
(米海兵隊員によるタリバン遺体放尿事件に限らず、また、アメリカ・タリバンを問わず、戦場では狂気が支配することは想像に難くありません。
ただ、遺体冒涜よりは殺戮行為そのものの方が、より憂うべきことではないか・・・とも思うのですが、戦場にあってはそうした疑問は論外です。
写真は、北部同盟兵士によるタリバン兵士処刑のシーン アフガニスタン部族間ではこれまで夥しい殺戮が繰り返されてきました。仮に、アメリカとタリバンの間で“和平”に関し一定の成果が得られても、また、外国勢力が撤退しても、やはり多くの血が流され続けるのでは・・・という思いがあります。
“flickr”より By sakyant http://www.flickr.com/photos/28245984@N02/4212920625/ )
【「これらの交渉が継続し、良い結果を得られることを期待している」】
アフガニスタンの反政府勢力タリバンとアメリカが、中東のカタールに和平交渉の窓口となる事務所を設けることで合意したことは、1月4日ブログ「アフガニスタン タリバン、国外事務所開設で米と暫定合意 それでも和平交渉に期待できない理由」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120104)で取り上げたところですが、そのなかでも触れたように、アフガニスタン政府・カルザイ大統領は蚊帳の外に置かれた感もあり、アメリカへの反発もありました。
アメリカとしても、当事者たるアフガニスタン政府・カルザイ大統領を無視する訳にもいきませんので、関係修復を図っています。
****米特別代表、カルザイ大統領と会談 アフガン和平協議****
米政府のアフガニスタン・パキスタン担当のグロスマン特別代表が21日、カブールを訪れてカルザイ大統領と会談し、和平プロセスについて協議した。アフガン政府と反政府勢力タリバーンとの和平交渉の再開に向けた動きにつながる可能性がある。
AFP通信によると、グロスマン氏は「米国はアフガニスタン主導の和平交渉を何としても支える」と話し、仲介役であることを強調した。タリバーンは今月初め、中東のカタールに和平交渉の窓口となる事務所を設ける方針を示しており、カルザイ氏はこの日の国会演説で「政府としては、和平のために事務所を開く計画を受け入れる」と述べた。
カルザイ氏は、タリバーンとは別の反政府勢力ヒズベ・イスラミ(イスラム党)の代表と最近も会談したことも明らかにし、「これらの交渉が継続し、良い結果を得られることを期待している」と話した。【1月21日 朝日】
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【「映像は大きな問題にならないだろう」】
しかし、この交渉をぶち壊してしまいかねない、4人の米海兵隊員が3人のタリバン兵士の遺体に放尿している衝撃的な映像がネット上で流れ、アメリカが事態収拾に追われていることは、1月13日ブログ「アフガニスタン タリバン遺体に米軍兵士放尿 事態収拾に追われるオバマ政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120113)で取り上げました。
恐らくタリバン側は怒り心頭に発し、交渉どころではないのでは・・・とも思ったのですが、意外とタリバン指導部は抑制された対応をとっているそうです。
****タリバンの自制は和平に逆効果?****
米軍の放尿ビデオに怒らない指導部に兵士の反発が高まっている
衝撃的な映像だった。4人の米海兵隊員が3人のアフガニスタン人の遺体に放尿している。しかしこの問題について、アフガニスタンの反政府勢カタリバンはあたかも見識が高い政治家のような反応を示した。
タリバンの広報担当者の中には、米兵の「恥ずべき行為」を糾弾し、アメリカ人への襲撃を続けると語った者もいた。だがザビフラ・ムジャヒド報道官は慎重な発言にとどめている。
「協議も捕虜交換プロセスもまだ初期段階にあるため、映像は大きな問題にならないだろう」
協議というのは、アメリカとタリバンがカタールで進めている和平予備交渉のことだ。
タリバンの後方支援担当者も穏やかな口調で本誌に語った。「われわれは分別のある正しい反応をした。卑しむべき行為を非難しながらも、協議には影響しないと表明した」
とはいえ彼も今回の映像には失望している。「アフガニスタンには『敵を殺せ、しかし遺体を放置して腐らせるな』という言葉がある。私たちの伝統を踏みにじるような出来事があまりにも微妙なタイミングで明らかになった」
