孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  アサド政権にとどめをさせない反体制派と支援国の事情

2013-02-19 23:00:51 | 中東情勢

(1月13日 首都ダマスカス いたって平穏・・・のようにも見えます “flickr”より By عدسة شاب تلي | Lens Young Tali1  http://www.flickr.com/photos/92649400@N08/8476297472/

【「傍観者の立場で、行き詰まり、殺りくを黙って見ている状態をこれ以上続けてはならない」】
シリア内戦は泥沼状態で、犠牲者だけが増え続けています。
11年3月以来の死者は7万人と、ここ1カ月だけで1万人も増加。国外避難民も1日あたり5000人に及んでいるとのことです。

****死者数は1か月で約1万人増加*****
・・・・一方、国連のナバネセム・ピレイ人権高等弁務官は、2011年3月から続く戦闘による死者数が7万人に達しつつあると発表した。わずか1か月前の発表では、死者数は6万人とされていた。

またこの発表に先立ち、国連の潘基文(パン・キムン)事務総長は、シリア反体制派の統一組織「シリア国民連合」のアフマド・モアズ・ハティブ代表との対話の提案を「逃してはならない機会」として受け止めるよう、シリア政府に要請した。さらに潘事務総長は、国連安全保障理事会が「傍観者の立場で、行き詰まり、殺りくを黙って見ている状態をこれ以上続けてはならない」と述べている。【2月13日 AFP】
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****シリア内戦、毎日5000人が国外避難****
内戦状態が続くシリアでは、国外に逃れる人が増え続けており、その数は1日当たり約5000人に達している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が8日に発表したところによると、避難した人の総数は、ここ1か月で25%増加した。
避難先は周辺諸国が中心で、レバノンに約26万1000人、ヨルダンに約24万3000人、トルコに約17万7000人、イラクに約8万5000人が避難している。・・・・【2月10日 AFP】
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アサド政権:相手側の都合で墓場に行けず立ち往生
アサド政権が追い込まれながらも、劇的な変化が見られない現状を作り出している理由として、反体制派内部の不統一、方向が定まらないことが指摘されています。

****生殺し」のアサド****
「とどめ」の能力を欠く反体制派

「2013年を、再び6万人のシリア人を殺す年にしてはならない」。1月中旬、英国のヘイグ外相はこのように述べて、平和的な手段でシリア問題が解決されるべきと訴えたが、英国を含め、軍事介入の選択肢をもたない欧米に和平実現の具体策はない。
一般市民を狙った重火器での容赦ない攻撃と、これに対抗する虐殺行為の応酬は激しさを増す一方で、このペースでいけば、一年を待たずして犠牲者が倍増する恐れすらある。
(中略)
地元の評論家は、「アサドがもはや死に体で、復活の可能性がないことは明らかだが、今でも血塗られた王座にしがみついていられるのは、反体制派が一体何を、どうしたいのかさっぱりわからないからだ」と評している。つまり、アサド政権が冷血非道な独裁政権だということも、また国民に大砲を向け、既に大統領としての正当性を失っていることもわかりきっているので、この際問題ではない。

しかし、これを追い落とすべき立場の反体制派、とくに昨年12月鳴り物入りで設立された「シリア国民連合」が、米国をはじめとする欧米諸国の全面的支持を受けながら、イスラム過激主義者と世俗主義者が対立し、亡命政権を樹立できないでいることの方がよほど問題だ、というのである。

つまり、シリアの現状を俯瞰すると、「アサドの亡霊」(前出評論家の表現。もはや命運が尽きている)が、相手側の都合で墓場に行けず立ち往生している、といったところだろう。・・・・【2月号 選択】
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日本を含む100カ国以上から「シリアの唯一、正統な代表」と承認されている「シリア国民連合」のハティブ議長は1月末、「個人的な見解」と断った上で「政権側と直接対話をする用意がある」として、アサド政権側との対話を呼び掛けています。しかし、組織内部で強い反発も招きました。

****シリア:「アサド政権との対話」 反体制派に波紋****
内戦が続くシリアの反体制派主要組織「シリア国民連合」のハティブ議長が、アサド政権側との対話を打ち出したことが反体制派内に波紋を広げている。

反体制派の大半はアサド大統領の排除を和平の条件としており、議長の独断専行に批判が出たが、米欧やアラブ諸国は議長の提案を支持した。反体制派にとって外国の支援は不可欠なだけに、今後の活動方針を巡って困惑が広がっている。

ハティブ議長は1月30日、インターネットの交流サイト「フェイスブック」を通じ、政治囚の釈放と国外の反体制派活動家への旅券発給を条件に、アサド政権側との対話を打ち出した。「個人的な意見」としていたが、2月上旬にドイツで開かれた安全保障会議でも同様の見解を国際社会に示した。

