕組みになっています。

1回目の投票では、過半数を得票し、かつ有権者の4分の1以上の票を獲得した候補者が当選します。1回目の投票で、当選した候補者がいない場合は1週間後に決選投票が行われます。

決選投票では、1回目の投票の上位2人と、1回目の投票で有権者の12.5%以上の票を獲得した候補者が進み、最も多くの票を獲得した候補者が当選することになります。

前回・2022年の選挙では1回目の投票で当選した候補者は5人だけで99%は決選投票で決まっています。

そして前回の決選投票での全体の得票率をみるとマクロン大統領の与党連合や、左派連合などは1回目の投票に比べて上がったのに対し、極右政党の「国民連合」は1回目の投票に比べやや下げています。

この決選投票では、「国民連合」よりそれ以外の政党の候補者にやや有利だった傾向がうかがえます。

現在の国民議会では、マクロン大統領の与党会派が250議席で過半数の289議席に届かず少数与党になっています。また「国民連合」は88議席となっています。【6月10日 NHK】
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実際、これまでの大統領選挙などでは、決選投票で候補者が絞られると、極右への抵抗感から極右候補は伸び悩み、対抗候補に票が集まり、極右候補は敗退することが多々ありました。マクロン大統領としてはその再現を狙っているのでしょう。

また、そうした中で左派勢力の穏健派を急進派から引き離して、中道勢力との連携にへ取り込もうという狙いも。

更に、「有権者が(欧州議会選の)選択の衝撃におそれをなし、投票行動を国民議会選で修正することを計算している」との見方も。

しかし国民連合(RN)が掲げる「反移民」は、かつては人種差別的ともみなされていましたが、今では社会全体に見られる「普通」の声にもなっています。 右傾化した社会全体と極右政党の垣根は非常に低くなっています。

また、国民連合も「反移民」などを除くと、国民受けのするポピュリズム的主張をしており、マリーヌ・ルペン氏が進めてきた脱極右イメージが一定に奏功しています。

そうした状況で、これまでのように「反極右」で乗り切れるか・・・非常に「危うい賭け」でもあります。

【マクロン大統領にとって「本丸」は次期大統領選挙】
現状での予測は・・・

****仏総選挙、極右優勢も過半数届かない公算 与党連合半減か=世論調査****
欧州議会選挙でフランス与党勢力が極右政党に大敗したことを受けマクロン仏大統領が国民議会(下院、定数577)の解散総選挙を急きょ決めたが、10日に公表された総選挙発表後初の世論調査ではマリーヌ・ルペン氏の極右「国民連合(RN)」の勝利が予想されている。ただ、過半数には届かない見通しだ。

トルナ・ハリス・インタラクティブがシャランジュ、M6、RTL向けに行った調査によると、EU懐疑派で反移民を掲げるRNは235─265議席を獲得し、現在の88から大きく躍進するものの、過半数の289は下回るとみられる。

一方、マクロン氏の中道連合は125─155議席と、現在の250から半減する可能性がある。左派政党は合わせて115─145議席となる見通し。

RNが政権を獲得するかどうかは定かでなく、主要政党による幅広い連立や、完全なハングパーラメント(宙づり議会)というシナリオもある。

RNが過半数を獲得しても、マクロン氏は大統領にとどまり、国防・外交政策を担う。ただ、経済や財政など国内政策の決定権を失い、そうなれば議会の予算承認が必要なウクライナ支援など他の政策にも影響が及ぶことになる。

解散総選挙の決定を受け、フランスの株式と国債が売られたほか、通貨ユーロも下落するなど影響が広がった。

大統領に近い関係者は、2年前に議会で絶対多数を失って影響力が低下していたマクロン氏にとっては、サプライズと言える総選挙に踏み切ることで議会で過半数を回復できるとの計算があると指摘した。

しかし、RNが過半数を獲得すれば政権運営が今後3年機能不全を起こし、2027年大統領選への逆風となるとの見方も出ている。

ルメール経済・財務相はRTLラジオで、解散総選挙は「フランスとフランス国民にとって第5共和制以降で、最も重要な議会選挙となる」と述べた。【6月11日 ロイター】
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マクロン大統領しては、前述のように単なる思い付きではなく熟慮した結果としての戦略ですので、当然にRN(国民連合)が過半数を得た場合、主要政党による幅広い連立で政権担当する場合、政権運営が今後3年機能不全を起こす混乱・・・なども考慮しての決断でしょう。

いずれにしても、マクロン大統領にとっては総選挙結果がどうなろうと、「本丸」は今度の総選挙ではなく次期大統領選挙です。ここで手をうたないと極右ルペン大統領実現が現実味を増す・・・どうやって極右ルペン大統領実現を阻止するかです。そこを見据えての決断がどういう展開を生むのか・・・。

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ウクライナ  欧米は自国供与兵器でのロ領内攻撃容認 核使用を含めたロ・米・仏の“腹の探り合い”

2024-06-10 22:45:30 | 欧州情勢

(【6月9日 SPUTNIK】 フランスがウクライナへの供与を発表した第四世代戦闘機「ミラージュ2000」 核搭載が可能で、アメリカのF-16戦闘機に近い性能を持つとされています。)

【ロシア軍のハルキウ州侵攻は勢いが止まる】
ウクライナは依然としてロシアの激しい攻撃にさらされています。
特に発電施設などインフラへの攻撃で、電力はほとんど(攻撃を受けにくい)原子力発電頼みの状態にもなっています。

****露攻撃で電力供給能力4割以下、キーウでは1日4時間しか電気使えない地域も…英紙報道****
英紙フィナンシャル・タイムズは5日、ウクライナを侵略するロシア軍による発電所などへの攻撃で、ウクライナの電力供給能力が2022年の侵略開始前の4割以下に落ち込んだと報じた。首都キーウで計画停電を迫られ、市民生活に大きな影響が出ている。

同紙によると、従来は欧州最大規模の約55ギガ・ワットあったウクライナの発電能力は現在、20ギガ・ワット以下に低下した。露軍は今年春以降、発電所への攻撃を強め、5月31日〜6月1日の攻撃では南部ザポリージャ州にある同国最大の水力発電所が稼働を停止した。

5月以降、各地で計画停電が頻繁に行われている。ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」などによると、キーウでも1日約4時間しか電気が使えない地域があり、市民は小型の発電機に頼った生活を送っている。【6月8日 読売】
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5月からのロシア軍の北東部ハリコフ州(ウクライナ語名では“ハルキウ”)への侵攻によって犠牲者も増加しています。

****ウクライナ民間人死者、5月は174人 約1年ぶりの多さ=国連****
国連人権高等弁務官事務所によると、5月のウクライナ民間人の死者数は174人と、4月から31%急増し、2023年6月以来で最多となった。北東部ハリコフ周辺の人口密集地域でミサイルや爆弾による攻撃が増加したことが背景にある。

ロシアは5月に国境に接するハリコフ州への地上侵攻を開始。攻撃はここ数週間で激化している。5月25日には大型商業施設がロシア軍の誘導爆弾2発で攻撃され、少なくとも14人が死亡し、数十人が負傷した。

国連ウクライナ人権監視団を率いるダニエル・ベル氏は、ハリコフのショッピングセンターなどへの攻撃について、「日常的な行動でさえ、命の喪失につながりかねないという民間人の極めて脆弱な状況を浮き彫りにした」と述べた。

ロシアとウクライナはともに、軍事攻撃において民間人は標的にしていないと主張している【6月8日 ロイター】
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ただ、ひと頃のロシア軍の攻勢、ウクライナ側の劣勢(それは今でも同じですが)という状況は、欧米の支援を受けるウクライナ側の抵抗で(後述の欧米供与兵器によるロシア領内攻撃容認も影響していると思われます。)幾分押しとどめられているというか、ロシアも動きが鈍ったようにもなっています。

****ウクライナ軍、ハリコフ州ボフチャンスクで徐々に戦況改善 市中心部を奪還か****
ウクライナ軍参謀本部は3日、ロシア軍による東部ハリコフ州への越境攻撃で攻防が焦点化している小都市ボフチャンスク市内で戦闘が続いていると発表した。

これに先立つ2日、ウクライナ軍のボロシン報道官は「ウクライナ軍がボフチャンスクの7割を確保している」と説明。1週間前にはウクライナ軍の確保地域は約5割だったとされ、同国軍が徐々に戦況を改善していることを示唆した。(後略)【6月4日 産経】
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****ロシア軍のハルキウ攻勢「止まった」 米大統領補佐官****
米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は9日、ウクライナ東部ハルキウ州でロシア軍の進撃が「止まった」との認識を示した。米政権はウクライナに対し、供与した武器をロシア国内への攻撃に使用することを一部解禁していた。

サリバン氏はCBSテレビに対し、「(ロシア軍の)ハルキウにおける作戦の勢いが止まった」と指摘。「ハルキウはなお危険な状況にあるが、ロシアはここ数日、同地で有用な進捗(しんちょく)を遂げられていない」と語った。

米政権は先に、ロシア国境に接するハルキウ州の防衛に向け、米国が供与した兵器をロシアに向けて使用することを容認した。これまでは、そうした攻撃は北大西洋条約機構をロシアとの直接戦争に引きずり込む恐れがあるとして認めてこなかった。

サリバン氏は「米大統領からすればこれは当然のことだ」とし、「自分たちを攻撃してくる重火器や砲台に対する国境を越えての攻撃をウクライナに認めないのは筋が通らない」と述べた。 【6月10日 AFP】
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【欧米の供与兵器ロシア領内使用容認にプーチン大統領反発 核のエスカレーションも】
こうしたウクライナ・ロシアの両者によるリング上で足を止めての“力比べ”状態の今後を左右する可能性があるのが、アメリカなどがウクライナへ供与した武器をロシア国内への攻撃に使用することを一部解禁したことです。

もともとウクライナの戦争は“ロシア対アメリカなどNATOの対決”という側面がありましたが、その色彩が一段と強まり、ロシアと欧米が互いを牽制しあう状況も強まっています。

****アメリカ兵器でのロシア領内攻撃容認、プーチンの「最大最後の一線」を越えた?****
<アメリカがロシア領内への攻撃をウクライナに認めた今、プーチンは本気でNATOに攻撃を仕掛けるつもりか、あるいはアメリカと同じくエスカレーションを恐れているのか、腹の読み合いが続く>

アメリカはついにウクライナに対し、アメリカが供与した武器で、ロシア領内を攻撃することを認めた。ウラジーミル・プーチンが引いた最後の一線(エスカレーションへのレッドライン)を越えることを意味するバイデン政権の新方針は、今後の戦況にどのような影響を与えるだろうか。 

ロシア軍は5月半ばからウクライナ北東部の都市ハルキウに対して激しい攻撃を仕掛けており、ウクライナ軍はハルキウ周辺を標的にするロシアのミサイル攻撃を防ぐことができずにいる。そのためウクライナ政府は、ロシア軍の攻撃の拠点があるロシア領内も欧米の兵器で直接攻撃させて欲しいと要求してきた。 

アントニー・ブリンケン米国務長官は、アメリカはこの戦争に「適応し、調整しなければならない」とコメントしたが、これはウクライナへの軍事援助をさらに段階的に増やすという姿勢を反映している。 

アメリカの武器支援は対戦車ミサイル「ジャベリン」や対空ミサイル「スティンガー」からロケット砲の「ハイマース」、M1エイブラムス戦車へと次第に強力さを増し、ウクライナにとって垂涎のF16戦闘機も準備中だ。ただしそれでも、陸軍戦術ミサイル(ATACMS)の長射程版を含む長距離攻撃兵器の供与は検討されてこなかった。(注:ATACMSについては、バイデン大統領は4月に、2月時点で供与を密かに決定し、すでに供与が始まっていることが明らかにしています。)

これは、ウクライナ軍がロシア領内を直接攻撃することにより、戦火が拡大することをバイデン政権が警戒したからだ。 

核攻撃も示唆
ロシア政府はウクライナ戦争をロシアとNATOの代理戦争とみなしており、この戦争で越えてはならない一線について言及している。国家存亡の危機に至った場合は、核兵器を使うことさえ示唆している。それがどういう場合なのか具体的には示されていないため、どこがレッドラインになるかははっきりしない。 

プーチンはウクライナを支援した西側諸国に罰を与えると宣言したが、それを軍事的に実行するには至っていない。だが、5月に核兵器訓練を行うと発表したことを考えると、今後はどうなるかわからない。(中略)

ロシアが匂わせる報復
ロシア外務省は5月、イギリスがウクライナに供与した兵器がロシア国内への攻撃に使用されれば、ロシアはウクライナ国内外のイギリスの軍事関連施設に対する攻撃で報復する、と述べた。

アメリカの外交政策における平和と外交を重視するアイゼンハワー・メディア・ネットワーク(EMN)のアソシエイト・ディレクター、マシュー・ホーは、ロシアのこの脅しはアメリカが供与した武器にも当てはまると述べた。(中略)

すでに「一線」は越えている?
2023年10月、ロシアの独立系メディアAgentstvoによるロシア政府のメッセージの分析で、ロシア当局は同年9月、西側諸国とウクライナへの脅しとして「越えてはならない一線」や「意思決定中枢への攻撃」というフレーズの使用を実質的に止めたことがわかった。 

セキュリティ会社グローバル・ガーディアンの主任情報アナリスト、ゼブ・フェイントゥッチは、2014年以来ロシアが占領しているクリミア半島の重要軍事拠点をウクライナが繰り返し攻撃して大きな損害を与えていることを指摘。「プーチンがクリミアを正式なロシア領とみなしていることからすれば、プーチンにとってはすでに一線を越えている」と述べた。 

「同様に、ウクライナと国境を接するロシアの都市ベルゴロドやブリャンスク、クルスクなどの軍事施設も攻撃されているが、ロシアは何もできていない」 

フェイントゥッチは、NATO各地で原因不明の火災が相次ぎ、ロシアの関与が非難されていることは、ロシアがどのような破壊工作を用意しているかを示している、と述べた。(後略)【6月5日 Newsweek】
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プーチン大統領はアメリカなどの関与強化に怒っていますが、最後は戦術核兵器の使用も辞さない・・・という恫喝です。

****核使用の可能性「軽く見ないほうがいい」とプーチン、西側の「掟破り」に激怒****
<アメリカを含む複数国が、ウクライナに供与した武器によるロシア領内への攻撃を許可。プーチン大統領は、ロシアも「西側の敵」に武器を提供すると警告した>

ロシアのプーチン大統領は6月5日、外国の記者団に対し、西側諸国がウクライナに武器を供与し、アメリカを含む複数国がロシア領内への攻撃を許可したことを批判。ならばロシアも自国の武器を西側の敵に提供すると警告した。

アメリカがこれまでウクライナに行った軍事支援は約510億ドルに上る。5月下旬にはそれまでの方針を転換し、ウクライナ東部ハルキウ(ハリコフ)周辺の国境地帯に限ってロシア領内への米国製の武器使用を認めた。

一方でアメリカはウクライナに長距離攻撃が可能な陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)の使用は許可していない。

アメリカの方針転換を受け、ロシアのメドベージェフ前大統領は「アメリカとその同盟国に、第三国がロシア製武器を使う直接的な影響を分からせてやろう」「アメリカを敵とする国は、われわれの仲間だ」と発言。

プーチンはまた、西側はロシアが核兵器を使う可能性を「軽く見ないほうがいい」とも警告した。【6月10日 Newsweek】
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【フランス・マクロン大統領 ミラージュ2000供与でウクライナの核報復を可能にする動き?】
「軽く見ないほうがいい」とは言ったものの、また、実際にベラルーシにも戦術核を配備していますが、さりとて核使用がロシアにとっても破滅的な結果をもたらすことは十二分に承知していますので、いたずらにエスカレーションしないようにブレーキもかけつつ・・・といったところ。

****核兵器使用の必要性「否定」 プーチン氏、侵攻前線で****
ロシアのプーチン大統領は7日、ウクライナでの戦況はロシアにとって核兵器の使用が必要な状況には至っていないとの認識を示した。ウクライナを軍事支援する北大西洋条約機構(NATO)諸国を巻き込んだ核戦争に発展しないことを望んでいるとも述べ、核使用に慎重な姿勢をみせた。

プーチン氏は5日の各国通信社代表との会見で、国家の存続が脅かされる場合には核使用の可能性があると主張していた。7日の発言には、核使用の可能性を限定することで欧米との緊張を緩和し、「核の脅し」との対ロ批判をかわす狙いがあるとみられる。

ロシア北西部サンクトペテルブルクでの国際経済フォーラム全体会合でプーチン氏は、前線で核兵器を使用すれば進軍の速度が上がる可能性はあるとする一方、「前線にいるロシア兵の命と健康のほうが大切だ」と強調。軍事ドクトリンが核使用を容認している国家主権や領土の一体性維持が危ぶまれる状況にはないとの見方を示した。【6月8日 共同】
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一方、欧米側の対応は・・・。
アメリカは戦術核供与をしないので、ウクライナがロシアの戦術核攻撃を受けた時の核反撃ができませんが、慎重なアメリカに代わって報復攻撃を可能にする動きを見せているのがフランスだとのことです。プーチン大統領の“ブレーキ”発言もそこらを受けたものとの指摘もあります。

6月7日、フランスのマクロン大統領はウクライナに対し、アメリカ製のF-16戦闘機に近い性能を持つミラージュ2000戦闘機を供与すると発表しました。

一方で5月28日にスウェーデンはグリペン戦闘機のウクライナへの供与の計画を一時的に停止し、F-16戦闘機の供与の邪魔にならないように後回しにする方針を決定しています。

****目には目を、核には核を。徹底的にプーチンを潰しにかかる欧州「ロシア恐怖症」の深刻度****
(中略)
ロシア領内攻撃で核エスカレーションが起きている
ウクライナ戦争で、ウ軍は欧米兵器によるロシア領内攻撃を行ったが、プーチンは核の脅しを強めている。今後を検討する。

ロ軍は、ハルキウ国境を超えて攻撃してきたことで、欧米諸国はウ軍へ供与した兵器でのロシア領内への攻撃を容認し、その攻撃で、ロ軍はこの方面での損害が大きくなり、特に補給トラックのHIMARS爆撃で補給ができなくなった。このため、攻撃の重点を再度、ドネツク市北側のオチェレティネ周辺に移したようである。

米国も、ハルキウ州、スームィ州やチェルニーヒウ州の国境付近へのロ軍軍事目標への攻撃を容認したが、ATACMSの使用を許可せずに米武器での攻撃を細かく指示してくる。ロシアの核攻撃を恐れていて、エスカレーションを高めないようにしている。

これに反して、マクロン仏大統領は、ロシアの核攻撃に対してウ軍の核反撃を行う準備をするようだ。「ミラージュ2000-5提供のための訓練が数日以内に始まる」と言及したが、スェーデンのグリペン戦闘機の供与をやめた理由は、F-16の訓練を優先するとしたが、実は核反撃を想定して、ミラージ2000-5の訓練を優先することであったようだ。

F-16訓練の人数が米国は16人に絞っているので、ウクライナは、米国で訓練を開始できるパイロットが30人いるというが、また、2年程度で供与される90機のF-16もパイロット不足で稼働できないし、米国は戦術核供与をしないので、ロシアの戦術核攻撃を受けた時の核反撃ができない。

フランスには、ミラージュ2000Nが核搭載可能であり、ウクライナがもし戦術核での攻撃を受けた時には、フランスはミラージュ2000Nと戦術核の供与をして、報復攻撃を可能にするようである。

このことで、ロシアの戦術核攻撃に対応することで、ウクライナへの核使用の抑止力を効かそうとしているようであるが、徐々に核使用のレベルが低くなってきたように見える。(中略)

5日、サンクトペテルブルクで各国の通信社幹部らとの会見で、プーチンは、ロシア国内を攻撃できる兵器をウクライナに供与する国があれば、その国と敵対する国や地域にロシアも兵器を供給することを「検討している」と述べた。また、ウクライナに兵器を供与した国の「重要目標がロシア製兵器で攻撃される可能性がある」と警告した。
事実、原潜含むロシア海軍艦船4隻がキューバへ向かっている。

このような脅しで、欧米に対ウクライナ軍事支援の停止やロシア国内攻撃の許可の取り消しを迫った形だ。プーチンはまた、欧米が兵器供与を停止すればウクライナでの戦闘は2〜3カ月で停止すると主張した。

ロシアが行き詰っていることが、この会見で見て取れる。ロ軍でも装甲車両が足りないので、ロシアの兵器とは核兵器しかない。核の脅しであるが、その脅しで、欧州は新たな行動に出るので、核のエスカレーションが起きていることになる。

しかし、ウクライナに核反撃のために、ミラージュ2000-5の提供をフランスが発表したら、プーチンは7日、ウクライナ情勢について、通常兵器による戦闘で勝利を得られるとの見通しを示した上で「核兵器を使うような状況でなく、その必要もない」と述べ、核の脅しを止めた。ウクライナの核反撃は抑止力を発揮したことになる。(後略)【6月10日 津田慶治氏(日本国際戦略問題研究所長) MAG2NEWS】
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【緊張の高まりで、ロシア・アメリカ・フランスなどの“腹の探り合い”】
マクロン大統領が核兵器による報復攻撃をどこまで本気で考えているのかは分かりません。(そもそもプーチン大統領が本当に核を使うのかも分かりませんし) マクロン大統領は以前はロシアに宥和的でしたが、最近はウクライナへの派兵など強硬姿勢を強めています。その真意は?

