孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  “解放のトラ”(LTTE)支配地域から国際援助機関撤収

2008-09-15 10:53:22 | 国際情勢

(2005年の殉教者の日 LTTEの拠点キリノッチの墓で息子の墓を水で清める老父 “flickr”より By HumanityAshore.org
http://www.flickr.com/photos/humanityashore/68135670/)

【政府軍 キリノッチ中心部へ】
スリランカで続く、シンハラ人(多数派、仏教)主体の政府軍とタミル人(少数派、インド系、ヒンズー教)反政府勢力“タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)”の戦闘についてはこれまでも何回か取り上げたことがあります。
昨年夏にLTTEの東部拠点を奪還した政府軍は、LTTEを北部に追い詰めるかたちで攻勢をかけています。

ただ、なかなか進展しない状況や困難が予想される民族融和に、“スリランカ政府は意図的に戦闘を長引かせているのでは・・・”なんてことまで、4月24日「スリランカ  まだまだ続くLTTEとの戦い、自爆テロ、人権侵害」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080424)では書いたことがあります。
5、6月頃は政府軍の攻勢に対抗して、LTTEの自爆テロも度々報じられていました。

7月頃はあまりスリランカ関連のニュースを目にしなかったのですが(自爆テロでもないと国際的には取り上げられることもない・・・という現実でしょうか)、9月に入り、政府軍がLTTEの拠点であるキリノッチの中心部に一段と進撃したことが報じられています。

****政府軍と反政府勢力が北部で激戦=スリランカ*****
国防省によると、政府の治安部隊がLTTEの行政拠点であるキリノッチの中心部に一段と進撃したことから、LTTEは戦闘員を失い続けている。LTTEにとっては大きな打撃という。キリノッチはコロンボの北330キロに位置する。
 軍部はキリノッチを攻略し、LTTEの事実上の「ミニ国家」を解体することを目指している。政府軍はすでに攻略に手の届くところにいるという。同軍は3日夜、治安部隊が今週、激戦の末にLTTEの戦略拠点マラビを奪取した際に死亡した兵士19人の遺体を収容した。
 国防省はマラビの奪取について、「LTTEを打ち破る作戦における決定的かつ印象的な局面の一つ」と指摘している。【9月4日 AFP】
***************

【国際援助機関撤収】
スリランカの戦況については、政府軍とLTTEの発表が大きく食い違うのでよくわからないところがありますが、最終段階が近づいていることをうかがわせるのが、LTTE支配地域からの国際援助機関撤収を伝える次の記事です。

*****スリランカ政府がタミル人の大量虐殺を計画と非難=反政府勢力*****
スリランカの反政府武装組織タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)は13日、同国北部の支配地域から国連援助機関が撤退を開始するなか、政府が少数民族タミル人に対する大量虐殺作戦を計画していると非難した。
 北部ワンニ地域で人道活動に従事している国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と世界食糧計画(WFP)は、政府軍が同地域に向けて進撃しており、援助活動家の安全を保証できないとスリランカ政府から通告されたことから、12日に撤退を開始した。
 LTTEは、同地域のキリノッチの住民が国連機関の撤退に抗議し、両国連機関事務所の前に詰め掛けていると発表した。これら住民は、両機関がとどまり、人道危機に直面しているワンニ地域の住民のために人道活動を続けるよう求めているという。
 LTTEはさらに、住民からの訴えを取り上げ、これらの訴えの大部分は、政府がタミル人大量虐殺の最終段階に備えて、国際機関の撤退を命じたというものだと指摘した。こうしたLTTE側の非難に対する政府の反応は、今のところ出ていない。
 ただ政府は先に、2006年8月にフランスの援助機関の現地スタッフ17人が殺害された惨事を繰り返し、政府軍が援助活動家を殺したと非難されるのを回避したいと述べていた。【9月14日 AFP】
************************

【一般住民の被害を抑えるために】
戦闘激化に伴う国際援助機関の撤収は現実的にはやむを得ない措置ではありますが、残された住民の安否が懸念されます。
4月のブログでも触れたように、これまでもタミル人に対する人権侵害、民族浄化的な行為が問題になっています。
(自爆テロに見られるように、一方的にタミル人が被害者であるという訳ではありませんが。)
戦闘の混乱のなかで、一般住民に対する被害が最小限に抑えられるように願っています。

政府軍はLTTEが一般住民を盾にしていると非難しており、住民に非難を勧告するビラをまいているとか。
“キリノッチの住民によると、スリランカ空軍のヘリコプターが市民に対してビラをまいた。このビラには、「LTTEは既に敗北の直前に来ている。市民の命を守るためにいち早く政府の制圧地域に避難することを求める」とタミル語で書かれていた。”【8月31日 スリランカニュース(http://srilankanews.blog111.fc2.com/blog-entry-363.html)】

兵士・住民が入り乱れるような戦場にあっては、民間人を識別するのは困難ではありますが、現代の戦闘行為ではその逸脱は国際的に非難される世相になっています。
ただ、悲惨な事態が起きてからいくら非難しても、あるいは救援に入っても手遅れです。
犠牲になった人々の生命は戻ってきません。

どれだけの効果があるかはともかく、今の段階で予防的に、国際社会はスリランカ政府に対し、一般住民への被害拡大がないように国際社会が厳しく注視していること、万一不幸な事態が起きた場合、スリランカ政府は戦闘に勝利しても国際的に厳しい局面にさらされることを明確な形で伝えるべきでしょう。
国連だけなく、最大の援助国である日本の責務でもあります。

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北朝鮮の金正日総書記、ミャンマーのスー・チーさん 生ける伝説

2008-09-14 13:00:13 | 国際情勢

(36年前、まだ“生ける伝説”とは無関係だった頃の仲睦まじいスー・チー夫妻 “flickr”より By Amapolas
http://www.flickr.com/photos/edfabra/310992651/)

【ポスト金正日に動く各国】
北朝鮮の金正日総書記の病状については様々な憶測が飛び交っています。
真相がわからないなかで、隣国韓国の李明博政権は、北朝鮮の政権崩壊や大規模な難民発生などの「急変事態」に備え、対策の練り直しを急いでいます。
また、アメリカも中国と北朝鮮の政権崩壊を想定した対応に関して協議を行っていると報じられています。
米韓両国も協議を加速させています。

そんななかで、恐らく真相を把握していると思われるのが中国ですが、今回の問題に関しては固く沈黙を守っています。
“そうだろうね・・・”と思ったのが産経の記事。

****金総書記重病説はホント? 中国ピリピリ沈黙*****
米政府当局者を発信源とする北朝鮮の金正日総書記の重病説が、世界中で大きな話題となっているなか、北朝鮮と密接な関係にある中国は異常ともいえる反応をみせている。中国共産党機関紙「人民日報」など主要メディアはほとんどこのニュースを報じていない。外交当局者や国際関係学者らはこの問題に関する取材をかたくなに拒否し続けている。北朝鮮を刺激したくないと、中国指導部が神経をとがらせている状況がうかがえる。
(中略)
中国の反応は、金総書記の重病説の信憑(しんぴょう)性を高めているといえる。
中国は平壌に大使館をもっており、「血で固められた友誼(ゆうぎ)」といわれる中国と北朝鮮のこれまでの関係からみても、金総書記の重病説が本当であれば、中国当局が実態をすでに把握している可能性が高い。
しかし、指導者の健康という敏感な問題だけに、中国当局がこの時期に北朝鮮当局を刺激するような反応を外国メディアなどに見せれば、北朝鮮から不信感を招く可能性があり、今後の北朝鮮との関係に影響を与えかねない。
北朝鮮に関する情報を国際社会と共有せず、金総書記の次の親中政権をいかに作り上げるか、中国当局は静かに準備を進めているのかもしれない。【9月14日 産経】
*********************

強い影響力を駆使して、中国にとって具合のいい“次”の準備を着々と進めているのでしょう。
状況がわからないと言えば、金正日総書記とはレベルが違いますが、ミャンマーのスー・チーさんの状況もよくわかりません。

【ハンストではないが・・・】
先月ミャンマーを訪れ面会を希望したガンバリ国連事務総長特別顧問との面会を拒否。
2010年予定の総選挙について「自由公正な実施を求める」と述べるなど、軍政に配慮する姿勢が目立ち始めた国連に、スー・チーさんが強い不満を示したものとも報じられています。

この頃から、スー・チーさんが肉や野菜など生鮮食料品の受け取りを拒否していることを明らかにされ、一部でスー・チーさんがハンガーストライキを行っているとの見方も出てきました。
軍事政権との対話の窓口となる連絡担当相との面会も拒否していますが、唯一面会できる弁護士によれば、「元気だが、体重が減った。少し疲れた」とスー・チーさんが語っているとか。

国民民主連盟(NLD)は今月5日声明を出し、自宅軟禁中のアウン・サン・スー・チー書記長が軟禁に法的根拠がないことなどを軍事政権に抗議するため、約3週間、食料の受け取りを拒否していることを明らかにしました。
****************
関係者によると、スー・チーさんはこれまで、NLD関係者に頼んで毎日、食料を運んでもらっていたが、先月中旬から受け取りをやめた。自宅にある食料を細々と食べており、ハンストではないという。
「健康状態は悪くないが体重が減った」と1日に面会した弁護士に話したという。
声明によると、スー・チーさんは使用人までが外出を制限されていることや、月に1度とされる医者の往診が途絶えがちであることにも不満を表明しているという。
国営紙は3日、スー・チーさんが軍事政権のアウン・チー対話調整担当相との面会を拒否したと報じたが、NLD関係者は「事実ではない。スー・チーさんは担当相に会うつもりはあるが、いくつかの問題が解決していないと軍政に伝えた」と話している。今回指摘した3点の解決を求めているという。【9月5日 朝日】
****************

