孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日米の「鉄は国家なり」を体現した製鉄企業間の買収話 アメリカでは大統領選挙の「政争の具」にも

2023-12-21 23:17:37 | アメリカ

(【12月18日 日経】)

【日本製鉄、USスチールを買収 両社ともに日米の「鉄は国家なり」を体現した企業】
パレスチナやウクライナ、その他多くのニュースが飛び交うなかで、「そうなんだ・・・」と目が留まったのが下記のニュース。

****日本製鉄、米鉄鋼大手会社「USスチール」を2兆円で買収へ****
「鉄鋼王」と呼ばれたアンドリュー・カーネギー氏や、「モルガン財閥」の創始者であるJ.P.モルガン氏らが複数の鉄鋼会社を合併させて1901年に誕生した「USスチール」。その老舗鉄鋼会社を日本最大の鉄鋼メーカー「日本製鉄」が約2兆円で買収することを決めた。

日本製鉄としては過去最大規模の買収で、日米をまたいだ大型再編となる。背景にあるのは、日本国内での需要の減少だ。電気自動車に使う高機能な鋼材の需要も多いアメリカに活路を求めるようだ。

「アメリカは高水準の高級鋼需要が期待できることから、当社の培ってきた技術力・商品力を生かせる地域だ」(日本製鉄)

買収により日本製鉄の粗鋼生産能力は、世界3位の規模となる見通しだ。【12月20日 ABEMA TIMES】
*******************

産業構造が様変わりした現代ではすっかり死語になりましたが、製鉄業が産業構造の中核にあった時代、「鉄は国家なり」という言葉がありました。

****「鉄は国家なり」は…****
「鉄は国家なり」は19世紀にドイツを武力で統一したビスマルクの演説に由来するという。大砲や鉄道に欠かせない鉄は国力の源泉だった。

ドイツを範とした明治政府が今の北九州市に建設したのが官営八幡製鉄所だ。流れをくむ八幡製鉄が富士製鉄と合併し新日本製鉄が発足したのは、ちょうど50年前の1970年3月。日本初の売上高1兆円企業が誕生し「世紀の合併」と騒がれた。高度成長をけん引する「鉄は国家」の時代だった

世界遺産にもなった八幡製鉄所は来月、他の製鉄所と統合され名称が消える。新日鉄の後身の日本製鉄による合理化だ。広島県の呉製鉄所は異例の閉鎖、和歌山製鉄所はシンボルである高炉の休止が決まった。中国の攻勢にさらされ昔日の面影は薄れた。

今後の日本を支える産業は何か。政府はネットで集めた大量のデータを分析しビジネスなどに生かす人工知能(AI)を中核にしたいようだ。安倍晋三首相は「データは成長のエンジン」と強調する。

だが効率的なAIが発達すると、その分、職が失われる懸念がある。「鉄は国家」と呼ばれたのも、製鉄所が各地で多くの雇用を生み出し地域を支えたからだ。コロナ不況が深まる中、今回の合理化による打撃を心配する声は尽きない。

時代に応じた産業の変化が避けられないとすれば、痛みを和らげるのは政治の役割だろう。19世紀ドイツの急速な工業化に伴う貧困対策として、近代的な社会保障制度を世界で最初につくったのは意外にもビスマルクである。【2020年3月25日 毎日「余禄」】
******************

日本製鉄は2022年の粗鋼生産量で世界第4位ですが、第27位のUSスチールを買収すれば第3位に浮上します。

「鉄は国家なり」という言葉がまだ現役だった日本の高度成長期を支えたのが、八幡であり、その後身の新日鉄でした。その新日鉄の後身が、今回合併話の当事者である日本最大の鉄鋼メーカー「日本製鉄」

一方の「USスチール」も、アメリカの「鉄は国家なり」を体現してきた企業。

****USスチール****
J・P・モルガンおよびエルバート・ヘンリー・ゲーリーは、連邦鉄鋼会社の株式を保有していた。その会社と、アンドリュー・カーネギーが保有していた製鉄会社の合併により、1901年2月25日、ペンシルベニア州ピッツバーグにUSスチールが設立された。

1901年には、USスチールが鉄鋼生産の3分の2を支配していた。1911年に連邦政府は、USスチールを解体するために連邦法の反トラスト法を適用することを試みたが、その努力は結局失敗した。

当時USスチールはアメリカで生産されたすべての鋼の67%を生産していた。その後、USスチールは元初代社長、チャールズ・M・シュワブによって運営されるベスレヘム・スチールのような競争業者に技術革新で先んじられるなどし、USスチールの市場シェアは1911年までに50%まで減少した。なお、ベスレヘムにもロックフェラーやモルガンの系列会社から役員などが出ていた。

USスチールの生産量は1953年に3500万トン以上でピークに達した。当時340,000人を超える従業員がおり、その雇用者数は1943年の第二次世界大戦中でも最大であった。2000年の時点ではおよそ52,500人を雇用している。【ウィキペディア】
********************

【かつての日米鉄鋼摩擦、現在の対中国規制 アメリカの保護主義的政策】
日本がアメリカを激しく追い上げていた時代、日米の製鉄業はその軋轢の舞台ともなり、USスチールは日本にとって厄介な存在でもありました。

****日米鉄鋼摩擦の長い歴史****
USスチールには、日本の鉄鋼メーカーが長年苦しめられた歴史がある。

1950年代、60年代に、米国の鉄鋼メーカーは値上げと賃上げを進める中で国際競争力を次第に失っていった。それが鉄鋼の輸入品の増加を招いたのである。

それを受けて米国の鉄鋼メーカーはロビー活動を活発に展開し、1970年代のカーター政権時代には、「トリガー価格制度」が導入された。これは、輸入鉄鋼製品の価格が一定の基準価格(トリガー価格)を下回る場合には、米国政府がダンピング調査を開始するというものだ。事実上、日本を狙い撃ちする措置だった。

このように、米国の鉄鋼メーカーは、ロビー活動を通じて輸入品の増加を抑える保護主義的な政策を政府に促す一方、自ら国際競争力を高めるような構造改革を怠ってきたとされる。そうしたメーカーの典型例がUSスチールとされている。【12月20日 木内登英氏 NRI】
*********************

