(濃いスモッグに覆われたインド首都ニューデリー(2019年11月3日撮影)【11月4日 AFP】)
【世界最悪レベルの大気汚染が野焼き等で更に悪化 深刻な健康被害も】
インドの大気汚染が中国以上に深刻なのは周知のところですが、このところ連日のように状況悪化のニュースが報じられています。
“インド首都大気汚染“最悪”に 野焼き、花火で「深刻」”【10月28日 共同】
花火というのは、ヒンズー教の大祭の関係ですが、“PTI通信によると、大気中の微小粒子状物質「PM2.5」は27日、一部で1立方メートル当たり400マイクログラムを超えた。日本の環境基準は1日の平均値を同35マイクログラム以下と定めている。”とも。
****大気汚染で全校休校=子供にマスク500万枚配布も―インド首都****
(中略)インドの首都ニューデリーの行政当局は1日、大気汚染悪化を理由に5日まで全ての学校を休校にすると発表した。
また、微小粒子状物質PM2.5を遮断する高機能マスク500万枚を子供に配布。
PM2.5の元になる粉じんの発生を防ぐため、首都とその周辺で5日まで建設工事が禁止される。(後略)【11月1日 時事】
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****車のナンバーで通行規制、タージマハルに「空気清浄車」 大気汚染深刻なインド****
大気汚染が近年で最悪レベルになっているインドの首都ニューデリーで4日、当局は車のナンバーによる通行規制を実施した。ナンバープレートの末尾の数字が奇数か偶数かで、1日ごとに市内を通行できる車の数を制限する。
人口2000万人規模の巨大都市ニューデリーでは、大気汚染の水準が中国・北京の3倍以上に達している。ニューデリーから南に250キロ離れた17世紀の象徴的な大理石の墓、タージマハル付近には、空気清浄機を搭載した車を停車させ、周辺の大気汚染の改善を試みた。
病院には呼吸器の異常を訴える人が殺到。空港では3日、視界の悪化により37便が行き先の変更を余儀なくされた。
新規制の導入に伴い、市内各所の交差点では600グループ以上の警官が動員された。規制に違反した場合、運転手は4000ルピー(約6000円)の罰金を科される。
しかしニューデリーを走る700万台のバイクとスクーター、公共交通機関、女性のみが乗車している車は車両規制の対象外になっており、大気汚染改善の効果はないとの批判が噴出している。 【翻訳編集】AFPBB News
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“女性のみが乗車している車は・・・”というのは、インドでは性暴力が多発しており、女性が安全に公共機関を利用できないというインド社会のもう一つの問題の表れです。
上記記事にも11月5日までの「学校閉鎖」があげられていますが、その後も断続的に「学校閉鎖」に追い込まれているようです。
****ニューデリーの大気汚染 学校閉鎖など市民生活への影響拡大****
大気汚染が深刻な問題になっているインドでは14日午前、首都ニューデリーで、大気汚染物質のPM2.5が一時、基準の20倍になり、15日まで学校が閉鎖されるなど、市民生活に影響が広がっています。
大気汚染が世界最悪レベルとなっているインドでは、この時期、野焼きなどの影響で大気汚染が一層、悪化します。
現地にあるアメリカ大使館によりますと、ニューデリーでは14日午前、大気汚染物質のPM2.5がWHO=世界保健機関の基準の20倍に達し、空は灰色に曇って数十メートル先を走る車が、はっきりとは見えなくなるなど視界も悪くなりました。
このためニューデリーの当局が、15日まで学校を閉鎖することを決めるなど影響が出ています。
生徒の1人は「呼吸をするのもつらいほどで、外出すると不快に感じます。学校が閉鎖されたことで学業に支障が出ます」と話していました。
ニューデリーでは大気汚染を改善しようと、今月4日から15日まで車のナンバーによって通行を規制する対策がとられていますが、効果はあまりあがっていません。【11月14日 NHK】
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こうしたインドの状況に、汚染が改善した中国が「中印両国の汚染対策能力の違いを示しているようだ」とも。