スー・チーさんの顧問弁護士によると、スー・チーさんが、15日か16日頃、軍事政権に対し自身の解放を求める嘆願書を提出するそうです。
スー・チーさんがこの種の訴えを提出するのは、これが初めてとか。

日本語で“嘆願書”と言うと一定の響きがありますが、日本語訳の問題ですので、“要求書”なのかなんのかはわかりません。
一連の動向からは、スー・チーさんの強い苛立ち・不満が感じられます。
先の見えない軟禁生活に対する心の動きもあるのでしょうか。
通算13年を超えたスー・チーさんの軟禁も今年5月に1年延長されました。
こうした状況ですから、いろいろ心の動きがあって当然とも言えます。

【生ける伝説】
英国人の夫、子供と共にオックスフォードに暮らしており、時々祖国を訪れるだけで、独立の英雄アウンサン将軍の娘としてしか知られていなかったスー・チーさんが、母国ミャンマーと向き合うことになったのは1988年、43歳のときでした。

****生ける伝説、アウンサン・スーチー*******
1988年3月に病気の母親を世話するため英国から一時帰国したスー・チー氏にとって、それは思いもよらぬ転換であった。彼女は1995年のヴァニティー・フェアー誌とのインタビューで「母親の看病に戻ったとき、父の名前で図書館をたてようかと思っていた。政治は私にとって魅力的なものではなかった。しかし母国の人々は民主主義を望んでおり、父の娘として私はそれに関わる義務があると感じた」と語っている。

1988年8月26日、シュウェダゴン寺院での彼女演説を聞きに集まった群衆は50万人に達した。
(参加者の一人は)「彼女はその演説で人々に希望を与えた。我々は英国からの独立に次ぐ第2の独立について話し始めた」と振り返る。【現地発8月26日 IPS】
*************

ミャンマー民主化にとって象徴となったスー・チーさんは、ある面では軍政にとっては国際社会にアピールする“手持ちのカード”ともなっています。
“象徴”なだけに、軍政にとってはもはや大幅に譲ることはできない問題でもあり、スー・チーさんの問題が進まない限り、NLDの民主化運動も進まないという“膠着状況”をもたらしている側面もあります。
ただ、軍政側の取り付く島のない対応では、スー・チーさん抜きの妥協というのも考えにくいところではありますが。

この膠着状況が動くのはスー・チーさんの健康に問題が生じたとき・・・と言うのでは残念な話です。
唯一、軍政に影響を与えられるのは中国だと思うのですが・・・。

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ロシアと欧米のはざ間で揺れるウクライナ 注目されるティモシェンコ首相の動向

2008-09-13 15:20:18 | 国際情勢

(世界情勢の鍵を握るウクライナのティモシェンコ首相 “flickr”より By Minirobot
http://www.flickr.com/photos/minirobot/173621687/)

【ユーシェンコ大統領の対ロシア強硬姿勢】
グルジア・南オセチアへのロシアの軍事介入に関して、ウクライナのユーシェンコ大統領は8月13日、クリミア半島セバストポリに駐留するロシア海軍の黒海艦隊が今回の紛争でグルジアへの事実上の海上封鎖に使用されたことを批判し、黒海艦隊の出港を規制する大統領令に署名、また、与党「われらのウクライナ」は8月14日、ロシアを中核に旧ソ連諸国で構成する独立国家共同体(CIS)からの脱退を政府に求める法案を上程するなど、ウクライナはロシアの対決姿勢を鮮明にしてきました。(CIS脱退が、その後どうなったのかはよくわかりません。)

ロシア外務省は9月11日、声明を出し、隣国ウクライナがグルジア紛争をめぐりロシアに非友好的な態度を示している上、ウクライナ・クリミア半島に母港を持つロシア黒海艦隊の行動を制約しようとしていると、更に、ウクライナ国内のロシア系住民の権利が侵害されており、ロシア語の排除を狙った政策が取られている非難しています。

一方、ウクライナを訪れたアメリカのチェイニー米副大統領は9月5日、ロシアとグルジアの軍事衝突でウクライナがグルジア支援の姿勢を表明したことを「他国に勇気ある例を見せた」と称賛しました。

かねてよりEU、NATO加盟を目指す親欧米派と言われるユーシェンコ大統領のこうした方向は、04年の「オレンジ革命」、ロシアとの天然ガスをめぐるトラブルなどを含めて、理解しやすい流れですが、ウクライナの実情はそれほど単純でもないようです。

【揺れる対ロシア政策】
そのときどきの情勢で、ロシアとの関係は改善したり、反発したり、相当に揺れ動いています。
それはロシアのような国を隣国に持ち、貿易・エネルギーの面で深くロシアに依存しており、更に国内にロシア系住民を抱えるウクライナとしては当然のことであり、微妙なバランス感覚が必要とされるところです。
ユーシェンコ大統領の親欧米姿勢にもかかわらず、世論に親ロ的な声が強いことは以前から言われているところです。

ユーシェンコ大統領自身もロシアとの間でこれまで揺れ動いています。
ロシアとの関係が急激に悪化し05年以降経済が失速する中で、ロシアとの関係改善を望む声が国内で高まると、ユーシェンコ大統領はロシアとの対決姿勢をとるティモシェンコ首相を解任。
ついでモスクワを訪問し、「ロシアは我々の永遠の戦略的パートナーだ」と発言するなど、ロシアとの関係修復に奔走した経緯もあります。
繰り返しますが、こうしたバランスはウクライナにとって必要・当然のことです。

そんなロシアとの関係に絶えず苦慮するウクライナですが、最近また対ロシア政策をめぐって国内情勢が不安定になっていると伝えられます。

【ティモシェンコ首相のロシア接近】
****ウクライナ:連立政権崩壊の危機…大統領と首相の確執再燃*****
ウクライナの親欧米連立政権が、今月初めから内紛で崩壊の危機に陥っている。背景には来年の大統領選をにらんだユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相の確執がある。現政権が崩壊すれば親ロシア派に政権が渡る可能性もあり、欧米諸国の懸念を呼んでいる。
発端はロシアのグルジア侵攻への対応だった。大統領はロシア批判を強く打ち出したが首相は沈黙。議会でも大統領派与党「われらのウクライナ」が提起した対露非難決議に首相派与党「ティモシェンコ連合」が賛同せず、否決された。
さらに議会で今月2日、大統領権限を縮小する一連の法案が首相派と親露派野党の支持で採択された。これに反発した大統領派は3日、連立解消の方針を決定。大統領が国民向けテレビ演説で「クーデターだ」と訴え、議会解散の可能性に言及する事態になった。
大統領派は、首相が次期大統領選をにらんでロシア政権と密約を交わしたと攻撃。一方の首相は疑惑を全面否定し、攻撃は「大統領のヒステリー」だとして連立政権復帰を求めている。

直近の世論調査によると、主要政治家の支持率は▽ティモシェンコ首相24.6%▽親露派野党「地域党」のヤヌコビッチ党首10.5%▽ユーシェンコ大統領5.3%--の順。首相は大統領選出馬を表明していないが、再選を目指すユーシェンコ氏の最大のライバルとみられており、首相の野心と大統領の嫉妬(しっと)が対立の大きな要因とされる。
大統領と首相は04年の民主化運動「オレンジ革命」で政権を獲得した同志だが、翌年に政策をめぐる対立から決裂し、昨年末に再び和解したばかり。 【9月9日 毎日】
**************

オレンジ革命時の活躍で「オレンジ革命のジャンヌダルク」とも、また、その経歴から「ガスの王女」とも呼ばれるティモシェンコ首相については、ガスでロシアと揉めていた頃の3月3日ブログ「ウクライナ 天然ガスで再度ロシアとトラブル」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080303)でも取り上げました。
正直に言うと、ウクライナ人女性の伝統的な髪型である三つ編みを巻いた金髪がトレードマークの美貌にひきつけられてしまいます。

この人はかつてのロシアからの天然ガス輸入をめぐってロシアから訴追され、1度目の首相在任中はインターポールのサイトにも顔写真が掲載されていたぐらいですから、これまで親欧米派と言われてきました。
しかし何があったのか、ロシア・ウクライナガス紛争が火を噴いていた時期にロシアは起訴を取り下げました。

【褒めちぎるプーチン首相】
そして今回のロシア接近、そしてユーシェンコ大統領との対決姿勢。
次期大統領選をめぐり、「ティモシェンコ首相がロシア政府から支援を取り付けた」との憶測も飛び交ったようです。【9月5日 産経】
親ロシア派野党をつうじたロシアからの切り崩しがあったのでしょうか。
そう言えば“「仕事は効果的で、人気もある」。ロシアのプーチン首相は6月28日、モスクワで会談したウクライナのティモシェンコ首相を褒めちぎり、波風が絶えなかった両国関係が親密ムードに一転した。”【7月1日 朝日】なんて記事もありました。

その美貌に似合わず(“美貌云々は関係ない”と女性から怒られそうですが)、相当にしたたかな政治家のようです。海賊版ビデオレンタル業から「ガスの王女」まで、一気に階段を駆け上った経歴からすれば、そのあたりは想像できるところではありますが。

今後、大統領選挙が近づくと親ロシア派野党からも大統領候補が出ますので、今は協調しているような親ロシア派野党とも手を切って再度姿勢を変える・・・という場面もありそうです。
上記記事の支持率をみると、ユーシェンコ大統領を引き離しているようですので、うまく立ち回れば今後更に階段を一段上り、美貌の大統領誕生の可能性も少なくないようです。

