(ベネズエラ北西部コヘデス州エルパオの軍施設で、兵士らと行進するニコラス・マドゥロ大統領(中央)とブラディミル・パドリノ国防相(中央右)。大統領府提供写真(2019年5月4日撮影)【5月5日 AFP】)
【クーデター失敗で圧力を強めるマドゥロ政権】
べネズエラでは4月30日、暫定大統領就任を宣言した野党指導者のグアイド国民議会議長が、マドゥロ大統領政権の打倒を掲げ、軍に決起を促すとともに国民にも抗議行動を呼びかけ、国内各地で治安部隊と市民らの衝突がありましたが、大規模な軍の政権離反は起きず、“クーデターは失敗した”との評価が一般的です。
その後の流れを記事見出しで見ると以下のようにも。
総じて、マドゥロ大統領側が事態を掌握し、反政府勢力に対する圧力を強めている状況がうかがえます。
“マドゥロ大統領が空軍基地視察 軍掌握をアピール ベネズエラ”【5月3日 毎日】
“ベネズエラ、蜂起の市民ら18人に逮捕状請求”【5月5日 読売】
“ベネズエラ大統領、「米国の軍事介入に備えよ」 兵士らに指示”【5月5日 AFP】
“ベネズエラ、野党議員の逮捕状を請求中 特権取り消しへ”【5月6日 朝日】
“ベネズエラ、元国会議長ら捜査へ 反逆容疑で、米は圧力”【5月8日 共同】
“反体制派の国会副議長拘束=「クーデター未遂」関与で―ベネズエラ”【5月9日 時事】
“ベネズエラ、対ブラジル国境再開”【5月11日 時事】
“グアイド氏派の副議長を軍事刑務所に収容 ベネズエラ”【5月11日 AFP】
国民に多大な犠牲を強いる失政を続けるマドゥロ政権ですが、軍部の支持のものとで、これまでも“じぶとく”権力を掌握してきました。
これまでも何回も取り上げたように、単に失政がある、国民不満が大きいというだけでは強権的支配はなかなか覆らないという見本のようでもあります。
【マドゥロ氏の力を過小評価していたグアイド氏とアメリカ】
そして、1月以来のグアイド氏の“決起”は、アメリカ・トランプ政権の後押しを受けてのものでしたが、今までのところ、“しぶといマドゥロ政権”という構図を変えるには至っていません。
「野党指導者の力量を米国が過大評価している」「反対勢力がマドゥロ氏の力を過小評価していた」との指摘も。
****こう着状態のベネズエラ、打開策は限定的 米軍事介入の可能性は?****
南米ベネズエラの首都カラカスで4月30日に発生した軍の蜂起は、瞬く間に終息に向かった。
だが、ニコラス・マドゥロ大統領に残された時間はごくわずかだと米国は主張する──。
こうした状況について専門家らは、野党指導者の力量を米国が過大評価しているとしながら、長期化したこう着状態を打開するための選択肢は限られていると指摘する。
米国を含む50か国以上から、暫定大統領就任への承認を得ている野党指導者のフアン・グアイド国会議長は4月30日、カラカスの空軍基地で「勇敢な兵士」の一団から支持を得たと声を挙げた。この直後、政権に対する抗議デモが発生したが、マドゥロ氏がこれを鎮圧するまでにはそう時間はかからなかった。
これを受ける形で、マイク・ポンペオ米国務長官は1日、「軍事行動もあり得る」とベネズエラ政府をけん制した。
しかし、米国は過去3か月にわたってすでに、広い範囲を対象とした経済制裁を同国に科している。ベネズエラ政府にとって命綱である国営石油会社もその対象だ。
中南米地域における民主主義を後押しする「インターアメリカン・ダイアログ」のマイケル・シフター会長は、「反対勢力がマドゥロ氏の力を過小評価していたのは明らかだ。マドゥロ氏は抗議活動による相当な圧力に持ちこたえる能力がある」と述べた。(後略)【5月3日 AFP】
【トランプ政権の思い描くシナリオどおりには進まない現実】
グアイド氏は暫定大統領就任を宣言する以前から米トランプ政権と連絡をとっていたとの報道もありますので、同氏の決起、その後の展開はアメリカ・トランプ政権の描くシナリオに沿ったものでもあるでしょう。
