孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  メドベージェフ大統領が進める対欧州外交

2010-12-08 20:53:18 | 国際情勢

(アンジェイ・ワイダ監督の映画「カティンの森」の一場面 旧ソ連軍に処刑されるポーランド軍将校  “flickr”より By festivaldecineeuropeo http://www.flickr.com/photos/festivaldecineeuropeo/5090639161/

日本とロシアの関係は、11月1日にメドベージェフ大統領が国後島を訪問したことを受けてギクシャクした状態が続いています。
一昨日6日には、自衛隊と米軍の日米共同統合演習が実施されている日本海・能登半島沖に設定された訓練空域にロシア軍の哨戒機が進入したため、日米のイージス艦による訓練を一時中断していたことが明らかになりましたが、“「訓練空域のど真ん中に割り込むかつてない大胆な挑発」(防衛省幹部)だ。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)移設問題できしむ日米同盟が機能しているか、瀬踏みする行動で、尖閣諸島沖の漁船衝突事件後に中国がみせた「高圧的な姿勢」と同じ構図だ”【12月8日 産経】という見方があります。

EUがWTO加盟支持:「最も成功した年だ」】
一方、ロシア・メドベージェフ大統領の対欧州外交は着実な進展を見せています。
11月20日には、もともとソ連の脅威に対抗する共同防衛組織として発足した北大西洋条約機構(NATO)首脳会議にロシア・メドベージェフ大統領も参加、両者の関係の「リセット(再設定)」を進め、ミサイル防衛(MD)の共同調査やアフガニスタンでの協力を確認しています。
当然、両者の思惑には異なる部分はありますが、ロシア側には欧州との関係改善による外資の呼び込み・経済活性化、アメリカ主導で進むMD計画に対する警戒感といった事情、NATO側にはパキスタン経由のアフガンへの物資輸送がタリバンにより危険にさらされ、ロシアの領域通過が必要になってきた事情が背景にあるとおもわれます。

7日には、EUはロシアとの首脳会議で、ロシアの世界貿易機関(WTO)加盟に対する支持を正式表明しました。
ロシアはソ連崩壊後の93年にWTOの前身・関税貿易一般協定(GATT)に加盟を申請しましたが、アメリカとの個別交渉が長引いたこともあり、国内総生産(GDP)世界9位(08年)ながら、加盟が大幅に遅れていました。
そのアメリカ・オバマ大統領からの加盟支持は、4月に調印した「新戦略兵器削減条約(新START)」交渉に並行する形ですでにとりつけています。

****EU:ロシアのWTO加盟を支持****
欧州連合(EU)は7日、ブリュッセルでロシアとの首脳会議を開き、ロシアの世界貿易機関(WTO)加盟に対する支持を正式表明した。バローゾ欧州委員長は首脳会議後の記者会見で「ロシアが11年にWTO加盟国となることが現実的になった」との見通しを示した。メドベージェフ露大統領も「極めて重要な合意に達することができ、満足している」と述べた。
首脳会議では、デフフト欧州委員(通商担当)とナビウリナ露経済発展相がWTO加盟に向けた覚書に署名した。ロシアは木材に課している輸出関税と、アジアからロシア経由で欧州に向かう貨物の輸送手数料を引き下げることを約束した。
ロシアは93年にWTOの前身・関税貿易一般協定(GATT)に加盟を申請したが、主要加盟国との個別交渉が長引いていた。ロシアは今年、EUに先立ち米国から加盟支持を取り付けており、メドベージェフ大統領は記者会見で「最も成功した年だ」と語った。【12月8日 毎日】
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WTO加盟には全加盟国・地域による同意が必要で、08年8月に武力衝突したグルジアからの同意が得られるかが最大の問題となっています。
****ロシア:「来年にもWTO加盟」 グルジア対応がカギに****
ロシアのプーチン首相は26日、ドイツのメルケル首相とベルリンで会談後、共同会見し、来年にも世界貿易機関(WTO)に加盟できるとの見通しを示した。ロシアはWTO入りしていない「最後の大国」。加盟には全加盟国・地域による同意が必要で、政治的に対立するグルジアが反対する可能性もあり、ロシアは米国や欧州連合(EU)に働きかけを強め、グルジアが妨害しないよう促す意向だ。
プーチン首相は「(EUとの間では)すべての問題が調整済みで、11年のWTO加盟は可能だと思う」と述べた。ロシアは10月初旬までに米国との個別交渉を実質的に終えており、他の加盟国との個別交渉と、その後の多国間交渉の合意を急いでいる。

一方、グルジアは、議会が25日に2014年にロシア南部ソチで開かれる冬季五輪に反対する委員会を結成するなど国内で対ロシア強硬論が根強く、加盟問題で歩み寄るか不透明な要素がある。
これに対し、ロシアのメドベージェフ大統領は今月14日の米露首脳会談で米国に協力を求めるなど、外交努力を重ねている。また、露有力紙の「独立新聞」は、ロシア政府がWTO加盟を優先し、06年から実施してきたグルジア産のワインや飲料水の輸入禁止措置を緩和する可能性を指摘している。【11月27日 毎日】
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今後は、グルジアを支援するアメリカ、グルジアが加盟を願っているEUの支持を取り付けたことで、この両者を通してグルジアへの働きかけを進めていくものと思われます。

