孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  アサド政権のあっけない崩壊 各勢力・関係国の思惑が交差 内戦第2幕への幕が上がった?

2024-12-09 23:44:55 | 中東情勢

(8日、シリアの首都ダマスカスで、アサド政権の崩壊を祝う人たち【12月9日 共同)】

【アサド政権の圧政から解放され喜びの声をあげる市民 報復を恐れて身をひそめる市民も】

“こうした流れを食い止めて首都攻防というのは難しいようにも。結構短時間で結着がつくかも”とは書いたのですが、ブログアップして数時間後には反体制派がダマスカスに入り、アサド政権は崩壊・・・ブログ更新が追いつかない、想定外に早い展開でした。

アフガニスタンでもそうですが、空洞化した政権はあっという間に崩壊するようです。

シリア情勢について一言で言えば、アサド政権は崩壊したけど、シリアの内戦・混乱が終わった訳ではなく、これから第2幕が開く危険もある・・・といったところでしょうか。

シリアの内戦・・・アサド政権が2011年に起きた民主化デモを武力で弾圧したことをきっかけに起きた内戦・・・トルコの海辺に打ち上げられ、うつ伏せに横たわる男児の写真が世界の注目を集め、多くの難民が流出し、欧州世界を揺るがすことに。その影響は移民・難民の受入れに反対する勢力を勢いづかせる形で今も続いています。

これからのシリアを考えるためには、これまでのシリアの総括が必要ですが、ロシアが公式に亡命受入れを認めたアサド大統領については簡単に。(詳しくやっていると、それだけで終わってしまうので)

****シリアのアサド政権、自国民ないがしろにし一族は麻薬密輸で利益追求…父子2代の恐怖政治終焉****
シリアのアサド政権は、父子2代で50年超の恐怖政治によって国内を支配した。敵対勢力は暴力で徹底的に抑え込み、一族の利益を追い求めた。

バッシャール・アサド氏(59)の父ハフェズ氏は1970年、クーデターで実権を握った。イスラム教スンニ派が大多数の国内で、約10%を占めるイスラム教アラウィ派出身だったハフェズ氏は、権力の中枢を同じ宗派で固める一方、諜報ちょうほう機関による国民監視で強固な統治体制を築いた。82年に中部ハマで反体制派のイスラム主義者数万人を虐殺した。

その後を継いだのが次男バッシャール氏だ。元々は眼科医。94年に後継者と目されてきた兄の交通事故死で、留学先の英国から呼び戻された。父の死去を受け、国民投票で97%の信任を得て2000年7月、大統領に就任した。

当初は経済自由化や政治犯釈放などに着手し、国民の間で改革への期待感も膨らんだが、与党バース党による事実上の一党独裁体制を守り、形だけの選挙を通じて強権支配を維持した。

11年に民主化運動「アラブの春」で反体制デモが始まると、参加者らを徹底弾圧し、内戦を招いた。大量殺害、拷問、処刑に加え、化学兵器を使った自国民の攻撃もいとわなかった。内戦による死者は50万人を超え、2200万人だった人口の約6割は国内外で避難生活を強いられてきた。

長引く内戦や制裁で経済危機が深刻化し、自国民の命はないがしろにしても、麻薬の密輸を取り仕切ることでアサド一族や取り巻きは潤っていたとも指摘される。自分たちの利益のみを追い求めた政権が、国民の信頼を失って終焉しゅうえんに追い込まれたのは必然だったといえる。【12月9日 読売】
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なぜ“当初は経済自由化や政治犯釈放などに着手”というアサド氏が独裁体制へと移行したのか・・・ひと頃は「砂漠の薔薇」「中東のダイアナ」などと呼ばれたこともあるイギリス生まれ、ロンドン大卒の夫人の自由化に対する影響力への期待もありました・・・いろいろ知りたいことはありますが、先に進みます。

(今は)圧政と監視から解放された市民は歓喜の声をあげています。

****アサド政権崩壊のシリア 反体制派勢力を主導したリーダー「新たな歴史の1ページ」と勝利宣言****
アサド政権が崩壊した中東シリア情勢です。反体制派勢力を主導した組織のリーダーは「新たな歴史」だと述べ、勝利を宣言しました。

市民 「シリア万歳!アサドは倒れた!」
8日、「アサド政権崩壊」の一報が入り、喜びの声を上げる市民たち。
市民 「(アサド)政権が倒れるまでこの日を待ち続けてきました。そしてついに政権は倒れたのです」

