(ナレンドラ・モディ首相と習近平国家主席(ロシア中部カザンで、23日、インド政府提供)【10月24日 読売】)
【中印国境 一定の合意 5年ぶりの首脳会談 実際に撤兵の動き】
ネパール(カトマンズ)旅行を終えて昨夜帰国・帰宅しました。(田舎住まいなので、成田から自宅までが大変)
旅行中、情報の収集が普段以上に不十分となりましたので、そのあたりご容赦ください。
まだ、バタバタしていますのでそのあたりも。
でもって、今日取り上げるのはインドと中国の国境領有権紛争の話題。
印北部カシミール地方の係争地で2020年に衝突し、多数の死傷者を出して両国軍が対峙している問題で、ミスリインド外務次官は21日、ニューデリーで記者団に対し、中国側との数週間に渡る話し合いの結果、「実効支配線(LAC)のパトロールの取り決めについて合意に達したと発表しました。【10月21日 産経より】
中国側からも同様の発表も。ただ、合意内容の詳細は明らかにされていません。
****中国、インドとの国境紛争巡る合意を確認 詳細は非公表****
中国外務省は22日、国境紛争を巡りインド側と合意に達したことを確認した。ただ、2020年に軍事衝突が起きた地点の国境線について合意したのか、国境線全体について合意したのかは明らかにしなかった。
同年の軍事衝突ではインド兵士20人、中国兵士4人が死亡。インド外務省は21日、両国が国境地帯のパトロールに関する取り決めに合意したと発表していた。
中国外務省報道官はこれについて定例会見で「中国とインドは最近、外交・軍事ルートを通じて、中印国境に関する問題について緊密な意思疎通を保っている」とし「双方は現時点で関連する問題を解決しており、中国はこれを前向きにとらえている」と述べた。
同報道官はインド側と協力して合意内容を履行すると表明したが、具体的な内容には触れなかった。【10月22日 ロイター】
同年の軍事衝突ではインド兵士20人、中国兵士4人が死亡。インド外務省は21日、両国が国境地帯のパトロールに関する取り決めに合意したと発表していた。
中国外務省報道官はこれについて定例会見で「中国とインドは最近、外交・軍事ルートを通じて、中印国境に関する問題について緊密な意思疎通を保っている」とし「双方は現時点で関連する問題を解決しており、中国はこれを前向きにとらえている」と述べた。
同報道官はインド側と協力して合意内容を履行すると表明したが、具体的な内容には触れなかった。【10月22日 ロイター】
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いずれにしても両国の緊張状態が一定に緩和の方向に向かっているようで、これを受ける形で「BRICS」首脳会議に出席した中印首脳の5年ぶりの会談も。ただ、“今回の会談が本格的な関係改善につながるかは不透明”とも。
****中印首脳5年ぶり会談、緊張緩和狙う 習氏「意思疎通と協力を強化」****
中国の習近平国家主席とインドのモディ首相は23日、主要新興国による「BRICS」首脳会議に合わせて露中部カザンで会談した。
習氏は冒頭で「双方は意思疎通と協力を強化し、相違点を適切に管理しなければならない」と関係改善を呼びかけた。両者の会談は2019年以来、5年ぶり。国境係争地での衝突による緊張を緩和したいとの思惑で双方が一致した形だ。
両国のメディアによると、習氏は「中印は発展途上国の団結の模範を示し、世界の多極化の推進に国際的な責任を負わなければならない」と指摘。モディ氏も中印関係の重要性を強調し「国境の平和と安定を維持することが我々の優先事項であるべきだ」と応じた。
近年、中印両軍はヒマラヤ山脈付近の国境係争地で小競り合いを繰り返し、20年6月には互いに死者が出るほど激しい衝突が起きてトップ外交が停滞していた。
ただ、互いに隣国との決定的な対立は望んでおらず、今回の会談に先立ちインド外務省は21日、中国との間で係争地でのパトロールに関する取り決めに合意したと発表するなど、双方が首脳会談のための環境整備を図っていた。
一方で、今回の会談が本格的な関係改善につながるかは不透明だ。国境紛争を巡っては過去にも緊張緩和で合意しながら摩擦が再燃してきた経緯がある。
南アジアを舞台とする両国の綱引きも激化しており、習指導部はインドと対立するパキスタンの後ろ盾となり、スリランカやモルディブなどとも連携を進める。
こうした動きを警戒するインドは、米印豪日(クアッド)のメンバーに名を連ねて米国主導の対中包囲網に加わる動きを見せて中国をけん制している。【10月23日 毎日】
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もし、本格的に中印関係が改善すれば、米日主導の対中国包囲網のクアッドの枠組みにも影響してきます。
ただ、両国は国境の領有権問題だけでなく、中国のインド洋進出などで基本的な競合対立関係がありますので、インドの中国への警戒は変わらないでしょう。
一応、今回合意に基づいて、両軍の撤収も始まっています。
