孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ自治政府・アッバス議長 多国間協議の枠組み創設を目指す

2016-02-15 23:10:00 | パレスチナ

(会談冒頭にパレスチナ自治政府のアッバス議長(左)と握手する安倍首相【2月15日 毎日】)

来日したアッバス議長 多国間協議への参加を求める
パレスチナ自治政府のアッバス議長が来日しており、今日、安倍総理との会談も行われました。

****首相 アッバス議長に中東和平へ貢献の考え伝える*****
安倍総理大臣は15日夜、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長と会談し、「日本はパレスチナとイスラエルによる解決を支持し支援していく」と述べ、中東和平の実現に向け貢献していく考えを伝えました。

安倍総理大臣は午後6時半から総理大臣官邸で、日本を訪れているパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長と会談しました。

この中で安倍総理大臣は、「中東和平の問題の解決なくして中東地域の平和はなく、日本はパレスチナとイスラエルによる解決を支持し支援していく。日本とパレスチナの関係を飛躍的に発展させていきたい」と述べました。

これに対しアッバス議長は、「日本からは経済支援だけでなく、政治的、社会的にさまざまな分野で支援を受けている。日本の支援が今後一層発展し、地域に平和と繁栄をもたらすことを願ってやまない」と述べました。

また会談で安倍総理大臣は、パレスチナの経済的自立を後押しするため、日本が現地で進めている農産加工団地の開発などに合わせて7800万ドル(日本円にしておよそ90億円)の新たな支援を行う考えを伝えたものとみられます。【2月15日 NHK】
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議長は総理との会談に先立ち、天皇陛下に会見し、“約20分の会見中、アッバス議長は大半の時間を費やし、持参した中東の地図を示しながらパレスチナ情勢を説明。陛下に「暴力やテロによらず、交渉を通じて和平を達成し、その上でイスラエルとの平和的な関係を築いていきたい」と語った”【2月15日 ロイター】とのことです。

安倍総理が新たな支援を約束した“日本が現地で進めている農産加工団地の開発”に関しては、以下のようにも報じられています。

****日本支援の加工団地、パレスチナで操業 ヨルダン川西岸****
日本が支援し、パレスチナ経済の発展を目指すヨルダン川西岸エリコの「農産加工団地」で、地元企業の操業が始まった。

団地内の工場などが8日、報道陣などに公開された。「輸出入の玄関」であるヨルダン国境に近く、湾岸諸国などに販路を広げる狙いがある。

団地の開発は、日本とパレスチナ自治政府、イスラエル、ヨルダンが協力し、パレスチナ経済の発展を目指す日本主導の「平和と繁栄の回廊」構想の中核事業。総面積約112ヘクタール(東京ドーム24個分)の敷地で、工場の建設が進む。

第1号は、地元産のオリーブの葉を使ったサプリメントなどを生産するパロレア社。昨年11月に操業を開始し、今月中にも販売を始める。ハイサム・カヤリ社長(35)は「日本市場も視野に入れている」と語る。【2月12日 朝日】
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地域住民の経済的基盤が確立することは、政治的安定にとって非常に重要なことですので、地味ではありますが、今後ともこうした支援事業が進むことを期待します。

パレスチナ情勢は、アメリカが主導したイスラエルとの和平協議が頓挫する一方、昨年10月頃から地域住民とイスラエル当局との衝突が激化、「第3次インティファーダ(抵抗運動)」への拡大も懸念されていました。

最近は、少なくとも国際ニュースではそうした衝突が取り上げられることは減少しています。(実態は良く知りませんが)
しかし、国際社会の目は主にシリア内戦、ISとの戦いに向いており、イスラエルの対応が硬直的なこともあって進展があまり期待できないパレスチナ和平が取り上げられること自体が減少しているようにも見えます。

パレスチナ自治政府のアッバス議長は、「インティファーダ」のような暴力は否定しながら、アラブ諸国がより主導的に関わる多国間協議の枠組み創設することで前進を図ろうとしています。

*****<パレスチナ>アッバス議長「和平交渉に多国間の枠組みを*****
パレスチナ自治政府のアッバス議長が毎日新聞のインタビューに応じた。イスラエルとの和平交渉が頓挫し、パレスチナの若者らによるユダヤ人襲撃が続く中、「非暴力の方針を堅持する」と訴えた。