“米国は自国の鉄鋼産業に対して度重なる保護主義政策を打ち出してUSスチールを守ろうとしましたが、保護すればするほど高コスト体質の改善が遅れ、衰退が加速するという皮肉な結果となりました。米国トップの座も、電炉大手ニューコアに奪われ、2022年の粗鋼生産では米国で3位、世界で27位まで低下しています。”【12月21日 窪田真之氏 トウシル】

今回の買収話の背景にも、買収によって規模の利益を得ることができることに加えて、上記のアメリカの主に中国を標的にした保護主義の問題があります。

****成長市場である米国へのアクセスを獲得すること****
日本製鉄は、自動車や家電向けのハイエンド・スチール(高級鋼材)に強みを持ちます。(中略)ただし、国内市場は成長性が見込めず、今後は海外での販売拡大が必要です。特にEV(電気自動車)などで高い需要の伸びが見込まれる米国市場での拡販が重要です。

ところが、米国は鉄鋼業について、長年にわたり保護主義を強化してきました。主な目的は安価な汎用品で攻勢をかけてくる中国メーカーから保護するためです。

日本のハイエンド・スチールは、同じ製品を作るメーカーが米国にないため、直接規制されるリスクは低いものの、それでもさまざまな非課税障壁があり、日本からの輸出を拡大するのは困難です。

こうした中、USスチールを買収して日本製鉄から電磁鋼板などで技術供与し、米国現地生産・現地販売を拡大するすべを得ることは大きなメリットです。

また、経済安全保障の観点から米中で経済分断が進みつつありますが、USスチール買収で米国に深く入り込むことができれば、そのメリットは極めて大きいと考えられます。【前出 窪田真之氏】
******************

****中国製品除外の動きで日本企業の米国市場へのアクセスも妨げられる****
米国の鉄鋼メーカーは、今は中国からの安い鉄鋼の輸入を警戒しており、それが2018年の25%の鉄鋼関税が導入され、日本にも適用された。

このように、米国が中国に対して保護主義的な姿勢を強める中、友好国である日本の企業も、米国市場へのアクセスが制限されている。(中略)

日本企業が米国市場の成長を取り込む手段として先駆けに
米国の中国からのディリスキリング、あるいはサプライチェーンを中国から分断するデカップリングが進められる中、日本企業が巨大な米国市場でビジネスを拡大させていくためには、米国への輸出拡大や米国での現地生産の拡大に留まらず、米国企業の買収などを行う必要が出てくるのではないか。

中国は鉄鋼生産が余剰状態にあり、それを安値で海外に輸出している。日本の鉄鋼メーカーはアジア市場で、そうした安値攻勢を受けている。保護主義的な手法で守られた米国市場であれば、中国の安い製品から守られるという計算も、日本製鉄によるUSスチールの買収にはあるだろう。

このような現在の国際情勢のもとで、今回の日本製鉄によるUSスチールの買収は、多くの業種で日本企業が米国市場の成長を取り込む手段として、先駆けとなる可能性もあるのではないか。【前出 木内登英氏】
*******************

【労組、与野党から反対の声 激戦州ペンシルべニアということで大統領選挙の「政争の具」にも】
今回の買収に関してもアメリカの保護主義的傾向を反映して、アメリカの労働組合、そして与野党政治家から反対の声が上がっています。

****日鉄のUSスチール買収、米議員が反発 安全保障や労組巡り懸念****
米共和党の上院議員3人がイエレン財務長官に対し、日本製鉄による米鉄鋼大手メーカーのUSスチール買収を阻止するよう要請した。国家安全保障上の理由という。

共和党のJ.D.バンス上院議員、ジョシュ・ホーリー上院議員、マルコ・ルビオ上院議員は書簡で「USスチール側に国家安全保障に焦点を当てた検討がなかったが、国内の鉄鋼生産は米国家安全保障にとって不可欠だ」とした。日本製鉄は18日、USスチールを買収すると発表した。

イエレン氏は安全保障の観点から対米投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の議長を務める。財務省のコメントは現時点で得られていない。

ホワイトハウスのジャンピエール報道官は定例会見で、規制当局の審査が行われる可能性があると述べたが、詳細には踏み込まなかった。

民主党でもシェロッド・ブラウン上院議員、ジョン・フェターマン上院議員、ジョー・マンチン上院議員、ボブ・ケーシー上院議員の少なくとも4人のほか、USスチールが本社を置くペンシルベニア州の下院議員2人が反対を表明。全米鉄鋼労働組合(USW)も反対している。【12月20日 ロイター】
*****************

反対はバイデン陣営選挙参謀からも。

****バイデン氏陣営「参謀」、日本製鉄のUSスチール買収に精査求める****
 2024年の米大統領選で再選を目指すバイデン大統領の陣営で重要な役割を担うブライアン・ディーズ氏が20日、日本製鉄)による米鉄鋼大手USスチール)買収に懸念があるとし、政府は綿密に精査すべきとの考えを示した。

同氏はバイデン氏の任期最初の2年間に国家経済会議(NEC)委員長を務めた。大統領選を前にバイデン氏の政策や見解について発言しているとされる政治家や現職・元職の高官の一人。

ただ、同氏は個人的な立場で発言しているとした。「発表は政権が精査すべきで、そうすることになる見通しの一連の問題を提起している」と述べた。(後略)【12月21日 ロイター】
********************

話がこじれる可能性があるのは、USスチールが大統領選の激戦州であるペンシルベニアに本社を構える企業であること。経済マターと言うより、大統領選挙をめぐる政治マター、「政争の具」となっています。

****「難しいタイミングだった」と言わざるを得ない「日本製鉄のUSスチール買収」 専門家が指摘****
経済アナリストのジョセフ・クラフトが12月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米労組が反対する方針を明らかにした日本製鉄のUSスチール買収について解説した。

日本製鉄のUSスチール買収、全米鉄鋼労働組合が反対
日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収について、鉄鋼業など85万人の労働者が加入する全米鉄鋼労働組合(USW)は12月18日、買収に反対する方針を明らかにした。USWは「従業員の懸念を押しのけ、外資系企業による買収を選択した。非常に失望した」とUSスチールを非難した。

飯田)労組からの反対もありますし、議会からも反発の声が出ているそうですね。

大統領選の激戦州であるペンシルベニアに本社を構えるUSスチール 〜85万人の労働組合を敵に回すと選挙に勝てない
クラフト)完全に政争の具になってしまいましたね。同盟国である日本の企業が、先端技術でもない鉄鋼メーカーを買収しても、経済安全保障のリスクは少ないと思います。しかし、問題はUSスチールの本社がペンシルベニア州にあることです。(中略)

ペンシルベニア州は米大統領選における最大の激戦州で、数千人の差で決まります。USWは85万人いるので、ここを敵に回すと、とても勝てません。さっそく共和党議員が反対を表明し、負けじとペンシルベニア州出身の民主党議員も「誰が反対を阻止できるか」で争っている。現状、本質の問題よりも大統領選の問題になっていると思います。

飯田)そうなると、「止めた者勝ち」になってしまいますか?

