(2013年8月22日正午過ぎ、福岡県沖ノ島北西の日本領空を侵犯(2機で1分39秒間)したロシア軍の爆撃機【2013年8月22日 日テレNEWS24】)
【ロシア 欧米に圧力をかけることで態度軟化を促す意図?】
ロシア・プーチン大統領の根底にはNATOの東方拡大への強い不信感があり、ウクライナやシリアでの欧米との対立、アメリカが主導する欧州ミサイル防衛計画への対抗措置などで、そうした不信感が噴出していることはこれまでも取り上げてきました。
(1月2日ブログ「ロシア・NATOのミサイル防衛・核兵器をめぐるせめぎあい 冷戦時代より米ロ核戦争の危険増大?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160102など)
こうした情勢にあって、“ロシアのメドベージェフ首相は6日、欧米諸国との関係について「冷戦時代に後戻りしたといえるかもしれない」との見方を示した”とのことです。
****現在は「新たな冷戦」 ロシア首相が言及****
ドイツで開かれているミュンヘン安全保障会議で、ロシアのメドベージェフ首相は6日、欧米諸国との関係について「冷戦時代に後戻りしたといえるかもしれない」との見方を示した。
メドベージェフ首相は演説の中で、北大西洋条約機構(NATO)の対ロシア政策は「相変わらず非友好的かつ不透明」で、「新たな冷戦」を思わせる状況だと批判。
「我が国はほぼ連日、NATOや欧州全体、あるいは米国に対する最大の脅威のひとつとして名指しされている」と不快感を示した。
欧米からみた関係悪化の原因は、ロシアによるウクライナでのクリミア半島併合や東部親ロシア派支援、そしてシリアへの軍事介入にある。シリア介入をめぐっては対テロ戦を主張するロシアに対し、欧米側は「アサド政権支援が主な目的ではないか」と非難する声が出ている。
一方、NATO欧州連合軍のブリードラブ最高司令官はミュンヘンでのCNNとのインタビューで、「NATOは冷戦を望んではいない。我々は防衛的な同盟として、武力で国境を書き換えようとする国に立ち向かう態勢を取っているのだ」と強調した。
米国のケリー国務長官は同会議で、ロシアがシリアで攻撃している対象は「正当な反政府組織」が中心だと改めて批判し、方針転換を求めた。ウクライナ情勢についても、ロシアは停戦合意に従うか、経済制裁を受けるかの選択を迫られていると指摘した。
長官はまた、米国が中東欧への戦闘部隊増派などに向け、欧州の安全保障に投じる予算を約4倍に増額すると表明した。
米国務省などによると、ケリー長官とロシアのラブロフ外相は会議の場で短時間ながら会談し、シリアでの停戦案や人道支援体制の確立について話し合った。【2月14日 CNN】
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ロシアが敢えて口にする「新たな冷戦」という発想は、ロシアは「その他大勢」の一つに埋没することなく、「強いロシア」が「理不尽なNATO」に敢然と対峙している・・・・というイメージを欲しているようにも見えます。
原油価格低迷・経済制裁によって経済的苦境にあるロシア・プーチン政権は、欧米の経済制裁解除を必要としていますが、「欧米側に赦される」「欧米の制裁に屈する」という形ではなく、対等の立場で渡り合い、欧米側を交渉の席に引きずり出し、「制裁解除を勝ち取る」形を演出したいようにも見えます。
また、国際的緊張は国民の経済的不満を放散させ、国内的求心力を高めるのに役立つのでしょう。
去年11月、トルコ軍がシリア国境付近でロシア軍機を撃墜してロシアとNATO加盟国トルコの対立が続いているますが、1月30日にもロシア軍機がトルコ領空を侵犯したとトルコは主張しています。
****ロシアのトルコ領空「侵犯」 あえて“敵”作り苦境脱する狙いか****
ロシア軍機がトルコ領空を侵犯したとされる問題は、露軍機が撃墜された昨年11月以降、両国関係が悪化の一途をたどっている現状を改めて浮き彫りにした。
シリア内戦をめぐる和平協議を前に、同国アサド政権を軍事支援するロシアと、反体制派を後押しするトルコやサウジアラビアなどは駆け引きを強めており、それがシリア・トルコ国境地帯での緊張につながっている。