議長はアサド政権を支援するロシアとイランの外相とも相次いで会談。対話の相手としてシャラ副大統領を指名した。イスラム教アラウィ派が中核を占めるアサド政権だが、シャラ氏は反体制派に多いスンニ派だ。7日閉幕のイスラム協力機構会議でも、対話路線は支持された。

議長が方針転換を表明した背景には、組織内外からの圧力がある。シリア問題に関するブラヒミ国連・アラブ連盟合同特別代表は、アサド政権と反体制派の双方に対話による事態打開を求めてきた。また国民連合は昨年11月の発足以来、100カ国以上から「シリアの唯一正統な代表」との承認を得た以外に目立った実績がなく、反体制派内でも不満が募っていた。

だが、議長の対話路線表明は、組織内の反発を生んだ。国民連合内の主要勢力である国民評議会は5日、議長提案に反対する姿勢を表明。自由シリア軍のイドリス司令官は毎日新聞の電話取材に「議長を信頼しているが、我々はアサド大統領を排除し、政権幹部が法廷で裁かれるまで戦う」と語った。

ただ、議長が条件としてあげた政治囚の釈放などを、アサド政権が認める可能性は低い。ゾアビ情報相は8日、国営テレビで「あらゆるシリア国民と対話する用意があるが、前提条件はなしだ」と強調した。【2月9日 毎日】
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国連の潘基文事務総長が、この対話の提案を「逃してはならない機会」として受け止めるようシリア政府に要請しているというのは、冒頭【2月13日 AFP】にあるとおりです。

その後、内部からの批判を踏まえたものでしょうか、ハティブ議長は移行政府についてアサド大統領の排除を明確にしたうえで、デモ弾圧や市民殺害に関与していないアサド政権幹部や官僚らの参加を容認する旨を発表しています。

****シリア:反体制派が和平協議原則「移行政府に政権幹部も」font>****
シリア反体制派の統一組織「シリア国民連合」は15日、アサド政権側との和平協議に臨むにあたっての原則を発表した。移行政府の陣容などについて、アサド大統領や治安機関幹部らは含めないと明確にする一方、デモ弾圧や市民殺害に関与していない政権幹部や官僚らの参加を歓迎する意向を表明した。しかし、アサド政権は、反体制派との無条件での対話開始を求めており、内戦終結に向けた道筋は見えていない。(後略)【2月16日 毎日】
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【「アラブの春」が招くイスラム過激派台頭への警戒感
シリア内戦を長引かせている要因として、反体制派内部の問題に併せて、反体制派を支援する欧米諸国の“及び腰”というか“躊躇”みたいなものがあります。
欧米では、「アラブの春」が結果的にイスラム過激派の台頭を招いているのではという認識が広まっています。

“「アラブの春」が当初信じられたように、アラブ各国の独裁体制に対する民衆の怒りに端を発した民主化革命であるという認識は、すぐさま砂漠の蜃気楼のように消え去り、砂嵐の去った後に目を凝らすと各国にイスラム過激主義体制が出現していた。世界、とりわけ欧米諸国はこの問題の取り扱い方法に誤りがあったのではないかと感じ始めていた。”

“アラブの春は、「広場と大衆の民主主義」という形をとりつつ、これが「議会を通じた民主主義」に至る前にイスラム過激主義者により乗っ取られ宗教独裁に向かうという進展を見せている。政権樹立に成功したチュニジア、エジプトの状況はある程度ましだが、一方で今回のアルジェリアにおける事件が示したとおり、対テロ戦争以来の過激なジハード主義の拡散を許す、深刻な情勢をもたらした。” 【2月号 選択】

このため、シリアと接するイスラエルなどは、アサド政権が崩壊してイスラム過激派が台頭するような政権ができるよりは、アサド政権が「死に体」のまま存続してくれた方がいい・・・というのが本音でしょうし、イスラエルの後ろ盾アメリカも、アサド政権崩壊には慎重にならざるを得ないところです。

また、リビア・カダフィ政権の崩壊によって大量の武器がイスラム過激派の手に渡り、そのことがマリ北部の混乱や、アルジェリアでの人質事件につながったとも見られています。
シリア反体制派の戦闘員にはイスラム過激派の勢力が深く関与しており、反体制派への武器支援はイスラム過激派を補強することにもなりかねません。

