
(2024年5月に撮影された衛星写真で、リアム海軍基地に中国のコルベット艦2隻が停泊している様子が確認できる【9月18日 毎日】)
【スリランカ 中印の「冷戦」状態のハンバントタ港】
中国の「一帯一路」を議論する際に、“債務の罠”の代表事例として必ず言及されるのがスリランカのハンバントタ港です。
債務返済できなくなったスリランカ政府が2017年に運営権を中国に事実上譲渡したハンバントタ港の現況がどうなっているのかを示したのが下記記事。
中国と、中国に対抗するインドの間で“相互監視”状態にあるようです。インドは港に近いマッタラ・ラジャパクサ国際空港の運営権を獲得するようで、ハンバントタ港の中国による軍事利用を牽制する効果があるとか。
同空港運営にはロシアも参加するとのことで、スリランカからすれば、ロシアも含めることで中印の対立が先鋭化するのを抑制したい狙いのようです。
****「債務の罠」で押さえらえたハンバントタ港 中印が相互で監視、「冷戦」状態****
スリランカのほぼ南端に位置するハンバントタ港は、同国が中国からの借金で整備したものの返済が滞り、運営権を中国に事実上譲渡した「債務の罠(わな)」の典型例といわれる。
中国と間で領土問題を抱えるインドが、同港が中国に軍事利用されるのではないかと懸念を募らせる中、現地では中印間の「冷戦」が起きていた。
現在のハンバントタ港は厳重に警備され、許可なく立ち入ることができない。最近までの状況を知るスリランカ政府元職員によると、港にはインドの油田探査船が2年以上も停泊し、乗組員の中にインド海軍の元軍人がいた。
「次に向かう運航先の指示を待っている」と語っていた元軍人については、インド政府が同港の状況を監視するために送り込んだのではないかと疑われていたという。
セメント船を清掃する人たちを乗せたインド船も停泊していて、同国の対外諜報機関、調査分析局(RAW)の一員が混じっていたとされる。
ハンバントタ港をめぐっては、債務返済に窮したスリランカ政府が2017年、99年間にわたって中国側が運営権を所有する契約を交わした。
同港の管理会社は中国企業とスリランカ港湾局の合弁となっている。ただ、管理会社は主要な管理職を中国人が占め、監視カメラや無人機(ドローン)を駆使するなどして港の警戒にあたっているという。元職員は「管理職の中に中国人民解放軍がいたことは100%間違いない」と断言した。
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スリランカはアジアと中東・アフリカの中間に位置するシーレーン上の戦略的要衝といわれ、ハンバントタ港では燃料や物資の補給を行う船舶の往来が絶えない。
同港の運営権が中国側に渡ったことで神経をとがらせているのが、スリランカとポーク海峡をはさんで10キロほどしか離れていないインドだ。
中国の調査船が約2年前に入港した際、インドは「スパイ船だ」と反発した。その後、スリランカは来年1月までの1年間、外国調査船の活動を認めない措置を取った。
中国はスリランカに対し、調査船活動の再開を含む同港の有効利用に向けて圧力をかけているとみられる。港が中国の管理下で軍事利用されると、インドは安全保障上の脅威となる。
このため、インドも独自に港を監視する体制を取っている可能性がある。
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ハンバントタ港近くには、米フォーブス誌に「世界で最も空いている空港」と揶揄(やゆ)されたマッタラ・ラジャパクサ国際空港がある。
「旅客便が最近到着したのが5月11日」(空港関係者)という空港は、この地が故郷のラジャパクサ元大統領が中国から巨額の資金を得て建設した。
同空港についても、中国に運営権が渡るのではとの見方もあったが、スリランカはインドとロシアの合弁企業に運営を委ねることを決めている。インド側企業関係者は20日、運営権移譲は「今月中だろう」と明らかにした。
中国ではなく、印露に委ねる理由について、印シンクタンク、統合サービス研究所は「海外に海軍基地をつくるには、航空機による海上監視能力が必要だ」との専門家の見方を紹介。空港の運営権を得ることでインド側は「港の利用方法をかなりコントロールできる」と分析している。
スリランカは、ロシアを関与させて中印の緊張の緩和を図ろうと腐心しているといえそうだ。
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スリランカでは21日、大統領選が投開票され、次期政権下でインド太平洋地域の安全保障環境に変化があるかどうかが注目されている。
