孤帆の遠影碧空に尽き

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少子化  子育て支援策の手本とされてきたフィンランドで進む少子化が示す問題

2024-09-22 23:00:52 | 人口問題

(【2月20日 荒川和久氏 YAHOO!ニュース】)

【子育て支援策の手本とされてきたフィンランドで進む少子化】
今更ではありますが、日本が抱える最大の課題は少子化・人口減少でしょう。

日本の少子化対策の手本とされていたのが北欧フィンランド。2010年頃、日本の合計特殊出生率が1.3~1.4だったのに対し、フィンランドは1.8~1.9の高い数値を示していました。

しかし、その後フィンランドの出生率が急減し、近年では1.26と日本と同レベルとなっています。

****子育てしやすい国、フィンランドで出生率の低下? 要因は「将来への不安」「価値観の変化」 “少子化”どう向き合うか****
「子育てがしやすい国」として知られる、フィンランド。子どもを迎える家族に国から贈られる育児用品などが詰まった「育児パッケージ」や、保健師や助産師が出産前から出産後まで切れ目のない支援を行う「ネウボラ」など、日本の一部自治体で取り入れられている制度も少なくない。

しかし、近年出生率の低下が続いている。北欧各国の出生率は、2010年ごろまで高い水準を維持していたが、近年は各国で低下傾向に。特にフィンランドは1.26と、日本に近い水準にまで低下している。

主な原因について、東洋大学の藪長千乃(やぶなが ちの)教授は「2008年の金融危機に一つは原因があり、経済状況が出生率に影響を与えている部分は否めないだろうと言われている」と説明。

別の要因として考えられているのが「価値観の変化」だといい、「研究の中で、子どもを持つことに対する“新しい文化”が生まれているのではないかと指摘されている。子どもを持つことを絶対ではないのか、子どもを持たないことを肯定する文化が生まれている」と述べた。

必ずしも自分が産んだ子どもでなくてもいいという考え方も広まっており、国際養子縁組で子どもを迎えるカップルもよく見られるという。

出生率低下の改善策はあるのか。藪長教授は「出生率を上げるために何かを変えていくことは、個人の生き方やライフスタイルに政府が介入することになってしまうので、それはできるだけ避ける。個人の意思選択、これが最大限に尊重される社会ではないか」と答えた。

一方で、自ら子どもを持ちたい人を支援するため、育休制度の改正などが進められている。個人の選択を最大限に尊重しながら出生率の低下に対応する難しいかじ取りを迫られているフィンランド。

藪長教授は「出生率を無理に上げることが適切ではないのであれば、人材を他に確保しようと高齢者、特に前期の高齢者たちの能力や労働力として活用する。アクティブエイジング(活動的な高齢化)や、移民を受け入れる方向に転換している」と話す。

こうしたフィンランドの現状や取り組みから、日本はどんなことが学べるのか。「日本はできることがたくさんある。おそらく一番重要なのは労働文化じゃないか。無理なく定時に帰れるような社会が育成できれば変わっていくと思う」との見方を示した。

日本でもフィンランドでも「将来への不安」が子どもを持つことを諦める一因になっていることに、藪長教授は「若者自身がこれから順調に生活を維持していける、そして家族を養うことが可能だと女性も男性も思えるように、そういった将来展望を持てる社会にしていくことが、とても重要なのではないかと思う」と述べた。【9月22日 ABEMA Times】
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【子育て支援では出生数の増加にはつながらない】
このフィンランドの数字が示す事実は、いわゆる子育て支援策(保育所の受け入れ枠拡大、男性の育児休暇取得促進など)の限界です。(意味がないという話ではなく、子供を持とうとする者への助けにはなりますが、それだけでは大きな流れを転換させることはできないということです)

****「フィンランドの出生率1.26へ激減」子育て支援では子どもは生まれなくなった大きな潮目の変化****
子育て支援では出生数の増加にはつながらない。
この話は、もちろん私の感想ではなく、当連載でも何度もお話している通り、統計上の事実であるわけだが、この話は特に政治家にとっては「聞いてはいけない話」なのか、まったく取り上げようとしない。

これも何度も言っているが、子育て支援を否定したいのではない。子育て支援は、少子化だろうとなかろうとやるべきことだが、これを充実化させても新たな出生増にはならないのである。

日本における事実は、2007年少子化担当大臣創設以降、家族関係政府支出のGDP比は右肩上がりに増えているが、予算を増やしているにもかかわらず出生数は逆に激減し続けていることはご存じの通りである。2007年と2019年を対比すれば、この政府支出GDP比は1.5倍に増えたのに、出生数は21%減である。(中略)

家族関係政府支出を増やしても出生数には寄与しないことは韓国でも同様である。

北欧を見習え?
そうすると、「見習うべきは子育て支援が充実している北欧である」という声が出てくるわけだが、その北欧の一角であるフィンランドの出生率が激減している現状をご存じなのだろうか?