対ポーランド関係改善:「これが政治的ジェスチャーでないことを信じている」】
ロシアに反感を持つ旧ソ連圏諸国のなかでも歴史的経緯からその急先鋒の立場にあったポーランドとの関係改善も進行しています。
****露・ポーランド首脳会談 カチンの森事件から70年 歴史的和解、友好へ一歩*****
ロシアのメドベージェフ大統領は6日、ポーランドの首都ワルシャワでコモロフスキ大統領と会談した。会談後の共同記者会見で両首脳は、「カチンの森事件」に象徴される第二次世界大戦をめぐる歴史的対立を乗り越え、友好関係構築に踏み出すことをアピールした。欧州屈指の反露派だったポーランドとロシアの関係は新たな局面を迎えた。

メドベージェフ大統領は記者会見で、「ロシアは最近、歴史的障害を取り除くために先例のない道を歩んできた」と述べた。ロシアは5月、カチンの森事件に関する公文書のポーランド側への提供を始めたほか、露下院では11月下旬、スターリンらソ連首脳部が同事件の指令を下したことを認める声明を採択、和解に向けた努力を進めてきた。
カチンスキ大統領(当時)のほか政府高官ら約90人が乗った専用機が今年4月、露西部で墜落し全員が死亡した事故についても、ポーランド側への協力を惜しまない意向を示した。

コモロフスキ大統領はカチンの森事件について、「(全容解明は)最後まで行われなくてはならない」としながらも、露下院の声明を高く評価、「新たな(両国関係の)段階が始まった」と述べた。
カチンの森事件をめぐっては、発生から70年となる今年4月、両国の首相が初めて現場での追悼式典にそろって出席、和解の機運が生まれていた。7月の選挙を経て大統領に就任したコモロフスキ氏は故カチンスキ氏と異なり、対露融和派として知られる。
メドベージェフ大統領はポーランド政府に対し、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)との交渉にも、積極的に加わることに期待を示した。大統領は7日までのポーランド滞在に続き、ブリュッセルでEUとの首脳会談に臨む予定で、ポーランドとの関係好転はロシアの対欧州関係全般にも影響を及ぼしそうだ。

【用語解説】カチンの森事件
 第二次世界大戦中の1940年春、ソ連秘密警察がポーランドから連行した将校ら2万人以上を銃殺した事件。ドイツ軍が43年、現在のロシア西部スモレンスク近郊のカチンの森で遺体を発見、発覚した。ソ連はナチス・ドイツの仕業だと主張、90年にゴルバチョフ大統領が関与を認め、初めて謝罪した。事件はポーランドに対露不信を長く根づかせる一因となった。【12月7日 産経】
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両国の関係改善は、カチンスキ大統領(当時)のほか政府高官ら約90人が乗った専用機が今年4月、カチンの森事件追悼式典に向かう途中、ロシア西部で墜落し全員が死亡した事故において、ロシア側が誠意ある対応を示したことで急速に動き出した感があります。更に対ロ強硬派のカチンスキ大統領に代わって穏健派コモロフスキ氏が大統領就任したことで加速しています。
ロシア側にもこれを機にポーランド・欧州との関係改善を進めようとの意向があるようです。

****カティンの森」ワイダ監督に友好勲章 ポーランドと和解狙う? 露大統領が授与****
ポーランドを訪問したメドベージェフ露大統領は6日、映画「地下水道」「カティンの森」などを制作したポーランドの監督、アンジェイ・ワイダ氏に友好勲章を授与した。
大統領は式典で、「あなたの作品はロシアでも高く評価され、愛されている。第二次世界大戦に基づく作品が、私たちの国の友好や世界の平和のために、よりよい知識を呼び起こすことを願っている」と述べた。ワイダ氏は「これが政治的ジェスチャーでないことを信じている」と応じた。
ワイダ氏は第二次大戦末期、ドイツ占領軍に対して市民が立ち上がったワルシャワ蜂起などを題材に「抵抗三部作」と呼ばれる映画を制作、国際的注目を集めた。
1940年春、2万人以上のポーランド人将校らがソ連秘密警察により殺害された「カチンの森事件」を描いた「カティンの森」はロシアではほとんど上映されていなかったが、ポーランドとの歴史的和解の機運が生まれた今年4月、国営ロシアテレビが放映。ポーランドとの和解を求めるロシア政府のメッセージとの見方が広がった。
ワイダ氏の父親はカチンの森事件に巻き込まれて死亡している。【12月7日 産経】
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映画「地下水道」は、第二次世界大戦中ナチス・ドイツ占領下のワルシャワで起こった武装蜂起「ワルシャワ蜂起」の悲劇的結末を扱った映画です。当時、ソ連軍はワルシャワの対岸にまで侵攻していたにも関わらず、ポーランド亡命政府の主導するレジスタンスを「見殺し」にし、その蜂起失敗後ワルシャワに入り、共産主義者による傀儡政権を樹立しました。映画の中で、レジスタンス活動家は暗い地下水道を逃げ回り、果たせなかった夢に思いをはせながら死んでいきます。
ワルシャワ蜂起見殺しは、旧ソ連の周辺国・旧ソ連圏に対する考え方がよくわかる事件です。
映画「カティンの森」は、文字通り、ソ連軍によるポーランド軍将校の虐殺を扱ったものです。
両方ともにソ連批判を前面に出した形ではないですが、それだけに政治情勢に翻弄されたポーランド国民の悲しみと怒りが切実に感じられる映画です。
その監督アンジェイ・ワイダ氏にロシアが友好勲章を授与というのは、隔世の感があります。
ワイダ氏の言うように「これが政治的ジェスチャーでないことを信じている」・・・というところです。

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