孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  22日総統選挙・住民投票  チベット騒乱の影響は? 高まる台湾海峡の緊張

2008-03-21 19:12:33 | 国際情勢
明日22日に行われる台湾総統選挙は、中国との「終局統一」を掲げて中台の「共同市場構想」など対中融和を目指す最大野党、国民党の馬英九候補(57)と、台湾の独自性を主張する与党・民主進歩党(民進党)の謝長廷候補(61)が争っています。

つい先週までの世論調査などでは、経済低迷やこれまでの民進党・陳水扁政権への失望感から、1月の立法院選挙で3分の2以上を獲得して圧勝した野党・国民党の馬候補が、謝候補に20ポイントぐらいの差をつけて圧倒的な優位を保ってきました。

国民党の政治的主張は台湾の置かれた微妙な立場を反映していわく言いがたいところがありますが、「中華民国は中国の正統国家である」という基本認識のもとで、理念としては、大陸を実効支配している共産党の中華人民共和国と「一つの中国」という原則の下で平和的交渉を行い、最終的には中華民国(台湾)主導による中国・台湾再統一を達成することを目標としています。

ただ、中台“統一”に向けてのスタンスには党内・関係者でもかなり幅がありますし、時間経過とともに変化もしています。
現在のところ、今後の明確なタイムテーブルはなく、現実問題としては、「民進党の進める“台湾化”、ひいては“台湾独立”の動きには反対し、当面現状を維持し、統一も独立もせず中国を刺激しないことによって平和に経済を発展させること」を主張しています。

理念としては中台“統一”,“ひとつの中国”を堅持していますし、具体的政策として中台接近・共同市場形成による景気浮揚を主張していますので、先日来の中国・チベットの騒乱に対する中国の弾圧は民進党に格好の攻撃材料を与え、国民党にとって強い逆風となっています。

民進党・謝候補側からは「それみたことか、中国に近づき一体化するということは、台湾をチベットのような惨状にすることだ」といった趣旨の批判が強く起きています。
(現実政策として、中国との通商関係を強化していく点では、民進党も同じでしょうが。)
これに対し、馬候補は「ダライ・ラマとは違い、(中国が提唱する)“一国二制度”を拒否している」と述べ、対中融和姿勢が「台湾のチベット化」を招くと批判する与党の指摘に反論しています。

また、民進党は“チベット独立”を支持していますが、国民党は「中華民国は中国の正統国家である」という立場ですから、チベットは中華民国の一部ということになり、おいそれと“独立支持”というわけにはいきません。
国民党・馬候補は中国政府による武力弾圧は「極度に威圧的でばかげている」と非難はしていますが、党の表立っての方針としては「中華民国はチベット人の自治を認めたい」という自治容認の姿勢になるそうです。【3月21日 産経】(なるほどね・・・)

更に国民党・馬候補にとって具合が悪いのが中国・温家宝首相の発言。
温首相は全人代後の18日、「(台湾の将来は)台湾同胞を含む全中国人民によって決定される」と発言。
馬候補は「統一論議」は棚上げとし、経済分野に絞って中台の協力強化による振興策を提唱してきましたが、あらためて政治的な対中国方針を問われる格好となっています。

一般的には中国は“台湾独立”志向の強い民進党を強く警戒しているとされていますが、96年の台湾近海での威嚇ミサイル演習など、結果的にはいつも台湾を刺激し、“独立志向”に追いやることばかりやっています。
今回の発言といい、なにか意図があるのでしょうか?それとも単に政治的センスがないだけでしょうか。

いずれにしても、チベット騒乱・温家宝発言で民進党から激しく追い上げられる形となった国民党・馬候補はことさらに中国に対し厳しい姿勢をとることが求められました。
その流れで出てきたのが「チベット人民への弾圧が続けば、北京五輪のボイコットも排除しない」との声明。

ところがこれが裏目にでたようです。
野球の盛んな台湾では、代表チームが13日に北京五輪の出場権を獲得したそうです。
野球の予選は台湾総統選をしのぐニュースとして連日、有力紙の1面トップを飾るほどの盛り上がりで、馬候補のボイコット発言は、こうした社会の盛り上がりに水を差した格好になったとか。
民進党の謝候補も発言を逆手に取り「スポーツ界を犠牲にするな」と、批判を浴びせているそうです。【3月19日 毎日】

一般的に“スポーツの世界に政治を持ち込まない”とか“政治とスポーツは別もの”と言われます。
ただ、チベットの問題とオリピックのどちらが大切かと言えば、比べるまでもなく大勢の人々の生命・生活、民族の文化がかかっている“チベット問題”です。
その意味ではオリンピックは“たかがスポーツの祭典”にすぎません。比べること自体がナンセンスです。
“血のにじむような練習をしてきた選手がかわいそう”とも言いますが、チベットでは実際に血が流れています。

ただ、では中国に抗議するためオリンピックをボイコットすべきか・・・という話になるとまた別問題です。
確かに、ボイコットは中国に“赤っ恥”をかかせて“懲らしめる”のにはまたとない方法です。
でも、その結果チベットの事態が改善するならそれはいいでしょうが、どうでしょうか?
私など“赤っ恥”かかされたら、絶対に恨みは忘れず、“死んでもあいつの言うことなんかきくもんか”と意固地になります。
対面を重んじると言われる中国も同じなのでは。
安易なボイコットは“憂さ晴らし”にはなりますが、事態の改善をいよいよ難しくする懸念があります。
もちろんこのあたりは、事態の進展具合に応じた話にもなりますが。

台湾の場合は、要するにオリンピック野球競技での台湾代表の活躍が見たいというだけでしょう。
“チベット問題”はともかく、“台湾のチベット化”“中台関係の将来”よりも、“オリンピックが見たい”と言うのであれば、“統一”と言おうが、“独立”と言おうが、所詮国民にとってはその程度の関心事にすぎないのかな・・・とも感じてしまいます。
案外、社会の現実・国民の本音を表した話なのかも。まあ、同じ民族ですしね。

今回、総統選挙以上に国際的に注目されているのが、同時に行われる予定の“台湾の名前での国連加盟”の是非を問う住民投票です。
“台湾”を国家とみなし、“台湾独立”・“「ひとつの中国」の否定”にもつながる可能性があり、中国が激しく反発しているのはもちろん、国民党は“中華民国名での国連加盟”是非を問う対案を出し、与党“台湾名”についてはボイコットするとかしないとか・・・随分揉めていました。
与党・民進党としては住民投票での否決は、“国連加盟”そのものへの国民の意思が否定されることにもなりかねず、最悪でも国民党案だけでも成立させたいとか・・・なんだかごちゃごちゃしていました。

アメリカも東アジアの大枠を覆しかねないこの投票には反対で、ケーシー副報道官は19日の定例記者会見で、「不必要であり、なんの助けにもならない」と批判。さらに「国連など国家により構成される組織への台湾加盟は無益だ」と言明したとか。【3月21日 産経】
いずれにせよ、この住民投票で台湾海峡の緊張が高まることも想定され、アメリカはすでにキティホーク、ニミッツの空母2隻を定期訓練などの名目で西太平洋に派遣しているそうです。
恐らく、中国側も同様、あるいはそれ以上の緊張を持ってこの事態を見守っていると思われます。

東アジアの住民のひとりとしては、いつも言っているように事なかれ主義ですから、地域の緊張を高めるような行為は困るな・・・というのが本音です。

前回04年の選挙では、投票日前日に陳水扁候補が銃撃されるというアクシデントが起き、これが“功を奏した”のか、民進党・陳水扁候補が劣勢を挽回してきわどい勝利(得票率差0.2%)を手にするというドラマがありました。
さて、今回はすんなり運ぶのでしょうか?