ただ、あくまでもウクライナの状況は“海の向こう”での出来事であり、自国に飛火しないように慎重姿勢のアメリカに比べると、フランスなど欧州各国にとってはロシアの脅威はより切迫・切実なものであるのは事実でしょう。

供与兵器によるロシア領内攻撃を容認したことで、緊張のステージがひとつ上がり、戦術核兵器使用を含めたロシア・アメリカ・フランスなどの“腹の探り合い”が激しくなっています。

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フランス  欧州議会選挙でマクロン与党を極右「国民連合」が圧倒の予測

2024-06-05 22:50:43 | 欧州情勢
(2022年11月5日、フランスの極右政党「国民連合(RN)」の党首に、ジョルダン・バルデラ氏(当時27歳、写真右)が選出された。ルペン氏(写真左)の後任となる。【2022年11月7日 ロイター】)

【欧州議会選挙でマクロン与党を圧倒する極右「国民連合」 次期大統領選挙の試金石】
6〜9日に実施される(フランスを含め大半は9日に実施)EUの欧州議会選で、フランスでは、欧州議会で親EU中道会派「欧州刷新」の中核を担うマクロン大統領の与党連合を右翼会派「アイデンティティーと民主主義(ID)」に所属する極右政党、国民連合(
RN)が圧倒する勢いです。

その結果は、27年に行われるマクロン後継者vs.国民連合の事実上の指導者ルペン氏による次期大統領選挙を占う試金石とも見られています。

****欧州議会選、フランスは極右政党の圧勝か 焦り隠せないマクロン仏大統領****
6〜9日に実施される欧州連合(EU)の欧州議会選で、フランスでは移民制限などを訴える極右政党、国民連合(RN)がマクロン大統領率いる与党連合に圧勝する勢いをみせている。RNが勝利すれば、2027年の次期仏大統領選の行方にも影響しかねず、マクロン氏陣営は警戒を強めている。

「マクロン氏は時代遅れだ。私たちがフランスと欧州を再編する」。RNのバルデラ党首は2日、パリで開かれた集会で高らかに宣言した。集まった約5千人の支持者は「フランスを救えるのは国民連合だけだ」と歓声を上げた。

独の次に多い議席が割り当て
欧州議会(定数720)は、27加盟国に人口比で議席が配分されており、フランスはドイツ(96議席)の次に多い81議席が割り当てられる。

欧州議会選では極右・右派政党の伸長が予想されるが、特にRNの勢いは際立っている。仏調査会社IFOPによると、5月末でRNの支持率は33・5%と首位。欧州議会で親EUの中道会派「欧州刷新」の中核を担うマクロン氏の与党連合(15・5%)に倍以上の差をつけた。

RNが掲げる主張は、EUの域外国境管理の厳格化やEUの環境規制への反対だ。

フランスでは中東やアフリカからの難民や移民が急増し、麻薬密売など犯罪に手を染める不法移民も目立つため、その流入の制限を目指す。環境規制には物価高や農家の生産性低下を招くとの懸念が国民に広がっており、RNに共感する有権者は増加している。

RNはロシアの侵略が続くウクライナへの軍事支援拡大にも否定的で、「支援疲れ」が進む中、RNの姿勢を支持する国民も多い。2月のIFOPの調査では、欧州諸国がウクライナに兵器を供与する方針に賛成する仏国民は50%で侵略開始時より15ポイント低下した。

27年の仏大統領選の行方を占う
仏メディアは欧州議会選を「マクロン氏(を評価する)国民投票」とし、27年の仏大統領選の行方を占う試金石とも位置付ける。フランスでは大統領の3選が禁じられ、現在2期目のマクロン氏の再登板はない。

一方、RNでは22年の前回大統領選決選投票でマクロン氏と争い、今も党を事実上率いる前党首のルペン氏の出馬が取り沙汰される。RNが欧州議会選で支持を盤石にすれば、マクロン氏が「後継」を立てても苦戦となる可能性が高まる。

焦りを隠せないマクロン氏は5月下旬、ルペン氏との公開討論会を提案。「欧州の守護者としてRNの正体を暴く」と表明し、討論会で形成逆転を目指す意欲を見せた。

一方、ルペン氏はマクロン氏が欧州議会選で敗北した場合の辞任などを約束すれば参加する考えを示した。欧州政治の専門家は「討論会が実現しても、マクロン氏が独走するRNを追い越すのは困難だ」と分析している。【6月4日 産経】
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マクロン大統領が公開討論会を持ち出したのが、17年と22年の仏大統領選の決選投票で、マクロン大統領がルペン氏との討論会を有利に展開し、勝利に結び付けた成功体験があるからです。

ルペン氏からすれば、大統領選挙でもないし、まして自身は現在党首でもない立場ですから、敢えて公開討論会に臨む必要性はさらさらない「馬鹿言ってんじゃないよ」といったところ。

【若者に支持を広げた国民連合党首、バルデラ氏 28歳】
ルペン氏に代わって極右「国民連合」を率いているのがジョルダン・バルデラ党首、28歳ですが、なかなかの人気のようです。

****28歳「極右アイドル」が旋風 逆風にあえぐ46歳大統領 若手台頭止まらぬ仏政界****
フランスで極右「国民連合」を率いるジョルダン・バルデラ党首(28)が、9日投票の欧州連合(EU)欧州議会選を前に旋風を起こしている。移民流入の阻止を掲げ、党は支持率で首位を独走する。かつて若手のホープだったマクロン大統領(46)は与党の低迷にあえぐ。

国民連合は、大統領候補だったマリーヌ・ルペン下院議員(55)が「党の顔」だった。バルデラ氏は23歳で欧州議員に当選し、2年前、ルペン氏の後継者として党首になった。

選挙集会、まるでクラブ
インターネット中継された選挙集会を見ると、まるでディスコ会場のよう。レーザーライトが照らす会場で、DJが司会を務める。バルデラ氏が「早急に移民対策を建て直さないと、われわれの文明が死に絶える」と声を張り上げると、歓声が沸き、フランスの三色旗が一斉にたなびく。

最新の世論調査で、同党の支持率は33%。2位のマクロン与党(16%)を大きく引き離し、2019年に行われた前回欧州議会選の得票率(23%)をしのぐ勢いだ。

党は治安悪化を懸念する中高年を支持基盤としてきたが、バルデラ氏は若者に支持を広げた。25歳以下の有権者の党支持率は32%。18〜19歳の男性では49%に達し、カリスマ的人気がある。

バルデラ氏はイタリア系移民の息子。パリ郊外の移民街で育ち、暴動や麻薬取引の横行を見て育った。イスラム過激派の浸透に警鐘を鳴らし、交流サイト(SNS)をフル回転して「マクロン体制打倒」「フランスを建て直す」と訴える。動画投稿サイトTikTok(ティックトック)のフォロワーは、130万人を数える。「人種差別の異端政党」とされた党のイメージを大きく変えた。

34歳首相と論戦
マクロン大統領は今年1月、仏史上最年少となる34歳のガブリエル・アタル首相を起用し、巻き返しを狙った。5月末にはアタル首相をバルデラ氏とテレビ討論で対決させ、国民連合の脆弱な経済、EU政策を攻撃した。それでもバルデラ人気に歯止めをかけられない。

マクロン氏もかつては、若い有権者に支えられた。2017年、仏史上最年少の39歳で大統領選に勝ったとき、「政治刷新」を訴えて、中高年層を基盤とする保革2大政党の候補を破った。7年を経て「体制の顔」となったマクロン氏に、若者の視線は冷たい。25歳以下の与党支持率は6%に低迷する。

フランスで、今回の選挙戦を担う若手政治家はバルデラ氏だけではない。保守本流「共和党」は38歳、共産党は28歳、急進左派は34歳をそれぞれ、比例代表名簿の1位に据えて支持を競う。

若い政治家が求められるのは、ウクライナ戦争や移民流入、インフレなど課題が山積する中、政治刷新を求める有権者の願望のあらわれでもある。仏政界ではもはや、40代は「若手」では通らない。【6月5日 産経】
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「国民連合」バルデラ党首が28歳 与党のアタル首相は仏史上最年少となる34歳 マクロン大統領が17年に勝利したときが39歳 保守本流「共和党」は38歳、共産党は28歳、急進左派は34歳をそれぞれ、比例代表名簿の1位に据えて支持を競う・・・・もちろん若ければいいという話ではありませんが、老害のアメリカ、同様傾向の日本と比べると・・・・。

【マクロン大統領「欧州は消滅の危機に直面する」 その指摘はもっともなところがあるものの、マクロン氏の言動には矛盾も】
上記のような欧州議会選挙状況、更にロシアの侵略、アメリカとの確執、欧州経済の停滞などを受けて、マクロン大統領は「欧州は消滅の危機に直面する」と危機感を露わにしています。

その言い分にはもっともなところはありますが、ただ、マクロン大統領の言動には首尾一貫しないところも。

****<欧州消滅の危機は本当?>説得力に欠けるマクロン大統領に期待しなければならない理由****
欧州に消滅の危機が迫っているとのマクロンの発言について、ワシントン・ポスト紙の欧州担当コラムニストのホックステーダーが、2024年5月8日付の同紙で、メッセージは正しいがマクロンが言うのでは説得力がないと批判的に論評している。

マクロンは、欧州はロシアの侵略、米国の離反そして欧州経済の停滞と台頭するポピュリズムにより消滅の危機に直面していると警告した。欧州に関するマクロンの分析の重大さを否定することはできない。

マクロンの問題は、演説の内容ではなく、メッセンジャーとしての資質にある。フランスの指導者とフランス自体ができることをやっていないのだ。7年を経過し、マクロンの国内外での信頼は低下している。

欧州の苦難に対する彼の鋭い読みは現実に根ざしているが、その現実を自分の思う方向に変える彼の能力には疑問がある。一つは、マクロン自身が矛盾の塊である。

マクロンは、防衛、金融、科学および気候変動対策において、欧州統合の強化を一貫して主張してきた。しかし、彼は、直近では、唐突に欧州のウクライナへの軍隊派遣を検討するよう呼びかけたように、ドイツとの関係を維持することに失敗している。

彼は、自分の個人的な説得力によってプーチンにウクライナへの全面的な侵攻を中止させることができると考えていたが、ロシアを敗北させることでしかヨーロッパの安全保障を守ることはできないと主張するようになった。同時に、フランスは、ウクライナへの軍事援助としていくつかの重要なハードウェアは送っているが、全般的には遅れをとっている。

マクロンのメッセージの力は、彼の政治的困難と連動している。マクロンの実績を支持しているのは国民の3分の1以下で、彼の中道連合は国民議会で過半数を失った。6月の欧州議会選挙を前に、彼の穏健派陣営は反移民ポピュリストに差をつけられている。

フランス経済は、ユーロ圏ではドイツに次いで第2位だが、債務と財政赤字の増大のなか困難に直面している。フランスの会計検査院院長は最近、フランス国債の債務返済額は過去3年間で倍増していると警告した。

つまりフランスは、ウクライナ支援や防衛産業の強化、気候変動対策等のために資金繰りに奔走しながらも、今後数年間は赤字削減目標の達成のために数百億ドルの支出削減が必要になるということだ。

マクロンは、今年初めに欧州のパートナーたちにウクライナに欧州軍を駐留させることを検討するよう要請し、圧倒的反対にもかかわらず撤回を拒否している。

問題は、マクロンの考えに重みがないわけではないが、自らの地位が低下している大統領として、この時点での発言は欧州の将来をめぐる戦いにおけるかすかな一撃にすぎない。

*   *   *
【論評】
マクロン演説の意図
(中略)「欧州の消滅の危機」といった言葉で注目を引くのはマクロンの得意とする手法である。7年前にマクロンは欧州連合(EU)の将来ビジョンを打ち出したが、今回の演説はその後の国際情勢の変化を反映し、ロシアに勝利させてはならないとの認識を示し、米国に依存しない欧州独自の安全保障の枠組み構築を主張している。

この演説は、現状分析は良いが、対応策については、昨年の総選挙以来、国内での政治基盤が弱体化し、言行不一致の傾向があり、特に2月の唐突なウクライナ駐留論で、欧州内の分裂を際立たせたマクロンに実現可能であるとは思えないと否定的な反応が見られた。

この演説は、6月の欧州議会選挙を前に、ルペンらのポピュリズム勢力に大きなリードを許していることを意識し、ウクライナ支援やEUの結束の重要性を世論に訴えて巻き返そうとしたとの見方もある。

特に、EUの結束という場合には、フランスとドイツが両輪となってリーダーシップをとるのが通常であるが、マクロンとショルツの間には、ウクライナ支援をめぐる不協和音が既にあり、それがマクロンのウクライナ駐留論で更に深刻化してしまった。

マクロンが何を言ってもドイツ他EU諸国が付いていかないであろうし、フランスが率先して軍事面、経済面で実質的な措置を講ずることも、フランスの財政事情に鑑みれば難しいだろうとこの論説は見ている。

それでも、EUは協調の余地がある
確かに、マクロンの提唱したさまざまな措置を実現していくことは容易ではなく、欧州議会におけるポピュリストの台頭でEU自体が機能不全に陥る可能性もある。

しかしそれ故に、EU強化という方向性は正しいものであり、外交に関するフランス大統領の権限は強力で、また他のEU加盟国にEUの将来ビジョンを提示する強い指導者がいるわけでもなく、結局、マクロンの諸提案を一つとしてEU委員会及び加盟国内の議論が進むのだろう。(後略)【6月5日 WEDGE】
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【右派・極右勢力伸長が予測されている欧州議会 グレタ世代の環境戦士も政治を目指す】
欧州議会選挙に話を戻すと、マクロン大統領は5月27日、欧州で「悪い風が吹いている。目覚めよう」と述べ、強権主義的な極右勢力の台頭により自由や民主主義が脅かされていると警鐘を鳴らしています。

フランスに限らず右派・極右勢力の伸長が予想されているのは、これまでも何度も取り上げてきたところです。

****欧州議会選まで約1週間 移民問題やウクライナ支援疲れで右派伸長の見通し****
6〜9日に欧州連合(EU)加盟27カ国で実施される欧州議会選(定数720)まで1週間を切った。急増する移民への不満やロシアのウクライナ侵略の長期化に伴う「支援疲れ」が広がり、自国の利益を優先する極右や右派のEU懐疑派勢力が伸長する勢いだ。移民受け入れやウクライナ支援などの政策に影響を与える可能性もある。

「欧州に悪い風が吹いている」
フランスのマクロン大統領は5月27日、ドイツ東部での演説で、懐疑派勢力が支持を広げている状況に危機感を示した。

米政治専門サイト「ポリティコ」の5月31日時点の予測によると、EUに懐疑的な極右の「アイデンティティーと民主主義(ID)」と右派の「欧州保守改革(ECR)」の2会派は計144議席を獲得。初めて両会派が20%の議席を占め、議会運営を長年主導してきた最大会派の中道右派「欧州人民党」(EPP)の170議席に次ぐ規模となる見通しだ。

特に、仏極右政党、国民連合(RN)などで構成するIDはポリティコの5月上旬の予測で現有議席から20議席以上を増やす躍進が見込まれた。

一方、親EU勢力の会派は伸び悩む。ポリティコの5月31日時点の予測で欧州人民党は現有議席から7議席、マクロン氏の与党連合が中核を担うリベラル派「欧州刷新」は26議席を失うとみられている。

欧州の政治学者、サイモン・ヒックス氏は今回の議会選で「(懐疑派勢力の台頭により)EUが大きく右傾化するだろう」とみる。
EUが増加する移民やウクライナ侵略にともなうエネルギー価格の高騰への対応に手間取る中、懐疑派勢力は不満の受け皿となって支持を拡大。昨年11月のオランダ総選挙では反移民を訴える極右の自由党が初めて第1党となった。今年3月のポルトガル総選挙も極右政党「シェーガ」が議席数を4倍近く増やした。

懐疑派勢力は国家主権を重視し、移民受け入れの厳格化やEU主導の環境規制の見直しを要求。IDはウクライナ支援に否定的で、RNのルペン氏は対露制裁に反対したことがある。IDは「(EU主要機関が集まる)ブリュッセルの1万人の官僚を解雇する」と主張。極右が勢力を拡大すれば移民受け入れやウクライナ支援などの政策への修正を求める圧力が強まるとみられる。

