孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トランプ大統領  ガザ住民の完全移住、アメリカによるガザ再開発を公の場で表明 トランプ流の取引?

2025-02-05 23:39:39 | パレスチナ

(会談する米国のトランプ大統領(右)とイスラエルのネタニヤフ首相=米ホワイトハウスで2025年2月4日、AP【2月5日 毎日】 自身の“壮大な提案”をまくしたてるトランプ大統領の傍らで、笑いをかみ殺したようなネタニヤフ首相・・・そんな印象も)

【ガザを「中東のリビエラ」に】
トランプ大統領のパレスチナ・ガザ地区から住民を全員ヨルダン・エジプトなどに移住させ、ガザは再開発するという発想は、1月26日ブログ“トランプ大統領  ガザ住民をヨルダン・エジプトに「一掃」する「ガザ再建案」”でも取り上げました。

その時点では、トランプ大統領が大統領専用機「エアフォースワン」の機内で記者団へ語った話ということで、「どこまで本気かね・・・」という感もありましたが、再び、今度はイスラエル・ネタニヤフ首相との会談後、首相が同席する場での発言ということで、アメリカの正式な提案という形になってきています。

もちろん、後述のように、トランプ流ディールの一環という側面もあるでしょうが。

いずれにしても、公の場に持ち出したことで、トランプ提案をめぐってイスラエルや中東諸国なども反応を示し、提案が現実のものとして動き始めています。

ガザをアメリカが「所有」し、米軍派遣の可能性も視野に入れて再開発を行うとも。

****トランプ氏、アメリカの「ガザ所有」を主張 住民の「再定住」も提案****
「世界中の人に住んでもらう」アメリカのトランプ大統領がパレスチナ自治区ガザの住民「全員」を移住させたうえで、アメリカがガザを所有すると主張しました。

4日、イスラエルのネタニヤフ首相と会談したトランプ大統領。その後の会見で飛び出した発言が…

トランプ大統領
「我々がガザを所有する。破壊された建物を取り除いて、限りない雇用と住居を生み出す経済開発を行う。『中東のリビエラ』これはとても素晴らしい場所になる」

パレスチナ自治区ガザをフランス・イタリアのリゾートになぞらえ、イスラエル軍によって破壊されたガザをアメリカが経済的に発展させる計画を提案しました。記者から「アメリカ軍の兵士を送るか」と問われると…

トランプ大統領
「(Q.ガザの治安確保のために米軍部隊を派遣しますか?)もし必要ならそうする。我々がガザを引き継いで開発する」 と、派遣の可能性を否定しませんでした。

ガザには、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの停戦合意を受けて避難先から自分たちの土地に戻る多くの住民がいます。トランプ大統領は会談で、ガザ住民は全員ガザを去り、周辺国など別の場所に「再定住」すべきだとし、こう主張しました。

トランプ大統領
「人々はガザに戻るべきではない。パレスチナ人がガザに戻りたがるのは、代わりに住む場所がないからだ。代わりの場所があればガザに戻りたいと思わないし、安全で美しいその場所に住みたがるだろう」

一連の発言は、パレスチナ国家樹立による「2国家共存」という、これまでのアメリカの中東政策をひっくり返しかねないもので、パレスチナ人の強制移住は「民族浄化」との批判もあがっています。

イスラエル ネタニヤフ首相
「あなたは歴代大統領のなかでイスラエルの最高の友人だ」

ネタニヤフ首相はトランプ大統領をこう持ち上げましたが、中東で影響力を持つサウジアラビアの外務省は、トランプ氏の会見後「パレスチナ人をその土地から追い出そうとする試みなど、パレスチナ人の正当な権利に対する、いかなる侵害も完全に拒否する」との声明を出しています。【2月5日 TBS NEWS DIG】
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確かにガザの復興は困難を極める問題です。
“先月発表された国連の被害評価報告書によると、イスラエルの爆撃による5000万トン超のがれきの撤去には21年かかり、費用は最大12億ドルに上る可能性があるとみられる。”【2月5日 ロイター】

効率性の観点で言えば、トランプ大統領の構想には一理あります。しかしながら・・・

“トランプ氏はガザについて「何十年にもわたって死と破壊の象徴だった」と語り、住民全員が域外への再定住を希望していると一方的に主張した。「彼らは地獄のような暮らしをしてきた。ガザは人が住む場所ではない。彼らが戻りたい唯一の理由は他に選択肢がないからだ」と指摘した。”【2月5日 読売】

“180万人のガザ市民は立ち去らなければならない。そして、その費用は裕福な周辺国家が負担する。”【2月5日 FNNプライムオンライン】とも

「中東のリビエラ」・・・・前回(1月26日ブログ)でも指摘したように、地上げを行って再開発・・・という不動産業者の発想です。

ガザに済むかどうかは第一義的にはガザ住民が決める話で、“ガザは人が住む場所ではない。 彼らが戻りたい唯一の理由は他に選択肢がないからだ”という決めつけには閉口します。