【EU 関係緊密化で合意するも躊躇いも】
欧米諸国からすると、“反露同盟”の橋頭堡の役割を果たしてきたウクライナの動向は非常に気になるところです。
現政権が崩壊して親ロシア派に政権が渡ることにでもなると、ロシアをめぐる世界情勢に大きく影響してきます。
チェイニー副大統領のウクライナ賞賛は、自陣営にウクライナを引き止めたいアメリカの思惑の表れでもあるのでしょう。
ロシアにすれば、ウクライナをひっくり返せれば大きなポイントです。

EUとウクライナの首脳会議が今月9日パリで開かれ、関係緊密化で合意しましたが、EU内部の国々にも温度差があるようです。
エネルギーでロシアに依存するEUとしては、ロシアとのいたずらな緊張は避けたい思惑があります。

**********
ロシアとグルジアとの紛争を受けて、ロシアの影響力を排除したいウクライナはEUへの傾斜を深めているが、ウクライナのEU加盟の可能性には今回言及しなかった。
合意は、旧ソ連のウクライナを「欧州の一国であり、歴史と価値観をEUと共有する」と認め、経済、政治面の関係強化や司法協力、ビザ発給の簡素化などを進める方針をうたった。会談後の共同記者会見でEU議長国フランスのサルコジ大統領はウクライナを「東方のパートナー」と位置づけ、「欧州の政治的影響力を高めるためにも有益だ」と、関係強化の意義を語った。
だが、合意はウクライナのEU加盟の可能性については触れず、EU側のためらいぶりも浮き彫りにした。 【9月10日 朝日】
**********

世界的な欧米諸国とロシアの対立の焦点となっているウクライナ、その国内のユーシェンコ大統領や親ロシア派野党などの関係のなかで、ティモシェンコ首相の今後が気になります。
あまり上ばかり見すぎて階段を踏み外さないように・・・。


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パキスタン  “火中のクリ”を拾うザルダリ新大統領

2008-09-12 16:30:20 | 国際情勢

(故ブット前首相の墓にバラの花びらをまく夫ザルダリ氏とPPP共同総裁の19歳長男 ザルダリ新大統領はパキスタンの多難の前途を切り開くことができるか・・・ “flickr”より By Muhammad Adnan Asim ( linkadnan ) # 1
http://www.flickr.com/photos/linkadnan/2145018138/)

【“ブットよ永遠に”】
ムシャラフ前大統領が辞任に追い込まれ、その後のパキスタンの第14代大統領に、パキスタン人民党(PPP)共同総裁で、暗殺された故ベナジル・ブット元首相の夫であるザルダリ氏が就任しました。
全国に生中継された9日の就任宣誓では、支持者は「ブットよ永遠に」「ブットは生きている」との歓声を受けたとか。
また、6日の大統領選挙勝利のときは、勝利を祝って支持者等が花火を打ち上げたとも。

でも、ザルダリ新大統領は本当に今のパキスタンにトップになりたかったのでしょうか?
妻の故ブット前首相は自伝で夫のことを“政党政治に関心のない人”と評しています。
どうみても前途多難で、“火中のクリ”または“貧乏くじ”に思えるのですが、やはり権力の魅力はそのような分別を超えたものなのでしょうか?
それとも、かつての“ミスター10%”は、この難局を打開する自信があるのでしょうか?
あるいは、自分自身で血路を開かないと身を守れないという悲壮な覚悟なのでしょうか。

今年2月の総選挙で、人民党はムシャラフ前大統領に集中している大統領権限削減・民主化を公約し、この点でシャリフ元首相と共同歩調をとりました。
今その大統領に就任したザルダリ新大統領は、首相解任権・陸軍参謀長と最高裁長官の指名・解任権などの強大な大統領権限を手放さないつもりのようで、シャリフ派などから公約違反の批判を浴びています。

この背景には、妻のブット元首相暗殺後に党幹部に就任したため側近と呼べる人物が少ないこと、しかも人民党は冒頭の“「ブットよ永遠に」「ブットは生きている」との歓声”にも見られるようにブット家の個人党で、「ブット」の名を持たないザルダリ氏が率いることに反発する勢力があることなどの理由で、強権を保持しないと権力そのものが維持できないという不安があると報じられています。

【山積する難問】
また、シャリフ派との連立解消に至ったチョードリー前最高裁長官らの判事復職問題も残っています。
前長官は、ムシャラフ前大統領が昨年ザルダリ氏らの汚職訴追を免除したことも違憲と考えているとされており、復職した場合、ザルダリ新大統領の地位が危うくなります。
このため新大統領は前長官復職には消極的な姿勢をみせています。
しかし、前長官は国民的な信頼が篤く、また、強く復職を求めているシャリフ派との関係もあって、人民党・新大統領は今後の対応に苦慮しています。

主食のローティを作る小麦粉やコメの価格は昨年の倍に値上がりし、電力不足で停電が頻発するという国民生活を脅かしいている問題もあります。

【“テロ地獄”】
大統領権限の問題、前最高裁長官の復職問題、国民生活の苦境・・・これだけでも大変ですが、話の本筋はこれからです。
“テロ地獄”とも言われるパキスタンの現状・今後をどうするのか、アメリカとの関係をどうするのか・・・という問題です。

アメリカと協調してイスラム武装勢力との対決姿勢を強めたムシャラフ前大統領でしたが、これに反発するイスラム武装勢力による自爆テロが、特に“赤いモスク”事件後、多発する事態になっています。
ムシャラフ前大統領を支持していた旧与党の総選挙での敗北も、このようなテロ横行を招いたムシャラフ大統領への国民の批判がありました。
その後のギラニ政権はイスラム武装勢力との話し合いの姿勢を一時見せていましたが、それも結局破綻しました。
大統領選挙の行われた6日にも、パキスタン北西部のペシャワルの市場近くの検問所に自動車爆弾による自爆攻撃があり、少なくとも16人が死亡、約80人が負傷しています。

10日には、北西辺境州のDir地区にあるスンニ派のモスクで、午後の礼拝中に武装勢力とみられる人物たちが複数の手投げ弾を投げ込んだ後発砲し、少なくとも20人が死亡、30人が負傷しました。
治安当局高官の話では、「武装勢力の戦闘員たちはモスクを取り囲み、手投げ弾を投げ込んだ後、無差別に発砲した。」とのことで、被害者の中には子どもも含まれているそうです。
テロと言うより“虐殺”です。
この地区では、前月開かれた長老らの会合で、タリバンの同地区への立ち入りを禁止するなど、反タリバンの姿勢を強く打ち出す声明を発表していました。

【“テロリストの聖域”】
一方で、隣国アフガニスタンの戦況は芳しくなく、アメリカ・アフガニスタンには、タリバンがパキスタン北西部国境隣接地域を“安全地帯”として、ここに逃げ込み、また、ここで訓練を重ねてアフガンに出撃しているという不満がつのっています。
米側はこのパキスタン部族支配エリアを“テロリストの聖域”と非難し、この地域へのアフガンからのミサイル攻撃を行ってきました。
北ワジリスタン地区では8日にも、アフガニスタン駐留米軍のものとみられる無人機が発射したミサイルが民家を直撃し、地元当局者によると、女性や子供を含む民間人7人と武装勢力7人の計14人が死亡、25人以上が負傷しています。

このような越境攻撃に関してパキスタン政府はこれまでもその都度抗議していますが、パキスタン国軍はこれまで事実上黙認してきたと言われています。【9月11日 毎日】
しかし、苛立ちを強めるアメリカ側の攻撃はエスカレートし、今月3日には「ヘリコプターで運ばれた米軍特殊部隊がアフガニスタン国境に近いパキスタン北西部の村に潜んでいたアルカイダ要員を攻撃した」というような米特殊部隊による地上作戦も行われるに至り、パキスタン側の反発も大きくなっています。
パキスタンの外相は「米国の主権侵害」と非難しています。

もっとも、この地上作戦にはパキスタン国軍の特殊部隊も参加していたとも報じられており、国軍の対武装勢力掃討作戦及び対米協力の実態はよくわかりません。【9月4日 共同】
繰り返される、また、エスカレートする越境攻撃に、少なくとも表立っての対米批判はかつてなく強まっています。

米国のマイケル・マレン統合参謀本部議長は下院軍事委員会の公聴会での証言で「アフガンで勝利しているとは確信していない」と言明し、アフガンとパキスタン両国境地帯に照準を合わせた「新戦略」の必要性を指摘。
このため、アフガン治安部隊の増強と訓練と同時に「パキスタン軍に過激派対策を強化し、米軍の役割を拡大するよう求めている」と強調し、また、国務省を中心とする地方復興チーム(PRT)の要員増強など復興分野での取り組みを強化する必要性も強調しました。【9月11日 毎日】

【“主権は死守されなければならない”】
これに対し、パキスタン国軍のキアニ参謀長は反発しています。

******パキスタン軍最高司令官、米軍の越境攻撃を非難*****
パキスタンのアシュファク・キアニ陸軍参謀長は11日、隣国アフガニスタンに展開する米軍主導の多国籍軍の越境攻撃を強く非難し、パキスタンの「主権は死守されなければならない」と述べた。
キアニ参謀長は声明で「国の主権と領土保全は死守されなければならない。いかなる外国勢力もパキスタン国内で作戦を実施することは許されない」と述べた。
米国のマイケル・マレン統合参謀本部議長は10日、パキスタン領内の武装勢力の潜伏地域を含む新たな戦略を立てるよう命じたことを明らかにした。
これに対し、キアニ参謀長は多国籍軍との間で「パキスタン領内での作戦実施を許可する合意や理解」はないと指摘。市民に被害を及ぼす「見境のない攻撃は武装勢力の活動を助長するだけ」だと述べた。【9月11日 AFP】
****************