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アメリカ  人種問題に直面するオバマ候補

2008-03-20 11:48:25 | 世相
アメリカ大統領選挙は恐ろしく長くハードな選挙戦で、民主党のオバマ、ヒラリー両陣営とも相当に消耗してきたようです。
ここのところ失言騒動が続いています。

7日には、オバマ候補の外交担当顧問サマンサ・パワー氏が、「(ヒラリーは)化け物だ。どんなことでもしかねない」、「彼女を見ると気分が悪くなる」といった発言で辞任。
12日には、ヒラリー候補を支持している女性初の元副大統領候補、ジェラルディン・フェラーロ元下院議員が、黒人のオバマ候補について「白人男性や女性だったら今の地位はなかった」と発言し、クリントン陣営の財政委員会のメンバーを辞任。

そして、ここにきてオバマ候補を襲っているのが、オバマ候補の結婚式や娘の洗礼を手がけるなど同氏も「家族のようだ」と慕う、約20年間属してきた教会のライト牧師が人種対立をあおる過激な説教をしていた問題。
これは、失言騒動とは異なる根深い問題のように見えます。

ライト牧師は説教で、「白人のアメリカ合衆国だ」「広島、長崎を核爆弾で殺戮しても気に懸けなかった我々が、自分の庭先で(9・11の同時多発テロとして)起きると腹を立てている」「広島、長崎への原爆投下など米国自身によるテロの報いだ」「イスラエルは違法にパレスチナ領土を40年以上も占領している」といった趣旨の白人・ユダヤ人への過激な批判を繰り返しているとか。

「人種差別によってこの国は創立され今でも運営されているのだ!わが国は白人至上黒人劣等主義を神よりも信じている」といった、いたずらに憎悪を煽るような対応で問題が前進するとは思いませんし、「世界で広まったエイズは白人が黒人を殺すために作り出した陰謀だ」といった発言に至ると、いささか引いてしまうところではあります。
(ライト牧師発言内容についてはhttp://biglizards.net/strawberryblog/archives/2008/03/post_672.html
“苺畑より”から引用させていただきました。)

ただ、自由の国、移民の国アメリカにおいても深刻な人種間の対立・不信感が今なお社会の根底に存在することは事実でしょうし、9.11についても“アメリカが振りかざす正義が、他国においてどのような結果をもたらしているのか”という意味で、アメリカ以外の国民にとってはそれほど違和感のない発言にも思えます。
個人的にも9.11のあと、“これでアメリカも、爆弾の雨を降らされる側の気持ちと痛みを少し理解してもらいたいものだ”と感じたのですが、ヒステリックな反応に終始しているような・・・。

ライト牧師の発言について、オバマ候補は当初「私が教会にいた時には聞かなかった」と弁明していました。
しかし、上述のように長年師事していた人物が繰り返し発言したことですから、“聞かなかった”ではすまないのではと問題が拡大。
一方で、黒人牧師グループからは「ライト牧師を切り捨てるのか」との批判も出たとのこと。

18日、フィラデルフィアでの人種問題をテーマにした緊急演説でオバマ候補は、牧師の言動を知っていたことは認めた上で、「彼の発言は間違いだ。団結が必要な時に分断をあおっている」と批判しました。
その一方で、発言の背景には黒人の置かれた厳しい状況があるとも訴え、「私が白人の祖母と縁を切れないように、彼との縁も切れない」とも。
「黒人への人種差別は決して過去の話ではなく、今も続いている。一方で白人にも失業などの問題はあり、困難な状況は似ている。人種の違いを乗り越えて協力しなければならない」と、根深い差別の存在は認めつつ、融和は可能と訴えています。

オバマ候補をスターダムに押し上げた2004年民主党大会でのスピーチ
「われわれの国が偉大である理由は、高層ビルの高さでも、軍隊の強さでも、経済の大きさでもない事を今夜わたしたちは確認しています。わたしたちの誇りは、“われわれは次のことを自明であると信じる、すなわち全ての人は平等であり、生命・自由・幸福の追求を含む、侵害されることのない権利を創造主から与えられていること”という200年以上も前に書かれた宣言にまとめられます。」
「わたしは彼らにこう言いたい、“ここにあるのは、リベラルなアメリカでも保守的なアメリカでもなく、アメリカ合衆国なのだ”と。ここにあるのは黒人のアメリカでも白人のアメリカでもラティーノのアメリカでもアジア人のアメリカでもなく、アメリカ合衆国なのです。」
http://macska.org/article/34 “macska dog org”より)

正論です。
誰も批判することが難しい正論です。
この正論を掲げることで、人種がらみの発言を持ち込むことが一種のタブーになったような雰囲気がありました。
フェラーロ元下院議員の辞任騒動などはその例でしょう。

しかし、現実に差別・対立が存在しています。
この選挙戦においても、長期化・過熱するほどにその現実が表面に滲みだしてきます。
11日のミシシッピ州予備選挙の出口調査結果によると、アフリカ系有権者の91%はオバマ候補、白人有権者の72%はヒラリー候補に投票し、人種によって投票候補が分かれることが明確に示されています。
ライト牧師の過激な発言は、そのような現実を乱暴に突きつけることになりました。

耳ざわりのいいレトリックで封印されていた人種問題という“パンドラの箱”を開けざるを得ない立場にオバマ候補は立たされたと言えます。
“ひとつのアメリカ”という理想と差別・対立の現実の間をどのようにつなぐのか?
その力量が問われています。

女性候補と黒人候補というマイノリティ同士の争いという民主党。
こうした民主党の消耗戦の結果、共和党のマケイン候補が次第に浮上・・・という構図もあらわれています。

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イラク  開戦から5年・・・“治安改善”の様相

2008-03-19 19:00:18 | 国際情勢
イラクでは昨年の米軍の3万人の増派を契機に、スンニ派の対アルカイダ掃討での協調、シーア派武装組織間の抗争停戦といったこともあって、昨年秋以降大幅な治安改善が図られています。
国連イラク支援派遣団(UNAMI)も15日のイラク人権状況に関する定期報告書の中で、米軍増派を受け自爆テロをはじめとする「激しい攻撃」は「著しく減少」したとの認識を示しています。
その一方、こうした傾向がいつまで続くかは「不透明」だと警告もしています。

最近のニュースを見ていると、20日で“開戦5年”を経過する“節目”にあたるせいでしょうか、自爆テロなどが増加しているようです。
3月10日 バグダッドでパトロール中の米兵を狙ったとみられる爆弾チョッキによる自爆テロがあり、米兵5人が死亡、米兵とイラク人通訳計4人が負傷。
3月10日 中部ディヤラ県で道路脇の仕掛け爆弾が爆発し、米兵3人と通訳1人が死亡
3月11日 南部ナシリヤ近郊で路上の仕掛け爆弾が爆発し、バスの乗客少なくとも16人が死亡、22人が負傷
3月12日 南部ナシリヤ近くの米軍基地がロケット弾などによる攻撃を受け、米兵3人が死亡、民間人1人を含む3人が負傷
3月13日 バグダッド中心部で車を使った自爆攻撃があり、少なくとも18人が死亡
3月17日 シーア派聖地カルバラで体に爆発物を巻き付けた女性による爆弾テロがあり、死者は少なくとも50人
3月17日 バグダッド北部で道路脇の爆弾が爆発、近くを車両で走行中の米兵2人が死亡

殆ど“連日”と言ってもいいような状況で、“治安改善”も危ういものがあります。
(2月も大規模自爆テロが相次ぎ、テロなどで殺害されたイラク人の人数が1月に比べ33%増加しました。
減少を続けていた月間死者数が前月比で増加したのは半年ぶりです。)
米軍発表では、最近の傾向としては、米・イラク両軍合同の掃討作戦が功を奏し車両爆弾や路肩爆弾による攻撃は難しくなっているため、爆弾チョッキを使用した自爆攻撃が増えているそうです。
また、経験の浅い外国人戦闘員を自爆攻撃に利用する例も増加しているとか。【3月17日 AFP】

女性の自爆テロが増えているのも感じます。
国境管理が厳しくなって外国人戦闘員確保も困難になったため、服装が爆弾を隠しやすく、チェックもしづらい女性を利用するようになったとも言われますが、“社会の崩壊が進み、絶望した女性が増加したことが大きい”という識者の分析も紹介されています。
*********
内戦状態で稼ぎ手の男性が殺され、家庭が崩壊する。40%ともいわれる失業率のなか、女性が職に就くのは難しい。知識人や医者が殺されたり国外に逃れたりして教育・医療も機能しない――。  「この世に望みを失った女性たちは、『明るい来世』を約束されれば応じてしまう」
国連は、この5年で7万人のイラク女性が夫を失ったとみている。
米国の女性団体が今月発表した調査では、昨年秋に聞き取りしたイラク女性約1500人のうち、将来を楽観していると答えたのは約27%。04年の調査で約9割が楽観的だったのと対照的だ。【3月17日 朝日】
*********

