
(1月31日 北京 “flickr”より By Harri Urho http://www.flickr.com/photos/53999644@N06/8432308393/)
【青空が広がったことが国際ニュースに】
中国・北京の大気汚染については、1月13日ブログ「中国 「深刻な大気汚染」を連日記録 懸念される健康被害」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130113)で取り上げましたが、その後も深刻な状況が続き、2月に入ってようやく青空が広がったようです。
****北京に久しぶりの青空 大気汚染解消へ人工降雨も****
先月下旬から深刻な大気汚染に覆われていた北京では1日朝、久しぶりの青空が広がった。同日未明からの大風で大気中に含む汚染物質が吹き飛んだためだ。小雨が降ったことも汚染解消につながった。北京周辺では汚染解消のため人工降雨も実施したようだ。
「白雪が墨汁になっちゃった」。河北省石家荘のある小学校の授業の実験で地面に積もった雪をビーカーで溶かしたところ、どす黒い水になったという。インターネット上はこんな話題で持ちきりだ。北京市民の間では最近、携帯電話のソフトでその日の大気汚染指数を確認するのが毎朝の日課となりつつある。
中国では2月10日に旧正月である春節を迎える。環境保護省は大気汚染を抑えるため、春節を祝う爆竹や花火をあまり使わないよう呼び掛けている。【2月1日 日経】
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言うまでもないことですが、青空が広がったことが国際ニュースになるというのは、まともな事態ではありません。
【健康被害、交通事故、高速鉄道も故障】
住民の健康にも深刻な影響が出ました。
医療機関にはのどや目の痛みを訴える患者が詰めかけ、外出する人は減り、商店ではマスクや空気洗浄機が飛ぶように売れるという状況です。
****中国:大気汚染地域さらに拡大 病院に患者相次ぐ****
中国各地で大気汚染の深刻な地域がさらに拡大し、中国国内の医療機関には、のどや目の痛みを訴える患者が詰めかけている。特に幼い子供や、屋外の活動が多い警察官などの健康悪化が懸念され、当局は対応に追われている。視界不良による交通事故も相次いでおり、影響の広がりに中国国外からも懸念の声が上がっている。
中国環境保護省によると、1月30日のデータで、大気汚染の高い数値を示しているのは北京や天津、上海、陝西(せんせい)省西安、江蘇省南京、遼寧(りょうねい)省瀋陽、黒竜江省ハルビンなどで約143万平方キロ。日本の面積の4倍近くに達した。
北京市中心部の朝陽区にある病院では31日午後、家族連れで駆けつけてきたマスク姿の子供の姿が目立った。(中略)各地では、連日の大気汚染が解消されず、外出する人もまばらだ。(中略)
中国メディアは31日、視界不良のため北京市中心部の高速道路で車100台が追突事故などを起こしたと伝えた。数百メートル先もはっきり見えない状態が続いており、飛行機が欠航し、主要道路の通行も規制されている。(後略)【1月31日 毎日】
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交通への影響では、中国が誇る高速鉄道も濃霧の影響で故障したとか。
人体ならともかく、どうして鉄道車両が大気汚染で故障するのかと不思議に思ったのですが、スパークして送電できなくった・・・という事情のようです。
****中国:高速鉄道が一時停止 大気汚染で車両故障****
北京と広東省広州を結ぶ高速鉄道の中間地点にある河南省信陽市の信陽東駅周辺で1月30日、汚染物質を含んだ濃霧の影響で車両が故障し、一時停止した。中国湖北省の地元紙「武漢晩報」が31日報じた。この区間は「世界最長の高速鉄道」と宣伝されているが、車両が故障で停止したのは初めて。
報道によると、乗客は停止した当時、「何度も閃光(せんこう)が起きた」と証言している。濃霧には帯電した粒子やちりが含まれていたといい、車両の高圧電流とスパークし、車両へ送電できなくなったとみられる。この影響で上下線計14本が最大で約1時間遅れた。
中国では大気汚染が広がり、北京では1日、天候が変化してやや緩和されたものの、1月31日まで視界不良が続いて2000件以上の交通事故が確認された【2月1日 毎日】
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【経済成長に伴うエネルギー消費や車の増加に規制が追いつかない】
大気汚染の原因は、家庭暖房に使う石炭、急増する自動車の排ガス、工場のばい煙などが挙げられています。
また、成長優先の中国社会で規制が後手に回っていることも事態を悪化させています。
****排ガス急増、規制後手 ****
中国の深刻な大気汚染の原因は何か。
まず考えられるのは暖房のために燃やす石炭。この冬は強い寒波で暖房の使用頻度が増え、フィルターのないストーブで大量の石炭が燃やされた。自動車の排ガスに含まれる粒子状物質も原因だ。北京市内の自動車は5年間で66%増え、計520万台に上る。
工場からのばい煙もある。2008年の北京五輪前には市内の工場を郊外に移すなどの環境対策が取られたが、移転先の郊外から汚染物質が北京市に流れ込む。北京市によると、市内の大気汚染物質の約4分の1が「越境汚染」という。