「若者には希望が必要だ」と語り、和平交渉を促す新たな「メカニズム(仕組み)を作りたい」と強調した。親パレスチナのアラブ諸国がより主導的に関わる多国間協議の枠組み創設を目指し、イスラエルへの圧力を高めて事態打開を図る考えとみられる。

アッバス氏は14日から訪日する。安倍晋三首相との会談で、多国間協議への参加を求める。

日本政府は、パレスチナ国家の建設によるイスラエルとの「2国家共存」を支持。協議は双方の直接交渉によるべきだとの立場だ。ただ昨年1月には、「多国間協議が開催されれば参加する用意がある」と表明している。

アッバス氏は、米国が仲介したイスラエルとの和平交渉が2014年春に決裂した原因について、イスラエルが占領地でのユダヤ人入植地の建設を続けたためだと批判。パレスチナの若者が国家建設への「希望を失い始め、絶望と不満のふちにある」との危機感を示した。

武力に頼らず、非暴力路線を貫く一方で、次世代に希望を与えるためにも和平交渉再開に向けた取り組みが急務と訴えた。

フランスのファビウス外相は1月、中東和平の交渉再開を促す国際会議の開催を提唱。アッバス氏は歓迎の意向を示した。仏政府は詳細を明らかにしていないが、パレスチナはこうした動きに連携して和平機運を盛り上げようとしている。

アッバス氏はイスラエルとの直接交渉を「諦めたわけではない」と語り、むしろこれを再開し活性化させるための「メカニズム」として多国間協議の枠組みを確立したいようだ。

アッバス氏はモデルとして、07年11月に米アナポリスで40カ国以上の外相級が参加した「アナポリス会議」を挙げた。会議では、アッバス氏自身がパレスチナ代表として7年ぶりの交渉再開に合意した。

同会議は08年末までの交渉妥結を目指したが、同年末からのイスラエルによるガザ地区侵攻で、交渉は中断されたままだ。

外交筋によると、アッバス氏は昨年春に発足したエジプト主導の「アラブ閣僚委員会」などを推進母体に、より親パレスチナ色の強い枠組みの創設を期待している。米国やイスラエルの対応が注目される。【2月12日 毎日】
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イスラエルに厳しい国際社会
上記記事にもあるように、フランスは中東和平の交渉再開を促す国際会議の開催を提唱し、もしイスラエルが進展を拒否するならパレスチナ国家を承認するしかないと強い対応を示しています。

****フランス、パレスチナ承認を迫る****
フランスは数週間以内にパレスチナ・イスラエル危機の解決に関する会議の準備を加速し、会議が決裂した場合にはパレスチナ国家を承認する。金曜、フランスのローラン・ファビウス外相が述べた。

「フランスは数週間以内に国際会議の準備に関する外交措置をとる。当事国および米国、欧州およびアラブ諸国など関係国が参加することになる」。外務省員向けスピーチで述べた。

「イスラエルとパレスチナ、2国家共存を基礎とする解決原理の確立が目標だ」「もし交渉による問題解決への最後の試みが阻止されたなら、我々は責任感をもって行動し、パレスチナ国家を承認しなければならない」と外相。

外相はイスラエルによるパレスチナ領土への植民地建設継続を批判している。【1月30日 SPUTNIK】
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フランスの姿勢にも見られるように、占領地への入植活動を続け、和平協議が成立しない大きな原因となっている頑ななイスラエルの対応へは厳しい視線が向けられています。

****国連事務総長発言にイスラエルが強く反発****
国連の安全保障理事会でパン・ギムン(潘基文)事務総長がイスラエルによる占領政策を批判し、「占領に反発するのは自然なことで、それが憎悪や過激思想を生んでいる」と発言したのに対し、イスラエルのネタニヤフ首相は声明を発表し、「パレスチナ側のテロを助長するものだ」と強く反発しています。

国連の安全保障理事会では、26日、パレスチナ情勢を巡る公開の討論会が開かれ、日本を含むおよそ50か国が参加しました。

現地では、去年10月以降、エルサレムの聖地を巡る対立をきっかけにイスラエルとパレスチナの衝突が続き、合わせて170人以上が死亡したほか、イスラエルが新たに占領地の一部の国有化を決め、緊張が高まっています。

討論会でパン・ギムン事務総長は、パレスチナ人によるイスラエル人の襲撃事件などを非難しながらも、イスラエルによる占領政策を改めて批判し、「歴史上、人々が抑圧に抵抗してきたように、占領に反発するのは自然なことで、それが憎悪や過激思想を生んでいる」と述べました。

