(カタールの首都ドーハで、初の国政選挙となる諮問評議会選に投票する女性=2021年10月(ロイター=共同)【11月7日 共同】)
【憲法改正 選挙は廃止され、今後は首長が全議員を指名する 改正賛成が90.6%】
トランプ圧勝関連ニュースで溢れる(それは当然で、後日、このブログでも取り上げるかもしれませんが)なかで、「おや?」っと思ったのが下記のニュース。
****カタール、議会選挙廃止 憲法改正、首長が全員指名*****
中東カタールで5日に実施された諮問評議会(議会)議員の選出制度を変更する憲法改正の是非を問う国民投票で、国営通信は6日、改正賛成が90.6%だったと伝えた。タミム首長は同日、憲法改正を承認した。
定数45議席のうち30人を直接選挙で選び、残り15人を首長が指名していたが、選挙は廃止され、今後は首長が全議員を指名する。
首長が全権を握るカタールで、2021年に初めて諮問評議会選が実施されたが、一部市民の立候補などが制限され、批判が出ていた。
タミム氏は、選挙により家族や部族間で「争い」が起きているとし、憲法改正が必要だと説明していた。【11月7日 共同】
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2021年に初めての選挙が実施されたばかりなのに、なぜ民主主義の逆行みたいなことが起きるのか?
【カタール人は人口の10% 天然ガスの産む富をもとに、労働力のほとんどを外国人労働者が支える】
そももそカタールでどんな国? 首長制国家(一種の君主制)で、以前、アラブ湾岸諸国と対立して制裁を受けていたとか、ガザの紛争で仲裁国として登場したり・・・ということはありますが。
****中東初のサッカーワールドカップ開催国 カタールってどんな国?****
(2022年)11月20日に開幕する、サッカーのワールドカップ。日本を含む32チームが世界一をかけて競い合います。今回の開催国はカタールです。カタールと言えば、日本サッカー界で今も語り継がれる「ドーハの悲劇」の舞台となった地です。(中略)
そもそもカタールってどんな国?
そんな因縁の地カタールは、産油国が集中する中東ペルシャ湾に面した国です。(中略)そのカタールの国土は、秋田県とほぼ同じ広さで、1930年に始まったワールドカップの開催国としては、もっとも小さい国となります。
外国人労働者が支える社会
カタールの最大の特徴は、人口に占める国民の割合の少なさです。正確なデータは明らかにされていませんが、人口およそ290万人のうち、国民は1割程度と言われています。
高級ブティックやショッピングモールが建ち並ぶ市内中心部では、白い民族衣装を身にまとったカタール人の男性グループがカフェで会話を楽しむ姿を見かけます。
一方、店で働いているのは全員が外国人で、インドやパキスタン、フィリピン、ネパールなどアジア出身の出稼ぎ労働者の姿が目立ちます。
ドーハ郊外には、労働者が集団生活するためのアパートが建ち並び、ベランダには作業服がたくさん干され、歯ブラシや古着などの路上販売がにぎわっています。カタールでは、労働力のほとんどを外国人労働者が支える構図となっているのです。
豊富な天然ガスが莫大な富を
こうした社会構造を支えるのは、豊富な天然ガスです。
カタールの沖合には、世界最大級のノースフィールドガス田があり、ここから産出される天然ガスをLNG=液化天然ガスに加工し、日本など世界中に輸出。人口のわずか1割を占める国民に、ばく大な富をもたらしています。
(後略)【2022年11月18日 NHK】
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当然ながら選挙権は“カフェで会話を楽しむ”カタール人だけで、労働力のほとんどを支える外国人労働者は含まれません。
(“カフェで会話を楽しむ”白い服の男性たち・・・以前、ドバイで見た同様の光景を思い出します。「昼間から優雅だね・・・この人たちは働かないのだろうか?」と思った記憶が)
ただ、“カタール国籍”と言っても、部族絡みで難しい問題があって論争を惹起したようです。
****カタールの選挙の排除条件について論争勃発、逮捕者も=BBC****
BBCの報道によると、カタールの諮問評議会選挙の被選挙権が、カタールのソーシャルメディアで広範な論争を巻き起こしているとのこと。