コストが高く、大統領選の1年前でタイミングが悪い
クラフト)その通りです。個人的には、日鉄が労働組合の強いアメリカ企業を買っても、本当に得があるのかなと思います。コストが非常に高いですから。

なおかつタイミングが悪い。大統領選の1年前に発表すれば、当然こういうことになるので、もっと前か大統領選後にすべきだったと思います。政治が絡んでくると非常に難しい。審査などもいろいろあるので、1年棚上げされるかも知れませんね。

バイデン政権の本音は「結論を大統領選後まで持ち越したい」
飯田)議会関係者のなかでは、「対米外国投資委員会(CFIUS)による審査を求めるべきだ」という主張もあります。経済安全保障などの審査でしょうか?

クラフト)そうです。所管は財務省なのですが、イエレン長官にとっても厳しいのは、CFIUSの審査にかけて「問題ない」となった場合、「民主党政権が許した」と言われ、大統領選に負けてしまう可能性があることです。そういう意味で、「結論は大統領選後まで引き延ばしたい」というのが政権の本音だと思います。

経済の減速と米大統領選があり、難しいタイミングだったと言わざるを得ない
飯田)企業の経済活動が政治に影響してしまうのですね。
クラフト)本来あってはいけないのですが、どの国でもあることです。逆の立場であれば、日本でも同じような反発があったかも知れません。ただ、企業側もそこを考えて買収するタイミングを計ったり、あるいは完全な買収ではなく合弁などからスタートするべきでした。考えたのかも知れませんが、日本製鉄としてはまずい展開になっていると思いますね。

飯田)製鉄業で考えると、最近は中国系の企業がある意味の廉売を行い、「安い。鉄冷え」などと言って、売っても売っても赤字になるような状況がありましたね。

クラフト)さらに言うと、この先1〜2年は景気減速のリスクもあるので、果たして需要がそこまであるのか心配です。

飯田)規模の経済を追い求めたのかも知れませんが、これで(生産能力が)世界第3位に上がるという話もあります。

クラフト)戦略の問題はあるでしょうけれど、とにかくタイミング的には経済の減速と米大統領選の問題があります。難しいタイミングだったと言わざるを得ないですね。【12月21日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
********************

反対論の背景には、アメリカ側の「鉄は国家なり」を体現したUSスチールの企業イメージも影響していると想像されます。

買収のメリット・デメリットについてはいろんな観点があるところで、上記記事では労組や需要の問題をしてきしていますが、当然に日本製鉄側もそうした点を考慮しての判断でしょう。

ただ、タイミングについては、確かに良くない。2016年選挙でトランプ前大統領が勝利した際の「ラストベルト」議論も想起されます。

「政争の具」になることは当然に予測されたところでしょうが、どうしてこのタイミングで?という感も。いろんな事情で「それでも今やらないと」ということなのでしょう。

いずれにしても、日米の「鉄は国家なり」を体現した企業間の買収・・・感慨深いものがあります。日米、そして中国も絡んだ骨太の政治・経済ドラマが出来そうです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パレスチナ  国連安保理で続く調整 アメリカの対応は? 「ポスト・ハマス」に向けた状況

2023-12-20 23:47:49 | パレスチナ

(南部のラファにある自宅が空爆を受け、泣きながら避難する女の子。(ガザ地区、2023年12月6日撮影)【12月19日 日本ユニセフ協会】)

【「新たな戦闘休止」に向けた交渉も】
パレスチナ・ガザ地区の被害拡大に歯止めがかかりません。ガザの保健当局によると、19日だけで100人以上が死亡したとのことで、10月7日の戦闘開始以降、これまでの死者は1万9667人、負傷者は5万人以上にのぼっています。

また、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は19日、220万人以上のガザの人口の90%以上が自宅から避難し、住宅を含むインフラの60%以上が破壊、または一部損壊したとSNSに投稿し、「前例がない驚くべき水準の強制移住と破壊が、私たちの目の前で起きている」と訴えています。

こうした状況で、再度「戦闘休止」に向けた動きも出てはいますが・・・。

****イスラエル大統領、人質救出のため「新たな戦闘休止の用意」…ハマス幹部「戦闘中は交渉拒否」****
イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は19日、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、イスラム主義組織ハマスに拘束されている約130人の人質救出のため、「新たな人道的戦闘休止の用意がある」と述べた。

ヘルツォグ氏はイスラエル駐在の各国大使らを前に演説し、「(休止実現は)ハマス指導者にかかっている」とも語った。

再度の戦闘休止の実現を巡っては、18日にイスラエルの対外情報機関モサドと米中央情報局(CIA)の両長官が仲介役カタールの首相とポーランドで会談した。イスラエルの大統領は儀礼的な役割にとどまるが、ヘルツォグ氏の発言は、調整の活発化を踏まえた発言とみられる。

ただ、イスラエルのヨアブ・ガラント国防相は19日、ガザでの地上侵攻を「新たな場所に広げる」と述べ、攻撃強化の意向を強調した。

ロイター通信によると、ハマス幹部は19日、「侵略を終わらせるための取り組みは受け入れる」と協議に前向きな姿勢を示す一方、ハマスが拘束している人質の解放に関しては「戦闘中はいかなる交渉も拒否する」と述べ、双方の主張に隔たりがあることを示唆した。

一方、ハマスと連帯するイエメンの反政府武装勢力フーシの報道官は19日の声明で、「ガザを支援するための作戦を止めることはできない」と述べ、紅海での商船攻撃の継続を宣言した。【12月20日 読売】
********************