イスラエルとパレスチナの双方に配慮してきたパン事務総長としては異例の踏み込んだ発言で、イスラエルの占領政策への国際的な批判の高まりを受けたものとみられます。

これに対してイスラエルのネタニヤフ首相は直ちに声明を発表し、「事務総長の発言はテロリズムに追い風を送るものだ。パレスチナの殺人者たちは平和や人権を求めているのではない」と強く反発しています。【1月27日 NHK】
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イスラエルのパレスチナ人への対応についても、イスラエルの最大(あるいは、唯一)の後ろ盾であるアメリカからも批判が出ています。(オバマ大統領とネタニヤフ首相の折り合いが悪いということもありますが)

****パレスチナ人に別の法基準=米大使がイスラエル批判****
シャピロ駐イスラエル米大使は18日、イスラエル中部テルアビブで講演し、ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植者とパレスチナ人の暴力の応酬に関し「パレスチナ人が襲われてもイスラエル当局が積極的に捜査しない例があまりに多い」と苦言を述べた。また「法律を守る基準が時にイスラエル人用とパレスチナ人用と二つあるように見える」と批判した。

地元メディアによると、この発言に対し、ネタニヤフ首相は「受け入れられない」と反発。「イスラエル人にもパレスチナ人にも適用しているのは(同じ)法律だ」と述べた。【1月19日 時事】 
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アメリカ・オバマ政権の対応は?】
従って、パレスチナ自治政府との直接交渉なら優位な立場にあるイスラエルとしては、パレスチナに同情的な空気が強い多国間協議には否定的です。

イスラエルをそうした交渉の場に引っ張り出せるかどうかは、やはりアメリカ次第といったところです。

****<パレスチナ>和平交渉カギは米国・・・・政権末期のオバマ氏は****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は毎日新聞のインタビューで、中東和平交渉を促進させる多国間協議の開催を呼びかけた。

一方で、占領地におけるイスラエルの入植活動を非難する決議を国連安全保障理事会に求める構えも見せている。

米国やイスラエルに揺さぶりをかけ、多国間協議への参加を促す狙いがありそうだが、レームダック(死に体)状態のオバマ米政権がどこまで関与するかは不透明だ。

聖地エルサレムやイスラエルが占領するヨルダン川西岸では、昨年10月以降、パレスチナ人の若者がユダヤ人を襲撃する事件が続いている。

「パレスチナ世論の中には、暴力支持の声も少なくない」(外交筋)が、パレスチナ自治政府はイスラエル治安当局との連携を維持。事件の抑止や摘発に努めてきた。

日本政府はこうした「内政上のリスクを冒しながら、和平路線を堅持するリーダーシップ」(政府関係者)を評価し、アッバス政権を引き続き支援する方針だ。

ただイスラエルとの和平交渉は2014年春に頓挫。アッバス氏が「外圧」として期待するのが、アラブ諸国など親パレスチナの国々がより主導的に関わる多国間協議の創設と、ユダヤ人入植地に関する国連安保理決議だ。

議長が多国間協議のイメージとして挙げたのは、2007年11月開催の「アナポリス会議」。
会議を主導した当時のブッシュ米大統領の任期内の合意を目指し、イスラエル、パレスチナ両当事者からなる調整委員会を設置。交渉チームの作業を監督したり、両首脳の会談を定期的に設けたりするなど、両者の迅速な交渉を促した。

今回、パレスチナ側が目指す多国間協議にイスラエルが参加するには、その「後ろ盾」としての米国の存在は欠かせない。外交関係者によると、パレスチナは国連安保理常任理事国に参加を要請したい考えだが、オバマ政権がどこまで関与するかは不明だ。

ファビウス仏外相は1月、中東和平促進のための国際和平会議の開催を提案。パレスチナは、仏側との協議も開始した。しかし、ファビウス氏は取り組みが失敗した場合、パレスチナを独自に「国家」として承認する考えも示し、イスラエル側は猛反発している。

多国間協議の枠組みが最終的に「アナポリス型」に収れんされればイスラエルの参加はより容易になるが、それには米国の積極関与が欠かせない。【2月12日 毎日】
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レームダック(死に体)状態のオバマ米政権に、和平を主導する余力があるのか?
あるいは、あとを気にしなくていいとも言える“レームダック状態”だからこそ、思い切った対応も可能なのか?