開戦5年を迎えて各種調査・記事が発表されており、上記記事もそのひとつですが、一番直接的な調査結果としては、英テレビ局が英国とイラクの調査会社に委託し、2月24日から3月5日にかけて、イラク国民4000人に聞き取り調査を行ったものが報じられています。

・ 回答者の70%が駐留多国籍軍のイラク撤退を望んでいる。一方で、約40%はイラク再建で米国が中心的役割を担うことを期待している。
(先日NHKのTV番組で同調査を紹介していましたが、それによると、上記のように70%が米軍撤退を望んでいるものの、即時撤退を望む者は2割程度(数字はうろ覚えです。)なのに対し、治安が改善するまで、あるいはイラクの治安維持組織が確立するまでは残ってほしいとする者がその倍の4割程度(うろ覚えです)達していたそうです。
ある意味での“米軍依存症”であって、“イラク人自身による統治”への不安感・不信感も窺われます。
米軍がいる限りは米軍を批判していればそれですみますが、いなくなってしまうと“シーア派連中のものでは働きたくない”“スンニ派連中は信用できない”等々の問題が表面化します。
イラクに限らず、国連などの一時的な統治、PKO活動などでも見られる現象で、いかにスムーズに“現地人化”するかが肝要です。)

・回答者の4人に1人は家族が殺害された経験を持つ。バグダッドに限れば、ほぼ半数(45%)が家族を殺されている。また、81%が停電、43%が飲料水不足を経験しており、最近1か月では28%が食料不足に直面したと答えた。

・イラクでの改革の進捗速度に「満足」と答えたのは45%、「不満足」との回答は40%だった。また、イラクに「平和と安定が回復する」との回答は68%に上り、約80%が自身の居住地区で「治安が回復している」と答えた。

調査結果を紹介するAFPは、「日常では悲惨な状況下に置かれながら、イラクの人々が将来について驚くほど楽観的あることが見てとれる」と総評しています。【3月18日 AFP】
(上記、朝日が紹介している“女性団体の調査”とは異なりますが・・・。)

アメリカのピュー・リサーチ・センターが12日に発表した調査結果によると、最近アメリカ国民のイラク戦争に対する注目度・関心が急速に低下しているようです。

イラク戦争でのアメリカ軍兵士の犠牲者数(現在、約4000人)について、選択肢の中から正しく回答できた割合は28%で、これまでに比べ急減しました。
従来同様の質問に対しては半数ぐらいの正解率があり、昨年8月調査では54%でした。
報告はまた、「米メディアのイラク戦争についての報道量が減少している。今年2月、イラク戦争に関する報道は全体の3%に過ぎず、去年7月の15%より大幅に減少した」と指摘しています。


http://pewresearch.org/pubs/762/political-knowledge-update

3月の全米世論調査では、米国のイラクでの軍事努力がうまくいっていると答えたのが48%(1年前は約30%)、情勢が安定するまで米軍を保つべきだと答えたのが47%(同42%)という結果が出たそうです。【3月19日 産経】
ピュー・リサーチ・センターの調査と併せると「なんだか最近うまくいっているみたいだし・・・、今のままやってくれたらいいんじゃない・・・」ってとこでしょうか。

米軍上層部は現在の過剰海外派兵状態をなるべく早く解消したいのが本音のようですし、「米国の軍人、特に地上部隊要員とその家族は、大きな負担を強いられている」(マレン海軍大将)といった声も出ています。
もちろん、実戦配備されている兵員は「1日も早く・・・」ということでしょうが、それだけでもない“(現場の兵士のひとりは)現場の情勢を踏まえずにイラクを放棄すれば、「後で払う人命の代価は大きい」と眉をひそめた。”【3月17日 朝日】といった、米本土での撤退論と現場の兵士たちの思いのずれを報じたものもあります。

昨年来の“治安改善”の理由でもあるシーア派内の対立抗争停戦については、サドル師が22日、昨年8月に引き続き、マフディ軍の活動停止を半年延長すると発表したのですが・・・。
今月7日、サドル師は“マフディ軍が内部分裂したこと、自分自身も活動から身を引き勉学に専念する”旨を表明しました。
マフディ軍のコントロールが難しい状態にあることは以前から噂されていましたが、いよいよどうにもならなくなったようです。
すでに、イラク治安部隊とマフディ軍の衝突が報じられており、11日には36名死亡、16日には7名が死亡とも伝えられています。【3月17日 CRI】

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は18日、07年の先進国への難民申請者数について、イラク人の申請者が前年の約2万3000人から約4万5000人へ大幅に増加したことを報告しています。
報告書は「この傾向が続けば今後、イラク人の難民申請がピークだった00年から02年の水準に達するかもしれない」としています。【3月19日 朝日】

確かに“治安改善”しているのでしょうが、細かく見るといろんな断片が見えるのも事実です。

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トルコ  与党の非合法化、大統領・首相の政治活動禁止を求めて検察当局が提訴

2008-03-18 14:35:03 | 世相

(街中では極めて日常的なヘッドスカーフですが、このスカーフがトルコを揺るがす大問題でもあります。 “flickr”より By CharlesFred
http://www.flickr.com/photos/charlesfred/201210819/)

いささか唐突な印象を受けたのですが、トルコ検察当局は今月14日、最高裁に相当する憲法裁判所に、政権を担う穏健イスラム政党「公正発展党(AKP)」の非合法化措置を求めて提訴しました。
トルコの国是である「世俗主義」に反するというのが提訴の理由で、訴えには、ギュル大統領、エルドアン首相ら党幹部70人の5年間の政治活動禁止も含まれています。

昨年選挙に勝利した政権与党を丸ごと非合法化し、しかも大統領・首相の政治活動を停止するというのは、日本人的には“そんな滅茶苦茶な・・・”とも感じられます。
裁判所は17日に提訴の受理を検討すると報じられていましたが、その後どうなったのかはよくわかりません。
エルドアン首相は15日、「訴訟は公正発展党ではなく、国民の意思を標的にしたものだ」と強い反発を表明しています。

トルコは国民の99%がムスリムという国ですが、 “建国の父”アタテュル以来、政治的には明確な政教分離を国是としており、公的な場から宗教の影響を排除するという“世俗主義”をとってきました。
そしてこの国是が脅かされる事態が出現すると世俗主義の守護者を自任する軍が介入して、宗教勢力を排除することをこれまでも繰り返してきました。

1997年にも当時のイスラム主義的な福祉党政権に対し、軍の弾圧が行われ、圧力に屈したエルバカン首相は辞任し福祉党政権は崩壊した経緯があります。
その後、98年には憲法裁判所判決により、福祉党幹部が行った「スカーフ着用問題での反世俗主義的発言」、「シャリア体制の樹立を示唆した発言」などが反世俗主義的であると認定され、福祉党は非合法化され、党幹部も5年間の政治活動禁止を言い渡されました。

このとき福祉党議員の大部分が移籍して結成した美徳党も、2001年にはやはり非合法化され、その一派がつくったのが現政権与党の公正発展党です。
また、エルドアン首相自身、02年には“イスラム的な演説をした”という理由で訴追され、公職を追われたこともあります。
エルドアン首相やギュル大統領など公正発展党のメンバーは、“非合法化”とともに政治活動を続けてきたとも言え、日本人には唐突な今回の提訴も、ある程度“織り込み済み”だったとも思えます。

急進的なイスラム主義政党を出自に持つ公正発展党(AKP)は、昨年7月の選挙では「保守的な民主主義政党」を主張し、「イスラム国家の建設を画策している」との世俗派からの批判をかわしました。
具体的には、イスラム色の強い候補をはずし、国際的に活躍する金融の専門家などを候補に擁立しました。
また、常に世俗主義の象徴として問題になる“公的な場での女性のスカーフ着用禁止”についても、スカーフ解禁を公約からはずしました。