“ロイター通信は17日、複数のエジプト治安筋の情報として、双方が新たな戦闘休止に前向きな姿勢を示していると報じた。休止期間のほか、ハマスが求める軍部隊の一定の撤退にイスラエルが同意しないなど、意見の不一致が残っているとしている。”【12月18日 産経】とも報じられています。

戦闘休止が実現しても、1週間ほどで再び戦闘再開では困りますが、それでも休止しないよりはましでしょう。

【イスラエルのガザ攻撃に対し厳しい姿勢に変化しつつもあるアメリカ イスラエル支持は変えないものの安保理での「調整」続く】
上記のカタール仲介の当事者間の交渉が行われているなかで、国際社会も、イスラエルを支持するアメリカの拒否権発動で機能マヒ状態の国連安保理に代えて、国連総会の場で戦闘停止に向けた圧力を強めようとしています。

12日の「人道目的の即時停戦」を求める決議では、イスラエル・アメリカの孤立化が鮮明になっています。

****ガザ停戦決議に153カ国賛成=米・イスラエル孤立鮮明―国連総会****
国連総会は12日、イスラエルが侵攻するパレスチナ自治区ガザに関する緊急特別会合を開き、「人道目的の即時停戦」を求める決議を日仏中ロなど153カ国の圧倒的賛成多数で採択した。

反対はイスラエルや米国など10カ国だけで、ガザ情勢を巡る両国の国際的孤立が鮮明となった。英独伊など23カ国は棄権した。

総会決議に法的拘束力はないが、ガザの人道危機が長期化する中、国際社会の総意として軍事作戦を続けるイスラエルとその後ろ盾の米国に停戦を強く訴えた形だ。パレスチナのマンスール国連大使は「総会が力強いメッセージを発した歴史的な日だ」と採択を歓迎した。

決議は中東・イスラム諸国を代表してエジプトが提出した。停戦に加え、民間人の保護やガザで拘束されている全ての人質の即時解放を要求している。イスラエルと交戦するイスラム組織ハマスには言及していない。【12月13日 時事】 
******************

アメリカは、12月13日ブログ“イスラエル・ネタニヤフ首相と米・バイデン政権の溝が鮮明に”でも取り上げたように、イスラエルに民間人を守るために規模を縮小した作戦への移行するように求めており、将来的には「二国家共存」で・・・との考えを強めています。

****米国防長官 イスラエル訪問 民間人保護へ作戦規模縮小など協議「道徳的な義務」*****
アメリカのオースティン国防長官はイスラエルを訪問し、民間人を守るために規模を縮小した作戦への移行などについて協議したと明らかにしました。

アメリカ オースティン国防長官:「イスラエルのより安全で安心な未来と、パレスチナ人の明るい未来のため協力していく」

18日にイスラエルを訪問したオースティン国防長官は、ガザ地区のパレスチナ人を守ることは「道徳的な義務であり、戦略的な要請でもある」と述べました。

民間人の保護と人道支援の拡大を重視する考えを改めて強調し、目標達成に向けて標的を絞り、規模を縮小した作戦への移行などを協議したということです。(後略)【12月19日 テレ朝news】
*******************

ただ、これまで同様に表向きのイスラエル支持の基本路線は維持しており、国際的に孤立化するなかで、国連での「停戦」を求める動きへの対応に苦慮していると思われます。

****ガザ支援で新決議案採決へ=米国の対応焦点―国連安保理****
国連安保理は18日午後(日本時間19日午前)に緊急会合を開き、パレスチナ自治区ガザでの人道支援拡大を目指す新たな決議案を採決にかけることを決めた。今月の議長国エクアドルが17日、明らかにした。

米国が拒否権を行使するか否かが焦点。イスラエルの後ろ盾である米国は8日、アラブ首長国連邦(UAE)が作成した「人道目的の即時停戦」を要求する決議案に拒否権を発動し、日本やフランスなど他の13理事国が賛成する中、廃案に追い込んだ。 【12月18日 時事】
******************

アメリカの拒否権回避に向けて調整が行われており、18日の採決は19日に延期されました。

****新決議案の採決延期=米の拒否権回避へ交渉継続―国連安保理****
国連安保理は18日、パレスチナ自治区ガザでの人道支援拡大を目指す新たな決議案について、同日に予定していた採決を19日(日本時間20日)に延期した。決議案を提出したアラブ首長国連邦(UAE)のヌセイベ国連大使が明らかにした。

イスラエルの後ろ盾である米国が拒否権を行使しないよう、文言の最終調整が続いているもよう。決議案は、ガザに支援物資を行き渡らせるため「緊急で持続可能な敵対行為の停止」を要請している。【19日 時事】 
******************

決議案では「全ての人質の即時かつ無条件の解放」も求めていますが、「ハマス」は名指しされていません。そのあたりでアメリカが難色を示しているようです。

調整は難航しているようで、19日採決も再度延期されています。

****ガザ決議案の採決、再び延期 国連安保理、文言の交渉難航****
国連安全保障理事会は19日、パレスチナ自治区ガザで「敵対行為の停止」を各当事者に求める決議案の採決を19日から20日(日本時間21日)に再び延期することを決めた。外交筋が明らかにした。当初は18日に採決予定だった。決議案の文言に関する交渉が難航しているという。

イスラエルを擁護する米国は安保理で10月と今月、拒否権を発動してガザ情勢に関する決議案を否決させた。今回の決議案で米国の拒否権行使を回避するため、アラブ首長国連邦(UAE)などを中心に調整が続いている。

UAEが提出した当初の決議案は、民間人への無差別攻撃を非難。「敵対行為の停止」を要求した。【12月20日 共同】
********************

難航はしていますが調整が続いているということは、アメリカ側にも、これ以上の国際的孤立を強めるイスラエル支持での拒否権発動はできれば避けたいとの思いがあるということでもあるでしょう。(もちろん、結局調整が失敗し、再びアメリカの拒否権行使ということになるのかもしれませんが)

【「ポスト・ハマス」に向けたイスラエル・パレスチナの状況】
「一時停戦」の更にその先には「ポスト・ハマス」をどういう枠組みで構築するのか・・・という問題があり、アメリカなど多くの国際社会はパレスチナ自治政府を主体とするパレスチナ国家とイスラエルの「二国家共存」しか方法がないとの考えですが、ネタニヤフ首相はこうした考えを拒否しています。