現地情勢に詳しいインド紙デカン・ヘラルドのETB・シバプリヤン副編集長はこう指摘する。
現職のウィクラマシンハ大統領か野党、統一人民戦線(SJB)のプレマダサ党首が勝てば「スリランカとインド、西側諸国との最良の関係は続く」。野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首が勝利すれば「JVPはインドや米国と良好な関係を築いたことがなく、状況が劇的に変わる可能性はある」。
また、印シンクタンク、オブザーバー研究財団のアディティア・ゴウダラ・シバムルティ近隣国準研究員は「経済危機により、スリランカは中国、インド、日本、米国に同様に依存している。今後もこれらの国々とのバランスを取らざるを得ない。安全保障環境が変わることはほとんどないだろう」と予測している。【9月21日 産経】
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その大統領選挙は今日投票が行われ、先ほどから開票が始まっています。事前の世論調査では野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首がリードしています。
****スリランカ大統領選挙 きょう投票 日本主導の債務再編に影響も****
深刻な経済危機の影響で、2022年、事実上のデフォルト=債務不履行に陥ったスリランカで21日、大統領選挙の投票が行われます。
経済の立て直しに向け、現政権が推し進めてきた緊縮政策に対しては、国民の反発も強く、選挙の結果次第では、日本が主導してきた債務再編にも影響が及ぶ可能性があります。
インド洋の島国スリランカは、前の政権による財政政策の失敗や、新型コロナの影響などでおととし深刻な外貨不足に陥り、急激な通貨安やインフレに見舞われました。
21日投票が行われる大統領選挙には▼現職の大統領のウィクラマシンハ氏、▼野党「統一人民戦線」の党首プレマダーサ氏、▼野党の左派勢力「国民の力」を率いるディサナヤケ氏の事実上3人で争われる構図となっています。
21日投票が行われる大統領選挙には▼現職の大統領のウィクラマシンハ氏、▼野党「統一人民戦線」の党首プレマダーサ氏、▼野党の左派勢力「国民の力」を率いるディサナヤケ氏の事実上3人で争われる構図となっています。
このうち、経済危機後に大統領に就任したウィクラマシンハ氏は、IMF=国際通貨基金から4年間でおよそ30億ドルの金融支援を取り付けた上で増税や国有企業の改革などに取り組み、経済の立て直しに道筋をつけたとして実績を訴えています。
一方で、こうした緊縮政策に対して国民からの反発は強く、野党の2人の候補者は見直しを訴えて支持の拡大を図っています。
一方で、こうした緊縮政策に対して国民からの反発は強く、野党の2人の候補者は見直しを訴えて支持の拡大を図っています。
現地の研究機関が今週公表した最新の世論調査では▼ディサナヤケ氏が48%と支持を伸ばす一方、▼プレマダーサ氏は25%、▼ウィクラマシンハ氏は20%と伸び悩んでいて、選挙の結果次第では、日本が主導してきた債務再編にも影響が及ぶ可能性があります。
投票は日本時間の午後7時半に締め切られたあと、開票される予定です。【9月21日 NHK】
投票は日本時間の午後7時半に締め切られたあと、開票される予定です。【9月21日 NHK】
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日本なら出口調査ですぐにおおよその結果がわかるのですが、スリランカですので、この記事のアップ時点ではまだ傾向は判明していません。
【カンボジア リアム海軍基地の中国側の動向に神経を尖らせるアメリカ】
中国の軍事拠点化ということでは、もう1箇所注目されるのが中国と緊密な関係にあるカンボジアのリアム海軍基地。
****中国艦船、新たに2隻入港 カンボジア基地、拠点化か****
中国の支援を受けて拡張工事が進むカンボジア南西部のリアム海軍基地で、昨年12月ごろから寄港していた中国海軍の艦船が帰国し、別の中国艦2隻が新たに入港したことが27日、複数のカンボジア軍関係者への取材で分かった。中国軍の海外拠点化に向けた新たな布石とみられ、今後の動向が注目される。
カンボジア軍関係者らによると、中国艦はローテーションを組んでリアム海軍基地への停泊を一定期間続ける予定だ。中国の影響力拡大に米国は懸念を強めている。
