孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  アメリカ人6人解放、米からの不法移民の強制送還にも同意 トランプ流「取引」?

2025-02-02 23:26:37 | ラテンアメリカ

(ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領(左)は大統領官邸ミラフローレス宮殿で、トランプ氏の特使、リチャード・グレネル氏と会談した(31日、カラカス)【2月1日 BBC】)

【3期目に就任したマドゥロ大統領 トランプ政権は石油購入停止などの圧力】
トランプ米大統領は1日、不法移民と合成麻薬(フェンタニル)流入の対抗措置としてメキシコとカナダ、中国に対し関税を課す大統領令に署名し、4日に発効します。

これに対し、カナダ・メキシコは報復関税を課すとしており、中国はWTOへの提訴する(報復関税についてはその可能性を示唆)としています。

アメリカとカナダ・メキシコ・中国の間では表世界だけでなく水面下でも激しい「取引(ディール)」に向けたやり取りが行われていると推測されますが、それに先だって南米の反米左派マドゥロ政権との間で動きが見られます。

国民生活を破綻させた失政と強権支配を続けるマドゥロ大統領は不正が極めて強く疑われる大統領選挙で勝利したとして、国内野党勢力、欧米・南米諸国の批判を押し切る形で3期目の就任式を行っています。

****ベネズエラ マドゥロ大統領が3期目の就任式 野党は反発****
南米ベネズエラでマドゥロ大統領の3期目の就任式が行われました。野党は去年7月に行われた大統領選挙をめぐって、不正を強く訴えています。

ベネズエラで10日、現職のマドゥロ大統領の3期目となる就任式が行われました。

去年7月に行われた大統領選挙をめぐっては投票結果の詳細を開示しないまま、マドゥロ氏は一方的に勝利を宣言。
野党側は不正選挙だと強く反発し、9日にもデモが行われなど国内で混乱が続いています。

就任式でマドゥロ大統領は、「就任を妨害されなかったことは民主主義の偉大な勝利だ」と、3期目へ強い自信をのぞかせました。

マドゥロ氏の就任について欧米諸国や他の南米諸国は強く反発しています。【1月11日 TBS NEWS DIG】
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アメリカ・トランプ大統領も反米左派のマドゥロ大統領とは激しく対立する関係にあり、できればマドゥロ大統領を引きずり下ろしたいところ。1期目では、野党指導グアイド氏を担いで政権交代を試みましたが失敗しています。

****トランプ氏、野党指導者に危害加えないようベネズエラ政府に警告****
トランプ次期米大統領は、ベネズエラの野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏に危害を加えないよう同国の現政権に求めた。マチャド氏は9日に一時拘束された。同国では、昨年7月に行われた大統領選で現職が当選したとする結果は不正だと抗議するデモが続いている。

トランプ氏は自身のソーシャルメディアプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」で、マチャド氏と大統領選に野党統一候補として出馬したエドムンド・ゴンサレス氏を称賛。

野党側が集計した記録によると、ゴンサレス氏は現職のマドゥロ大統領を上回る票を獲得したという。トランプ氏がベネズエラ大統領選について公に発言するのは初めて。

トランプ氏は、「ベネズエラの民主活動家マチャド氏とゴンサレス次期大統領は、数十万人の人々が現政権に対し抗議デモを行う中、ベネズエラ国民の声と意思を平和的に表明している」と投稿。

「米国の偉大なベネズエラ系米国人コミュニティーは、自由なベネズエラを圧倒的に支持しており、私を強く支持してくれた。これら自由の戦士たちは危害を加えられるべきではなく、安全に生存し続けなければならない!」とした。

マチャド氏は9日、首都カラカスで抗議デモに参加。同氏は、マドゥロ大統領が7月に勝利宣言を行った後、姿を隠していたが、この日4カ月余りぶりに公の場に姿を現した。野党側によると、治安部隊がマチャド氏を拘束したが、約2時間後に釈放したという。

トランプ氏のベネズエラに対する方針やマドゥロ政権に対し強硬路線を取るかどうかについては、臆測を呼んでいる。トランプ氏は、不法移民の大量送還を公約しているが、米国に不法滞在するベネズエラ人を送還するにはマドゥロ氏の同意が必要となる可能性がある。

トランプ氏は自身の投稿で、ゴンサレス氏を「次期大統領」と明確に表記。この表現はバイデン政権が11月に使い始めたばかりの呼称だ。マドゥロ氏は10日に3期目の大統領就任式を迎えるが、トランプ氏はゴンサレス氏を真の大統領と呼ぶかどうかを決めなければならない。