一方、米ニューヨーク・タイムズは10日、複数の米政府高官の話としてブッシュ大統領は今年7月、パキスタン政府の事前承諾がなくても同国内で米特殊作戦軍が地上作戦を実施することを許可する命令を内密に承認していたと報じています。
“ある米政府高官は匿名を条件に「(パキスタンの)部族地域の状況は容認しがたい。もっと断固とした態度を取らなければならない。作戦の許可命令は出ている」と語った。同紙によると米政府高官らは米軍がパキスタン領内で作戦を実施する際、通知はするが許可は求めないと話している。”【9月11日 AFP】

“通知はするが許可は求めない”というのは、多くの住民の被害が出ているパキスタン側にすると容認できるものではありません。国家主権の否定です。
パキスタン国会も「米軍が再進入すれば応戦すべきだ」と決議しています。
ギラニ首相も11日、「陸軍参謀長を全面的に支持する」と語り、政府も米軍の領内侵入を認めない方針を明確にしています。

こうしたイスラム武装勢力との戦い、アメリカとの関係をザルダリ新大統領はどのように乗り切るつもりなのでしょうか?

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タイ  TV料理番組出演でサマック首相失職 民主主義における司法の役割

2008-09-11 15:49:17 | 国際情勢

(9月9日、“サマック首相失職”のTVニュースに足を止めるバンコクのスーパーの買い物客
“flickr”より By mr.beaver
http://www.flickr.com/photos/mr_beaver/2842584159/)

【TV料理番組出演が“副業”】
サマック首相をタクシン元首相の傀儡と批判し、その辞任を求める反政府団体「民主市民連合」(PAD)が首相府を占拠、辞任を拒否するサマック首相との間で膠着状態にあったタイの情勢は、あっけないと言うか、唐突な形で首相辞任に動きました。
(これまでの経緯については、9月2日「辞めないタイ・サマック首相 非常事態宣言、 辞める福田首相・・・」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080902 を参照)

サマック首相は、流血の事態を招くことは世論の批判をあびることになりかねないため、強硬手段でのPAD排除を避け、この間プミポン国王への謁見などで事態の解決をはかってきました。
しかし、長引く混乱に対する議会・与党内からの批判、更にPADと与党支持者の衝突などもあって、ついに9月2日、バンコクに非常事態を宣言しました。

非常事態宣言下では、アヌポン陸軍司令官に事態収拾の指揮権が委任され、5人以上の集会が禁止されることになっていましたが、先の軍事クーデターの結果に懲りている軍は、今回の混乱に関与することを拒否。
アヌポン陸軍司令官は、デモ隊の強制排除は「事態をさらに悪化させる」と指摘。「法と議会の制度に基づき解決されるべきだ」と述べ、当面は実力行使しない方針を示しました。
このため、市民連合は「非常事態宣言を恐れる必要はない」と首相府の占拠継続を宣言し、サマック首相の最後の切り札であった非常事態宣言も軍の協力を得られず有名無実化していました。

サマック首相は事態解決の目処が立たず、PAD側も国民の支持を大きく広げることができない・・・そんな両者の“手詰まり”状態のなかで飛び出したのが、首相の料理番組出演を違法とする9日のタイ憲法裁判所の判決でした。
判決は、サマック氏がテレビ出演で5000バーツ(約1万6000円)を受領したことが「雇用に当たる」とし、大臣の副業を禁じた憲法に違反するとの判断を判事9人の全員一致で下しました。
判決は首相の即時辞任を求め、現政権は議会が新首相を選出するまでの30日間の暫定内閣とすると命じています。

【政治的な判決】
判決の中身について今更とやかく言っても仕方ないところですが、いかにも形式的で奇妙な判決です。
サマック首相が料理を趣味としており、首相就任前からTVの料理番組に出演していたことは周知のことです。
その報酬を得たことが法律に反するということであれば、返還あるいは罰金は当然でしょう。
しかし、それは“副業”でしょうか?
金額5000バーツ(約1万6000円)というのも、タイの物価水準を考慮しても、首相のTV主演に対する“お車代”としてはむしろ少ない印象の額です。首相も“趣味”として対応していたのでしょう。
憲法267条の規定は、首相の権限を利用したような“副業”の禁止を想定したものではないでしょうか。
今回のようなケースをもって“首相失職”に追い込むというのは・・・形式的と言うより“政治的”なものが推察されます。

この訴訟は、首相のTV出演を「違憲行為にあたる」として上院議員や選管が8月に提訴していたものですが、憲法裁の判決は当初9月下旬とみられていましたので、これまで全く話題になっていませんでした。
ところが、憲法裁判所は8日になって突然「9日判決」を発表。
“最高司法機関として事態打開に動く意図があったとみられる。”【9月9日 毎日】ともありますが、憲法裁判所だけの判断ではなく、全体のシナリオを書いた者がいそうな感じがします。
それがどういう立場の人間かはわかりませんが。

【火中のクリ】
判決を受けて「国民の力党(PPP)」を中心とする連立与党は、当初サマック氏再選に向けて動きました。
PPP副党首のKan Tienkaew氏は「われわれは裁定を尊重はするが、今回の件はあまりに法律論的過ぎる。明日の議会で即、次期首相を選出できるよう願う」と述べています。
しかし、サマック首相再選では混乱がいたずらに増すだけであるとの判断が与党内にも広がり、現在はサマック氏以外の線での模索が続いています。
連立第2党のバンハーン国民党党首らの名前も出ていますが、本人は難色を示しているとか。
この政治混乱の中であえて「火中のクリ」を拾う人物が出てこない状況のようです。

事態は混迷の度を深めていますが、首相府を占拠する民主主義市民連合(PAD)は、PPPの首相なら抗議活動を続けるとしています。
今後の首相人選でPADの抗議活動が長期化するのか、下火になっていくのか・・・まったくわかりません。

【民間クーデター】
PADについて言えば、現政権に多々問題はあるにせよ、選挙による“民意”の反映としての現政権を“首相府占拠”という裁判所命令を無視した実力行使で追い詰め、社会的混乱を惹起することで政権の転覆を図ろうとする手法は“民間クーデター”であり、支持できません。
国民の支持が広がらないのも、その強引さにあると思われます。

更に、現政権が地方貧困層の強い支持を受けており、もし総選挙になった場合PAD側に勝ち目がないことから、こうした貧困層の影響力を封じるため、全議席の約3割のみを選挙で選出し、残り7割の議席は任命制とするよう議会制度の改正を求めていると報じられています。
もとより、PADはタクシン元首相に利権から排除されたグループによる権力闘争だとの指摘もありますが、この“任命制”の主張に至っては民主化を否定するもので到底容認できません。

【与党解党処分】
タイ政局に関しては、判決次第では与党解党にいたるもうひとつの裁判が控えています。

****タイ:選管が最大与党の解党申し立て 選挙違反に関与認定*****
タイ選管は9月2日、昨年12月の下院選をめぐる選挙違反事件に、サマック首相率いる最大与党「国民の力党」が党ぐるみでかかわったと認定し、同党の解党処分を申し立てることを決めた。
検事総長による起訴手続きを経て、最高司法機関の憲法裁判所で審理する。審理には数カ月かかる見通しだが、解党判決が出れば、党首を兼務するサマック首相ら33人の党役員に政治活動禁止処分が科され、政権は崩壊する。

選挙違反事件では、選挙時に副党首だったヨンユット前下院議長が7月、買収罪で5年間の政治活動禁止の有罪判決を受け、選管が党の関与を審査していた。憲法によると、党役員による選挙違反を政党ぐるみと判断した場合、政党に解党命令を下すことができる。

タイでは昨年5月、タクシン元首相が率いた旧与党・タイ愛国党に買収罪などで解党命令が下され、元首相ら111人に5年間の政治活動禁止処分が科された。これを受け、同党員が「国民の力党」に集団移籍し、12月の下院選で勝利してサマック連立政権を発足させた経緯がある。 【9月2日 毎日】
***********************

【司法の役割】
タイの司法は、タクシン元首相を亡命においやった元首相の汚職に関する訴訟、カンボジア国境の「プレアビヒア寺院」の世界遺産登録に関してサマック政権が議会の承認を得ることなくカンボジア政府への支援に合意したのは不当だとの判断し、国境紛争にまで発展しかけた判決、上記記事にもある与党解党に直結するPPP副党首だったヨンユット前下院議長の選挙違反判決と、非常に重大な“政治の流れを決定付ける”判決を最近重ねています。

司法が決定権を握るような展開はタイだけでなく、他の国でも見られます。
トルコでは7月末、タイ同様に与党の解党に繋がる、“スカーフ着用解禁が国是の政教分離を犯している”とする与党解党を求める訴訟の判決がありました。
訴えられていた与党・公正発展党(AKP)は、先の選挙で圧勝したときの“1650万人の得票”を11人の判事の判断で覆すのかと、この訴訟に対決していました。
これまでも多くの解党命令の実績のあるトルコ司法ですが、今回はAKPに対して政党助成金の削減という制裁を科す決定も下し、AKPの政策が事実上違憲であるとクギを刺しながらも、解党については僅差でこれを退けるという“現実的なバランスを重視した”判決を下しました。