フィンランドの合計特殊出生率は、2023年の速報統計で1.26になったという発表があった。過去最低と大騒ぎになった日本の2022年の出生率と同等である。

フィンランドの出生率の推移を見ると、特にここ最近の2010年以降で急降下していることがわかる。
コロナ渦中の2021年だけ異常値が発生しているが(これは欧州全体で発生した)、フィンランドと日本はほぼ同等レベルになったといっていい。むしろ、2018-19年には2年続けてフィンランドの出生率は日本より下だったこともある。

フィンランドには、子どもの成長・発達の支援および家族の心身の健康サポートを行う「ネウボラ」という制度があることで有名である。保育園にも待機することなく無償で通える。また、児童手当および就学前教育等が提供される「幼児教育とケア(ECEC)」制度が展開されるなど、子育て支援は充実していると言われている。

が、そうした最高レベルの子育て支援が用意されていたとしても、それだけでは出生数の増加にならないばかりか、出生数の減少に拍車をかけることになる。

家族支援政策の限界
フィンランドの家族連盟人口研究所のアンナ・ロトキルヒ氏は「フィンランドの家族支援政策は子を持つ家族には効果があったのかもしれないものの、本来の目的である出生率の上昇には結びついていない」と述べており、これは正しい事実認識であるとともに、日本においても同じことが言える。

フィンランドでこれだけ出生率が急降下しているのは、特に20代女性の出生数が激減しているからである。
フィンランド統計より、2010年と2022年の各年代の出生数を比較すると、20-24歳で58%減、25-29歳で43%減である。間違いなく20代の出生が減っていることが全体の出生率を下げていることになる。

20代の出生減とは、言い換えれば20代で第一子が生まれてこない問題と同じである。第一子が産まれなければ第二子も第三子もない。そして、20代とはいわないが、若いうちに出産をしないまま過ごすと、出産が後ろ倒しになるのではなく、「もう子どもを産まなくてもいい」と結果的に無子化になる。

日本の女性の生涯無子率は世界一の27%だが、フィンランドも20%超えである。そして、この20代出生数の減少は日本も韓国も台湾もまったく一緒だ。

逆にいえば、下がっているとはいえかろうじて出生率をそこまで激減させていないフランスは20代の出生数がまだまだ多いからだ。

ジェンダー平等や育休で出生数は増えない
日本の出生率があがらないのは「ジェンダーギャップ指数が125位だから」「男性の育休が進まないから」などという声もあるが、ジェンダーギャップ指数でいえばフィンランドは2023年調査で世界3位である。男性の家事育児参加や育休取得レベルも北欧はいつも日本との比較で出されるくらい多い。それでも出生は減るのである。

ジェンダー平等にしろ、男性の育休にしろ、子育て支援の充実にしろ、それ単体としては進めればよいと思うが、それらを改善すれば出生があがるなんて因果はどこにもないし、別立てで考えるべきである。むしろ、それらを一緒くたにまとめて因果推論をすることが問題の本質をわかりにくくしているのである。

どこにも通用する普遍的な「少子化解決の魔法の処方箋」などあるわけがないが、起きている現象には先進諸国共通のものがある。

ひとつは、ゼロ年代までは通用した家族支援は効果を生まなくなっていること。もうひとつは、「子どもがコスト化し、裕福でなければ、そもそもパートナーも子どもも、そうしようとする意欲すら持てなくなっている」ということである。

そろそろこの問題に向き合わなければならないだろう。日本だけではなく。【2月20日 荒川和久氏 YAHOO!ニュース】
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【経済・雇用環境の改善が少子化に歯止めをかけるために重要】
各国に共通する少子化の原因の一つは子育てが高コスト化する一方で、若い子育て層の経済状況が悪化していることでしょう。

*****「子育て先進国」フィンランドの出生率が急低下のワケ*****
欧州の子育て先進国も政策効果の一巡後は出生率低下に直面している。持続的な向上には、良好な経済・雇用環境も欠かせない。(中略)

政府は、10年代に保育所の受け入れ枠を拡大し、待機児童はおおむね解消した。その後も男性に育児休暇取得を促すなど、子育て支援や少子化対策に注力してきたが、少子化に歯止めはかかっていない。政府は、「こども未来戦略」を策定して児童手当の拡充や保育環境の充実などを図る予定であるが、それらが少子化反転につながるかどうかは予断を許さない。(中略)

大幅低下のフィンランド
欧州には、先進的な少子化対策を導入し、高い合計特殊出生率(TFR)を実現してきた国が少なくない。しかし、少子化対策のモデルとされてきたフランスや北欧諸国で、近年TFRが低下している。一方、少子化対策に後れを取り、以前はTFRが低かった国の中には上昇に転じた国もある。(中略)

