明日22日に行われる台湾総統選挙は、中国との「終局統一」を掲げて中台の「共同市場構想」など対中融和を目指す最大野党、国民党の馬英九候補(57)と、台湾の独自性を主張する与党・民主進歩党(民進党)の謝長廷候補(61)が争っています。
つい先週までの世論調査などでは、経済低迷やこれまでの民進党・陳水扁政権への失望感から、1月の立法院選挙で3分の2以上を獲得して圧勝した野党・国民党の馬候補が、謝候補に20ポイントぐらいの差をつけて圧倒的な優位を保ってきました。
国民党の政治的主張は台湾の置かれた微妙な立場を反映していわく言いがたいところがありますが、「中華民国は中国の正統国家である」という基本認識のもとで、理念としては、大陸を実効支配している共産党の中華人民共和国と「一つの中国」という原則の下で平和的交渉を行い、最終的には中華民国(台湾)主導による中国・台湾再統一を達成することを目標としています。
ただ、中台“統一”に向けてのスタンスには党内・関係者でもかなり幅がありますし、時間経過とともに変化もしています。
現在のところ、今後の明確なタイムテーブルはなく、現実問題としては、「民進党の進める“台湾化”、ひいては“台湾独立”の動きには反対し、当面現状を維持し、統一も独立もせず中国を刺激しないことによって平和に経済を発展させること」を主張しています。
理念としては中台“統一”,“ひとつの中国”を堅持していますし、具体的政策として中台接近・共同市場形成による景気浮揚を主張していますので、先日来の中国・チベットの騒乱に対する中国の弾圧は民進党に格好の攻撃材料を与え、国民党にとって強い逆風となっています。
民進党・謝候補側からは「それみたことか、中国に近づき一体化するということは、台湾をチベットのような惨状にすることだ」といった趣旨の批判が強く起きています。
(現実政策として、中国との通商関係を強化していく点では、民進党も同じでしょうが。)
これに対し、馬候補は「ダライ・ラマとは違い、(中国が提唱する)“一国二制度”を拒否している」と述べ、対中融和姿勢が「台湾のチベット化」を招くと批判する与党の指摘に反論しています。
また、民進党は“チベット独立”を支持していますが、国民党は「中華民国は中国の正統国家である」という立場ですから、チベットは中華民国の一部ということになり、おいそれと“独立支持”というわけにはいきません。
国民党・馬候補は中国政府による武力弾圧は「極度に威圧的でばかげている」と非難はしていますが、党の表立っての方針としては「中華民国はチベット人の自治を認めたい」という自治容認の姿勢になるそうです。【3月21日 産経】(なるほどね・・・)
更に国民党・馬候補にとって具合が悪いのが中国・温家宝首相の発言。
温首相は全人代後の18日、「(台湾の将来は)台湾同胞を含む全中国人民によって決定される」と発言。
馬候補は「統一論議」は棚上げとし、経済分野に絞って中台の協力強化による振興策を提唱してきましたが、あらためて政治的な対中国方針を問われる格好となっています。
一般的には中国は“台湾独立”志向の強い民進党を強く警戒しているとされていますが、96年の台湾近海での威嚇ミサイル演習など、結果的にはいつも台湾を刺激し、“独立志向”に追いやることばかりやっています。
今回の発言といい、なにか意図があるのでしょうか?それとも単に政治的センスがないだけでしょうか。
いずれにしても、チベット騒乱・温家宝発言で民進党から激しく追い上げられる形となった国民党・馬候補はことさらに中国に対し厳しい姿勢をとることが求められました。
その流れで出てきたのが「チベット人民への弾圧が続けば、北京五輪のボイコットも排除しない」との声明。
ところがこれが裏目にでたようです。
野球の盛んな台湾では、代表チームが13日に北京五輪の出場権を獲得したそうです。
野球の予選は台湾総統選をしのぐニュースとして連日、有力紙の1面トップを飾るほどの盛り上がりで、馬候補のボイコット発言は、こうした社会の盛り上がりに水を差した格好になったとか。
民進党の謝候補も発言を逆手に取り「スポーツ界を犠牲にするな」と、批判を浴びせているそうです。【3月19日 毎日】
一般的に“スポーツの世界に政治を持ち込まない”とか“政治とスポーツは別もの”と言われます。
ただ、チベットの問題とオリピックのどちらが大切かと言えば、比べるまでもなく大勢の人々の生命・生活、民族の文化がかかっている“チベット問題”です。
その意味ではオリンピックは“たかがスポーツの祭典”にすぎません。比べること自体がナンセンスです。
“血のにじむような練習をしてきた選手がかわいそう”とも言いますが、チベットでは実際に血が流れています。
ただ、では中国に抗議するためオリンピックをボイコットすべきか・・・という話になるとまた別問題です。
確かに、ボイコットは中国に“赤っ恥”をかかせて“懲らしめる”のにはまたとない方法です。
でも、その結果チベットの事態が改善するならそれはいいでしょうが、どうでしょうか?
