孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  批判を抑え、強まるプーチン礼賛

2007-11-25 12:59:40 | 国際情勢

(2007年4月15日 サンクトペテルスブルグでの反対集会 “”より By 5hark)

12月2日が投票日のロシア下院選挙は、プーチン大統領率いる与党「統一ロシア」の圧勝が確実とされています。
プーチン大統領は来年5月の退任後をにらんで、「統一ロシア」の比例名簿1位に登録し、さらに今月15日にはプーチンに「国民の指導者」として国家運営を続けるよう求める組織「プーチン支持」が設立され、プーチン礼賛ムードを高めています。

プーチン自身も「国民が統一ロシアに投票するとすれば、彼らが私を信じているということだ。私は道義的にも、議会や政府の仕事ぶりをただす権利を得ることになる」と述べ、下院選を自身に対する信任投票と位置づける考えを鮮明にして、大統領退任後も政権に影響力を維持する考えを明言しています。【11月13日 朝日】

ロシア下院は、プーチン政権下での選挙制度改変により比例代表制に一本化され、議席獲得に必要な最低得票率が5%から7%に引き上げられたことで、小政党や無所属議員は事実上下院入りの道をふさがれた形になっています。 独立系世論調査機関「レバダ・センター」によると、議席獲得が確実視されるのは、「統一ロシア」とプーチン批判は避けている共産党だけで、あとは親政権の2つの政党がかろうじて望みをつなぐ状態だそうです。
民主系野党は議席すら得られずに壊滅的打撃を受けるとみられています。【11月21日 産経】

その民主党系野党に対するプーチン側の攻撃の手は緩まることはないようです。
プーチン大統領は21日、モスクワ市内のスタジアムに集まった若い支持者らに演説し、野党については欧米の支援を受けて国内の混乱を図っていると批判し、「残念なことに、わが国には大使館の外にも外国の飼い犬のような人々がいる。彼らは海外の資金をあてにしている」とこきおろしました。 
さらに旧ソ連のグルジアやウクライナに触れ、「欧米の専門家から学び、周辺諸国で教育を受けた彼らは今、われわれを挑発しようとしている」、「彼らはロシアが病弱になること、混乱し、分裂することを望んでいる」と非難しました。【11月22日 AFP】

5月の大統領退任後は“首相就任説”以外に、上院議長の考えとして、憲法改正なしで3選もありうる(いったん大統領を辞任し議員となり、その後3月の大統領選挙に立候補して大統領に“復帰”する)という話まで出ています。【11月21日 毎日】

選挙実施については、大統領の旧友である中央選管のチュロフ委員長は今回、外国選挙監視団を前回の3分の1となる約330人に制限。また、欧州安保協力機構(OSCE)がビザ発給を受けられず監視団70人の派遣を断念したこともあって、“密室選挙”の様相を呈しています。
そのチェロフ選挙管理委員長は、今年初めに「ルールその1、プーチンは常に正しい」との発言を行っています。【11月23日 AFP】
どこまで公正な選挙が行われるのか疑念がのこります。

国内情勢については、チェチェンは相当に押さえ込んだようですが、テロはその周辺に拡散して収まっていません。
22日には北オセチア共和国で路線バスが爆破されて18人が死傷、先月にもダゲスタン共和国で乗り合いタクシーが爆発して9人が死傷しました。イングーシでは共和国政府や治安当局を狙ったテロ攻撃が急増する一方、ロシア政府が連邦内務省軍を増派して「反テロ作戦」を強化。小規模な戦闘や民間人の殺害、拉致が頻発しており、「第2のチェチェン」と化す可能性が指摘されているそうです。【11月25日 産経】
ただ、「ロシアでは、03年12月の下院選挙と04年3月の大統領選挙の前後にテロ攻撃が相次ぎ、こうしたテロ事件が起こるたびにプーチン大統領は支持率を高める傾向が強い。」【11月23日 毎日】そうですから、選挙でのプーチン支持は更に高まりそうです。

直近のニュースとしてはこんなものも。
「モスクワの裁判所は24日、ロシア・プーチン政権に反対する野党連合勢力の集会を率いたチェス元世界王者カスパロフ氏に対し、拘禁5日間とする決定を言い渡した。」【11月25日 毎日】
「ロシア南部ダゲスタン共和国で、12月2日実施のロシア下院選挙に反プーチン派野党「ヤブロコ」から出馬していたファリド・ババエフ候補が21日、自宅近くで銃で撃たれ、24日、搬送先の病院で死亡した。」【11月25日 毎日】

一連の“プーチン個人崇拝”の動きに、「プーチン政権は今回の選挙を通じ、かつてのロシア皇帝(ツァーリ)にも似た独裁的な権力者を再び誕生させようと躍起になっている」【11月21日 産経】との批判があります。
個人的にも同様の感想を持っています。
同記事が指摘するように、「プーチンの治世下で、言論弾圧や反対派の封殺、警察国家化による国家統制の強化、エネルギー分野の再国営化に始まる国家資本主義の建設と、その発展の方向を強権体制へと転換した。」という印象は否めません。

しかし、ロシアの混乱をおさめ、“強いロシア”を再建しつつあるプーチンに対し国民の支持が集まっていることは事実で、「統一ロシア」の比例代表名簿1位に登載されることをプーチンが承諾すると、党の支持率は約12%はね上がったとも言われています。【11月21日 産経】

わからないのは、これだけ圧勝が確実視されており、国民の支持が高いプーチン大統領が、なぜ“あの手この手”で更に支持の上乗せ、野党の押さえ込みをはかっているのか?ということです。
選挙大勝にこだわるプーチンについて、「議席の4分の3以上を確保すれば、弱い後継大統領が謀反を起こさないよう、大統領弾劾手続きや憲法改正カードをちらつかせられ、いつでも大統領職に復帰できる態勢も整えられるからだ」【11月21日 産経】といった見方もあります。

恐らく、批判勢力が実際どれだけ実効をもちうるかに関わらず、たとえわずかであっても批判勢力が存在すること自体が我慢できない・・・そういう心理状態ではないでしょうか。
まさしくそれは“独裁者”の心理であり、社会を危険な方向に引っ張るものではないかと危惧します。
批判勢力・野党はあってしかるべきだし、それによって自らの姿勢も正しく保たれるという考えを否定した時点で“民主主義”は終焉します。

コメント
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