トランプ政権1期目に、同氏はマドゥロ氏ではなく当時の野党指導者だったフアン・グアイド氏をベネズエラの指導者と認めていたが、この戦略は失敗に終わった。再び同じ戦略を取れば、マドゥロ氏の反感をさらに買う恐れがある。【1月10日 Bloomberg】
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上記警告に続いて、トランプ大統領はベネズエラからの石油購入を停止する可能性が高いと表明し、マドゥロ政権への圧力を強めます。

****トランプ大統領、ベネズエラからの石油購入停止へ****
トランプ米大統領は20日、ベネズエラからの石油購入を停止する可能性が高いと述べた。

大統領執務室で記者団に「20年前は偉大な国だったが、今はめちゃくちゃだ。彼らの石油を買う必要はない。われわれの石油が十分にある」と述べた。

トランプ大統領の特使であるリチャード・グレネル氏は、ベネズエラの複数の高官と話したと明らかにし、21日の早い時間から会談を始める予定だと述べた。

トランプ氏は米大統領選挙戦中、ベネズエラのマドゥロ大統領を「独裁者」と呼び、第一次政権では、ベネズエラと同国石油産業に厳しい制裁を科した。バイデン前政権は、一部制裁をいったん緩和したが、マドゥロ氏が民主的選挙という約束を反故にしたとして制裁を復活させた。

ベネズエラの対米石油輸出は昨年、64%増の日量22万2000バレル。米国は中国(35万1000バレル)に次ぐ2位の輸出先だった。ベネズエラの石油産業は19年以降、米国の制裁下にあるが、シェブロンが合弁相手からの未払い配当を回収するため22年以降、ベネズエラ産石油の対米輸出を認められている。【1月21日 ロイター】
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一方、アメリカ国内の不法移民強制送還を実施しているトランプ大統領はベネズエラ出身移民の滞在資格にも厳しい対応を取る方針です。

****トランプ氏 ベネズエラ出身移民の滞在資格延長 認めない方針(油井’s VIEW)****
政情不安の国などから逃れてきた人たちを保護するための滞在資格について、トランプ政権は、南米ベネズエラ出身の人たちの資格延長を認めないとする方針を発表しました。

ベネズエラ出身の人たちの滞在資格の延長を認めないとする方針。これもトランプ新政権が前のバイデン政権の方針を覆したものです。

アメリカでは、政情不安の国などから逃れてきた人達を対象に、一時的に合法的な滞在資格を与えるTPSという制度があります。

前のバイデン政権で、TPSの対象国は拡大してこちらの17か国に。これらの国から来た人たちは、たとえ法的な手続きをしないで入国しても、申請すれば強制送還が猶予され、就労許可も与えられるという制度です。

前のバイデン政権は、このうち、滞在期限を迎えるベネズエラ出身の人達について1年半の延長を政権交代直前に認めたのですが、トランプ新政権は、今回、その延長を破棄すると発表したのです。

トランプ新政権は、今後、このTPSの見直しを進めるものと見られていて、TPSで滞在している人の間では、いつ「合法」から「不法」へとみなされるかわからないとして懸念が広がっているのです。

選挙公約に不法移民対策を掲げたトランプ氏ですが、1月29日、取り締まりを強化する新たな法案に署名しました。

この法律は、ベネズエラ出身の不法移民の男に殺害された女性の名前からレイケン・ライリー法と呼ばれているのです。

レイケンさんは、22歳。ジョージア州の看護学生でしたが、去年(2024年)2月、ジョギング中にベネズエラ出身の男に殺害されたのです。男は不法移民で、その後逮捕され、終身刑を言い渡されています。

この事件は、大統領選挙期間中だったこともあり大きな注目を集め、共和党側は動画を作成・公表。事件はバイデン政権の移民政策が原因だと批判する主張を展開しました。

不法移民の取り締まりを強化する今回の法律。署名式には、殺害されたレイケンさんの母親も出席しました。
「約束を果たしてくれたトランプ大統領に感謝します。  彼は国境を守り、レイケンを決して忘れないと言いましたが、その通りでした。  彼は約束を守る人です。彼は国民のために闘ってくれると信じています」

世論調査を見ると、アメリカ国民の大半が、犯罪歴のある不法移民の強制送還を支持しています。

AP通信の今月(1月)の調査では、暴力犯罪で有罪判決を受けた不法移民の強制送還には82 %が賛成。

一方、暴力犯罪で有罪判決を受けていない不法移民の強制送還には賛成37%、反対44%となっていて、反対が上回っているのです。

トランプ政権は、まずは、犯罪歴のある不法移民を中心に取り締まる方針ですが、アメリカ経済の多くが移民の労働力に依存する中で、どこまで取り締まりの対象を広げるのかが焦点となっています。【1月31日 NHK】
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“犯罪歴のある不法移民を中心に”と言いつつも、現在でもかなり大雑把・不正確に不法移民拘束が行われていますが、今後暴力犯罪で有罪判決を受けていない不法移民の拘束が増えてくると、そうした者の生活を根底からひっくり返し、家族離散の事態も招くことをどう考えるのか、本国に送還されると母国政権やギャングなどから命のを脅かされる危険がある者をかまわず送還するのか・・・などが大きな問題となってきます。