北京市は盆地で大気汚染物質がたまりやすい上、今冬は特に地上付近の空気が冷やされ、大気が滞留しやすい状況が生まれたとみられる。
環境汚染に対し、北京市当局は自動車の排ガス規制などを取ってはいるが、欧州より3~4割ほど緩いとされる。北京紙・新京報などによると、北京や上海などを除く中国の大半で使われるガソリンに含まれる硫黄分の規制基準は150ppm以下で、日本や欧州の基準の約15倍。経済成長に伴うエネルギー消費や車の増加に規制が追いつかないのが現状だ。
環境省の染野憲治・中国環境情報分析官によると、04年に中国政府が公表した文書では、大気や水質、土壌汚染などの環境対策費用としてGDP比7%の初期投資が必要だとしていたが、実際は2%強にとどまるという。「日本で公害が問題となった1970年代前半にはGDP比8%以上の費用がつぎ込まれたといわれる」と、染野さんは中国の取り組み不足を指摘する。
特に問題視されるPM2・5は、健康影響が近年まで分からなかったことや、微小で排出源も複雑で、対策が後手に回りやすい。
環境省は99年から毎年開いている日中韓の環境相会合で情報共有や技術協力などの話し合いを続けている。従来の黄砂対策に加え、PM2・5も検討課題に挙がっているという。 【2月1日 朝日】
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中国当局も重い腰をあげて規制にとりかかってはいます。
PM2.5についても、前回ブログでも取り上げたように、“2012年2月に新たな環境基準が発表され、PM10の年平均値を0.10mg/m3から0.07mg/ m3 へ改正するとともに、PM2.5の環境基準を新たに設定し、2016年1月から全国で施行することとし、北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタ等の重点地域、直轄市及び省都では2012年から前倒しで観測が実施されています” 【在中国日本大使館HP】とのことです。
自動車排ガス規制も、強化されることが報じられています。
****中国:北京市 排ガス規制強化 自動車で新基準****
北京市は2月1日から自動車の排ガス規制を強化する。連日発生している大気汚染を軽減する狙いがあるとみられる。新規制では旧基準の自動車の販売申請を受け付けず、3月1日以降は新基準を満たす自動車の販売しか認めない。日系や欧米自動車メーカーはほとんどの車種が既に新基準に対応し、「販売への影響はない」(日系メーカー)という。
市環境保護局によると、規制強化で排出される窒素酸化物の量を現在より40%程度削減できるという。市内では大気汚染の約20%が自動車の排ガスとみられており、汚染軽減が期待されている。【1月31日 毎日】
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なお、排ガスについては、汚染源として欧州や日本の15倍の硫黄分を含むガ低品質のガソリンがやり玉に挙がっており、高品質ガソリン導入に後ろ向きな企業体質に批判が集まっています。また、国有石油会社トップが「問題は企業の質が低いことではなく国の基準が低いことだ」と責任逃れの発言をしたことも、火に油を注いでいるるようです。【2月1日 毎日より】
【「あの時にもっと外部の意見を聞いていれば・・・」】
深刻な事態を受けて“深刻な大気汚染が続く中国では、生活スタイルや発展モデルを見直そうとする声が高まっている”【下記記事】とのことですが、今のところは生活スタイル見直しとはいっても、春節の花火・爆竹をどうするか・・・といったレベルのようです。
発展モデル見直しは国家指導部の重大な決意を要するもので、今後の課題ですが、【2月1日 朝日】にもあるようにGDPの7~8%といった巨額の環境対策費用を必要とします。
更に、ただでさえ成長減速が言われ始めた中国経済ですから、規制による成長減速を受け入れるのはなかなか難しいのではとも思えます。
政治の視線が、国民の生活に向けられているのか、それとも別のものに向けられているのか・・・基本姿勢が問われる問題です。
****中国:大気汚染 生活スタイル、発展モデル見直しの声も****
深刻な大気汚染が続く中国では、生活スタイルや発展モデルを見直そうとする声が高まっている。インターネット上では重度の汚染状態が改善されなかった場合、春節(旧正月、今年は2月10日)の伝統である爆竹や花火の使用を制限すべきだとの意見が支持を集め、長期的な視点での意識の変化を呼びかける論調も強まる一方だ。
北京では昨年の春節の未明、呼吸器などの疾患を引き起こす微小粒子状物質「PM2.5」が1立方メートル当たり1593マイクログラムとなった。1月に入って記録された「深刻な汚染」とされる数値でも1000マイクログラムを超えたケースはなく、専門家らが大都市の中心部での爆竹や花火の使用禁止や削減を提言している。
中国メディアによるアンケートでは「健康と青空のためには各自の努力が必要だ」などとして3分の2程度の人が提言に賛同しているが、「味気ない春節となってしまう」「1カ月もスモッグに覆われているのに、春節の数日にそこまでの対応が必要なのか」といった反対論も根強い。
中国紙「中国青年報」は論評で「短期的な問題に過ぎない」と指摘し、環境保護を意識した市民の自発的な行動を訴えた。
