孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  ISとPKKへの「二正面作戦」へ トルコ・エルドアン政権の主たる関心は・・・

2015-07-28 15:51:50 | 中東情勢

【7月27日 AFP】

ISへの宥和策、PKKとの休戦から「二正面作戦」へ
シリアで争うISとクルド人勢力、そして隣国トルコにおけるトルコ政府を含めた3者の絡み合いについては、7月23日ブログ「激化するISとクルド人勢力の戦闘 トルコ領内でもクルド人標的のISのテロ、PKKの政府への報復」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150723)で取り上げました。

このブログ時点で、ISによるトルコ領内におけるクルド人(トルコ領内に1000万人以上が居住)を標的にしたテロ、トルコ政府がISに融和的(あるいは加担している)として、クルド人反政府組織PKKによるトルコ警官殺害という報復テロ・・・といった形で事態は動き始めていました。

前回ブログアップ直後の23日、シリア国境に近いトルコ南部キリスで国境警備にあたっていたトルコ軍兵士がシリア国内から国境を越えて銃撃され1人が死亡、トルコ軍もISに応戦するという、2013年にISがイラクとシリアの広い範囲を制圧し始めトルコ国境の近くまで勢力を広げるようになってから最大の交戦がISとトルコ軍との間で起きたことが報じられました。

これまでトルコは、アメリカなどのIS攻撃のための基地使用やシリアとの国境管理を厳格化を求める要求に対し十分に応えてきませんでした。(トルコは偵察用無人機の拠点としては米軍による基地の使用を認めてきましたが、空爆目的の利用は拒んでいました。

トルコが敵対するアサド政権を追い詰めるうえでも、また、国内反政府勢力PKKとつながるシリアのクルド人勢力をけん制するうえでも、また、ISと敵対することで国内テロが増加する危険を避ける意味ででも、イスラム過激派ISに対し融和的な姿勢をとってきたとも言われています。

ただ、アメリカなどの国際圧力もあって、コバニ包囲戦では最終的にはクルド人側に協力し、ISにとって人員・物資補給路となっているシリアとの国境管理も最近強化を図っており、ISとの対立も生じていました。

一方で、国内のクルド人反政府勢力PKKとは2013年に和平交渉を開始し、PKKによる国内テロ活動は一定に抑制されてきました。

ただ、シリアでISが、トルコ国境に隣接するクルド人居住地域であるコバニを包囲した際に、国内PKKと近いコバニのクルド人勢力救済になかなか動かず、クルド人を“見捨てた”“見殺しにした”とクルド人に受け止められたこともあって、6月の総選挙でクルド政党、人民民主党(HDP)が躍進し、与党・公正発展党(AKP)が過半数割れに追い込まれ、エルドアン大統領は組閣にも難航する事態になっています。

またコバニ包囲戦以降の情勢を受けて、PKKはトルコ治安当局への攻勢を強めており、トルコ政府は対抗策を打ち出す時期をうかがっていたとの指摘もあります。

トルコ政府はこれまでIS、クルド人勢力との間で微妙なバランスをとってきたとも言えますが、そのバランスの維持が難しくなってもいました。

こうした時期に起きたISによるトルコ領内でのテロ、PKKの反政府テロ再開、ISとトルコ軍の軍事衝突という一連の動きによって、トルコ・エルドアン政権は従来方針を大きく転換し、IS及びPKK両者を同時に叩く「二正面作戦」に踏み切っています。

シリア側の国境沿いに「安全地帯」設置を求める
対ISとしては、これまで拒否してきた米軍によるトルコ領内基地の空爆目的での利用を認め、トルコ軍自身がシリア国内のIS拠点3か所への空爆を実施しました。

****<トルコ>ISを初空爆 自国兵士死亡に報復****
トルコ軍は24日未明、隣国シリアの北部国境沿いにある過激派組織「イスラム国」(IS)の軍事拠点3カ所を精密誘導爆弾で空爆した。トルコ軍によるIS拠点を狙った空爆は初めて。

23日にトルコ南部国境付近を警戒中の兵士がシリアのIS支配地側から銃撃を受けて死亡したことへの報復だという。トルコ政府はISへの対応に消極的だと批判されてきたが、方針転換を強いられた形だ。(中略)