ただ、以前から司法改革問題で強い国内批判に曝されていたネタニヤフ首相は、今回のハマスの襲撃を許したことで更に責任を問われる事態にもなっており、政権交代の可能性も大きいと思われます。

一方の、パレスチナ側。 

“10月7日より前にガザで実施された世論調査では、住民の67%がハマス主導の政府をほとんどもしくは全く支持しないと回答。支持政党にハマスを選んだのは27%、「イスラエル壊滅」という目標を支持したのはわずか20%だった。住民の大多数は紛争の平和的解決を望み、半数以上が2国家共存が好ましいと回答した。”【12月20日 Newsweek】と、ガザ地区におけるハマス支持はさほど強くありませんでした。
(そうした状況が、ハマスが多大なリスクを伴うイスラエル攻撃に踏み切った背景にあるのかも)

腐敗の横行する自治政府の信頼も低下しており、本来は行うべき選挙もできない状況。

今回のイスラエル・ハマスの戦闘がパレスチナ住民の心情に強く作用し、今後のハマスや自治政府への支持に影響することも想像されます。

*****ハマスの越境攻撃、「正しい決定」と7割が支持 パレスチナ世論調査*****
パレスチナの民間調査研究機関「政策と調査研究のためのパレスチナ・センター(PSR)」は13日、パレスチナ自治区(ヨルダン川西岸とガザの両地区)での世論調査結果を公表した。

ハマスが10月7日に行ったイスラエルに対する越境攻撃について、約7割が「正しい決定だった」と支持していることが明らかになった。

調査は11月22日〜12月2日に実施され、ヨルダン川西岸の750人とガザの481人が対面で回答した。ガザ地区では戦闘休止期間中に調査したという。

PSRによるとハマスによる越境攻撃は、ガザ地区で57%が、西岸で82%が「正しい」と答えた。ハマスの支持率は9月の前回調査に比べ、ガザ地区で4ポイント増の42%、西岸では32ポイント増の44%で、いずれもヨルダン川西岸を治める穏健派組織ファタハを上回っていた。

「戦後のガザ地区は誰が統治してほしいか」との質問でも、「ハマス」と答えた人が全体の60%(ガザ地区38%、西岸75%)を占めた。

また、「イスラエルが戦争犯罪をしている」と考える人は全体の95%に上った一方、「ハマスが戦争犯罪をしている」と考える人は10%だけだった。

ハマスは10月7日の襲撃で民間人ら約1200人を殺害し、約240人を拉致した。その際の動画はSNSで拡散したり、国際ニュースで報じられたりしているが、こうした動画を視聴したことがある人は14%にとどまっていたという。【12月14日 毎日】
*********************

現在のガザの混乱状態でどのような世論調査が可能なのか疑問ですので、(特にガザでの数字については)そうした視点で見る必要があるとは思いますが、興味深いのはガザ地区よりむしろヨルダン川西岸地区でハマス支持が急増していることです。

こうした状況では、自治政府による西岸・ガザの一元統治、そして「二国家共存」・・・というのは実体のない青写真にもなりかねません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イエメン沖紅海南部でのフーシ派の船舶攻撃 米主導で多国籍部隊 日本は不参加 フーシ派の狙いは?

2023-12-19 23:38:01 | 中東情勢

(【12月19日 毎日】)

【フーシ派による紅海南部での船舶への攻撃が続く】
パレスチナ・ガザ地区でのイスラエルとハマスの戦闘に連動して、イエメンの親イラン反政府勢力フーシ派によるイスラエルへの対抗措置とする紅海南部を航行する船舶への攻撃が続いています。

****商船への攻撃やまず=イエメン沖、海上運送に懸念―親イラン勢力、「ガザ」口実に力誇示****
イエメンの親イラン武装組織フーシ派が、紅海南部のイエメン沖で商船への攻撃を続けている。

イスラム組織ハマスとの戦闘で、パレスチナ自治区ガザに侵攻するイスラエルへの対抗措置との位置付けで、イスラエルに関連する船を標的にしていると主張。事態沈静化は見通せず、海上運送への影響が懸念されている。
フーシ派は11月19日、日本郵船運航の船舶を拿捕(だほ)した。フーシ派が公開した映像では、ヘリコプターから甲板に降り立った戦闘員が瞬く間に船を制圧。戦闘員は「イスラエルに死を」と叫んだ。

報道によると、船はイエメン西部の港湾都市ホデイダから約60キロの集落サリーフの沖合に停泊したまま。乗組員の安否は不明だ。船ではガザへの連帯を示すイベントが行われ、見物客が訪れる「観光地」になっているという。

米中央軍によると、11月26日にもタンカーが一時拿捕された。今月15日には、フーシ派が発射したドローンとミサイルがリベリア船籍の船2隻に直撃し、火災が発生。攻撃の対象とされた船の中には、イスラエルとの関連が見られないものも含まれているという。(後略)【12月18日 時事】
**********************

18日にも・・・“反政府勢力・フーシ派は18日、イスラエルに関係する石油タンカーと貨物船の合わせて2隻に対し攻撃を行ったとSNSを通じて発表しました。

この攻撃についてアメリカ中央軍も発表を行い、紅海南部でケイマン諸島船籍の石油タンカーが、フーシ派の支配地域から発射された無人機と弾道ミサイルによる攻撃を受けたということです。

また、別の貨物船からも水中で爆発があったと報告があったということですが、いずれの船舶でもけが人は確認されていないとしています。

ハマスとの連帯を掲げるフーシ派は、ガザ地区に十分な支援物資が行き届くまで、紅海を航行中の船舶に対する攻撃を続けると主張しています。”【12月19日 NHK】

【海上交通の要衝で高まる懸念 海運大手では回避行動も】
イエメン沖・紅海は海上交通の要衝で、安全な航行への懸念が高まっています。
“紅海は世界の海上貿易量の約1割が通過する主要航路。コンテナ船のほか、米エネルギー省によると、原油の12%、天然ガスの8%が運ばれている。”【12月19日 毎日】