普段は対外強硬論が目立つ国際情報紙「環球時報」も社説で「深刻な大気汚染には合理的でないエネルギー消費や産業の構造、生活スタイルに加え、中国の発展モデルや体制の問題も見える」と強調。「北京五輪の前に外国メディアが北京の大気汚染を書き立て、それには道理があった。あの時にもっと外部の意見を聞いていれば、我々はその後の数年で環境保護に的確に取り組めたはずだ」と率直に認めた。【1月31日 毎日】
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国営メディア「環球時報」が、“あの時にもっと外部の意見を聞いていれば、我々はその後の数年で環境保護に的確に取り組めたはずだ”と、妙に素直なのが興味深いところです。
それだけ事態が深刻だということでしょうか、「南方週末」以来のメディアの姿勢の変化でしょうか。
【「市内の空気品質は五輪後いっそう改善」?】
中国の大気汚染に関して検索していたところ、北京市内の空気品質は五輪以降いそう改善が見られるとする当局見解を伝える下記の報道が目にとまりました。
****2011年晴天日数、2008年通年を上回る 北京****
まだ年末まで2カ月弱あるが、今年の北京における一級晴天日はすでに2008年より7日間多く、2010年通年の晴天日数総数を上回った…
まだ年末まで2カ月弱あるが、今年の北京における一級晴天日はすでに2008年より7日間多く、2010年通年の晴天日数総数を上回った。北京市環境保護局は6日、北京五輪後の空気品質報告を発表した。
これによると、市内の空気品質は五輪後いっそう改善が見られ、一部の汚染物質濃度は年を追うごとに減少傾向が進んでいる。大気汚染物質のうち、粒子状物質の汚染状況は今もなお深刻だが、悪化はしていないという。北京晨報が伝えた。
統計データによると、今年1月から10月、北京で空気品質が良好だった日は239日に達し、全体の78.6%を占め、オリンピックが開催された2008年通年に比べ7日間多かった。このうち一級晴天日は63日に達し、2010年通年の一級晴天日数総数を上回り、2008年同期比12日多かった。北京で一級晴天日となる割合は、かなり上昇傾向にある。【2011年11月7日 人民網日本語版】
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実態と乖離した統計データのようにも見えますが、そもそも“晴天”の定義に問題があるとの指摘もあります。
(上記記事の“一級晴天日”の定義とはまた異なるのかもしれませんが))
また、北京五輪にあたり、基準に達していない状況を糊塗するため、基準の方を緩和したという経緯もあるようです。
****環境保全局が定義する「晴天」****
・・・・「晴天」。環境保全局が使用するこの語は、本来の定義からほとんど逸脱している。この言葉は、公式上「大気状況が国家二級基準以上に達している天気」を指す。つまり、雨が降ろうが、雲が多かろうが、霧がかかっていようが、大気状況が基準に達してさえいれば、それは晴天とみなされるのである。
現在、太陽の光が差す日でも、空は往々にして灰色に霞んでいる。環境保全部のデータによると、1960年代と比べて、現在中国東部都市の大気の視界はどこも7-15キロ低下している。視界は大気状況を表す基準の範疇に含まれないが、視界と大気状況の良し悪し、とりわけPM2.5濃度とは密接な関係がある。
中国が長期にわたり比較的緩い大気状況基準を施行してきたため、今だPM2.5は大気状況評価システムに入っていない。つまり、“国家二級基準に達している”「晴天」でも、実際は「青空」ではないのだ。
中国の基準はどれほど低いのだろうか。世界保健機関(WHO)の《大気状況基準》と比較してみよう。PM10を例にとると、中国二級基準の年平均値は100μg/㎥、WHOの指導値は20μg/㎥。WHOは、発展途上国に対してさらに3つの過渡期目標値を設定しているが、そのうち第一段階は70μg/㎥である。中国の「晴天」基準はそれにさえも達していないのだ。
中国の《環境空気質量標準》は1982年に制定され、1996年と2000年の2度の改訂を経ている。そのうち2000年改訂においては、NO2の年平均値が40μg/㎥から80μg/㎥へと引き上げられているのだ。
中国工程院の院生であり清華大学の教授でもある郝吉明氏は、当時この指標が緩められた原因は、オリンピック開催を申請するためだったと指摘する。なぜなら、北京のNO2濃度はそれまでずっと基準に達していなかったからだ。北京環境保全局公布の《2008年北京環境状況公報》によると、管理施行前の2008年、北京のNO2年平均濃度は49μg/㎥に達しており、依然として旧基準を超えていたが、改定後の新基準はクリアするものであった。【2012年1月27日 Insight China】http://www.insightchina.jp/newscns/2012/01/27/55775/?page=1
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事態改善にはいろんな方面での改革が必要ですが、先ずは、現実に起きている事態を直視せず、白を黒に言いくるめてしまうような当局の姿勢の変革が求められます。一番難しいところでしょうが・・・。
久々の晴天で、“のど元過ぎれば・・・” とならないことを期待します。
日本が同じような公害に苦しんだのはそんな昔の話でもありません。求められれば協力できるのですが。