(2007年10月23日 チャベスが無制限に再選可能になる憲法改正に反対する学生集会 催涙弾に逃げ惑う学生 “flickr”より by BHowdy )
毎度の“お騒がせ”言動で露出機会の多いベネズエラのチャベス大統領。
最近ではイベロアメリカ首脳会議でのスペイン国王とのやりとりの他、コロンビアの左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」の人質交換問題で揉めています。
人質交換の仲介役に隣国ベネズエラのチャベス大統領が仲介に立っていたのですが、不思議な組み合わせです。
コロンビアのベレス政権はアメリカの強力なサポートを受けている親米政権で、ベネズエラがFARCを支援していると懸念しています。
ベネズエラのチャベス政権は、コロンビアがアメリカの手先となってベネズエラの体制転覆を狙っていると疑っています。
恐らく、両者の疑念はそれぞれある程度当たっているのでは。
そのベレスとチャベスが連携してうまくいくのかな・・・と思っていると、やはりと言うべきか、決裂したようです。
チャベスが交渉からはずされたのは21日で、その時のベネズエラ外務省の声明は、コロンビア政府の決定を「尊重する」としつつも「これまでの努力と進展を無に帰すものであり、遺憾に思う」という不思議なくらい冷静な対応でした。
あまりの冷静さに、「チャベス大統領は相当に後ろめたいところがあるのだろうか?」という感じでした。
しかしここに来て、チャベス大統領は「わたしはベネズエラとコロンビアの関係を"冷凍庫”に入れることを世界に宣言する。コロンビア政府の人間は1人も信じられない。全身全霊をかけて平和への道を模索したというのに、(コロンビア政府は)われわれの顔に容赦なくつばを吐きかけた」と怒りを表明しており、“彼らしい”対応に戻っています。【11月26日 AFP】
(追記 26日17:34 「チャベス大統領は反米左派、ウリベ大統領は親米右派だが、これまで、互いに「親しい友人」として比較的良好な関係を維持していた。憲法改正の是非を問う国民投票について、世論調査では「改正賛成」のチャベス派が敗北するとの予想もある。大統領が対コロンビア強硬姿勢を示した背景には、国民に存在感をアピールする狙いもありそうだ。」【11月26日 毎日】・・・だそうです。)
チャベス大統領がはずされた理由は、チャベス大統領が人質の情報を得るためにベレス大統領の頭越しに、コロンビア陸軍総司令官のモントーヤ将軍に直接接触したためとされています。
これがどういう意味なのか、モントーヤ将軍が何者なのか、私は知りません。
また、核開発にからんで、チャベス大統領は15日、フランスTVのインタビューで、「ブラジル、アルゼンチンのように、ベネズエラも平和利用目的の核開発を始めるつもりだ」と語ったことも報じられています。
“同大統領が核開発の方針を明確にしたのは初めて”【11月18日 毎日】とされていますが、05年5月にはTV・ラジオでブラジル、アルゼンチンなど中南米諸国と共に核研究を開始したい意向、及び、イランに協力を求める意向を表明し、翌06年2月ベネズエラを訪問中のイラン国会議長が、ベネズエラが計画している核開発に協力する用意があることを明らかにした・・・というようなこともあります。
(このあたりは、チャベス大統領の経歴・思考・実績を詳しく論じているサイト「待避禁止!」で詳細に紹介されています。
http://kei-liberty.mo-blog.jp/taihikinsi/2006/05/post_af3f.html)
それはともかく、原発ドミノが広がるなかでチャベス大統領のようなエキセントリックな指導者が核に手を出すことに不安を感じてしまいます。
そのチャベス大統領は今、憲法改正に臨んでおり、ロシア下院選挙と同じ今週末の12月2日が投票日です。
改正点は、大統領再選禁止規定の撤廃、中央銀行の自立性剥奪(はくだつ)、非常事態が発生した場合の大統領による報道規制など69カ所にのぼっています。
一言で言えば、チャベス政権がこのままずっと継続し、より強力・自由に行動できるようにするための改正にも見えます。