シェイク・タミーム・ビン・ハマド・アール・サーニ・カタール首長は、10月実施予定となっている国内初の議会選挙の選挙法を承認した。
新法の下では、「原国籍がカタールで、18歳以上であるすべての人は、諮問評議会の議員を選出する権利を有するものとする。ただし、祖父がカタールで生まれたカタール人であるという条件でカタール国籍を取得した者は、原国籍という条件から除外される」。
この法律はまた、立候補者の「原国籍がカタールでなければならない」と規定しており、年齢は30歳以上でなければならない。
選挙権と被選挙権が、国内のソーシャルメディアにおいて論争を引き起こし、立候補者の「原国籍がカタール」でなければならないという要件が、幅広い人々の怒りを招く事態になっている。
要件を満たしていないアール・ムラ部族の一部が、「自分たちが諮問評議会選挙に立候補できないようにするための恣意的な法律」であると評し、抗議の動画を複数投稿した。
活動家はハッシュタグ#Al_Murrah_Qatari_People_Before_the_Governmentで投稿を開始し、政府が形成される以前からアール・ムラ部族はカタールに居住していたと強調した。
内務省はその後、7人の人物「虚偽のニュースを広め、人種や部族の争いを引き起こす手段としてソーシャルメディアを使用した」として、検察庁に照会したと、発表した。(中略)
議会選挙
諮問評議会の議員の3分の2、つまり45議席中30議席を選出するために、選挙が実施される。残りの議員は首長が任命する。 30の選挙区に分割され、各区を代表する候補者が1名選出される。
2003年の国民投票では、現在首長によって全議員が任命されている諮問評議会の部分的選挙を規定する新憲法が、人口のわずか10%のカタール人によって承認された。【2021年8月10日 ARAB NEWS】
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カタールにおける部族と国家の関係はよく知りません。とにかく“カタール人”といっても難しい問題が付随するものの、人口の10%にとどまるこの“カタール人”だけによって選挙は行われようです。。
【ハマスを含め、アメリカ・イスラエルなどとも関係を持つ全包囲外交 仲介で存在感】
あとカタールはハマスと関係が深いことも特徴のひとつです。
ハマスだけでなく、アメリカ・イスラエルとも関係を持つ全方位外交を行っています。
****イスラエル人質交渉 なぜカタールが仲介?ハマスとの関係は?****
イスラエル軍が地上での軍事行動を拡大させる中、ガザ地区に230人以上いるとされる人質はどうなるのか。人質解放に向けた交渉を仲介していると言われるのが中東のカタールです。
なぜイスラエルとハマスの仲介役になれるのか?そもそもカタールってどんな国?(中略)
カタールの大学で客員研究員を務めた経験もある日本エネルギー経済研究所中東研究センターの堀拔功二主任研究員に話を聞きました。
なぜカタールが仲介役に?
カタールが人質の解放に向けた仲介を担うことは、実はわりと自然なことだったと思います。というのも、カタールはハマスとイスラエル、その両方にコネクションを持つ国だからです。
両方にコネクション、パイプを持つ国というのは、おそらく中東地域ではカタールとエジプト、あとはトルコぐらいだと考えられます。
とりわけハマスに関して、カタールは意思疎通をとれる窓口を持っています。
2012年ごろに、ハマスがドーハに政治事務所を持ったことで、双方の関係はより深まったと考えられます。現在、ハマスの政治局局長のハニーヤ氏もカタールを拠点に活動しています。
イスラエルや各国の意見をハマス側に伝達する一方、ハマス側もカタールを通して自分たちに有利な交渉条件や妥協点を探ろうとしているのだと思います。
人質をとられている国からも、カタールに解放交渉に向けて協力してほしいという依頼が来ています。
例えば、普段はカタールと政治的・外交的にコミュニケーションを目立ってとるような国ではないタイやネパールとも対話が交わされています。そのほか、アメリカ、イギリス、フランス、カナダなどとも密に連絡をとっています。(中略)
仲介はどうやって行われるの?
