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(北朝鮮旧紙幣 “flickr”より By Ray Cunningham
http://www.flickr.com/photos/zaruka/3952058104/)
【平壌の大半の商店は閉鎖】
「やっぱりね・・・」と言うしかないですが、北朝鮮が昨年11月末に電撃的に実施したデノミは失敗に終わったようです。
旧貨幣100ウォンを新貨幣1ウォンとするデノミを行い、貨幣交換に上限を設け、インフレ抑制やたんす預金吸い上げなどで市場経済を抑制し計画経済への回帰を図ったとみられていますが、逆に物価暴騰や流通の停滞を招き、一部には餓死者や暴動の発生も報じられています。
こうした混乱を受けて、閉鎖されていた市場取引を全面的に許容する政策変更、責任者の解任などが行われています。
今回のデノミでは、交換上限が設けられたことと並んで、労働者への給与支給額は据え置く措置が採られました。
物価が100分の一になって給与が変わらなければ実質賃金は一挙に100倍になる訳ですが、当然ながら需要の急拡大は物価高騰を招きます。
こういう措置を行った場合、最終的にどういう状態に落ち着くのか、そもそもどうしてそんなことが可能なのか、まるで、経済学の一般均衡分析の壮大な実験のようでもありました。
結果的には、単に物価高騰だけでなく、流通の麻痺を引き起こし、食糧すら購入できない状態を招いたようです。
経済学のモデル分析においては、“時間の経過とともにある均衡点に向かって・・・”と言えますが、実態経済では時間の経過の間に餓死者も発生します。
****北朝鮮:デノミ2カ月 食料価格高騰、闇両替が横行 不満封じ込め?市民を銃殺刑*****
北朝鮮が通貨ウォンのデノミネーション(通貨呼称単位の変更)を実施して約2カ月。当局はデノミ政策の失敗を認め、実務責任者の朴南基(パクナムギ)朝鮮労働党財政計画部長の解任に踏み切った。地元の経済関係者らから国内の状況を聞き取ると、党幹部を処分せざるを得ないほど、市民生活が大きく混乱している様子が浮かび上がる。
当局は昨年11月末、市民の給料支給額を据え置いて、物価を100分の1に下げた。
これにより市民が市場に殺到、市場は品不足への懸念から閉鎖した。食料を購入できなくなった市民は闇市場に頼った。
このため物価は逆に上昇し、デノミで1キロ20ウォンに下がったコメの価格も1月末には平壌では400ウォンに跳ね上がった。
1月25日の時点で一部の外国人向けを除き、平壌の大半の商店は閉鎖された。食堂の場合、料金を100分の1にする義務があるのに、食材は100分の1では買えず、営業できない状態だ。
デノミに伴い、新通貨の公式の為替レートが1ドル=約100ウォンに設定された。だが、国の両替機関だと35ウォンに値切られることも。その結果、市民は闇両替に向かい、通貨ウォンの価値が急落。先月20日の時点で実勢レートは600ウォンに達した。外国に出張する知人に食料の持ち込みを依頼するケースも多く、北京発平壌行き定期便ではコメや野菜などが詰まった荷物が大量に持ち込まれる。
当局はデノミの約半年前、政府機関など数十カ所に物資輸入を割り当てていた。物資がそろった状態で物価を下げればデノミは成功する見通しだったが、供給目標は大半が未達成だったという。
現時点では暴動は起きていない。当局は昨年末、違法な外貨取引に関与したとして市民数人を銃殺刑にした。「不満を封じ込めるための見せしめ」とささやかれたという。
北朝鮮の経済関係者は「デノミ失敗で国の経済再建は2、3年遅れた」と指摘するが。【2月4日 毎日】
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“物資がそろった状態で物価を下げればデノミは成功する見通しだった”・・・そんなものでしょうか?