パキスタンでもムシャラフ前大統領辞任に追い込んだ流れを決定付けたのはチョードリー前最高裁長官の処遇であり、彼の復職後に行うと予想される判決でした。ムシャラフ前大統領の後任にきまったザルダリ新大統領の命運もまた、チョードリー前最高裁長官の処遇、その判決に左右されると思われます。

フィリピンでは、政府とミンダナオ島の反政府勢力との和平交渉について、最高裁が合意文書署名の一時差し止めを命令じたことから一気に紛争が拡大しています。

一般に日本では司法は政治に関わることを必要以上にしり込みする傾向があり“三権分立”も寝ている状況にありますが、逆に、選挙で多くの民意を集めた与党が数人の判事の判断で解党されてしまうというような、司法が社会の決定権を握る姿も行き過ぎのように見えます。
本来、議会において調整・解決すべき問題を司法の場に持ち込み、数人の判事に委ねることは民主主義の形骸化を招くように思われます。



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力を誇示しあう米ロ艦隊  黒海からカリブ海まで

2008-09-10 14:28:52 | 世相

(ニカラグアで「果たされ続ける約束作戦2008」(Continuing Promise 2008)に参加する米第4艦隊の強襲揚陸艦「キアサージュ」艦上に並ぶ大型輸送ヘリコプター「CH-53E Sea Stallion」 羽根を折りたたんでコンパクトに丸まっています。“flickr”より By david_axe
http://www.flickr.com/photos/david_axe/2763284768/)

【黒海の米ロ艦隊】
グルジア・南オセチアでの衝突後、黒海に米ロ双方が艦隊を派遣してにらみあう緊張が続いています。
ロシアは8月27日に黒海艦隊のミサイル巡洋艦など3隻をアブハジア自治共和国の首都スフミの港に入港させました。
一方、人道援助物資を載せているとする米イージス駆逐艦「マクフォール」など2隻が、ロシア軍が進駐しているポチを避けるかたちで南のバトゥーミ港に到着。これら2隻は、物資の荷下ろしをした後も沖合で停泊。
更に、今月5日には、これまで避けていたポチに米海軍第6艦隊の旗艦である揚陸指揮艦「マウント・ホイットニー」が入港、と言うか、正確には、大きすぎて入港できないので沖合に停泊して、小型船に毛布や粉ミルクなど人道支援物資を積み替えて陸揚げを開始しました。
今月2日には、NATO加盟国の艦船がグルジア沖の黒海に集結していることに対し、ロシア・プーチン首相が「穏やかで、ヒステリックなものではない」何らかの対抗措置を取ると警告する発言もありました。

その後「マウント・ホイットニー」からの支援物資の陸揚げは終わり、アメリカ国防総省は8日、グルジアで行っていた米軍による人道支援活動を同日までに終了したことを明らかにしました。
今後、艦隊をどうするのかはわかりません。

【ロシア艦隊、カリブ海へ】
舞台は黒海から一転、カリブ海。
ロシアは8日、原子力ミサイル巡洋艦「ピョートル大帝」などの艦船や軍用機をカリブ海に派遣し、ベネズエラと合同軍事演習を行うと発表しました。

******ロシア、原子力巡洋艦などカリブ海に派遣 11月にベネズエラと合同演習***
ロシア海軍の報道官によると、ベネズエラとの軍事演習はウゴ・チャベス大統領が7月に訪露した際ドミトリー・メドベージェフ大統領との会談で合意したもので、11月に実施する予定だという。
ピョートル大帝は、通常弾頭と核弾頭のいずれも搭載できる巡航ミサイルなど強力な火力を持つミサイル巡洋艦。ロシア外務省によれば、演習にはロシアの大型対潜艦「アドミラル・チャバネンコ」や対潜哨戒機も参加する。

ロシア政府は今回の合同演習はグルジア情勢とは無関係だとしている。一方の米国防総省は、米軍も世界各地でいろいろな国と合同演習を行っているとして問題視しないと述べた。
米国とロシアの関係はグルジア問題を機に悪化。さらに、米国が人道支援物資を輸送するためとしてグルジアに軍艦を派遣したことにロシアが危機感を抱き、米ソ冷戦時代以来の最も緊張した状態が続いている。【9月9日 AFP】
****************

【58年ぶりの米第4艦隊】
確かに、アメリカも“世界各地でいろいろな国と合同演習”を行っていますし、カリブ海については、今年7月に58年ぶりに第4艦隊を再創設して、中南米一帯へのデモンストレーションを開始しています。
第4艦隊は1943年にブラジル北東部に対するドイツの攻撃を防ぐため創設されましたが、第2次大戦後の1950年に解体されていました。

今回の再創設について米海軍は「第4艦隊は中南米海域での非常事態に備えた作戦、麻薬取り締まり、各国との共同作戦を展開する」としています。
背景としては、近年ラテンアメリカで進む左左翼政権の相次ぐ誕生、南米唯一の親米国家コロンビアとベネズエラ等の対立、キューバにおけるカストロ引退に伴う変動などが考えられます。

***************
【7月3日 赤旗】ブラジルの上院議員は同テレビで、「米国が監督する時代はすでに終わっている。われわれは世界経済の主要国の一つだ」「誰もわが国の主権を脅かすことはできない」と批判しました。
アルゼンチンの有力紙クラリン六月三十日付は、「第四艦隊が中南米海域を再び監視」という記事を掲載。識者の分析として、再設置の狙いは天然資源の獲得と進歩的政権への圧力であり、「世界経済の構造変化が始まったときに再設置の決定が行われたのは偶然ではない」との見解を紹介しました。
***************
ベネズエラのチャベス大統領は、アルゼンチンで開催された南部共同市場首脳会議で「米国がこの地域で何をしようとしているのか警戒しなければならない」と警戒していましたが、今回のロシアとの合同演習はその一環と推測されます。

【Continuing Promise 2008】
その注目の米第4艦隊は、最初の仕事として、昨年9月に中米を襲ったハリケーン「フェリックス」による被害者を支援するため、ニカラグアを手始めに中南米7ヶ国を第4艦隊が訪問することになりました。
この活動は、「果たされ続ける約束作戦2008」(Continuing Promise 2008)と名づけられており、ニカラグアの米国大使館によると、作戦は4ヶ月間継続されるそうです。
4ヶ月ということは、ロシア・ベネズエラが合同演習を行う11月にも重なります。

******復活した米第4艦隊が南米で「人道支援」活動****
8月11日、第4艦隊の強襲揚陸艦キアサージュがニカラグアのモスキート海岸沖に停泊した。ニカラグア領海内には25日まで留まり、その後パナマ・コロンビア・トリニダードトバゴ・ガイアナ・ドミニカ共和国を訪問する。ニカラグア国内では、医療やインフラ復興などの人道支援活動に従事しており、すでに2500人の患者を診察し、100回の外科手術を行ったという。
キアサージュには、軍人だけではなく、米保健当局の関係者やNGOのメンバーも乗り組んでいる。さらには、フランス・スペイン・ブラジル・オランダ・カナダからのボランティアまで搭乗しているという。

しかし、キアサージュは、コンゴ民主共和国やシエラレオネ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボなど、各地での軍事作戦に関与してきた艦船でもある。最近ではイラク戦争に従事している。
こうしたことから、第4艦隊の復活は、中南米において疑念の目で見られている。「人道支援」を隠れみのにして「軍事」と「非軍事」の領域をあいまい化しようとしているのではないのか、というわけだ。
ブラジル・アルゼンチン・ベネズエラはすでに、自国領海への第4艦隊の立ち入りを認めないと表明している。

米国務省のトーマス・シャノン次官補は、第4艦隊の復活は自然災害への対応や人道支援活動の遂行、麻薬の取り締まりのためであり、艦隊に攻撃能力はないとしている。【現地発8月20日 IPS】
*************

軍事方面の知識は全くありませんが、“キアサージュ”という名前、どこかで聞いたような気がします。
口紅?・・・それはマキアージュ。
確認すると、昨年11月バングラデシュを直撃した大型サイクロン「シドル(Sidr)」による被害の救援活動のため派遣された艦船です。
強襲揚陸艦は、基本的にヘリコプターを搭載し、エア・クッション型揚陸艇や小型ボートも備えていることから、その機動性とともに、救援活動には最も適しているそうです。
確かに「シドル」ときも大活躍で、うらやましくもありました。

ただ、“第4艦隊の復活は自然災害への対応や人道支援活動の遂行、麻薬の取り締まりのためであり、艦隊に攻撃能力はない”とは言いますが、見せられる方へのインパクトはそれなりでしょう。
砲艦外交の一種と言えば言えなくもありません。
近年はイラクでの戦争の民間請負、アフガンでの軍と一体になった民生支援PRT、今回のキアサージュのような人道支援・・・何事につけ境界がはっきりしないものが多く判断にも迷います。

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パレスチナ  「平和の渓谷」“死海-紅海運河”プロジェクト

2008-09-09 14:41:42 | 国際情勢


【死海:干上がり陥没する湖底】
近年、河川の水量減少、湖の縮小などの話を世界中あちこちで耳にしますが、海抜マイナス417メートルという世界で最も低い場所に位置し、塩分濃度が非常に濃いため水面に体が浮かぶ体験を楽しめることで有名な“死海”も急速に縮小しているそうです。
十数年前までは目の前に水辺があった“湖畔のホテル”も、今では水際までシャトルバスで1キロ以上とか。
さらに、水位が低下して干上がった場所の地盤が突然、相次いで陥没する現象も起きているそうです。