選挙は以前もとりあげたように、好調な経済回復という“実績”を背景とした公正発展党が勝利しました。
解散選挙のもとになった大統領選出についても、ギュル外相(当時)をあくまでも擁立し、はじめてイスラム主義的な大統領が誕生しました。

そして、“やっぱり・・・”というか、スカーフ問題に手をつけます。
今年2月、イスラム女性の象徴とされる髪を覆うスカーフを着用しての大学通学を禁止する規制撤廃に向けた憲法修正案を国会へ提出。
公正発展党の言い分としては、スカーフが着用できないことから大学進学をあきらめたり、外国留学を選択する女性も多く、この規制撤廃は“個人の自由”“教育機会の保障”に基づくものだというものです。

一方で、この学生に限定した措置が、次に公務員にも広がり、やがてはスカーフを着用しない数百万人の女性たちに宗教的・社会的圧力がかかるのではないかと危ぐする見方もあり、首都アンカラでは10万人規模の抗議集会が開催されました。

同法案は2月9日国会で可決、22日にはギュル大統領が、大学でスカーフの着用を認めるようにする憲法改正案を承認しました。
これを受けて、大学監督当局は2月25日、スカーフ着用を認める新法に違反した場合訴追もありうると各大学の学長に対して警告を発しています。

これに対し、最大野党で中道左派の共和人民党(CHP)は27日、スカーフの大学での着用を認める憲法修正は国是の政教分離に反するとして、取り消しを求める裁判を憲法裁判所に起こしました。

今回のトルコ検察当局の“公正発展党非合法化”の提訴は、このような一連の政治的対立、AKPと軍・野党の対立を受けてのものです。
昨年の選挙で1650万票、47%の得票率を獲得した公正発展党のエルドアン首相は、「(彼ら1650万人の)公正発展党支持者を、反世俗主義者だと糾弾することはできない」と述べています。

欧州委員会のオリ・レーンEU拡大担当副委員長は、「欧州型の民主主義では、政治問題は議会で討論され、投票による審判を受ける。法廷で争われることはない」と述べ、司法が政治に干渉すべきではないとの意見を示したそうです。【3月16日 AFP】
確かに、それはそうですが、AKPもそれなら選挙時に明確に公約として掲げるべきだったようにも思います。

恐らく反対する人々が危惧するように、こういうものは一部でも認められると将来的にはなし崩し的に拡がるものではありますが、それが選挙での“国民の選択”であるなら、よその国の人間がとやかく言う問題でもないのでしょう。

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戦争の惨劇の記憶  ソンミ、ハラブジャ、そして東京

2008-03-17 18:55:01 | 世相
アフガニスタン国境に近いパキスタン部族支配地域(トライバルエリア)の南ワジリスタン管区で16日、民家にミサイルが命中し、住民ら16人が死亡しました。
民家には国際テロ組織アルカイダと関係のある外国人がいたと言われています。
ミサイルは無人飛行機から発射されたとみられ、アフガン駐留米軍による攻撃の可能性が高いと考えられています。 

パキスタン政府は国内反米感情にも配慮して国内での米軍の軍事作戦を認めていませんが、最近このたぐいのアフガンニスタンから米軍による攻撃、それも無人飛行機を使った攻撃が目につきます。

先月28日にも同じ地域で、やはり無人飛行機からのミサイルによってマドラサ(イスラム神学校)とこれに隣接する家屋が攻撃を受け、少なくとも13人が死亡、約10人が負傷しました。
地元治安当局者は、死者の多くはアフガンやアラブ系のイスラム過激派だとしています。
この攻撃についてパキスタン軍の発表はありません。
また、今年1月には国際テロ組織アルカイダのナンバー3とされたアブ・アルリビ容疑者が米軍無人飛行機によるとみられる攻撃で殺害されています。 

無人飛行機はアメリカだけでなくイスラエルも多用しており、ガザ地区のイスラム過激派にとって脅威となっています。【3月14日 WIRED NEWS】
アメリカが使っているとされる無人偵察機プレデター(RQ-1 Predator)は12000メートル上空を30時間連続で飛行でき、人工衛星を経由することで、アメリカ本土から操作することも可能とか。【ウィキペディア】

戦争のハイテク化はどんどん進んでいるらしく、スズメバチぐらいの大きさの超小型無人飛行機、空中で静止して地上に仕掛けられた爆弾の写真を撮影する円盤などなど。
こうした兵器によって、血しぶきを浴びたり、肉片が飛び散るのを見たりせずに、また自分の身は安全な場所に起きながら、殺戮が手軽に可能になってきています。
ただ、この種の兵器で一定のダメージを与えることは可能ですが、実際にその地を完全におさえるためには最終的にはイラクで展開されているような地上戦がまだ必要になります。

そうした文字どおりの“戦闘”にあっては、相手は民間人に紛れ、一体誰が敵か定かでないような極限の緊張のなかで、ときに狂気が噴き上げます。
限界に達した緊張と恐怖は民間人虐殺事件のような惨劇を惹起します。
イラクにおけるハディサ事件であり、かつてはベトナムにおけるソンミ村虐殺事件でした。

昨日3月16日は、ベトナム戦争中の68年に当時の南ベトナムの旧ソンミ村(現ティンケ村)で、米軍が無抵抗の女性や子供ら504人を殺害した「ソンミ村虐殺事件」から40年にあたり、現地では奇跡的に殺害を逃れた生存者や元米兵、地元住民ら数千人が参加して追悼式典が行われたそうです。

また昨日は、イラクのクルド人自治区のハラブジャで、サダム・フセイン政権時代の1988年にイラク軍による毒ガス攻撃が行われ5000人が死亡した惨劇の日から20年目を迎えた日でもありました。
当時のイラン・イラク戦争の終盤、イラン側に呼応する動きを見せていたクルド人の抵抗を抑えるため、青酸ガスか何かの毒ガスが使用されたようです。
多くの村民が今でも後遺症に苦しめられており、毒ガスが原因で死亡する人も後を絶たないそうです。
昨日16日は現地で追悼式典が催されました。

当時国際社会の多くはイラクを支持しており、事件もほぼ黙殺されていました。
人権大国アメリカも、レーガン政権がイラン・コントラ事件の失態を糊塗するようにペルシャワ湾へ出動し、イラクを支援しイラン艦船と戦闘を行っていたぐらいですから、この毒ガス攻撃を問題にするどころでもないでしょう。

もちろん5000人を毒殺した惨劇は許されざる非道であり、事前にそのような行為がわかっているのなら、国際的軍事介入で阻止することも必要なことかと思うぐらいですが、ただ、冷静に考えると、同じような殺戮は多くの国が多くの場面で昔から繰り返してきた行為でもあります。

1週間前の3月10日は、かつて東京大空襲で広島・長崎にも匹敵する数万人の犠牲者が出た日でした。
出来るだけ多数の民間人を効率的に焼き殺すことを研究した米軍は、まさにその成果を手にしました。
イラク・ハラブジャでクルド人が毒ガスで殺戮された行為と、東京で10万人以上とも言われる犠牲者を出した作戦の間にどれだけの差異があるのか、わかりません。
東京空襲が戦争終結に向けて必要だったと言うなら、フセインにだって言い分はあるでしょう。

別にアメリカの行為だけをとやかく言うつもりもありません。日本だって同じでしょう。
日本をはじめ多くの国々がかつて戦争・紛争で行ってきた行為は、結局のところこうした行為の延長線上にあるもののように思えただけです。
人間と人間が殺しあう戦争というものを考えるとき、ピンポイント爆撃とか無人飛行機とかいったもの、あるいは国家間のパワーゲーム的なもの、そういった側面からではなく、ソンミ村とかハラブジャとか東京とかいった視点から考えることがやはり必要なのでは・・・と思った次第です。

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マレーシア  総選挙での与党敗北、多民族国家の今後は?