【結局は死んでしまうのだから・・・】
“現時点では暴動は起きていない”とはありますが、ああいう国ですので実態は分からないものの、暴動を伝える報道もあります。ニュースソースが北朝鮮に批判的な韓国のインターネット新聞ですので、信憑性は疑問でもありますが。
****北朝鮮、食糧難で暴動多発か****
韓国の北朝鮮専門インターネット新聞「デーリーNK」は2日、北朝鮮で、自由市場に対する当局の取り締まりを受けて、食糧不足に陥り自暴自棄になった人びとが、治安要員らを襲撃していると伝えた。
北朝鮮の現体制を強く批判するデーリーNKによると、北朝鮮では、前年11月に実施された通貨ウォンのデノミネーション(通貨呼称単位の変更)の影響で、食糧や物資がますます人びとに届かなくなっているという。
北朝鮮・咸鏡北道の情報源が、デーリーNKに対し、「デノミで商人や住民が資産を失った。そのため、人びとは当局要員に対して復讐行為に出ている。どのように行動したところで、結局は死んでしまうのだからと、自暴自棄になっているのだ」と語ったという。
1日にも、平安南道Pyongsungの市場を警備中の治安要員らが、「多数の群衆」に襲撃されたという。
また、北朝鮮脱出住民(脱北者)グループによると、YanggangのHyesanでも、取り締まりを監視する治安要員と住民との間で衝突が起きた。脱北者の話によれば、衝突が激化するなか、住民の1人が治安要員から銃を奪って乱射し、治安要員1人が重体となったという。【2月3日 AFP】
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餓死者などの食糧事情については、下記のような韓国の報道もあります。
****北で物価暴騰・賃金中断・餓死者も、「事態は深刻」*****
2010年2月2日(火)19:30
北朝鮮では昨年11月のデノミネーション(通貨呼称単位の変更)後、物価と為替相場が急騰し商品取引が途絶えた状態で、労働者賃金の支払いも全面的に中断され、餓死者が出るなど、深刻な「後遺症」が出ていると伝えられた。
北朝鮮との国境地域、中国・丹東の対北朝鮮筋と貿易業者らが2日に明らかにしたところによると、北朝鮮がデノミ後に告示したコメ1キログラム当たりの価格は30ウォンだったが、最近、新義州では300ウォンで取引されている。咸鏡道など物資搬入が難しい山間地域では、4000ウォンまで上がっているという。当局が1キログラム45ウォンとした豚肉は新義州では800ウォン、デノミ前は20ウォンだったたばこ「CRAVEN A」は300ウォンと伝えられた。物価が連日のように値上がりするなか、中朝の「担ぎ屋貿易」をしている華僑や北朝鮮貿易商は、品物を確保しても市場に出さず、そのためさらに値が上がるという悪循環が続いている。
ある華僑は、最近、新義州の親類からコメを送ってほしいと連絡があった際、同地域でも「飢えて死ぬ人が出た」と言っていたと話した。咸鏡道、平安道の山間地域で餓死者が多いという話はよく耳にしているが、丹東の対岸にあり物資の確保が比較的スムーズな新義州で餓死者が出たということは、北朝鮮の物資需給状況が予想よりはるかに深刻なことを示していると説明した。(中略)
当局は1日から外貨の使用を認めたが、「100ドルを交換すると懲役刑」など、統制は依然として厳格だ。ある貿易商によると、これまで北朝鮮通貨だけを扱ってきた朝鮮中央銀行でもドルの両替が可能になったが、統制が厳しく、10ドルを両替しようとした新義州の大学生は出どころを明示することができなかったため退学させられ、労働鍛錬所に送られたという。
さらに、北朝鮮当局は、デノミ実施後に民心をつかもうと、「賃金100倍引き上げ」措置を断行したが、2カ月もたたないうちに支払いが滞った。賃上げ措置にデノミを歓迎していた農民や労働者らは、物価急騰の上に賃金支払いも中断され、「ぼうぜん自失」の状態だと伝えられる。対北朝鮮筋らは、「貨幣を発行しようにも、印刷に必要な資金もない状態。当然、賃金を支払える状態ではなく、北朝鮮の状況は大変深刻だ」と口をそろえた。
現代経済研究院は、北朝鮮内部でも物資を十分供給できない状況で、デノミだけでは経済を再生することはできないだろうと指摘。市場と外為市場まで統制したために、予想以上に深刻なインフレが起こったようだと分析した。
【2月2日 聯合ニュース】
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【胸を痛める金総書記】
こうした状況で、金正日総書記は、「人民がいまだにトウモロコシに依存しているという事実に最も胸を痛めている」「今、わたしがすべきことは、人民にコメやパン、麺などを豊富に食べさせることだ」と発言したことを、朝鮮労働党機関紙、労働新聞が1日報じています。
北朝鮮が国民の生活水準向上に失敗していることを認めるのは異例のこととか。
また、北朝鮮労働党の中央委員会と中央軍事委員会が発表した共同スローガンは「人民生活で決定的転換を成し遂げよう」というものだそうです。
****人民生活重視を強調=党創立65周年でスローガン-北朝鮮*****
朝鮮中央通信は6日、北朝鮮労働党の中央委員会と中央軍事委員会が10月10日の党創立65周年に先立ち、共同スローガンを発表したと伝えた。軽工業と農業を重視する姿勢を改めて示し、「人民生活で決定的転換を成し遂げよう」と住民の生活水準向上を目指すことを訴えている。
スローガンは200項目以上あり、「すべてを人民生活向上のために」として、食料や生活物資の増産を強調。また、軍の強化に加え、「宇宙科学技術と核技術を征服した勢いで、科学技術の全分野を最先端水準に高めろ」とミサイルや核開発をさらに進める方針も示した。【2月6日 時事】
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ミサイルや核開発より食料や生活物資の増産が優先すべきという、世界の常識が通用しない国でもありますが、住民の生活水準向上を目指すことを前面に掲げるようになった分だけ、まだ改善されたと見るべきでしょう。
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