私など“赤っ恥”かかされたら、絶対に恨みは忘れず、“死んでもあいつの言うことなんかきくもんか”と意固地になります。
対面を重んじると言われる中国も同じなのでは。
安易なボイコットは“憂さ晴らし”にはなりますが、事態の改善をいよいよ難しくする懸念があります。
もちろんこのあたりは、事態の進展具合に応じた話にもなりますが。
台湾の場合は、要するにオリンピック野球競技での台湾代表の活躍が見たいというだけでしょう。
“チベット問題”はともかく、“台湾のチベット化”“中台関係の将来”よりも、“オリンピックが見たい”と言うのであれば、“統一”と言おうが、“独立”と言おうが、所詮国民にとってはその程度の関心事にすぎないのかな・・・とも感じてしまいます。
案外、社会の現実・国民の本音を表した話なのかも。まあ、同じ民族ですしね。
今回、総統選挙以上に国際的に注目されているのが、同時に行われる予定の“台湾の名前での国連加盟”の是非を問う住民投票です。
“台湾”を国家とみなし、“台湾独立”・“「ひとつの中国」の否定”にもつながる可能性があり、中国が激しく反発しているのはもちろん、国民党は“中華民国名での国連加盟”是非を問う対案を出し、与党“台湾名”についてはボイコットするとかしないとか・・・随分揉めていました。
与党・民進党としては住民投票での否決は、“国連加盟”そのものへの国民の意思が否定されることにもなりかねず、最悪でも国民党案だけでも成立させたいとか・・・なんだかごちゃごちゃしていました。
アメリカも東アジアの大枠を覆しかねないこの投票には反対で、ケーシー副報道官は19日の定例記者会見で、「不必要であり、なんの助けにもならない」と批判。さらに「国連など国家により構成される組織への台湾加盟は無益だ」と言明したとか。【3月21日 産経】
いずれにせよ、この住民投票で台湾海峡の緊張が高まることも想定され、アメリカはすでにキティホーク、ニミッツの空母2隻を定期訓練などの名目で西太平洋に派遣しているそうです。
恐らく、中国側も同様、あるいはそれ以上の緊張を持ってこの事態を見守っていると思われます。
東アジアの住民のひとりとしては、いつも言っているように事なかれ主義ですから、地域の緊張を高めるような行為は困るな・・・というのが本音です。
前回04年の選挙では、投票日前日に陳水扁候補が銃撃されるというアクシデントが起き、これが“功を奏した”のか、民進党・陳水扁候補が劣勢を挽回してきわどい勝利(得票率差0.2%)を手にするというドラマがありました。
さて、今回はすんなり運ぶのでしょうか?
つい先週までの世論調査などでは、経済低迷やこれまでの民進党・陳水扁政権への失望感から、1月の立法院選挙で3分の2以上を獲得して圧勝した野党・国民党の馬候補が、謝候補に20ポイントぐらいの差をつけて圧倒的な優位を保ってきました。
国民党の政治的主張は台湾の置かれた微妙な立場を反映していわく言いがたいところがありますが、「中華民国は中国の正統国家である」という基本認識のもとで、理念としては、大陸を実効支配している共産党の中華人民共和国と「一つの中国」という原則の下で平和的交渉を行い、最終的には中華民国(台湾)主導による中国・台湾再統一を達成することを目標としています。
ただ、中台“統一”に向けてのスタンスには党内・関係者でもかなり幅がありますし、時間経過とともに変化もしています。
現在のところ、今後の明確なタイムテーブルはなく、現実問題としては、「民進党の進める“台湾化”、ひいては“台湾独立”の動きには反対し、当面現状を維持し、統一も独立もせず中国を刺激しないことによって平和に経済を発展させること」を主張しています。
理念としては中台“統一”,“ひとつの中国”を堅持していますし、具体的政策として中台接近・共同市場形成による景気浮揚を主張していますので、先日来の中国・チベットの騒乱に対する中国の弾圧は民進党に格好の攻撃材料を与え、国民党にとって強い逆風となっています。
民進党・謝候補側からは「それみたことか、中国に近づき一体化するということは、台湾をチベットのような惨状にすることだ」といった趣旨の批判が強く起きています。
(現実政策として、中国との通商関係を強化していく点では、民進党も同じでしょうが。)
これに対し、馬候補は「ダライ・ラマとは違い、(中国が提唱する)“一国二制度”を拒否している」と述べ、対中融和姿勢が「台湾のチベット化」を招くと批判する与党の指摘に反論しています。
また、民進党は“チベット独立”を支持していますが、国民党は「中華民国は中国の正統国家である」という立場ですから、チベットは中華民国の一部ということになり、おいそれと“独立支持”というわけにはいきません。
国民党・馬候補は中国政府による武力弾圧は「極度に威圧的でばかげている」と非難はしていますが、党の表立っての方針としては「中華民国はチベット人の自治を認めたい」という自治容認の姿勢になるそうです。【3月21日 産経】(なるほどね・・・)