あわよくばベネズエラらと結託するキューバも巻き込んで一網打尽に・・・という思惑もあるのでしょう。
ただ、状況は思い描いたようには進んでいません。
「軍事行動もあり得る」とのトランプ政権ですが、今は対外的問題だけでも中国、イラン、さらに北朝鮮の問題を抱えており、それらに比べてアメリカにとってのベネズエラの重要性・緊急性は劣後するでしょう。
また、仮に軍事介入すれば、アメリカの軍事行動に強いアレルギーを有する南米諸国の強い反発を招くという問題もあります。
そこらを考えると、アメリカが自らの血を流す覚悟でベネズエラに関与するとも思えません。
****ベネズエラ危機、独裁打倒の失敗とアメリカの無責任****
<グアイドの反政府デモは今回も不発 軍事介入をにおわせつつ何もしない米政府の罪>
始まりはサプライズだったが、終わりは今までどおりの尻すぼみ。ベネズエラの独裁政権打倒はならず、例によってトランプ米政権は、全てはキューバとロシアのせいだとかみついた。
それは4月30日の早朝だった。野党指導者で国会議長のフアン・グアイド(1月に暫定大統領への就任を宣言している)は、軍人や有力な野党政治家レオポルド・ロペスらを従えて軍隊に決起を呼び掛け、共にマドゥロ政権と戦おうと訴えた。
(中略)市民による大規模なデモ行進も、軍幹部の離反も現実には起こらなかった。
そしてグアイドによる動画公開から半日もたたないうちに、今回の「決起」は急速に勢いを失っていった。その後はさまざまな臆測が飛び交い、非難の応酬があり、ホワイトハウスは強硬姿勢を取り、ロペスとその家族はスペイン大使館に保護を求める羽目になった。
マドゥロ政権打倒を目指してグアイドが決起を促したのはこれが3回目。そして反政府運動自体はウゴ・チャベスが大統領選に勝利した98年直後から続いている。(中略)
今年1月に暫定大統領に就任すると宣言し、多くの外国政府から支持を受けているグアイドも、(街頭行動で軍の政権離反を促すというチャベス時代の反政府行動と)同じシナリオを描いて行動した。
まず、暫定大統領就任でマドゥロ政権の分断を狙った。それが失敗に終わると2月22日には人道支援を呼び掛け、コロンビアからの支援物資の搬入を試みた。いずれも、軍上層部や政権内部からの離反を期待したものだった。
この数年でベネズエラで最も信頼され、動員力のある民主的な指導者による政権打倒の挑戦は、果たして失敗だったのだろうか。
これまでも多くの反政府指導者が、市民の期待を膨らませるだけで成果を上げられず、揚げ句に戦略や指導力をめぐる内紛を起こして消えていった。グアイドも現時点では、彼らの失敗例と何ら変わるところがないように見える。
そこで背景に浮かび上がってくるのが、アメリカの政策だ。トランプ政権は、腐敗や不正、人権侵害などを理由に、マドゥロ政権の圧政への関与が疑われる個人を対象にした国際的な制裁を主導している。
今のところ約500〜600人が対象とみられており、アメリカ入国に必要なビザの発行禁止や、資産凍結などを行っている。
グアイドの暫定大統領就任による政権打倒が失敗に終わると、石油の禁輸を行い、ベネズエラ中央銀行を制裁対象に加え、マドゥロ政権を支援するキューバへの渡航制限強化を発表した。
3カ国封じ込めの一環
ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、中間選挙を翌週に控えた昨年11月1日に、フロリダ州マイアミで演説を行った。そこはベネズエラやキューバからの移民が多い場所だった。
このとき以来、トランプ政権は対ベネズエラ政策と対キューバ制裁強化を関連付けるようになった。これは、ボルトンが「暴政のトロイカ」と呼ぶキューバとベネズエラ、ニカラグアの3カ国に対する広範な封じ込め政策の一環だ。
キューバとベネズエラを同時に締め付ければ、キューバはマドゥロ政権への支援をやめるだろう、そしてベネズエラの政権が代わればキューバへの石油供給は止まり、宿敵キューバの政権は沈没する。ボルトンらはそんなシナリオを描いていた。