カンボジアと中国は5月30日までの合同軍事演習で初めて海上演習を実施した。【6月27日 共同】
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上記中国艦船はコルベット艦(フリゲート艦より小さい規模の航洋艦)とのこと。
そしてカンボジア国防省は9月上旬、中国から艦船2隻の供与を受けると明らかにしています。
カンボジアが艦船を欲しがるのは、隣国タイとの国境問題などがあるためのようです。
中国によるリアム海軍基地の軍事拠点化については、アメリカが神経を尖らせています。
****中国のカンボジア「軍事拠点化」を懸念 艦船供与「見返り」で 米国****
カンボジアと中国の軍事協力が深化している。カンボジア国防省は9月上旬、中国から艦船2隻の供与を受けると明らかにした。
中国の支援で拡張工事が進む南西部のリアム海軍基地には、昨年末から中国海軍の艦船が停泊を続けているとされる。米国などは支援の「見返り」として、中国の海外拠点化が進むことを警戒する。
英字紙クメール・タイムズによると、供与はカンボジアの要請に基づくもので、新造のコルベット艦2隻が早ければ来年にも引き渡される。隣国タイとの国境問題がくすぶるカンボジアにとって、沿岸警備のためにも軍備の増強が課題だった。
リアム海軍基地の拡張工事も近代化の一環で、中国の支援を受けて2022年に着工した。基地は南シナ海に近いタイ湾に面し、マラッカ海峡からインド洋につながる要衝にあることから、これまでも臆測を呼んできた。
19年には米メディアがカンボジアと中国の間で独占使用の合意があると報じ、当時首相だったフン・セン氏が「憲法は自国内に外国の基地を設けることを認めていない」と強く否定する一幕があった。
ところが、今年4月に米戦略国際問題研究所の「アジア海洋透明性イニシアチブ」が、中国海軍の艦船2隻が23年12月から基地に停泊していることを衛星写真の分析で確認したと発表。
6月には米国のオースティン国防長官がプノンペンを訪問し、フン・マネット首相や国防相らと会談した。停泊理由を訓練のためと説明するカンボジア側にくぎを刺したとみられる。
カンボジアは国際空港や高速道路などのインフラ整備を中国からの投資や援助に頼り、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも特に中国寄りとされる。中国が領有権を主張する南シナ海問題でも、当事国のフィリピンやベトナムなどから距離を置いてきた。
中国との軍事協力について、王立プノンペン大東南アジア研究センターのチャイ・リム客員研究員は「カンボジアが軍備の近代化を進めるには他国の支援が欠かせない。だが、人権状況を問題視する米国の支援は期待できず(内政不干渉の)中国に頼らざるをえない状況だ」と解説する。
一方で、フン・マネット氏は昨年8月の就任後、父親のフン・セン氏から引き継いだ親中路線を維持しながら、西側諸国との関係強化に取り組む。
欧米で教育を受けた経歴を強みに欧州や日本などの首脳らと会談を重ね、経済や安全保障分野での協力を協議してきた。
政敵の弾圧といった人権問題を脇に置いて外交関係を広げたいカンボジアが譲歩を引き出せるのか、基地の工事完了後に中国以外の国の艦船の寄港を許可するのかが焦点になりそうだ。【9月18日 毎日】
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フン・マネット首相が、父親のフン・セン氏から引き継いだ親中路線を維持しながら、西側諸国との関係強化に取り組む・・・・そうした西側との関係強化の事例に関するニュースはまだ目にしていませんが、中国との更なる関係強化に関するものなら・・・。
****カンボジアに「習近平大通り」 経済・安保、取り込み加速****
カンボジアのフン・マネット首相は28日、首都プノンペンや近郊を通る主要道路を中国の習近平国家主席の名前を冠し「習近平大通り」と命名すると表明した。
中国は国際的な影響力を強化するため経済支援で途上国の取り込みを加速し、カンボジアとは外交・安全保障を含む、あらゆる分野で関係が緊密化している。
中国国営通信新華社は29日、カンボジアの発展に対する習氏の「歴史的貢献」が感謝されたと報じた。
カンボジアメディアによると、習近平大通りは全長約50キロ。首都から地方都市に延びる複数の国道をつなぐ重要な道路で、中国企業が建設工事を請け負った。【5月29日 共同】
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