2008-03-16 13:35:23 | 国際情勢
“多民族国家”マレーシアの下院総選挙については今月6日(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080306)にも取り上げましたが、8日に投票が行われ、前回04年の総選挙で9割の議席(199議席)を獲得し大勝した与党連合(国民戦線)は今回、過半数を制するのがやっとで6割(140議席)にとどまり、勝敗ラインとしていた3分の2を維持できませんでした。
与党が3分の2の安定多数を確保できなかったのは39年ぶりで、この歴史的大敗を国内新聞は“政治的ツナミ”と表現しています。
与党連合退潮の背景には、物価高や治安の悪化、汚職の蔓延に対する政権への失望感、多数派マレー系住民を優遇するブミプトラ政策への不満などが挙げられています。

与党連合・国民戦線はマハティール前首相を引き継いだアブドラ首相が率いるマレー人を支持母体とする統一マレー国民組織(UMNO)を中心に 、華人のマレーシア華人協会(MCA) 、インド系のマレーシア・インド人会議(MIC)等の14党の連合体です。
これまで、民族間のバランスを維持しながら、経済的に劣った地位にある多数派マレー系住民を資本・雇用(例えば銀行融資、入学試験、就職など)で優遇することで、その地位を穏やかに引き上げていこうとする“ブミプトラ政策”を推進してきました。

一方、アンワル元副首相が顧問を務める人民正義党(PKR)(解散前1議席)が31議席を獲得し野党第一党に躍進したほか、華人系主体の民主行動党(DAP)(同12議席)が28議席、全マレーシア・イスラム党(PAS)(同6議席)も23議席とそれぞれ大躍進し、野党全体で4倍増の82議席を確保しました。
総選挙と同時に実施された12州の州議会選挙でも、アブドラ首相の地元のペナン州を含む5州で野党勢力が過半数を制し、野党が政権を握る州は1州から5州へと増えました。

この事態に、マハティール前首相は、「(アブドラ首相は)UMNOをメチャクチャにした。日本人ならハラキリをしただろう」と辞任を求めていましたが、与党連合・国民戦線はアブドラ首相の続投を支持し、アブドラ首相は10日再任され引き続き政権を担当することになりました。
なお、ブミプトラ政策の生みの親であるマハティール前首相は選挙前「ブミプトラ政策を変更する時期にきている。ただし、急激な停止は成果を失うことになる。」といったコメントをしていました。

野党の中心に位置するアンワル元副首相はかつてマハティール前首相の後継者と思われていた人物です。
しかし、97年のアジア通貨危機の際、通貨・外資を統制しようとするマハティール前首相に対し、自由主義的な政策を打ち出し前首相の逆鱗に触れ、汚職と同性愛の嫌疑を掛けられ政界を追放されました。
アンワル氏は無罪を主張していましたが、裁判で有罪となり、汚職については刑期を終え、同性愛については刑期途中で釈放となりました。
しかし、今年4月14日までは政治活動が禁止されており、今回選挙には自身が立候補することはできませんでした。
身代わりに夫人が前回選挙から人民正義党を率いて唯一の議席を守っており、今回選挙では長女(冒頭の写真)も与党の現職閣僚を破って当選しました。
4月以降は補欠選挙に出て政界に復帰するものと見られています。

ブミプトラ政策の結果、マレー人にも経済的に成功した層がうまれており、“マレー人は華人・インド人より劣っているので、保護が必要だ”とする同政策、統制的な経済政策、強権的な社会体制に対する不満が大きくなっており、これがアンワル元副首相の人民正義党(PKR)躍進の背景にあるものと思われます。

今後、ブミプトラ政策を維持するのか、変更するのかが論点となると思われますが、野党勢力も“反国民戦線”では一致しても、その他の面では相当に大きな差異があります。
民主行動党(DAP)はシンガポールの分離・独立に至ったリー・クアンユーに繋がる、支持基盤を華人に置く中道左派の野党勢力であり社会民主主義を標榜しています。
親中国共産党、親北京的とも言われています。【ウィキペディア】

これに対し、全マレーシア・イスラム党(PAS)は急進的なイスラム原理主義政党です。
かつて、「PASが大勝したならば、非ムスリムは中国に送還されるか、南シナ海に捨てられるであろう」と公式の場で述べたことも、また、1974年にはマレー人だけが首相や閣僚に就任できるように憲法改正を提案したこともあります。

PASが長く州政権を握っている北部の州(住民の大部分がマレー人)のコタバルに旅行したことがありますが、お祈りの時間になるとマーケットが閉鎖され、全員半ば強制的にモスクに行かされる様な雰囲気で、非ムスリムには住みづらいものがありそうでした。

ただ、04年の総選挙でイスラム神権政治を訴えて敗北し、最近では、現憲法の基盤となっている世俗的な理念により理解を示し、中国系、インド系その他少数民族の権利や利益を認める大変革を図っている模様とも伝えられています。
中国系やインド系を準政党員として受け入れ、非ムスリムの候補者も考慮し、男性のみで構成している最高評議会に女性も迎えることなどを検討しているとも報じられていました。(実際どうなったかのかは知りません。)【06年6月21日 IPS】
そうは言っても、どうでしょうか?

今回州議会選挙で与野党が逆転したペラ州の新首相人事を巡って、野党連合の間に亀裂が生じかねない事態がありました。
ペラ州では民主行動党(DAP)が第一党となり、DAPとPAS、人民正義党(PKR)の3党の連立政府がつくられました。
しかし、PASのニザル氏がスルタンから州首相指名を受けたことで、「DAPあるいは共闘を張るPKRから首相を出すことを条件に連立政権樹立を承認したが、PASから首相を出すことは承認していない」とDAP中央が反発。
PKRもPAS 出身者の首相就任に難色を示しました。
ただ、同州憲法では元々、マレー・イスラム教徒しか首相になれないとあり、スルタンによる特別な指示があった場合のみ例外が認められるとなっていることがあって、結局DAPが譲歩するかたちで落着しました。【3月14日 JST】

個人的には“マレー・イスラム教徒しか首相になれない”という憲法に問題があるように思えますが。
恐らく今後、この種の不協和音が野党連合間で多く見られるのでは。
そうしたなかで、多民族が共存するためのひとつのかたちであったブミプトラ政策がどのように扱われるのか、マレーシアという国の枠を超えて関心が持たれます。

マレーシアの工業地域ペナン州で11日、野党・民主行動党(DAP)のリム・グアンエン書記長が州首相に就任、マレー人を優遇する「ブミプトラ政策」を放棄する方針を示しました。
同首相は「ペナン州は、縁故主義・腐敗・非効率な制度を生み出すブミプトラ政策にとらわれない政策を運営する」と表明したそうです。
マレーシア全13州のうち、ブミプトラ政策の放棄を明言したのは同州が初めてです。【3月11日 ロイター】

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チベット  ラサで暴動 問われる中国政府の対応

2008-03-15 14:40:51 | 国際情勢
チベットでの僧侶を中心にした暴動とその鎮圧は、昨年のミャンマーの民主化運動のデジャ・ヴュのよう。
情報が錯綜しているので正確なところはよく分かりません。

警察車両や漢族経営商店への放火・襲撃も行われたとか。
治安当局による発砲で少なくとも2名が死亡したとの報道【AFP】や、14日だけで少なくとも14名したとの情報もあると伝えるもの【朝日】も。
“デモに参加した住民らのほとんどが15日未明までに帰宅、市内は落ち着きを取り戻した”【共同】というものから“(中国筋は)「制圧するには数日間を要する」との見方を示した。”【朝日】というものまで。
なお、中国国営新華社通信は15日未明、ラサで14日発生したチベット仏教僧らによる大規模な暴動で市民7人が死亡したと伝えるとともに、14日夜に沈静化したと報じています。【毎日】

チベット自治区のピンツオ主席は15日、治安部隊は発砲しておらず、群衆を排除するために最低限の催涙弾と警告射撃を行っただけだと述べています。【3月15日 AFP】

インド亡命中のチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は14日、「ラサを含むチベット各地で起きている事態を深く憂慮している」とする一方、「(今回の)抵抗運動は、チベット人民が現在の統治に対して抱く根深い憤りの表明である」と、中国のチベット政策を非難する声明を出しています。【3月15日 読売】
なお、チベット自治区の当局者は14日、国営新華社の取材に対し「ラサで起きた破壊行為をダライ・ラマ(14世)一味が組織、計画し背後から操った十分な証拠がある」と述べ、ダライ・ラマを非難したそうです。【3月15日 共同】