****インドで大気汚染が深刻化、当局は緊急事態を宣言****
2019年11月15日、インドの首都ニューデリーなどで大気汚染が深刻化している。汚染レベルは最悪とされ、インド当局は公衆衛生上の緊急事態を宣言した。中国紙は米紙の記事を引用し、「北京の大気汚染は改善されてきているのに、ニューデリーは一向に改善されていない」と報じた。
(中略)大気汚染の状態を示す指数は最高値の999を突破。これは一日に紙巻たばこ40〜50本吸うのに匹敵する。指数が400を超えると、呼吸器疾患がある人に甚大な危険をもたらすほか、 健康な肺にも悪影響が及ぶとされる。
(中略)今年6月のインド政府の調査によると、同国では毎年100万人が大気汚染によって死亡しているが、うち5歳未満の子どもが10万人以上を占めている。
AFP通信は専門医の話として「子どもは肺が小さいため有毒な大気を大人の2倍の速度で吸い込んでおり、これが呼吸器系疾患や脳の発達を妨げる要因となっている」と報道。科学誌の「大気汚染は喫煙と同じレベルの悪影響を胎児に及ぼす」との研究も紹介した。
インドの状況について、中国共産党系の環球時報は中国の大気汚染と比較した米紙ワシントン・ポストの記事に言及。「数年前まで中国とインドの首都は同じような大気汚染レベルであったが、今では北京の大気汚染は改善し続けているのに対し、デリーはいまだに危険な毒性を持ったままだ」と指摘した。
環球時報は「中国の首都の大気の質の改善は目を見張るものがある」とも強調。「スイスのIQAir AirVisualによると、北京は今年、世界で最も大気汚染が深刻な200都市のリストから外れる見通しで、PM2.5の濃度は2008年に記録を取り始めてから最も低い水準になった」と述べ、「北京とデリーの明確な差は中印両国の汚染対策能力の違いを示しているようだ」と分析した。【11月17日 レコードチャイナ】
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まあ、中国に揶揄されても致し方ないインドの現状です。
“最高値の999を突破。これは一日に紙巻たばこ40〜50本吸うのに匹敵”というのは、長期に及ぶ深刻な健康被害をもたらします。
【女児殺害が横行】
上記大気汚染以外にも、インドからは連日深刻な問題が報じられています。
****インド警察、家族が生き埋めにしようとした女の赤ちゃん救出****
インドの警察当局は1日、家族が生き埋めにしようとしていた赤ちゃんを救出したと発表した。同国では2週間前にも、墓から陶製のつぼに入った女の赤ちゃんが発見され、後に「奇跡的」な生存が大々的に報じられたばかり。
(中略)インドでは、女性が結婚する際に持参金を支払うために経済的な負担がかかり、女児の殺害が横行している。 【11月2日 AFP】
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上記事件は、単発的な嬰児遺棄事件ではなく、女児の誕生が望まれておらず、女児の殺害が横行しているというインド社会の抱える問題のひとつの表れです。
【カースト絡みの名誉殺人 仏教に大挙して改宗する不可触民】
インドの社会問題ということでは避けて通れないのがカースト制の問題。
****異なるカーストのインド人夫婦、親族が石で殺害 「名誉殺人」か****
インド南部カルナタカ州で、異なるカーストの男性と結婚し、罰を恐れて実家から逃げ出していた女性が、家族に会うために夫と共に地元の村に帰ったところ、自らの親族らに石を投げ付けられて2人とも死亡した。警察が7日、明らかにした。
同じ村の出身で、いずれも29歳だった2人は、家族の反対を押し切って3年前に結婚。同州ベンガルールなどに転居し、2児をもうけていた。2人は先月、家族に会うため帰郷していた。
地元警察官がAFPに明かしたところによると、「村人らが6日、夫婦を見つけ、女性側の男のきょうだいに知らせた。男は暴徒を集めて2人を襲い、石で殺害した」という。
(中略)インドの地方部で横行するいわゆる「名誉殺人」とみられている。
名誉殺人は、厳格なカースト制度において一家の名誉を守るためとして、近親者や村の長老らが手を下すことが多い。
国連の統計によると、世界中で毎年5000件発生する名誉殺人事件のうち、1000件がインド国内で発生しているとされる。
