(アレッポの戦闘を逃れてトルコ国境を目指す人々 【2月5日 BBC】)
【難民支援も重要ではあるが、発生源をなんとかしないと・・・・】
昨日ブログ“シリア内戦 和平交渉は予想どおり難航 早くも「中断」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160204に引き続き、今日もシリアに関する話題。
内戦が続くシリアの住民やシリア難民を抱える周辺国への資金面での支援策を話し合う会合が4日、ロンドンで開かれ、国際社会は2020年までに日本円にして総額1兆2000億円余りを新たに拠出し、支援を続けていくことを確認しました。
****シリア難民支援、日米英独で56億ドルを拠出 70万人の子供を学校に通わせる資金 雇用機会の増大も図る****
シリア内戦による人道危機をめぐり、支援資金対策を話し合う国際会合が4日、ロンドンで開かれた。国連と英国、ドイツ、ノルウェー、クウェートの4カ国の共催で、欧米や中東など約70の国や機関の代表団が出席した。
シリア国内のほか、ヨルダンやトルコなど周辺国に逃げた難民らを対象に、雇用機会の増大を図り、教育を受けていない70万人の子供を学校に通わせる資金を集めるのが目的だ。
ロイター通信などによると、国連は今年の分としてシリアに約77億ドル(約9千億円)と、周辺国に約12億ドルの計約90億ドルが必要としている。この日の会合でドイツは2018年までに25・7億ドル、英国は20年までに17・6億ドル、米国は9億ドル、日本は3・5億ドルを支援すると明らかにした。
会合には国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長やキャメロン英首相、メルケル独首相、ケリー米国務長官らが出席。日本からは武藤容治外務副大臣が出席した。
キャメロン英首相は潘事務総長との間で、今後数カ月のうちに全てのシリア難民の子供たちが教育を受けられるよう努力することで一致した。
ドイツのメルケル首相は、「難民問題は(祖国を)離れる原因を断ち切ることで解決できると確信している。会合は大きな一歩になる」と語った。
シリア内戦による同国内の避難民は1300万人に上り、周辺国に約440万人が逃れているという。【2月5日 産経】
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キャメロン首相は「一度に表明された人道支援としてはこれまでにない額だ。命を助け将来を築く希望の1日となった」と会合の成果を強調しています。
また、会合にはノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさんも参加し、「シリア難民の教育がシリアの未来の鍵を握っている」と述べ、難民の子供への教育支援を呼びかけています。
このような難民支援が重要なことは間違いなく、その意義を軽視するものでは決してありませんが、現実問題としてシリアで起きている内戦を止めない限り、新たな難民が発生し続け、難民らの教育・雇用の問題も一向に改善しません。
昨日ブログでも取り上げたように、和平交渉も「中断」したシリアでは、ロシアの民間人犠牲を厭わない熾烈な空爆、更にはヒズボラやイラン革命防衛隊の支援を背景に、シリア政府軍が反体制派に対する軍事的攻勢を強めています。
目下の焦点は、シリア第2の都市アレッポの攻防です。
これまでもアレッポの支配権を巡っては政府軍、反体制派、ヌスラ戦線、ISなどの激しい戦闘が続いており、政府軍による反体制派支配地域への「たる爆弾」投下なども報じられてきましたが、ここにきて政府軍が攻勢を強めています。
アサド政権としては、西部と首都ダマスカスに加えアレッポをおさえれば、人口集中地域の大半を支配する形になります。
****シリア政府軍、アレッポ周辺で大規模攻勢 数万人の住民が避難****
シリア第2の都市、北部アレッポの周辺で、政府軍がロシア軍の支援を受けて開始した大規模な攻勢により、数万人規模の住民が自宅から退避したことが4日、明らかになった。
トルコのアフメト・ダウトオール首相は同日、シリアへの支援について話し合うため英ロンドンで開かれた国際会合で、アレッポ周辺での空爆や戦闘を避けるため6万~7万人がトルコを目指して移動しており、1万人がすでに国境の入り口で待っていると明らかにした。
在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」も、アレッポ県で4万人近くが家を追われ、そのうちの多くが国境付近に集まっていると発表した。
