孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  極右忖度・依存の少数内閣 短命は必至の状況

2024-09-26 23:09:48 | 欧州情勢

(フランスのルタイヨー新内相は一連のメディアインタビューで、社会の広範な右傾化の流れを踏まえ、移民規制や治安対策を強化する考えを表明した。写真は演説するルタイヨー内相。パリで23日撮影【9月25日 ロイター】)

【「極右・国民連合の監視下」にある少数政権】
今朝TVを観ていたら、フランスメディアのニュースで、閣僚のひとりが首相(?)から叱責されたというものがありました。その閣僚は、多くの右派勢力とは協議していくが、極右は排除する・・・みたいな主旨の発言したことが叱責の理由。

これに対し、極右・国民連合(RN)を実質的に率いるルペン氏は、「閣僚の中には、内閣の方針を理解していない者がいるようで・・・」と余裕のコメント。

現在の極右の意向を忖度せざるを得ない少数与党政権と極右勢力の力関係を反映したものとして印象的でした。

フランスでは「マクロンの賭け」と評された総選挙の結果、9月8日ブログ“フランス  新首相決定も、少数与党 左派「選挙が盗まれた」 極右「新首相は自勢力の監視下にある」”でも取り上げたように極左が中心の左派、マクロン大統領与党の中道、ルペン氏率いる極右の三すくみ状態となり、マクロン大統領は左派の切り崩しに失敗、中道右派の共和党と連立してバルニエ首相の少数内閣が発足しました。

バルニエ新政権は右派支持層、極右勢力・国民連合を意識しながらの少数政権です。

****フランス新内閣発足 移民強硬派を内相に マクロン大統領、少数内閣で不安な再出発****
フランスで21日、バルニエ首相(73)が率いる新内閣が発足した。マクロン大統領を支える中道与党連合に、これまで野党だった中道右派「共和党」が加わる「相乗り内閣」になった。内相には、移民受け入れ削減を求める共和党強硬派が起用され、右派色の強い陣容となった。

フランスは6〜7月の下院選で与党連合が第2勢力に転落し、政治空白が続いていた。マクロン氏は、共和党のバルニエ元外相を今月5日に首相に任命。21日に閣僚名簿を発表した。

新内閣は、下院で過半数の議席を持たない少数政権で、外相には与党連合からジャンノエル・バロ欧州担当相(41)が就任した。経済・財務相はアントワヌ・アルマン下院経済委員会委員長(33)。国防相はセバスチャン・ルコルニュ氏(38)が留任した。

内相となったブリュノ・ルタイヨー氏(63)は共和党の上院議員団長。欧州連合(EU)のルールに縛られず、フランスが独自に移民対策を強化するよう主張してきた。共和党からは農相も入閣した。

新内閣は来年の予算編成が喫緊の課題。バルニエ氏は10月1日、下院で施政方針演説を行う。下院第一勢力の左派連合は、不信任案提出の構えを見せる。

新内閣は極右野党「国民連合」の動向に配慮せざるを得ず、マクロン氏は政策実行の手足を大きく縛られた。EUの大国フランスの政治不安は、欧州経済やウクライナ支援にも陰を落とす。

下院選は左派連合、与党連合、国民連合の三つどもえの結果となり、いずれも議席の過半数に達しなかった。アタル前首相は7月に辞任し、パリ五輪は暫定内閣で乗り切った。

マクロン氏は左派連合が擁立した首相候補を退け、下院第4勢力の共和党との相乗りで、公約だった債務削減を進める姿勢を示した。【9月22日 産経】
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選挙で第1位の勢力を獲得したにもかかわらず政権から排除された左派は新政権への対決姿勢を強めています。

一方の極右勢力は左派の倒閣には同調せず、しばらくは静観の構え。その裏には「バルニエ氏はRN(極右国民連合)の監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」という自信があります。

****フランスの極右、倒閣に同調せず=左派は抗議デモ****
フランスの極右政党・国民連合(RN)のバルデラ党首は7日、「民主主義の混乱にくみしたくない」と述べ、バルニエ新内閣の発足後直ちに倒閣を目指す構えの左派に同調しない考えを示した。新内閣は中道と中道右派による少数与党となる見込みで、不信任を回避できるかは極右に懸かっている。