同国の最高裁は2011年、名誉殺人で有罪とされた者には死刑を適用すべきとの判断を示している。 【11月8日 AFP】
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カースト制などの身分格差では、最底辺に位置付けられているのが枠外に置かれた不可触民と呼ばれる人々。
その数はインド人口13億人の2割とも。
その不可触民が今、差別を否定する仏教に大挙して改宗しており、その運動の中心にいるのが日本人僧侶・佐々井秀嶺氏だそうで。知りませんでした。
****インド仏教徒1億5000万人の頂点に立つ“日本人僧” 佐々井秀嶺84歳とは一体何者か?****
ヒンドゥー教徒の国・インドで今、アウトカーストである不可触民を中心に、爆発的に仏教徒が増えている。
半世紀前にわずか数十万人だった信者は今や1億5000万人となった。
その仏教復興の原動力となったのは、インド仏教の頂点に立つ一人の日本人僧、佐々井秀嶺氏だ。彼は半世紀前にインドに渡り、貧しい人々を助けてきた。
インドでは絶大な人気を誇る佐々井氏だが、日本ではほとんど知られていない。いったいどんな人物なのか。(中略)
「歯向かえば殺され、残飯しか与えられない」不可触民
しかし佐々井氏は、インタビューがはじまると顔つきが変わり、講談師のように力を込めインドの現状を語り始めた。
「お釈迦様が生まれたのはご存知の通りインドです。しかし現在、13億人のインド人口のほとんどはヒンドゥー教徒だ。インド仏教は他の宗教の攻撃に遭うなどして13世紀ごろまでには消滅してしまった。しかし、今、仏教徒が爆発的に増えておる。改宗している多くは、人口の2割いると言われる不可触民と呼ばれる人々です」
ヒンドゥー教とインドの身分制度であるカースト制度は深く結びついており、大別して僧侶、王族や戦士、商人、奴隷と4つの階層に分かれている。その奴隷のカーストにさえ入れないアウトカーストが不可触民である。
佐々井氏が半世紀前に渡印した時、不可触民たちは井戸の水すら汲むことを禁じられ泥水をすすっていた。仕事も死体処理やきつい農作業しか選ぶことができず、高カーストから理不尽な理由で殺されても家族は訴えることもできなかったという。
それでも何かにすがらずには生きていけないと、自分たちを差別するヒンドゥー教の神であっても、信じて祈っていた。
「なぜ抵抗しないか不思議に思うでしょう? しかし『お前たちは人間ではない』と3000年間にもわたって植え付けられた洗脳は、そう簡単に解けるわけではない。歯向かえば殺されるし残飯しか与えられないから体も小さく弱い。
俺は各村をまわり『あなたたちも同じ人間である、仏教はヒンドゥー教と違って皆、平等である』と唱え続けたんだ」
犯罪が多発するスラム街が生まれ変わった
すると、泣いてばかりいた不可触民たちは「自分も人間である」と目覚め始めたという。親たちは一食ぬいてでも子供を学校に行かせるようになり、子供は期待に応えて猛勉強した。学校でも職場でも高カーストからの嫌がらせは山ほどあったが、そんな時は、皆で団結し抗議するようにと佐々井氏は指導した。
その結果、犯罪が多発するスラム街だった街が、半世紀を経て3階建ての立派な住宅が建ち並ぶ治安のいい街に生まれ変わったそうだ(後略)【11月14日 白石あづさ氏 文春オンライン】
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佐々井秀嶺氏のアウトスケールの破天荒人生が面白いところですが、スペースの都合ですべて割愛しました。興味のある方は白石あづさ氏の著書をご覧ください。
インドでは消滅したとされていた仏教に改宗した人々が1億5000万人ということになると、社会的に無視できない勢力にもなります。
【ヒンズー・イスラムの対立を刺激しかねない聖地アヨディヤの裁判 ヒンズー至上主義の台頭】
貧困、カースト制などと並んでインドが抱える最大の問題のひとつがヒンズー・イスラムの宗教間の対立ですが、この問題は対応を誤ると凄惨な暴動の危険性もはらんでいます。
その危険な問題を刺激しかねない裁判が・・・・
****印アヨディヤの聖地、ヒンズー教寺院建設のため引き渡し命じる判決 最高裁****
インドの最高裁判所は9日、ヒンズー教とイスラム教の間で帰属をめぐって対立していた同国北部ウッタルプラデシュ州アヨディヤにある聖地をめぐり、ヒンズー教寺院建設のために土地を引き渡すよう命じる判決を下した。