また、トルコ治安当局は23〜24日にイスタンブール周辺にあるISなどの拠点100カ所以上を一斉捜索。トルコ政府は、23日の兵士銃撃事件を受けて安全保障会議を開催しISに対する軍事作戦を決めたという。

これに先立ちオバマ米大統領は22日、トルコのエルドアン大統領と電話で協議。米ホワイトハウスによると、IS対策での協力強化について話し合った。

一方、米主要メディアは23日、トルコが米軍に対し、南部インジルリク空軍基地の本格的な使用を容認したと一斉に報じた。これまでも偵察のための無人機の発着は認めていたが、新たに戦闘機などの作戦行動を許可し、協力態勢を大幅に強化したと伝えている。

米軍はこれまで、ペルシャ湾に展開する空母や湾岸諸国の米軍基地から戦闘機などをシリアへ飛ばしてきた。インジルリク基地の使用が可能になれば、シリア上空での滞空時間が大幅に延長される。

ただトルコメディアによると、トルコは米国主導の有志国連合が実施するIS空爆には参加しない見通しで、当面は独自の対応を取る方針と見られる。

トルコは今年1月ごろから、シリアとの国境管理を強化。外国人戦闘員のシリア流入を規制し、IS側が不満を強めていると伝えられていた。

トルコでは現在、6月の総選挙を受けて与党と各党との連立協議が続いている。IS対策を強化すればISがトルコへの攻撃を拡大させたり、シリアの内戦がトルコに飛び火したりする可能性がある。

与党は連立協議の行方も踏まえながら、慎重な対応をする方針とみられる。【7月24日 毎日】
****************

また、トルコはシリア側国境沿いにISを排除した「安全地値」を設けることを主張しています。

****シリア北部に「安全地帯」設置へ=「イスラム国」排除で難民保護―トルコ***
ロイター通信によると、シリア国内の過激派組織「イスラム国」に対する空爆作戦に着手したトルコのチャブシオール外相は25日、記者会見で、シリア難民保護などのため、シリア北部に同組織を排除した「安全地帯」を設置すると述べた。

トルコ政府はかねて、安全地帯や飛行禁止区域の設置を求めてきた。外相は「(同組織の)脅威がなくなれば、安全地帯が自然にできるだろう」と述べた。

トルコ紙ヒュリエト・デーリー・ニューズ(電子版)によると、トルコ国境沿いのシリア北部アレッポ県の町ジャラブルスとマレアの間に、長さ約90キロ、幅約40キロの「『イスラム国』のいない地域」をつくる予定。

この計画は、「イスラム国」への空爆作戦を主導する米国との包括合意の一部で、米国も既に同意していると報じたが、米側は確認していない。【7月25日 時事】
******************

「安全地帯」を設けることについてはアメリカも同意しているようです。
ただ、“飛行禁止区域”となると、制空権を握り、もしシリア軍機が侵入したら交戦するという話にもなりますので、アメリカは認めない意向のようです。

****米・トルコ、IS一掃に向けて協力 「IS排除地帯」設置へ****
米国とトルコは、シリア北部からイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」を一掃することを目指し、協力していく方針で一致した。米政府高官が27日明らかにした。情勢を一変させる可能性のある合意といえる。

同高官はAFPに対し、トルコ・米両政府が「ISIL(ISの別名)を排除した地帯を設置し、トルコのシリア国境付近の安全と安定の強化を図る」ことを目指していく意向だと伝えた。

バラク・オバマ米大統領のエチオピア訪問中に、匿名を条件に取材に応じたこの高官は、このIS排除地帯の詳細については「今後詰めていく」ことになるとしているが、「どんな合同軍事行動に踏み切るにしても」かねてトルコが要請してきた「飛行禁止区域の設置は含まれない」としている。(後略)【7月28日 AFP】
*********************

「安全地帯」からISを排除し、トルコが支援する反政府勢力の拠点とし、難民も収容する・・・とのトルコ側意向ですが、主権を侵害されるシリア・アサド政権の反発など、実現は不透明でもあります。