“エジプトのスエズ運河管理当局は17日、先月以降で55隻が紅海ルートを取りやめたと述べた。”【同上】

イギリスの石油大手「BP」は紅海を経由する輸送を停止すると発表しました。また、デンマークの海運大手マースクは、紅海南部とアデン湾を航行予定の船舶について、アフリカ南端の喜望峰を回るルートに変更すると発表しました。

このように、フーシ派の攻撃を受けて紅海を避ける海運会社が相次いでいて世界的な物流に影響が出る可能性があります。喜望峰回りになると時間もコストも増大します。

****紅海海上貿易に混乱、フーシ派の攻撃でエネルギー供給に影響****
イエメンの親イラン武装組織フーシ派による紅海での船舶への攻撃が激化していることを受け、海上貿易に混乱が生じている。世界的な海運大手などがスエズ運河の航行を避け、喜望峰を回る迂回(うかい)ルートを取っているためだ。

フーシ派は18日、紅海での貨物船への無人機(ドローン)攻撃を開始したと発表。業界アナリストによると、コンテナ船大手のスイスMSCを含む複数の海運大手が喜望峰を経由する航行を開始し、コスト増と遅延が発生、今後数週間で一段の悪化が見込まれるという。

ABNアムロのアナリスト、アルバート・ヤン・スワート氏はロイターに対し、船舶を迂回させた海運会社を合わせると「世界のコンテナ船市場の約半分を占める」と指摘。「紅海を避けることは航行期間が長期化するためコストアップにつながる」と述べた。

英エネルギー大手BPも紅海経由の輸送を全て一時的に停止。フーシ派による攻撃はこれまで主に貨物輸送に影響を及ぼしてきたが、エネルギー輸送にまで波及する懸念が台頭し、18日は原油価格が上昇した。

フーシ派の攻撃によって、企業はイスラエルとの関係見直しも余儀なくされている。台湾の長栄海運(エバーグリーン・マリン)は18日、イスラエル貨物の受け入れ一時停止を決定したと発表した。「船舶と乗組員の安全のため」という。

フーシ派による攻撃を受け、米国およびその同盟国は紅海での航行の安全を確保するタスクフォースの設置を巡り協議。これに対し、イランはそのような行動は間違っていると警告している。

<国際貿易への深刻な脅威>
INGのシニアエコノミスト、リコ・ルーマン氏は、迂回することによりコンテナ船の航行期間は少なくとも1週間は延びると言及。通常、上海からロッテルダムまでスエズ運河経由で27日を要する。

ルーマン氏は「少なくとも12月下旬の遅れにつながり、1月、そしておそらく2月にも次の運航の遅れにつながるだろう」と指摘する。

一方、情報会社フレイトスのツビ・シュライバー最高経営責任者(CEO)は、航行が長期化すれば運賃も上昇する可能性が高いが、現時点では海運会社は余剰の運航能力を活用する方法を模索していると指摘。「新型コロナウイルス禍で経験した水準まで運賃が高騰する可能性は低い」とした。

国際海運会議所(ICS)は15日、先月から始まったフーシ派の攻撃は「国際貿易に対する極めて深刻な脅威」であり、同地域の海軍に対し、攻撃を阻止するために全力を尽くすよう求めた。【12月19日 ロイター】
*******************

特に影響が懸念されるのが原油ですが、今日の段階では、“北海ブレント先物が前日比1.40ドル(1.8%)高の1バレル=77.95ドル、米WTI先物は1.04ドル(1.5%)高の72.47ドルとなった。”【12月19日 ロイター】とのこと。

****紅海の原油輸送混乱、価格に大きく影響せず=ゴールドマン****
ゴールドマン・サックスは18日付のリポートで、紅海における石油や天然ガス輸送の混乱がエネルギー価格に大きく影響することはないとの見方を示した。(中略)

ゴールドマンは日量700万バレル相当の原油輸送が長期的に影響を受けた場合、原油のスポット価格は1バレル当たり3─4ドル程度上昇するとの見方を示した。【12月19日 ロイター】
******************

このあたりは、今後の展開次第でしょう。今夜のNHKTVニュースでは、このような状態が来年春まで続くと石油価格に影響が出てくるといった関係者の発言が報じられていました。

【米主導の多国籍部隊】
このままフーシ派の海上輸送妨害を放置することもできませんので、アメリカは紅海南部や南方のアデン湾で海洋安全保障を担う多国籍部隊を立ち上げると発表しています。

****紅海の安全確保で10カ国の多国籍部隊創設へ フーシ派の商船攻撃で****
米国のオースティン国防長官は18日、紅海でイエメンの親イラン武装組織「フーシ派」による商船への攻撃が相次いでいる問題で、紅海南部や南方のアデン湾で海洋安全保障を担う多国籍部隊を立ち上げると発表した。

「繁栄の守護者」作戦と称し、米国や英国、フランスなど少なくとも10カ国が参加する。世界海上貿易の約1割が通過するとされる重要な航路で、警戒活動や商船の安全確保にあたる。

ただ、フーシ派は11月以降、米軍が付近で警戒を強化する中でも、ミサイルや無人機による商船への攻撃を続けてきた。商船が紅海を避けて遠回りすることで海運コストや原油価格の上昇につながるなど世界経済にも影響は広がるが、多国籍部隊の創設によってフーシ派の攻撃を抑止できるかどうかは不透明だ。

オースティン氏の声明によると、新たな部隊は2022年4月に創設された多国籍の第153連合任務部隊の傘下で活動する。「繁栄の守護者」作戦と称し、米英仏のほか、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、カナダ、バーレーン、セーシェルが参加。

オースティン氏は「航行の自由という基本原則を支持する国は、非国家組織がミサイルや無人機で商船を攻撃する問題に一致団結して対処しなければならない」と訴えた。

米国は日本やオーストラリアとも協力策を協議していた。AP通信によると、国名公表を望まない協力国もあるが、日豪が含まれるかは不明だ。自衛隊はアデン湾で海賊対処のために商船の護衛や警戒活動を担っているが、紅海では活動していない。(後略)【12月19日 毎日】
*********************

こうしたアメリカ主導の「繁栄の守護者」作戦に対し、フーシ派の後ろ盾イランがどのように出るのかは不透明です。イランのアシュティアニ国防軍需相は14日公表されたイランメディアとのインタビューで、「(アメリカが多国籍部隊の活動といった)不合理な行動をとれば、大きな問題に直面するだろう」とアメリカをけん制しています。