陥落した首都ダマスカスでは、反体制派勢力を主導した「シリア解放機構」のリーダーが10年以上に及んだ内戦での勝利を宣言しました。

「シリア解放機構」 ジャウラニ指導者
「この勝利はイスラム世界にとって新たな歴史の1ページとなる。私たちはこの勝利によって13年間の苦しみから抜け出せるのだ」

アサド政権が2011年に起きた民主化デモを武力で弾圧したことをきっかけに内戦に発展したシリア。そこから13年の間にアサド政権が反体制派側に化学兵器を使用したとの指摘やシリアを脱出した難民の船が転覆し、トルコの海岸に3歳の男の子の遺体が打ち上げられるなど、凄惨な出来事も繰り返されてきました。(中略)

ロシア外務省は声明で、(亡命した)アサド大統領は“平和的な手段で権力移譲を実行するよう指示した”と明らかにしました。

ただ、今回の攻勢を主導した「シリア解放機構」がテロ組織に指定されていることもあり、今後、政権移譲がスムーズに行われるかどうかは不透明です。【12月9日 TBS NEWS DIG】
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ただ、イスラム過激派とされる反体制派「シリア解放機構」(ハヤト・タハリール・シャム HTS)支配のもとで報復を恐れる人々も。

****シリア「自由」「心配」思い交錯 崩壊アサド政権の施設で略奪も****
「自由だ」「解放された」「将来が心配」。シリアのアサド政権が8日崩壊し、市民の間で喜びや不安が交錯した。異なる民族や宗教宗派が共存するシリア。各地で祝砲が鳴り響く一方、反体制派の弾圧を恐れて身を潜める人もいる。政権側施設では略奪も起きた。先行きは見通せない。

交流サイト(SNS)の投稿によると、首都ダマスカスの大統領府は反体制派が占拠し、政権側施設の略奪とされる映像が出回った。空港には多くの人が押し寄せた。刑務所から拘束されていた女性や子どもが救出され、首都に帰還する人々による大渋滞も起きた。

「強権的な政権が崩壊し、とてもうれしいが、同時に非常に恐れている。何が起きるか分からない状況だ」。首都中心部に住む銀行員ハーレド・タレブさん(50)が電話取材に対し、不安げな様子で語った。

今回の攻勢を主導するのは国際テロ組織アルカイダ系組織が前身の「シリア解放機構」。タレブさんは、イスラム主義組織タリバンが制圧した「アフガニスタンのような厳しいイスラム統治は望んでいない」と訴えた。【12月9日 共同】
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【首都を制したアルカイダ系「ヌスラ戦線」を前身とするHTS “キリスト教徒や少数民族もHTSの統治下では安全に暮らせる”とのことだが・・・】
先ずは首都を制したアルカイダ系「ヌスラ戦線」を前身とする「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)がどういう統治を行うのか?というところです。アルカイダとは関係を断ったとは言っていますが・・・・アフガニスタンのタリバンのような存在になるのか?

****シリア内戦で大規模攻勢 反体制派を率いる組織「HTS」とは?****
シリア内戦で大規模攻勢を仕掛けている反体制派は、米国がテロ組織に指定している「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)が主導している。

国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派「ヌスラ戦線」を前身とする組織だが、近年はアルカイダとの関係を絶ち、アサド政権打倒に集中してきたとされる。一体、どんな組織なのか。

「この政権(アサド政権)を打倒することが目標だ」。HTSを率いるジャウラニ指導者は5日、米CNNテレビのインタビューにこう強調した。

CNNや中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」などによると、ジャウラニ氏はイラクでアルカイダ系の戦闘員として反米武装闘争に身を投じた経験があり、2011年にシリア内戦が始まってからは、ヌスラ戦線を設立して参戦した。

 だが、16年ごろにアルカイダとの関係を絶ち、17年には複数の武装組織を吸収する形でHTSを結成。拠点とするシリア北西部イドリブ県で「シリア救国政府」も設立し、支配地域での統治を強めた。

HTSは最大3万人規模の戦闘員を擁するとみられ、北西部の支配地域では石油などの資源も管理しており、一定の経済力もあるとされる。

HTSは米国や国連などがテロ組織に指定している。だが、ジャウラニ氏はCNNに「イスラム統治を恐れる人たちはきちんと理解していない」と語り、キリスト教徒や少数民族もHTSの統治下では安全に暮らせると強調。