【アメリカ人6人解放させ、不法移民の強制送還にも同意させ、トランプ「取引」大成功? マドゥロ政権が得た見返りは?】
そうした根本的な問題はさておいても、当面の不法移民強制送還についても、トランプ大統領としては、ベネズエラ不法移民を送還するについてマドゥロ大統領の協力を必要としています。

基本的にマドゥロ政権を嫌っている、石油購入で圧力もかけている、しかし、不法移民強制送還についてはマドゥロ政権の協力も必要・・・という状況での「取引」の一環でしょうか、両者が話し合い、マドゥロ政権が拘束していたアメリカ人6人を解放、不法移民強制送還についてもマドゥロ政権は受け入れるようです。

****ヴェネズエラで拘束のアメリカ人6人解放、トランプ大統領の特使がマドゥロ大統領と会談後****
南米ヴェネズエラ政府は1月31日、拘束していたアメリカ人6人を解放した。これに先立ちニコラス・マドゥロ大統領は同日、ドナルド・トランプ米大統領の特使と首都カラカスの大統領官邸で会談した。

トランプ氏とリチャード・グレネル特使がソーシャルメディアで、6人の解放を発表した。
グレネル特使は、解放された6人と対面した様子の動画や6人と機内で撮影した写真をソーシャルメディアに投稿し、6人がトランプ大統領に電話で感謝したと説明した。

これに先立ちホワイトハウスはヴェネズエラ政府に、「アメリカ人の人質」の解放と、アメリカ政府が強制送還するヴェネズエラ人犯罪者を受け入れるよう要求。応じなければ報復すると圧力をかけていた。(中略)

グレネル特使はソーシャルメディア「X」に、「離陸した。アメリカ市民6人と帰国している最中だ」、「(6人はトランプ氏と)話したばかりで、ひっきりなしに感謝していた」と書いた。
トランプ氏は、グレネル特使が「ヴェネズエラから人質6人」を連れ戻しているのだと投稿した。

ヴェネズエラの国営メディアは、特使との協議は礼儀正しいものだったと伝えた。
ヴェネズエラ政府は今年1月、アメリカ国籍者を含む「雇い兵」集団を拘束したと発表していた。

マドゥロ大統領は1月10日、3期目に就任。昨年7月の大統領選で3選を果たしたと選管が発表したものの、野党は不正集計だと反発し、アメリカを含む国際社会の大多数はマドゥロ氏の再選を認めていない。

ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット大統領報道官は31日、グレネル特使の訪問は、マドゥロ氏をヴェネズエラの正当な指導者とアメリカ政府が認めたということではないと説明していた。【2月1日 BBC】
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****米から移民送還受け入れへ=ベネズエラ「同意」とトランプ氏****
トランプ米大統領は1日、国内で拘束した不法移民の強制送還に関し、南米ベネズエラが受け入れに同意したと発表した。ベネズエラ側が移送手段も提供するとしているが、具体的な開始時期や方法は不明だ。

グレネル米大統領特使(特別任務担当)は1月31日、ベネズエラの首都カラカスでマドゥロ大統領と会談。その後、同国で拘束されていた米国人6人を連れて帰国した。会談で不法移民の受け入れを巡っても話し合った可能性がある。

トランプ氏は1日、SNS上で「われわれは記録的な人数の不法移民を送還しており、全ての国が受け入れに同意した」と強調した。

国境管理や移民対策を重視するトランプ氏は大統領就任後、不法移民の取り締まりを強め、拘束した移民を出身国に強制送還している。政情や治安が不安定なベネズエラからは60万人を超える移民が米国に流入しているとされる。【2月2日 時事】 
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トランプ大統領としては、マドゥロ政権へ圧力をかけながら、アメリカ人6人解放させ、不法移民の強制送還にも同意させた・・・「大成功」といったところでしょう。これから国内に対し盛大にアピールすると思われます

ただ、“グレネル特使の訪問は、マドゥロ氏をヴェネズエラの正当な指導者とアメリカ政府が認めたということではない”とは言うものの、実際のところはどうでしょうか。

自分にとって利があるなら、相手が人権無視の独裁者だろうが何だろうが、そういった理念・価値観は問題にしないのがトランプ大統領の「取引」・外交姿勢の特徴です。

マドゥロ政権がアメリカにお土産を差し出す見返りに、今後の実質的政権承認に近いようなものをアメリカ側から得たとしたら、圧政に苦しみ、大統領選挙を盗まれたベネズエラ国民を見捨てたことにも。あくまでも想像ですが。

「取引」の詳細がわからないのも「取引」の特徴です。
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