(2019年7月9日未明、停戦に向けた意見交換を終え、手を取り合ったアフガニスタンの政治家(左から2人目)やタリバーン幹部(右)ら【2019年7月11日】 今回もこういう光景がアフガニスタン政府とタリバンの間で見られるのでしょうか?)
【タリバン内最強硬派も同意した「7日間の暴力削減」期間がスタート】
新型肺炎関連ニュース一色のなかで、国内大手メディアが報じている以上の情報はありませんが、長く続いた戦闘状態における「一つの節目」であることは間違いないでしょうし、これまでもさんざん取り上げてきた案件ですから、スルーするのもいかがなものか・・・ということで、アフガニスタンの和平合意の話。
****米とタリバン、29日に和平合意調印 暴力削減期間の終了後に****
米国とアフガニスタンの反政府勢力タリバンは、「7日間の暴力削減」期間が終了する29日に和平合意に調印する方針。双方が21日、明らかにした。
和平合意が実現すれば、2001年に米国主導の多国籍軍がタリバン政権を崩壊させて以降続いている米軍のアフガン駐留終了につながる可能性がある。
暴力削減期間は22日午前0時に開始。タリバン指導部が出した書面では、全戦闘員に対し防衛態勢を維持するほか、アフガン政府や国際部隊が警らに当たる地域に出ないよう指示した。
またタリバンの広報担当は戦闘員や司令官に対し、和平合意を調印した後の展開については、後日通知するとした。【6月22日 ロイター】
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タリバン内部には停戦を良しとしない勢力もありますので、「7日間の暴力削減」期間が無風という訳にもいかないようです。
****初日、小規模な戦闘も=米タリバンの「暴力削減」―アフガン****
アフガニスタンでは22日、政府軍と、政府の後ろ盾の米国などの駐留国際部隊、反政府勢力タリバンによる実質的な停戦に当たる7日間の「暴力の削減」が始まった。
都市部では市民が安心した様子を見せる中、一部地域ではタリバン兵によるとみられる攻撃が発生。米国とタリバンとの間で29日にも調印が見込まれる和平合意への影響が懸念される。
AFP通信が地元当局者の話として伝えたところによると、北部バルフ州でタリバン兵が行政庁舎を襲い、2人が死亡。他にも小規模な戦闘があったもようだ。
ただ、いずれもタリバンは戦闘を認める声明を出していない。タリバンは暴力の削減に同意したが、地方司令官や兵士の一部が指示に従わない恐れが指摘されていた。
一方、首都カブールでは武力行使の停止に対し、市民が喜びの声を上げた。タクシー運転手のハビーブッラーさんはAFPに「爆発や自爆テロで殺される恐れなく外出できる朝は初めてだ。ずっと続くよう願っている」と語った。【2月22日 時事】
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この“7日間の「暴力の削減」”の意味合いについては、“タリバンの指導者の一人はロイター通信に対し、暴力削減は「停戦ではない」と強調し、自衛のための武力行使は排除しない考えを示した。”【2月21日 産経】とも。
ただ、タリバン内の最強硬グループ「ハッカニ・ネットワーク」を率いるシラジュディン・ハッカニ指導者が20日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)に寄稿し、「米国との協定に署名しようとしている。全条項の順守に全力を尽くす」と明言。和平の成立に強い意欲を示していますので、概ね「暴力の削減」が維持されるのでは・・・と期待もされています。
****和平合意に賛同姿勢=タリバン強硬派幹部―米紙に寄稿****
アフガニスタンの反政府勢力タリバンの強硬派指導者シラジュディン・ハッカニ師は、20日の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)への寄稿で、米国と和平合意に調印すれば「全条項を完全に履行すると約束する」と明言し、賛同する姿勢を見せた。
タリバンと米国は「7日間の暴力削減」が実行されれば、今月末にも和平案に調印する。「暴力削減」をめぐっては、タリバン主流派が強硬派を抑えられるかが焦点となっているが、ハッカニ師は寄稿で「アフガン人は間もなく、この歴史的合意を祝うだろう」と述べた。
米国が「最も危険な武装勢力」と称する強硬派「ハッカニ・ネットワーク」指導者のハッカニ師の発言は、和平プロセスの前進に向け大きな意味を持ちそうだ。【2月20日 時事】
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【和平合意で米軍は「名誉ある撤退」ができるのでしょうが、その後のアフガニスタンは?】
これで「7日間の暴力削減」期間が概ね無事にすぎれば、29日には和平合意調印ということで、トランプ大統領が望む米軍撤退はその実現に向けて動き出します。
背景には、例によってトランプ大統領の再選戦略があります。
****トランプ氏、最長の戦争終結急ぐ アフガン、米大統領選控え****
トランプ米大統領は、アフガニスタンで22日に始まった反政府勢力タリバンとの事実上の停戦を成功させて和平合意を締結し、2001年から続く「米史上最長の戦争」の終結を急ぐ方針だ。米国内で厭戦気分が広がる中、11月の大統領選を控え、公約に掲げる海外駐留米軍の大幅削減を実現し、外交成果とアピールする狙いがある。
トランプ氏は今月4日の一般教書演説で「米国は他国の警察ではない。米国史上、最も長期間にわたった戦争を終わらせ、部隊を撤収させるために努力している」と意欲を示していた。【2月22日 共同】
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トランプ大統領・アメリカにとっては「名誉ある撤退」ができれば、それでいいのでしょうが、その後アフガニスタンはどうなるのか?
