孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ深南部  依然続く「ほほ笑みの国の忘れられた紛争」 大規模衝突も発生

2013-02-17 21:10:01 | 東南アジア

(タイ深南部ナラティワートの政府軍基地を襲撃し、軍や警察との銃撃戦で死亡した武装勢力メンバーの所持品を調べる警官たち【2月13日 AFP】http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2927849/10277654

04年4月以降で最大規模の衝突
タイ深南部と呼ばれるタイ最南端のマレーシアと国境を接する地域は、仏教国タイにあってイスラム教徒住民が大半を占め、宗教的・文化的・歴史的差異を背景に、経済開発の遅れなどもあって、政府側・仏教徒とイスラム過激派との間で、04年以降で2万件以上に及ぶテロ、死者数は5000人超という、およそ“微笑みの国”タイのイメージとはかけ離れた“泥沼”状態の紛争が続いていることは、これまでも何回か取り上げてきました。

そんなテロが日常化しているタイ深南部にあっても、まれにみる大規模衝突が13日発生しました。

****武装集団がタイ軍基地襲撃、銃撃戦で16人死亡****
分離独立を求めるイスラム過激派のテロが続くタイ南部ナラティワート県で13日、武装集団約50人が軍基地を襲撃し、銃撃戦の末、武装集団側の16人が死亡した。
1日で100人以上が死亡した2004年4月以降で最大規模の衝突となった。

軍によると、ライフル銃などで武装した集団は13日未明に基地を襲ったが、軍側は事前に武装集団の一員から資料を押収し、襲撃情報を把握、攻撃に備えていた。このため軍側に死傷者は出なかった。【2月13日 読売】
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“武装グループは軍服を着ており、AK47やM16などの攻撃用ライフルを持っていたという。 襲撃後、基地から逃走した武装グループ約60~70人の行方を、軍と警察計100人の合同部隊が激しく追跡している”【2月13日 AFP】

今日も、テロ事件が報じられています。
****タイ最南部で爆弾、2人死亡****
イスラム武装勢力によるテロ事件が頻発するタイ最南部のパタニ県で16日深夜から17日にかけて爆発事件が相次ぎ、2人が死亡、約10人が負傷した。
近隣のナラティワート県で13日、武装グループが国軍基地を襲撃し、武装グループ側の16人が死亡する事件が起きたばかり。【2月17日 時事】 
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麻薬密売の利権に絡んだケースも
昨年12月には、教師が銃撃で死亡するケースが相次ぎ、12月13日に現地の小学校など約1200校を臨時休校にして、インラック首相が現地で関係者と治安対策を協議したとのことでしたが、事態は改善していないようです。

****ほほ笑みの国の忘れられた紛争*****
ほほ笑みの国として、世界中から観光客を招き入れる東南アジアの楽園タイ。年間2200万人以上の外国人が、この世界屈指の観光国を訪れる。しかしそんなタイには、あまり知られていない別の顔がある。

タイ南部のリソート地プーケットからさらに南へ数時間ほど行くと、穏やかな仏教国のイメージを覆す世界が広がる。マレーシアとの国境に近い深南部と呼ばれる地域で、分離独立を目指すイスラム武装勢力と国軍が抗争を繰り広げているのだ。地元警察と自警団までが入り交じり、今この瞬間も暴力の応酬が続いている。

昨年だけでも、自動車爆弾テロや銃撃、放火がホテルや車のショールームなどで次々と発生した。さらに年末には、イスラム武装勢力による学校襲撃や教師を銃殺する事件が立て続けに起き、1200の学校が臨時休校する事態になった。今年に入ると今度は報復のように、イスラム教徒の教師を狙った銃撃事件が勃発。もはやこうした状況は、深南部で日常になっている。

泥沼の争いの病根は根深い。
ヤラ、パッタニ、ナラティワートの3県とソンクラー県の一部から成る深南部地域には、14世紀後半に独立した「パタニ王国」というイスラム国家が存在した。このマレー半島で最古のイスラム国家は、1909年に仏教国であるタイに併合された。