****EU:外相会議 シリアへの武器禁輸、意見まとまらず****
欧州連合(EU)は18日、外相会議を開き、シリアへの武器禁輸措置を解除し、反体制派に武器を供給する方針転換について、強く推進する英国と反対する北欧やドイツの意見がまとまらなかった。
妥協案として、武器禁輸を3カ月延期し、防弾チョッキなど「非殺傷」型の軍事支援を強化することで合意した。和平合意など政治解決が進展せず、内戦状態に陥っているシリアへの対応に国際社会は苦慮している。

英国は反体制派の武装強化を通じて、アサド政権の打倒を手助けすることを目標に、今月末で期限を迎えるEUの武器禁輸を解除すべきだと主張。フランスも理解を示した。
しかし、北欧やドイツが(1)アサド政権と反体制派の戦闘が泥沼化する(2)武器がイスラム過激派などに渡る恐れがある−−などとして強く反対。あくまで政治的解決を主張した。

結局、武器禁輸措置を3月初めから3カ月延期することで合意。再度、協議することになった。
また、妥協点として、従来認めている「非殺傷」型の支援を「市民を保護するためにより強化」することを決めた。具体的には防弾チョッキや暗視装置、通信設備などの供給が想定されている。ヘイグ英外相は「この機会を利用して支援を強化する」と述べた。

シリアのアサド政権による反体制派への軍事攻撃は激しさを増しているが、中露の反対で国連安保理もまとまらないうえ、欧米諸国では軍事介入をためらう国が大多数で、手詰まり状態になっている。【2月19日 毎日】
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アシュトン外交安全保障上級代表は理事会後、「民間人保護のために殺傷力を伴わない一段の援助や技術的な支援ができるよう修正する」とした制裁措置修正は「軍事的支援ではない」と説明。
一方、ヘイグ英外相は「重要な進展」と強調し、近く具体的な支援策が協議されるとの見解を示しています。【2月19日 産経より】

一方、アサド政権を支えてきたロシアについては、ひところプーチン大統領のアサド政権を見限るような発言などもあって、対応が変化したのでは・・・とも見られていましたが、アサド政権への武器支援は続いているようです。

****対シリア兵器供給を継続=輸出総額は過去最高―ロシア****
ロシア国営兵器輸出会社ロスオボロンエクスポルトのイサイキン社長は13日の記者会見で、内戦下のシリアのアサド政権に対空防衛システム「パンツィリS1」を供給していることを明らかにし、今後も対シリア輸出を継続する方針に変わりはないと語った。

一方、2012年のロシアの兵器輸出額が全体で129億ドル(約1兆2000億円)と過去最高に上ったと発表。11年の107億ドル(約1兆円)、10年の87億ドル(約8000億円)から増加傾向にあることを強調した。シリアは輸出先の中で13~14位の額を占めるという。【2月13日 時事】
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アサド政権に支払い能力があるのでしょうか?アサド政権が崩壊したらロシアは踏み倒されることにもなるのでは?それを考えると、いつまでロシアが支援できるのか?・・・といった感もあります。

シリアの失業率:37%
反体制派内部はまとまりを欠き、支援する側にもためらいがある、ロシアはアサド政権を完全には見限ってはいない・・という展開で、弱体化したアサド政権がしばらく続きそうです。
アサド政権が内戦状態のなかでどのような統治を行っているのか、行政が機能しているのか、市民生活がどうなっているのか・・・・よくわかりませんが、内閣改造が報じられています。

****シリアで内閣改造、経済・社会問題に焦点****
シリアのバッシャール・アサド大統領は9日、内閣改造を行った。今回の改造では経済と社会問題の大臣に焦点が当てられた。

国営シリア・アラブ通信によると今回交代した閣僚は7人。また社会労働省を2つに分割し、社会問題相に女性を起用した。シリアで反体制騒乱が始まった2011年3月以降、アサド大統領は数回にわたって内閣改造を行っており、今回はリヤド・ヒジャブ元首相が政権を離脱した直後の2012年8月に続くもの。

約2年にわたる騒乱でシリアは未曾有の経済不況のどん底にある。世界銀行はシリアの国内総生産(GDP)が20%縮小したと発表。国連の西アジア経済社会委員会(ESCWA)によると、同国の失業率は37%にのぼっており、2013年末までに50%に達する可能性があるという。【2月10日 AFP】
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内戦状態にありますから、経済が“どん底”にあることは想像に難くないところですが、全土が戦火に覆われ経済・市民生活が完全に崩壊している訳でもないようです。
報じられる情報は戦闘地域からのもので、必ずしもシリア全体を表しているものでもない・・・ということでしょうか。
失業率が37%というのは、ギリシャの27%などを考えると、そんなにひどい数字でもないように思えます。
“37%”という数字が信用できるなら・・・の話ですが。
コメント
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