そんな死海を紅海からの水で復活させ、あわせて淡水供給も可能にするビッグ・プロジェクト“死海-紅海運河”の調査がはじまっています。

******「平和の渓谷」運河計画 紅海の水で死海を救え****
死海の水位低下は1950年代に始まった。70年代後半には湖底の一部が露出し、湖は南北二つに分裂してしまった。水位低下の最大の原因は、死海に流れ込む国際河川ヨルダン川の水量の激減であり、その背景には、周辺国の人口拡大や産業発展に伴う水需要の急増がある。ヨルダン川からの流量は、かつての9割減にまで落ち込んでいるとされ、現在、死海の水位は年間1メートルずつ下がり続けている。

最近、イスラエルのペレス大統領が提唱した「平和の渓谷」構想が関心を呼んでいる。死海の南のイスラエルとヨルダンの国境地帯で経済開発を進め、中東和平に貢献しようというのがそもそものアイデアだ。
その根幹に、死海と紅海を結ぶ総延長約170キロの運河の建設計画がある。紅海から年間20億立方メートルの海水を取水し、うち5億~8億立方メートルを淡水化して主にヨルダンに供給。残りを死海に流し込むという。
 
まだ実現可能性を探っている予備調査の段階に過ぎないが、経済界は早くも過熱気味だ。
だが、もともと死海に流れ込んでいるのは淡水だ。大量の海水が死海に引き込まれた場合の影響や、海水を放出する紅海側の変化もまったく予測できていない。

荒涼とした中東地域で、水は重要な「戦略物資」だ。時には和平の実現に立ちはだかる難題の一つにすらなる。
死海に流れ込むヨルダン川の給水源であるガリラヤ湖。今年5月に8年ぶりに再開したイスラエルとシリアの和平交渉は、過去に、ガリラヤ湖に対するシリアの水利権を巡って神経戦を繰り返した。また、67年の第3次中東戦争でイスラエルが占領したシリア領のゴラン高原は、戦略的な要衝であると同時にイスラエルの重要な水源にもなっており、これが占領地返還を渋らせる要因になっている。

パレスチナも、イスラエルとの和平実現の最重要課題として、聖地エルサレムの帰属問題などと同列に「水資源の確保」を挙げている。自治区といいながら、イスラエル占領下で自由に井戸を掘ることさえできず、ヨルダン川の水もイスラエルを中心にヨルダン、シリアが取水して、パレスチナは自前では利用できないのが実態だ。
イスラエルは04年、水の安定確保を目指す試みとして、武器を輸出する代わりに、淡水をタンカーで輸入する協定をトルコと結んだ。しかし、運搬コストの問題や、水という「生命線」を他国に依存することへの警戒から、具体的に進んでいない。【9月8日 毎日】
*******************

冒頭の地図で位置関係を確認すると、地図中央の縦に長い湖が死海、そこから南に下るとエジプトとアラビア半島にはさまれる紅海にいたります。
イスラエルもヨルダンも紅海に接しているのは、湾の一番奥の僅かばかりのエリアですが、ヨルダン領の紅海沿岸の都市が“アカバ”、あの“アラビアのロレンス”がラクダで攻撃をしかけたオスマン・トルコの要塞があったところです。
中央の死海からヨルダン・パレスチナ自治区(地図では斜め線のエリア)の境界をなすヨルダン川を北へ遡ると、地図の上の方にガリラヤ湖(別名:ティベリアス湖)、その北東部に位置するシリア領がゴラン高原(地図の上の端)があります。

総工費30~40億ドル、建設期間10年(25年とする記載もあります)の構想で、調査は今年08年5月にようやく開始されました。
ヨルダン、イスラエル、パレスチナ自治政府は06年12月、実現可能性に関し予備的な検討始めることで合意していましたが、域内の緊張が高まったため頓挫していたものです。
事業は上記3国に世界銀行を加えた4者で行い、昨年6月段階の情報では、11の企業が運河建設の入札に参加する資格を得たとされています。
また、日本、フランス、オランダ、米国が、2年間にわたる予備的検討にかかる費用1550万ドルのうちの900万ドルを負担するとされていますので、日本も一枚かんだ事業です。

なお、記事にある紅海側の環境問題としては、紅海のサンゴ礁が損傷するなど生態系に悪影響を及ぼすとの環境団体の意見があるようです。
運河自体は海水をそのまま死海に流し込む計画ですので、その海水の与える流域土地や死海への影響も考慮する必要はありそうです。

【水資源をめぐる争い】
人間の生活に絶対に欠くことができない“水”。
もともと乾燥地帯であり水が不足しているこの地域で、急速にヨルダン川、死海から水が失われつつある現実は、今後の水をめぐる関係国の紛争を惹起する危険が多分にあります。

引用記事にもあるように、シリアとイスラエルのゴラン高原返還交渉が難航するのも水の問題があるからと言われています。
イスラエルはガリラヤ湖畔に国立給水センターを建設し、国内の主要な地域に飲料水の供給を行っています。イスラエルにとってはガリラヤ湖は貴重な水源になっています。
そのイスラエルは90年代前半の故ラビン首相時代から、ゴラン高原の「高原部」からの撤退には原則的に応じる構えをみせていますが、67年以前にシリア領だったガリラヤ湖東岸の水際までの返還に応じるのか、ガリラヤ湖に流れ込むゴラン高原の水源の権利確保などで、シリアと主張が対立しています。

また、ヨルダン川については記事にも“自治区といいながら、イスラエル占領下で自由に井戸を掘ることさえできず、ヨルダン川の水もイスラエルを中心にヨルダン、シリアが取水して、パレスチナは自前では利用できないのが実態”とありますが、イスラエルは西岸地域に建設した“壁”によってパレスチナ自治区を封じ込め、最終的にはパレスチナ自治区をヨルダン川から引き離し、ヨルダン川沿いの水が豊富なエリアはイスラエル領域に取り込むつもりであるとも言われています。

文字どおり“生命線”の水を確保するための熾烈な争いが繰り広げられており、今後も更に激しくなることが懸念されるなかで、「平和の渓谷」構想によって運河が出来、淡水が供給されるというのであれば、その意義は非常に大きいものがあると思います。
水をめぐる緊張は、豊富な水の供給でしか和らげることはできません。

もちろん今回事業自体はイスラエルやヨルダンのいろんな思惑によるものではありますが、この地域の政治的・軍事的緊張を緩和し、パレスチナ人の生活基盤を再建していくうえでは、そうした視点に立った国際的な管理のもとでこうした事業を実施していくことが、将来的な緊張緩和、共存の実現の基盤づくりにつながるのでは。


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イラン  庶民的人気を誇るアハマディネジャド大統領はポピュリストか?

2008-09-08 18:08:14 | 世相

(眼光が鋭い人ですが、この破れかけたポスターの表情は柔和な感じです。
flickrで探しますが適当な写真がありません。殆ど全てが批判するサイドから写されたもので、好意的な写真はありません。
批判されて当然の存在だからそれも仕方ないと言えばそれまでですが、一方で彼を大統領に選ぶ国民が存在するわけでもあり、普段接する情報の一面性、偏りを反映したものにも思えます。
“flickr”より By openDemocracy
http://www.flickr.com/photos/opendemocracy/2533363709/)

【イランに追い風】
グルジア問題をめぐる“新冷戦”とも言われる米ロの緊張によって、イランにとっては有利な状況が生まれています。
ブッシュ大統領退任前のイラン攻撃はなくなったようですし、ロシアがイラン追加制裁に関して欧米に協力する見込みもほぼなくなりました。
更に、EU諸国はロシアへのエネルギー依存を警戒して、今後イランへの接近を強めることになるかも。

また、表面上激しく対立しあう“強硬派”という人々は事態が緊迫すればするほど存在感が増すもので、ロシアの強硬姿勢は、アメリカのブッシュ・チェイニーの強硬派を元気づかせ、結果的にイラン強硬派のアハマディネジャド大統領が元気になる・・・という関係もあります。
こうした“強硬派”は、お互いに水面下でつるんでいるのでは・・・と疑いたくなることもあります。

【ハメネイ師、アハマディネジャド大統領再選支持】
ところで、イランのアフシャル内務次官は7日、アハマディネジャド大統領の任期満了に伴う大統領選挙を来年6月12日に実施することを発表しました。

保守強硬派アハマディネジャド大統領の後ろ盾になってきたのは最高指導者ハメネイ師ですが、以前から保守派内部も二分されており、ハメネイ師に近いところにも、核問題等でアメリカと“危険なまでの”対決姿勢を続ける一方で国内のインフレなど経済問題に対応できていないアハマディネジャド大統領に対する不満・批判があると報じられていました。

今年3~4月に実施されたイラン国会(1院制、定数290)議員選挙では保守派が全議席の約7割(200議席)を獲得して圧勝しましたが、保守派は大統領を支持する強硬派中心の「統一戦線」と、穏健派中心の反大統領派「包括連合」に分裂して戦うかたちになりました。
改革派は地方では比較的善戦しましたが、首都テヘランでの低投票率もあって、最終的には16%、50議席に留まりました。

立候補段階での事前審査で改革派の多くがふるい落とされる現状から、大統領選挙についても保守派内の争いになるのではとも見られています。
また、保守分裂によって、米欧との協調関係を模索する改革派が保守穏健派と「共闘」する可能性もあるとも。

こうしたイラン政局については次のような記事もありました。
「大統領選挙の行方はハメネイ師の意向で大きく左右される。ただ、ハメネイ師は、アフマディネジャド大統領がイスラム体制の親衛隊である革命防衛隊を支持基盤としているため、簡単に切り捨てることはできず、「勝ち馬」に乗る可能性が高いとも指摘されている。」【4月27日 毎日】