(中略)
また、カタールは過去に、パレスチナ問題に限らず、さまざまな紛争や対立、人道的な問題に関して、仲介を行ってきました。そうした実績も評価され、今回のイスラエルの人質解放に関しても仲介役としての期待が高まったということが言えると思います。
たとえば、対立するアメリカとイランの間の仲介です。
カタールはアメリカと関係が良く、ドーハ郊外にはアメリカ軍の空軍基地があります。(中略)その一方で、アメリカと敵対するイランとも非常に緊密な関係にあります。
ことし9月にはアメリカとイランの間で囚人交換が行われたのですが、この時、仲介をしたのもカタールでした。
どうしてハマスと関係があるの?
ハマスはもともと「ムスリム同胞団」のパレスチナ支部を母体とする組織です。
そのムスリム同胞団とカタールは良好な関係にあり、カタールは1960年代から同胞団を支援したり、彼らの亡命先となったりしてきました。ハマスとは、2006年にパレスチナで議会選挙が行われた時ぐらいから関係を持ってきたと言われています。
また、カタールがハマスをサポートしている側面もあります。首都ドーハにあるハマスの政治事務所がカタール政府と緊密な連携、コミュニケーションをとっていると考えられています。
現在のハマスの政治局局長のハニーヤ氏のほか、その前の局長のマシャル氏など歴代の幹部もドーハに滞在していました。
カタールはガザ地区へこれまでも人道支援を継続して行ってきました。(中略)
カタールの前の首長が2012年にガザを訪問したり、ハマスの幹部が定期的にカタール政府の幹部と会談したりと、協力・連携は常に行われています。人道支援などの結果、ハマスもカタールを信頼しているわけです。
イスラエルとの関係は?
イスラエルとカタールは公式な外交関係はありません。ただ、1996年頃から2009年にかけてドーハにイスラエルの貿易事務所、通商代表部というものがありました。
その後もパレスチナ情勢への対応やガザ地区への人道支援をめぐって、イスラエルと水面下でのやりとりが続けられました。イスラエル側からしても、ある程度カタールに対する信頼はあったのだと思います。
カタールはパレスチナ問題に関しては基本的にパレスチナ側に寄っていますし、今回の件に関しては、長年ガザを封鎖してきたイスラエル側に完全に非があるという立場の声明を発表しています。
とはいえ現実的に、中東の安定化、色々な経済的な関係を含め、イスラエルとの関係を持つことは決して悪いことではないという認識もあったかと思います。
それが歴史的に、20年ぐらい前にドーハとイスラエルが非公式な経済・外交関係を有していた理由だと思います。
そもそもなぜ仲介に積極的なの?
仲介外交は、小国のカタールが生き延びていくための生存戦略に他なりません。
カタールは色々な国や組織と関係を維持することで、国家としての安全保障や安定的な環境を作ろうとしています。また、その外交戦略はカタールの国際社会におけるプレゼンスや影響力を高めるといった結果があります。
その結果、カタール自身が諸外国から評価され、大事にされることにつながるのです。諸外国と強力な関係を築くことは、内政面でも君主体制の安定化に資すると言えます。(後略)【2023年10月31日 NHK】
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【2021年の選挙では女性28人が立候補するも当選者なし 長が指名枠を使って男女比の不均衡を正す】
話を諮問評議会選挙に戻すと、2021年の選挙では女性28人が立候補して注目されました。
****カタールの国政選挙に女性が立候補「大きな前進」****
カタール初の国政選挙に女性も立候補したが、男性と比較すると女性の候補者数は非常に少ない。
30の議席に対し284人が立候補して選挙戦を争う。そのうち、女性の候補者は28人だ。残る15議席は首長により指名される。
「女性の立候補は非常に大きな、意義のあるステップです」と国際危機グループの湾岸諸国分野のシニアアナリスト、イルハン・ファクロ氏は評価する。
「とはいえ、その影響について過大な期待をすべきではないと考えています。女性の候補者はたった28人ですから。実際、それは特に驚くべきことではないのです」(中略)