民放テレビTF1のインタビューで語った。バルデラ氏は、RNが唱える治安強化や移民抑制などの政策が「尊重されることを望む」とした上で、5日に首相に任命されたバルニエ氏に「マクロン大統領の政治を続ければ、新内閣は頓挫する」と警告した。

7月の総選挙では左派4党連合が下院の最大勢力となったが、政党単位ではRNが初の第1党に躍り出た。バルデラ氏は7日、記者団に「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」と訴えた。

バルニエ氏はこれに対し「私は全国民の監視下にある」と指摘。極右が新内閣に及ぼす影響力は限定的だと反論した。

一方、左派を率いる急進政党「不屈のフランス」は7日、政権批判の抗議行動を各地で展開し、支持者や学生運動の活動家らが参加。内務省によればデモ隊は約11万人(主催者発表30万人)に上った。【9月8日 時事】 
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こうした新政権の極右依存傾向を社会党・オランド前大統領は批判。

****新内閣は「極右に依存」=前大統領、不信任に賛成―仏****
7月のフランス総選挙で下院議員に返り咲いた左派・社会党のオランド前大統領(70)は9日、バルニエ新首相が樹立する内閣は「存続を極右の善意に頼る」ことになると批判し、下院に不信任案が提出されれば賛成すると表明した。公共ラジオのフランス・アンテルで語った。【9月9日 時事】 
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一方、極右のマリーヌ・ルペン氏は新政権への圧力を強めています。

****極右RNルペン氏、国民投票実施で政局打開を マクロン氏に呼掛け****
フランスの極右政党「国民連合(RN)」を実質的に率いるマリーヌ・ルペ)氏は8日、エマニュエル・マクロン大統領に対し、移民など重要問題をめぐり国民投票を実施するよう呼び掛けた。直接投票で民意を反映させることで、不安定化している政局の行き詰まりを打開できる可能性があると示唆した。

ルペン氏は、極右の拠点である北部エナンボーモンで演説し、マクロン氏に対し、移民、医療、安全保障などの重要な問題について国民投票を実施するよう要請。RNとしては、「国民に直接決定権を付与するためのあらゆるアプローチを無条件で支持する」と述べた。【9月9日 AFP】
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【極右忖度で移民規制強化方針 国外命令を受けていたモロッコ人によるレイプ事件で更に規制は強化か】
新政権は極右への配慮もあって、移民規制強化の方針を示しています。

****フランス新内相、移民規制強化の方針示す 極右政党に配慮示唆****
フランスのルタイヨー新内相は一連のメディアインタビューで、社会の広範な右傾化の流れを踏まえ、移民規制や治安対策を強化する考えを表明した。議会運営の鍵を握るとみられる極右政党「国民連合(RN)」への配慮をにじませた。

ルタイヨー氏は中道右派・共和党の重鎮でかねてより移民受け入れに消極的な立場を示してきた。仏紙フィガロに対し、数週間内に新たな移民対策を打ち出す考えを示し、「立法措置の強化をためらってはならない」と述べた。

「不法入国に歯止めをかけ、特に不法滞在者の出国を増やすことを目指している」とした。

また、24日はニュース専門局「Cニュース」のインタビューで、RNの幹部らの発言に同調し、フランスと欧州の同志国が協力して欧州連合(EU)に移民対策関連法の強化を促すべきだと述べた。

仏テレビTF1のインタビューでは、北アフリカの諸国がフランス滞在の許可なく同国に向かう市民の出国阻止を強化するよう交渉すると確約。法違反者の厳罰化を望むとも述べた。

「イスラム教礼拝所を閉鎖したり、憎悪の説教師を(国外に)追放するのに、私の手が震えることはないだろう」とフィガロに語った。【9月25日 ロイター】
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こうした状況のなかで、過去にレイプで有罪となり国外退去命令を受けていたモロッコ人男性が再び19歳女子学生をレイプ殺害するというショッキングな事件が。

****フランスで外国人による女子学生レイプ殺人事件 内相「国民守る」と明言****
仏パリで19歳の女子学生がレイプ・殺害され、遺体を公園に遺棄された事件で、容疑者のモロッコ人の男がスイスで逮捕されたのを受け、保守派のブルーノ・ルタイヨー内相は25日、「フランス国民を守る」ために新しい規則を導入すると明言した。

