孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

核兵器に関する現在地 米ロの制限枠組みはほぼ破綻状態 ハイペースで増強する中国

2024-12-20 23:03:28 | 軍事・兵器

(【国際平和拠点ひろしま】)

【流れが逆行する米ロの枠組み】
****世界の核兵器保有数(2024年1月時点)****
広島県と連携協定を締結しているストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は毎年、シプリ年鑑(SIPRI YEARBOOK)を発刊しています。その中で、2024年1月時点の核兵器数が発表されました。

2024年1月時点の核兵器保有数は12,121で、2023年1月時点の12,512と比較して391減少しています。引き続き、約90%を米露が保有しています。この減少は、米国とロシアが引退した核弾頭を解体したからであり、運用可能な核弾頭数の削減は停滞が続き、その数は引き続き増加しています。

米国の配備弾頭数は変わらないものの、ロシアは増えています。

中国の核兵器数は90増加し、24の核弾頭を配備し始めた可能性があります。今後10年間で、米露と同じ数の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を潜在的に配備できるとみられています。

インドと北朝鮮も核兵器数を増加させています。北朝鮮の核弾頭数については、不確かなことが多いものの、90の核兵器を作るのに十分な核分裂性物質を生成した可能性がありますが、実際に核兵器として組み立てた数は、これよりも少ない50程度と考えられています。【国際平和拠点ひろしま】
******************

冒頭の核兵器保有数の推移(1945年~2023年)を見るうえで、留意すべきものとしてのNPT(核不拡散条約)、
INF全廃条約、新START(戦略核兵器削減交渉)の簡単な説明は以下のとおり。

****NPT(核不拡散条約)****
「核不拡散条約」NPTは、正式名称を「核兵器の不拡散に関する条約」(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)と言い、核兵器保有国の増加を防ぐこと(核兵器の拡散を防ぐこと)を主な目的とした条約です。(中略)

条約の内容としては、核兵器の不拡散、核軍縮の促進および原子力の平和利用の推進が三本柱とされています。しかし、不拡散が条約上の義務とされているのに対し、核軍縮と原子力の平和利用の促進は、事実上努力目標となっており、現実には条約の名前通り、核兵器の不拡散を目的とする条約としての役割を主に果たしています。【長崎大学核兵器廃絶研究センター】
*******************

NPT締約国数は191か国・地域(2021年5月現在)。非締約国はインド、パキスタン、イスラエル、南スーダン【外務省】

****中距離核戦力全廃条約/INF全廃条約****
1987年、ゴルバチョフとレーガンの米ソ首脳が中距離核戦力(INF)全廃に合意して締結した。ソ連崩壊後ロシアが継承、核軍縮の枠組みとして期待されたが、1990年代から中国の軍拡という新たな情勢が出てきたことで維持が難しくなり、2019年8月失効した。

中距離核戦力とは 
中距離核戦力=INF(Intermediate-Range Nuclear Forces) とは、戦略核兵器(相手の政治中枢を破壊する目的の核兵器。およそ米ソ国境間の距離5500kmを超えてとばすもの)と戦術核兵器(敵部隊との遭遇戦で使用する核兵器)との中間にある核兵器という意味で、戦域核ともいう。

米ソ本国よりもその中間にあるヨーロッパ地域で配備され、70年代末にソ連がトレーラーで移動可能な中距離ミサイルであるSS20を開発したことから現実的な脅威として問題となった。NATO側も中距離核戦力パーシングⅡの配備を進め、70年代の戦略兵器制限交渉(SALT)、さらに戦略兵器削減交渉(START)の網にかからないところで配備競争が続いた。(中略)

中距離核戦力廃棄の意味
中距離核戦力(INF)は距離500km~5500kmの間で使用されるミサイルなどの核兵器のことで、アメリカとロシアが直接相手を攻撃するためものではない。上述のようにアメリカは西ヨーロッパのNATO加盟国である親米国に配備し、ソ連攻撃を狙うものであった。

米ソが大陸間弾道弾によって直接相手を攻撃するよりも、現実性の高い軍事配備であるので両国ともその配備数を競う傾向があった。その競争が際限なく行われることは両国の経済に負担になるので、制限の必要を両国が感じ、一気に全廃にすることに合意したものと思われる。この時点ではアジアでの配備は問題外であった。

核兵器廃棄と抜け道
その合意に基づき、1991年までに中距離核戦力(INF)として廃棄対象とされたミサイルが、アメリカ側は846基、ソ連側は1846基に及び、同年中に全廃が完了した。