ファクロ氏は、女性が選出されないか非常に少数である場合には、「男女比を改善するために」首長が女性を直接指名する可能性もあると示唆した。バーレーンの議会選挙でも同様のことが起きている。
女性の保健相や外務省報道官のいるカタールは、他の湾岸諸国よりも女性の政治参画が進んでいる国だ。
さらに、カタールW杯組織委員会をはじめ、社会貢献事業、芸術、医療、法、ビジネスなど多くの分野で女性が重要な役割を担っている。
カタール憲法には「すべての市民の機会均等」が規定されている。
最新の公式データによれば、カタールは男性が女性より2.6倍多い。主な理由として、カタールに来ている男性の出稼ぎ労働者の存在が挙げられる。
カタール当局はかつて「男女平等と女性の地位向上」は湾岸諸国にとって「成功と将来展望」の鍵だと訴えた。
アナリストのファクロ氏は、湾岸諸国の選挙に女性が立候補することは「これらの諸国で女性の政治参画への態勢が整い、政界への進出が望まれてきている」ことの重要なシグナルだと指摘する。
「湾岸諸国で女性の権利向上、家族法や離婚、そしてあらゆる分野での法の平等が確保される可能性はあります」と述べる。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは以前、男性よりも女性の大卒者の数が多く、1人当たりの医師と弁護士の数も女性が上回っていることなどを挙げて、カタールの女性が「さまざまな障壁を打ち破り、大きな進歩を遂げた」と認めた。【2021年10月2日 ARAB NEWS】
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実際のところ、女性の当選者はありませんでした。
****カタール初の国政選挙、女性当選者ゼロ****
カタールで(2021年10月)2日、諮問評議会選が行われた。初の国政選挙だが、首長が全権を掌握する状況は変わらないとみられる。女性候補は一人も当選しなかった。 45議席のうち30人を投票で選び、残る15人を首長が指名する。これまでは首長が全員を指名していた。
内務省の選挙管理委員会によると、当初は女性28人が立候補を認められたが、30議席すべてを男性が占めた。首長が指名枠を使って男女比の不均衡を正すとみられる。
当局によると、最終的な投票率は63.5%で、10%未満だった2019年地方選挙を大きく上回った。
各地の投票所では終日、民族衣装を着た有権者が整然と並んでいた。
ある投票所前では、女性有権者が運転手付きのメルセデス・ベンツ(Mercedes Benz)車やロールスロイス(Rolls-Royce)の白のSUV(スポーツ用多目的車)で乗り付けていた。昼食時も有権者の列は絶えず、投票した人の過半数を女性が占めていた。
これまで何度も先送りされてきた選挙が実施された理由として、来年のサッカーW杯カタール大会(2022 World Cup)を前に、国際社会から厳しい目を向けられていることなどが挙げられている。【2021年10月3日 AFP】
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女性の当選者がなく、首長が指名枠を使って男女比の不均衡を正す・・・初めての国政選挙はそのような実体だったようです。
そして、今回、「選挙により家族や部族間で「争い」が起きている」ということで、選挙をやめ全員を首長が選ぶ・・・という変更。
確かに、アメリカなど選挙によって分断が深まるという面が露呈しています。それでも選挙を行うべき。国民の代理人たる議員を選定するような権限は誰にもなく、国民自身が選ぶ・・・というのが民主主義です。
カタールでは未だ、欧米的な選挙を行うだけの基盤が国民の間にできていなかった・・・というふうにも見られます。
もちろん、首長制(一種の君主制)であるという基本的違いもあります。
ただ、現在のタミル首長が“いい人”なので全部任せてもいいかもしれませんが、“悪い人”が首長になったときは・・・という根本的問題があります。
かつて王制のブータンで議員選挙を導入しようとしたとき、一部の国民から「王様がいればそれでいい。選挙なんか必要ない」という声がありましたが、国王だか前国王だかが「今はいいけど、悪い国王になったらどうすのか?」と説得したという話も。