和平協議をめぐっては、アサド政権との交渉に参加する反体制派グループの選定が大きな対立点となった。ロシアは和平協議の主導権を狙い、シリアでの空爆強化を誇示してきた経緯がある。撃墜事件後は、シリアの基地に最新鋭対空ミサイルシステムS400を配備し、爆撃機に空対空ミサイルを搭載するなど対トルコ牽制(けんせい)にも余念がない。
経済的苦境に陥っているプーチン露政権は、ウクライナ問題をめぐる欧米の対露制裁を緩和させようと躍起だ。北大西洋条約機構(NATO)の一員であるトルコへの圧力を通じ、欧米に態度軟化を促す意図も透ける。
露国内でも、ウクライナに代わってトルコを“敵”とし、国民の不満をそらす政治宣伝が続いている。【1月31日 産経】
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【ロシアの活動活発化にNATOも対ロシア対策強化】
ロシア・欧米の対立を惹起したウクライナ東部の情勢は、このところ落ち着いています。
****ウクライナ停戦で4カ国会談=停戦履行の具体案準備へ****
ウクライナ東部危機をめぐるロシア、ウクライナ、ドイツ、フランスの4カ国外相級会談が13日、独ミュンヘンで行われた。タス通信が伝えた。
シュタインマイヤー独外相によると、4者は停戦合意の完全履行に向けた「具体的な提案」を次回会談までに準備することで一致した。
ウクライナのクリムキン外相によると、次回会談は3月上旬で調整されている。フランスからは今回、ファビウス外相が退任したため、外務省高官が出席した。【2月13日 時事】
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しかし、バルト海・北欧周辺でのロシア軍の活動は近年活発化しています。
しかも「核攻撃を想定した軍事演習」も行っているとも。
****スウェーデン核攻撃を想定、ロシアが軍事演習****
ロシア空軍はスウェーデンへの核攻撃を想定して軍事演習を行っている――。先週NATO(北大西洋条約機構)が発表した年次報告書で明らかになった。
2013年3月にロシアがスウェーデンのストックホルム群島の東端で実施した軍事演習は、各メディアが強い関心を示した。スウェーデンのメディア報道の中には、演習内容がスウェーデンへの空襲を想定している、という憶測も見られた。
この演習では、スウェーデン領空の境界付近までロシア空軍の爆撃機と戦闘機が急速に接近した。しかしスウェーデン空軍の対応は、呆れるほどに遅かった。即時に空軍を出動させられないスウェーデン政府は、この緊急事態に際してNATOに戦闘機の派遣を要請しなければならなかった。
結局、NATO加盟のデンマーク空軍の戦闘機2機が、ロシアの演習に対応して現場空域に急行した。しかしこの一連の事態によって、核攻撃力を持つロシア戦闘機が首都ストックホルムの攻撃距離内に進入しても、それに対応できないスウェーデンの脆弱性が明らかになった。
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長が先週公表した年次報告書は、当時のロシアの演習は、実際にスウェーデンへの核攻撃を想定したもので、北欧地域でのロシアの攻撃的な姿勢を指し示す、懸念される動きだと見ている。
スウェーデン、フィンランドの両国はNATO非加盟国だが、軍事演習には頻繁に参加している。そしてここ数カ月間、ロシア機の領空侵犯に対して不満を募らせている。14〜15年の2年間、NATOのバルト海空域の警備隊からロシア機の領空侵犯に対してスクランブル発進した戦闘機の出動回数は、過去最高レベルの頻度になっている。
今回の年次報告書も北欧諸国のメディアの関心を呼んでいる。ロシアの攻撃対象はスウェーデン南部のスマランドか、ストックホルム近郊にある軍事情報拠点の国防無線施設ではないかという憶測が出ている。
報告書でも確認されたロシア空軍部隊は、ミサイル爆撃機ツポレフ4機と、ジェット戦闘機スホーイ2機で編成されていた。
「包括的な軍備再編の一環として、ロシアの軍事行動・軍事演習は、冷戦終結以降で最も活発なレベルに達している」と、報告書は指摘している。