【日本 「今のところ有志連合に加わるという認識はない」】
紅海は日本にとっても重要なシーレーンであり、また、自衛隊はイエメンの東アフリカ・ジブチにソマリア海賊対策で設けた基地を有していますので一定の活動はできますが、今の段階では上記「繁栄の守護者」作戦に「参加するとの認識はない」としています。

****海上幕僚長「有志連合に加わるという認識はない」****
紅海での情勢を受けてアメリカがイギリスなどと有志連合を創設すると発表したことについて、海上自衛隊トップの酒井良海上幕僚長は19日の記者会見で「今のところ海上自衛隊の護衛艦と航空機がアメリカが発表した有志連合に加わるという認識はない。今後も海賊対処の行動計画に従い、活動エリアも紅海に入ることはないと考えている」と述べ、アデン湾での海賊対処活動を継続するという考えを示しました。

そのうえで、イエメンの反政府勢力・フーシ派からの攻撃のリスクについては「フーシ派の活動や脅威は同盟国や連携国と情報交換しながら、冷静に判断する必要があり、その中で部隊の行動について不断に検討していく」と述べました。(中略)

防衛省「引き続きアデン湾における自衛隊の海賊対処活動行う」
防衛省は「引き続き諸外国などと緊密に連携しながら安全に万全を期しつつ、アデン湾における自衛隊の海賊対処活動を行っていく」としています。

防衛省幹部の1人は「自衛隊の現在の活動海域に紅海は含まれていない。中東全体を見渡せばアデン湾で活動をする国も必要だ。アデン湾での任務を適切に行うことで周辺海域の安定化に貢献できるだろう」と話しています。

派遣部隊の周辺に弾道ミサイルも
海上自衛隊は紅海と海峡を通じてつながるイエメン沖のアデン湾で2009年から海賊対処にあたっていて、現在は護衛艦1隻と哨戒機1機を派遣しています。

先月下旬にはアデン湾でタンカーが武装勢力に乗っ取られ、護衛艦「あけぼの」と、哨戒機が現場海域で警戒監視や情報収集にあたり、アメリカ軍などに情報提供を行いました。

海上自衛隊などによりますとその際、弾道ミサイルが発射され「あけぼの」から18キロ以上離れた海域に落下したとみられています。

アメリカ国防総省は、弾道ミサイルはフーシ派が支配する地域から2発発射されたとしています。

一方、先月30日にNHKの取材に応じたフーシ派のアベド・トール報道官は弾道ミサイルの発射について関与を否定しました。【12月19日 NHK】
*********************

極めて政治的なこの種の発表が首相や大臣ではなく海上幕僚長からなされるのはちょっと不思議ですが、参加するなら重大な政治マターですが、参加しないなら自衛隊で事務的に対応ということでしょうか。

あるいは、協力はするが国名は出したくないということで、「参加しない」ことで目立ちたくないとの考えでしょうか。それとも単に首相・大臣はパーティ券問題でそれどころではない?

【フーシ派の狙いは? 一種のプロパガンダ?】
一方、フーシ派は派手に立ち回っていますがその狙いは何でしょうか?

“エジプトのイラン政策の専門家ムハンマド・ハイリ氏は、フーシ派はイスラエルとハマスの衝突に乗じて世界に力を誇示し、イエメンを統治する主流派だと国際社会に示す狙いがあると指摘。フーシ派の後ろ盾のイランには、緊張を高め「さまざまな交渉の切り札にする」思惑があると語った。”【12月18日 時事】

****フーシ派の攻撃、パレスチナとの連帯アピール? 紅海で物流危機****
(中略)攻撃を繰り返す背景には、「パレスチナとの連帯」をアピールする狙いがあるとみられる。

フーシ派はイエメン南部に拠点を置く暫定政権と内戦状態にあり、国際的に正統な政権とは認められていない。国内でも内戦により国民生活が疲弊しており、統治の正当性を高める必要に迫られている。アラブ人の多くが重要視するパレスチナ問題で行動を起こせば、国内外で支持率上昇につながりやすい。

イエメンの政治アナリストで、フーシ派と対立する暫定政権の職員でもあるファイサル・マジディ氏は電話取材に「フーシ派の思想はアラブ諸国の大多数とは相いれないが、パレスチナ支援を通じて一定の支持を得ることに成功している。一種のプロパガンダだ」と分析。(後略)【12月18日 毎日】
****************

今の段階では、フーシ派としてはイスラエルから地理的に離れた地域でイスラエルとの直接的な衝突のリスクなしに、「パレスチナとの連帯」をアピールするプロパガンダを行える・・・ということでしょう。

ガザでの衝突が始まった頃、ハマスを上回る戦闘力を有するレバノンのヒズボラの動きが注目されましたが、小競り合いは続いているものの、大規模な戦闘には至らないようです。イスラエルと接するヒズボラとしては、組織存亡にかかわるそうした全面戦争のリスクはやはり負えない、イランとしても最大の親イラン勢力をそうした危険に置くことはできない・・ということでしょう。

ただ、紅海で米主導の多国籍部隊が存在感を増せば、イランからフーシ派への物資輸送が困難になることも予想されます。そうした事態にイランがどのように反応するのか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国  対応が急務の経済活性化にとって「奥の手」の戸籍制度改善 しかし、その実現可能性は小さい

2023-12-18 23:38:27 | 中国

(中国 の戸籍謄本【2022年7月18日 レコードチャイナ】)

【改善の兆しが見られない不動産不況 地方政府財政も悪化 経済全体が低迷】
中国の不動産不況は未だ改善の様子は見られないようです。

****中国の新築住宅価格 主要都市の8割以上で下落 今年最多を更新****
不動産不況が続く中国で、11月の新築住宅価格指数が主要70都市の8割以上にあたる59の都市で、前の月と比べて下落しました。下落した都市の数としては今年最多を更新しています。

中国国家統計局の15日の発表によりますと、11月の新築住宅価格指数は首都の北京のほか、広州や深センなど、主要70都市のうち59都市で、10月と比べて下落しました。