【米国が主導してきた第二次大戦後の世界秩序を自らの手で突き崩すトランプ大統領】
これまでのパレスチナ国家建設による「二国家共存」「二国家解決」という(イスラエルを除き)国際的に認知された枠組みを根底から覆す破壊的構想ですが、当然ながら、占領地からの住民の強制移住は国際法違反です。

ヨルダン・エジプトなど周辺国はガザ住民移住を拒否していますが、飾住民・周辺国を力でねじ伏せて強行するなら、それはロシアのウクライナ侵攻などと同様に、日本政府が否定する「力による現状変更」です。

***トランプ氏「ガザ所有」案の衝撃 和平プロセス崩壊させる破壊力、国際規範軽視際立つ****
トランプ米大統領は4日、パレスチナ自治区ガザの戦後処理を巡り、米国がガザを「所有」するとの構想を明らかにした。第2次政権発足時に表明した「領土拡大」に沿った内容だ。

一方で同構想は、米国をはじめとする国際社会が目指してきたイスラエルとパレスチナ国家による「2国家共存」に向けた和平プロセスを土台から崩すものだといえ、米国の中東外交を根本から作り替える破壊力を持つ。

トランプ氏の構想の前提となっているのは、ガザから「すべてのパレスチナ人」をエジプトやヨルダンなどの第三国へ強制移住させるとの案だ。実質的にガザを無人にし、米国が開発事業に責任を負うとする。

トランプ氏は4日の記者会見で、地中海北岸の欧州の高級保養地になぞらえ、ガザは「中東のリビエラ」になると豪語した。

同時にトランプ氏は、ガザ住民にとってはガザの域外に出ることが「幸せだ」としつつ、将来的な帰還には否定的な姿勢をみせた。

1993年のオスロ合意を起点とする中東和平プロセスは、パレスチナがヨルダン川西岸とガザを領土とする独立国家を樹立し、イスラエルとの共存を図るとの発想に基づいて積み上げられてきたものだ。歴代の米政権はこれを主導し、プロセス前進を目指してきた。

「2国家共存」支持明言せず
しかし、トランプ氏は会見で「何度も失敗してきたことを繰り返すのか」とし、「2国家共存」への支持を明言しなかった。

同氏は第1次政権の2020年にも、国際法に違反する西岸や東エルサレムのユダヤ人入植地の多くに、イスラエルの主権を認めるなどとする独自の「中東和平案」を公表している。今回浮上した米国による「ガザ所有」構想は、従来のイスラエル寄りの立場に、商業的利益を重視する自身の「米国第一」主義を加味したものだ。

トランプ氏は第2次政権で、デンマーク自治領グリーンランドやパナマ運河、カナダへの領土的野心を公言し、軍事力行使も排除しないとしてきた。ガザに対しても米軍派遣を否定はしていない。

透けてみえるのは、武力などによって当事者を無視した領土変更は認めないとする国際規範の軽視だ。トランプ氏は、米国が主導してきた第二次大戦後の世界秩序を自らの手で突き崩している。【2月5日 産経】
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【狂喜するイスラエル 反発するハマス・アラブ諸国 自分の力に酔うトランプ大統領】
前回ブログでも触れたように、今回トランプ構想と似たような、ガザの住民をエジプトのシナイ半島に強制的に移住させるという発想もあったイスラエルは、今回提案を大歓迎しています。

****「歴史的な朝」イスラエル閣僚、トランプ氏の「ガザ所有」発言を歓迎****
トランプ米大統領がパレスチナ自治区ガザ地区を「米国が所有」すると発言したことを受け、イスラエル国内では歓迎の声が上がっている。米軍が駐留してガザを支配すれば、イスラム組織ハマスによる越境攻撃やロケット弾攻撃などの脅威が取り除かれると考えているためだ。ただ、ハマスやアラブ諸国の反発は必至で、奇抜な案の実現は未知数だ。

「歴史的な朝だ」「共に世界を素晴らしくしよう」――。イスラエルメディアによると、ネタニヤフ政権の閣僚からは、トランプ氏の発言に喜びの声が相次いだ。ネタニヤフ首相の政敵のガンツ元国防相も声明で「トランプ氏は独創的かつ興味深い考えを披露した」と前向きな見方を示した。

ハマスによるガザの実効支配が始まった2007年以降、イスラエルは5回にわたって大規模な戦闘を繰り返してきた。いずれもハマスによるロケット弾攻撃などを抑止する狙いがあったが、これまで「テロ攻撃」を根絶できてはいない。

仮に同盟国の米国がガザを事実上占領すれば、イスラエルの安全保障環境は劇的に向上することになる。ネタニヤフ氏はトランプ氏との共同記者会見で、「トランプ氏は違う未来を見ている」と述べ、「注意を払う価値のあるアイデアだ」と称賛した。【2月5日 毎日】
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当然ながらハマスはもちろん、アラブ諸国は反発しています。

****「火に油注ぐ」と強く非難 トランプ大統領「ガザ所有」構想で周辺国反発****
アメリカのトランプ大統領が戦闘で荒廃したパレスチナガザ地区を所有し、経済開発をする意向を示したことを受け、イスラム組織「ハマス」や周辺国から反発が相次いでいます。