更に国民党・馬候補にとって具合が悪いのが中国・温家宝首相の発言。
温首相は全人代後の18日、「(台湾の将来は)台湾同胞を含む全中国人民によって決定される」と発言。
馬候補は「統一論議」は棚上げとし、経済分野に絞って中台の協力強化による振興策を提唱してきましたが、あらためて政治的な対中国方針を問われる格好となっています。
一般的には中国は“台湾独立”志向の強い民進党を強く警戒しているとされていますが、96年の台湾近海での威嚇ミサイル演習など、結果的にはいつも台湾を刺激し、“独立志向”に追いやることばかりやっています。
今回の発言といい、なにか意図があるのでしょうか?それとも単に政治的センスがないだけでしょうか。
いずれにしても、チベット騒乱・温家宝発言で民進党から激しく追い上げられる形となった国民党・馬候補はことさらに中国に対し厳しい姿勢をとることが求められました。
その流れで出てきたのが「チベット人民への弾圧が続けば、北京五輪のボイコットも排除しない」との声明。
ところがこれが裏目にでたようです。
野球の盛んな台湾では、代表チームが13日に北京五輪の出場権を獲得したそうです。
野球の予選は台湾総統選をしのぐニュースとして連日、有力紙の1面トップを飾るほどの盛り上がりで、馬候補のボイコット発言は、こうした社会の盛り上がりに水を差した格好になったとか。
民進党の謝候補も発言を逆手に取り「スポーツ界を犠牲にするな」と、批判を浴びせているそうです。【3月19日 毎日】
一般的に“スポーツの世界に政治を持ち込まない”とか“政治とスポーツは別もの”と言われます。
ただ、チベットの問題とオリピックのどちらが大切かと言えば、比べるまでもなく大勢の人々の生命・生活、民族の文化がかかっている“チベット問題”です。
その意味ではオリンピックは“たかがスポーツの祭典”にすぎません。比べること自体がナンセンスです。
“血のにじむような練習をしてきた選手がかわいそう”とも言いますが、チベットでは実際に血が流れています。
ただ、では中国に抗議するためオリンピックをボイコットすべきか・・・という話になるとまた別問題です。
確かに、ボイコットは中国に“赤っ恥”をかかせて“懲らしめる”のにはまたとない方法です。
でも、その結果チベットの事態が改善するならそれはいいでしょうが、どうでしょうか?
私など“赤っ恥”かかされたら、絶対に恨みは忘れず、“死んでもあいつの言うことなんかきくもんか”と意固地になります。
対面を重んじると言われる中国も同じなのでは。
安易なボイコットは“憂さ晴らし”にはなりますが、事態の改善をいよいよ難しくする懸念があります。
もちろんこのあたりは、事態の進展具合に応じた話にもなりますが。
台湾の場合は、要するにオリンピック野球競技での台湾代表の活躍が見たいというだけでしょう。
“チベット問題”はともかく、“台湾のチベット化”“中台関係の将来”よりも、“オリンピックが見たい”と言うのであれば、“統一”と言おうが、“独立”と言おうが、所詮国民にとってはその程度の関心事にすぎないのかな・・・とも感じてしまいます。
案外、社会の現実・国民の本音を表した話なのかも。まあ、同じ民族ですしね。
今回、総統選挙以上に国際的に注目されているのが、同時に行われる予定の“台湾の名前での国連加盟”の是非を問う住民投票です。
“台湾”を国家とみなし、“台湾独立”・“「ひとつの中国」の否定”にもつながる可能性があり、中国が激しく反発しているのはもちろん、国民党は“中華民国名での国連加盟”是非を問う対案を出し、与党“台湾名”についてはボイコットするとかしないとか・・・随分揉めていました。
与党・民進党としては住民投票での否決は、“国連加盟”そのものへの国民の意思が否定されることにもなりかねず、最悪でも国民党案だけでも成立させたいとか・・・なんだかごちゃごちゃしていました。
アメリカも東アジアの大枠を覆しかねないこの投票には反対で、ケーシー副報道官は19日の定例記者会見で、「不必要であり、なんの助けにもならない」と批判。さらに「国連など国家により構成される組織への台湾加盟は無益だ」と言明したとか。【3月21日 産経】
いずれにせよ、この住民投票で台湾海峡の緊張が高まることも想定され、アメリカはすでにキティホーク、ニミッツの空母2隻を定期訓練などの名目で西太平洋に派遣しているそうです。
恐らく、中国側も同様、あるいはそれ以上の緊張を持ってこの事態を見守っていると思われます。
東アジアの住民のひとりとしては、いつも言っているように事なかれ主義ですから、地域の緊張を高めるような行為は困るな・・・というのが本音です。
前回04年の選挙では、投票日前日に陳水扁候補が銃撃されるというアクシデントが起き、これが“功を奏した”のか、民進党・陳水扁候補が劣勢を挽回してきわどい勝利(得票率差0.2%)を手にするというドラマがありました。
さて、今回はすんなり運ぶのでしょうか?