その年、ソ連が崩壊し条約をロシアが継承し、ロシアとアメリカの間で相互査察が10年間にわたって実施され、2001年には完全履行を相互確認して終了した。(中略)

しかし、ここでの中距離核戦力は陸上のみに限定されたので、空中および海中から発射されるものは含まれていないという抜け道があったので、両国は巡航ミサイルの開発を密かに進めるなど、相互不信が続いた。

新たな対立
INF全廃条約は冷戦の終結の象徴であり、二大国による核戦力軍縮の枠組みとして世界中の期待を集めた。2007年にはアメリカとロシアも当初は他の核保有国へも条約参加を呼びかけるなどの動きを見せていたが、ロシアのプーチンは次第に大国主義を標榜してこの条約に拘束されることを嫌うようになった。

2009年、アメリカ大統領オバマはプラハ演説で核なき世界をめざすことを表明し、ノーベル平和賞を受賞した。そのオバマ政権は2014年7月、ロシアの地上発射型巡航ミサイルが500kmを越えるとして条約違反を指摘した。条約では一方が相手の履行に疑問を持てば特別検証委員会を開催すると定めていたが、その後委員会開催は2回にとどまった。

大きく情勢が変化したのが、2017年1月アメリカ大統領に共和党トランプが就任したことであった。トランプ(およびその背後のボルトンなどネオコンといわれる右派政治家)がこの条約が不都合だと考えたのは、1990年代から急速に軍備を拡張し始めた中国の存在であった。

中国はINF条約に拘束されないので、アメリカにとってはそれが足かせになると考えたのであろう。事実中国は2015年に軍事パレードで対艦弾道ミサイルと中距離弾道ミサイルを誇示している。

2019年8月1日、INF全廃条約失効
アメリカのトランプ大統領は2018年末、ロシアに対し60日間以内にミサイルを破棄することを最後通告、受け入れられなかったとして、2019年2月1日に正式な離脱手続きに踏み切った。翌日、双方が条約義務履行停止を声明、半年後の8月1日に失効が発効した。

こうして中距離核戦力をフリーハンドで配備することが出来るようになったトランプとプーチンはそれぞれ配備競争を開始するであろう。またそれはかつてのような配備数を競うのではなく、より高性能な核戦力の開発に向かうであろうと言われている。

さらに、トランプの狙いは中国との力のバランスを維持することであるので、中国に対抗して日本への中距離核戦力の配備を求めてくることが予想される。(中略)

NewS 新STARTの延長
アメリカとロシアの間の核軍縮の枠組みとして、オバマ大統領の2010年に始まった新START(戦略核兵器削減交渉)は、このINF条約失効によって両国間の唯一の条約となったが、トランプ大統領の登場でその延長が危うくなっていた。バイデン政権の登場によって2021年2月に五年間の延長で合意が成立した。これによって米ロ間の核軍縮に向けてのチャンネルは残ることとなった。【世界史の窓】
******************

****中距離ミサイルの生産再開へ 米が欧州配備ならとプーチン氏****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は(7月)28日、米国がドイツなど一部欧州諸国へのミサイル配備計画を撤回しないなら、短・中距離ミサイルの生産を再開すると警告した。

プーチン氏はサンクトペテルブルクで行われた海上軍事パレードに出席し、米国がミサイル欧州配備計画を実行するなら、これまで一方的に行ってきたとする、短・中距離ミサイル配備の一時停止から「解放されたとみなす」と発言。そうしたミサイルシステムは「開発の最終段階にある」とも述べた。

さらに、「欧州および世界の他の地域における米国やその衛星国の行動を考慮した上で、対抗措置として(短・中距離ミサイルを)配備する」と語った。(中略)

米独両国は今月(7月)上旬、2026年から巡航ミサイル「トマホーク」など米国製長距離ミサイルのドイツへの「一時的な配備」を開始する方針を発表した。 【7月29日 AFP】
*********************

“米ロ間の核軍縮に向けてのチャンネルは残ることとなった”とされている新START(戦略核兵器削減交渉)もロシアは23年2月に条約履行停止を表明。後継条約締結交渉は滞っています。

****新START****
第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約として米国とロシアが2010年4月に調印、11年2月発効。

配備戦略核弾頭数を1550、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)や重爆撃機など運搬手段の総数を各800に制限したが射程が短い戦術核は対象外。