欧州議会が多数決で承認する欧州委員長の人事も議会選の結果に左右される。自身の所属政党がEPPに参加するフォンデアライエン氏は欧州委員長候補として2期目続投を目指すが、勢力を強めた懐疑派が再選に反対する可能性がある。

ただ、IDは5月23日、極右政党、ドイツのための選択肢(AfD)を会派から除籍すると発表した。AfDの欧州議会選候補がナチス・ドイツを擁護する発言をしたためで、懐疑派勢力には打撃になりそうだ。【6月1日 産経】
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少し視点を変えると、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんから影響を受けて育った若き活動家らが欧州議会を目指しています。

****デモやめ政界へ、欧州議会目指すグレタ世代の環境戦士ら****
抗議行動から政治の世界へ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんから影響を受けて育った若き活動家らが、成人しつつある。そして、路上で抗議しているだけでは不可能だった変革を実現するため、政治の世界を目指そうとしている。

学生ストライキの先頭に立ったトゥンベリさんにインスパイアされた約20人の「環境戦士」らは、気候変動との戦いにおいて、横断幕を掲げる代わりに、パリからプラハに至る各地で選挙運動を開始している。

典型的な例が、チェコ出身のペトル・ドブラフスキーさん(22)だ。

ドブラフスキーさんは高校生だった2018年に、トゥンベリさんが気候変動対策を求めて起こした学生ストに同調し、チェコ支部を共同で創設。デモ行進のため、毎週金曜日の授業をボイコットした。

現在はブルノ大学で経済と環境を学んでいるが、政界の表舞台への第一歩を踏み出すことを決意した。6月の欧州議会選挙で緑の党から立候補する。

チェコの被選挙権年齢は21歳であり、今回がドブラフスキーさんにとって最初の立候補の機会だ。だがこのたび決意に至った理由は、単なる年齢の問題ではない。

「出馬に当たって考えるべきことはたくさんあった」。ドブラフスキーさんはトムソン・ロイター財団の取材に対し、政界ではなく社会の中でうねりを起こすことと、政界内部から改革に向けた立法を行うこと、それぞれの長所や短所を簡潔に語った。

これまで行っていた、議会近くでの抗議活動について、ドブラフスキーさんは「市民的不服従運動には、政治と同様の正当性がある」と語る。

だがその一方で、建国から日の浅いチェコ共和国には国内育ちのロールモデルが不足しているとも感じている。
「特にチェコにおいては、草の根の活動を経て政治の世界に入る人材が不足している」(後略)【6月2日 ロイター】
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なお、現欧州議会で第4党である欧州緑の党は、第5か第6党に後退する見通しです。
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イタリア  「極右」を警戒されたメローニ首相のEUとの協調姿勢 難しい不法移民対策

2024-05-31 22:17:55 | 欧州情勢

(イタリアのメローニ首相(写真右)は来月の欧州議会選挙後に、中道右派のフォンデアライエン欧州委員長(左)の2期目続投を支持すれば、同氏の影響力は増すかもしれない。昨年1月、ローマで撮影【5月31日 ロイター】)

【厳しい状況のイタリア経済・社会】
日本はよその国の状況をとやかく言える立場にありませんが、イタリアも経済・社会情勢はよくありません。

****イタリア貧困人口、昨年は9.8% 統計開始以来最高に*****
イタリアの昨年の貧困人口が過去最高水準に達したことが、国家統計局(ISTAT)が25日発表した統計で分かった。

経済は新型コロナウイルス禍関連の規制解除以後回復しているが、昨年は必需品などを十分購入できない絶対貧困者が人口の9.8%に当たる575万人となり、前年の9.7%から増えたほか、2014年に現在の統計が始まって以来最高となった。

イタリアはドイツやフランスなどに比べてコロナ禍による景気後退(リセッション)からより強く回復し、就業者数も増加したが、貧困者の支援にはほとんどならなかった。

20年の絶対貧困率は9.1%、コロナ流行の最盛期となった21年は政府支援策でリセッションの家計への影響が一部相殺され、9.0%だった。

地域別の絶対貧困率は北部が9.0%、中部が8.0%、伝統的に貧しい南部は12.1%だった。【3月26日 ロイター】
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財政面でもイタリアはEU内では最悪の状態にあります。

****イタリア、昨年の財政赤字対GDP比7.4% EU平均の2倍以上に****
欧州連合(EU)統計局は22日、イタリアの昨年の財政赤字は対国内総生産(GDP)比で7.4%と3月時点の推計7.2%から拡大し、欧州連合(EU)内で群を抜いて高かったと発表した。

この数字はEU加盟27カ国の平均3.5%の2倍以上に当たり、同国の財政課題が浮き彫りとなった。

EU加盟国のうち計11カ国がEUの財政赤字のGDP比の上限である3%を上回っており、その中には5.5%のフランスも含まれる。

イタリアのジョルジェッティ経済財務相は今月、欧州委員会がこれら全ての国に対して財政規律違反に関する手続きを開始すると述べた。

昨年、財政赤字が5%を超えた他の国はいずれもユーロ圏20カ国外の国々で、ハンガリー(6.7%)、ルーマニア(6.6%)、ポーランド(5.1%)の3国のみだった。【4月23日 ロイター】
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なお、日本の財政収支(対GDP比)は2024年は-6.2 %。前期2023年の-11.6 %と比べると大きく改善しています ただし、政府債務残高のGDPに対する比率は2023年で252%と200%を大きく上回り、主要国の中で突出しています。欧州ではギリシャが168%、イタリアが137%。

長期的にも、少子化が深刻なのは日本と同じ。

****イタリア出生数、23年は15年連続減少 過去最低を更新****
イタリア国家統計局(ISTAT)が29日発表した2023年の出生数は前年比3.6%減の37万9000人と、15年連続で減少し、過去最低を更新した。

出生率(女性1人当たりの子ども数)は1.24から1.20に低下。人口の維持に必要とされる2.1を大きく下回った。

総人口は7000人減の5899万人。出生数より死亡者数が約28万2000人多かったが、移民の流入や海外移住からの帰国者がその大部分を補った。

イタリアの人口は14年以来減り続けており、その間の累積減少数は136万人強と、第2の都市ミラノの人口に相当する。

ISTATは昨年9月、基本シナリオでは50年までに人口が5440万人まで減少するとの見通しを示している。【4月1日 ロイター】
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【メローニ首相 「極右」と警戒されたものの、EUとも協調的な政権運営】
こうしたイタリアを牽引するのが、2022年の就任時は「極右」として警戒されたメローニ首相ですが、“思いのほか”EUとも協調した穏健な路線をとっており、欧州政界においても存在感が高まっています。

****メローニ伊首相、欧州の実力者に 「極右」鳴り潜める****
2022年、イタリアでメローニ首相が政権を握ると、欧州各地の極右政党はこれを歓迎し、新しい熱血指導者が民族主義を推し進めて欧州連合(EU)の官僚主義と闘ってくれると期待した。

ところがメローニ氏はEUのエリートらと衝突するどころか、緊密に協力することで敵味方双方を驚かせ、主流の中道右派と、自身が属する強固な保守陣営との橋渡し役を果たしてみせた。

来月の欧州議会選挙後に、メローニ氏自身がほのめかした通り中道右派のフォンデアライエン欧州委員長の2期目続投を支持すれば、同氏の影響力は増すかもしれない。

そうなれば同氏はEU新執行部で影響力を高め、イタリアに次期欧州委員会の重要ポストをもたらし、権力を操る「陰の実力者」ぶりを発揮することにもなりそうだ。

同氏が率いる政党「イタリアの同胞」選出の欧州議会議員、カルロ・フィダンツァ氏は「メローニ氏は欧州の右派および中道右派のさまざまな派閥の橋渡し役として最適の人物であり、尊敬され、リーダーとして認められている」と語った。

同氏が率いるイタリア連立与党が多様な右派勢力を束ねているのは確かだ。だが、メローニ氏が次の欧州議会でそれを再現するのは不可能に思われる。

フォンデアライエン委員長とその仲間は既に、メローニ氏の盟友であるイタリアの極右政党「同盟」党首のサルビーニ氏や、フランスのルペン氏率いる極右政党・国民連合(RN)など、より過激な勢力とは協力しない姿勢を表明。これらの政党も委員長に反発している。

一方でフォンデアライエン委員長は、メローニ氏については何の懸念も表明していない。

委員長は23日、「ジョルジア・メローニ氏とは非常にうまく協力している」と述べ、同氏は「明らかに親欧州派」だと付け加えた。

<即座に実績>
メローニ氏は22年に首相に就任すると、初めての外遊先としてブリュッセルのEU本部を訪問し、好印象を残した。

その後数カ月間は欧州委と協力し、EUが10年近く果たせなかった移民・難民規定改革への合意取り付けに貢献した。

また、フォンデアライエン氏と共に北アフリカを3回訪れ、エジプトとチュニジアとの間で、移民の出国を食い止める条項を含む協定に署名した。

重要なのは、メローニ氏がウクライナへの支援とロシアへの断固とした批判を一貫して表明していることだ。これは、長らくロシアのプーチン大統領と緊密な関係を築いてきたルペン氏やサルビーニ氏と一線を画している。

英サリー大学の政治学教授、ダニエレ・アルベルタッツィ氏は「メローニ氏は賢い。彼女はつまり、こう言っている。『国際舞台で主流派になり、責任を果たそう。なぜなら自分にはこの人たちが必要だからだ』」と語った。

あるEU指導者はオフレコにするよう念を押した上で「メローニ氏は依然として『過激な右翼』だが、イタリアは多額の負債を抱えており、財政的に援護してもらっている国々を敵に回すわけにはいかないため、親欧州的な態度を取っている」と語った。

動機が何であれ、メローニ氏は最近のEU首脳会議で自らがかけがえのない存在であることを証明した。民族主義者であるハンガリーのオルバン首相を説得し、ウクライナへの資金援助と、EUの新移民・難民協定を支持させたからだ。

あるEU関係者は、欧州委がオルバン氏との意思疎通の大部分をメローニ氏を通じて行っているため、同氏には「オルバンのささやき声」というニックネームが付いたと明かした。

<続く分裂>
欧州の極右政党や民族主義政党は、欧州議会内で2会派に分かれている。

メローニ氏は、ポーランドの「法と正義(PiS)」を含む「欧州保守改革(ECR)」会派の代表。サルビーニ、ルペン両氏は「アイデンティティーと民主主義(ID)」会派で、オルバン氏の「フィデス・ハンガリー市民連盟」は今のところどの会派にも属していない。

フォンデアライエン氏は欧州最大会派である中道右派、欧州人民党(EPP)出身だ。

メローニ氏といえども、ECR全体の足並みをそろえさせるのは難しいとみられる。例えばPiSの議員らは、国内で敵対するトゥスク首相がEPPの有力人物であるため、ほぼ確実にフォンデアライエン氏の続投に反対するだろう。

メローニ氏はまた、ECRとIDの統合を否定。ECRが欧州議会選で議席を伸ばし、EUにおける自身の影響力が高まることを期待している。

シンクタンク、欧州外交評議会(ローマ)のアルトゥーロ・バルベッリ理事は「会派の勢力が強まれば、メローニ氏はIDとEPPの中央に立てる。私が見るところ、それが彼女の目標だ」と語った。【5月31日 ロイター】
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メローニ首相の穏健な姿勢は、宗旨替えした訳ではなく、冒頭に述べたように厳しい状況にあるイタリアにとってEUからの支援が必要不可欠であるという「現実」があってのこと・・・との評価のようです。

【難しい対応を迫られる移民・不法移民対策】
メローニ首相にとって、難しいかじ取りとなっているのは移民・不法移民対策です。
メローニ首相は、地中海を経由して欧州に渡るアフリカからの移民について、不法移民を排除する一方、合法移民の受け入れを進める考えを示しています。

不法移民に対する厳しい姿勢は、「移民船は一切イタリアの海岸に上陸させない」との選挙公約からも当然の方針です。

しかし、昨年1年間で地中海を経由してイタリアに到着した人数は、15~16年にシリア難民が欧州に押し寄せた「難民危機」の時以来の水準になっています。

メローニ政権は昨年7月には、北アフリカ諸国と不法移民の摘発強化で合意し、11月には強制送還を進めるため、(イギリスの不法移民ルワンダ移送に類似した)海上で救助した移民・難民の一時収容施設をアルバニアに建設する計画を発表しています。

更に、アフリカ諸国への資金提供も。

*****アフリカに8千億円拠出へ イタリア、不法移民抑制狙い****
イタリアのメローニ首相は29日、アフリカの開発に55億ユーロ(約8700億円)以上の資金を拠出すると表明した。ローマで開催したアフリカ諸国の首脳らとの国際会議で述べた。エネルギーや農業分野への投資を通じて経済発展を支援し、欧州へ逃れる不法移民の数を抑制する狙いがある。

2022年に発足したメローニ政権は「不法移民排斥」を公約に掲げたが、移民増加に歯止めがかからず、アフリカ諸国の課題に対処する姿勢を示した。メローニ氏は記者会見で、今年の議長国を務める先進7カ国(G7)の会合でもアフリカ支援を主要テーマにする意向を明らかにした。【1月30日 共同】
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その一方で、イタリアは日本と同様の高齢化(22年時点のイタリアの高齢化率は24・1%で、世界で最も高い日本の29・1%に次いでいます)で人手不足が深刻化するなか、外国人労働者なしには社会が立ちゆかない現実があります。

そのため、メローニ政権は、従来の2倍以上の規模で、外国人労働者の受け入れを拡大しています。経済界からは更に大規模な外国人労働者を求める声も出ています。

また、不法移民を排除する一方、合法移民の受け入れを進めるとは言うものの、不法移民と合法移民の線引きは必ずしも明確でないの実情もあるようです。

*****イタリアの移民問題 首相が移民船を止めるのか、移民船が首相を止めるのか****
イタリアで昨年(2022年)9月に行われた総選挙でジョルジャ・メローニ氏が率いる極右連合が地滑り的勝利を収める要因となったのは、これまで誰もなしえなかった公約だった。すなわち、イタリアから欧州への上陸を図る移民船の阻止だ。

当時、メローニ氏のソーシャルメディアには、移民を満載した密輸船の写真とともに「Blocco navale(ただちに海上封鎖!)」の文字が躍っていた。

メローニ氏は選挙遊説で、乗船者が誰であれ、命の危険を冒してまで海を渡る理由が何であれ、移民船は一切イタリアの海岸に上陸させないと約束した。

就任後100日間は順風満帆と思われた。
首相は一部で懸念されていたほど極右に傾くことはなく、マルチリンガルで政界にも精通していたことから、世界各国の首脳にもすんなり溶け込んだ。

移民船阻止というメローニ首相の公約の可能性からリベラル派の欧州各国首脳も得をすることから、大勢が実現に期待を寄せた。ハンガリーのビクトル・オルバン首相をはじめとする保守派もメローニ氏の当選を祝福し、「欧州国境を守ってくれた」ことに感謝した。(中略)

そこへきて、移民船が相次いでイタリアにやってきた。
今月21日までに船でイタリアに到着した移民の数は3万5000人余りで、前年より3倍以上も多い。
(中略)

「メローニ首相が船を止められるかと尋ねれば、専門家の答えは、いいえだろう」と(移民政策研究所(MPI)欧州支部のハナ・ベイレンス)所長は言い、移民流入を食い止めたのは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)だけだったと付け加えた。

欧州に向かう早い段階での亡命申請の機会提供や、移民・難民がもっとも多く出ている国の問題解決など、根幹の問題にどう対処するか欧州の意見がまとまらない限り、移民は今後も続くだろうとベイレンス所長は言う。(後略)【2023年4月24日 CNN】
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ドイツ  支持が拡大した極右AfD 相次ぐスキャンダルで党勢に陰りも EU離脱主張

2024-05-25 23:33:06 | 欧州情勢

(スキャンダルが相次いでいるAfD筆頭候補者マクシミリアン・クラー氏
そのスキャンダルの真相や発言内容はともかく、民族衣装の綺麗なお姉ちゃんに旗持たせて颯爽と・・・という感覚は、いかにも・・・という感も。 ドイツのリベラルな政権与党に批判的な保守の立場の川口マーン恵美氏も「世間にはたまに、自分が男であるだけで威張っている人間がいるが、氏の言動にはしばしばその傾向がある。」とも)

【6月欧州議会選挙で拡大が予想されている極右政党】
6月に、欧州連合理事会とともにEUの立法府にあたる欧州議会の選挙が行われます。

****欧州議会****
直接選挙で選出される欧州連合の組織。欧州連合の機関において欧州連合理事会とともに両院制の立法府を形成している。

現在では、多くの分野で、共同決定手続が適用され、理事会と欧州議会の双方が同意することが必要になっており、決定権は理事会にあるという分野は限定的になっている。(中略)

欧州議会は立法権を持つものの、ほとんどの国内議会とは違って法案提出権を持たない。またごく一部の例外を除いて、立法や予算の決定と監督に関する権限を理事会との間で共有している。

そして欧州連合の政策執行機関である欧州委員会は欧州議会に対して説明義務があり、とくに欧州議会は欧州委員会人事案や欧州委員会委員長の選任について拒否権を持ち、また欧州委員会を総辞職させることができる。
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今回の欧州議会選挙では極右勢力の躍進がかねてから予想されています。

****なぜ欧州議会選挙で極右の躍進が予想されているのか****
国際協調による負担が有権者の不満を蓄積

6月の欧州議会選挙を前に、EU加盟国の多くでは、現政権が支持を落とす一方、極右勢力が台頭。この背景には、生活苦を中心とした不満の高まり。消費者が体感する豊かさはコロナ前を下回る水準。こうした生活苦は、現政権による以下3点の国際協調的な政策に起因する面もあることから、市民は自国民優先の主張への支持を強めている状況。

第1に、移民の急増。現政権が寛容に対応してきたコロナ明けの移民労働者の増加は賃上げ圧力の緩和に作用した一方、不法移民の増加も招いており、社会的な軋轢が増大。極右勢力は移民への社会福祉の提供を批判するなど、生活苦の責任を移民に求める風潮を形成。

第2に、気候変動対策。ドイツでは暖房設備に再生可能エネルギー利用が義務付けられるなど、経済的負担の重さが気候対策疲れを引き起こしている可能性。

欧州投資銀行(EIB)の調査によると、前回選挙時の2019年にEU市民は「気候変動」を最大の困難として挙げていたものの、2023年には「生活費上昇」を重視する回答者が急増。