「他の集団を消す権利は誰にもない。多くの宗派がこの地域で何百年も共存してきた」と語った。政権打倒後は「国民に選ばれた議会」を設立する考えも明らかにした。
 
シリアでは長年、アサド政権による強権的な支配が続き、内戦が始まってからは各地で政府軍による激しい空爆も相次いだ。政治犯として収容された人たちの多くが厳しい拷問にかけられ、そのまま行方不明になった人も数多い。
 
それだけに、HTSが制圧した北部アレッポや中部ハマでは、アサド政権の支配からの解放を祝う市民の姿も報じられている。

ただ、シリアではクルド人組織を含む多様な反体制派が各地で勢力を維持しており、過激派組織「イスラム国」(IS)も今月、東部で一部地域を支配下に置いたとの報道もある。仮にアサド政権を打倒したとしても、反体制派がまとまるのは容易ではないとみられる。【12月8日 毎日】
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“キリスト教徒や少数民族もHTSの統治下では安全に暮らせる”・・・今はその言葉を信じましょう。不安を抑えて。

【HTS以外にトルコ支援をうける組織、クルド人武装勢力、IS、更にトルコ、アメリカなど関係国の思惑が入り乱れる】
次に心配されるのは上記記事最後にあるように、各武装勢力間のせめぎあいが今後どうなるのか?という点です。

****シリア各地に割拠する反体制派 イスラム過激派、親トルコ、クルド人…政権崩壊で混乱必至****
アサド政権が崩壊したシリアは2011年に始まった内戦の結果、各地にさまざまな反体制派が複雑な形で割拠する事態となった。それぞれ利害が異なる上、イスラム過激派は離合集散を繰り返すなどしており、政権崩壊後の情勢が混乱するのは必至だ。

シリア北西部イドリブには、アサド政権側との戦闘を主導したイスラム過激派「シリア解放機構」(HTS)などが根を張る。HTSは内戦開始直後に活動を活発化させた「ヌスラ戦線」を前身とする。16年に忠誠を誓った国際テロ組織アルカーイダとの決別を宣言し、他組織と合併して改名した。米国などはテロ組織に指定している。

北部のトルコ国境に面する一帯は、トルコのエルドアン政権が肩入れする「シリア国民軍」(SNA)の支配地域だ。HTSとともに政権側への攻撃に加わった。エルドアン大統領はアサド政権の退陣を求め、反体制派を通じてシリアへの影響力浸透を図ってきた。

また、北東部は少数民族クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が支配している。エルドアン政権はトルコ国内の非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)の分派だとして、過去にSDFに対する越境攻撃を行った。

さらに、東部の一部地域では小規模ながらイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が暗躍する。かつてシリアとイラクにまたがる広い範囲を制圧したが、米軍と連携したSDFなどの攻撃を受け、19年に支配地域を全て失った。東部にはISの勢力回復を警戒する米軍が兵士約900人を駐留させている。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、クルド人勢力は北東部に施設を設けてIS戦闘員ら数万人を拘束している。過去にISがこれらの施設を襲撃したこともあり、仮に戦闘員らが大量脱走すれば治安の悪化がシリアにとどまらず、周辺地域に飛び火する恐れもある。【12月8日 産経】
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【アメリカと共闘し、トルコと対立するクルド人勢力の今後は? トランプ新政権に見捨てられた後は?】
HTSとともに政権側への攻撃に加わったトルコが支援する「シリア国民軍」(SNA)は、トルコの影響力でHTSと一定にうまくやるのかも。

しかしクルド人勢力や、ましてやISは、HTSと協調するのはなかなか難しいかも。
すでにトルコ支援の勢力とクルド人勢力の間で衝突が起きています。

****トルコ支援のシリア反体制派、北部の町を米支援組織から奪取****
トルコ治安筋によると、トルコが支援する複数のシリア反体制派組織がシリア北部の町マンビジュを米国が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」 から奪取した。