ダウトオール首相や活動家らは、反体制派が利用するトルコからの主要な物資供給ルートが、ロシア軍の空爆に支援された政府軍により遮断された結果、30万人がアレッポに取り残されているとして、警鐘を鳴らしている。
シリア情勢をめぐっては3日、スイス・ジュネーブで国連の仲介により行われていた和平協議が一時中断に追い込まれており、西側諸国は、シリアのバッシャール・アサド政権が軍事攻勢を強めることで協議を妨害していると非難。米国はロシアに対し、アサド政権を支援する空爆作戦をやめるよう求めている。【2月5日 AFP】
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“30万人がアレッポに取り残されている”ということで、昨日ブログでも取り上げた餓死者を出す状況になっているシリア政府軍に包囲されている町マダヤのような事態も懸念されます。
【ロシアのアサド政権支援に神経をとがらせるトルコ】
また、アレッポから数万人規模の市民多数が国境に押し寄せているトルコは、“(ロシアと政府軍の攻撃を)民間人を殺害した上、人道支援物資の補給路を遮断したと指摘し「戦争犯罪」に当たると非難した”【2月5日 産経】とのことです。
かねてより、アサド政権を支援するロシアと反体制派を支援するトルコは対立し、特に、ロシア機撃墜事件以降はその対立も先鋭化していますが、アレッポ周辺の攻防で更に緊張がたかまっています。
そうした状況でロシア側からは、“反政府勢力を支えるトルコがシリア領内への軍事侵攻を準備している”との指摘もなされています。
****ロシア「トルコがシリア領内へ軍事侵攻準備」強くけん制****
内戦が続くシリアでアサド政権を支援するロシア国防省の報道官は、反政府勢力を支えるトルコがシリア領内への軍事侵攻を準備していると指摘し、対立するトルコを強くけん制しました。
シリアでは北西部を中心に、ロシア軍の空爆による援護を受けたアサド政権の軍が、トルコなどが支援する反政府勢力の支配地域の一部を奪い返して攻勢を強めています。
シリア情勢について、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は4日、「トルコがシリア領内への軍事侵攻に向けて、集中的に準備しているとみられる根拠がある」と述べて、トルコがシリアの反政府勢力への支援を強化するため、軍事侵攻に踏み切ろうとしている指摘しました。
さらに報道官は、トルコが加盟するNATO=北大西洋条約機構や同盟国のアメリカも「沈黙している」と述べて、不信感を示しました。
ロシアは、去年11月にトルコ軍によって自国の軍用機が撃墜されたことを受けて、トルコと鋭く対立しており、トルコによるシリアへの軍事侵攻の可能性を強調し、強くけん制しました。【2月5日 NHK】
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「反政府勢力への支援」と言いつつも、実際にトルコがシリア領内へ軍事侵攻するとすれば、その標的はトルコ国境を支配するクルド人勢力でしょう。ロシアがIS攻撃を名目として反体制派を攻撃しているように。
そうなると、シリア情勢はますます複雑怪奇となります。
【サウジアラビアも「地上戦参加」に言及】
トルコと並んで反体制派を支援しているサウジアラビアにも、政府軍・ロシアの攻勢、イランの勢力拡大への焦りがあるようで、こちらも「軍事介入」の話が出ています。
****<サウジ>「地上戦参加の用意」 シリアへの派遣示唆****
サウジアラビアのアシリ国防相顧問は4日、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討のため、「サウジはシリアでの地上作戦に参加する用意がある」と述べた。サウジ資本の衛星テレビ局アルアラビーヤのインタビューに答えた。
米軍主導の対IS有志国連合内での「合意」が条件だとしたが、シリアで軍事的存在感を高めるイランやロシアをけん制する狙いがあるとみられる。
アシリ氏は「(ISの)問題解決のためには空爆と地上作戦を連動させなければならない」と述べた。有志国連合は2014年9月からシリアで空爆を続けているが、これまで地上部隊は派遣しておらず、クルド人勢力や反体制派と連携を図ってきた。アシリ氏の発言は、国内勢力との連携だけでは地上作戦は不十分だとの見方を示したものとみられる。