****中国・インド両軍が“係争地から部隊の撤退を開始”インドメディア報道****
インドと中国が衝突を繰り返してきた国境の係争地から、両国の部隊が撤退を始めたとインドメディアが報じました。
インドのPTI通信は25日、現地当局者の話として、インドと中国が領有権をめぐって対立する北部・ラダック地方の一部から、両国の部隊が撤退を始めたと報じました。
また、別の当局者の話として、インドの部隊が装備品をより後方へと引き揚げ始めたと伝えています。
国境の係争地をめぐり衝突を繰り返してきたインドと中国の関係は、2020年に双方の軍に死傷者が出たことで急速に悪化していましたが、今月21日、インド政府が係争地のパトロールに関する取り決めについて両国の政府が合意したと発表。
その2日後には、インドのモディ首相と中国の習近平国家主席が5年ぶりとなる首脳会談を行い、関係の修復を目指すことで一致していました。
一方、中国外務省の林剣報道官は「合意した解決案に基づいて双方の一部部隊は関連作業を展開している。進展は順調だ」と述べ、軍の撤退が進んでいることを示唆しました。
ただ、撤退する部隊の規模などには言及しておらず、どこまで実現するのかは不透明な情勢です。【10月26日 TBS NEWS DIG】
インドのPTI通信は25日、現地当局者の話として、インドと中国が領有権をめぐって対立する北部・ラダック地方の一部から、両国の部隊が撤退を始めたと報じました。
また、別の当局者の話として、インドの部隊が装備品をより後方へと引き揚げ始めたと伝えています。
国境の係争地をめぐり衝突を繰り返してきたインドと中国の関係は、2020年に双方の軍に死傷者が出たことで急速に悪化していましたが、今月21日、インド政府が係争地のパトロールに関する取り決めについて両国の政府が合意したと発表。
その2日後には、インドのモディ首相と中国の習近平国家主席が5年ぶりとなる首脳会談を行い、関係の修復を目指すことで一致していました。
一方、中国外務省の林剣報道官は「合意した解決案に基づいて双方の一部部隊は関連作業を展開している。進展は順調だ」と述べ、軍の撤退が進んでいることを示唆しました。
ただ、撤退する部隊の規模などには言及しておらず、どこまで実現するのかは不透明な情勢です。【10月26日 TBS NEWS DIG】
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【中国が合意に応じた背景 アメリカの“もしトラ”、台湾侵攻に備え後方の対インド関係を安定化させたい思惑】
以上が事実関係としての中印両国の動きですが、こうした合意・一定の緊張緩和が進んだ背景については以下のようにも。
基本的にはインドの要請に中国側がようやく一定に応じたという形ですが、そうすると「なぜ今、中国は応じたのか?」という話になります。
中国としては、“もしトラ”後のアメリカとの対立、あるいは台湾進攻に備えて、背後のインドとの対立を鎮めておきたい思惑があるとも指摘されています。
****〈インドと中国が首脳会談した背景〉印中国境における合意の意味、衝突は安定化へと進むのか****
詳細は正式には発表されてないものの、インドと中国が、陸上国境における国境パトロールについて合意し、2020年の衝突以来続いてきた緊張を解くことになったようだ。モディ首相と習近平主席の首脳会談についても、正式に行われた。
22年の主要20カ国・地域(G20)時と、23年のロシア、中国、インドなど有力新興国でつくる「BRICS」首脳会談時に、立ち話のようなことはあったが、それらを除けば、正式な首脳会談は19年を最後に行われていない。
20年の印中国境における衝突で、インド側だけで死者20人、負傷者76人(中国側の死者は、異常なほど少ない中国政府の発表はあるが、実態は不明)出して以降、モディ首相は、習氏との正式な首脳会談を避けてきたのである。
だから、今回の国境問題における両国の合意が、一定の重要性を持ったものであることは、疑う余地がない。そこで、今回の合意が、どのような意味を持っているのか分析する。
インドの要求に中国が応じた
まず、今回の合意の経緯をみると、インドの要求に中国が応じたものであることがわかる。
そもそも、20年に起きた侵入事件は、中国側がインド側に大規模に侵入を仕掛けたものであった。中国側は、5カ所に大規模に侵入し、前述の衝突を含め、複数の衝突を起こしながら、居座ってきた。中国側は、この侵入を支援するために、ハイテク兵器を有する大規模な部隊を展開し、緊張を高めてきた。
これに対し、インド側も大規模に軍事力を展開するとともに、交渉を通じて中国軍の撤退を求めてきた。交渉は一定の成果を上げ、22年までに3カ所から、中国側は撤退した。しかし、その後、中国は、「平常に戻った」と主張し、インド側の撤退要求に応じなくなったのである。
インド側は中国への圧力を高めるため、日米豪印4カ国の枠組み「QUAD(クアッド)」各国を呼び込む作戦に出た。22年に印中国境から100キロメートル(㎞)以内の地域で、米印共同演習を行った。
