孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  国際関係・内政に影を落とすカシミール問題

2010-12-29 20:58:27 | 国際情勢

(にこやかに握手する インドのシン首相と訪印時の温家宝・中国首相ですが、「1つの中国」「1つのインド」を巡ってかなり厳しいやり取りがあったようです。 “flickr”より By kanika_sikka
http://www.flickr.com/photos/55493501@N04/5263474986/ )

続々と“インド詣で”】
中国と並んで今後の世界経済をリードすると見られているインドに対し、経済・政治関係強化を目指して各国首脳が次々と訪問しています。

7月末にはキャメロン英首相がインドとの「新たな関係」の構築を目指し、敢えて訪中に先駆け訪印。
11月にはアメリカ・オバマ大統領が異例の1期目で訪印し、核物質や核関連技術の輸出を規制する「原子力供給国グループ」(NSG、日本など46カ国)へのインドの「完全参加」を支持する姿勢を打ち出しています。
12月に入ると、フランス・サルコジ大統領が訪印。原発建設や人工衛星開発で合意、インドの国連安保理常任理事国入りを支持すると表明しています。
ロシアのメドベージェフ大統領も12月21日、22日の二日間に亘りインドを訪問し、軍事や原子力等での協力関係の拡大で合意しています。
いずれのケースも、ビジネス代表団が同行するなど、“トップセールス”を競う様相を呈しています。

インドとライバル関係にある中国も温家宝首相が12月16日訪印し、ニューデリーでシン首相と会談。
会談後に発表された共同声明で、「世界で最も成長している2大国」として両国が世界の発展に協力して取り組むと宣言しました。
また、中国側からインド側への投資や事業協力に関する約50の合意文書も調印され、オバマ米大統領が訪印した際の商談額(100億ドル)を大きく上回る160億ドル(約1兆3500億円)相当の商談に合意したと伝えられています。【12月16日 毎日より】

【「1つの中国」を拒否
しかし、インドと中国の間には、国境線画定問題のほか、中国がインドの“宿敵”パキスタンとの関係を強化しているという政治的には微妙な問題があります。
****中印首脳会談 綱渡りの「政冷経熱」 相互不信拭えず*****
温家宝中国首相のインド訪問は、両国関係の「政冷経熱」がいっそう進んだことを印象づけた。世界で台頭する両国は、自国の経済成長のために経済協力を強化することでは一致している。だが、チベット問題や国境線画定問題を抱え、「政冷」を「政熱」に転じさせるのは容易ではない。

「私たちはパートナーであってライバルではない」
温首相は訪問初日の15日、両国ビジネス界の面々が集まった会合でこう語るなど、インドに存在する対中警戒論の払拭に努めた。
1962年に国境紛争を経験し、現在も国境線画定問題が横たわる両国には依然、相互不信が残る。しかし、インドのシン首相は、最大の貿易相手国である中国との経済関係強化は、貧困層の底上げを含むさらなる経済成長に欠かせないとの立場だ。
一方、政治面における関係は、中国の張炎駐印大使でさえ「とても脆弱(ぜいじゃく)で簡単に壊れやすく、修復がとても難しい」と表現するほどだ。最近では、中国側が、インド北部ジャム・カシミール州の住民に対する査証を、旅券とは別の紙に発給し、同州のインド陸軍司令官を務めた幹部への査証発給を拒否したことに、インド側は強く反発している。
こうした中国の対応は、カシミールの領有権をインドと争うパキスタンの主張を反映したものとみられる。温首相は訪印後、パキスタンへ向かう。両国を続けて訪問する外国首脳は最近では珍しく、パキスタンへの配慮がうかがえる。
この査証問題について温首相は16日の会談で、事務レベルで協議すべきだとの考えを示した。これに対し、インド側はあくまで中国が対処すべき問題だとの認識でいる。インドは先月、中国に対し初めて「インドにとってのカシミール問題は、中国にとっての台湾、チベット問題と同様に繊細な問題だ」と配慮を求めている。

ジャワハルラル・ネール大のコンダパリ教授(中国専門)は「両国関係が緊迫しているときだからこそ、トップ会談は意味をもつ」と、首脳会談が緊張緩和に貢献するだろうとみる。だが、「インドがカシミール問題に対する中国の対応を棚上げしたまま、貿易や経済面での関係強化を優先させるとは思えない」とも指摘し、両国は引き続き綱渡り的な対応を強いられるとの見方を示している。【12月17日 産経】
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インドとパキスタンの争いは“カシミール問題”ですが、中国がパキスタン側の主張に配慮していることに、インドは強く反発しています。上記記事にもある“査証問題”のほか、係争地カシミールのパキスタン支配地域で、中国軍の兵士が加わって大規模な開発工事が行われていることもあります。

このため、通常の中国との共同声明に含まれる、チベットや台湾を中国の一部とみなす「1つの中国」との文言を共同声明に盛り込むことをインド側は拒否したことが報じられています。【12月18日 朝日より】
同記事によると、インド側は、パキスタンとの係争地カシミールに対するインドの主権を認める「1つのインド」政策に同意するよう主張。しかし、パキスタンと友好関係にある中国側がこれに難色を示したため、インド側も慣例を破って拒否したとのことです。

