孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  ウクライナ問題でみせるしたたかなモディ外交

2024-09-19 23:04:01 | 南アジア(インド)

(ロシアのウクライナ侵攻開始後初めてキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領(左)と抱擁を交わすインドのモディ首相=23日)【8月23日 北海道新聞】)

【注目されたモディ首相のウクライナ・ロシア仲介外交】
インドはウクライナの問題では、ロシアとウクライナ双方と関係を維持する姿勢をとっています。モディ首相は7月にモスクワを訪問してプーチン大統領と会談、8月にはウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会談・・・ということで。その「仲介外交」が注目されました。

インドのこうした外交姿勢の背景には、武器輸入などロシアとの強いつながり、アメリカにおける「もしトラ」を見据えた動き、そしてライバル中国への意識があると指摘されています。

****インド・モディ首相のウクライナ訪問、なぜ今なのか?その狙いと苦悩****
インドのモディ首相が8月23日にウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。モディ首相は、ゼレンスキー大統領に、友人として平和に協力する用意があることを伝えたようだ。7月にはモスクワを訪問してプーチン大統領に会ったばかり。モディ首相は何の理由があって両国を訪問したのだろうか。

モディ首相のウクライナ訪問が注目されるわけ
まず、なぜモディ首相のウクライナ訪問がそれほど重要なのか。ウクライナは戦時下だが、すでに多くの欧州諸国の首脳が訪問し、アジアからも、インドネシアに続いて、日本の岸田文雄首相も訪問している。その点から言えば、モディ首相が訪問しても、特に新しい側面はない。

ただ、インドがそれを行う場合、他の国とは違う側面がある。なぜなら、インドはロシアと非常に強いつながりがあるからだ。

1970〜90年代、インドは非同盟政策を掲げていたにもかかわらず、実際には、ロシア(ソ連)と正式な同盟関係にあった。

1971年にインドとソ連が結んだ印ソ平和友好協力条約の第9条は、両国が第3国に対して軍事的に協力することが書かれているから、これは同盟関係の定義に該当する。そのため、インドはソ連から大量の武器を輸入するようになり、武器の修理部品や弾薬の供給をめぐって、現在でも、ロシアに大きく依存している。

そのため、2022年2月にロシアがウクライナ侵略を開始したとき、インドはロシアを非難しない姿勢をとってきた。ウクライナのブチャで虐殺が明るみになった時も、インドは国連でその行為を激しく非難したが、「ロシア」という国名を出さないように配慮していた。

そして、日本を含め西側諸国がロシアに経済制裁をかけている最中でも、インドはロシアから原油輸入を増やし、制裁の効果を減殺してしまっていた。

ただ、インドは、相当、苦悩の末に、このような決断に至っていたようである。それがわかるのは、西側諸国にも数多くの配慮をみせてきたからであった。

まず、西側諸国による、対ロシア経済制裁に関して、中国は西側諸国を非難しているが、インドは非難していない。ウクライナに対する人道支援も行っている。

ゼレンスキー大統領に対しても、昨年、広島で行われた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の際に会ったことも含め、対面・電話両方で、繰り返し会談している。そして、モディ首相がプーチン大統領に会った際は、「今は戦争の時代ではない」と直接伝え、戦争に反対であることを明確に示したのである。

このような行動の結果、インドに対して、一つの期待が生まれた。それはインドが、ロシアによるウクライナ侵略において、両方の指導者と直接やり取りできる、仲介者になれるのではないか、という期待である。

だから、モディ首相がモスクワを訪問した次の月にキーウを訪問したことは、注目されるのである。実際にモディ首相は会談でそのような姿勢を示したようだ。

なぜ今、仲介なのか
ただ、ロシアのウクライナ侵略が始まったのは、22年2月で2年半も前だ。それまで仲介がうまくいっていないのに、なぜ今、インドの仲介外交が、注目されるのだろうか。おそらく背景には、米国の大統領選挙がある。

(中略)トランプ前大統領は、繰り返し、ロシアのウクライナ侵略を終わらせ、ロシア対策から中国対策へと、政策をシフトさせることを主張している。しかも「電話一本で終わらせる」とまで豪語している。

そのため、もし仮に11月に選挙で勝利したら、1月の就任を待たず、トランプ大統領がロシアとウクライナの停戦交渉に着手する可能性がある。

そのため、各国とも動き始めている。すでにゼレンスキー大統領はトランプ前大統領と会談しているし、ウクライナの隣国ポーランドの大統領もトランプ前大統領と会談した。

ウクライナの軍事作戦も変わった。ロシアから奪われた領土の奪還だけでなく、一部地域でロシアに積極的に攻め込んでいる。もし停戦交渉が行われるなら、奪い取った領土を交換することも考えられ、11月までにできるだけ交渉カードを得ておきたいからだ。(中略)

