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(事件後、基地入口を警戒する米兵 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6828873946/ )
【子供9名を含む住民16名を射殺】
アフガニスタンでの米軍による不祥事が続いています。
今年1月には、アフガニスタン駐留の米海兵隊員らがタリバン兵士の遺体に放尿している動画がネット上に公開され物議を醸しました。
【1月13日ブログ「アフガニスタン タリバン遺体に米軍兵士放尿 事態収拾に追われるオバマ政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120113)】
2月には、駐留米兵がイスラム教の聖典コーランを焼却したことへの住民の抗議が激化し、混乱の中で住民とアメリカ側双方に犠牲者が出ました。
【2月26日ブログ「アフガニスタン コーラン焼却事件の混乱拡大 反米感情と相互不信」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120226)】
いずれも、現地の反米感情を強め、アメリカの作戦遂行を更に困難にし、今後の和平交渉や撤退計画にも影響しかねない事件でしたが、今回は駐留米兵が女性・子供を含む民間人に向かって銃を乱射するという、これまで以上に衝撃的な事件です。
****米兵が市民に銃乱射、15人死亡 アフガン南部*****
アフガニスタン南部カンダハル州で11日、駐留米兵が、基地から外出して民間人に向かって銃を乱射した。アフガン国防省によると、子どもを含むアフガン人の15人が死亡、9人が負傷した。米兵は、同州パンジュワイ地区の米軍基地付近の民家3軒を襲撃したという。
アフガンに展開する米軍主体の国際治安支援部隊(ISAF)は、この米兵を拘束したと発表した。「非常に残念な事件」との声明を出したが、動機など詳細は調査中として明らかにしていない。
アフガンでは2月下旬、複数の米兵がイスラム教の聖典コーランを燃やしたことをきっかけに、大規模な反米デモが各地で約1週間にわたって発生した。カブールの内務省で米士官が殺害されるなど、アフガン兵や警察官が一緒にいた米兵を襲う事件が相次いだ。
カンダハル州は反政府武装勢力タリバーンの活動が活発な地域。タリバーンはコーラン焼却に猛反発しており、さらなる強硬姿勢を取る可能性がある。【3月11日 朝日】
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続報によれば、犠牲者は16名で、うち9人が子どもだったとの情報もあります。
また、米紙ニューヨーク・タイムズ電子版によると、容疑者の陸軍2等軍曹は、6歳以下の女児4人を含む11人の遺体を1カ所に集めて焼いたとも報じられています。
この陸軍2等軍曹は38歳で、イラク戦争に3回派遣された経験があるが、アフガンは初めてだったそうです。任務は地域の安定化で、村の長老らと関係を築く役割を担っていたとか。【3月12日 朝日より】
また、“銃乱射”とういう表現が各紙で使用されていますが、TV報道では頭部を1発づつ撃たれているとのことで、パニック状態での“乱射”というよりは、冷静に“処刑”したというような感じもあります。
襲撃した米兵は武器と暗視装置を持って基地を抜け出して犯行に及んだとみられています。
【オバマ米大統領「事件は悲劇であり、衝撃的だ」】
オバマ米大統領は、11日、犠牲者への追悼と事件の調査を約束する声明を発表し、事態収拾に努めています。
****アフガン米兵乱射:オバマ大統領が追悼声明****
アフガニスタン南部カンダハル州で国際治安支援部隊(ISAF)の米兵が銃を乱射し、多数の民間人を殺傷した事件で、オバマ米大統領は11日、犠牲者への追悼と事件の調査を約束する声明を発表した。
アフガンでは先月、米兵が基地内でイスラム教の聖典コーランを焼却する事件があり、米軍に対する抗議デモやテロが続いていた。アフガン国民の反米感情を刺激する「不祥事」が相次いだことで、アフガン駐留米軍の撤収にも影響が出る可能性もある。
オバマ大統領は声明で「(乱射)事件は悲劇であり、衝撃的だ」と述べ、治安維持を主要任務にしている米兵が多数の民間人を殺傷する側に回ったことへの衝撃をにじませた。大統領はパネッタ国防長官に徹底的な調査を指示する一方、アフガンのカルザイ大統領と電話協議し、アフガン国民に対する「深い尊敬の念」を伝えた。
米メディアによると、事件を起こしたのは米ワシントン州のフォートルイス基地所属の陸軍2等軍曹。乱射後、米軍基地に戻り自首したという。パネッタ長官はカルザイ大統領に電話をかけ、2等軍曹を軍法会議にかける方針を伝えた。動機は現段階では明らかになっていない。
米・アフガン両政府は今月9日、米軍が管理してきたテロ容疑者収容施設の管理権をアフガン側に移すことに合意し、関係改善に向けて動き始めたばかりだった。コーラン焼却で噴出した反米感情が乱射事件を機にさらに高まる可能性もあり、オバマ政権は危機感を強めている。【3月12日 毎日】
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【精神を蝕む戦場の狂気】
1月の遺体放尿事件は“悪質な悪ふざけ”、2月のコーラン焼却は“不注意による事故”という見方もできますが、今回の事件は“狂気”そのものであり、容疑者の精神面に病的なものがあったことも推測されます。
