孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルゼンチン  19日の大統領選挙決選投票に臨む「異色」「型破り」候補ミレイ氏

2023-11-17 22:47:08 | ラテンアメリカ

(集会でチェーンソーを掲げるハビエル・ミレイ氏=9月12日【10月2日 CNN】)

【前年に比べ物価は2.4倍】
日本の場合、“総務省が(10月)20日発表した9月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が105.7となり、前年同月比で2.8%上昇した。”【10月20日 日経】ということですが、3%前後の物価上昇でも家計を大きく苦しめているのは多くの人が実感しているところ。

それにしても、2020年比較でも5.7%しか上がっていない・・・というのが日本経済の際立った特徴ですが、賃金の話を含め、そのあたりの話は今回パス。

一方、南米・アルゼンチンでは前年に比べ、物価は2.4倍に上がっています。日本的な感覚では想像できませんが。

****アルゼンチン 10月の消費者物価 前年同月比2.4倍に上昇****
経済の混乱から激しいインフレが続く南米のアルゼンチンでは、先月の消費者物価が前の年の同じ月に比べて2.4倍に上昇しました。日々の食料品などが十分にまかなえない貧困層は40%にのぼると推計され、悪化する経済への対応が今週末の大統領選挙の最大の争点となっています。

アルゼンチンの統計局は13日、先月・10月の消費者物価指数が前の年の同じ月に比べて142.7%上昇したと発表しました。

インフレが年率で100%を超えるのは9か月連続で、物価が1年で2.4倍に跳ね上がったことになります。

急激なインフレの影響でアルゼンチンでは日々の食料品など生活に必要な支出が十分にまかなえない貧困層が人口の40%にのぼると推計されています。

ブエノスアイレス近郊では地元の市民グループが週3回、寄付などで集めた食材で調理した食事を無料で配布していて、13日にも幼い子どもを連れた女性などが次々に訪れていました。

グループの代表のレベッカ・エレーラさんは「インフレがひどく多くの家庭に仕事がありません。この地区はとてもぜい弱で多くの家庭が支援を必要としています」と話していました。

アルゼンチンでは今週末の今月19日に大統領選挙の決選投票が予定されていて、悪化する経済への対応が最大の争点となっています。【11月14日 NHK】
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アルゼンチン経済の長期的没落、日本も・・・という話はこれまでも取り上げてきました。

****日本が「先進国脱落」の危機にある理由、衰退国家アルゼンチンの二の舞いに?****
19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落したアルゼンチン。日本も同じ道を辿るのか

アルゼンチンは19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落した国家として知られる。農産物の輸出で成長したが、工業化の波に乗り遅れ、急速に輸出競争力を失ったことがその要因だ。国民生活が豊かになったことで、高額年金を求める声が大きくなり、社会保障費が増大したことも衰退につながった。

時代背景は違うが、似た現象が起きているのが現代の日本である。IT化の波に乗り遅れ、工業製品の輸出力が衰退しているにもかかわらず、社会は現状維持を強く望んでいる。この状況が続けば、アルゼンチンの二の舞いになっても不思議ではない。(後略)【2022年2月7日 加谷珪一氏 ダイアモンド・オンライン】
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【「異色」「型破り」の大統領候補ミレシ氏 極右体質・民主主義的価値観軽視の危うさも】
そうした長期的経済低迷のなかでの前年比2.4倍という物価上昇・・・市民生活は困窮・破綻し、現在行われている大統領選挙において変革を求める声も当然に大きくなります。

そうしたなかで異色の大統領候補が支持を集めていることは、8月25日ブログ“アルゼンチン 「物価1年で2倍」 市内では略奪増加 大統領選挙予備選で過激主張候補トップへ”でも取り上げました。

過激な主張を行う“異色の候補”というのは、独立系で極右のリバタリアン(自由至上主義)経済学者であるハビエル・ミレイ氏。 

10月22日の第1回投票ではトップが予想されていましたが、結果は得票率29%で2位。与党候補が36%で1位。それでも、ミレイ氏は勢いを失わず、今月19日の決選投票に向かっています。

****公約は「ペソ」から「ドル」へ通貨変更...「究極のポピュリスト」がアルゼンチン大統領になるのか?****
<3桁のインフレと経済危機に見舞われたアルゼンチンの経済対策が「ドル化」...? 大統領候補者の中で首位を走るハビエル・ミレイだが...>

10月22日に大統領選の投開票が行われる南米アルゼンチンは、瀕死の経済と同国の未来をどの指導者に託すのか。

3桁のインフレと経済危機に見舞われたアルゼンチンで、候補者のうち首位を走るのは経済学者でポピュリストのハビエル・ミレイだ。彼の公約は、中央銀行を廃止し通貨をペソからドルに変えるというもの。8月の予備選でトップに立つと、国民の間でドルを高値で買う動きが加速した。

