
(海上自衛隊の護衛艦にレーダー照射したのと同型の中国海軍ジャンウェイ2級フリゲート艦【2月5日 毎日】)
【射撃管制用レーダー照射はいわば「攻撃予告」】
周知のように、尖閣諸島周辺において中国のフリゲート艦が海自の護衛艦に、軍事的には「攻撃予告」ととられる射撃管制用レーダー照射を行ったことを小野寺防衛相が明らかにし、大きな問題となっています。
****中国艦レーダー照射 「攻撃予告」一方的で危険****
中国のフリゲート艦が海自の護衛艦に照射した射撃管制用のレーダーは「FCレーダー」とも呼ばれ、ミサイルや火砲などを発射する際、目標の距離や針路、速力、高度などを正確に捕捉し自動追尾する「ロックオン」に用いるもの。
照射はいわば「攻撃予告」であり、「照射された側が対応行動として先に攻撃しても、国際法的に何ら問題ではない」(防衛省幹部)ほどの危険な行為だ。
防衛省によると中国側は今回、それぞれ数分間にわたりレーダーを照射した。発射ボタンを押せばミサイルなどでの攻撃が可能な状態であり、海自側は回避行動を余儀なくされた。小野寺五典防衛相は記者会見で「(日本側に)落ち度があるわけがない」と述べ、中国側の一方的な挑発行為であることを強調した。
海自によると、軍用の艦艇は大別して(1)周辺の艦船や漁船などを捕捉する航海用のレーダー(2)対空監視用レーダー(3)射撃管制用レーダー-の3種類を搭載しているが、通常の警戒監視で射撃管制用レーダーを用いることはない。海自幹部は「こちらがどういう対応をするかを観察するために使った可能性がある」と中国側の意図を推測した。
中国艦艇から海自がレーダー照射を受けた事実が判明したのは初めてだが、冷戦期の旧ソ連も日本側に対し、砲を向けるなどの直接的な挑発行為を行っていたという。中国側も今後、さらに挑発行為をエスカレートさせていく可能性がある。【2月6日 産経】
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【半年近くにわたり、日中の艦艇が対峙】
安倍首相は、「(中国側に)事態をエスカレートしないよう強く自制を求める」見解を明らかにしています。
****レーダー照射 安倍首相「危険な行為。強く自制求める」****
安倍晋三首相は6日午前の参院本会議で、中国海軍艦艇による射撃管制用レーダーの照射について「不測の事態を招きかねない危険な行為であり、極めて遺憾だ。戦略的互恵関係の原点に立ち戻って再発を防止し、事態をエスカレートしないよう強く自制を求める」と述べた。
首相は、外交ルートを通じて中国側に抗議し、再発防止を要請したことを強調。「日中両国で対話に向けた兆しが見られるなかで、一方的な挑発行為が行われたことは非常に遺憾だ」と批判した。(後略)【2月6日 産経】
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事件が起きた沖縄県尖閣諸島周辺では、尖閣国有化以来、海自と中国海軍の艦艇が対峙する状況が続いていることも明らかにされています。
****日中、艦艇対峙が常態化=尖閣国有化以降****
海上自衛隊の護衛艦に中国海軍の艦艇が射撃用の火器管制レーダーを照射した沖縄県・尖閣諸島の周辺で、海自と中国海軍の艦艇が対峙(たいじ)する状況が続いていることが6日、政府関係者の話で分かった。
尖閣諸島周辺では、民主党政権が昨年9月に同諸島を国有化したころから、海洋監視船などの中国公船が領海侵入を繰り返し、海上保安庁の巡視船が警戒・監視活動に当たっている。
政府筋によると「刺激が強いから公表していなかったが、尖閣の周辺海域では、ずっと艦艇同士がにらみ合っていた」。レーダー照射があった公海上で半年近くにわたり、日中の艦艇が対峙(たいじ)し、緊張状態が続いていたことになる。【2月6日 時事】
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【中国側は静観の姿勢】
今までのところ、日本側の抗議などに対する中国側の反応は、「事実関係を確認する」「報道で知った」など、事態を静観する慎重な姿勢に見えます。
****中国「事実関係確認する」=レーダー照射で日本側に****
堀之内秀久駐中国公使は5日、中国海軍艦艇が海上自衛隊艦艇に射撃用の火器管制レーダーを照射していたことについて、中国外務省の羅照輝アジア局長に申し入れを行い、遺憾の意を伝えた。羅局長からは「事実関係を確認する」という趣旨の回答があったという。(後略)【2月5日 時事】