23年には、中国全土を爆撃できるカライクンダ基地に米空軍のB1爆撃機や日本のオブザーバーを招いて共同演習を実施した。そして24年には、QUAD各国すべてが参加する「タラン・シャクティ」空軍演習を行った。
これまで、インドは、QUADの共同演習を海洋だけに限定し、印中国境に近づけなかったから、これらは大きな変化で、中国側に対する圧力強化として、とらえられるものだった。
このような経緯を見ると、中国が侵入事件を起こし、インドが中国軍の撤退を求めて、交渉を行ってきたが、中国側がなかなか応じないできた経緯がわかる。今回、両国の合意が成立したということは、中国に何らかの変化があり、インドの要求に応じたことを意味している。
なぜ今なのか
では、これまで要求に応じてこなかった中国が、なぜ今、要求に応じたのだろうか。考えられる変化は2つだ。11月に行われる米大統領選挙の影響と、27年ともいわれる中国の台湾侵攻との関連性である。
米大統領選挙は、中国にとって最重要の関心事項だ。バイデン政権とトランプ政権での対中戦略は、大まかな方向性では同じだ。両政権とも中国に厳しい姿勢で臨んでいる。
それでも、中国は、トランプ政権を、より恐れているようだ。それは、トランプ政権がロシアのウクライナ侵略を終わらせて、対中戦略に集中するよう主張していること、トランプ政権を支える共和党陣営の方が安全保障の専門家が充実していること、そして、トランプ政権の方が予測しがたいことが理由と思われる。
実際、第1次トランプ政権では、習氏は、友好の証として、トランプ大統領から夕食会に招かれた。そしてトランプ大統領は、習氏にチョコレートケーキを勧めながら、同時に、「シリアにミサイルを撃ち込んだ」と伝えたのである。
これは、習氏からみれば、今はシリアがミサイルの標的だが、中国も標的になりえることを示した点で、中国に対する脅しとして捉えられるものだった。しかも、そういった脅しを、友好の証である夕食会の時にやるとは思わず、油断していたから、効果は倍増し、習氏は強いショックを受けただろう。つまり、トランプ政権は、力を効率的に使いながら脅しをかけてくる、怖い政権、という印象をあたえた。
今回の米大統領選挙で、またトランプ氏が選挙に勝つようなことがあれば、それは、中国にとり、怖いはずである。だから、それに備えなければならない。
中国としては、太平洋側での米国対策に集中したい。だとすると、太平洋側から見て背後にあたる印中国境などの地域では、情勢を安定化させておきたい。インドとの問題を解決しておきたい動機が、中国にはある。
ただ、このような中国の姿勢は、トランプ政権に備えるという防御的なものではなく、より攻撃的なものとしてとらえることも可能である。それは、中国が、もし台湾に侵攻するつもりならば、背中側である印中国境での緊張を下げ、台湾侵攻に集中したくなるからだ。
実際、中国は今年、台湾周辺で軍事演習を繰り返しているが、演習にはアルファベット順の名前がついており、aの次はb,c,d…と続いていくことを示唆している。徐々にエスカレートさせる計画を持っていることは明白だ。
今後、中国軍の侵入は止まるのか
今後、どうなるだろうか。印中国境における中国軍によるインド側への侵入事件数をみると、11年には213件だったものが、19年は663件に増え、確実に増加傾向にある。
中国側は、印中国境で629もの村を建設しており、中国軍が展開するための軍事拠点になっているし、中国軍が展開するための道路や橋、トンネル、空港などの建設も急ピッチで進んでいる
だから、今回の合意で、もし仮に、一時的に中国軍が行動を自制したようにみえたとしても、長期的には、中国軍のインド側への侵入が止まるとは思えない情勢だ。
だから、インド側の対応もまた、中国への対抗策を強めていくことが予想される。前述の、インド洋をめぐるQUAD各国の海軍協力は、空軍協力へ拡大した。
先月行われたQUAD首脳会談の共同声明では、「我々はまた、インド太平洋地域全域における自然災害への文民による対応をより迅速かつ効率的に支援するため、我々の国々の間で空輸能力を共有し、我々の集合的な物流の強みを効果的に活用することを目指すべく、本日、インド太平洋ロジスティクス・ネットワークのパイロット・プロジェクトを立ち上げることを発表する」という文言がある。
災害対応を全面にだしてはいるが、QUAD各国が軍の部隊を迅速に空輸する協力である。まさに、海洋協力から空の協力へと、QUADは拡大しつつあることを示すものだ。
こうしてみると、中国に対するQUAD各国の防衛協力は、ゆっくりとではあるが、着実に進みつつある。まさにインドはゾウ、といってもいいだろう。ゾウを一生懸命に押しても、大きすぎて動かすことは難しい。しかし、長期的な視点に立てば、ゆっくりと、着実に、動いている。
中国がインドを刺激し続ける限り、ゾウは動き続けるだろう。それは、日本にとって、インドとの協力が、大事になっていくことを示唆している。【10月25日 WEDGE】
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