孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チュニジア  野党指導者暗殺で混乱拡大 「アラブの春」第3幕はあるのか?

2013-02-08 22:30:15 | 北アフリカ

(救急車に運び込まれる暗殺された野党指導者ベルイード党首 “flickr”より By Mundo33 http://www.flickr.com/photos/87718284@N06/8450907883/

【「アラブの春」発祥国で、拡大する混乱
北アフリカ・チュニジアが再び揺らいでいます。

****ゼネストで都市機能まひ=野党指導者暗殺で民衆呼応―チュニジア****
有力野党指導者が6日に暗殺されたチュニジアで8日、同国最大の労組、労働総同盟(UGTT)の呼び掛けによるゼネストが行われた。穏健派イスラム政党主導の政権が、過激なイスラム勢力を野放しにしてきたことが事件の背景にあるとされており、政権への圧力が強まりそうだ。

AFP通信によると、首都チュニスでは多くの商店がシャッターを下ろし、公共交通機関も運休が目立った。チュニスの国際空港でも多くの航空便が運航をキャンセルした。

UGTTは約50万人の組合員を擁し、民衆運動「アラブの春」の引き金となった2011年1月にベンアリ政権を打倒したデモを主導した。
穏健派イスラム政権批判の急先鋒(せんぽう)だった野党指導者ベライド氏の暗殺をきっかけに、イスラム原理主義勢力の台頭に警戒感を抱く世俗派の国民の反政府感情に火が付いた格好だ。【2月8日 時事】
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イスラム主義台頭は、国民が貧困・経済格差の解消の希望をイスラムの理念に託した結果
周知のようにチュニジアは、役人の腐敗に抗議して2010年12月17日に露天商青年が焼身自殺を図ったことをきっかけに民衆が蜂起し、その後に北アフリカから中東のイスラム社会を大きく揺るがすことになる「アラブの春」の端緒となった国です。

2011年1月にはベンアリ政権が崩壊、同年10月に行われた制憲議会選挙ではスラム穏健派政党アンナハダが第1党となり、12月にはアンナハダを中心とする暫定内閣が発足しています。

アンナハダは、エジプトの穏健派イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」の考えに共鳴した人々を中心に81年に設立されました。その後、非合法化されましたが、11年1月の政変後に合法化され、指導者のガンヌーシ氏が亡命先の欧州から帰国し、貧困層を中心に支持を広げました。

“民主化運動”としての「アラブの春」に欧米は大きな期待を持っていましたが、エジプトの「ムスリム同胞団」に代表されるように、欧米諸国との国際政治上は協調することも多かった独裁・強権政権が崩壊したあとには、イスラム主義が台頭し、逆に欧米は警戒感を高めるという結果にもなっています。チュニジアもその1例です。

しかし、そうしたイスラム主義の台頭は、国民が厳格な「イスラム化」を求めたというよりは、強権支配体制のもとでの貧困・経済格差の解消の希望をイスラムの理念に託したと言えます。

****チュニジア:国民「イスラム重視」選択 穏健派政党勝利****
27日開票作業が終わった北アフリカ・チュニジアの憲法制定議会(定数217)選挙で、穏健派イスラム政党「アンナハダ」は全議席の4割超を獲得し、決定的な勝利を印象づけた。中東の民主化要求運動「アラブの春」の先駆者であるチュニジア国民が導き出した答えは「イスラム重視」だった。
しかし、過度の宗教国家化が進めば、再び国民の反発を招く恐れもあり、新政権は従来の世俗主義の利点も融合したバランスの取れた国家運営を迫られる。

歴史の節目に民主的な選挙が実施され、イスラム勢力が台頭する例は今回が初めてではない。
複数政党制導入後初となった91年のアルジェリア国会議員選ではイスラム政党が大勝。
06年のパレスチナ評議会(国会)選では、中東和平の行き詰まりに不満を抱いた住民がイスラム原理主義組織ハマスを圧勝させた。

一方で、今回の選挙でチュニジア国民が求めたのは、イスラム化による個人の自由や権利の制限ではなく、旧ベンアリ政権で進んだ経済格差の解消だ。貧者の救済や不平等の克服を掲げるイスラムの理念に希望を託したといえる。
アンナハダのガンヌーシ党首は「チュニジアの民主主義が『暴力的、独善的、反欧米的なイスラム』という固定観念を消し去る良い事例になることを望む」と語る。

「イスラム教と民主主義は両立するか」「女性の権利は守られるのか」。選挙結果を受け、欧米メディアはチュニジアでのイスラム勢力台頭への警戒感を強調する。
しかし、イスラムと民主主義は対立する概念ではない。むしろ「アラブの春」によって、民主主義の“手本”を自任する欧米諸国が、チュニジアやエジプトの独裁政権を容認し、民主主義の芽を摘んできた矛盾も露呈した。

緩やかなイスラムと世俗主義の融合を図る「トルコ型」か、社会全体に宗教を介入させる「イラン型」か。長く非合法化されていたアンナハダが主導する新政権の方向性は未知数だ。
しかし、抑圧的な宗教体制が続くイランでは、豊富な石油収入をばらまき国民の不満を強引に抑え込んでいるのが現実。天然資源の乏しいチュニジアが「イラン型」に傾けば、国民の反発が高まり、海外からの投資や観光客が離れて国際的に孤立するのは明白だ。【2011年10月28日 毎日】  
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進まない経済改善
アンナハダが主導する政治体制づくりは進展しましたが、国民経済の改善は進んでいません。
****チュニジア:アラブの春、なお迷走 青年抗議自殺から1年****
・・・・中東全域を激震させるきっかけとなった抗議の焼身自殺から1年。首都チュニス中心部のブルギバ大通りには多数の屋外カフェがパラソルを広げ、客でいっぱいだ。人通りも多く、一見平穏を取り戻したかに見える。