ヒンズー教寺院の建設に道を開く形となり、ナレンドラ・モディ首相を支持するヒンズー国家主義者らにとっては大きな勝利となる。
最高裁は、1992年にヒンズー教徒の暴徒が460年の歴史を持つモスクを破壊したアヨディヤの聖地について、ヒンズー教寺院の建設を統括する財団に土地が引き渡されなければならないとする判断を下した。
数十年にわたる苦々しい法廷闘争、また宗教闘争の決着を目指した今回の歴史的な判決は一方で、新たなモスクを建設するために聖地とは別の土地がイスラム教徒側の団体に与えられるとした。
判決に先立ち、インド当局は国内各地で警備を増強。警察が厳戒態勢を敷く中、モディ首相は平静を保つよう呼び掛けていた。
モディ首相率いるヒンズー国家主義を掲げるインド人民党の支持者を含む、国内の多数を占めるヒンズー教徒の強硬派は、戦士である神ラーマ王子がアヨディヤで誕生したとみなし、16世紀にイスラム王朝であるムガル帝国の最初の皇帝バーブルが、1.1ヘクタールの土地に立つ寺院の上にモスクを建設したとしている。 【11月9日 AFP】*****************
1992年にヒンドゥー原理主義集団によってモスクが破壊された暴動では、イスラム教徒を中心に1200人が死亡したとされています。
****アヨーディヤー事件****
1992年 12月から始るヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立による事件。
北インドのウッタルプラデーシュ州のアヨーディヤーでムガル朝創始者バーブルの部下により建立されたバーブリー・マスジドがヒンドゥー原理主義集団の手で破壊され,続く衝突で主としてイスラム教徒を中心に 1200人が全インドで死亡した。
インド国民会議派に率いられている政府は,急拠,地元の州政権 (インド人民党) を解任し,民族義勇団をはじめとするヒンドゥー原理主義団体を非合法化し,インド人民党の幹部も投獄した。
政府はさらにマスジド破壊弾劾決議を可決し,続いてアヨーディヤーの係争地を取得する方針を決定した。
この事件は単なる宗教対立ではなく,政教分離の世俗主義を基調とする民主主義勢力とヒンドゥー原理主義を掲げる勢力との対立がもたらしたものである。【コトバンク】
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事件を起こした民族義勇団は「イスラムに宥和的な」ガンジーを暗殺した団体でもありますが、与党インド人民党の支持基盤であり、モディ首相もそのメンバーの一人です。
“モディ首相は判決後、ツイッターで「判決はどちらの勝訴か敗訴かではない。ヒンドゥー教でもイスラム教でもなく、国家への奉仕が我々には必要だ」と述べ、国民に冷静な対応を呼びかけた。”【11月10日 朝日】とのことですが、“ヒンドゥー至上主義を掲げるモディ首相は、この土地にヒンドゥー教寺院の建設を選挙公約にしていた”【同上】ということで、立ち位置は明らかです。
2002年にはヒンドゥー教寺院建設の運動に関わった人たちの乗った列車がグジャラート州で放火され、58人が死亡する事件が起き、これに対する報復としてイスラム教徒に対する暴動に拡大、1000~2000人が殺害されましたが、当時の州首相がモディ氏で、暴動を阻止しなかったと批判されていました。
宗教的価値観というのはどこの国でもそうですが、世界最古の叙事詩「ラーマーヤナ」のラーマ王子を引っ張り出されても、部外者としては如何とも・・・・。
時の権力者がそれまでのものを破壊して新たなものを作るというのは古今東西で行われていることで、ムガル帝国の最初の皇帝バーブルもその一例でしょう。
その後の数百年はその事実をもとに営まれており、今更そのことをひっくり返されたら市民生活は大混乱に陥ります。
しかし、民族・宗教が絡むと、そうした社会安定のための“時効”的な発想を否定する“原理主義”が優先します。
“政教分離の世俗主義を基調とする民主主義勢力とヒンドゥー原理主義を掲げる勢力との対立”ということでは、ヒンドゥー原理主義が優先する傾向を強めているのが今のインドのようです。
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