消息筋によると、容疑者は22歳のモロッコ人の男で、検察によれば、過去にレイプの罪で有罪となり、国外退去命令を受けていた。

フランスでは今週発足した右派政権が移民の取り締まりを計画しており、この事件によって政治的緊張がさらに高まる見通し。

ルタイヨー氏は「忌まわしい犯罪だ」「フランス国民を守るための法整備を行う必要がある」「規則を変える必要があるなら、変えよう」と述べた。

ルタイヨー氏は先に、法と秩序の強化、移民法の厳格化、有罪判決を受けた外国人の強制送還の容易化を約束している。

検察によると、容疑者の男は未成年だった2019年に犯したレイプの罪で、2021年に有罪判決を受けた。 服役後、今年6月に釈放され、入管施設に収容された。  裁判官は9月、定期的に当局に出頭することを条件に、男を仮放免した。

AFPが確認した判決の写しによると、仮放免の決定は、男が難民認定申請を行わず、出国命令に異議を唱えなかったという事実に基づいていた。 また、入管施設でも、威嚇的態度は示していなかった。

だが、学生をレイプして殺害する直前、仮放免の条件に違反したため手配されていた。

この事件を受けてフランスでは怒りの声が巻き起こり、極右だけでなく左派の政治家らも厳しい措置を取るよう求めている。

極右政党「国民連合」のジョルダン・バルデラ党首はX(旧ツイッター)に「女子学生の命は、出国命令を受けていたモロッコ人によって奪われた」「わが国の司法制度は緩く、国家は機能不全に陥っている。わが国の指導部は国民を人間爆弾と共生させている」と投稿。 「政府が行動する時が来た。率直に言って、フランス国民は怒っている」と訴えた。

左派・社会党のフランソワ・オランド前大統領も、出国命令は「速やかに」執行されなければならないと指摘した。

フランスは定期的に出国命令を出しているが、執行されているのは7%にすぎず、欧州連合全体の30%よりも低い。 【9月26日 AFP】
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これで新政権の移民規制は更に強化の方向に向かうでしょう。
政局的には、国民の反移民感情が刺激され、その受け皿としての極右・国民連合の存在感が更に強まり、政権への影響力も強まることが想像されます。

【短命は必至 来年また総選挙か】
いずれにしても、左派提出の不信任案に極右が賛同すれば、いつでも内閣は倒れる、また、極右勢力の賛同なしには重要法案が通せない・・・という状況では、短命に終わるのは避けられないでしょう。

再び解散・総選挙となれば、現在の左派との対立状況から、前回のような決選投票での左派・中道の候補者調整で極右当選を阻むという戦略も使えず、極右の更なる伸張が予想されます。

****フランス新政権の短い命と極右次第の解散総選挙 法案審議のたびに不信任投票にさらされる必然****
(中略)
内相は「移民への強硬姿勢」という配慮
(中略)
内相には移民に対する強硬姿勢で知られる共和党のルタイヨー氏が就き、これには大統領支持会派から反発の声も聞かれた。

議会の過半数を確保していないバルニエ内閣が存続するためには、政権奪取の機会を奪われた極右政党・国民連合(RN)が左派会派の提出する内閣不信任案に賛成しないことが必要となる。ルタイヨー氏の内相就任は、移民規制の強化を訴える極右勢力に配慮した側面が大きい。

政権発足の機会を奪われた形の左派会派は、バルニエ政権を極右に支えられた正統性を欠く政権であるとして対決色を強めている。

9月21日には早速、フランス各地で左派が主導する大規模な抗議デモが行われた。政権発足に先駆けて、左派会派に加わる極左政党は、マクロン大統領の弾劾手続きを開始した。

弾劾には上下両院で3分の2以上の賛成が必要で、こうした試みが成功する可能性は低い。ただ、左派会派は10月1日に予定される夏季休暇明けの国民議会でバルニエ政権に対する内閣不信任案を提出することを示唆している。

左派会派と極右勢力の合計議席は335議席と議会の過半数(289議席)を上回り、両勢力がお互いの内閣不信任案に賛成票を投じれば、政権打倒がいつでも可能な状況にある。

解散総選挙は1年に1回、「いつやるか」
憲法の取り決めにより、国民議会の解散・総選挙は1年に1回しかできない。現時点で政権を倒しても、マクロン大統領がバルニエ氏に代わる新たな首相を任命するだけに終わるうえ、政局混乱を招いたと批判されかねない。