だが、それは願望にすぎない。両国に圧力をかけることと、それぞれの国で政治的な変化が起きることの論理的なつながりはどこにも明示されていない。
キューバ経済を痛めつけ、革命後に接収された米企業の資産に投資する第三国企業への訴訟提起をちらつかせるといった制裁を強化すれば、苦しくなったキューバは一段とベネズエラにすり寄るかもしれない。
一方でベネズエラに対する原油の禁輸や腐敗官僚の資産凍結などを進めれば、困ったマドゥロ政権はキューバの軍事顧問団への依存を強めるだけだ。
キューバ以外の、やはり強権的な体制の国々にもすがるだろう。現に中国からは50億ドルの融資を受けた。ロシアからは軍事顧問100人を受け入れている。トルコはマドゥロ政権の金資産売却に手を貸している。イランの支援もあるはずだ。
制裁は切り札にならない
一方で、制裁がアメリカ政府の強力な切り札となったためしはない。制裁強化が政権転覆につながる理屈は示されていない。相手国を経済的に苦しめれば市民が一斉に蜂起し、エリート層が寝返って政権交代を促すという保証はどこにもない。
過去の例を見ても、制裁の強化で政権交代が実現した例はない。制裁強化を通じてベネズエラで平和的な民主化を実現するというシナリオは、論理的にも歴史的にも信憑性を欠く。
それでも4月末の蜂起が失敗に終わると、ボルトンはまたぞろマドゥロ政権を非難した。トランプはベネズエラ国内にいるキューバ顧問団を悪役に仕立て、対キューバ制裁のさらなる強化をちらつかせた。顧問団が残虐かつ無能なマドゥロ政権の存続に絶大な役割を果たしていると言いたいらしい。
一方で国務長官のポンペオは、追い詰められたマドゥロの国外脱出をロシアが制止したと語ったが、そうした形跡は確認されていない。
この間、トランプ政権は一貫して政権転覆を支持する姿勢を強調し、「あらゆる選択肢」を検討していると繰り返し、ベネズエラ国民の期待を高めてきた。
マドゥロ政権がまだ健在なことを認めた4月30日の記者会見でも、ボルトンは同じせりふを繰り返した。しかし、これでは「アメリカが助けに来てくれる」という期待をいたずらに膨らませるだけだ。
数々の専門家や関係者が指摘していることだが、アメリカが軍事介入することは政治的にも戦略的にも無謀過ぎる。米軍の幹部でさえ、軍事的選択肢は現実的でないとみている。
ホワイトハウスが強硬なのは口先だけだ。反政府勢力を軍事的に支援する具体的な計画は存在しない。それでもトランプ政権は威嚇を続け、反政府勢力に「いつかアメリカが助けに来る」という非現実的な希望を抱かせる一方、マドゥロ政権には「アメリカの軍事介入は近い」と内外の支援者に訴える口実を与えてしまっている。
中南米の現代史上最悪の人道危機を招いたマドゥロは、依然として権力の座にあるが、民衆の抗議と一部兵士の離反で足元が揺らいでいる。(中略)
こうして政権基盤が揺らいできても、あいにく政権交代には至っていない。とはいえマドゥロ政権の不確実性ともろさが露呈したのも事実。幹部の更迭や粛清もあり得る。同じことは、蜂起に失敗した反政府側にも言える。
しかし悲しいかな、アメリカの姿勢だけは変わりそうもない。失敗は明白なのに。【5月9日 Newsweek】
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トランプ政権が“都合のいい”シナリオを思い描いて動いているというのは事実でしょう。(対イラン、対中国でも同様ですが)
“制裁の強化で政権交代が実現した例はない”・・・・そうかも。
ただ、ではどうすればいいのか? 軍事介入しかないのか?・・・という話にもなり、答えのわからないところです。
【“アメリカ頼み”を強めるグアイド氏だが・・・・】
“「アメリカが助けに来てくれる」という期待をいたずらに膨らませる”・・・“期待”というより、もはやアメリカに頼るしかないという“追い詰められた状況”がグアイド氏側の実情のようにも。