第3に、ウクライナ支援。ロシア制裁やウクライナ支援にもかかわらず、情勢変化は乏しく、対外的な支援がむしろ加盟国の経済情勢や財政を厳しくしているとの見方も。

とりわけ、2022年6月以降、EUはウクライナからの輸入品への関税を停止したことで、安価な同国産農作物の輸入が急増。EU内の農家は自国優先の対応を求め、抗議活動を実施するなど不満が拡大。【5月22日 藤本一輝 日本総研】
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【ドイツ 極右AfD躍進 進む社会の分断】
EUの中核ドイツにあっては極右AfD(「ドイツのための選択肢」)が支持を拡大してきました。
ドイツでは社会の分断が進んでおり、AfD躍進は分断の原因でもあり、また、分断を受けての結果でもあるでしょう。

****ドイツで政治家標的の暴行事件急増、背景に社会の分断****
ドイツでは今年に入って、政治家を標的にした暴行事件が急増している。専門家はポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭や、ソーシャルメディアの普及による社会の分断が背景にあると指摘する。

欧州議会選挙と地方議会選挙に向けて選挙戦が進む中、わずか1週間で政治家を狙った暴行事件が3件も発生した。
ドイツ東部ドレスデンでは3日、与党・社会民主党(SPD)所属のマティアス・エッケ欧州議会議員がポスターを貼っていたところ、黒ずくめの集団に殴られて重症を負い、手術を受けた。ノルトホルンでは男が議員に卵を投げつけて顔を殴り、ベルリンでは上院議員がカバンで殴られた。

投票を控えて緊張が高まるのはいつものことだが、政党関係者やアナリストの間からは、何か変化が起きているとの声が出ている。連邦刑事庁の発表によると、身体的傷害を伴う襲撃事件が急増しており、2023年通年の27件に対して今年は既に22件に上る。

ソーシャルメディアによるあおりを受けた対立のエスカレート、ポピュリストによる分断や「口撃」で、選挙戦は殺伐としたムードになっている。

デュッセルドルフ大学の政治学者シュテファン・マルシャル氏は「感情的な二極化が起きており、反対勢力は『敵』に位置付けられている」と述べた。(中略)

政党別で最も被害件数が多い連立与党、緑の党は、党員による昨年の被害報告が1219件と19年から7倍に急増。次に多いのは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の478件、3番目がSPDの420件。

SPDや緑の党など与党政党の関係者は、雰囲気が険悪になって対立が激化したのはAfDによる過激な論調のせいだと非難する。

緑の党の欧州議会議員であるニクラス・ニーナス氏は「公の場で『彼らを追い詰めよう』と放言する政治家がいると、言葉が行動を形成してしまう」と述べた。AfDの前党首アレクサンダー・ガウラント氏は17年の演説で、当時のメルケル首相を追い詰めると発言した。 ニーナス氏は小児性愛者、犯罪者といった言葉を投げつけられているという。

一方、AfDはこうした批判を全面的に否定。共同党首のアリス・ワイデル氏は先週、襲撃事件を政治的利益のために利用しようとする試みは「卑劣かつ無責任」であり、AfDの政治家やメンバーも頻繁に襲撃を受けていると反論した。(後略)【5月13日 ロイター】
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****「外国人は出て行け」人種差別的な歌に非難 ドイツ****
ドイツ北部のリゾート、ジルト島でパーティーの参加者が人種差別的な歌を歌う動画がソーシャルメディアで拡散し、国内で激しい批判を浴びている。オラフ・ショルツ首相も24日、「不快だ」と非難した。

動画では、若者グループがバーのテラス席で、人気のダンス曲に合わせて「ドイツはドイツ人のためのもの。外国人は出て行け」と歌っている。 若者の一人が、禁止されているナチス・ドイツ式の敬礼のようなポーズを取っているのも確認できる。

ショルツ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「こうしたスローガンは不快であり、容認できない」と非難した。
ナンシー・フェーザー内相も独メディアグループ「フンケ」のインタビューで、「ドイツの恥」だと非難し、人種差別の「常態化が忍び寄っている」と警鐘を鳴らした。

警察は、カンペンの町のバーで週末に起きたとみられるこの件について捜査していると明らかにした。 【5月25日 AFP】
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【極右勢力へ抵抗・反発も強まる 相次ぐスキャンダルでAfDの党勢に陰り】
ただ、さすがに極右勢力への抵抗感も強く、AfDの勢いは直近では衰えも見せています。

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AfDの支持率は、2023年中頃に連立与党である社会民主党(SPD)と同盟90/緑の党(B90/Gr)を抜き、最大野党である中道右派のキリスト教民主同盟・同社会同盟(Union)に次ぐ2位にまで躍進した。

AfDは、オラフ・ショルツ政権による積極的な気候変動対策や、寛容な移民・難民政策に対して不満を高める有権者の「受け皿」として支持を集めてきた。しかし2024年の年明けに、AfDの幹部が移民の排斥を謀議したとの疑惑が浮上したことを受けて支持率が急落し、SPDに支持率2位の座を譲ることになった。

とはいえ、AfDは旧東ドイツを中心に支持を集めており、地方議会でも一定の勢力を築いている。2025年10月までに予定されている次回のドイツの総選挙では、それが主に比例代表制(正しくは比例代表制を主に小選挙区制の要素を加味した小選挙区比例代表併用制)で行われるため、AfDは議席を増やし、国政への影響力を強めよう。【5月24日 土田陽介氏 JBpress】
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“AfDの幹部が移民の排斥を謀議したとの疑惑”は激しい社会的反発を生みました。

****ドイツの「移民追放計画」に全国デモ 欧州で極右への警戒強まる****
ドイツで極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の幹部らが移民の大規模な排斥を謀議したとの疑惑が波紋を呼んでいる。AfDに対する抗議集会が全土で実施され、数十万人が参加。与党からAfDの党活動禁止を求める声も上がった。

フランスでも極右政党の意向を反映した移民法に反対するデモが発生。6月の欧州議会選を前に右派の台頭への警戒が強まっている。

「人種差別にNOを」
ドイツ全土で20、21両日に実施された抗議集会にはAfDや極右を批判するプラカードを掲げた市民が集まった。20日には各地で計30万人以上が結集。21日にベルリンで開かれた集会には最大で10万人が参加した。26、27日にもフランクフルトやデュッセルドルフでそれぞれ数千人がデモを行い「国内で過去最大規模の抗議活動」(欧州メディア)と報じられた。

きっかけは独調査報道団体による10日の報道だ。報道によると、昨年11月に東部ポツダムでAfDのワイデル共同党首の側近ら約20人が出席する会合が開かれた。参加した右翼活動家が移民や難民のほか、市民権があっても出身地や肌の色が異なる「同化していない国民」を追放する計画を発表した。最大200万人の追放者を北アフリカに住まわせる案も話し合われた。

AfDは「会合は党が主催したものではない」と釈明したが、報道された計画はユダヤ人をマダガスカル島に移送するナチス・ドイツの計画を連想させるとして批判が噴出。

ショルツ首相は27日、ユダヤ人ら110万人以上が虐殺されたアウシュビッツ強制収容所がソ連軍による解放から79年を迎えたことを受け「右派のポピュリストが(今も)台頭し、恐怖をあおり、憎悪をまき散らしている」と非難した。

人種差別的な計画は独憲法に反しており、ショルツ氏率いる中道左派「社会民主党」の議員がAfDの活動禁止を求めた。

与党などが警戒を強める背景には、AfDの急速な躍進がある。移民排斥を掲げるAfDは2013年に結成後、経済低迷や急増する移民への不満の受け皿として支持を広げた。

謀議の報道後も、AfDは世論調査の支持率で連立与党3党を抜き、2位を維持する。昨年12月の独東部の市長選ではAfDの候補者が初当選。今年の旧東ドイツ3州の州議会選ではいずれも第1党となる公算が大きい。

ワイデル氏は、AfDが政権に就いた場合、欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の実施を目指すと明言。シリア難民流入など欧州を襲った危機の克服でかじ取り役になったドイツが、EUを不安定化させる恐れが生じている。

フランスでも昨年12月、極右「国民連合」の賛成を得て新移民法が成立。外国人労働者の社会保障の条件を厳格化するなど移民への厳しい内容が盛り込まれた。2万人以上の市民が今月21日、「(極右の)死の口づけで可決された」(仏紙)同法の廃止を求めるデモをパリなどで行った。【1月29日 産経】
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その後もAfDへの警戒感は根強く、EUのフォンデアライエン欧州委員長は「祖国を独裁者に売り渡している」と批判しています。

****「ドイツを独裁者に売り渡している」 欧州委員長、極右政党AfDを非難****
欧州連合のウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は8日、6月の欧州議会選を前にスキャンダルが相次いでいるドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」を「祖国を独裁者に売り渡している」と非難した。続投を目指すフォンデアライエン氏は、元ドイツ国防相。

AfDをめぐっては先月、欧州議会選の同党筆頭候補、マクシミリアン・クラー議員の側近が、中国のためにスパイ活動をしていた疑いで逮捕された。クラー議員自身も過去に、ロシアのプロパガンダ疑惑に巻き込まれたことがある。

フォンデアライエン氏は、自身が所属するドイツの保守政党「キリスト教民主同盟」の党大会でAfDについて、「振る舞いは極めて不誠実だ」「欧州議会選を前に、(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチンのためにプロパガンダを広め、中国のためにスパイ活動をしている」と非難。

「AfDはまず国民と祖国について騒ぎ立て、今度は祖国を独裁者に売り渡している。自らを恥じるべきだ」

さらに、AfDの欧州議会選での公約は雇用を破壊すると指摘し、AfDはドイツのEU離脱を軽率に論じているとも批判した。

6月の欧州議会選では、AfDを含む欧州各国の極右政党が議席を伸ばすとみられている。
反移民を掲げるAfDは昨年、支持率を大きく伸ばし、オラフ・ショルツ首相が所属する中道左派与党、社会民主党を抜き、CDUに次ぐ2位に浮上した。だが、相次ぐスキャンダルを受け、支持率は低下している。 【5月9日AFP】
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“相次ぐスキャンダル”・・・これをAfDの本性があらわれたもの、あるいは、“身から出たさび”と見るか、逆に、AfD以外の政治勢力が寄ってたかってAfDを潰しにかかっていると見るかは立場にもよります。

“欧州議会選のAfD筆頭候補、マクシミリアン・クラー議員の側近が、中国のためにスパイ活動をしていた疑いで逮捕された”事件についても、逮捕された側近は、かねて中国側スパイであると同時に、二重スパイとして中国側情報をドイツ当局に渡すことも企てており、当局側はその存在を以前から十分に把握し、監視していた人物とか。

そうした人物がなぜAfD筆頭候補になり得て、なぜ選挙直前の今逮捕されたのか・・・・AfD以外の政治勢力が“AfD潰し”に出ている結果だ・・・とする指摘もあるようです。
(5月3日 川口マーン恵美氏 “ドイツ政府が「AfD潰し」に王手か…!? 欧州議会選挙直前にAfDの筆頭候補者事務所で「中国スパイ」が逮捕され” 現代ビジネス)

AfDは潜在的な過激派政党と扱われていますが、司法もこれを是認しています。

****極右AfDの「潜在的過激派」分類は相当、独高裁が下位審支持****
ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を潜在的な過激派政党と国内情報機関が認定していることの是非を問う裁判で、ミュンスターの高等裁判所は13日、認定は相応であり、憲法、欧州や国内の民法に違反していないという下級審の2022年の判決を支持する決定を下した。

情報機関の連邦憲法擁護庁(BfV)は、AfDを21年から潜在的な過激派政党に分類している。

高裁は「AfDが特定の集団の人間の尊厳や民主主義に反する目標を追求しているという十分な証拠がある」と指摘した。

フェーザー内相は「判決は、民主主義が自らを守ることが可能なことを示した」と述べた。AfDは、詳細を明らかにせず、BfVに対する批判の一部を裁判所が認めたと述べ、上訴する方針を示した。

AfDは、今年選挙を実施する東部のいくつかの州で高い支持率を得ているが、党員の人種差別的発言などで最近、厳しい目が向けられている。【5月13日 ロイター】
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【右翼欧州議会会派からも追放】
AfDにとって痛手は、他の欧州各国の極右政党グループからも、そのナチス擁護体質を批判され、会派から追放されたこと。

*****欧州議会会派がドイツ右派を追放 ナチス親衛隊擁護発言、収賄容疑****
フランスの極右政党、国民連合(RN)などで構成する欧州連合(EU)欧州議会の会派「アイデンティティーと民主主義」は23日、ドイツの右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の議員団の追放を決めたと発表した。ナチス親衛隊(SS)出身者を擁護するような発言をするなど、AfD議員の相次ぐスキャンダルが理由。

会派は6月の欧州議会選で躍進が予想されていたが、亀裂が浮き彫りになった。

スキャンダルが相次いでいるのはAfDのクラー欧州議員。SSに所属していた人が犯罪者とは限らないとメディアに語り、RNが強く反発。AfDを排除する姿勢を鮮明にしていた。

ドイツの検察は、ロシアと中国から資金を受け取ったとする収賄容疑でクラー氏の予備捜査を開始。同氏のスタッフも中国のためにスパイ活動をした疑いで拘束されている。【5月24日 共同】
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【党勢陰りをカバーすべく強めているのがEU離脱の主張】
相次ぐスキャンダルで党勢の勢いに陰りもでてきたAfDが最近主張を強めているのがEUからの離脱。

****GDPで日本を抜いたドイツで浮上し始めたEU離脱の現実味****
経済合理性を凌駕する政治の理屈、英国に続く離脱は二度起きるか

ドイツの極右政党、ドイツのための選択肢(AfD)の共同党首の発言が物議を醸している。同党が2025年の総選挙で政権を奪取した場合、欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票を実施するという発言だ。

ドイツがEUを離脱すれば、EU単一市場を離脱することになるため、EU加盟国との間の貿易取引に関して免除されていた通関業務が発生する。ユーロ放棄による独自通貨の導入もドイツ経済を強く圧迫するだろう。

EU離脱は、EUに不満を抱える有権者に向けた強いメッセージ。AfDのような民族主義政党によって、EU離脱は定期的に蒸し返される主張となるだろう。(中略)

ワイデル共同党首がEU離脱の是非を問う国民投票の実施を謳った背景には、AfDの支持率の低下があると考えられる。(中略)

政治の理屈は、時として経済的な合理性を凌駕する。そのことを体現したのが、英国のEU離脱だった。(後略)【5月24日 土田陽介氏 JBpress】
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ジョージア  ロシアに宥和的な与党 ロシア同様「外国の代理人(スパイ)」法案可決を強行

2024-05-24 23:42:22 | 欧州情勢

(ジョージアと欧州連合(EU)の旗を身にまとって警官と対峙するデモ参加者=14日【5月15日 CNN】)

【与党「ジョージアの夢」 表向き“親欧米路線であり、EU加盟を目標とする”とされるが反欧米・対ロシア宥和路線が目立つ】
ロシア系分離独立地域南オセチアとアブハジアを抱える旧ソ連のグルジア(現在の国名はジョージア)とロシアの関係は、多くの旧ソ連構成国同様に微妙です。

この国が国際的に注目されたのは、2008年に起きたロシアとの軍事衝突でした。

プーチン首相(当時)が北京オリンピック開会式に出席していた8月(メドヴェージェフ大統領は休暇中)、ジョージア側の暴発気味の行動で始まった戦争でしたが、(待ち構えていた)ロシアは親ロシア系住民を守る目的でロシア系分離独立地域南オセチアとアブハジアに軍を投入し圧勝、ジョージア(グルジア)は完敗。「5日間戦争」の別称が示すように超短期で終わりました。

おそらくウクライナ侵攻を企てたプーチン大統領の頭の中には、この2008年の成功体験があったのではないでしょうか。

ジョージアにとって、この戦争によってロシアとの関係はますます重要・複雑なものになっています。

上記2008年のロシア・グルジア戦争を引き起こしたサアカシュヴィリ大統領(当時)の「統一国民運動」を破り、政権を獲得した現在の与党「ジョージアの夢」は、表向き“親欧米路線であり、EU加盟を目標とする”とされながらも、ウクライナ侵略後のロシアに融和的な政策をとっています。

その“親欧米路線”の方は、かなり色褪せてきているようにも。

*****与党「ジョージアの夢」と欧米の関係*****
2022年、欧州連合加盟を申請したウクライナ、ジョージア、モルドバのうち、ジョージアのみ報道の自由など人権上の問題を理由に加盟候補入りを留保されたこと、欧州連合が拘束力のない決議ながらこれらの問題の解決を求めたこと、そして(実質的オーナーである大富豪)イヴァニシヴィリ初代党首の制裁を欧州理事会に求めたことなどに「ジョージアの夢」は反発。

さらに、西側諸国のNGOがジョージア政府への抗議活動を行ったことを受け、スバリら9名の議員は戦術上の相違を理由にグルジアの夢を離党して「人民の力」を結成。(中略)

同党はアメリカなどの「グルジアへの干渉」を非難するとともに「ジョージアの夢」と政策上連携しており、2023年に一度撤回した外国のエージェント登録法案を2024年に共同で提出して5月15日に成立させ[14]、国民の反発を招いている【ウィキペディア】
********************

“親欧米路線”というよりは、欧米との刺々しい関係の方がめだちます。

【23年に抗議行動を受けていったん撤回された「外国人代理人」法案】
そうした反欧米的な感情がしみ込んだ“国外から20%以上の資金提供を受けている団体に外国の代理人としての登録を義務付け、未登録の団体には多額の罰金を科す「外国の代理人」に関する法案”(ロシアにもそっくりの法律があり、政権に敵対的なNGO弾圧に活用されています)は、2023年3月に一度撤回されました。

****ジョージア与党、「外国人代理人」法案を撤回 抗議デモ受け****
旧ソ連構成国ジョージアの与党は9日、2日間にわたる激しい抗議デモを引き起こした「外国の代理人」に関する法案を撤回すると発表した。

与党「ジョージアの夢」は声明で、社会における「対立」を緩和する必要があるとして、同法案を無条件で取り下げると表明した。その一方で、「過激な野党」が法案について「うそ」を広めたと非難した。

同法案は国外から20%以上の資金提供を受けている団体に外国の代理人としての登録を義務付け、未登録の団体には多額の罰金を科す内容だった。

欧州連合(EU)の代表団は法案の撤回を歓迎し「ジョージアの全ての政治指導者が包括的かつ建設的な方法で親EU路線の改革を再開するよう働きかける」とツイッターに投稿した。

ジョージア議会は7日に法案可決の第1段階のプロセスを終えたが、反発する多数の市民が議会の外に集まり一部が警察と激しく衝突した。治安当局によると77人が拘束された。【2023年3月9日 ロイター】
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反対派は、この法案が2012年にロシアで制定され言論弾圧に使用された法律に類似していると批判。将来的な目標であるEU加盟が遠のくと懸念していました。