極右勢力はひとまず政権発足を容認する構えだが、マクロン大統領にとって最も政治的な打撃が大きいタイミングを見計らっているのだろう。

議会の過半数を握っていないバルニエ政権は難しい議会運営を迫られる。与党が提出する法案の多くに、左派連合や極右勢力が反対票を投じることが予想され、通常の立法手続きで法案を成立させるのは困難を極める。

2022年の国民議会選挙で議会の過半数を失った大統領支持会派と同様に、議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法49条3項)を使って法案を通そうとするだろう。

議会が法案成立を阻止するには、24時間以内に内閣不信任案を提出し、過半数がそれを支持する必要がある。内閣不信任案が否決された場合、法案は成立する。

つまり、今後の法案審議のたびに、新政権は内閣不信任投票にさらされることになる。

極右勢力が無条件でバルニエ政権の存続を支持することはない。極右が新政権に突きつける条件のうち、今後の政局展開にとって重要となるのが選挙制度改正だ。

国民議会選挙は任期前解散の場合を除き、5年ごとの大統領選挙の直後に行われ、577の選挙区で、2回投票制の小選挙区制で争われる。初回投票で過半数の支持を集めた候補が勝利し、過半数の支持を得た候補がいない場合、上位2名と有権者の12.5%以上の票を獲得した候補が決選投票に進み、決選投票で最多票を獲得した候補が勝利する。

「選挙制度の壁」を崩したい極右
極右勢力はこれまで選挙制度に阻まれることが多かった。今回の国民議会選挙でも、極右勢力は初回投票で圧倒的にリードしたが、決選投票では左派会派と大統領支持会派が候補者を一本化したことで、多くの議席を落とした。

選挙制度と反極右票の一本化に阻まれて第三勢力に転落した極右勢力だが、決選投票での得票率は37.1%と、左派会派の25.8%、大統領支持会派の24.5%を上回っている。

極右の主張通り、比例代表の要素を盛り込んだ選挙制度改正が実現した場合、次の選挙で極右の政権奪取を阻止するのは従来以上に難しくなる。

むろん、今回の左派会派のように、極右が次の選挙で第一党になったからと言って、単独で過半数の議席を確保しない限り、極右勢力から首相を任命する必要はない。

だが、極右勢力に今以上に多くの議席が配分されれば、単独過半数が難しいにしても、左派会派と大統領支持会派が手を組む以外になくなる。

左派会派が政権入りした場合、極右政権誕生時よりも拡張的な財政運営となる恐れがあり、こちらも金融市場の動揺を誘うことになろう。

また、極右が主張する選挙制度改正が実現しない場合も、次の選挙で極右の台頭を阻止できるかは予断を許さない。最大勢力となりながら政権発足の機会を与えられなかった左派連合が、次回も大統領支持会派との選挙協力に応じるとは限らないためだ。

このように、新たにフランスの舵取りを託されたバルニエ首相はどうにか政権発足にこぎつけたが、議会運営は困難を極め、極右勢力に政権の命運を握られている。

危うい予算成立、確実な来年の解散総選挙
10月1日に再開される国民議会では、法案審議のたびに内閣不信任案にさらされる異例の事態が待ち受ける。政権発足の遅れで議会の審議日程もタイトとなり、脆弱な議会基盤とあいまって、年内の予算成立を危ぶむ声も浮上している。

政治空白の長期化で財政再建の遅れが意識され、金融市場に再び動揺が広がる事態は回避されたが、不安定な政治環境が続くことは避けられない。短命政権に終わり、来年にも議会の解散・総選挙が行われるのはほぼ確実とみられる。

今回の政権がマクロン大統領による院政と受け止められれば、行き場を失った反マクロン票が極右勢力や左派連合にさらに流れる恐れもある。史上最大の選挙イヤーを通過した来年もフランスの政局不安が払拭されることはないだろう。【9月25日 田中理氏 第一生命経済研究所】
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法案審議のたびに、新政権は内閣不信任投票にさらされる、左派と極右が連動すれば不信任案が成立する・・・・これでは少数内閣はもたないでしょう。いずれ極右・レペン氏は“攻め時”と判断した時点で政権を見限り総選挙に誘い込むでしょう。

もう1回選挙をやれば、極右政権への道が開けるのか、現在のような三すくみ状態が続くのか・・・・???

コメント
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