成果は期待していないが・・・・
フランスの提唱した国際会議については、パレスチナ側は、準備会合が4月にも開催されるとしています。

****準備会合、4月にも開催=仏提唱の国際和平会議向け―パレスチナ外相****
来日したパレスチナ自治政府のマルキ外相は15日、東京都内の日本外国特派員協会で記者会見し、フランスのファビウス前外相が提唱した国際和平会議の準備会合が4月にも開催されるとの見通しを示した。

また、開催前に国連安全保障理事会でイスラエルによる占領を非難する決議を提案する意向で、「国際社会の意思を確認する」と語った。

マルキ外相は、イスラエルのネタニヤフ政権発足以降、ヨルダン川西岸などでのユダヤ人入植者が60万人を超えたと指摘。これまでの直接和平交渉は「時間稼ぎだった」と批判した。その上で、イラン核合意の例を挙げ、多国間交渉が「ベストアプローチだ」と強調した。

準備会合にはパレスチナとイスラエルは参加せず、日本など安保理メンバー15カ国を含めた20〜30カ国で4月に開催される見通しという。【2月15日 時事】
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国際和平会議の枠組み作りを進めることで、イスラエルへ圧力をかける狙いでしょうか。
パレスチナ・アッバス議長側もこうした取り組みでの成算がある訳でもありませんが、何もしないとパレスチナ内部からの批判が高まるという事情もあるようです。

****パレスチナ自治政府にビジョンはない****
・・・・(元パレスチナ自治政府閣僚の)アジャラミ氏は、アッバス議長のこの試みも、最終的には、実現しないか、しても成果は上がらないだろうと見ている。アッバス議長自身もそれはわかっていると思うとアジャラミ氏。

パレスチナの国を立ち上げることで合意したオスロ合意(1993年)以来、20年たってもまだ国になっておらず、アッバス議長の支持率はかなり低くなっている。何かしないと、国内からの批判が高まってしまう。パレスチナ自治政府が転覆する可能性を示唆する推測もある。

アジャラミ氏は、自治政府の転覆は否定するものの、パレスチナに大きなビジョンと勝算があっての動きではないと語る。

しかし、パレスチナ人は、2回のインティファーダで、暴力では自分も苦しむだけだということを学んだ。だらら暴力を支持していないことは確かであると強調。

アッバス議長を支持しないとはいえ、その他のハマスなどを支持する人は多くないため、自治政府は倒れそうに見えても倒れないとも予測する。

では、ここからどこへ向うのか、ということになるが、パレスチナ自治政府には、もう使える手がなく、明確なビジョンはないとアジャラミ氏は語る。しかし、ともあれ、アッバス議長は今、国際社会にアピールを行っており、日本に来るのもその一環ということである。

毎日新聞によると、日本は、基本的にパレスチナ国家建設による2国家共存を支持しており、昨年1月の時点で、「多国間協議が開催されれば、参加する用意がある。」と表明している。

アッバス議長の日本での滞在は実質2日ほどになると思うが、イスラエルにもよい顔を約束している安倍首相。どのような対応をするのか。

しかし、日本は今、北朝鮮問題と、急速な円高と株の変動で、経済が大きくゆさぶられており、パレスチナ問題どころではないかもしれない・・・・【「オリーブの山だより」http://mtolive.blog.fc2.com/blog-entry-1338.html
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なお、パレスチナ和平が進まない原因は、イスラエルの頑なな姿勢の他、パレスチナ側の要因として、自治政府・アッバス議長がパレスチナを十分に掌握しきれていないことがあります。

ガザ地区は相変わらず過激派ハマスが実効支配していますし、イスラエルへの暴力的抵抗を否定するアッバス議長に対するパレスチナ住民の支持は高くないとも言われています。

ただ、上記にもあるように、ハマスも支持されている訳でもないようです。世論調査によれば、ガザ地区でのアッバス議長に対する評価は、ハマスの指導者ハニヤ氏に対する評価よりも高いという数字も出ています。

パレスチナ全体では、“次回の選挙で、アッバス議長に投票すると答えたのは36%、ハマスのハニヤ氏に対して投票すると答えた者は22%だった。”【2月8日 佐々木 良昭氏 「中東TODAY」】とのことで、両者とも十分な支持を得ていないと言うべきでしょうか。そこに、出口が見えないパレスチナ住民の苛立ちもあらわれています。
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