タリバンの自制は一見、和平にはプラスになりそうだ。だが大半のタリバン兵は怒りに駆られているし、アフガニスタン人の間でも反発が高まっている。抑制を利かせた「公式」見解は、タリバン兵と指導部の問に亀裂を生じさせかねない。
問題の映像が昨年撮影された場所とされるヘルマンド州のタリバン幹部は、電話取材に応えてこう語った。「狂っている。殉教者の遺体を冒涜するほどわれわれを憎んでいる連中と、なぜ協議などするのか」
彼の怒りはカタールでの交渉に臨むタリバンの代表にも向けられた。「協議でアフガニスタン・イスラム首長国の代表を名乗る人々は、われわれが流してきた血の川を汚している」(後略)【1月25日 Newsweek日本版】
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もっとも、“タリバン指導部”とは言っても、最高指導者オマル師の生存さえ定かではなく、指揮系統がはっきりしないタリバンですので、どういう資格でアメリカとの交渉に臨む“指導部”だかは疑問があります。
【放尿事件への怒りから犯行に及んだ】
一般のタリバン兵士、アフガニスタン人が怒っている・・・というのは、当然のところです。
20日、東部カピサ州でアフガニスタン軍兵士が国際治安支援部隊(ISAF)傘下の仏軍兵士4人を射殺した事件がありましたが、この事件の動機も米兵放尿事件への怒りだそうです。
*****「米兵放尿事件に怒り」仏兵士射殺のアフガン兵*****
アフガニスタン東部カピサ州で20日、アフガン軍兵士が国際治安支援部隊(ISAF)傘下の仏軍兵士4人を射殺した事件で、兵士が調べに対し、旧支配勢力タリバン兵の遺体に米兵が放尿した事件への怒りから犯行に及んだと供述していることが分かった。AFP通信が22日、アフガン軍関係筋の話として報じた。
事件を受け、仏軍はアフガンでの活動を一時停止すると発表。急きょアフガン入りしたロンゲ仏国防相は、国軍兵がタリバンの内通者だったとの見方を示している。【1月23日 読売】
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もともと戦争しか知らない人生を送ってきた多くのタリバン兵士にとっては戦いこそが人生であり、和平など考えてもいないと思われます。ましてや、遺体を冒涜する憎むべき相手と・・・といったところでしょう。
「彼らは戦闘が好きなだけだ。それが終わりのない無意味な戦いだとしても」(旧タリバン政権の元大使)
【基地にはアフガン兵を近づかせないようにしていた】
下記は、この仏軍兵士殺害を伝える記事です。
****仏兵4人、撃たれ死亡=国軍兵が銃乱射―アフガン****
アフガニスタンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)は20日、首都カブールに近い東部カピサ州で同日、アフガン国軍兵士1人がISAF部隊に銃を乱射し、兵士4人が死亡、16人が負傷したことを明らかにした。AFP通信によると、死亡したのはフランス軍兵士。
軍当局者によると、犯人は拘束され、尋問を受けている。事件の詳しい状況は不明。同通信によれば、アフガン駐留仏軍は約3600人で、主にカブールやカピサ州に展開。同州内の基地にはアフガン兵を近づかせないようにしていた。
事件を受けサルコジ仏大統領は、駐留仏軍のアフガン部隊に対する訓練活動や合同作戦への参加を停止したことを明らかした。同軍の撤退前倒しも検討するとしている。【1月20日 時事】
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アフガニスタン兵士の中にタリバン内通者が多く存在していることは、以前から言われているところで、こうした事件が起きたこと自体には驚きませんでしたが、いささか驚いたのは“同州内の基地にはアフガン兵を近づかせないようにしていた”というISAF側の対応です。
アメリカなどの外国勢力が撤退のスケジュールに入っているなかで、撤退後の治安維持の中核となるべきアフガニスタン軍への信頼が全くないことが如実にわかります。それだけアフガニスタン軍の状況が憂慮すべきレベルにあるということでしょう。
このようなアフガニスタン軍の状況では、仮にタリバンとの交渉が何らかの成果を生んだとしても、アフガニスタン政府の将来はあまり期待できません。
とても興味のある記事を拝見しました。
私のブログに転載させていただきます。
↓
夢を叶えてあげる
http://ameblo.jp/yumewokaitarakounatta
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