NATOへの加盟を望むスウェーデンの世論は高まっていて、昨年9月に実施された世論調査では、回答者の41%がNATO加盟を望んでいた。13年に実施された世論調査と比較すると、10ポイントも上がっている。
ロンドンの安全保障シンクタンク「ヨーロピアン・リーダーシップ・ネットワーク」は昨年夏に公表したリポートで、「ロシアとNATOの軍事演習の実態と規模は、偶発的な衝突の危険を増大させている」と指摘し、警鐘を鳴らしている。【2月5日 Newsweek】
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こうしたロシアの行動に、歴史的にロシアへの警戒感が強いバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)、ポーランドなどはNATOの対ロシア対応の強化を求めています。
****<NATO>対露拠点、東欧最前線に兵力常駐へ*****
北大西洋条約機構(NATO)は10日の国防相会議で、ロシアに近い最前線に“抑止拠点”を設置する「防衛抑止態勢」の新原則で合意する。
ロシアのウクライナへの軍事介入以降、東欧で一時的に兵力を増強してきたが、比較的小規模な常設拠点を東欧に設置し、交代で兵力を送り込むことで、ロシアに対する抑止力のシンボルとする。
複数のNATO外交筋が毎日新聞に明らかにした。
NATOは7月の首脳会議に向け、防衛や抑止態勢の総合的な見直しに取り組んでおり、その第一歩として10日の国防相会議で抑止態勢の原則を定義し直す。
ロシアの脅威が新たな課題になっていることから、ロシアと接するバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)、ポーランドに「前線駐留強化部隊」(仮称)を配置する原則を確認する。
詳細はNATO軍幹部が首脳会議までに詰めるが、兵力数百人単位の複数の小規模な拠点を最前線に設置。加盟国が交代で兵力を送り込む。ロシアが万一、侵攻する場合、大規模兵力が即応する用意があることを示すシンボルの役割を果たすことが想定されている。
外交筋によると、冷戦当時、東独の中にある飛び地の西ベルリンで、東独軍、ソ連軍が50万人以上取り囲む中、計1万人程度の米英仏軍が駐留して西ベルリン防衛のシンボルの役割を果たした事例を想定しているという。
2014年のロシアによるウクライナへの軍事介入以降、NATOは加盟国が交代でバルト3国上空を警戒飛行する戦闘機を増強したり、黒海やバルト海に艦船を派遣したりするなど共同防衛の強化を図ってきた。
しかし、一時的な措置でしかなく、バルト3国やポーランドからは、恒久的な基地を設置するよう要求が出ていた。
NATOはロシアとの間で1997年に、ロシアを敵とみなさず協力を模索することを定めた「基本文書」を締結。その中で、NATOは東欧など新規加盟国には「相当数の戦闘部隊を恒久的に駐留させない」と約束していた。
NATOはこの約束を守りつつ、ロシアに対する抑止力を強化する方策を探り、“抑止拠点”の設置で合意した。ロシアとの対話も探っているが、「対話と抑止は矛盾しない」として拠点設置を進める。【2月9日 毎日】
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【アジアでもミサイル防衛(MD)計画で対立】
一方、ロシアはアメリカ主導で進むイランを想定した欧州でのミサイル防衛(MD)計画を、ロシアを狙ったものとして批判していますが、アジアにおいても北朝鮮を想定した同様計画THAADに反発を強めています。
なお、THAADに対しては中国が強く反発しています。
****【北ミサイル発射】韓国に迎撃システム配備 存在感強める米国にいらだつロシア****
米国の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル」(THAAD)の韓国配備に向け、米韓両国が協議開始で合意したことにロシアが反発を強めている。
朝鮮半島での米国の存在感を高める上、自国の核戦力の弱体化にもつながりかねないためだ。北朝鮮の長距離ミサイル発射が米国のミサイル防衛(MD)計画推進の呼び水になったことにも、いらだちを強めている。