海外の反応は、マコーマック米国務省報道官の「中国政府に対し、チベット文化を尊重し、武力を使用しないよう要請した」という14日会見のように、欧米諸国は中国政府に自制を求めています。

一方、2万人近くの亡命チベット人がいるとされるネパールでは、ネパール政府が14日、ネパール側へ亡命するチベット人たちの越境ルートがあるネパール側からのエベレストへ登頂するルートを5月(オリンピック聖火リレーで使用)まで閉鎖すると発表。中国政府からの要請によるものだそうです。
また、ダライ・ラマ14世の亡命政府が置かれるインドでは、インド政府は「チベット人がインド国内で中国に対する政治活動を行うのは認めていない」として、暴動発生を受けた抗議行動の発生に各地で警戒を強めており、13日にはデモを行った100名を、14日には中国大使館への突入を図ったチベット人デモ隊約30人を身柄拘束しています。
周辺国は総じて中国政府を支え、混乱を拡げたくないという意向のようです。

チベットでは1980年以降、ダライ・ラマ14世の特使団が中国政府と断続的に交渉、同氏の帰国やチベット情勢などを協議してきました。
ダライ・ラマも敢えて“独立”は主張せず、中国政府に「高度な自治」を求めていますが、交渉は成果を挙げてきませんでした。

北京の全人代で、チベット自治区の代表者らが「チベットは目覚ましく発展し安定している」と強調した矢先の今回の抗議活動の背景には、「自治」が足踏み状態の中で「中国化」が進む一方という状況に対するチベット人の焦りと不満が横たわっており、オリンピック開催に向け、チベット問題を国際社会にアピールするねらいがあるとみられています。【3月15日 産経】

「中国化」に関しては、ダライ・ラマ否定の思想教育、昨年10月8日にもとりあげた「活仏証明書」なる宗教の国家管理など。
また、青海省西寧とラサを結ぶ“青蔵鉄道”開通をはじめとする、漢族の人員・資本の流入も激しいものがあります。

その一方で、ネパール経由でインドに向かうチベット難民に対し、中国国境警備部隊が銃撃を加える映像が公開されて国際問題となったような、厳しい弾圧も行われています。

そもそも、中国側の旧チベットに関する認識は次のようなものです。
“旧チベットは等級の厳格な社会であり、社会は農奴主と農奴という二大等級に分けられていた。人口の約5%を占める農奴主(主として寺院、貴族、役所の三大領主)はチベットのほとんどの耕地、牧場、森林および大部分の家畜、農具を擁していた。他方、人口の95%を占める農奴は耕地、草原など基本的生産手段がないだけでなく、自分の体さえも農奴主に属し、無条件で農奴主のために労役に服し、小作料を納めなければならなかった。
(中略)「法典」は、上等上級の人の命の価値は同じ重さの金に等しく、下等下級の人の命はわら縄一本の価値しかないと規定した。1950年代になってもチベットは依然として僧俗、領主が吐蕃時期から踏襲してきた厳しい等級抑圧の法律と残酷野蛮な刑法に基づいて支配する社会であった。当時チベット人の寿命はわずか36歳で、人口の非識字率は90%に達していた。”(http://spanish.hanban.edu.cn/ri-xizang/4.htm
この封建体制下で苦しむチベット人民を解放したのが中国共産党による民主改革である。
しかも、チベット上層部に対する今一度の譲歩として「6年間改革を行わない」という方針をとったにもかかわらず、チベット上層部、海外傀儡勢力が改革に抵抗し旧体制を守ろうとし、中央機関を襲撃し暴動を扇動した。
そこで、やむを得ず軍事的に介入した・・・。

なお、中国共産党は、発足当初、ソ連のコミンテルンの強い影響をうけ、「少数民族政策」としては、諸民族に対し、完全な民族自決権を承認していたそうです。
たとえば、中華ソビエト共和国の樹立を宣言した際には、その憲法(中華ソビエト共和国憲法)において、各「少数民族」に対し、それぞれ「民主自治邦」を設立し、「中華連邦」に自由に加盟し、または離脱する権利を有すると定めていました。
しかしながら、国共内戦に勝利し1949年に中華人民共和国を設立した直前には、政治協商会議の「少数民族」委員たちに対し、「帝国主義からの分裂策動に対して付け入る隙を与えないため」に、「民族自決」を掲げないよう要請、さらに現在では、各「少数民族」とその居住地が「歴史的に不可分の中国の一部分」との立場に転じ、民族自決権の主張を「分裂主義」と称して弾圧の対象にするようになっているそうです。【ウィキペディア】

チベットの実情は知りませんが、恐らく旧チベットの体制が宗教権力と結びついた封建的な体制であったうだろうことは推測されます。
そのような厳しい体制下で暮らす住民は、ときにそのこと当然のことと受け入れ、変革しようとする力に対し抵抗することもあるでしょう。
社会を変えようとするとき、“革命”から、日本のような社会での微温的な“痛みを伴う改革”に至るまで、どちらの側に立つかによってその評価は180度異なります。

ただ、旧体制の評価、改革・介入のいきさつはさておいても、すでに半世紀近くが経過する訳ですから、その後の改革の結果については評価を下されるべきでしょう。
その評価は、中央政府でも国際世論でもなく、地域住民が下すべきものです。
半世紀を経て、地域住民が否定的な評価を下すのであれば、当初の民族自決の理念に立ち戻った対応が必要かと思います。

オリンピックを人質に取られた状態の中国ですが、いたずらに追い込み、反動的な方向で殻に閉じこもらせるのも
愚策かと思います。
少しでも事態が住民の生活改善に繋がる方向に動くように誘導することを、国際世論も心がけてほしいと考えます。
それにしても、胡主席はチベット自治区党委書記時代の89年、ラサ暴動を鎮圧(死者16人、負傷者100人以上)し、その功績が故小平氏に評価され昇進につながったそうで、チベットとは縁が深いようです。

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アフガニスタン  “自主帰還”難民が直面する生活苦

2008-03-14 17:28:42 | 国際情勢
2002年以来、400万以上のアフガニスタン人が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の援助によってアフガニスタンへの帰還を果たしており、内320万人がパキスタンから、86万人がイランからの帰還者となっています。
現在なお300万人のアフガニスタンが難民認定を受けて避難生活を送っており、内200万人がパキスタン、91万人がイランにいます。

2007年でみると、35万6千人のアフガニスタン難民がパキスタンからアフガニスタン本国に帰還しました。
この本国自主帰還は、冬季は一時的に中断されており、春を迎える今月から再開されます。
これらの数字はUNHCRの把握している者だけですので、実際はこの数字を上回る人々の移動があるものと推測されます。

では、これら帰還難民は、希望して自主的にアフガニスタン本国に戻っているのでしょうか?
どうもそのようではないようです。
UNHCRの報告書によると、パキスタン国内で難民登録された216万人の難民のうちの82%が、近い将来アフガニスタンへ帰国する意志はないと表明しているそうです。
アフガニスタンへの帰国を望まないもっとも多い理由は、治安問題です。
他の理由としては、住む場所がない、食べていける仕事がないということです。

2006年10月から2007年2月にかけて、パキスタン当局とUNHCRは、人口調査に基づき、アフガン難民の登録を実施しました。
それにより、216万人の難民がパキスタン政府に難民登録され、登録証を受け取りました。
UNHCRは、難民登録をしていないアフガン人に、ふるさとへの帰還を勧めています。
本国へ戻りたくないとの理由から、難民登録を済ませていない人々も少なくはないそうですが、法的には難民登録カードを持つ人々だけが、2009年末までパキスタンに留まることができるのです。

パキスタン国内での難民の生活が恵まれている訳ではありません。
上記報告書によると、パキスタンに住むアフガニスタン難民のうち経済活動をしている人々は20%だけです。
そのうち48%は単純労働に従事しているか日雇い労働者です。
子供の教育環境も推して知るべきものがあります。
その難民キャンプでの生活も維持できなくなっています。