【今年4月 与党再提出 抗議を振り切って可決 大統領は拒否権行使も議会で覆すことが可能】
2023年5月、ウクライナとロシアの戦争のさなか、ジョージアはロシア行き直行便の再開を許可。これにウクライナは激しく反発しましたが、ロシア・プーチン大統領は・・・

****プーチン氏、ジョージアでの反ロデモに「頭がおかしい」****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は26日、同国とジョージア間の直行便の再開を受けてジョージアで反ロシアデモが起きたことに驚かされたと述べた。

ジョージアの首都トビリシの空港には先週、2019年以来初めてロシアからの直行便が着陸した。しかし、空港前では数十人が抗議デモを実施。「お呼びでない」「ロシアはテロ国家」と書かれたプラカードを掲げた。

プーチン氏はテレビ中継された財界人との会合で、「正直に言って、この反応には非常に驚かされた」「皆に『ありがとう、いいね』と言われると思っていたが、この件をめぐる騒ぎは理解し難い」「ここから見ると、彼らは頭がおかしいとしか思えない」と語った。

ロシアは2008年、ジョージアに軍事介入し、親ロシア派地域の南オセチアとアブハジアの「独立」を承認した。このためジョージアでは反ロシア感情が今も根強い。 【2023年5月27日 AFP】AFPBB News
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そして今年4月、「外国人代理人」法案の第2ラウンド。政府は「外国の代理人」の呼称を「外国の利益のため活動する組織」と修正して議会に再提出。

*****ジョージアで「反スパイ法案」巡り再び抗議デモ 「ロシア化」を危惧 治安部隊と衝突****
欧州連合(EU)加盟を目指す旧ソ連構成国、ジョージア(グルジア)の議会で4月30日、スパイ活動の抑止を名目とした「外国の影響の透明性に関する法案」の第2読会(3段階審議の2番目)が始まった。首都トビリシでは同日、法案に反対する国民が第1読会の際に続いて抗議デモを実施。治安部隊が放水や催涙ガスを使った鎮圧に乗り出した。タス通信などが伝えた。

SNS(交流サイト)には、治安部隊がデモ隊に暴力を振るう様子を撮影したとする動画が投稿された。

法案は、外国から資金提供を受けて活動する団体を事実上のスパイとみなして当局への財務報告を義務付け、違反した場合は2万5千ラリ(約147万円)の罰金を科すとする内容。4月上旬にコバヒゼ政権の与党「ジョージアの夢」が議会に提出していた。

ただ、類似の法律「外国の代理人法」が施行されているロシアでは、プーチン政権側が反体制派勢力や人権団体、独立系メディアなどを弾圧するための道具として同法を活用。ジョージアの法案に対しては、米国やEUも「人権侵害や言論の自由の悪化につながる」と可決に反対している。

このためデモ隊は、与党がロシアのように法律を恣意(しい)的に運用し、政治弾圧に使う恐れがあると反発。「EU加盟が遠のく」とも主張してきた。

一方、与党は「法案は外国勢力の活動を監視するために不可欠で、EUとジョージアをむしろ近づける」と反論。欧米の批判やデモ隊の主張には根拠がないとして法案を断固成立させる構えで、4月17日の第1読会で法案を可決した。

ジョージアの夢は親欧米派政党だが、ロシアとの対立回避も重視。野党勢力からは「親露的」「強権的」だと批判されてきた。【5月1日 産経】
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法案は5月14日に可決されました。

*****ジョージア議会で“スパイ法案”可決 議場で乱闘、大規模デモも*****
旧ソ連のジョージア議会で14日、外国から資金提供を受ける団体を事実上「スパイ」とみなす法案が可決されました。議場で乱闘が起きたほか、大規模な抗議デモも行われました。

ジョージア議会で可決された「外国の代理人」法案は、外国から資金提供を受けている団体を事実上「スパイ」とみなして規制するもので、ロシアでも同様の法律が市民の抑圧に使われていることから、「ロシア法」などと呼ばれ批判されています。

ロシアメディアによりますと、法案は14日、与党「ジョージアの夢」などの賛成多数で可決しましたが、議場では野党議員との間でもみ合いとなりました。また、法案に反対するデモ隊が集まり、議会への突入を試みるなど激しい抗議デモに発展しました。

法案はズラビシビリ大統領の署名によって成立しますが、大統領は「EU=ヨーロッパ連合加盟への道を閉ざす」として拒否権の行使を表明していて、混乱が続いています。【5月15日 日テレNEWS】
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ズラビシビリ大統領は拒否権を行使していますが、議会は過半数の賛成で拒否権を覆すことができます。

****ジョージアでスパイ法案に拒否権 親EUのズラビシビリ大統領****
旧ソ連ジョージア(グルジア)のズラビシビリ大統領は18日、外国から資金提供を受ける団体を事実上スパイと見なす法案に拒否権を発動したと明らかにした。タス通信が伝えた。議会は過半数の賛成で拒否権を覆すことができる。
 
ズラビシビリ氏は親欧州連合(EU)の立場。議会が14日採択した法案はロシアのプーチン政権が反対派排除に使う法律に類似しているとして、野党側は抗議デモを継続。ジョージアが加盟を目指すEUや米国も懸念を示している。

法案は予算の20%以上を外国の資金に頼る組織やメディアを法務省に登録させる内容。【5月19日 共同】
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ズラビシビリ大統領はブリーフィングで「私は今日、ロシアの法律に拒否権を発動した。この法律は本質的にも精神的にもロシア的なものだ」とした上で「わが国の憲法と欧州の全規範に反するものであり、わが国の欧州への道を阻むものである」と主張しました。

【背後には、与党創設者であるイヴァニシヴィリ氏の、更にはロシア・プーチン大統領の思惑も】
一連の動きを見ると、与党「ジョージアの夢」こそがロシアの代理人ではないか・・・とも思えます。

*****【裏でロシアが手を引いている?】ジョージア新法案へ大規模デモ、プーチンがEU加盟阻止を図る地政学的理由*****
ジョージアは、ロシアと同様の「外国の代理人」を取り締まる法案を推進し、5月14日同法案を可決した。首都トビリシでは抗議運動が大規模なデモに発展している。

法案が審議入りした際の4月17日付けワシントン・ポスト紙は、国内で大きな反発が生じていることを報じるとともに、同国の欧州連合(EU)加盟の障害となるのではないかと指摘する解説記事‘Georgia pushes Russian-style ‘foreign agent’ law, putting E.U. bid at risk’を掲載している。概要は次の通り。

ジョージアの法案にロシアのプーチン大統領の関与はあるのか?(代表撮影/AP/アフロ)
ジョージアの議会は、4月17日、非常に異論の多い「外国の代理人」を取り締まる法案を前進させた。この法案は、ロシアにおいて、政治的反対勢力をつぶすために用いられてきた法律と同様の内容のものである。

ジョージアでは、この法案は、大規模の街頭デモと非難を引き起こしたが、サロメ・ズラビシヴィリ大統領も同法案を非難している一人である。同大統領は、ジョージアの議会と政府を支配している政党「ジョージアの夢」には所属していない。

ズラビシヴィリ大統領をはじめとする同法案の批判者は、この法案自体、ロシアが背後にいて、外国の介入の手段となるものであり、ジョージアが申請しているEU加盟を困難にさせる狙いのものだとしている。「国民の意思に反してこの法案を進めようとすること自体が直接の挑発であり、ジョージアを不安定化させるロシアの戦略だ」と同大統領はXに投稿した。

同法案が成立すると、資金の20%以上を外国から得ている非政府機関、活動家集団、メディアは「外国の代理人」として登録することを求められる。ロシアにおいては、同様の法律により、多くの政治的な反対派が迫害され、メディア、人権団体が閉鎖に追い込まれた。それには、2022年のノーベル平和賞を受賞した人権団体「メモリアル」も含まれる。
 
ジョージア政府は、同法案はジョージアの政治から外国の影響力を排除するために必要だと主張している。一方、同法案については、親露派のオリガルヒであり、元首相で与党「ジョージアの夢」の実際上の指導者であるビジナ・イヴァニシヴィリの方針によって、政府がロシアの勢力圏に逆戻りしつつあり、EU加盟の計画を壊そうとしていることの現れではないかとの懸念が持たれている。

ジョージアは、昨年、EU加盟候補国の地位を得たが、ブリュッセルでは、ジョージアが民主化に逆行するのではないかとの懸念がある。
 *   *   *
(論評)
大国間競争の中でのジョージアの存在
 ロシア・ウクライナ戦争が進行する中、その先の地域情勢を考えると、ジョージアは、バルト三国、モルドバなどとともに要注目の国である。(中略)

プーチンの西側への姿勢の変化をもたらしたのは、北大西洋条約機構(NATO)拡大、ミサイル防衛もさることながら、いくつかの旧ソ連諸国における、いわゆるカラー革命の影響が大きいと思われる。  

特に、03年のジョージアのバラ革命、04年のウクライナのオレンジ革命によって、国境を接する隣国において、民衆の街頭行動によって政権が倒され、親西欧の政権が誕生したことは、プーチンに深刻な危機感を呼び起こしたであろう。  

それだけに、ウクライナとジョージアのNATO加盟を阻止することは、プーチンにとっては至上命題となった。08年、それが議題となったブカレストで開催されたNATO首脳会議には、プーチンが自ら赴き、反対論をぶった。
 
賛否両論がぶつかり合った結果、同首脳会議の共同声明は「いつ」「どのように」は棚上げした上で、ウクライナとジョージアは「将来加盟国となるであろう」と記す玉虫色の決着となった。NATO加盟を目指したジョージアは不満であったが、これを阻止しようとしたロシアも不満であった。ロシア・ジョージア戦争が勃発したのはその4カ月後のことであった。

続く欧州とロシアとの複雑な関係
ジョージアはロシア・ジョージア戦争で敗北し、ロシアは「凍結された紛争」の南オセチアとアブハジアの独立を承認した。

ジョージアでは、南オセチアに攻め込むことでロシアに介入の機会を与えたサーカシュヴィリ大統領が率いた「統一国民運動」は12年に政権を失い、政党「ジョージアの夢」が政権の座に就いた。「ジョージアの夢」は、ロシアと関係の深いオルガルヒのビジナ・イヴァニシヴィリが創設した政党である。  

ジョージアでは、一方では欧米への接近、他方ではロシアとの宥和という二つの力学が複雑にぶつかり合っている。08年の戦争以来、ロシアとの外交関係は断絶しており、国民の多くが親欧米路線を支持している。

「ジョージアの夢」の下、ジョージアはEUとNATOへの加盟を目指す一方で、ウクライナ侵攻についての制裁などの対応においては、ロシアを刺激しすぎないように注意を払ってきている。  

そうした中での今回の「外国の代理人」法の可決である。ジョージアでは、同法の背後に「ジョージアの夢」の創設者であるイヴァニシヴィリの影を見ての懸念が持たれている。すなわち、同法は、ロシアへの宥和でありEU加盟を挫折させようとする試みであるとの懸念であり、民主主義の圧殺に繋がるとの懸念である。  

ジョージアでは、今年10月に総選挙を控えている。「ジョージアの夢」においては、前記の対ロシア関係、対EU関係からの考慮に加え、選挙戦を有利にしたいとの考慮も働いているのであろう。  

NGO、メディアなどの影響力を考えると、外国からの資金は、政権与党の行動を監視する方向に使われることが多いと考えられる。

ジョージアは、12年に総選挙によって政権交代が行われた国であるが、「外国の代理人」法の可決は、同国で民主主義が実質的に機能し続けるのかどうかに大きく関わるものとして注視される。【5月22日 WEDGE】
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旧ソ連の国ではロシアに対する感情は微妙です。ロシア語を使い、ロシアに協調的な国民もいます。また、ロシアへの恐怖からロシアを刺激することを回避する国民もいます。

今年10月に行われる総選挙で、「ジョージアの夢」の対ロシア宥和路線が国民によってどのように評価されるのか。
ただ、2020年10月31日の総選挙では野党勢力は選挙不正があったと主張し、11月21日の第2回目投票をボイコットしたといった経緯もありますので、「公正な選挙」が行われるのかも注目されるところです。
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ウクライナ  物量に勝る露軍に対し後退 米の支援再開で立て直し図る 長距離ATACMS実戦投入

2024-05-05 23:16:11 | 欧州情勢

(長距離射程の地対地ミサイルATACMS(エイタクムス)【5月2日 Newsweek】 かなりごっつい兵器です)

【物量に勝るロシア軍の攻勢で後退を余儀なくされているウクライナ】
ウクライナの戦況は、大砲・ミサイルを撃ち合う古典的な「陣取り合戦」的な様相を呈し、物量に勝るロシアが、アメリカの支援が国内の与野党対立で滞りがちなウクライナをジワジワと押しているような状況です。

****ウクライナ総司令官、東部前線「状況悪化」 ロ軍攻勢で後退****
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は28日、東部戦線で部隊が3つの村から新たな陣地に後退したと明らかにした。

通信アプリのテレグラムで「前線の状況は悪化している」と述べ、2月にロシア軍が制圧したアブデーフカの北西およびマリンカの西側が「最も困難」な状況だとした。

ゼレンスキー大統領は28日に米民主党のジェフリーズ下院院内総務と会談し、防空システム「パトリオット」が早急に必要だと強調した。

シルスキー氏によると、部隊はアブデーフカの北の2つの村と、マリンカに近い村に新たな陣地を構えた。これらの地域では、ロシア軍が制圧には至っていないものの「戦術的に一定の成功」を収めているという。

ロシア軍は要衝アブデーフカを制圧後、じりじりと進軍している。

シルスキー氏は、新たな要衝となっているチャソフヤールとその北東の村が「最もホットな場所」とした。ロシア国防省は、チャソフヤール付近でウクライナの反撃を退けたと発表した。

シルスキー氏はさらに、北東部の第2の都市ハリコフへのロシア軍増派を注視していると述べた。ロシアが北部攻勢を準備する兆候はないとしたものの、ウクライナ軍の態勢を強化したと説明した。【4月29日 ロイター】
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「最もホットな場所」チャソフヤールについては、ウクライナ側の見解でも“陥落も時間の問題”とも。

****要衝陥落「時間の問題」 兵器不足、交渉も視野****
ウクライナ国防省情報総局のスキビツキー副局長は4日までに英誌エコノミストの取材に応じ、東部ドネツク州の要衝チャソフヤールがロシア軍に制圧されるのは「時間の問題」だと語った。ウクライナ軍は砲弾や兵器が不足しており「全ては備蓄と供給次第だ」と強調した。

ロシア軍を国境まで押し戻せたとしても戦争は終わらず、交渉を通じた終結しか道はないとの見方も示した。両軍は交渉の可能性を視野に、自国が「最も有利な立場」となるために攻防を続けていると述べた。

ドネツク州のロシア側実効支配地域「ドネツク人民共和国」の軍関係者は4日、タス通信に対し、チャソフヤールをロシア側が事実上包囲したと語った。チャソフヤールに入る複数の主要道路がロシア側の射程内に入っており、ウクライナ側は兵員や兵器を補充できないと説明した。

ウクライナ軍にとって、高台に位置するチャソフヤールは東部前線での重要拠点。スキビツキー氏は、ロシア軍が東部ハリコフ州や北東部スムイ州周辺でも攻撃準備を進め、兵力拡大を図っていると指摘した。【5月5日 共同】
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【双方とも、クラスター爆弾使用 相手側のインフラ施設攻撃】
互いに厳しい消耗戦が続く中で、人道的建前より軍事的有効性が優先しがちです。

****南部攻撃にクラスター弾 検事総長、ロシアを非難****
ウクライナのコスチン検事総長は4月30日、南部オデッサで29日にあったロシア軍のミサイル攻撃について、クラスター(集束)弾が使われたと発表した。クラスター弾は親爆弾から多数の子爆弾を広範囲にまき散らす。コスチン氏は「可能な限り多くの民間人を殺害しようとした」と非難した。

コスチン氏によると、弾道ミサイルの弾頭にクラスター弾が使われ、半径1.5キロにわたって金属片が飛び散った。オデッサの攻撃では5人が死亡し、30人以上が負傷した。

ロシアは2022年2月の侵攻開始の直後からクラスター弾を多用。一方のウクライナも、米国供与のクラスター弾を実戦に投入している。【5月1日 共同】
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そして戦場での陣取り合戦と並行して、発電所などインフラ施設を狙った相手方の体力消耗を意図したボディーブローのような攻撃の応酬ともなっています。

****ウクライナのエネルギー関連施設に大規模ミサイル攻撃 4つの発電所に被害、一方ロシアでは製油所などにドローン攻撃、インフラ施設への攻撃の応酬激化****
ウクライナのエネルギー関連施設にロシアのミサイルなどによる大規模な攻撃があり、4つの発電所が被害を受けました。一方、ウクライナもロシア南部の製油所などをドローンで攻撃していて、双方によるインフラ施設への攻撃の応酬が激化しています。

ウクライナのエネルギー省などによりますと、26日夜から27日未明にかけて、中部ドニプロペトロウシク州や西部リビウ州などのエネルギー関連施設に攻撃がありました。

ウクライナの電力会社によりますと、4つの火力発電所が深刻な被害を受け、発電所の作業員1人がケガをしたということです。

ゼレンスキー大統領は27日、ロシアが様々な種類のミサイルで攻撃を行った、として非難。各国に対し、地対空ミサイルシステム「パトリオット」が「最低でも7基必要だ」と改めて訴えました。

一方、ロシア国防省は、26日夜、ウクライナから発射されたドローンを南部のクラスノダール地方で66機撃墜したと発表しました。また、ロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島でも2機のドローンを撃墜したとしています。

ロシア国営のタス通信などによりますと、クラスノダール地方では27日未明に製油所がウクライナのドローン攻撃を受け、火災が発生。部分的に操業が停止されたということです。

ロイター通信は、ウクライナ当局者の話として、ウクライナ保安局がロシアのクラスノダール地方の2つの製油所と、軍用飛行場にドローン攻撃を行ったと報じています。【4月28日 TBS NEWS DIG】
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【アメリカの支援再開でウクライナの戦線立て直し期待】
苦境にあるウクライナにとっての希望はアメリカの支援再開。

****米国が支援再開 ウクライナ“戦線立て直し”は? 最前線の兵士からは歓声も****
昨年末から途絶えていた米国からのウクライナへの軍事支援が再開される見通しとなった。(4月)24日、約610億ドル(約9兆4000億円)規模の対ウクライナ追加軍事支援予算が成立した。バイデン大統領は、「ウクライナ東部の塹壕で歓声が沸き起こっているとの報告があった。兵士は下院の採決を見ながら、歓声を上げていた」と語った。

今回の予算成立の当日、バイデン米大統領は第一弾として、10億ドル(約1580億円)の兵器供給を承認した。対空ミサイル「スティンガー」、対戦車ミサイル「TOW」、対戦車ミサイル「ジャベリン」、歩兵戦闘車「ブラッドレー」、105ミリ、155ミリの砲弾などがウクライナに供給される。