だがこの「ドル化」の実現可能性は、国内外から疑問視されている。そんななか、10月初めの候補者討論会でミレイがドル化に言及しなかったことで、どれほどその野心を実現させるつもりなのか、有権者の間で不透明感が漂う結果となった。ドル化については、ミレイの経済チームでも意見が割れているという。

22日の大統領選で過半数を得票した候補がいなければ、上位2候補による11月19日の決選投票にもつれ込む。型破りな経済政策の行く末を世界が注視している。【10月23日 Newsweek】
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通貨のドル化、中央銀行廃止が大きく取り上げられていますが、それ以外にも、気候変動は「フェイク」と切り捨て。臓器売買や銃所持の合法化などを訴えたこともあるとか。若年層を中心に熱狂的な支持を得ている。

選挙集会では「既成政党をぶった切る!」とチェーンソウを振り回すパフォーマンス。

「アルゼンチンのトランプ」との異名も持つように、トランプ前大統領を彷彿とさせますが、実際、トランプ氏を信奉していることも明らかにしています。

“過去20年間、アルゼンチンではほぼ同じ政党が政権を握ってきた。ミレイ氏はいわば外部から出てきた新興勢力で、右派・左派の既存勢力に激しく対抗している。米国のドナルド・トランプ前大統領やブラジルのジャイル・ボルソナーロ前大統領など、極右スターの台頭をどこか彷彿(ほうふつ)とさせる。”【10月2日 CNN】

このあたりまでは、異色と言え、あるいは実現性が疑問視されているとは言え、「政策の問題」とも言えますが・・・・

10月に行われた1回目投票について、証拠を示さずに「結果に疑念を抱かせるような規模の不正があった」と批判。決選投票に敗れても、敗北を受け入れるか疑問視もされています。

また、3万人もの市民が殺害、行方不明になった1980年代までの軍事政権時代について「人権弾圧を受けた人は実際にははるかに少ない」とも。

このあたりになると、極右体質、更には民主主義的価値観の軽視といった重大な問題も見えてきます。

「異色」「型破り」ではあるが、その主張全てに同意する訳でもないが、とにかくこの現実を変えられるのは、彼しかいない・・・というのが支持者の気持ちなのでしょう。

ただ、さすがに躊躇する人も少なくなく、第1回投票では2位に甘んじたというところでしょうか。

【予測が難しい決選投票 ミレイ氏勝利なら対中国政策変化も】
決選投票では、第1回投票で3位につけた候補の支持者の票の行方がカギになりますが、ミレイ候補が追い上げているとの観測も。

****アルゼンチン大統領選、与党候補のリード縮小****
11月19日のアルゼンチン大統領選決選投票を前に地元調査機関アナロギアが6日公表した最新世論調査によると、与党連合の中道左派セルヒオ・マサ経済相の、リバタリアン(自由至上主義者)のハビエル・ミレイ下院議員に対するリードが縮小したことが分かった。

支持率はマサ氏が42.4%、ミレイ氏が39.7%。アナロギアが第1回投票直後に行った調査に比べ、リードが8ポイントから3ポイント程度になった形だ。なお投票先を決めていないと答えた割合は18%前後だった。

ミレイ氏は、第1回投票で3位になった野党連合の中道右派パトリシア・ブルリッチ元治安相や、ブルリッチ氏に近いマウリシオ・マクリ元大統領の支持を獲得し、足元で勢いを強めている。

ブラジルに拠点を置く調査機関アトラス・インテルの世論調査では、ミレイ氏が支持率48.5%とマサ氏の44.7%を上回っており、投票先を「分からない」もしくは白票を入れると答えたのが約7%となった。

第1回投票では多くの調査でミレイ氏優勢が伝えられたが、結局マサ氏が首位に立った。ただアトラス・インテルはマサ氏の首位を予測した数少ない調査機関の一つだ。【10月7日 ロイター】
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国際的にはミレイ氏の反中国の姿勢が注目されています。

****アルゼンチン大統領選、19日に決選投票 右派勝利なら親中姿勢に変化****
南米アルゼンチンは19日、大統領選の決戦投票を行う。物価高や通貨安がもたらす経済的混乱への対策が争点。貧困層の生活改善を重視する与党連合の左派セルヒオ・マサ経済相(51)と、大幅な歳出削減を訴える経済学者の右派ハビエル・ミレイ下院議員(53)が競り合う。ミレイ氏は現政権の親中姿勢も見直しを訴えている。