*****************
・・・・しかし、国境の改変につながりかねないこうした案が、国際社会の理解を得られるかも不透明だ。

また、シリアのアサド大統領は26日の演説で、「兵員不足で国内の支配地域を放棄せざるを得ない」状況に陥っていると認めたが、反体制派への譲歩はあり得ないと強調。主権を侵害する安全地帯構想を容認することは考えられない。

トルコが仮に安全地帯の設置に成功しても、約900キロに及ぶシリアとの国境線すべてでイスラム国側の侵入を防ぐのは難しい。

安全地帯やその周辺で戦闘が激化すれば、「トルコはシリアへの軍事的関与を強めざるを得なくなる危険性がある」(外交筋)との指摘も出ている。【7月27日 産経】
*****************

PKK「(トルコ政府との)休戦はもはや意味を失った」】
一方、クルド人反政府組織PKKに対しては、ISと併せて、国内メンバーの一斉検挙に乗り出しています。

****トルコ、非合法組織の拠点一斉捜索 約300人逮捕 国内情勢の流動化を危惧 テロ封じ****
トルコからの報道によると、同国治安当局は24日、最大都市イスタンブールなど各地にあるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」や「クルド労働者党(PKK)」といった非合法組織の拠点を一斉に捜索し、各組織のメンバーら計297人を逮捕した。

トルコでは20日、南部スルチでイスラム国によるとみられるテロが発生したのを契機に、イスラム国への警戒が強まった。

同時に、テロは政府のイスラム国に対する姿勢に問題があったために起きた−と主張するPKKメンバーが警官を殺害する事件も起きたことなどから、国内情勢の流動化を避けるため、テロ闘争を展開する恐れのある組織の締め付け強化に乗り出した形だ。(中略)

トルコのメディアによると、捜索はイスラム国やPKKのほか、マルクス主義系の極左組織なども対象。範囲は全国の少なくとも13県に上り、イスタンブールだけでも140カ所以上が捜索を受けた。【7月24日 産経】
*******************

また、IS拠点空爆と併せて、国内のPKK拠点への攻撃も行っており、PKKとの休戦は破棄された形となっています。

****トルコ、PKK拠点空爆 対ISも連日 国内の緊張高まる****
トルコ軍は25日、シリア北部で過激派組織「イスラム国」(IS)に対する3度目の空爆を行った。24日夜から翌未明には、イラク北部で、非合法のクルド人武装組織「クルディスタン労働者党」(PKK)の拠点も空爆した。(中略)
ISの2度目の空爆に合わせて、イラク北部でもPKK活動拠点など7カ所を空爆した。ダウトオール氏は、トルコ南部スルチで起きたISの自爆テロとみられる爆発をめぐり、PKKが「ISの協力者」として警官2人を殺害したことに対する報復だとした。

イラクのPKK拠点に対する空爆は、トルコ政府とPKKが2013年に和平交渉を開始して以来初めてとみられる。空爆後、PKKは「(トルコ政府との)休戦はもはや意味を失った」との声明を発表した。【7月26日 朝日】
*****************

こうした政府側の攻撃に対し、PKK側もテロで応酬しているとされています。

****トルコ軍の車列に爆弾、兵士2人死亡 PKKの犯行か****
トルコ南東部ディヤルバクルで25日夜、トルコ軍の車列を狙って自動車爆弾が爆発し、兵士2人が死亡、4人が負傷した。地元行政当局が26日、発表した。

犯行声明は出ていないが、トルコメディアによると、トルコ軍は非合法のクルド人武装組織「クルディスタン労働者党」(PKK)の犯行だとしている。【7月26日 朝日】
******************

ISとの戦いよりも、クルド人武装組織抑制の方に大きな関心を持っているのではないか・・・
トルコ政府の対応に対し、トルコ国内の少数民族クルド人は、IS対策に便乗した「民族抑圧だ」と反発を強めており、国内の治安悪化が懸念されています。

トルコ軍は、シリアでISと戦うクルド人勢力に対しても攻撃を行っていると報じられています。
シリアのクルド人勢力YPGはトルコ国内のPKKと密接な関係があるとされています。