また、スナク英首相が23日にポーランドを訪問し、ウクライナに対して5億ポンド(約960億円)に及ぶ追加の軍事支援を約束した。1月に英国から実施された支援の合計は約30億ポンド(5880億円)に上る。

英国からの支援には、巡航ミサイル「ストームシャドー」などのミサイル1600発、弾薬400万発が含まれ、過去最大規模の軍事装備品の供与となる。

一方、ウクライナへの支援を協議する国際会議が26日、ドイツ西部のラムシュタイン米空軍基地で開かれ、会議に出席したゼレンスキー大統領は、「長距離兵器と防空システムが必要だ。2024年の年初以来、ロシア軍が9000発以上の誘導滑空爆弾を使用している」と報告した。

ウクライナ政府は24日、兵役の対象年齢にある男性国民に対し、パスポートの発給など領事サービスの提供を一時的に停止する規則を承認したと発表した。ロシアの侵攻により、軍の人員不足が深刻化する中、動員対象年齢の男性の帰国を促す思惑があると見られる。

また、ウクライナは今月、動員に関する法改正を実施した。徴兵年齢を27歳から25歳に引き下げた。3年後に動員が解除される条項は削除された。(後略)【4月28日 テレ朝news】
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【多数の兵役逃れ 受入国でも厳しい対応に】
上記記事後半の兵員不足の問題については、ウクライナ国民全員積極的に戦争に参加している訳ではなく、「こんな戦争で死にたくない」という者は当然に多数存在しますし、一部は兵役逃れという形にも。ウクライナ当局はそうした兵役逃れを厳しく取り締まっています。

****兵役逃れで越境30人死亡 戦死者増え戦力低下****
ウクライナ国境警備隊のデムチェンコ報道官はロシアによる2022年2月の侵攻開始後、兵役逃れでウクライナから「約30人が違法に国境を越えようとして死亡した」と述べた。地元メディアが29日に報じたインタビューで語った。

侵攻が長期化し戦死者が膨らむ中、兵員不足による戦力低下が懸念材料となっている。ゼレンスキー大統領は4月、兵力確保のため、動員対象年齢の引き下げなどに関する法案に署名した。

デムチェンコ氏は「毎日約120人の出国を拒絶している」と述べた。兵役逃れを手助けする450の犯罪集団を摘発したとも明らかにした。隣接するモルドバやルーマニアに違法に越境するには険しい山を歩き川を横切る必要があり、川でおぼれて死亡する例が少なくない。(後略)【4月30日 共同】
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越境で30人死亡というのは少ないような気もしますが、もしそういうことであれば、戦争に参加するよりはるかにリスクは低い選択ということになります。

ただ、ウクライナを支援する隣接する国のウクライナ出国者への対応は厳しくなっています。

****徴兵逃れのウクライナ人「保護しない」 ポーランド高官****
ポーランドのアンジェイ・セジュナ外務次官は4月30日、自国に滞在している徴兵を逃れたウクライナ人を「保護」しない意向を表明した。ポーランドはこの問題について、欧州連合に対応を求めている。(中略)

国連難民高等弁務官事務所によると、今年2月時点でポーランドでは95万2104人のウクライナ人が難民登録されており、このうち16%に当たる15万2656人が徴兵対象年齢に当たる。

セジュナ氏は公共放送ポーランド・テレビに対し、「わが国が徴兵忌避者を保護することは決してない」と主張。
徴兵対象年齢のウクライナ人男性の扱いについて、現時点でウクライナから正式な要請は受けていないとした上で、「要請があれば、国内法と欧州法にのっとって行動する」と述べた。

ポーランドとリトアニアは先週、それぞれ自国に滞在している徴兵対象年齢のウクライナ人男性の帰国を支援する用意があると表明した。

ポーランドのブワディスワフ・コシニャクカミシュ国防相は、ウクライナから徴兵対象者の移送支援を要請された場合、ポーランドは同意するかとの質問に対しては「すべては可能だ」と回答。4月30日には、この問題に関して「欧州の解決策」を求めた。 【5月1日 AFP】
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徴兵対象者を強制送還して戦場に送り込むのか・・・ポーランドなども悩ましい判断でしょう。自国判断ではなくEUの判断に委ねたいところ。

【アメリカ 「ゲームチェンジャー」とも期待される長距離射程のATACMS供与】
アメリカの武器支援に話を戻すと、注目されている兵器がATACMS(エイタクムス)という長距離ミサイル。

アメリカはロシア領内攻撃も可能になる長距離の兵器は出し渋っていましたが、高機動ロケット砲システム(HIMARS)に続いて、戦況の悪化に促される形で、最大射程300キロメートルとより長距離のATACMSを秘密裏に提供しているようです。

****ウクライナ「ゲームチェンジャー」の期待 米ATACMS供与、すでに実戦使用****
ロシアの侵略を受けるウクライナに対し、米政府が長射程の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」の供与に踏み切った。米国が供与してきた兵器では最長の射程で、すでに相当数が極秘裏に輸送された。24日に米国で成立したウクライナ向け緊急支援の予算を財源にして供与量を増やす。

ウクライナが戦闘の膠着(こうちゃく)を脱し、反攻に出る「ゲームチェンジャーとなる可能性」(米紙ワシントン・ポスト)が期待されている。(中略)

ATACMSの射程は300キロ超で、占領地奥深くの露軍拠点に打撃を加えられる。ロイター通信によると、17日には前線から165キロ離れたクリミア半島の飛行場攻撃で使用された。

ウクライナは一昨年秋からATACMS供与を求めていたが、米側が在庫不足を理由に渋っていた。露国内への攻撃に使われ、米露の直接衝突に発展するリスクを懸念したとみられる。

サリバン氏によると、バイデン大統領が2月、ウクライナ領内での使用を条件に「相当数の供給」を指示し、3月に輸送を開始した。供与に踏み切ったのは、米防衛産業の供給態勢が整い、露軍が北朝鮮製の弾道ミサイルで民間インフラへの攻撃を激化させたからだとしている。

バイデン氏はロシアの侵略開始以降、西側仕様の戦車やF16戦闘機など、ウクライナが求めた兵器供与を許可するまでに長時間を要した。プーチン露大統領が軍事行動をエスカレートさせるリスクを測ったためだが、そのたびに「時機を逸した」と野党・共和党や軍事専門家に批判された。

緊急予算は、ATACMS供与をわざわざ明記し、大統領が国益上の理由で供与を中止する際には説明を求める条文も盛り込んだ。議会はバイデン氏の腰が引けるのを警戒したようだ。

米シンクタンク「戦争研究所」は24日、供与の遅れにより、露軍はATACMSの効果を減らすための「時間的猶予」を得た可能性があると指摘。その一方、「十分な量が届けば、ウクライナは露軍の補給を劣化させ、後方の航空基地を脅かせる」と分析した。【4月26日 産経】
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このATACMSにクラスター弾を積んで、支配地域から100kmほども離れた場所に集結するロシア兵を狙って大きな被害を与える様子を写す動画も拡散しています。

ロシアにとっても、ウクライナにとっても、極めて核心的重要性を持つのがクリミアですが、そのクリミアへの物資を支える大動脈がクリミア大橋。

これまでもウクライナは2022年10月と23年7月の2回、クリミア大橋への攻撃を行ってはいますが、戦術的には、射程の長いATACMSを使えば攻撃はより容易になると思われます。防空システムを突破する対応が必要にはなりますが。

****ウクライナ軍、長距離ミサイルATACMSでクリミア大橋の攻撃を計画? レーダー撹乱用の米製デコイも使用****
<4月末にもアメリカから供与を受けたばかりの長距離ミサイル「ATACMS」がクリミア半島に飛来、橋は一時通行止めに>

ウクライナ軍が先週、アメリカから供与を受けたばかりの長距離ミサイルATACMS(最大射程300キロ)を使って、ロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島を攻撃。これにより、ロシア本土とクリミア半島を結ぶクリミア大橋が一時的に通行停止となった。

クリミア大橋に関する交通情報を定期的に更新しているテレグラムのチャンネルが、4月30日午前1時25分に「クリミア大橋は一時的に車両通行止めとなっている」との情報を投稿した。その後、通行止めは解除された。ロシア国防省は、6発のATACMSを迎撃したと発表した。

道路橋と鉄道橋が並行する全長約19キロメートルのクリミア大橋は、ロシア軍の重要な補給路として利用されており、ロシア軍がウクライナ南部で攻勢を維持する上できわめて重要な存在だ。クリミア奪還を目指すウクライナ側は2022年10月と2023年7月にこのクリミア大橋を攻撃しており、今後も攻撃を行うと宣言している。

ロシア軍が占拠しているウクライナ南部ザポリッジャで活動する親ロシア団体「We Are Together With Russia(我々はロシアと共にある)」の代表で軍事ブロガーのウラジーミル・ロゴフはテレグラムに投稿を行い、ウクライナ軍が4月29日の夜間にクリミア半島に向けてATACMSを発射したと述べた。

「ウクライナ軍が今夜、クリミア共和国に向けてミサイルを発射した」とロゴフは投稿し、さらにこう続けた。「クリミア半島の上空で、ロシア軍の防空システムが作動した。最新情報によれば、我々の防空システムは素晴らしい仕事をした」

米国製のデコイでレーダー撹乱か
(中略)ロシアの軍事ブロガーの間では、ウクライナ軍がクリミア大橋の攻撃を準備しているのではないか、との危惧が高まっている。

ロシア国防省とつながりのあるテレグラムチャンネル「Rybar(リバル)」は4月下旬、ウクライナ軍がクリミア半島への新たな攻撃の準備として、ロシア軍の防空システムとレーダーをかく乱するために、電子妨害能力を持つ米国製ADM-160B MALD(ミニチュア空中発射デコイ)ミサイルを発射した可能性があると伝えた。

同チャンネルは、クリミア大橋への攻撃はロシアのウラジーミル・プーチン大統領の就任式よりも前に行われる可能性があると予想している。プーチンは3月に行われたロシア大統領選挙で勝利し、5月7日に通算5期目の就任式を迎える。

「ウクライナ当局は、象徴的なものが大好きだ。それを考えると、注目度の高いクリミア大橋を再び標的にする可能性はある」とRybarは予想した。【5月2日 Newsweek】
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アメリカは能力的にはロシア領内攻撃も可能なATACMSを供与していますが、イギリスからもロシア領内攻撃を認める発言が。
「ウクライナにはイギリスが供与した兵器でロシア領内の標的を攻撃する権利があり、実際に行うかどうかはウクライナ次第だ」(5月2日 キャメロン外相)

ウクライナ側の苦戦で、米英ともになりふり構っていられない状況にもなっているようです。
5月7日のプーチン大統領の就任式・・・二日後です。何か大きな作戦が行われるのでしょうか。
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欧州  脱「中国依存」の動き 警戒する習近平主席訪中 「欧州は米の属国集団ではない」マクロン氏

2024-05-04 23:10:46 | 欧州情勢

(【22年1月7日 伊藤さゆり氏 ニッセイ基礎研究所「変わるEUの対中スタンス-日本はどう向き合うべきか?」】)

【中国の過剰生産能力問題】
中国における公的な補助金などに支援された過剰生産能力が海外への格安の輸出へと向かい、輸出先経済に大きな被害を与えている・・・という過剰生産能力を最近アメリカがしきりに主張しています。


****中国、過剰生産能力を問題視する米国非難、「いかなる選択肢も排除せず」と米財務長官****
中国は自国の過剰生産能力を問題視する米国をこれまでで最も激しい調子で非難した、と米ブルームバーグ通信が伝えた。

イエレン米財務長官は「追加関税の可能性をも含め中国の過剰生産能力への対応で米国はいかなる選択肢も排除しない」との考えを表明。中国側のいら立ちが高まっている。

中国政府は減速する経済の新たな成長源を模索。製造業に資金を投入し電気自動車(EV)やバッテリー、再生可能エネルギーといった新たな産業に力を注いでいる。

こうした中、米中関係の安定化を試すさまざまな問題が生じている。バイデン米大統領は中国からの鉄鋼・アルミニウム輸入のうち、現在の関税率が0%ないし7.5%の製品について税率を25%に引き上げるよう提案。中国は「排外主義的だ」と反発した

ブルームバーグ通信によると、イエレン氏は14日放送された米CNNの番組で「中国が過剰生産能力を持つ分野で、われわれの市場に中国からの輸出が急増する可能性を懸念している」と発言。「私は彼らとの話し合いの中で、これが米国だけでなく、欧州や日本、さらにインド、メキシコ、ブラジルといった新興国市場にとっても懸念事項であることを明確に伝えてきた」と語った。

イエレン氏は4月上旬に訪中し、中国の「不公正な経済慣行」を批判。中国に進出している米国およびその他の外国企業に対する不当な扱いや特定分野での過剰生産への補助金を通じた世界市場わい曲などへの懸念を強調した。

米国による追加関税の可能性を問われると、イエレン氏は「可能性のある対応策として何も排除するつもりはない。だが、われわれはこの関係を本当に責任を持って管理したいと思っている」と答えた。

米通商代表部(USTR)は中国造船業の不公正慣行の調査を開始すると発表。議会は動画共有アプリ「TikTok」を親会社の字節跳動(バイトダンス)から切り離そうと取り組んでいる。

これに対し、中国外交部の23日の声明によると、同部の北米大洋州司に属する匿名の当局者は直近のブリーフィングで、米国の批判には「競争上より有利な地位と市場での優位性を得るために中国の産業発展を制限・抑制しようとする悪意が含まれている」と言及。「露骨な経済的強制であり、いじめだ」と訴えた。

ブルームバーグ通信は「今回の当局者の発言は中国政府のいら立ちが高まっていることを示唆している」と指摘。同当局者は「米国は中国を封じ込める戦略をかたくなに進めており、中国の内政に干渉し、中国のイメージを傷付け、中国の利益を害する間違った言動を続けている。われわれはこれに断固として反対し、対抗する」と主張したという。【4月26日 レコードチャイナ】
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26日に訪中したブリンケン米国務長官と王毅政治局員兼外相や、習近平国家主席との会談しました。
バイデン政権としては、これから11月までは大統領選挙に専念することになるので、この時点で米中間の対話継続を確認したかったと思われます。

ただ、バイデン政権は共和党からは対中国「弱腰」を批判される立場にあります。選挙戦のなかで対中国強硬姿勢で自国労働者の雇用維持をバイデン・トランプ両氏が争うことにもなりがちで、上記記事にもあるバイデン米大統領による中国からの鉄鋼・アルミニウム輸入に関する関税引上げなどもそうした動きです。

中国としては、アメリカのこうした動きへの警戒感を強めています。

【欧州でもEVや太陽光パネルで中国製品への警告・調査】
中国の「過剰生産能力」を問題視しているのはアメリカだけでなく、欧州も同じです。
欧州のシンクタンク「輸送と環境(T&E)」の分析によると、23年にEUで販売されたEVのおよそ19.5%が中国製だったとのことで、24年には25%にもなるとの予測も。

****欧州委、中国EV3社に情報提供不十分と警告 反補助金調査****
欧州連合(EU)欧州委員会は、中国製電気自動車(EV)の補助金調査で、中国のメーカー3社に対し十分な情報を提供していないと警告した。関係者が明らかにした。

比亜迪(BYD) 、上海汽車(SAIC) 、吉利汽車の3社が提供した情報が不十分だと結論づけた場合、欧州委は、他の情報・データを使って関税を計算する可能性がある。

この種の警告は、EUの通商関連の事案で頻繁に起こっている。企業側は警告に対し説明する権利を有するという。
吉利汽車はコメントを控えた。BYDのコメントは得られていない。

上海汽車は対話アプリ「微信(ウィーチャット)」で、世界貿易機関(WTO)とEUの規則に従って欧州委に「全面的に協力」し、反補助金調査に関連する必要な情報を全て提供したとした上で「バッテリーの設計など商業的に機密性の高い情報はこのカテゴリーに属すべきではない」と主張。欧州委がバッテリーの設計などに関する情報を要求したかどうかに関する質問にはコメントを控えた。

在EU中国商工会議所(CCCEU)は、欧州委の指摘には根拠がなく、中国の企業は複数回のアンケート調査に参加し、現地査察を支援してきたと反論。詳細な書類提出の厳しい期限、証拠提出能力を超える要求、事業上機密となるサプライヤー情報の要求などEUの要求の一部は過剰との見方を示した。

中国EVへの調査は昨年10月4日に正式に始まり、最長で13カ月に及ぶ可能性がある。欧州委は調査開始から9カ月後に暫定的な反補助金関税を課すことができる。【5月4日 ロイター】
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EUにおける太陽光パネルや素材では中国製のシェアが9割を占めています。
しかし、安価な中国産抜きでは脱炭素目標も実現困難ですし、関連産業も回らなくなってしまいます。また、安価な中国製品のおかげで太陽光発電が普及したという現実もあります。

****脱炭素「中国抜き」でやれるのか 太陽光パネルで欧州ジレンマ、産業界は悲鳴****
再生可能エネルギーの普及を目指す欧州連合(EU)が4月、中国製の太陽光パネル流入に対抗し、不正競争の疑いで調査に入った。EU域内の環境産業を守る狙いあるが、「太陽光発電の普及には安価な中国製は必要」の声も根強く、ジレンマに立たされている。

米国、インドの保護策でしわ寄せ?
調査はEU欧州委員会が4月3日に開始した。中国2社が国家補助金を受けてEU市場に参入し、競争をゆがめた疑いがあるとしている。

担当のブルトン欧州委員は「太陽光パネルはEUにとって戦略的な重要物資だ」と述べ、経済安全保障の重要性を強調した。EUは中国政策で「リスク軽減」を掲げ、供給網の依存脱却を目指している。

EUでは太陽光パネルや素材のうち、中国製のシェアが9割を占める。欧州の業界団体代表は2月、「政治が手を打たなければ、数カ月で大半の企業がつぶれる」と対応を求めていた。

「エコ先進地」として有名なドイツでは、太陽光発電大手マイヤー・ブルガーが工場閉鎖を表明した。500人の雇用喪失になる。同社は声明で、中国の過剰生産品が世界市場にあふれ、米国やインドが国内産業保護に動く中、欧州が受け皿にされていると警告した。

EUは温室効果ガス排出量を「実質ゼロ」にする環境技術で、2030年までに製造シェアを40%にする目標を掲げる。太陽光発電は、その柱のひとつ。

フランスのルメール財務相は4月初め、国内のパネル大手に対する補助金支給を発表し、「国産推進に向けて汗をかく」と述べた。ドイツも新たな補助金を検討。国内産業の保護に動く。