内戦下のシリアでは、イランとロシアがアサド政権を支援するため、作戦指導などを名目に軍事顧問や部隊を派遣している。昨年9月に始まったロシア軍による空爆は戦局を政権有利に転換させ、1月に始まった和平協議が停滞する一因にもなった。
一方、サウジが支援する反体制派は劣勢に陥り、有効な打開策を見いだせていない。1月に断交したイランの影響力拡大にも懸念を強めている。IS対策を名目に地上介入を示唆することで、イランやロシアをけん制するほか、地上介入に消極的な同盟国の米国をたきつける思惑もありそうだ。
アシリ氏は、イエメンでハディ政権支援のための軍事介入を続けるサウジ主導の連合軍の報道官も務めている。【2月5日 毎日】
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こちらも“イランやロシアをけん制する狙い”ということですが、1月3日ブログ「シーア派指導者死刑執行で先鋭化するサウジアラビア・イランの対立」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160103でも触れたように、原油価格低迷に加えイエメンへの軍事介入で、サウジアラビア財政は非常に厳しい状況となっています。
そうした状況で、イエメンにすら地上軍を送れないのにシリアに・・・・というのは、やや無理もあるように思えます。
シーア派指導者死刑執行・イランのサウジアラビア大使館襲撃を巡るイランとの確執においても、サウジアラビアの事を荒立てるような対応は、欧米との協調を視野にいれながら冷静さを保ったイランの対応に比べ、浮足立った感もありました。
サウジアラビアについては、厳しさを増す財政問題、王族を中心とする既得権益層に牛耳られた経済の改革、女性の政治参加などの社会改革など問題が多々ありますが、王室内部にも、強硬な外交姿勢や経済改革で権限をふるう国王の七男ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(30歳)を巡る不協和音もあるようです。
サルマン国王(80歳)が甥の皇太子(56歳)をとばして息子サルマン副皇太子へ禅譲する形で生前退位を画策している・・・といった「噂」すらあるようですが、そのあたりの話はまた別の機会に。
【ロシアの攻勢を事実上黙認するアメリカ】
シリアに話を戻すと、ロシアの強力な支援で軍事的優位を得つつあるアサド政権に、反体制派を支援してきたトルコ・サウジアラビアの不満・焦りも募ってきているといった状況ですが、アメリカは動く気配はないようです。
こうしたアメリカ・オバマ政権の軍事的介入を避ける姿勢に「弱腰批判」が国内外にありますが、どうでしょうか?
シリアに地上軍を派遣することなどをイラク・アフガニスタンにうんざりしたアメリカ世論が実際に賛成するのでしょうか?
また、人権尊重の国として民間人犠牲を避けようとすれば、空爆強化も難しいものがあります。
シリアでロシアと衝突する危険など、もってのほかです。
一方で、シリアの安定のためにはアサド政権の役割が不可欠との現実認識はアメリカにもあると思いますが、さりとて反体制派を見捨てて「非人道的」なアサド政権を今更支持する訳にもいきません。
軍事的にどちらかが追い込まれないと停戦への道も開けないのが現実です。
そうした限られた選択肢のなかで、ロシアが民間人犠牲も厭わないような空爆でアサド政権をテコ入れし、内戦終結の道筋を作ってくれるのであれば、また、アメリカの関心事であるISせん滅が進展するのであれば、それはそれで・・・・といった判断もあるのでは。
もちろん、公式には反体制派を標的として民間人を巻き込むロシア空爆を非難はしますが、「汚れ仕事はロシアに任せる」といった本音があるのでは?
あるいは、ロシアとの間で、そうした暗黙の了解があるのでは?・・・というのは私個人の邪推です。
****<シリア情勢>停戦の必要性で一致・・・・米露外相が協議****
ケリー米国務長官は4日、内戦が続くシリアの支援国会合に出席するため訪問中のロンドンで、ロシアのラブロフ外相と協議し、停戦と人道支援の早期実施の必要性で合意した。
ケリー氏はまた、こうした措置や民間人への攻撃中止は、昨年12月に採択された国連安保理決議2254に盛り込まれており、賛成した常任理事国ロシアにも「実現に向けた責任がある」と指摘。
間接的な表現ながら、アサド政権を支援して実施している反体制派への空爆などを控えるよう呼びかけた。(後略)【2月5日 毎日】
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