少子化対策先進国において、特段政策メニューが変化したわけではないにもかかわらずTFRが低下傾向にある一因に、政策による効用が限界的に逓減していることがある。優れた少子化対策も、それがスタンダードとなった後では、目新しさがなくなり、再び少子化が顕在化したとみられる。

逆にドイツなど、10年にTFRが低かった国の一部には、上昇傾向がみられた国もある。少子化対策に後れを取った国の一部で、先進国で成果が上がったと目される政策を後追いで導入したことが奏功していると考えられる。(中略)

独は賃金・雇用改善に連動
00年以降横ばいであったドイツのTFRは、10年以降は明確に上昇トレンドとなった。ドイツは、10年をはさむリーマン・ショックから欧州債務危機に至る時期の経済・雇用環境が、欧州諸国の中で最も良好に推移した国である。とりわけ失業率の改善は明らかで、その効果は実質賃金に明確に表れている。

ドイツの実質賃金は、10年までの横ばいから一転上昇傾向となった。子育ての中心的な若い世代の経済・雇用環境が急速に改善したことが、TFRの押し上げに寄与したと考えられる。

ドイツにおける経済・雇用環境の好転は、ドイツ人のTFR押し上げに寄与したほか、移民の増加を通じて出生数増ももたらした。1990年代後半に移民容認政策にかじを切ったドイツでは、その後外国籍の親から生まれる子どもが増えた。(中略)

なお、ドイツへの移民といえば難民が注目されがちだが、10年以降の移民の半数以上はEU(欧州連合)内の他国から流入したものである。

しかし、ドイツのTFRが低下に転じた17年と時を同じくして、外国人のTFRが低下に転じた。その背景には、経済要因のほか、10年代中ごろからの移民に対する排斥の動きが広がった影響があるとみられる。

シリアからの難民が急拡大した15年ごろからドイツ国内で移民排斥の動きが顕著となり、そうした社会情勢も、外国人のTFR急低下の一因となったと考えられる。

フィンランドの少子化は、首都ヘルシンキへの人口の集中など、多様な要因が指摘されるが、最も大きな影響を及ぼしたのは、経済・雇用環境の悪化である。ドイツとは正反対に、リーマン・ショック以降失業率は高止まりし、00年代に着実に上昇していた実質賃金も横ばいに転じた。

欧州の少子化対策先進国においても、近年TFRの低下が顕著であるように、保育所の充実など、従来の対策を続けているだけでは、TFRの低下圧力に抗しきれなくなる。保育所整備や男性育休推進などの子育て環境整備を生かすのも、良好な経済・雇用環境あってこそだ。

日本では、春闘において大幅賃上げが実現したものの、実質賃金がプラスとなるにはもうしばらくの時間を要するとみる専門家が多い。

若い世代が将来に向けて豊かになっていくという実感を持つことが、少子化に歯止めをかけるために最も重要な処方箋である。企業や業界団体には、今後さらなる賃上げや処遇改善などに取り組むことが望まれる。【5月16日 藤波匠氏 週刊エコノミストOnline】
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【子供をあまり希望しないという価値観の変化を前提にした政治・経済・社会の仕組み】
少子化が止まらないもうひとつの根本的な問題は、そもそも子供を持ちたいという希望自体が低下していることです。

****フィンランドで理想子ども数ゼロの人が急増:出生率低下の原因か****
(中略)
フィンランドの出生率は急減しており、日本と同じレベルの出生率になっている。その大きな要因は、子どものいない人口(無子)の増加と言われている。

新しい研究によって、まだ子どもがいない男女ともに2割以上の人が理想子ども数を0人と答えている、と報告した。つまり、フィンランドの出生率の減少は、意図して子どもを産まない人の増加が関係していそう。

日本でも同様に、理想子ども数を0人と答える人は増加しているものの、まだ8%と少ない。他国と比べても高い無子割合は、意図したものではなさそう。【2023年9月4日 茂木良平氏 note】
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「子どもを持つことを絶対ではないのか、子どもを持たないことを肯定する文化が生まれている」という「価値観の変化」には子育て支援策はほとんど効果を持ちません。

「夫婦は子供を産むのが当然だ」という伝統的価値観に沿って、産みたくないという国民を政策的に出産へ誘導するのは、、個人の生き方やライフスタイルに政府が介入することにもなります。

であれば、子育て支援策などで一定に緩和はできるものの、基本的に少子化は避けられないという前提にたって、少子化であっても経済・社会が回るような仕組みに政治・経済・社会を適応させていく努力が必要でしょう。

それは、非嫡出子の扱い、同性婚の養子、移民の問題など伝統的価値観とは衝突するところが大きいでしょうが、避けて通ることはできないのではないでしょうか。
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