ロシア産ガス高騰で、新設100万件
「中国リスク」に警戒が高まる一方、安価な中国製のおかげで太陽光発電が飛躍的に普及したという現実もある。
EUでは22年、ロシアのウクライナ侵略で対露エネルギー禁輸を発動した結果、ガスと電気価格が急騰した。これが契機となって住宅のベランダや駐車場に太陽光パネル設置が進展。ドイツでは昨年、新規設置が22年比で倍増し、100万件に達した。中国製は独製より3割安いという。

欧州シンクタンク「ブリューゲル」のベン・マクウィリアム研究員は、太陽光パネルでは中国リスクは薄いと指摘する。

「太陽光パネルは供給過剰で、EUには1年分以上の在庫がある」と述べ、中国が市場独占で価格操作したり、禁輸したりしても政治的圧力にはつながらないと分析する。補助金でEU企業を支えても競争力はつかず、脱炭素化を遅らせるだけだとして、「欧州は一定量の在庫を確保しながら、光吸収効率の向上など技術開発に重点を置くべき」と訴える。

太陽光パネルをめぐるEUと中国の貿易摩擦は2013年にも起きた。当時、EUは中国製パネルに47・7%の反ダンピング(不当廉売)課税をかけようとしたが、中国が報復を表明し、最低価格を設ける妥協策で決着した。(三井美奈)【5月2日 産経】
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【欧州における脱「中国依存」の動きに対抗して、習近平主席が訪欧】
こうした欧州における脱「中国依存」の動きに対抗する狙いもあって、習近平国家主席が5〜10日にフランス、セルビア、ハンガリーを訪れます。

ただ、欧州はウクライナをめぐってロシアと厳しく対立しており、中国はそのロシアを支える立場にもありますので、習近平主席としても対欧州戦略は対ロ関係とのバランスをとる必要もあります。

*****習近平氏が5日から5年ぶりに訪欧、米国の対中圧力に対抗 欧州の足並み乱す狙いも****
中国の習近平国家主席は5〜10日にフランス、セルビア、ハンガリーを訪れる。今年初の外遊で、訪欧は新型コロナウイルス禍前の2019年以来。

米国が呼び掛ける対中圧力の強化に対抗するとともに、中国依存を低減する「デリスク(リスク回避)」に傾く欧州諸国の足並みを乱そうとする思惑がうかがえる。

中国外務省は習氏訪欧を「中国と欧州の関係全体の発展に重要な意義がある」と強調。北京の外交筋は「対米、対欧をにらんで入念に練られた訪問先だ」と指摘する。

鍵は経済分野のつながり
中国は、伝統的に独自外交を重視するフランスとの関係強化を図り、米主導の対中包囲網にくさびを打ち込むことを狙う。鍵は経済分野のつながりだ。

昨年4月のマクロン仏大統領訪中では、欧州航空機大手エアバスの旅客機160機を中国に納入することで合意しており、今回も経済をテコにフランスを引き寄せる思惑とみられる。今年4月に訪中したドイツのショルツ首相とも経済協力を確認している。

欧州連合(EU)が対中依存低減で結束しないよう働きかけることも重要なテーマとなる。
EU側が中国の電気自動車(EV)の政府補助金を巡り調査を進めるなど、双方の経済摩擦が激しさを増しているだけになおさらだ。

ハンガリーは「一帯一路」通じ関係近く
ハンガリーとは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を通じて関係が近い。今年下半期にEU議長国を務めるため、中国にとって戦略的価値が高い国だ。ハンガリーは工場誘致を期待しているもようで、中国EV最大手の比亜迪(BYD)がハンガリーでの工場建設を決めたほか、中国自動車大手、長城汽車の工場建設計画も報じられる。

セルビアへの訪問は、1999年5月7日に当時のユーゴスラビアの首都ベオグラード(現セルビア)の中国大使館を北大西洋条約機構(NATO)軍が誤爆してから25年の節目と重なる。現地の追悼行事に習氏が出席し、米主導のNATOへの批判を展開することが見込まれる。

ロシアのウクライナ侵略を巡っても、今月中旬のプーチン露大統領の訪中見通しが報じられる中、習氏が欧州とロシアの間でどうバランスをとるか注目される。【5月4日 産経】
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【安全保障で欧州の主権を主張するマクロン大統領「欧州はアメリカの属国集団ではない」】
一方、安全保障面でみると、欧州を支えるのがアメリカとの協調によるNATO体制ですが、“例によって”フランス・マクロン大統領が「欧州はアメリカの属国集団ではない」と、欧州の主権をアピールしています。

****新防衛戦略の策定提案へ=「欧州、属国集団にあらず」―仏大統領****
フランスのマクロン大統領は25日の演説で、ウクライナへの侵攻を続けるロシアが「際限なく攻撃的」になっていると指摘し、欧州が脅威に立ち向かうには「信頼できる防衛戦略」が必要だと述べた。欧州各国に対し、戦略の策定を近く提案するという。

演説では、欧州の「主権」を強化するという持論も展開。「米国に米国の優先事項があるのは当然」であり、欧州が「米国の属国集団ではないと証明できる」ことが重要だと主張した。

その上で、激変する世界の中で手をこまねいていれば「欧州は消滅する可能性がある」と警告。生き残りは「われわれの選択に懸かっている。(決断するのは)今だ」と訴えた。【4月25日 時事】 
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フランスの対米追随を嫌う独自路線は今に始まった話でありません。NATOにしてもドゴール時代に一度脱退しています。

フランス原子力空母のNATO演習参加にしても、フランス国内には「アメリカへの属国化だ」との批判が左右両方からあるとか。

****仏海軍の原子力空母、NATO演習に初参加 “米への属国化”批判も****
フランス海軍の原子力空母「シャルル・ドゴール」が26日、北大西洋条約機構(NATO)軍の合同演習に初めて参加した。シャルル・ドゴールは米国以外が保有する唯一の原子力空母で、防衛の独立を志向する伝統があるフランスでは、米国主導のNATOの指揮下に入ることに批判も出ている。

合同演習は東欧での有事を想定し、地中海で5月10日まで実施される。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年2月以降では最大規模で、加盟国が作戦時の連携を向上させる狙いがある。フランスのほか、イタリア、スペイン、トルコなどの艦船20隻が参加する。シャルル・ドゴールは全長約262メートル、全幅約64メートルの大型空母で、ラファール戦闘機など40機を搭載する

フランスは第二次世界大戦後、独立独歩の外交、安全保障を目指し、核軍備はその要となってきた。米国の欧州への関与拡大を嫌うドゴール大統領(当時)が1966年、NATOの軍事機構から脱退し、サルコジ政権の09年に復帰した歴史がある。

01年に就航した原子力空母はドゴール氏の名を冠し、仏独自の安全保障政策の象徴だっただけに、今回の演習参加には反発の声が上がる。

極右政党「愛国党」のフィリッポ党首はX(ツイッター)に「信じられない。フランスのNATO、すなわち米国への歴史的服従だ」と投稿した。急進左派「不服従のフランス」創始者のメランション氏も「悲嘆。公然の属国化」と書き込み、批判した。【4月27日 毎日】
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【マクロン大統領のウクライナへの地上軍派遣発言では欧州内部からの反発も】
フランスという国にしても、マクロン大統領の個人的性格としても、独自の立場をアピールして、欧州をリードする立場にないと気が済まないようで・・・・

マクロン大統領のウクライナへの地上軍派遣発言もそうしたもののひとつでしょう。地上軍派遣発言は英独など欧州各国からの反発を招きましたが、引っ込めた訳ではないようです。
ロシアは当然反発を強めています。

****ロシア、地上部隊派遣に再言及の仏マクロン氏を非難 英外相にも反発****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領が西側諸国の地上部隊をウクライナに派遣する可能性を「排除しない」と改めて表明したのに対し、ロシア大統領府(クレムリン)が3日、反発した。

マクロン氏は2日付の英誌エコノミストのインタビューで、ロシアがウクライナの前線を突破し、ウクライナ政府から要請があれば、西側諸国の部隊をウクライナに派遣する問題が生じるのは「当然だ」と述べた。

これに対し、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は会見で、「非常に重大で危険な発言だ」「(マクロン氏は)ウクライナでの紛争に地上で直接関与する可能性に絶えず言及し続けている」と非難した。

さらに、英国のデービッド・キャメロン外相がウクライナによるロシア国内への攻撃を擁護したことについても、「危険」で「戦争の規模を拡大させる」発言だと反発した。(後略)【5月4日 AFP】
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マクロン大統領は3月5日、訪問先のチェコ・プラハで、ロシアの侵攻を受けるウクライナの同盟国が行動を強める時が来たと述べ、欧州で「弱腰にならない」ことが近く適切になるとの見方を示しています。

もっとも、フランスはウクライナを巡るロシア制裁に関して当初は、ロシアとの外交や経済的な関係を考慮して対話と外交的解決を重視し、他の欧州諸国と比較して消極的な立場を取っていました。何がマクロン大統領の心境の変化をもたらしたのでしょうか。
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欧州 ウクライナ支援をめぐる不協和音 ウクライナ支援基金 マクロン地上部隊派遣発言

2024-04-05 23:26:10 | 欧州情勢

(記者会見で握手するフランスのマクロン大統領(左)とドイツのショルツ首相=ベルリン(ロイター)【3月16日 産経】 もちろん両首脳はにこやかな表情を作ってはいますが、“ショルツとマクロンの波長が合わないことはもはや公然の秘密である”【4月5日 WEDGE】とも)

【NATO 5年間で総額1000億ユーロ(約16兆円)規模の支援 ウクライナ「可能性はゼロだ」】
NATOはウクライナへの長期的な軍事支援の計画を開始することで合意、ストルテンベルグ事務総長は、NATOとして5年間で総額1000億ユーロ(約16兆3800億円)規模の支援を実施する案を提示しています・・・・が、その実現可能性に当のウクライナが批判的見解を示すなど、現実性や加盟国間の不協和音など内情は問題も多いようです。

****対露防衛態勢の構築道半ば、設立75年のNATO 真価問われるウクライナ長期支援****
ベルギーのブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)外相会合は4日、ロシアに侵略されたウクライナへの長期的な軍事支援の計画を開始することで合意し閉幕した。

だが、ロシアの脅威がウクライナにとどまらず欧州全体に広がろうとする中、設立75周年を迎えたNATOの対露防衛態勢の構築は盤石というには程遠い。

外相会合はウクライナへの軍事支援に関し、従来のように加盟各国の短期的な支援を積み上げるにとどまらず、各種の長期的支援をNATOの主導で強化する方向で大筋合意した。

ただ、NATOのストルテンベルグ事務総長が提示した、NATOとして5年間で総額1000億ユーロ(約16兆3800億円)規模の支援を実施する案に関しては、加盟国の中で親露姿勢が強いハンガリーのシーヤルトー外相が「戦争のエスカレートにつながる」として強硬に反対した。

また、ベルギーのラビブ外相も「守れない約束をすべきでない」と金額の大きさに懸念を表明。スペインとイタリアの外相も慎重姿勢を示したとされ、加盟国は一枚岩ではない。

さらにウクライナのクレバ外相は自国メディアに対し、NATOによる長期支援を歓迎しつつ、現状の資金調達の方法で加盟国が1000億ユーロを拠出するのは「不可能だ」と指摘した。

ロシアは米欧諸国が「支援疲れ」に陥ったとみて、5月にもウクライナ東部や南部で大規模攻勢を仕掛ける構えを強めている。それだけに、NATOが7月に米ワシントンで開く首脳会議までに長期支援の態勢を明示できるかどうかは、プーチン露体制の領土的野望の粉砕に向けたNATOの真価を問うものとなる。

加盟各国の軍事力のさらなる強化も急務だ。NATOは加盟各国が国内総生産(GDP)の最低2%を国防費に支出する目標に関し、加盟32カ国のうち18カ国が今年初頭までに達成したとしている。しかし、ロシアの脅威増大に伴い、関係者の間では「2%ではまだ不十分だ」との指摘も少なくない。

特に、ウクライナ支援に最も積極的な加盟国の一つである英国では、国防費を現状のGDP比2・07%から2・5%へ引き上げを求める声が上がっている。NATOとしても加盟国の国防費や国防費に占める装備品調達費の目標を改めて見直すべき時期といえる。

10月に退任するストルテンベルグ氏の後任選びも全会一致を原則とするNATOの結束に影を落としかねない。米英仏独はオランダのルッテ首相を後任に推しているが、ルーマニアのヨハニス大統領が3月に突然出馬。

ハンガリーがルッテ氏に反対する一方、トルコとスロバキアは態度を明確にしておらず、当初予定していた7月の首脳会議までに後任が決まらない事態も懸念され始めた。【4月5日 産経】
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NATOが独自に5年間で1000億ドル(15兆円)規模の対ウクライナ支援基金設立を検討する背景には、アメリカのウクライナ支援が議会で停滞している現状とウクライナ支援に否定的なトランプ氏の復権の可能性があります。

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アメリカ議会がウクライナへの600億ドルの追加支援を下院議会で可決できない中、NATO独自の対ウクライナ支援基金を設立することで支援を継続するためだ。ウクライナへの支援縮小を宣言するアメリカのトランプ前大統領が今年11月の米大統領選で再選される「もしトラ」への懸念もある。【4月5日 安部雅延氏 東洋経済オンライン】
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しかし、ウクライナ・クレバ外相は「(今のやり方では)この構想の可能性はゼロだ」と切り捨てています。

****NATOの支援基金案、拠出義務なければ機能せずとウクライナ****
ウクライナ政府は4日、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長が示した長期支援案を支持する一方、加盟国に拠出義務がなければ機能しないとの見解を示した。ニュースサイトのヨーロピアン・プラウダが報じた。

NATOは3日、ブリュッセルの本部で開いた外相会合で、ウクライナに対する長期軍事支援計画を開始することで合意した。ただ、ストルテンベルグ氏が提案したウクライナ軍事支援のために5年間で1000億ユーロ(1070億ドル)規模の基金を設置する案については見解が割れた。

ウクライナのクレバ外相は、NATOがこれよりもかなり小規模な軍事支援の提供で苦戦してきたとし「現在の資金調達モデルでは、この構想の可能性はゼロだ。5億を集められないのに現在のモデルでは200億を集めなければならない」と指摘。

しかし、全ての加盟国に拠出義務があれば、この構想は実現する可能性があると述べた。【4月5日 ロイター】
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【今の状態では困難なウクライナのNATO加盟】
そもそもの話ですが、ウクライナはNATO加盟国ではありません。NATOは2008年4月のブカレスト首脳会合でウクライナが将来加盟国になることについて合意しており、ウクライナは加盟を早期実現するように求めていますが、ドイツとアメリカはウクライナの民主主義と安全保障の改革なしにNATOへの加盟はありえないとしています。

現実問題としては、ロシアと戦争状態にあるウクライナの加盟を認めると、集団防衛条項が適応されNATOとロシアの戦争になってしまいますのでNATOとしては到底その覚悟はないでしょう。ゼレンスキー大統領は苛立ちを隠していません。

****ゼレンスキー氏、ウクライナ加盟めぐりNATO批判****
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11日、リトアニアで同日開幕した北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせ、自国の加盟をめぐるNATOの「不確実性」と「弱さ」を指摘し、それがロシアの侵略を助長していると批判した。

ゼレンスキー氏はツイッター(Twitter)への投稿で、NATOがウクライナを加盟国として招待することをめぐり、「言い回しについて議論している」という「シグナル」を受け取ったと述べた。

その上で、「ウクライナの招待も加盟も、時間枠の設定がないのは前例がなく不合理だ」「NATOにはウクライナを招待する用意も、加盟させる用意もないようだ」と批判。

「それによってNATOにはロシアとの交渉で、ウクライナの加盟をめぐる駆け引きの余地が残されるということだ。だが、それはロシアにテロを続行する動機を与える」と警告した。

さらにゼレンスキー氏は「不確実性は弱さだ。このことをサミットで率直に議論するつもりだ」と投稿を締めくくった。(後略)【2023年7月11日 AFP】
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ゼレンスキー大統領が強気なのは「もしウクライナがロシアの手に落ちたら、次は・・・・」という前提があっての話です。ロシアがウクライナで一定の成果を出せば、ポーランド、チェコ、バルト3国、フィンランドなどが次の標的となる可能性が指摘されています。(個人的には、ロシアがNATO加盟国に直接的に手をのばすことは考えにくいと思っていますが・・・ただ、トランプ「新」大統領がロシアの侵攻を容認するのなら話も違ってくるかも)

そうしたこともあってNATOとしては、今すぐウクライナ加盟を認める訳にもいかないけど、(アメリカの支援が不透明ななか)何とかウクライナに持ちこたえて欲しいということでの長期的支援体制の検討です。

【マクロン仏大統領「地上部隊派遣を排除せず」 各国否定で内部分裂を露呈 特に目立つ独仏の不仲】
欧州のウクライナ支援をめぐる不協和音は2月26日のマクロン仏大統領の「地上部隊派遣を排除せず」発言でも明らかになっています。

****欧米部隊派遣も「排除せず」 仏大統領、ウクライナ支援会合****
フランスのマクロン大統領は26日、ウクライナに欧米諸国の地上部隊を派遣することについて現段階では「(各国間で)コンセンサスが得られていない」としつつ、将来的には「排除できない」と述べた。パリでウクライナ支援の国際会合を開催後、記者会見で語った。

どの国が部隊派遣を検討しているかなど、詳細は示さなかった。「ロシアを勝たせないために必要なことは全て行う」と付け加えた。

会合にはドイツのショルツ首相やポーランドのドゥダ大統領、オブライエン米国務次官補ら20カ国以上の首脳や高官が出席。米国の支援継続が不安視される中、改めて連携強化を図った。【2月27日 共同】
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これまでウクライナ支援にさほど熱心とも思えなかったマクロン大統領のいささか“寝耳に水”の発言に対し、アメリカ、イギリス、ドイツ、スウェーデンなど欧米各国はこぞって地上部隊派遣を否定しています。「欧州や北大西洋条約機構(NATO)からウクライナに地上軍や兵士が派遣されることはない」(ドイツ・ショルツ首相)

もっとも、ロシアの脅威にさらされているエストニアなどはマクロン発言を擁護しています。

****エストニア首相、ウクライナ支援に「全ての選択肢を」 欧米派兵否定すべきでないと強調****
ロシアの隣国エストニアのカラス首相は2月28日放送の英スカイニューズ・テレビとのインタビューで、ロシアに侵略されたウクライナの勝利に貢献するためには「全ての選択肢を考慮すべきだ」と述べ、欧米諸国による自国の地上部隊のウクライナ派兵を排除すべきでない、との考えを明らかにした。

地上部隊の派遣をめぐっては、フランスのマクロン大統領が26日、将来的に排除しないとの考えを示したのに対し、スナク英首相ら米欧の首脳や高官からは派兵に否定的な見解が相次いだ。カラス氏の発言は、こうした米欧の態度に直接反論するものだ。