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****中国外務省、コメント避ける=レーダー照射「報道で知った」*****
中国外務省の華春瑩・副報道局長は6日の記者会見で、中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に射撃用の火器管制レーダーを照射したことについて、「われわれも報道で知った。具体的な状況は承知しておらず、(別の)関連部署に聞いてほしい」と述べ、直接的なコメントを避けた。
日本側がレーダー照射に絡み、中国側に抗議したことについても反論しなかった。中国外務省は共産党中央の指示を受けて、レーダー照射問題から距離を置き、外交面での騒動の拡大を抑えようとしているとみられる。日本がレーダー照射を発表した意図や今後の出方を警戒し、中国側が慎重な態度に出ているとの見方もある。【2月6日 時事】
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中国共産党機関紙、人民日報傘下の「環球時報」は、「現在の中日関係の情勢からは一触即発の状況には至っていない」との専門家の見解を紹介しています。
****武力衝突避けたいが本音? 中国専門家「一触即発の状況には至っていない」****
中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報は6日付で、中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に射撃管制用レーダーを照射したことについて、「(日中関係は)危険な時期に入った」などとする専門家の意見を伝えた。
中国の軍事専門家はレーダー照射を自衛行為と定義。今回の行動について「警告の性質を帯びている」と中国メディアに語っている。軍事衝突のリスクを高める挑発行為にもかかわらず、中国外務省や国防省は5日、公式見解を出さず、静観を装った。
6日付の中国各紙の多くは、日本メディアの報道を引用して事実を伝えるに留めた。専門家は環球時報に対し、「軍事的見地からいえば、照準を合わせた後はすぐに発射できる。しかし、現在の中日関係の情勢からは一触即発の状況には至っていない」と述べている。威嚇をエスカレートさせている中国側も、武力衝突は避けたいというのが、本音とみえる。【2月6日 産経】
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冒頭の【2月6日 産経】では“通常の警戒監視で射撃管制用レーダーを用いることはない”とありますが、中国側からは“火器管制レーダーは武器を使うためというよりも相手を探知する目的で使用することが多い”として、日本側が故意に問題を大きくしている・・・との声もあるようです。
****「日本側は故意に事件拡大」=レーダー照射で中国軍幹部****
6日の香港中国通信社電によると、中国海軍軍事学術研究所の李傑研究員(大佐)は中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に火器管制レーダーを照射したことについて「日本側は故意にこの事件を拡大しようとしている可能性がある」として、日本政府の対応を批判した。
李研究員は、火器管制レーダーは武器を使うためというよりも相手を探知する目的で使用することが多いと主張。日本側は今回の事件を今後の中国との交渉の材料にするつもりではないかと語った。【2月6日 時事】
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今回の火器管制レーダー照射を習近平総書記が事前に了承していたとする見方もありますが、当然ながら真相はわかりません。中国外務省や国防省はこれまでのところは上記のように静観を保っています。
なお、“軍機関紙、解放軍報は1月14日、総参謀部が全軍に対し「戦争の準備をせよ」と指示したと報じた”ということで日中間の緊張が高まりましたが、2月4日付の環球時報は、人民解放軍の劉源・総後勤部政治委員(上将)が行った、「戦争は軍人からすれば唯一の選択だが、国家から言えば最後の選択だ」との事態の鎮静化を図る報告を掲載しています。
(2月4日ブログ「武力衝突を求める人々 バングラデシュ、フォークランド、そして尖閣諸島の場合」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130204)