THAADは、発射された敵の弾道ミサイルが大気圏に再突入する段階で迎撃するMDシステムの一種。従来、韓国は中国の反発などからTHAAD配備に慎重だったが、相次ぐ北朝鮮の軍事的挑発を受け、米国との協議開始を決定した。
これに対し露下院のコモエドフ国防委員長は7日、「朝鮮半島における米国のMD展開はロシアの核戦力の脅威となる」と述べ、米韓の合意を批判した。
THAADは北朝鮮のミサイルに対抗するものだが、最終的にはロシアの核戦力の封じ込めにつながりかねないとの懸念が背景にある。
さらに露外務省は同日、「(北東アジアでの)ブロック政策や軍事的対立を進めようとしている者を利する」と述べ、ミサイルを発射した北朝鮮を非難し、強いいらだちをあらわにした。
ロシアは以前、北東アジアでの米MDの展開については北朝鮮の脅威が存在することから、ある程度容認する姿勢を示していた。
しかしウクライナ問題やシリア危機による欧米との関係悪化を受け、方針を転換。昨年末に改定された「国家安全保障戦略」では、アジア太平洋地域を含むMD計画に対しても反対する姿勢を明確に打ち出した。
専門家は「ロシアには欧州に配備されたMDと、北東アジアのMDにより“挟み撃ち”にされるとの懸念がある」と指摘している。【2月10日 産経】
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【対話への方針転換で危機回避を図る】
中東、欧州、アジアと緊張の「種」はいろいろありますが、欧米、NATOとしても徒にロシアとの緊張が高まるのを避けるべく、ウクライナ問題で途絶えたロシアとの対話を再開させる予定です。
****<ウクライナ問題>露NATO対話再開 月内にも理事会****
ウクライナへの軍事介入を巡り関係を冷却化させていた北大西洋条約機構(NATO)とロシアが、政治対話の枠組み「NATOロシア理事会」を数週間以内に再開させる方向で調整していることがわかった。複数のNATO外交筋が毎日新聞に明らかにした。
今月末か来月初めの開催を目指しているという。ロシアがNATO加盟国トルコの領空を侵犯するなど衝突の危険が高まる中、対話への方針転換で危機回避を図る。
理事会の再開方針は昨年12月のNATO外相会議で合意。バージュボウNATO事務次長とグルシコ露NATO大使が複数回協議して対話の意思を確認、日程を調整している。
NATO外交筋は日程について「数週間以内に開かれる」と述べ、別の外交筋は今月末か来月初めで調整していることを明らかにした。
NATOはロシアによるウクライナ南部クリミア半島への軍事介入を受け、2014年3月にロシアと理事会を開き協議したが、決裂した。
NATOは同年4月にロシアとの実務関係の停止を決定。その後2回、理事会を開いたが双方の隔たりは大きく、同年6月から事実上停止されたままだ。
NATO高官は毎日新聞の取材に対し、昨年11月にシリアに展開するロシアの戦闘爆撃機がトルコの領空を侵犯、撃墜された事件に触れ、理事会再開の目的について「対話で行動の透明化を図るためだ」と語った。
また、理事会を再開してロシアの出方を探り、7月のNATO首脳会議で対ロシア関係を再定義する狙いもあるという。
NATO内では、ロシアと国境を接するバルト3国やポーランドが政治対話の再開に難色を示してきた。だが、ウクライナ東部の停戦が一定程度維持されていることもあり、ドイツや南欧などロシアに融和的な国が押し切る形で対話再開が決まった。バルト3国の関係者は「意見交換の場として認めた」と述べた。
プーチン露大統領は、クリミア半島の一方的編入の理由として、NATOの東方拡大を挙げている。NATOとロシアの政治対話が再開されれば、緊張緩和につながる可能性もある。【2月6日 毎日】
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ロシアとNATO、双方が対抗措置を強化するなかで「新たな冷戦」が本格化す事態もありえますし、緊張関係にあっては偶発的な事故が戦争の引き金になる危険もあります。
政治対話再開による緊張緩和が強く望まれます。それがロシアの狙いだと言えなくもありませんが、緊張関係を放置する訳にもいきませんので。