カラス氏は、欧米諸国は「自らが持つ力を恐れてはならない」とし、ウクライナの防衛に向けて支援を強化することはプーチン露大統領が主張するような「戦闘のエスカレート」にはつながらないと指摘し、ウクライナを勝たせるためにどう取り組みを強化できるかを検討しなくてはならないと強調した。

カラス氏はまた、北大西洋条約機構(NATO)加盟各国が国防費を国内総生産(GDP)比2%に引き上げる目標を早急に実施すべきだと指摘し、未達成の国がなお多いのが「なぜなのか本当に理解できない」と語った。同氏によるとエストニアの国防費はGDP比3・2%となっている【2月29日 産経】
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マクロン発言の真意は“ウクライナへの派兵という選択肢を排除しないと述べたのは、戦略的曖昧さを再構築し、西側がウクライナに派兵することはなく西側の支援は弱まって行くとのロシアの想定を変えさせるため”とのことでしたが、現実には欧州内部の分裂状態を露呈する結果ともなりました。

****マクロンがウクライナへの派兵も示唆した“真意”、支援の手詰まり露呈と欧州分裂の恐れ****
024年2月28日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、ウクライナ支援のために派兵も選択肢として排除されないとのマクロン仏大統領の発言が、その意図に反して、欧州諸国内の分裂を露呈しているとLeila Abboud同紙パリ支局長が論じている。

フランスのマクロン大統領は、ロシアの脅威に対する欧州で最もタカ派的発言者の1人となった。2月26日、彼はタブーを破ってウクライナへの地上軍派遣を否定することを拒否し、欧州連合(EU)諸国首脳とロシアを驚かせた。

欧州諸国は慌ててマクロンの示唆を否定したが、これは外交政策上の失言ではなく、記者団からの質問に対する意図的な回答だった。

パリでウクライナ支援国会議を主催した後、マクロンは、「ロシアがこの戦争に勝てないようにするために、必要なことは全てやるつもりだ」と述べ、軍隊の派遣については「コンセンサスは得られていない」と認めつつも、同盟国の間では議論されており、この考えを排除すべきではないと主張した。

マクロンがロシアの侵攻を食い止めようとプーチンと最後の交渉をした22年2月とは大違いだ。ロシアによる攻撃の後でさえ、彼は、ロシアに「屈辱」を与えてはならず、和平の見返りとして西側が安全を保障することが必要だと主張していた。その消極的な姿勢は、東欧同盟国のフランスに対する信用を失墜させた。

ロシアのウクライナに対する容赦ない攻撃は、マクロンの考え方を一変させた。彼は、ウクライナがいずれ北大西洋条約機構(NATO)に加盟するという考えに傾き、東欧諸国に対してプーチンの脅威について彼らが正しかったとして謝罪した。

マクロンの問題は、フランスにはウクライナを守るために「必要なことなら何でもする」手段がないことだ。フランスは中規模の軍隊を持ち、EUで唯一の核武装国であるが、財政が逼迫しているため他の支出を削減しない限り防衛に資金を投下する力はない。

ドイツをはじめ同盟国は直ちに派兵の可能性を否定して、マクロンの構想と距離を置いている。マクロンは一貫性を欠いている。

フランスは数カ月にわたって、ウクライナがEUの資金を使ってEU域外から砲弾を購入することに反対してきた。マクロンは2月26日になってようやく域外から購入するというチェコの計画を支持した。

フランスはウクライナへの武器供与がドイツ、北欧諸国、英国等よりも少ないとして批判されている。今年フランスがウクライナに約束した軍事援助はドイツの半分以下とさえ言われる。

マクロンは、西側諸国が軍隊をウクライナに派遣することを否定しないのは、「戦略的な曖昧さ」を再確立し、西側の支援が弱まるというロシアの想定を再考させるためだと述べた。

しかし、この事は、もっと懸念すべきこと、即ち、ウクライナをどこまで支援すべきかで、同盟国の意見が分かれていることを明らかにしてしまったようだ。
 *   *   *
際立たせた欧州の分裂
(中略)
ロシアの次のターゲットは?
そもそも、バイデンが早々にウクライナに派兵しないと明言したことで、ロシアは安心して国境を越えてウクライナに侵入したわけであり、今回ドイツや英国が先を争うようにウクライナへの派兵の意図を打ち消したことも同様の効果を持ってしまうかもしれない。(中略)

戦争や核戦争を恐れることは、ロシアも同様のはずなのに、ロシアの脅しの前に西側が譲歩してしまっていることに他ならない。これではロシアはNATOや米国の核の傘にないモルドバやジョージアが次のターゲットとなることは明らかである。(中略)

いずれにせよ、マクロンに対しては、言葉だけではなく、ウクライナに対する支援をもっと充実できるはずだとの批判も、その通りだと思う。【3月29日 WEDGE】
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特に、欧州の中核であるフランスとドイツの不仲ぶりが目立ちます。

****ロシアへ与えた戦略的明快さ****
地上兵力派遣についてのマクロン発言を含め、最近の対ウクライナ支援を巡る独仏間の応酬は「見苦しい」(Economist誌3月2日号)だけではなく、有害である。

フィナンシャルタイムズ(FT)は3月6日の社説で、「優先順位はウクライナが今年、必要な武器(砲弾、巡航ミサイル、戦闘機、対空防衛など)を入手することであり、仏独の最近の批判の応酬(相手の支援が不十分)は、内容的には当たっている部分もあるが、非生産的な脇道の議論である」と断じているが、その通りであろう。
 
マクロン発言への論評は当然のことながらおしなべて厳しい。FTは3月6日の社説で、「ロシアの攻勢に対してウクライナへの支援を強化する必要があるとのマクロンの基本的メッセージは正しいが、それは兵員でなく武器を送ることによるべきである」「マクロン発言は同盟国を不意打ちし、特に独との間で戦略的な亀裂を明らかにした」と批判した。

また、同日のドイツの有力紙Frankfurter Allgemeine Zeitung の論説(Nicholas Busse 外交担当編集人)も、「NATO加盟国のほとんどがウクライナに兵員を派遣する用意がないことをロシアに知らしめることとなり、戦略的曖昧性どころか、むしろ戦略的明快さをもたらした」「ウクライナが必要としているのは美辞麗句の連射ではなく、弾薬と武器である」とコメントしている。

他方で、ドイツの態度もそう褒められたものではない。ドイツは昨年後半くらいから、対ウクライナ軍事支援は米国に次ぎ第二位であることを強調し、他国(主に念頭に置かれているのはフランス、イタリア、スペインあたり)に対して支援を増やすよう求めるとの姿勢を鮮明にしているが、これは「ドイツは軍事支援に慎重」との内外でのイメージに対して攻勢防御に出たものではないかと思われる。

しかし、ドイツのウクライナ支援については、①メンテナンスが不十分なため供与された武器のうち一部しか使われていない、②対GDP比は欧州連合(EU)/NATO諸国中10位ほどにすぎない、③英仏が既に巡航ミサイルを供与したにもかかわらずタウルス巡航ミサイル供与を頑なに拒んでいる、等の批判がつきまとっており、負のイメージの払拭は容易ではない。

危機の最中という意識はあるのか
いずれにしても、最近の独仏関係が控え目に言っても相当に深刻な状態にあることは否定しようがない。

シュミットとジスカールデスタン、コールとミッテランの緊密な関係に対して、ショルツとマクロンの波長が合わないことはもはや公然の秘密であるが、問題は独仏のギクシャクがウクライナ侵攻という欧州にとっての危機の最中に続いていることである。

本来であれば、両国は米国の支援が滞る中、欧州のウクライナ支援確保に奔走する立場にあるし、今後のロシアとの関係を見据えて欧州全体の軍備の増強、欧州の防衛産業の強化に主導的役割を果たすべきこところであるが、相手からすぐに拒否されるようなアイデアをぶち上げたり、「自国は十分に支援しているから、後は他の国がやるべき」と言い立てたり、両国の振舞は期待値からはほど遠いものがある。【4月5日 WEDGE“「見苦しい」フランスとドイツの対立、美辞麗句ではなく弾薬と武器が欲しいウクライナの本音”】
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ウクライナからすれば、そんなできもしないことより、今すぐ使える武器・弾薬を渡してくれ・・・といったところでしょう。
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フランス  再びイスラム教徒のヒジャブ校内使用が問題に 仏的価値観とイスラム的価値観の衝突

2024-03-30 22:50:24 | 欧州情勢

(フランス・リールで、ヒジャブ・アバヤを着て街を歩く女性(2023年8月28日撮影)【2023年9月9日 AFP】)

【フランスで重視される政教分離の原則とも言える「ライシテ」】
イスラム教徒女性の宗教的シンボルとも見なされるヒジャブ(髪を覆うスカーフ)は、キリスト教的価値観が強く、かつ、近年イスラム教徒移民が増加している欧州各国で社会的・政治的軋轢を惹起していますが、特に話題になることが多いのがフランス。

フランスでは、フランス革命以来の歴史的経過を踏まえて、一言で言えば政教分離の原則とも言える「ライシテ」という概念が重視されます。イスラム教に限らずキリスト教も含めて宗教的要素を公的な分野から排除しようとする考えです。

この考えに基づいて、2004年3月に施行された法律では、学校内でキリスト教の大きな十字架やユダヤ教徒のキッパ(帽子)、イスラム教のヘッドスカーフなど、「児童・生徒が自身の宗教を表立って示すシンボルや衣服の着用」が禁じられています。

ただ、2001年のアメリカ同時多発テロ事件以後、一部のイスラムに対する恐怖・嫌悪の高まりが、「ライシテ」本来の精神からの逸脱して、反イスラム的な「ライシテの右傾化」にもつながっているとの指摘もあります。フランスは欧州最多のイスラム教徒が暮らす国家でもあります。

【ヒジャブをめぐる脅迫事件 高まる反発】
そのフランスで昨年9月に問題になったのが「アバヤ」。イスラム教徒女性が使用する全身を覆い体形を隠すようなロングコート風の衣装です。

フランス政府は9月4日に始まった新学年から、全身を覆う女性の伝統衣装「アバヤ」の公立学校での着用を禁止しました。政府は学校での政教分離の原則に沿った措置としていますが、イスラム系フランス人からは、差別との反発も出ています。・・・・という話は、2023年9月4日ブログ“フランス 「政教分離の原則」が重視されるなかで問題視されてきた「アバヤ」 公立学校で禁止”でも取り上げました。

そのときも、イスラム教徒からの学校校長への脅迫事件がありました。

****「アバヤ」着た娘の登校認められず校長脅迫、男逮捕 仏****
フランス警察は8日、イスラム教徒の服「アバヤ」を着用した娘の登校を認めなかったとして校長を脅迫した容疑で、男を逮捕したと明らかにした。

エマニュエル・マクロン政権は先月、教育の場における世俗主義の規則に反するとして、学校でのアバヤ着用禁止を発表した。(中略)

警察によると、アバヤを着用していた娘は7日、通っている高校の校門で呼び止められ、アバヤを脱ぐよう命じられた。着替えを拒否したところ、登校を認められなかったという。

男は学校に電話をかけて警備員とスクールカウンセラーと話し、それぞれとの会話の中で校長を標的にした殺害予告を行ったとされる。

ガブリエル・アタル国民教育相は「言語道断だ」と非難した。校長は現在、警察の保護下にあるという。
オーベルニュローヌアルプ地域圏のローラン・ボキエ議長は、校長が「殺害と斬首」を予告されたと説明している。 【2023年9月9日 AFP】
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一部のイスラムに対する恐怖・嫌悪の高まりも問題ですが、一方で、イスラム教徒側の宗教的価値観への固執が「殺害脅迫」という行為に至る精神構造、極端に言えば「宗教的教えに背くものは殺していい」というような考え方も、欧米的価値観から受け入れられないものです。

ヒジャブに関して、同様の事件が再発しています。

****フランス、校長殺害脅迫に衝撃 イスラム教徒の怒り買う****
パリの高校で2月、校長が政教分離の原則により、イスラム教徒の女性が頭に巻くスカーフ「ヒジャブ」を脱ぐよう生徒に求めたところ、生徒が拒否し口論になる出来事があった。

一部のイスラム教徒から怒りを買った校長はその後、ネットで殺害の脅迫を受け今月28日までに辞職した。フランス国内に衝撃が広がっている。

キリスト教会と結び付いた王政を革命で倒した歴史を持つフランスは、憲法に政教分離の原則を明記。公立学校では宗教的シンボルを着用することが法律で禁じられている。

一方、同国は欧州最大のイスラム教コミュニティーを抱え、近年は学校で政教分離原則に違反する事案が増加。ヒジャブなどの着用を巡る論争がさらに過熱しそうだ。

仏メディアによると、校長は2月下旬、3人の生徒にスカーフを脱ぐよう要求。うち1人が拒否し口論となった。その後、SNSで殺害予告を受け「自身と学校の安全のため」早期退職を決断した。

学校での政教分離原則を揺るがしかねない事態に「恥ずべきことだ」「国家の敗北だ」などとの声が噴出している。【3月28日 共同】
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「世俗主義の問題について譲歩することはあり得ない」(学校長組合書記長)と反発が強まっています。

****学校でのヒジャブ問題 仏校長組合、「世俗主義」維持表明****
フランスの学校でイスラム教徒の女子生徒に頭髪を覆うスカーフ「ヒジャブ」を脱ぐよう求めた校長が殺害予告を受けて辞職した件を受け、同国最大の学校長組合は29日、世俗主義(政教分離)について「引き下がらない」考えを示し、辞職した校長を擁護した。

(中略)(脅迫事件に)国内に反発が広がり、ガブリエル・アタル首相が、政府として教師および同国の教育の重要な柱である世俗主義を保護する方針を表明する事態に発展していた。

29日には、社会党の呼び掛けの下、同校前で集会が開かれ、パリのエマニュエル・グレゴワール副市長ら、政治家や学校長組合の関係者らが参加した。

その後の会見で仏最大の学校長組合「SNPDEN-Unsa」のブルーノ・ボルトキエビッチ書記長は、「われわれは絶対に引き下がらない」と主張。「交渉の余地はない。要するに世俗主義に関する問題に他ならない。この問題について譲歩することはあり得ない」と述べた。

欧州最多のイスラム教徒とユダヤ教徒人口を擁するフランスでは、世俗主義と宗教の問題をめぐり、たびたび論争が起きている。 【3月30日 AFP】
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【パリ五輪での仏の自国選手ヒジャブ禁止に国連人権高等弁務官事務所は反対 政教分離か、女性の権利か】
ヒジャブ問題はパリ五輪にも及んでいます。

「スポーツでも厳格な政教分離を徹底する」「公共の場では絶対的な中立性が必要」と自国選手のヒジャブ着用を禁じるフランスに対し、国連人権高等弁務官事務所は「女性が何を身に着ける必要があるか、あるいは着用してはならないかを制約すべきではない」と反対の立場です。

*****仏五輪選手対象のヒジャブ禁止に反対 国連****
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は26日、フランスが2024年パリ五輪に参加する同国の女性選手を対象にヒジャブ(頭部を覆うスカーフ)の着用を禁止したことに反対の姿勢を表明した。

フランスのアメリー・ウデアカステラスポーツ相は24日、テレビ局フランス3の番組で、五輪に出場する同国選手に対しヒジャブ着用を禁止すると言明。「それはいかなる形であれ宗教的な行動は禁じるということであり、公共の場での活動においては絶対的な中立性が求められるということだ」と説明した。

これについて、OHCHRのマルタ・ウルタド報道官はスイス・ジュネーブで記者団に対し、「女性が何を身に着ける必要があるか、あるいは着用してはならないかを制約すべきではない」と強調した。

ウルタド氏は女性差別撤廃条約を引き合いに出し、「特定集団への差別的行為は有害な結果を招きかねない」と警告した。

フランスでは厳格な世俗主義が堅持されており、公立学校や公務員を対象にヒジャブなど「宗教的象徴」の着用が法律で禁止されている。今年6月には、行政裁判所の終審である国務院が、女子サッカー選手のヒジャブ着用を禁じる規則を支持する決定を下した。 【9月27日 AFP】
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OHCHRのウルタド報道官は「服装のような宗教的信条による表現の制限は、公共の安全が懸念される場合など極めて特殊な状況でしか認められない」とも。

サッカーやバスケットボールなど各競技の国際連盟は近年、イスラム教徒の女性アスリートによるヒジャブ着用を認める傾向にありますが、フランスでは2016年、仏サッカー連盟が政教分離の原則から試合でのヒジャブの着用禁止を決定しています。

【多様性・自由を尊重する社会】
政教分離・世俗主義に抵触しないものに関しては、フランス社会は多様性を容認する社会でもあります。

****髪形を理由の差別、禁止法案可決 仏下院、黒人らを支援****
フランス国民議会(下院)は28日、職場での髪形による差別を禁止する法案を賛成多数で可決した。髪形を理由として就職を断られるケースが多い黒人らを支援する内容。今後、右派が多い上院で審議される。フランスメディアが伝えた。

法案は、雇用主が従業員に髪をストレートにすることや、アフロヘアやドレッドヘアなどを隠すよう求めることを禁じている。金髪や赤毛の人への差別も禁止する。

法案はカリブ海のフランス海外県グアドループ出身の黒人議員が提出した。米国の調査によると、黒人女性の4分の1が就職面接の際に髪形を理由に断られたと答えている。【3月29日 共同】
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多様性容認に加え、女性の権利擁護についても熱心です。
アメリカで国論を二分する問題となっている中絶について、(そのようなアメリカの動きを意識したものでしょうが)女性が人工妊娠中絶を行う自由を憲法で保障する法案が成立しました。憲法明記は世界初とか。

****フランス、中絶の自由を憲法で保障=世界初、議会で承認****
フランス上下両院合同会議(925議員)は4日、女性が人工妊娠中絶を行う自由を憲法で保障する法案を賛成多数で承認、同法は成立した。マクロン大統領の署名を経て近く公布され、改正憲法が施行される。人工中絶の自由を憲法に明記するのはフランスが世界初。

フランスは1975年に人工中絶を合法化し、約半世紀が経過。しかし、米連邦最高裁が2022年に人工中絶の憲法上の権利を否定したことなどを受け、「フランスでは女性の基本的な自由として保護すべきだ」という声が広がった。

パリ郊外のベルサイユ宮殿で行われた4日の採決結果は賛成780、反対72と、憲法改正に必要な5分の3の賛成を大幅に上回った。マクロン氏はX(旧ツイッター)への投稿で「新たな自由が憲法に加わることを歓迎しよう」と訴えた。【3月5日 時事】
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政教分離の「ライシテ」も、宗教的中立性・無宗教性および(個人の)信教の自由を保障するもので、イスラム的価値観を押し通そうとするイスラム教徒の言動は、こうした自由を侵害するもので受け入れられないということでしょう。
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