大統領選は現職の左派フェルナンデス氏の任期満了に伴うもの。フェルナンデス氏は経済危機が原因で世論調査の支持率が低迷、与党内でも再選への賛同が広がらず、出馬を断念した。

10月の第1回投票の得票率はマサ氏が36%、ミレイ氏は29%と7ポイント差。3位で敗退した野党連合の右派候補を支持した23%の有権者の動向が決選投票の行方を左右するとみられる。世論調査の支持率トップは頻繁に入れ替わり、接戦が続く。

アルゼンチンの10月の消費者物価指数は前年同月比142%上昇。現地からの報道によると、首都ブエノスアイレスではトマト1キロの値段が1週間で2倍になり、通貨ペソの下落により安定した米ドルが流通。法定通貨のドル化や中央銀行の廃止を唱えるミレイ氏の主張が受け入れられやすい土壌が生まれたという。

マサ氏は、ミレイ氏の提案は「経済をさらに混乱させる」と批判、日本の消費税に相当する付加価値税の減税などを公約に掲げる。ただ、現職閣僚として経済的混乱への責任を負うマサ氏に対する批判は根強い。

ミレイ氏は「自由」を重んじる立場から、外交方針でも強権体制の中露朝、キューバなどを非難する。当選した場合は新興5カ国の枠組みBRICSへの新規加盟の方針を撤回し、米国との関係を強化したい考え。

マサ氏は現政権の方針を受け継ぎ、中国との関係を重視、BRICSへの新規加盟も進める方針を示す。債務危機を回避するための国際通貨基金(IMF)との交渉でも、引き続き中国に仲介を頼むとみられ、対中依存は深まる方向だ。【11月17日 産経】
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中国との関係は結果で、多くの国民にとっては、やっぱり物価対策・貧困対策でしょう。

****「日々を生きるだけ」経済格差 縮まらぬアルゼンチン 大統領選の決選投票で貧困対策が大きな争点に****
この日曜日に大統領選挙の決選投票が行われる南米アルゼンチン。記録的インフレに直面し物価は去年の2倍、深刻な貧困、格差は大きな争点です。その実態を取材しました。

アルゼンチンの首都、ブエノスアイレスのタンゴ劇場。 タンゴショーの料金は国民の平均月収のおよそ2割、150ドル相当で、訪れるのは海外からの観光客が中心です。

アルゼンチンでは今、アメリカドルの需要が高まり、ホテルなど多くの場所で価格はドル表記。 ドルに対し通貨ペソは大きく下落していて、年率140%を超える記録的インフレにも直面しています。自国通貨ペソの信頼が低下するなか、ドルを求める動きが強まっているのです。

ピザ店を営むセバスチャンさんは経営の傍ら、前に住んでいたアパートを観光客に貸し出す「民泊ビジネス」でドルを稼いでいます。2LDKで一泊およそ40ドル。月900ドルほどの収入があり、本業を上回っているといいます。

セバスチャン・ヒメネスさん 「ピザ店の収入は安定していないので、このような副収入はありがたいです」

資産をもとに副収入を得る人がいる一方で。
記者 「こちらにブエノスアイレス最大級の貧民街が広がっています」

月200ドル以下の収入しか得られない人は、人口の4割。「ビジャ」と呼ばれる貧困地区に住む人たちは人口の1割あまり、500万人を超え年々、増加傾向にあるといいます。

「ビジャ」で40年以上暮らすネリーさん。縫製の仕事などで得る一家の収入はペソのみで、日々の暮らしで精いっぱいだといいます。

ネリーさん 「ドルで貯蓄なんて考えられない。日々を生きるだけです」
娘には自分たちと同じ道を歩ませたくないと教育に力を入れ、奨学金の助けを得ながら学校に通わせています。(中略)

あさって行われるアルゼンチン大統領選の決選投票で、貧困対策は大きな争点です。

「アルゼンチンのトランプ」との異名も持つミレイ候補は貧困地区を訪れ、法定通貨のドル化という大胆な政策や貧困対策を直接アピール。対する与党マサ候補は、外貨獲得のための輸出促進や労働環境の改善を訴えます。

ネリーさん 「マサ候補もミレイ候補も好きなところはあるけれど、信用はできません」

長年、経済危機から脱却できないアルゼンチン。 国民は深刻な貧困からの脱却策をどちらの候補に委ねるのでしょうか。【11月17日 TBS NEWS DIG】
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市民生活の困窮、それに対する既成政治の無力さ・無能さが、「○○のトランプ」と称されるような政治家への現状打開の期待を膨らませます。
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