今回の和平合意に向けた動きは、米軍撤退にとっては「重要な前進」でしょうが、アフガニスタンにとってどういう意味をもつものなのか?ということを考えると、なんだかもやもやしたものがあります。
そのあたりが、今回話題を取り上げるにあたって、「スルーするのもなんだし・・・」といった、あまり気が乗らない所以でもあります。
大体、話はタリバンとアメリカの直接交渉で進んでいますが、当事者であるアフガニスタン政府の立ち位置が見えません。
タリバンは、アメリカの傀儡にすぎないアフガニスタン政府など相手にしないというスタンスです。
29日の和平合意で米軍が撤退の方向で動けば、どうしてもその後のアフガニスタンをどうするのかということで、タリバンとアフガニスタン政府の間での合意が必要になりますが、そこはどうなっているのでしょうか?
****アフガン和平高まる機運 米タリバン、暴力行為停止で合意 「完全な履行」が焦点****
アフガニスタンで米国とイスラム原理主義勢力タリバンが7日間の暴力行為停止で合意し、和平実現に向けた機運が高まりつつある。ただ、タリバンが暴力の停止を徹底できるかなど乗り越えるべき課題は多い。2001年から続く“米国史上最長の戦争”に終止符が打たれるかはまだ不透明な情勢だ。
「私は慎重ながらも楽観的だ」
米国のアフガン和平担当特別代表のハリルザド氏は17日、訪問先のパキスタンで、暴力行為の停止は和平実現への大きな足掛かりになるとの見方を示した。
(中略)和平合意後、10日以内にタリバンとアフガン政府が将来的な国内の統治を話し合う「アフガン人同士の対話」も始まるもようだ。
(中略)最大の焦点はタリバンが暴力を確実に停止できるかだ。
(中略)タリバンとアフガン政府の対話が実現しても歩み寄れるかはさらに見通せない。旧支配勢力であるタリバンはアフガンの支配者を自任し、現政府の正統性を認めていないためだ。
トランプ政権とタリバンは昨年9月、和平の大筋合意を目前にしていたとされる。しかし、タリバンは首都カブールで米兵を殺害する爆弾テロを実行し、反発したトランプ大統領が協議の中止を表明した。【2月20日 産経】
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アフガニスタンの将来・平和にとって「アフガン人同士の対話」、これが一番重要ですが、そこが見えません。
【「二重権力」状態も危惧されるアフガニスタン政府の混迷 タリバンと交渉する能力は疑問】
一方、肝心のアフガニスタン政府が大統領選挙を巡って「予想どおり」紛糾・混乱しているのは周知のところ。
****現職ガニ氏の再選確定=政局混乱必至―アフガン大統領選****
アフガニスタンの選管は18日、大統領選(昨年9月28日実施)の最終結果として、現職のガニ大統領の再選が確定したと発表した。ガニ氏に対抗し出馬した次点候補で現政権ナンバー2のアブドラ行政長官の陣営が結果受け入れを拒んでおり、今後の政局の混乱は必至だ。
アフガンをめぐっては、反政府勢力タリバンが、アフガン政府の後ろ盾の米国と停戦を視野に入れた和平協議を行っている。タリバンが米国と停戦すれば、タリバンとアフガン政府の和平交渉が開始される可能性があるが、政府内が混乱していれば交渉に支障を来しかねない。
選管が発表した最終結果によると、ガニ氏は50.64%を得票し、当選に必要な過半数票を確保。アブドラ氏は39.52%だった。ガニ氏は「この勝利を国民にささげる。和平プロセスを前進させる」と演説した。アブドラ陣営幹部は「発表された結果に正当性はない」と批判した。
選管は昨年12月22日、ガニ氏が50.64%を得票したとの暫定結果を公表。当局がアブドラ氏らの陣営からの6000件を超える不服申し立てを審査していた。【2月19日 時事】
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****アフガン次点候補が政府樹立宣言 「二重権力」、和平に影響も****
アフガニスタンの大統領選でガニ大統領の再選が決まったことを受け、次点だった政権ナンバー2のアブドラ行政長官は18日の演説で「勝者はわれわれだ」と反発し、自らの政府を樹立すると宣言した。双方が政治的に妥協できず混乱が続けば「二重権力」状態に陥り、反政府武装勢力タリバンとの和平プロセスに影響する恐れもある。
アブドラ陣営幹部によると、近く閣僚人事を発表し、州政府幹部なども任命する方針。アブドラ氏は、選挙管理委員会が不正票を完全に除外しないまま最終結果を発表したと主張し「民主主義に対するクーデターだ」と非難した。【2月19日 共同】
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「二重権力」状態・・・・これでは「アフガン人同士の対話」なんて成立しませんし、タリバンはアフガニスタン政府など相手にせず(あるいは形式的に合意するだけで)、実力(あるいは武力)で権力を掌握しようとするでしょう。
国内外の諸事に無知なまま権力を掌握したかつての“イスラム原理主義”タリバンと、現在のタリバンは違う・・・ということはあるかもしれませんが、所詮タリバンはタリバン、イスラム原理主義はかわらないという見方も。
そのあたりを考えると、あまり“もろ手を挙げて歓迎”とは言い難い、今回の合意への動きです。
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