シリアでは反体制派が首都ダマスカスを掌握し、アサド大統領を追放したが、北部での衝突は続いている。

SDFは「シリア国民軍(SNA)」などトルコが支援する組織と激しい戦闘を繰り広げ、ここ数日マンビジュを占拠していた。

ロイターが確認した動画によると、マンビジュでは住民が反体制派組織を歓迎する様子が映っている。マンビジュはトルコとの国境の南30キロの地点に位置する。

SDFは過激派組織「イスラム国」(IS) の掃討で米国の支援を受けているが、トルコはSDFについて、トルコ国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)とつながりのあるテロリスト集団が指揮していると主張している。

米国はSDFが制圧するシリア東部でプレゼンスを維持し、ISの復活を阻むために必要な措置を講じる意向を示している。

これとは別にオースティン米国防長官は、米軍がここ数日、シリアを攻撃したことについて、ISが混乱に乗じて活動を拡大することを阻止する狙いがあると説明した。【12月9日 ロイター】
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各勢力のせめぎあいには、バックにいる関係国の支援のあり方も問題になります。

トルコ・エルドアン大統領はこの機に、影響下の「シリア国民軍(SNA)」を使って、クルド人勢力を叩きたいという考えでしょう。

クルド人勢力にはIS掃討で共闘しているアメリカの支援があります。

****米、シリア情勢安定へ支援 政権移行巡り反体制派注視****
バイデン米大統領は8日、シリアのアサド政権崩壊について「長期にわたり抑圧されてきた人々にとって歴史的なチャンスだ」と述べ、情勢安定化に向けて支援する考えを示した。首都ダマスカスを掌握した反体制派の一部が「残忍なテロの記録」を有しているとし、政権移行を巡る動向を注視すると強調した。ホワイトハウスで記者団に語った。
 
バイデン氏は、米軍が今後もシリアで駐留を続け、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を続ける方針を表明。内戦で荒廃したシリアの復興のため人道支援を実施する意向も示し、数日以内に中東地域の首脳らと協議すると説明した。【12月9日 共同】
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“米軍が今後もシリアで駐留を続け、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を続ける方針”・・・・ということはクルド人勢力との共闘も続く、つまりトルコと利害がぶつかるということになります。

ただし、来年になれば状況は変わります。

****米国はシリアに関与すべきでない トランプ氏が投稿****
トランプ次期米大統領は7日、自身の交流サイト(SNS)で、アサド政権軍が反体制派の攻勢を受けているシリア情勢を巡り「米国は関与すべきではない。私たちの戦いではない」と主張した。(後略)【12月8日 共同】
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トランプ政権になればクルド人勢力はアメリカの後ろ盾を失い、トルコに売られるでしょう。そのときクルド人勢力がどうするのか?

アサド政権の枠組みもなくなった今は悲願の国家樹立の機会です。クルド人は国家を持たない最大の民族として、シリア、トルコ、イラク、イランに分散して暮らしてきました。

心情的には分離独立でしょうが、それは国内(シリアが国家と言える状態かどうかはわかりませんが)の反発・攻撃だけでなく、関係国トルコ。イラク、イラン全ての反発・介入を招くでしょう。

2017年にイラクのクルド人自治政府は独立を問う住民投票を行ったことで、イラク中央政府の軍事的攻撃を受け、それまでの支配地域も失うことになりました。

【ロシア・イラン・イスラエルの思惑 超簡単に】
関係国としては軍事基地を持つロシア、イランからイラクをへてレバノンに至る「シーア派の弧」を有していたイラン、そのイランと敵対するイスラエルの話がありますが、もうこれ以上記事が長くなるのは無理ですね。また別機会に。

ひとことで言えば、ロシアにとってシリアの軍事基地は中東、地中海、アフリカへの展開の要であり、絶対に手放したくないところ。一応反体制派と存続で合意したとの情報もありますが、今後は「どうかな?」といったところ。

イランは「シーア派の弧」の一画を失い、レバノン・ヒズボラも叩かれ、その再建が問題。すでに反体制派と接触しているとの情報も。

イスラエルは「残存する(アサド政権が有していた)化学兵器や長距離ミサイル、ロケット弾のような戦略兵器が過激派の手に渡らないようにするためという目的でシリアへの激しい空爆を行っています。また、イスラエルが占領するゴラン高原とシリア国境の非武装地帯に地上部隊を派遣したとのこと。

いろんな勢力・関係国の思惑が交差して、シリア内戦第2幕の危険をはらんだ状況です。

あと、シリア難民の帰還の問題もあります。
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