近年パキスタン政府は、難民キャンプが過激派の温床になっているという治安上の理由で、キャンプの閉鎖を主張しています。
このため06年、UNHCRおよびアフガニスタンとの間で、難民に関する三者協議が行われました。
その結果、キャンプ四カ所の閉鎖が決定し、昨年9月時点で二カ所で難民の退去がほぼ完了しています。
閉鎖されたキャンプの難民は、UNHCRの支援でアフガニスタンへ帰還するか、パキスタン政府指定の別のキャンプに移動するかの選択を迫られます。
昨年“自主帰還難民”がこれまでより大幅に増加(9月時点で前年同期の三倍増)したのは、帰還への圧力がアフガニスタン難民に重くのしかかっていることの表れでもあります。

イランでも事情は同じです。
イラン政府はアフガンニスタン人の不法入国者を強制退去させアフガニスタンへ帰還するよう強い意向を示し続けています。
そのことは合法的にイランへ移民したアフガニスタン人に対してもさらなる圧力がかかり、アフガニスタン人とその他の外国人たちは、もはやアフガニスタンとの国境沿いにあるイラン東部のいかなる街に住むことは許されないとイラン政府は発表しました。
これを受けてUNCHRと世界食糧計画(WFP)およびその他の国際救済組織が、アフガニスタン帰還難民への緊急支援を始めています。
国家体制の如何を問わず、難民は“厄介者”です。

UNHCRの事業について、そのホームページから若干紹介します。
********************
UNHCRは難民の帰国後の不安を和らげ、スムーズな帰還を推進するため、難民の代表が本国アフガニスタンのコミュニティーを訪ねてその様子を確認する、あるいは、本国コミュニティーの代表が避難しているアフガン人に会うために外国に出かけるといったことを行っています。

UNHCRの支援を得てアフガニスタンに戻りたいアフガン難民は、避難国でUNHCRに申請し、帰還の登録をし、自主帰還用紙に書き込みます。
自主帰還用紙は、パキスタン、イラン、その他の受け入れ国にある自主帰還難民センターで入手することができます。

アフガニスタンに着くと、ふるさとまでの交通費と再定住のための資金を受け取るため、難民はエンキャッシュメントセンター(Encashment Center)に行きます。
そこでは、地雷回避訓練から、子供のためのポリオやはしかの予防接種、基本的な医療支援、法律上の支援、一夜を過ごすための仮住居の提供など、様々なサービスも提供しています。

パキスタンやイランの難民に交通費として与えられる補助金は、アフガニスタンのふるさとまでの距離に応じて一人あたり10ドルから23ドルです。

交通費とともに、すべての難民は再定住するための資金として一人当たり83ドルが支給されます。
これによってさしせまって必要なものや、目的地のふるさとについた後すぐに必要なものなどを買うことができます。
アフガン難民の5年間の自主帰還で、UNHCRは間接的に$80,000,000をアフガニスタン経済に投入したことになるそうです。
**********************

こうして、本国に帰還した難民を待っている現実は厳しいものがあります。
アメリカの報告書によると、アフガニスタンの失業率は現在少なくとも40%、そして今後もアフガン難民の帰還により毎年増加する傾向にある、としています。

国内の深刻な食糧難が更に追い討ちをかけます。
最近の世界的な食糧価格の高騰により帰還民たちは直接大きな打撃を受けています。

近年、アフガニスタン政府を悩ましているのが麻薬中毒患者の急増です。
アフガン帰還民を含む仕事に就けない貧しい人々が麻薬や犯罪に手を染めていきます。
アフガニスタンの麻薬中毒者の数は現在、およそ100万人に上るそうです。

「アメリカは『アフガニスタンの復興』よりも『敵を殺すこと』を優先している」とアフガニスタンのメディア関係者のひとりは訴えています。
「このままの状態が続くようであれば、多くの若者がタリバンに流れ、政情不安は益々悪化するだろう」とアフガニスタンの将来に懸念を示す意見もあります。【3月12日 IPS】

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イラン  14日総選挙 アフマディネジャド大統領の強硬路線の評価は?

2008-03-13 14:05:45 | 国際情勢
イランの国会議員選挙が明日14日投票されます。

国際的に問題となっている核開発については、イラン国内では「平和利用」目的の核開発としてコンセンサスがあり争点とはなっていないそうで、高い失業率やインフレという経済問題が一番の争点になっています。
保守派が支配する護憲評議会は、事前の候補者資格審査で改革派の立候補予定者の多くを拒否しているため、04年の前回総選挙に続き、保守派の圧勝が確実な情勢となっています。

保守派内部は、アフマディネジャド大統領とラフサンジャニ最高評議会議長(元大統領)の争いかと思っていたのですが、そうではなく、保守派の中でアフマディネジャド大統領を支持する保守強硬派と、核開発などをめぐる大統領の対外強硬姿勢を“強硬な発言を繰り返し必要以上に国際的孤立を招いている”として批判する2大勢力が競っており、その外にラフサンジャニ最高評議会議長(元大統領)のグループがあって、改革派がこれと協調するという構図のようです。【3月13日 産経】

アフマディネジャド大統領は2005年の就任以来、これまでに国内全30州を訪問し、インフラ開発計画を“ばら撒いて”いるとかで、支持基盤の貧困層の取り込みをはかっています。
こうした活動は地方・貧困層には効果を生むとも考えられますが、一方でインフレを助長するとの批判もあるようです。【3月11日 AFP】

改革派は多数の候補が失格とされ、議席全体の半数しか候補者を擁立できていませんが、ハタミ前大統領を中心にラフサンジャニ最高評議会議長(元大統領)の中道派も加えた「改革派連合」を結成して選挙戦に臨んでいます。
ハタミ前大統領は1997-2005年に大統領を務めた後、2年間は沈黙を保っていましたが、ここのところ活発にアフマディネジャド大統領の政策批判を行っており、政界復帰を目指しているとみられています。
改革派にはハタミ前大統領以外に、改革派には珍しくテヘラン以外に支持基盤を持つキャルビ氏のグループもいるそうです。
【3月12日 AFP】

いずれの陣営も、ある程度結果の見えている今回総選挙よりは、来年6月に予定されている大統領選挙をにらんでの攻防のようです。

イラン関連の最近のニュースとしては、イラクやアフガニスタンの米軍を統括する中央軍のウィリアム・ファロン司令官(海軍大将)が11日辞表を提出、ゲーツ国防長官がこれを受理したと報道されました。
米月刊誌「エスクワイア」最新号は、対イラン政策をめぐり、平和的解決を求める司令官が、強硬姿勢を変えないブッシュ大統領らの政策を「役に立たない」と批判するなど対立が続いているとの記事を掲載して話題になりましたが、今回辞任はこの対イラン政策の違いによるものと推測されています。

平和的解決を求めるファロン司令官の辞任で、対イラン開戦に近づいたのか・・・ということについては、ゲーツ国防長官は、「ばかげたことだ」と述べ、強く否定したそうです。
そうならいいのですが。

米独立系シンクタンク「Center for a New American Security(CNAS)」と『フォーリンポリシー(Foreign Policy)』誌が、米軍の少佐以上の現役・退役米軍人3437人を対象に行った共同調査によると、アメリカがイランに武力行使するとの見方が広がっていることについて、現時点で米軍が新たな戦闘で成功するとの見通しは「あまり妥当でない」と「全く妥当でない」との回答が80%に上ったそうです。
ちなみに、この調査によると、米軍はイラクで「危険なまでに過度の負担を強いられている」と見る回答者は88%に達したそうで、イラク・アフガンで疲弊した米軍の実態が窺われます。【3月10日 AFP】

こうした実態を踏まえて、軍内部にはイラク派遣の早期縮小を求める声が強く、ブッシュ大統領と対立があるとの指摘もあります。
そうした軍の立場からすると、イラン攻撃なんてとんでもないというところなのでしょう。

もっとも、イラン攻撃を狙っている国はアメリカ以外にもイスラエルがあります。
イスラエルの情報機関は9日、イスラエルが直面している脅威に関する報告書を発表。
当面の脅威としてパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスのロケット弾攻撃を、最大の脅威にイランの核開発計画を挙げています。【3月10日 AFP】

先日来日したイスラエルのスネ前副国防相は5日、東京都内で記者会見し、核開発を続けるイランに対し国際社会が実効性のある経済制裁などの対応を取らなければ、イランの核施設に対する武力行使も辞さないとの考えを示し、「08年が決断の年になる」と警告したとか。【3月6日 毎日】

最初のイラン総選挙の話に戻ると、このようなアメリカ・イスラエルに根強いイラン攻撃論をどう考えるかで、アフマディネジャド大統領の強硬路線を支持するか否かということになってきます。


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パキスタン  連立新政権、あいつぐ自爆テロへの対応は?