****ベネズエラ野党、米軍に協力を要請へ ****
政情混乱が続く南米ベネズエラの野党陣営は11日、米軍に協力を要請すると発表した。野党指導者のグアイド国会議長はこれまで米国の軍事介入を受け入れると発言しており、さらに一歩踏み込んだ。
軍人への蜂起呼びかけが不発に終わったことで追い詰められつつある中、米国の軍事力に頼ることで事態打開を狙うが、国内外の反発も大きく、実現は不透明だ。
11日、カラカスで開いた反政府デモでグアイド氏が演説し、自身が米国に送り込んだ「大使」に対し、米軍の中南米を管轄する米南方軍司令官と会談するよう指示したと明らかにした。「直接的で、広範囲に及ぶ協力関係を設立する」と説明している。
グアイド氏は既にメディアを通じ、「もし米国が軍事介入を提案したら私は受け入れるだろう」と発言している。足元でマドゥロ政権が野党議員の不逮捕特権剥奪や身柄拘束で攻勢を強めており、野党陣営は厳しい状況に立たされている。後ろ盾となっている米国の軍事力を盾に、政権をけん制する狙いとみられる。
もっとも、グアイド氏はこれまでマドゥロ政権の命令に従い国民を弾圧するベネズエラ軍に対し「政権の犠牲者だ」と説明してきた。仮に軍事介入を要請することになれば米軍に自国の軍を攻撃するよう求めることになるため、これまでの発言との整合性を問われることとなる。
軍事介入の実現には高いハードルが残る。トランプ米大統領はこれまで「全ての選択肢はテーブルの上にある」と述べ軍事介入を排除しないとしてきたが、米国内にも反対する声は大きい。グアイド氏を支持する欧州や中南米の周辺国も軍事介入には明確に反対する。【5月12日 日経】
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****グアイド国会議長、米軍からの支援を模索か 米南方軍との協議要請****
政情不安が続く南米ベネズエラの反マドゥロ派のグアイド国会議長は13日、これまで以上に米国からの支援を求める姿勢を明らかにした。
グアイド議長が駐米大使に指名したカルロス・ベッキオ氏は13日に公開された書簡の中で、米南方軍とグアイド議長側の代表者との間での協議を要請した。書簡は米南方軍のファラー司令官にあてたものとなっている。同司令官はかねてグアイド議長の行動を支持する考えを明らかにしていた。
ベッキオ氏は書簡の中で、「戦略的な計画立案を歓迎する」と指摘。そうすることで、ベネズエラ国民への憲法上の義務を果たすことができるようになるとしている。ただ、軍事行動を明確に求めることはなかった。
米国はここ数カ月、グアイド議長支持に向けた軍事行動の可能性について排除していない。
グアイド議長については、米国をはじめとする50カ国以上が正統な大統領と認めている。
ベネズエラ国内で定期的に開催される全国規模の抗議活動にも停滞の動きが見えており、グアイド議長は変革に向けた新しい戦略を模索し始めている。
マドゥロ政権側は今回の書簡を一蹴。ロドリゲス副大統領は「ベネズエラへの軍事介入を要請すること」は国の不安定化を目指す試みだと指摘した。【5月14日 CNN】
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こういう「小国」の助けを求める声に「大国」が動くというのは、非情な国際関係にあってはあまり現実性はないように思えます。ましてや損得勘定で動くトランプ大統領は・・・(国内選挙対策として、中国・イラン・北朝鮮はどうにもならいけどべネズエラなら・・・という話なら別ですが)
一方、マドゥロ政権側には弾圧の格好の口実を提供することにもなります。
カリスマ性のある反政府指導者として期待したグアイド氏ですが、状況は次第に厳しさを増しています。
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