ただ、そうした個人的な“狂気”“病気”を助長したのは、戦場という狂気が支配する極限の緊張状態であり、また、コーラン焼却事件などによる混乱・不信・不満などであったのではないでしょうか。
戦場の狂気が兵士の精神状態を蝕むことは容易に想像されます。
米陸軍兵士で自殺が増加しているとの報告も今日報じられています。
****米兵の自殺、イラク戦争後に80%増加*****
イラク戦争開戦後に米陸軍兵士の自殺者数が80%増加したとの米軍医らの報告が、8日の英医学誌「インジュリー・プリベンション」に発表された。
これによると米陸軍兵士の自殺者数は1977年~2003年、緩やかな減少傾向にあり、民間人の自殺率より大幅に低かった。だが、米軍のイラク進攻から1年が過ぎた04年から増加に転じ、08年には140人が自殺を図った。これは人年単位で04年比80%の増加で、一般社会よりもはるかに高い増加率という。
報告書は、「米陸軍の過去30年の記録上で前代未聞の増加率だ。08年に起きた自殺のうち30%は、03年以降の進攻以降のイラクにおける作戦、およびアフガニスタンで続く軍事作戦などと関連している可能性がある」と指摘している。
自殺者の大半は階級の低い若い白人男性で、うつ病その他の精神疾患の既往歴のある人が多かった。自殺者数の増加にともなって精神的な不調を訴えて診察を受けたり入院する例も増え、03年比で約2倍になったという。現役兵士の5人に1人が精神疾患で外来診察を受けたことになり、「公衆衛生上の問題が広がっている恐れがある」と報告書は警告した。
また、08年における自殺の3分の1は未配属部隊で発生しており、戦闘経験のない若い兵士が抱えるストレス対策としてカウンセリングを行う必要があると指摘している。【3月12日 AFP】
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世界でも有数の“民主的”社会であるアメリカ社会で育った若者が、戦場での極限状態のなかで正気を保てることの方が不思議でしょう。
10年9月21日ブログ「アフガニスタン 戦争の狂気:「気晴らし」のため「スポーツ感覚」で一般人殺害か?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100921)で取り上げたように、アフガニスタンでは、駐留米軍の兵士5人が「気晴らし」のため一般住民を殺害したという事件もありました。この米兵は麻薬やアルコールを常習していたとされ、「スポーツ感覚」で住民を殺害していたとされています。
****米兵、「気晴らし」アフガン住民殺害 軍が5人訴追*****
・・・・事件は1月と2月、5月の計3回、イスラム原理主義勢力タリバンの拠点、南部カンダハル州で発生した。
兵士らは手榴弾(しゅりゅうだん)を爆発させて米軍が攻撃されたように装い、一般住民に向けて発砲。その後、遺体を切断して写真撮影したり、一部の兵士が頭部の骨などを収集したりしていた疑いもあるという。
関与した兵士は、ハシシュ(大麻樹脂の粉末)やアルコールを常習していた可能性が強く、快楽目的で一般住民を殺害していたとされる。
米陸軍は兵士5人のほかにも、7人を捜査妨害や麻薬使用、事件を告発しようとした兵士への集団暴行で訴追。組織的な犯行で、しかも隠蔽(いんぺい)工作が行われた可能性も浮上している。(後略)【10年9月21日 産経】
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戦場に狂気はつきものです。
下記は10年9月21日ブログからの再録です。
****狂気に蝕まれる精神 ソンミ、ハディサ・・・・*****
極限状態に置かれる戦争においては、しばしば常軌を逸した民間人殺害が起こります。
ベトナム戦争での「ソンミ村虐殺事件」は、米軍が国際的批判にさらされ支持を失い、国内的にも反戦運動のシンボルにもなりました。
“1968年3月16日に、南ベトナムに展開するアメリカ陸軍のうち第23歩兵師団第11軽歩兵旅団・バーカー機動部隊隷下、第20歩兵連隊第1大隊C中隊の、ウィリアム・カリー中尉率いる第1小隊が、南ベトナム・クアンガイ省ソン・ティン県ソンミ村のミライ集落(省都クアンガイの北東13km 人口507)を襲撃し、無抵抗の村民504人(男149人、妊婦を含む女183人、乳幼児を含む子ども173人)を機関銃の無差別乱射で虐殺。集落は壊滅状態となった”【ウィキペディア】
イラク戦争では「ハディサ事件」が起きています。
“2005年11月19日、バグダッドから西に260キロにある「スンニ派三角地帯」の町ハディサで起きた。同地をパトロール中の米海兵隊員が、同僚1人が道路脇の爆弾で死亡したのをきっかけに、子どもを含む民間人の男女24人を殺害した。” 【07年5月31日 AFP】
両事件ともに、当初軍内部報告では隠ぺい工作が行われています。
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今回の住民射殺事件への住民側の抗議行動などに関する記事はまだ目にしていません。
2月のコーラン焼却事件のときは即日に抗議行動が起き、大きな混乱を起こしましたが、若干様相が異なるのでしょうか?
アフガニスタン社会においては、“死”はありふれたことで、コーラン焼却ほどの衝撃はないのでしょうか?
それもまた悲しむべきことです。
それとも、これから抗議の混乱が起こるのでしょうか?
米軍撤退のスケジュールが早まり,アフ【ガ】ーン政府の未熟な治安部隊だけが,あとに残されるという事態になるかもしれません.