だが、革命前の昨年は700万人近くが訪れた外国人観光客の姿は目立たず、内務省や議会前には今も鉄条網が設置され、重機関銃を据え付けた装甲車が警備に当たるなど、「革命」による混乱の名残は今も見られる。

「10~20%程度」(地元記者)とされるインフレが庶民の生活を圧迫。市民の多くは「自由」によって生活が楽になったと実感できず、労働者のストライキや政府への抗議行動なども続き、南部タタウィヌ県の一部都市では13日、住民間の衝突で夜間外出禁止令が発令された。(後略)【2011年12月15日 毎日】
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活発化するイスラム原理主義組織
今回の混乱のきっかけとなったのは、イスラム原理主義組織への対策が不十分と政府を批判していた野党指導者が暗殺された事件です。

****チュニジア:制憲議会を解散し選挙へ 野党党首暗殺で混迷****
チュニジアのジェバリ首相は6日夜、テレビ演説し、近く制憲議会を解散し、選挙をする方針を明らかにした。選挙までは、実務家による暫定内閣が政務にあたる。6日に野党指導者が自宅前で射殺され、反政権デモが起きるなど、与党への反発が強まったことを受けての判断とみられる。

中東の民主化要求運動「アラブの春」の先駆けとなり、比較的安定していたチュニジアだが、にわかに混迷の度合いが増してきた。
ジェバリ首相は演説で「内閣改造に関する政党間協議が不調に終わった。小規模な実務家内閣を作り、なるべく早期に選挙を実施する」と説明した。

チュニスでは6日朝、少数政党「民主愛国党」のベルイード党首が自宅前で何者かに撃たれて死亡した。ベルイード氏は、イスラム原理主義組織への対策が不十分として、連立与党の最大勢力である穏健派イスラム政党アンナハダを批判していた。野党勢力は暗殺事件にアンナハダが関与した疑いを指摘したが、アンナハダは否定する声明を発表した。

事件後、チュニジア各地で反政権デモが発生し、チュニスではアンナハダ本部が放火された。内務省によるとデモ隊との衝突で警察官1人が死亡した。

チュニジアでは11年1月にベンアリ独裁政権が崩壊。10月の制憲議会選挙でアンナハダが第1党となり、中道政党などと連立与党を組んだ。しかし新憲法の制定は遅れており、最近では連立パートナーがアンナハダ出身の閣僚の交代を求めたため、連立内で協議を続けていた。【2月7日 毎日】
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第1幕「政権崩壊」 第2幕「イスラム主義台頭」 第3幕は?】
混乱収拾策としてジェバリ首相が発表した制憲議会解散・選挙の方針については、与党アンナハダから「同意できない」との反発も出ており、先行きは不透明です。

****チュニジア:与党も首相案に反対 混乱広がる****
チュニジア連立政権の最大与党である穏健派イスラム政党アンナハダのジャラシ副党首は7日、ジェバリ首相(同党出身)が6日に表明した実務者内閣の創設と早期の制憲議会選の実施に党として反対する方針を明らかにした。主要野党は制憲議会をボイコットするとして与党側を揺さぶっており、アンナハダに批判的な野党指導者の暗殺に端を発した混乱が政界にも広がっている。

ジャラシ副党首は党のウェブサイトを通じて、首相案について「党の意見を聞かずに表明したもので、党としては同意できない」と述べた。アンナハダは11年10月の制憲議会選で第1党となり、中道政党などと連立政権を組んでいる。首相の出身政党から異論が出たことで、政権与党の混乱を露呈した格好だ。

一方、世俗派野党連合「人民戦線」などは、首相案を大筋で歓迎し、憲法草案を策定中の今議会はボイコットする方針を明らかにした。(後略)【2月7日 毎日】
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解散・総選挙が行われるかどうかも不明ですが、選挙に関しては組織力で勝るイスラム勢力が有利ともいわれています。
ただ、これまでのアンナハダ中心の政権が行ってきた経済運営に国民がどのような判断を下すのか、また、今回の野党指導者暗殺に見られるような過激なイスラム原理主義の台頭がどのように評価されるのか・・・注目されます。

強権支配体制の崩壊という第1幕、イスラム主義の台頭という第2幕に続いて、緩やかなイスラムと世俗主義の融合という第3幕が訪れるのか・・・、あるいは混乱の第3幕か・・・、どうでしょうか。

エジプトでも似たような展開
なお、隣国エジプトでは「ムスリム同胞団」を基盤とするモルシ政権と、世俗・リベラル派や旧政権支持者などの反政府勢力の対立が混迷の度を深めていますが、過激な聖職者が名指しで改革派指導者エルバラダイ前国際原子力機関事務局長や元大統領候補サバヒ氏の殺害を認めるファトワ(宗教令)を出しています。

****野党指導者殺害容認の宗教令=エルバラダイ氏の警備強化―エジプト****
エジプトの聖職者がこのほど、世俗系野党の連合体「国民救済戦線」の改革派指導者エルバラダイ前国際原子力機関事務局長らが、シャリア(イスラム法)に異論を申し立てたなどとして、殺害を容認するファトワ(宗教令)を出した。これを受け、治安当局はエルバラダイ氏ら周辺の警備を強化した。

過激な聖職者マフムード・シャアバン師が名指しでエルバラダイ氏のほか、元大統領候補のサバヒ氏の殺害を認めるファトワを出したもので、エルバラダイ氏は6日、「ファトワに対する政権の沈黙はイスラムの名において野党政治家の殺害に許可を与えるものだ」と批判した。【2月8日 時事】
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イスラム主義政権のもとで野党指導者が暗殺されたチュニジアと似たような展開ですが、暗殺という同じ結果とならないことを願います。
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