2008-03-12 14:10:29 | 国際情勢
前月18日に行われたパキスタン総選挙で下院第1党となった野党パキスタン人民党(PPP)議会派と、同第2党のパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)は9日、連立政権樹立に向けた正式文書に調印しました。
連立には第5党のアワミ民族党(ANP)の参加も決まっており、3党があと5議席以上を確保すればムシャラフ大統領の罷免に必要な3分の2以上獲得することになります。
上院は与党が過半数を占めていますが、下院で罷免決議された場合、ムシャラフ大統領が辞任要求に応じずに居座っても死に体化は不可避とされています。

また、PPPのザルダリ共同総裁とPML-Nのシャリフ元首相は9日、ムシャラフ大統領に解任されたチョードリー前最高裁長官を「新政府発足から1カ月以内に復職させる」ことで合意しました。
この問題では、司法の独立を掲げる前長官が復職すれば、ザルダリ氏が問われている汚職事件の審理が再開される可能性が高いため、PPP・ザルダリ氏が「新しい議会が決める」としたのに対し、シャリフ氏は「即時の復職」を要求して、両者の連立協議の大きな障害になっていました。

チョードリー前長官が復職した場合、昨年10月の大統領選で再選されたムシャラフ氏の出馬資格をめぐって審理を続けていた最高裁が当選を「無効」にする可能性があり、政局は一気に流動化する可能性があります。

ムシャラフ大統領に解任されたチョードリー前最高裁長官。
その前長官は大統領当選を無効にする可能性があります。
汚職で刑事訴追を受けるザリダル氏は、シャリフ政権時に罪に問われ、ムシャラフ大統領のもとで8年間収監されています。
シャリフ氏は政権時、ムシャラフ大統領を引き摺り下ろそうとして失敗、逆に大統領への殺人未遂罪などで終身刑を科され国外追放に。
そのザリダル氏とシャリフ氏が連立してムシャラフ大統領の罷免に・・・。
おそろしくドロドロした怨念の関係です。
ただ、ムシャラフ大統領にとっては、最高裁の判断、議会の罷免決議の両面で“あとがない”状況に追い込まれていることは間違いありません。

11日、ムシャラフ大統領は国民議会(下院)を17日に初招集するとあきらかにしました。
PPPとPML-Nの連立内閣組閣へ向けて具体的に動きだすのでしょうが、どの報道でも言われているように、この両者の隔たりは大きく、今後協調した関係が継続できるかは疑問です。

特に、イスラム武装勢力への対応で大きな差があります。
テロとの戦いでアメリカと協調するPPPに対し、イスラム教を重んじる立場のシャリフ氏は選挙公約に武装勢力掃討の即時停止を掲げています。
ムシャラフ大統領の罷免あるいは死に体化、連立政権内での政策不一致、更にザリダル・シャリフ両者とも政治の表に立てない状態でのリーダー不在・・・そういったことで、パキスタン政治が漂流する事態も危惧されます。
そして、それはアフガニスタンの戦況にも、アメリカの進める“テロとの戦い”の今後にも直結する問題です。

そのパキスタンではこのところテロが相次いでいます。

・パキスタン北部ラワルピンディで前月25日、赤信号で停車していた軍の車列に徒歩で近づいた男が自爆し、軍車両3台が大破。車内にいた陸軍医療隊トップのムシュタフ・ベーグ総監(中将)や通行中の市民ら少なくとも8人が殺害され、20人以上が負傷。

・アフガニスタン国境に近い南西部バルチスタン州デラブグティでも25日、走行中の軍車両が路上の仕掛け爆弾の遠隔操作により爆破され、兵士3人が死亡。

・パキスタン北西部の部族支配地域、南ワジリスタン管区で28日、無人飛行機から発射されたミサイルが民家を直撃し、住民ら13人が死亡。
パキスタンのトライバルエリアを拠点とするアルカイダ関連のアラブ人を狙った、アフガニスタンに駐留する米軍による攻撃の可能性が高いとされています。

・パキスタン北西部のスワート渓谷の主要都市ミンゴーラで2月29日、警察幹部の葬儀中に自爆攻撃があり、少なくとも44人が死亡、90人が負傷。
この警察幹部は、同日、北西部の町で、通過中の警察車両が道路脇に仕掛けられていた爆弾で吹き飛ばされた際に殉職。この爆発で警察官3人も死亡。

・パキスタン北西辺境州のZarghon村で2日、部族長や地元当局者ら数百人による会合「ジルガ」の最中に自爆テロがあり、少なくとも35人が死亡。犯人は10代と見られている。

・パキスタン東部ラホールの海軍付属海戦大学で4日、乗用車が警備兵に制止され、乗っていた男2人が自爆した。爆発の影響で近くにあった圧縮天然ガス(CNG)タンクや駐車中の乗用車も爆発し、少なくとも7人が死亡、15人が負傷。内務省広報官は自爆した2人のうち1人は「10代後半の少年」と発表。

・パキスタン東部のラホールで11日、自動車爆弾を使った自爆攻撃が連邦捜査局(FIA)と高級住宅地の2か所でほぼ同時に発生し、子ども2人、FIA関係者12人を含む少なくとも25人が死亡、負傷者は約170人。

頻発する件数と同時に、テロ対象が警察官の葬儀、部族長老の「ジルガ」、連邦捜査局といった権力・支配構造そのものであり、非常に挑戦的な犯行であることが印象的です。
今後発足する新政権はテロ対策で不一致を抱えており、この事態にどのように対処できるのでしょうか。

犯行に少年がかかわっているケースが見られるのも特徴です。
15~20歳前後の少年を、自爆テロの実行犯に仕立て上げる秘密訓練所の様子を報じた記事がありました。

*****パキスタン:訓練所で自爆テロ犯に洗脳される若者********
武装組織は、貧しいが信仰心の厚い家庭で育った15~20歳までの子供たちに狙いを絞り実行犯をリクルートしている。ビデオに登場する司令官は「20歳以上だと知識がついて洗脳しにくい。生活に余裕があれば、信仰心も薄らぐ」とその理由を明かした。
訓練は、パレスチナやアフガニスタンなどで続く「イスラム教徒の悲劇」を毎日、子供たちに説き聞かせることから始まる。「米国が諸悪の根源だ」と教え込むためだ。さらに「軍隊に対抗するためには自爆テロしかない。自爆の後は永遠の命が神から与えられ、食事にも困らない天国に行ける」と洗脳する。
少年たちは1カ月もたたないうちに自爆を志願し始める。指名されないと、泣き叫ぶほどの興奮状態に陥るが、司令官は「精神をさらに高揚させるため、しばらくはわざと指名しない」と語った。
指名を受けた時点ですでに「標的」が決まっている。実行には、両手か片手を上げればわきの下のひもが爆弾を起爆させる自爆ジャケットを着用する。検問で両手を上げた瞬間に爆発する仕組みだ。
ただ、自爆テロ実行直前に心変わりをして逃げ出す少年もいる。その場合は、見届け役が遠隔操作で実行犯のジャケットに仕込まれている遠隔起爆装置を使い強制的に爆破することもあるという。
証言した有力者は「貧困が自爆テロのリクルートを容易にし、純真な少年がテロに悪用されている」と怒った。【2月19日 毎日】
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悲惨・卑劣としか言い様のない現実です。

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