権力者というのは、どうしてこうもその地位に固執するのか不思議な気はしますが、そのような資質を持っているからこそ権力者になりたいと思うし、また、その地位に登りつめることも可能なのでしょう。
凡人には想像しかねるところです。
そういう国内事情、それと最近の露出の多さもあったのでしょうか、昨日NHKでチャベス政権について紹介していました。
「21世紀の社会主義」建設を掲げて、貧困層を対象とした各種事業を行ってきたチャベス大統領は、その恩恵を受ける貧困層には絶大な支持があるようです。
さきに紹介したサイト「待避禁止!」によると、キューバからの大量の医療スタッフ派遣も受けて、貧困層への医療提供を行い人気を博しているそうです。(でも、医療スタッフを送り出したキューバ自身の医療はどうなっているのでしょうか?見返りに石油をベネズエラからもらっているようですが。かつてカストロ・キューバはソ連の要請をうけて自国民を各地の紛争に送り出していたような記憶もあります。国家的人材派遣業でしょうか。その結果、多くの兵士が手足を失ったり、自国の医療水準が下がるようなことは・・・)
ベネズエラに話を戻すと、チャベス政権は企業家には評判がよくありません。
製品価格を強制的に凍結し、最低賃金は引き上げ・・・これではまともな企業経営はできなくなります。
「資産に対する戦争」を標榜して私企業を国有化し、また、大規模農園を接収するチャベス政権としては、そんな企業家の困難などお構いなしでしょう。
ただ、市場メカニズムですべてうまく行くとも思いませんが、あまりにこれを無視し、短期的な“貧困層バラマキ政策”に走ることは、長い目で見ると国の経済を疲弊させ、国民生活を停滞させることになるのではないかと危惧します。
今、ベネズエラ経済、国家財政がうまく回っているとしたら、それは莫大な石油収入のおかげでしょう。
昨今のアメリカのサブプライム・ローン問題による株式市場からの短期資金の流出、原油市場への流入による原油価格高騰はベネズエラにも莫大な利益をもたらしていると思えます。
(原油価格の実需部分は50ドル程度、ヘッジファンドの短期資金流入による高騰部分が30ドル程度、残りは長期の年金運用資金流入によるもの・・・とも聞きます。)
それを考えると、ゴリゴリの反米主義者チャベス(02年4月にアメリカが背後にいると思われる軍部のクーデターでチャベスはカリブ海の孤島に幽閉されたことがあることも、彼の反米路線をより強固にしているのかも・・・)もアメリカに感謝すべきでは。
(同様にイラン、ロシアも)
いずれにしても、これを“人気取り”と呼ぶかどうかは別としても、石油の利益を貧困層にばら撒く政策は、やはりやがて歪を大きくするのではないでしょうか?
経済政策以上に問題なのは、権力維持のための政治姿勢です。
反政府運動に対しては治安部隊が発砲をためらわないこともありますが、一番昨日のTV番組を観ていて印象的だったのは国家による国民の情報管理の手口です。
かつて、石油公社を中心とする反チャベスのゼネストによって窮地におちいったチャベス大統領は、04年に信任の国民投票を実施してこの危機を乗り切ったことがあります。
このとき大統領信任に賛成したか、反対したかという個人情報が国家的にデータ登録されており、かつ、反対者に対しては、その家族を軍隊から“能力不足”という理由で追い出す等の圧力がかけられているとのことです。
どうやって投票行動が把握されているのかはわかりませんが、この国家管理個人情報の一部が流出して、その実態が明らかになったそうです。
これはやはり“禁じ手”でしょう。
今回の憲法改正に関する国民投票も、反対が賛成を大きく上回っている事前調査もある(逆の結果を報告する調査もあるとかで、投票結果にしても、数字が必ずしも額面どおりに信用できないところがあります。)そうですが、反対者はその後の国家からの報復を恐れて投票所に足を運ばない恐れもあるとのこと。
こうなると、恐怖政治、強権政治以外の何ものでもなく、“貧困層のための・・・”と言っても許容できません。
仮に選管発表で賛成票が51%だったと言われて、それが信用できるか?
反対が上回ったとき、チャベス大統領はその結果を受け入れるだろうか?
12月2日、すっきりした結果が出るといいのですが。