ハマスは声明で、トランプ大統領の構想は「地域の安定に役立たず火に油を注ぐだけだ」と非難しました。そのうえで「これらの無責任な発言を撤回するよう求める」としています。

1月19日から始まったガザ地区の停戦は第2段階への移行に向けて協議が始まっていますが、交渉に影響が出る恐れもあります。

イスラエルとパレスチナの「2国家解決」を支持するサウジアラビアの外務省も声明を出しました。

東エルサレムを首都とするパレスチナの独立国家樹立の立場は変わらないとして、「パレスチナ人の正当な権利に対するいかなる侵害も明確に拒否する」と強調しています。

ガザ地区の隣国でトランプ大統領がパレスチナ人の移住受け入れを要請したエジプトでは5日、外相がパレスチナ自治政府の首相と会談しました。

両者はパレスチナ人がガザを離れることなく、早期復興計画を進めることの重要性を確認したということです。【2月5日 テレ朝news】
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しかし、南米諸国に不法移民送還を受入れさせ、カナダ・メキシコに譲歩を迫ったように、トランプ大統領はアメリカの“力”を持ってすれば中東諸国に同意させるのはたやすいと考えているのでしょう。

イスラエルとの関係正常化を促したい中東の地域大国サウジアラビアが「アラブの大義」を掲げて強硬姿勢を崩していないのは、トランプ氏にとってはやや厄介でしょうが。サウジアラビアとしても「アラブの盟主」を自任するためには、ここで折れる訳にはいかないところ。ただ、ヨルダン・エジプトが賛成に転じれば、話も違ってくるかも。

【ガザ住民にとっては「第2のナクバ」 ガザに希望を持てない若者には朗報かも】
肝心のガザ住民は・・・・意見を代表する政治システムが今は存在しないので、その声を集約することはできませんが、多くのガザ住民にとっては「第2のナクバ」でしょう。(ナクバ・・・イスラエル建国時に、75万人のパレスチナ人をその土地から追い出した、パレスチナ人にとっての大惨事・大破局)

ただ、ガザに希望が持てない若者は外に移住するかも・・・という見方も。

****ガザ住民、不安と反発 第2のナクバ(大惨事)が始まる****
トランプ米大統領が4日、米国がパレスチナ自治区ガザを所有し、住民を域外に移住させるべきだと提案したことに、ガザ住民からは不安と反発の声が上がった。

1948年のイスラエル建国で約70万人のパレスチナ人が難民となった「ナクバ(大惨事)」に重ねた住民は「第2のナクバが今始まる」と嘆いた。

「パレスチナ国家樹立の可能性をなくそうとしている」。南部ハンユニスで避難生活を送るマスリーさん(54)が電話取材に応じた。

マスリーさんは「(ガザに)戻ることができないのならガザを離れない」と話す。一方で「若者にとってガザの状況は壊滅的だ。仕事はないし、多くは完全に希望を失っている」と認め、ガザから出ることを多数が受け入れるかもしれないと語った。

ハンユニスに避難するバシーティーさん(19)は、トランプ氏やイスラエルのネタニヤフ首相が「ガザ住民を自分たちの土地に住む権利を持つ人間だとみていない。殺害するか強制退去させるべき犯罪者だと考えている」と批判した。【2月5日 共同】
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【トランプ流ディールの落としどころは?】
「これは途方もなく素晴らしい考えで、最高レベルの指導者たちから称賛されている。」(トランプ大統領)【2月5日 FNNプライムオンライン】・・・トランプ大統領は自身の提案に酔っているようにも見受けられますが、問題は今後どこまで事を進める考えなのか?というあたり。

トランプ流の「ディール(取引)」では、先ずしょっぱな強烈な提案を行い、そこから相手の譲歩を引き出すというのが常套手段。今回も、国際法違反にも問われる200万人のガザ住民強制移住がすんなりと進むとは思っていないでしょう・・・多分。

では、どのあたりを「落としどころ」に考えているのか?(それとも、本当に自分に酔っているだけで何も考えていないのか)

少なくとも、この話を進めるとハマスは強く反発し、ガザ停戦合意の第2段階(イスラエルの完全撤退とハマスの人質全員解放)は難しくなります。

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トランプ氏は会見で、停戦に関し、「どうなるか分からないが、継続されることを望む」と述べた。

ただ、ネタニヤフ氏はこれまで「戦闘再開」の可能性に言及してきた。戦闘再開を主張する閣内の極右勢力の更なる離脱を防ぐ目的があるとの指摘がある。

米ニュースサイト「アクシオス」は、ネタニヤフ氏がトランプ氏に対して、「第2段階」の実施を強制しないよう説得する意向だと報じていた。【2月5日 毎日】
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今回のトランプ提案は、停戦合意の第2段階に進まず、戦闘再開したいネタニヤフ首相へのトランプ大統領の援護射撃でしょうか?

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