****トルコ軍、シリアのクルド人支配の村を砲撃****
シリア北部アレッポ県で、クルド人民兵部隊「クルド人民防衛部隊(YPG)」の支配下にある村が、トルコ軍の戦車による夜間の砲撃を受け、YPGと同盟関係にある組織の戦闘員少なくとも4人が負傷した。

YPGと非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」が27日、明らかにした。(後略)【7月27日 AFP】
****************

トルコ政府のIS対応の転換は、ISの人員・物資の補給路、あるいは資金調達源の原油密売ルートを断つことで、国際社会のIS対応に大きな影響があります。

ただ、「二正面作戦」とは言いつつも、トルコ政府の関心は、ISよりもクルド人対策にあるのでは・・・との見方もされています。

****************
トルコ軍が開始した今回の軍事作戦に、トルコ国内のクルド人は衝撃を受けている。

6月7日のトルコ総選挙で大躍進した少数民族クルド人系政党、国民民主主義党(HDP)は25日、非難声明を出した。

総選挙で少数与党に転落した公正発展党(AKP)が、今回の攻撃でクルドとの対立をあおり、再選挙に打って出てクルド支持票などを取り込んで単独政権に返り咲こうとしていると訴えた。【7月26日 毎日】
****************

****************
トルコでは6月の総選挙でPKKに近いとされるクルド政党、人民民主党(HDP)が躍進し、与党・公正発展党(AKP)が過半数割れに追い込まれ組閣が難航。

組閣に失敗すれば再選挙となる可能性もあり、政府・与党側はPKKへの締め付け強化によってHDPの支持率低下を狙っているとの見方もある。【7月26日 産経】
****************

****************
・・・・しかし、トルコはISとの戦いよりも、シリアとイラクに存在するクルド人武装組織を抑制することの方に大きな関心を持っているのではないかとの疑いも広がっている。

アフメト・ダウトオール首相は、非合法化されているクルド人武装組織「クルド労働者党((PKK)」が武装解除するまで、同組織に対する軍事作戦を強化していくと発表した。

PKKはトルコ南東部で数十年前から反体制運動を開始。ダウトオール首相はATVテレビで「一定の成果が得られるまで戦闘を継続する」と語り、PKKに対し同組織が2013年に約束した武装解除を実行するよう促した。(後略)【7月28日 AFP】
*******************

IS対応の転換という国際社会が好感する施策の裏で、PKKへの対決姿勢を鮮明にすることで国内危機感を煽り、政権への求心力を高める狙い・・・エルドアン大統領の満を持した一手ということでしょうか。

そうなると、そもそも事の発端となった7月20日のISによるクルド人を標的にしたテロというのも、IS単独の犯行だったのか・・・という疑念も起きますが、まあ、それは陰謀論に過ぎる見方でしょう。

トルコ首相府は27日、一連の作戦でISやクルド人武装組織などのメンバー1000人余りを拘束したことを明らかにしており、ダウトオール首相は、「作戦は結果が出るまで続ける」と語っています。

北大西洋条約機構(NATO)は今日28日、トルコの要請で緊急理事会を開くことになっています。
この場でトルコは、IS対応に併せて、PKK対策についても説明すると思われますが、NATO側にはトルコ国内の対立激化への懸念があります。

*******************
NATO側には、トルコ政府とPKKの対立激化が、対ISのテロ対策を弱体化させかねないとの懸念がある。

ドイツのメルケル首相は26日、トルコのダウトオール首相と電話協議し、トルコへの支持を表明すると同時に、テロとの戦いの中で「クルド人との和平プロセスは堅持すべきだ」と求めた。【7月27日 毎日】
*******************

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ソマリアでテロ活動を続ける... | トップ | アフガニスタン 中国で2回目... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
『クルド憎しでシリアイラクのクルド弾圧』 (ローレライ)
2015-07-30 20:25:05
『クルド弾圧戦争』は『広域戦争』になり地域の混乱を拡散させそう。
返信する

コメントを投稿

中東情勢」カテゴリの最新記事