米ロは21年1月に条約を5年間延長した。22年2月にウクライナ侵攻に踏み切ったロシアは23年2月に条約履行停止を表明。後継条約締結交渉は滞っている。【3月13日 共同】
*********************

****米、ロシアに新たな対抗措置=新START、有名無実化****
米国務省は1日、ロシアによる新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止に対抗する新たな措置を発表した。条約で義務付けられているミサイルや発射装置の情報共有を停止するほか、米国で検証作業を行うロシアの査察官に発行されたビザなどを取り消す。米ロ間に残された唯一の核軍縮の枠組みは、さらに有名無実化が進むことになる。

国務省は発表文で「米国はロシアに対抗措置を事前通告した。ロシアが再び順守すれば、対抗措置を破棄して条約を完全に履行する意向と用意があるとも伝えた」と説明した。

対抗措置はいずれも1日から実施。情報共有停止やビザ取り消しなどのほか、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験の際の飛行経路などに関する情報提供も取りやめる。

米ロは年2回、新STARTに基づき配備済み核弾頭数などの核戦力情報を共有してきた。ロシアのプーチン大統領が2月に新STARTの履行停止を表明して以降、ロシアは情報共有に応じていない。【2023年6月2日 時事】 
******************

いろんな米ロの思惑もありながらも一定に歯止めがかけられ、核弾頭総数も減少してはきましたが、ここ数年INF全廃条約失効や新STARTの有名無実化で、流れが逆行し始めてもいます。

【中国 「予測を上回る勢い」】
その状況を更に難しくしているのが中国のハイペースの核兵器増強。

****中国の核弾頭「600発超」、4年で3倍…米国防総省「予測を上回る勢い」****
米国防総省は18日、中国の軍事・安全保障に関する年次報告書を公表した。今年半ば時点で中国が保有する運用可能な核弾頭数は、昨年5月時点と比べ100発増の600発超と推計し、中国の核戦力の増強に危機感を示した。2030年には核弾頭数が1000発を超える可能性が高いと予測している。

20年の報告書は保有数を200発台前半と見積もり、30年までに倍増するとみていた。当時からみて4年間で3倍となり、急速に保有数を増やした形となる。今回の報告書は「以前の予測を上回る勢い」と指摘した。

中国は核弾頭保有数を明らかにしていないが、米露間の新戦略兵器削減条約(新START)が戦略核弾頭の配備上限としている1550発に中国が迫っている状況だ。報告書は「今後10年間、核戦力を急速に近代化、多様化させるだろう」との見通しを示した。

中国は核兵器を搭載できる大陸間弾道弾(ICBM)のほか戦略爆撃機などの開発を進めており、報告書は「インド太平洋地域の標的にピンポイントで攻撃できることを示している」と指摘した。

ウクライナを侵略するロシアに対し、武器の製造に必要となる精密工作機械などを中国が売却しているとして、「中国がロシアの軍需産業を強く支えている」との懸念を示した。ロシアのウクライナ侵略を教訓に、中国が武器の国産化を進めているとの見方も提示した。【12月19日 読売】
********************

通常兵器では敵わないインドに対抗するために核兵器開発を進めるパキスタンも。

****パキスタンの長距離ミサイル開発、米国に「新たな脅威」=高官****
米国のジョナサン・ファイナー大統領副補佐官(国家安全保障担当)は19日、パキスタンが長距離弾道ミサイル能力を開発中であり、米国にとって「新たな脅威」になっていると述べた。

ファイナー氏はカーネギー国際平和財団で講演し、パキスタンは「長距離弾道ミサイルシステムから装備品に至るまで、一段と洗練されたミサイル技術」を追求し、かなり大型のロケットモーターの実験を可能にしていると述べた。

こうした傾向が続けば、パキスタンは米国を含む南アジア全域を攻撃する能力を持つことになると説明した。

米国本土に届くミサイルを持つ核保有国の数は「非常に少なく、敵対的な傾向がある」とし、ロシア、北朝鮮、中国の名を挙げた。

その上で、パキスタンの行為は米国に対する新たな脅威だと指摘した。同氏の発言は、2021年のアフガニスタンからの米軍撤退以降にかつて緊密だった米国とパキスタンの関係がいかに悪化しているかを浮き彫りにしている。【12月20日 ロイター】
*******************

パキスタンの場合、政府が軍をコントロールできていないという問題も。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« スーダン内戦  戦闘・飢餓... | トップ | マカオ返還25周年  一国二... »
最新の画像もっと見る

軍事・兵器」カテゴリの最新記事