****中国艦レーダー照射 「臨戦態勢」ちらつかせ…譲歩引き出す狙い****
中国海軍のフリゲート艦が、海上自衛隊護衛艦に向けて火器管制レーダーを照射した。習近平・共産党中央軍事委員会主席(総書記)の重要指示に基づき、臨戦態勢を強化していることをちらつかせることで、沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる問題で安倍政権から譲歩を引き出す狙いがうかがえる。
軍機関紙、解放軍報は1月14日、総参謀部が全軍に対し「戦争の準備をせよ」と指示したと報じた。同じ日、軍事科学学会副秘書長の羅援少将は国営中央テレビで、「日本が曳光(えいこう)弾を使用するならば、中国はさらに一歩進めてレーダー照射を行え」という趣旨の発言をしていた。
羅氏は過激な発言で知られるが、昨年8月、同諸島に関する白書を発表するよう主張。中国政府は約1カ月後に「釣魚島は中国固有の領土」と題する白書を発表した。太子党(高級幹部子弟)に属する羅氏は習氏に近い存在とされる。今回も習氏が事前に“挑発”を容認していたと推測される。中国が国家海洋局監視船による領海侵犯を繰り返しても、膠着(こうちゃく)状態に変化は見られない。中国側に有利な状況を作ろうと習氏が軍強硬派の意見に耳を傾け始めたとすれば、危険な兆候だ。【2月6日 産経】
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【求められる危機回避に向けた取り決め】
アメリカも中国に自制を求めています。
****レーダー照射に「懸念」=中国に自制求める―米****
米国務省のヌーランド報道官は5日の記者会見で、中国海軍のフリゲート艦が東シナ海で海上自衛隊の護衛艦に射撃用レーダーを照射したことに「懸念」を表明した。さらにこうした行動は沖縄県・尖閣諸島をめぐる日中間の緊張をエスカレートさせる可能性があると警告し、中国に自制を求めた。(後略)【2月6日 時事】
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元米国務省日本部長のメア氏は「米軍であれば、(自らへの)攻撃と判断して反撃する」【2月6日読売】とも語っていますが、レーダー照射は冷戦期の米ソ間でも頻繁に起きており、アメリカがソ連に反撃して、米ソ間で開戦したという話は聞きません。
なお、同氏の「中国海軍は規律が良くないし、あまり訓練もされていない。非常に危ない」との懸念はもっともです。
****平時には絶対使わない「禁じ手」…レーダー照射****
中国海軍艦艇によるレーダー照射について、米民間調査機関「新米国安全保障センター」のパトリック・クローニン氏は、「他国軍艦船などへのレーダー照射は、一触即発の状態を招く敵対行為だ」と指摘した。
在ロンドンの軍事筋も、「レーダー照射は、平時には絶対に使わない『禁じ手』だ」と強調する。
イラクでは湾岸戦争終結後、偵察飛行中の米軍機などに対し、イラク軍がレーダー照射を行う挑発事案が相次いで発生した。米軍はイラクの行為を軍事行動と見なし、報復としてイラクの防空レーダー施設などを空爆した。
クローニン氏は、同様のレーダー照射は「冷戦期は米ソの間で頻繁に起きた」とした上で、「こうした行為が極めて危険なことから、米ソは交渉の末、回避に向けた取り決めを設けた。日中も、こうした事態を避けるためのルールを作る必要がある」と指摘した。【2月6日 読売】
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冷戦期の米ソ間ではレーダー照射が頻繁に起きたにもかかわらず武力衝突には至らず、対イラクでは、レーダー照射を理由に空爆した・・・要は、相手と事情次第ということでしょう。
「中国海軍は規律が良くないし、あまり訓練もされていない。非常に危ない」「火器管制レーダーは武器を使うためというよりも相手を探知する目的で使用することが多い」ということであれば、なおさら早急に“こうした事態を避けるためのルール作り”が必要です。
両国間で将来へ向けて、尖閣諸島問題とは切り離した形での危機回避のためのコンタクトを取ることで、不要な緊張の高まり、偶発的なトラブルからの事態拡大を防止することも可能になるのではないでしょうか。
それでも中国側に誠意がなく、同様のことが繰り返されるということであれば、「中国の脅威にどう対処するか、日本は決断しなければならない」(元米国務省日本部長のメア氏)ということでしょう。