(ロンドンの地下鉄で佇むポーランド人女性 “flickr”より By Steffen M. Boelaars )
移民問題が多くの社会で大きな問題になっていますが、最近目に付いたところをいくつかピックアップすると・・・
フランス・・・呼び寄せ家族にDNA鑑定
(当ブログでは10/28 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071028)
スイス・・・10月21日の国民議会選挙で第1党の国民党が露骨な排外主義を掲げ、史上稀な“汚い選挙”と言われたが、結果は国民党の勝利
イギリス・・・EU地域以外からの外国人就労者に対し英語検定(「TOEIC」の650~700点に相当レベル、プロサッカー選手は除外)を実施
オーストラリア・・・市民権テスト導入、社会に馴染めず犯罪を増加させるとアフリカ難民受け入れを大幅削減
イタリア・・・11月2日、これまで移民に寛容と見られていた中道左派政権が、“危険移民”を即座に国外退去できる緊急法令発布
ドイツ・・・大聖堂の街ケルンでトルコ移民が大規模モスク建設計画
(当ブログでは8/7 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070807)
などなど。
****英保守党の支持率、与党労働党を8ポイント上回る****
エクスプレス紙で発表された英民間調査機関ICMの世論調査によると、キャメロン氏率いる保守党の支持率が43%と、ブラウン首相率いる与党労働党の35%を8ポイント上回ったことが分かった。移民政策をめぐる懸念などが背景にあるものとみられる。
同紙によると、保守党躍進の背景には、最近の下院での与野党対立でキャメロン氏がブラウン首相より分がいいことや、移民統計をめぐる政府の混乱などがあるという。
調査では、移民数に毎年上限を設けるというキャメロン氏の提案に対する支持が45%と、既存の政府の政策に対する支持30%を上回った。
政府は前週、労働党が政権を奪還した1997年以降の移民数は80万人と発表したが、数日のうちにその数をまずは110万人に、次いで150万人にまで修正した。【11月11日 AFP】
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つい先頃まではキャメロン氏を大きくリードしていたブラウン首相ですが。
給油量でも数字の訂正は疑念を深めます。
それはともかく、記事によると、強いリーダーのイメージ、国民との接触機会ではブラウン首相が上回り、人気、信頼性、勇敢さ、信念への忠実さなどでもキャメロン氏を上回ったとのことですので、要は移民政策と“欧州憲法条約批准の是非を問う国民投票を実施しない”という点で人気を落としたようです。
イギリスへの移民で近年多いのがポーランドからの移民です。
数字はいろいろあるみたいですが(イギリス政府が把握しきれていないぐらいですから)、04年のEU加盟以降大量のポーランド移民が流入し、そのイギリス国内のポーランド移民の数は100万人という説もあるそうです。
ドイツとフランスはすでに国内に大量の労働移民を抱えているため、ポーランド人の労働移民は基本的に許可していないことも、イギリスでのポーランド移民増加の背景にあると思われます。
当然に大量の移民はイギリス社会にさまざまの問題・軋轢をおこしますが、流出するポーランド側でも多くの問題を惹起しています。
伝統的にポーランドでは炭鉱労働者のような労働組合の政治力が強く、医師とか教師の待遇は恵まれていない(医師の場合イギリスとポーランドで10倍近い所得格差があるとか)ため、こうした医師・看護師などの流出で国内の社会サービスに支障をきたす事例も出ているようです。
このあたりの事情は、私は観ていませんが、NHKのBS「ポーランド発 イギリス行き」という番組で紹介されていたようです。
更に、労働者の流出はポーランド国内の賃金水準を押し上げ、安い労働力を求めてポーランドに進出していた外資の動向にも影響を与えているとか。
ポーランド政府は労働需給緩和のため、隣国ウクライナとベラルーシ、ロシアに対し、労働法を改定して3カ月以内なら労働許可証取得不要という規定を導入したそうです。
つまり、イギリスへ流失した労働力を東の隣国からの労働力流入で穴埋めしようというもの。
そして、おそらく外資も更に安い労働力を求めて東へ移動・・・ということでしょう。
(http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20071031/139240/ NBonline )
マクロレベルで見れば、こうした労働力・資本の移動、賃金の高騰などは調整過程のひとつであり、長期的にはやがて落ち着くべき均衡点に落ち着く・・・とも言えなくもないですが、市場まかせでは恐らく個人の生活はこのような調整の苦しみには耐えられないとも思えます。
移民の人々の移住先での生活も思うようにいかないことも多々あります。
上述のTV番組でも、語学力の壁もあって国内での経験・知識を生かせずイギリス国内で単純労働に従事するポーランド移民が紹介されていたようです。
ロンドンのホームレスの3割がポーランド人とか。
イギリスで働くポーランド労働者の送金はポーランドに還流して、不動産市場の高騰といった経済的影響をもたらしますが、政治的にも影響を与えたようです。
先月21日に行われたポーランド総選挙は、最大野党「市民プラットフォーム」が勝利し、保守的・民族主義的なカチンスキー兄弟の与党「法と正義」が敗北しました。
カチンスキー兄弟の政権は、双子で大統領と首相を務めるという点でも異例でしたが、その政策も「第2次世界大戦で何百万人という同胞がドイツとの戦いで命を落とさなかったら、現在の人口はもっと多かったはずだ」と、欧州議会におけるポーランドの議決権増大を迫るなど、欧州各国からは「異形の国」として見られがちでした。
今回の選挙では若者達の投票率、西欧各国在住のポーランド人(若年層が主)の投票率が非常に高かったそうです。出口調査等でこれらの多くが野党「市民プラットフォーム」に投票したと言われています。
外から、西欧各国から見た祖国の姿に思うところがあったのでしょう。
(上記 NBonline )
それで、受入国側の話ですが、単に「労働者の流入に困っている」のではなく、イギリスなど欧州先進国は“高度な熟練技能を有する移民”の獲得は、将来の国家の命運を左右する問題として、流入促進に向けて取り組んでいます。
10月23日、EUは将来の労働力不足をにらんだ新たな移民労働者制度「ブルーカード」の概要を明らかにしました。
米国の永住許可証「グリーンカード」を参考に、数百万人の熟練労働者のEU域内移住を想定、優秀な能力を持つ移住希望者を対象に、米国、カナダ、オーストラリアに加え、EU諸国も移住先として考慮してもらおうという制度です。
「ブルーカード」の取得には、相当の学位を有することや3年以上の就労経験が条件となるほか、安価な労働力流入で労働組合の反発を招かないよう、賃金水準を就労国が定める最低賃金の3倍以上とする規定も設けらます。
要するに、単純労働者の大量流入は困るが、高度な技能を持つ優秀な移住者にはなんとか来てもらいたいと言う“いいとこどり”の政策です。
日本を含め、どこの国もそのあたりは同じですが。
グローバル化の流れは、資本だけでなく、従来固定的と見られることも多かった労働力の国際的流動化を促進します。それにつれて、あらたな問題・軋轢も生じてきます。
やがては日本もその流れに巻き込まれるか、あるいは、それを拒否して激しく抵抗するか・・・。
そのような大きな社会の変革が個々人の幸せにどう影響するかは、手に余る問題なのでパス。
なんだか将来は大変そう。
(今年10月 ロンドンの在外投票所を取り巻くポーランド移民の長い列 “”より By Mr Hyde )