変わらぬ印パ相互不信
現在の状況はよくわかりませんが、夏場、カシミール地方での緊張が高まっていることが報じられていました。
6月11日、インド北部ジャム・カシミール州のスリナガル市内で17歳の少年が学校からの帰宅中に、中央警察予備隊(CRPF)が発砲した催涙弾に当たって死亡した事件が騒動のきっかけになっています。

****反政府デモ頻発 カシミール 発火寸前の“火薬庫” 印パ、相互批判繰り返し****
インド北部ジャム・カシミール州の夏の州都スリナガルで、6月以降、住民らによる激しい反政府抗議デモなどが続いており、政府は約20年ぶりに現地に軍を派遣して事態の沈静化を図っている。同州はインドとパキスタンが領有権を争う南アジアの“火薬庫”。同州が混乱すれば、帰属問題は解決済みとするインドの立場は、住民の意思による解決を主張するパキスタンに脅かされかねない。両国の思惑のはざまで、住民は不安定な生活を強いられ、怒りを募らせている。
現地からの報道によると、16日、スリナガルを含むカシミール渓谷地域には終日、外出禁止令が出された。イスラム教の礼拝後に、分離独立派が主導する反政府抗議行動が予定されているからだ。治安当局は警戒を強め、現地はかなり緊迫しているもようだ。(後略)【7月17日 産経】
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同時期にはパキスタンで、パキスタン・インドの包括的対話も行われましたが、実質的な成果は出ず、カシミール問題・テロ問題で激しい応酬を繰り広げるなど、相互不信を印象づけています。

【「政府に異議を唱えただけで扇動罪」】
インドが抱える問題としては、このパキスタンとの“カシミール問題”、国内的には反政府武装組織「インド共産党毛沢東主義派(毛派)」があります。
インド政府はこうした問題への関与について、かなり神経をとがらせているようです。

****政府批判に扇動罪、インドで相次ぐ 言論弾圧と批判も****
インドで、政府に批判的な著名言論人に対し、扇動罪が適用される例が相次いでいる。この罪は最高刑が終身刑の重罪で、「国家による言論弾圧だ」との批判が起きている。
医師で人権活動家のビナヤク・セン氏が先週末、扇動罪で終身刑の判決を受けた。インド中部チャティスガル州の奥地で少数部族民の保健医療に長年携わり、国際的に表彰されたことがある人物だ。その一方で、同州などを基盤とする反政府勢力「インド共産党毛沢東主義派(毛派)」への治安部隊による掃討作戦に対しては、批判していた。
セン氏は人権団体幹部として接見した収監中の毛派活動家から手紙を託され、別の関係者に取り次いだ疑いで2007年に逮捕された。今月24日、同州の地裁が終身刑の判決を下した。毛派など非合法団体の支持者に対して、一般的に適用される最高刑は10年。このため法律専門家の間から「終身刑は重すぎる」と批判が起きた。

一方、首都ニューデリーの警察当局は11月、英ブッカー賞を受賞した女性作家アルンダティ・ロイ氏に対し、扇動容疑で捜査を始めた。
ロイ氏はパキスタンとの係争地カシミールをたびたび訪れ、治安部隊の弾圧に抵抗し、分離独立を求める地元民に共鳴。10月に行われた集会で「歴史的にみて、カシミールはインドの一部ではなかった」と発言し、問題視されていた。

一連の扇動罪の適用に対し、世論は割れている。インターネットの書き込みでは「反国家分子はどんどん投獄せよ」「カネを渡して米国に亡命させればよい」などとバッシングが横行している。
一方、首都中心部で今月27日、開かれた抗議集会では「政府に異議を唱えただけで扇動罪なのか」「魔女狩りはやめろ」と学生らが気勢を上げた。【12月29日 朝日】
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“世界最大の民主主義国家”とも言われるインドですが、“カシミール問題”や毛派の問題となると話は別なようです。

混迷するインド政界
なお、インド政局に関しては、汚職が横行するインドにあっては珍しく清廉潔白な人柄で知られるシン首相ですが、携帯電話汚職疑惑への対応で野党からの批判を浴びていることが報じられています。
****インド政界を混迷させる携帯電話汚職疑惑*****
インドで、2008年に当時の通信相が第2世代(2G)携帯電話の周波数帯の新規割り当てを不当な低価格で行っていたとの疑惑をめぐり、マンモハン・シン首相(78)が適切に介入しなかったとして、野党が首相への批判を強めている。
この疑惑に関して、政府の監査委員会は約400億ドル(約3兆3000万円)の歳入が失われた可能性があると指摘している。当時、通信・情報技術相だったアンディムス・.ラジャ氏は疑惑を受けて辞任に追い込まれたが、不正への関与は否定している。
低価格で周波数帯割り当てを受けた企業からシン首相が個人的な利益を得ていた疑いは出ていない。だが、連立政権の基盤を強化するためにはラジャ氏の地域政党、ドラビダ進歩同盟(DMK)の協力が必要との政治的な動機から、シン首相がラジャ氏の行為を黙認したと批判されている。(中略)
国民会議派は、2009年の選挙後、小規模政党と連立与党を組み政権の座についた。だが、10月に主催した英連邦競技会では、費用が予算を超過したうえ、競技会に関する調査で疑わしい契約や手抜き工事などが見つかるなど相次ぐ不祥事に見舞われており、インド政界は混迷を深めている。【12月21日 AFP】
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