“勝ち馬”が明らかになってきたのかどうかはわかりませんが、冒頭の選挙日程発表に先立ち、8月24日にハメネイ師がアハマディネジャド大統領の再選に関して支持を表明したことが伝えられています。
再選支持の表明は初めてだそうです。

*****************
国営イラン通信によると、ハメネイ師は政府関係者に対して、「政権トップとして今年が最後であるとは考えるな。5年間の任期という前提に立って行動しろ」と語ったという。
 同師はアハマディネジャド大統領を改革穏健派のハタミ元大統領と比較する形で、アハマディネジャド政権は「西側による危険な文化的な汚染や世俗化」を阻止してきたと称賛した。一方で、燃料価格の高騰やインフレなどアハマディネジャド大統領の経済政策については警告を発した。【8月25日 時事】
*****************

【アハマディネジャド大統領の国内人気】
このハメネイ師によるアハマディネジャド大統領の再選支持で“決まり”なのかどうか・・・そこはよくわかりません。
イランには“イスラム原理主義”というレッテル、アハマディネジャド大統領の対外強硬姿勢、かつてのホメイニ師のもとでの革命時の民衆の熱狂振りを伝える報道などによって、民主主義とは縁遠い宗教独裁国家のようなイメージがあります。

しかし、これまでも取り上げたように、最高権力者の存在やイスラム保守派の気に入らない候補者の立候補を阻止する事前審査制度などによって、せっかくの制度がかなりゆがめられているようには見えますが、思いのほか民主的な政治システム・選挙制度は存在します。
アハマディネジャド大統領といえども、インフレ等の経済政策を誤ると選挙で有権者から手痛い批判を受けると言う点では、欧米諸国政治家と同様です。

そのアハマディネジャド大統領ですが、庶民の間での人気はなかなかのものがあるようです。
大統領の政治スタイルに関する面白いレポートがありました。
「アフマディネジャド・イラン大統領:国内人気の秘密 庶民性と清貧さ」【9月6日 毎日】
http://mainichi.jp/select/world/archive/news/2008/09/06/20080906ddm007030010000c.html

上記レポを読んで頂ければ特に付け加えることもないのですが、簡単に紹介すると以下のとおりです。

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アハマディネジャド大統領は地方訪問を頻繁に行っているが、集まった観衆は押し合いへし合い係員に紙片や封書(「大統領への手紙」)を差し出す。政府系メディアによれば「手紙は地方訪問のたびに1万通以上」。
住民の「直訴」で州知事が解任されたこともあるが、大半は「金銭的な支援や仕事の紹介」を求める内容だ。
大統領顧問によると、「手術代や結婚資金など緊急性があれば、現金を支給する」とか。
(「国民の不満のガス抜きに過ぎない」との改革派の批判に、大統領支持者は「民主主義の本来の姿を体現している」と反論する)

地方訪問には多くの閣僚が同行し、現地で道路や病院、学校建設などの公共事業、低所得者や中小企業への低利融資など、大規模な追加事業が決定される。こうした事業は、膨大な石油収入を背景に、大統領裁量の予算をつぎ込む形で行われる。
(「バラマキ行政」との改革派の批判に、大統領は公約の「石油の富の再配分」を実行していると反論する。)

若い男性がカメラを手に駆け寄った。制止した護衛に、大統領は「構わない」と言って、男性からカメラを受け取り、これを護衛に渡した。大統領は男性と肩を組んでカメラに収まった。「暗殺」の危険を顧みない、こうしたエピソードの数は限りがない。
(国内改革派は大統領を「ポピュリスト(大衆迎合政治家)」と評すが、政治不信の根深いイランで、大統領の庶民性と清貧さを、政敵も否定はしない。)

大統領は、演説で庶民の心を引きつけるすべを心得ているようだ。コンサートのような観衆との掛け合い。庶民にも理解できる平易な言葉や言い回し
核問題ではこう訴えた。
 「米国は私たちの『核エネルギー開発』を脅威だと恐怖心をあおる。だが、私たちは彼らの『核爆弾』が脅威だとは言わない。本当は私たちこそが、彼らの胸ぐらをつかんで『どうして核爆弾をなくさないのか』と問いただすべきなのだ」
(「文明間の対話」を掲げた改革派のハタミ前大統領の演説は、知識人の間でさえ「高尚で理解しづらかった」との声がある)
*******************

アハマディネジャド大統領ははたして
ガス抜き、バラマキ行政、ポピュリストか?
民主主義の本来の姿、石油の富の再配分、庶民的で清貧か?

はたまた、日本の政治家は?


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アメリカ・リビア、トルコ・アルメニア  「永遠の敵はいない」

2008-09-07 14:14:07 | 国際情勢

(2007年1月20日、アルメニア系トルコ人ジャーナリスト、フラント・ディンクが極右の17歳のトルコ人青年に2発の銃弾を打ち込まれ暗殺される事件が発生、トルコとアルメニア双方に大きな衝撃を与えました。
彼は「アルメニア人虐殺」をトルコ国内で告発する一方、過激な動きには反対し、二つの民族間の対話を模索していました。
写真は、そのときのアルメニア首都エレバンでの抗議行動のようです。
“flickr”より By onewmphoto
http://www.flickr.com/photos/24674184@N00/366958069/)

【リビア外相:「世界は変わった。過去は忘れよう」】
人と人の関係でも、国家間の関係でも時間とともに変化します。
これまでの対立・確執を超えて、手をとるようになったり、融和に向かうこともあります。
もちろん殆どの場合、お互いの理解が進んだと言うよりは、差し迫った事情や目先の利益につられて・・・というものではあるでしょうが。

アメリカ国務長官として55年ぶりにリビアを訪問したライス米国務長官は5日夜、首都トリポリで最高指導者カダフィ大佐と会談。
ライス長官は「永遠の敵はいない」として、03年に核開発計画を放棄したリビアとの関係改善を改めて強調しました。

69年に無血クーデターでカダフィ氏が実権を掌握したリビアは、パレスチナゲリラなどを公然と支持。
アメリカ政府は79年、リビアをテロ支援国家に指定。
88年には米パンナム機爆破(死者270人)、89年にはUTAフランス機爆破。
一連のテロ事件を受け、国連安全保障理事会は92年制裁決議を採択し、リビアは孤立化。
アメリカはリビアを「ならず者国家」、カダフィ大佐を「狂犬」と呼び、不倶戴天の関係にありました。

そんなリビアの対外政策が変わったのは、米英主導のイラク戦争でのフセイン政権崩壊だったとも言われています。
米パンナム機爆破事件の遺族に補償金の支払いを始め、ひそかに進めていた核兵器開発計画も廃棄を宣言。
アメリカ政府は06年にリビアとの関係正常化を発表、テロ支援国家指定を解除しました。

そうなると、リビアは豊富な石油を持つ資源国ですので、その石油の入手という面でも、また、石油収入に裏付けられた武器・原子力発電などの市場としても、魅力ある国家となります。
その餌に吸い寄せられるように、昨年にはイギリス・ブレア首相、フランス・サルコジ大統領が相次いでリビアを訪れています。
当然、こうした関係はリビア側にとっても、孤立を脱し近代化を図るうえで大きなメリットがあります。

今回のライス長官訪問には、そうした資源・経済面での思惑以外にも、リビアをモデルケースとして、イランや北朝鮮にも核開発の放棄を促したい意向があるとも報じられています。
ライス長官は会談後の記者会見で「過去の教訓から学び、前向きに進むことの重要性について語り合った。米国に永遠の敵はいない」と語っています。
また、会見に同席したリビアのシャルガム外相も「リビアは変わった。米国も変わった。世界は変わった。過去は忘れよう」と応じたとか。【9月6日 朝日】

【トルコ大統領がアルメニアを初訪問】
最近、もうひとつの“雪解け”として報じられたのが、トルコのギュル大統領が6日、歴史的な対立で正式な外交関係がない状態にあるアルメニアを初めて訪問し、両国代表が対決するサッカーのワールドカップ予選を観戦するという話題。
アルメニアのサルキシャン大統領が首都エレバンでの試合観戦を提案、ギュル氏が応じたものです。

両国の間には“アルメニア人虐殺”という歴史問題が横たわっています。
オスマン帝国末期、少数民族だったアルメニア人は敵国ロシアへの協力などを理由に迫害され、第1次大戦中に大勢が殺害されました。

ウィキペディアから引用すると、
「二度の迫害のうち、一度目はアブデュルハミト2世専制期の1894年から1896年にかけて行われた迫害・襲撃であり、イスタンブルなど西部の大都市を含む帝国全土でアルメニア人が迫害された。

二度目のそれは第一次世界大戦中の1915年から1916年にかけて統一と進歩委員会(通称は統一派、いわゆる青年トルコ党)政権によって行われた古代からのアルメニア人居住地(いわゆる大アルメニア)の南西部にあたるオスマン帝国領のアナトリア東部からのアルメニア人強制移住であり、これにともなって数多くのアルメニア人が犠牲になった。二度目の迫害では多くのアルメニア人が虐殺された結果、数百万人単位の犠牲者が出たとも言われており、「アルメニア人虐殺」といえば狭義には二度目のそれを言うことも多い。

さらに第一次世界大戦の終結後、アルメニア人民族主義者はオスマン帝国領のアルメニア人居住地域を含むアルメニア国家の建設運動を起こしたが、このアルメニア独立の動きはロシアの赤軍とトルコ革命軍の攻撃の前に粉砕された。この戦乱のために多くのアルメニア人が命を落としたことは間違いなく、アルメニア人虐殺に対する非難にはこの経過における問題も含むことがある。」