こうした行き来で、遠距離では伝え難いメッセージを、直接送ったり、有力人物と会ってコネを作っておくことは、トランプ前大統領が勝利した際の停戦交渉においても、インドが貢献するかもしれないことを意味している。

もし貢献したら、「米国が行う停戦交渉は、実はインドのおかげで成功した」と外交的成果をアピールできる。そのためには、今、先手を打って、動いておかなければならないのである。

ただ、インドの動きには、もう一つ懸念事項がある。中国の動きだ。プーチン大統領だけでなく、ウクライナのクレバ外相も中国を訪問しており、中国による仲介外交にも注目が集まっている。

もし仲介外交で中国が成果を上げれば、中国の影響力はますます高まる。インドは、中国に負けたくないのである。(後略)【8月26日 WEDGE】
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“ウクライナ訪問を終えたインドのモディ首相は、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、対話の重要性を改めて強調しました。モディ氏は、アメリカのバイデン大統領にも和平に向けた支援を伝えるなど、積極的な仲介の姿勢もみせています。”【8月27日 TBS NEWS DIG】

【戦争状態をうまく利用して「漁夫の利」を狙った動きとも】
よく言えば、ロシア・ウクライナ両国との関係を活かした仲介外交とも言えますが、悪く言えば両国の戦争状態をうまく利用してインドの利益を最大とする「漁夫の利」を狙った動きとも。

西側制裁を利用したロシア産原油の“買いたたき”はこれからも続けるようです。

****インド、安価なロシア産原油の購入を継続へ=石油・天然ガス相****
インドのプーリー石油・天然ガス相は17日、安価なロシア産原油の購入を継続する方針を示した。米ヒューストンで開催されたイベントでロイターのインタビューに応じた。

ロシアのウクライナ侵攻に対する西側諸国の制裁により、ロシア産原油の上値は抑えられてきた。
プーリー氏は「制裁対象外であれば、最安値で販売する企業から石油を購入するのは当然だ」とした上で、欧州各国や日本企業もロシア産原油を購入しており、インドだけではないと強調した。(後略)【9月19日 ロイター】
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一方で、インドはウクライナに砲弾を提供しており、ロシアの抗議も無視する構えです。

****インド製弾薬、欧州経由でウクライナへ ロシア抗議でも規制の兆しなし****
欧州企業がインドの軍需企業から購入した砲弾や弾薬がウクライナにわたっていることがインドと欧州の当局者の話で分かった。ロシア政府はインド側に抗議したが、インド政府は取引停止の措置を取っていないという。

インドの武器輸出規制は、武器の使用を申告した購入者に限定し、無許可の転売などがあれば取引停止にすると定める。インド外務省報道官は1月の記者会見で、インドはウクライナに砲弾を供給・販売はしていないと述べた。

当局筋によると、ウクライナに供給されているインド製砲弾薬は、国有軍需企業ヤントラなどが製造したもの。取引は1年余り前から行われており、税関の記録によるとイタリア、チェコなどからウクライナに輸出されている。

元ヤントラ幹部は非上場のイタリア防衛企業MESが同社の最大の海外顧客だと述べた。MESは、ヤントラから中身が空の砲弾を購入し、爆発物を詰めてウクライナに輸出しているという。

ロシアは事態を深刻視し、7月の外相会談を含め少なくとも2回、インド側に対応を求めた。インド当局者によると、政府は状況を監視しているが、欧州向け輸出を制限する措置は取っていないという。

関係者は、ウクライナが使用する砲弾薬でインド製が占める割合はごくわずかと指摘。ロシアによる侵攻開始後にウクライナが輸入した武器全体の1%以下と推定されている。

キングス・カレッジ・ロンドンの南アジア安全保障の専門家、ウォルター・ラドウィグ氏は、比較的少量の弾薬の移転はインド政府にとって地政学的に有益とみる。インドはロシア・ウクライナ戦争について、「ロシアの味方」ではないことを西側にアピールできると指摘した。またロシアはインドの決定に対してほとんど影響力を持たないと述べた。【9月19日 ロイター】
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“インド側には、長期化するウクライナ侵攻を軍需産業の好機と捉える見方があるとしている。”【9月19日 共同】とも。

比較的少量の弾薬をウクライナへ輸出することで、ロシアと決定的に対立することなく、「ロシアの味方」ではないことを西側にアピール・・・なかなか“うまい”と言うか、したたかな戦略です。

ただ、こうした“どっちつかず”で“漁夫の利”を狙う動きは、どっちからも本当には信頼されないということもありますので、注意が必要です。

いずれにしても、いんどのある意味“身勝手”の行動に対し、ウクライナ・ロシアだけでなく、中国を意識するアメリカもインドをつなぎとめて起きたい思いから、あまり強くは出られない・・・といったところです。

コメント
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