今も深南部に暮らす約220万人の住民のうち、マレー系イスラム教徒は9割に上る。彼らは国民の9割以上が仏教徒のタイで、政府からの迫害を受けていると感じながら暮らしてきた。
そう考えるのも無理はないほど、イスラム教徒はタイ政府から差別的な扱いを受けてきた。深南部ではマレー語に近いマラユ語が主要言語になっているが、かつては政府に使用を制限され、90年代までは、ムスリム女性が身に着けるスカーフさえ禁じられていた。

麻薬利権も火に油を注ぐ
いま深南部でテロ行為を行っているのは、分離独立を目指して60年代に生まれたイスラム系の組織だ。彼らは麻薬取引などを資金源として武装化し、仏教徒を狙った攻撃を続けてきた。

観光客が足を踏み入れられないほど状況が悪化した大きなきっかけは、04年4月に起きた「クルセ・モスク事件」。イスラム系武装勢力が政府関連施設11力所を襲撃し、一部がパッタニ県クルセ地区のモスク(イスラム礼拝所)に立て龍もった。結果、計100人以上の過激派が射殺された。

モスクで発生したこの事件以降、イスラム系武装勢力と政府・仏教徒との抗争は激しさを増し、今も暴力の応酬が続いている。04年以降に起きたテロはおよそ2万件に達し、死者数は5000人に上る。
地元の仏教徒たちは暴力行為から身を守るため、自警団を組織している。軍や警察から支援を得ながら、仏教施設を通じて治安対策を続けているが、こうした措置が逆に対立に拍車を掛けているとの指摘もある。

近年さらに状況を複雑にしているのが、麻薬の問題だ。深南部で起きるテロには、麻薬密売の利権に絡んだケースも少なくない。麻薬取引には分離独立派組織だけでなく、行政側の人間も関与していると噂される。

NGOのアジア財団による調査では、深南部の住民のうち3分の2が、紛争状態を脱するには民族的・宗数的な違いを克服する必要があるとみている。ただその一方で、政府が軍を撤退させれば、争いは減少するとも答えている。
紛争における最大の被害者は、その土地に暮らす一般住民にほかならない。世界で注目されることも少ない「忘れられた紛争地」で、住民たちが平和に暮らせる日は来るのだろうか。【2月19日 Newsweek日本版】
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和平を快く思わない集団
以前のブログでも取り上げたように、紛争が長期化している背景には、タイ国軍が和平に消極的なこと、武装勢力側の統制がとれていないことが指摘されています。

****忘れられた戦争〉和平の道 阻む内部対立****
・・・・最南部の情勢に詳しいプリンス・オブ・ソンクラー大学のシーソンポップ助教授は、紛争が長引く大きな要因として、(1)和平に消極的な国軍(2)分裂を繰り返し、統制がとれていない武装勢力の2点を挙げる。

インラック政権は今年1月以降、初めて陸軍将校を加え、隣国マレーシアなどで武装勢力との接触を始めている。複数の関係者によると、インラック首相の兄、タクシン元首相も3月にクアラルンプールでPULOと面会したという。

だが「国軍は、武装勢力に屈したという印象は避けたいし、和平が実現すれば予算は大幅に削られる。消極姿勢に変化はない」(消息筋)という。

2年前、事実上の停戦が限定的に試みられたこともあった。武装組織幹部の統率能力を示すため、1カ月間、ナラティワート県の一部でPULOなどが一方的に戦闘停止を表明した。
この経緯を慎重に見極めていた前政権の首脳は「事件は減ったが、皆無ではなかった。結局、PULOなどの影響力は検証できなかった」と明かす。
(武装組織の代表の一人)カストゥリ氏も「和平を快く思わない集団がいるのは事実。戦闘員の過半数は我々の指揮下にある」と述べ、一部では統制が利いていないことを暗に認める。・・・・【2012年6月7日 朝日】
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どの紛争もそうですが、りっぱな大義や正義を口にしながらも戦闘状態によって利益を得、また、存在価値が高まる、和平を望まない勢力が存在することが紛争を長引かせ、一般市民の犠牲を増大させる大きな原因です。
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