この問題に関し、「ジェノサイド」とするアルメニアに対し、トルコは「戦乱の中で起きた不幸」として虐殺を否定、“「あくまで戦時下の強制移住によって結果的に大量のアルメニア人が死亡してしまったのだ」という見解を示しており、大戦中にオスマン帝国全体で犠牲になった人々のうちの一部であるとみなしている。”【ウィキペディア】

両国間には国交がなく、国境も閉鎖されています。
*****
アルメニア側は、これまでは大量殺害を「虐殺」と認めることを対話の条件にしてきたが、サルキシャン大統領は4月の就任以来、対トルコ関係の改善に意欲を見せ、これにこだわらない姿勢だ。
 トルコは米国の同盟国で北大西洋条約機構(NATO)加盟国でありながら、周辺のイスラム諸国との関係も良好で、最近はシリアとイスラエルの和平交渉再開を仲介するなど存在感を強める。アルメニアには、トルコとの対立の影響が孤立化につながることに危機感があるとみられる。
 ギュル大統領は招待受け入れを発表した3日の声明で「コーカサスの人々が不安になっている時に、この機会を逃してはならない」と地域の安定への配慮をにじませた。
 悲願の欧州連合(EU)加盟を進めたいトルコだが、今夏には国民に人気の親イスラム与党、公正発展党(AKP)が憲法裁の訴訟で解散寸前に追い込まれ、厳格な世俗主義を貫く法制度が「欧州基準」に遠いことを露呈した。
 一方、加盟への最大の障害とされる南北キプロスの分断問題も解決に向けた交渉に入っており、アルメニアと関係を改善すれば大きな得点だ。 【9月5日 朝日】
*******

会談でギュル大統領は〈1〉アルメニア人虐殺を検証する歴史家合同委員会〈2〉国境開放などを協議する関係正常化委員会--の設置を提案したほか、カフカス地方安定化のため、南カフカス3国にロシア、トルコを加えた5か国協議体の必要性を強調したと報じられています。【9月6日 読売】
ただ、アルメニア、トルコ双方の国内には反発する動きも根強く、今後両者の関係がどのように進展するかはまだ不透明です。

【対立を超えて】
上記の記事にもある、トルコが仲介するシリアとイスラエルのゴラン高原返還を巡る交渉、また、この9月に再開されたキプロスにおける南部・ギリシャ系・キプロス共和国と、北部・トルコ系・北キプロストルコ共和国の再統合交渉・・・こうした動きも、アメリカ・リビア、トルコ・アルメニアの関係同様、積年の確執を乗り越える試みと言えます。

最初にも述べたように、これらの動きは“差し迫った事情や目先の利益”といったことによるものではあるでしょう。
また、その“変節”を非難・揶揄することも容易です。
しかし、“相手が土下座して謝罪するまで付き合わない”というのでは、戦争という手段を用いない限り、恐らく百年たとうが、千年たとうが事態は動きません。
いろんなことはあっても先ずは付き合い始めるところから、数十年後には、“信頼”を伴うような関係も構築できるのではないかと楽観的に考えたいと思います。

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エイズ  「安定した状態」、ART治療、予防対策、世界基金

2008-09-06 14:38:31 | 世相

(エイズの少女 ウガンダ 具合が悪くて戸外で横になっているのか、ただ涼しい外で昼寝しているだけか,理由があって外で寝ているのか・・・わかりません。 “flickr”より By daveblume
http://www.flickr.com/photos/kioko/2811806353/)

【「安定した状態」】
世界的なエイズ流行は「安定した状態」だそうですが、感染者の絶対数は増加を続けているそうです。

*****世界的なエイズ流行は「安定した状態」****
【7月30日 AFP】国連合同エイズ計画(UNAIDS)が7月29日に発表した報告書によると、27年間にわたって2500万人以上の命を奪ってきたエイズ(AIDS)の世界的流行は、ここにきて安定している。一方で、この状態を維持しエイズの脅威を縮小させるためには、潤沢な資金や予防分野での進展が必要だとしている。

 2007年のエイズ関連疾病での死者数は約200万人と2年連続で減少しており、2005年に比べると約20万人も減少している。これは主に、免疫細胞を破壊するエイズウイルス(HIV)を抑制する薬が広く普及したことによるものだという。
07年のHIV感染者数は約3300万人で、新たに感染したのは約270万人だという。

 全体的にみて、世界の人口におけるHIV感染者の割合は00年に0.8%となって以来、ほぼ横ばいの状態が続いているという。だが、HIV感染者数自体は増加し続けており、さらなる感染の危険性や対策の必要性は依然として存在している。
******************

記事にある“エイズウイルス(HIV)を抑制する薬が広く普及”という点に関しては、抗レトロウイルス薬(ART)の導入でHIV感染者の死亡率が約40%減少し、平均寿命が約13年伸びたとする研究結果が7月25日、英医学誌「ランセット」に発表されています。
36.1歳だった感染者の平均寿命が、ART治療により49.4歳までに伸びたそうです。
以前は死に至る病だったHIV感染が、ARTの開発により長期慢性疾患の一種となったと評価しています。【7月25日 AFP】

しかしながら、言うまでもなく、「安定した状態」であろうが、「長期慢性疾患の一種」であろうが、年間約200万人の死者というのは膨大な数です。
新規感染者も270万人。

また、地域的な問題もあります。
全世界のエイズウイルス感染者の3分の2が、サハラ以南のアフリカ地域に集中しています。
南アフリカやジンバブエ、ボツワナ、レソト、マラウイ、モザンビーク、ナミビア、スワジランド、ザンビアなどの国々では、少なくとも10人に1人がHIVに感染している状態です。
国際赤十字社・赤新月社連盟は、アフリカにおけるエイズのまん延は非常に深刻であり、洪水や飢饉に匹敵する「災害」として分類されるべきであるとしています。【6月27日 AFP】

【世界基金】
ARTで寿命が延びたことは結構なことですが、まずは予防策の徹底により新規の感染を押さえ込むことが必要です。
先月、8月3日から、メキシコの首都メキシコ市で、第17回国際エイズ会議が開催されました。
この会議で、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、コンドームや男性の包皮切除などの複合的な対策で、2015年までに120万人のエイズウイルス感染が予防できるとの声明を発表しています。

UNAIDSは、HIV感染予防のユニバーサルアクセス(必要な人は誰でも予防・治療・ケアを受けられる状態)の推進に伴い、HIV対策にかかる費用が2010年までに116億ドル(約1兆3000億円)、2015年までには153億ドル(約1兆7000億円)に上昇すると推計しています。【8月7日 AFP】

エイズに脅かされている国々の多くは途上国ですから、資金面で国際的なサポートが必要になります。
このサポートを行っているのが、2002年に創設された世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)で、これまでに136カ国の550のプログラムに114億ドルを拠出しています。
“1兆数千億円”と言う金額は考えようですが、リニアとか道路・橋などのビッグ・プロジェクトと比べたら、また、結果として得られるものを考えると、それほど巨額とも思えないのですが、各国が国内で抱えるもろもろの資金必要性との兼ね合いになります。

世界基金は世界のエイズに対する支援金の4分の1、結核は3分の2、マラリアは4分の3を担い、世界銀行が理事を務めています。
森元総理が議長を務めた2000年の九州沖縄サミットが契機となったもので、外務省ホームページでは“日本は世界基金の「生みの親」と呼ばれている。”とあります。本当でしょうか。

それはともかく、国際社会の支援はまだ十分ではない状態です。
NGO連合の「Tenemos Sida」が、各国の経済規模に応じた相応の負担を計算して国際エイズ会議で発表していますが、実際に相応だったのはアイルランド、オランダ、スウェーデン、英国でした。
「サイエンス」誌によると支援金が特定の国に偏って配分され、治療を必要とする患者数は増え、予防が効果をあげていないなどの問題があるようです。

エイズ対策が比較的うまく行っている事例として、最近では西アフリカのコートジボワールのケースが報じられています。

****保健所でのエイズ治療が無料に*****
【9月2日 AFP】コートジボワールのHIV/エイズ感染者は、保健所で抗レトロウイルス治療を無料で受けることができるようになった。費用の大半は海外から援助されるという。
 AFPが8月29日に入手したレミ・アラ保健・公衆衛生相の署名入りの布告によると、全国の保健所でのHIV/エイズ治療は8月20日から無料になった。費用の大半は、米国のエイズ救済大統領緊急計画、およびジュネーブに本部を置く世界エイズ・結核・マラリア対策基金から拠出されるという。
 両団体は、2008-09年の治療実績を7万7000人に設定しているが、2010年までに10万4000人にまで引き上げたい考えだ。
 2005-06年の全国調査では、同国のHIV感染者は約75万人で、人口に占める割合は4.7%となっている。
********************

なお、世界エイズ・結核・マラリア対策基金の主要ドナーはG7とEC諸国で、今年2月段階では、アメリカ(25億ドル)、フランス(12億ドル)、イタリア(10億ドル)に次いで、日本は第4位の8.5億ドルでした。
基金には各国だけでなく、ゲイツ財団(4.5億ドル)などの民間寄付も含まれています。

日本政府は5月23日、5.6億ドルの追加拠出を表明しています。
単に拠出するだけでなく、その資金がどのように使われているのかを、また、世界にはまだ多くの資金を必要としている現実があることを広く国民に知らせて理解と関心を高めていくことが必要だと思うのですが、なかなかそういう取組みが見えてきません。

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