新築住宅の価格指数が下落した都市の数は、前の月の発表と比べて3つ増え、今年最多を更新しています。9月と比べて指数が上昇したのは9都市で、2都市が横ばいでした。

また、中古住宅の価格指数は、横ばいだった杭州を除く69都市で、10月と比べて下落しています。

中国政府は住宅ローン金利や頭金比率の引き下げなど、不動産市場に対する支援策を進めていますが、依然として住宅購入を控える傾向が続いています。

一方、11月の消費動向を示す小売売上高は、去年の同じ月と比べて10.1%増加しました。去年の新型コロナウイルスの感染拡大で中国国内の消費が落ち込んだことの反動とみられています。【12月15日 】
******************

不動産市場の低迷は、土地使用権の売却収入を大きな柱にしていた地方政府財政を悪化させ、消費マインドも冷え込み、経済全体の低迷につながっています。

以前は「強気」が目立った中国社会も、経済低迷で様変わりの様相とも。

****中国「ゼロコロナ解除」から1年、帰国した日本人は皆「数年前までの自信満々の雰囲気はどこへ」と…数々の統計で浮かぶ苦境****

既にデフレ経済入りか
中国国家統計局が12月9日に発表した11月の消費者物価指数(CPI)は2カ月連続で前年比マイナスとなった。下落率は0.5%と、2020年11月以来、約3年ぶりの大きさだった。

雇用や所得への不安を抱える家計の財布のひもは固い。自動車などの耐久財が値下がりするとともに、航空チケット代などもマイナスに転じた。

家計の購買力を示すとされる「食品とエネルギーを除くコア指数」は0.6%の上昇にとどまった。新型コロナのパンデミック前は1%台半ばから後半の伸びだったが、このところ1%以下で推移している。

11月の生産者物価指数(PPI)も前年に比べて3.0%下落した。1年2カ月連続の低下で、マイナス幅は10月の2.6%から拡大した。

中国人民銀行は「長期的なデフレを生む要素はない」としているが、この傾向は来年以降も続くことが予測されている。

中国は既にデフレ経済入りしたと言っても過言ではない状況だ。デフレ化の元凶とも言える不動産市場には改善の兆しが見えてこない。

公務員になりたがる若者たち
引き金となった中国恒大集団の経営再建の目途は一向に立たない。関係者からは「この問題を先送りしている中国政府の姿勢がかえって景気低迷を長期化させる要因となる」との批判が高まっている。

不動産不況は、地方政府で働く公務員の懐に大打撃を与えている。

地方政府では、土地使用権の売却収入が収入の約4割を占めていた。この収入が激減したことで公務員への賃金未払いが常態化し、多くの都市では半年間も続いているという (12月4日付朝日新聞)。

だが、皮肉な現象も起きている。大卒でも4割が職に就けないとされる若者の間で、空前の公務員ブームが生まれているのだ。

11月26日に行われた国家公務員試験の共通科目筆記試験は、採用予定人数3万9600人に対して受験者数は303万3000人と、史上初めて300万人を突破した。競争倍率は約77倍である。

難関を突破すれば安定した生活が保障される時代は、もう終わった感も強い。だが、若者たちは「溺れる者 は藁をもすがる」気持ちなのだろう。

雇用市場におけるミスマッチもさらに悪化する可能性が高い。来年夏に卒業する大学生や大学院生は前年比21万人増の1179万人と、過去最多を更新する見通しだからだ。

「中国政府も経済の悪化を認識している」と市場
中国経済に対する海外の見方も厳しくなっている。 米大手格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは12月5日、中国の信用格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。地方政府や国有企業の過度な負債、不動産市場の低迷が中国経済を脅かしているというのがその理由だ。

中国政府は格付け機関の評価に攻撃的な発言を行うことが多かったが、今回の反応は抑制的だった。市場では「中国政府も経済の悪化を認識している」との声が上がっている。

習近平指導部はようやく重い腰を上げようとしている。 中国共産党中央政治局は12月8日、景気の安定化に向けた取り組みを強める考えを示した。

財政政策を強化する方針が示されたが、気になるのは、中長期の主要な経済政策の方針を決定するとされる第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)の日程が示されなかったことだ。

不動産不況という目下の大問題についての方針が指導部の間でいまだに定まっていないからではないかとの不安が頭をよぎる。

あまりに大きいゼロコロナ政策の傷跡
約3年間続いたゼロコロナ政策が解除されてから、12月7日で1年が経った。 1年前は「これで経済はV字回復する」との期待が大いに高まったが、ゼロコロナ政策の傷跡はあまりに大きいと言わざるを得ない。

12月3日付英フィナンシャル・タイムズは、借金の返済ができず中国当局のブラックリストに載った人の数が、2020年初期の約570万人から大幅に増加し、過去最高の約854万人となったことを報じた。18歳から59歳の人たちが大多数を占めていることから、「景気回復の大きな足かせになる可能性が高い」という。

今年の出生数が900万人を割り込むなど、急速に進む少子高齢化も暗い影を投げかけている。

歯止めがかからない少子化により、中国各地では産婦人科や幼稚園などが相次いで閉鎖されているとの噂が後を絶たない。メンタルをやられている若者も多く、中国のうつ病患者の3割は18歳以下が占めるという(11月20日・10月13日付Record China)。

数年前までの「自信満々の中国」はどこに
一方、農村部では、高齢者の半数超が独居または夫婦のみで生活しており、日本と同様「老老介護」が当たり前になりつつある(11月6日付東洋経済オンライン)。 認知症患者は既に1500万人に上ると言われている(12月3日付東京新聞)。

最近、中国を訪問した日本人から「数年前までの自信満々の雰囲気はどこに行ってしまったのか」との感想を聞くことが多くなった。

中国社会から活気が消えている。これは、そのうち中国にも長い「失われた時代」が到来することの証左なのではないだろうか。【12月13日 藤和彦氏 デイリー新潮】
**********************

地方政府の財政悪化によって、地方政府債務が持続不可能な水準になっており、破綻すると国内銀行システムに深刻な打撃を与えかねない「金融時限爆弾」にもなっている・・・という話もありますが、そこらの話はまた別機会で。

習近平政権も危機感を強めており、上記記事にもあるように、12月8日、景気の安定化に向けた取り組みを強める考えを示しています。

****中国 来年の経済政策「内需拡大」方針 「反腐敗」も強化 引き締め図る****
中国共産党は8日の会議で来年の経済政策を議論し、「内需の拡大」と「質の高い発展」を目指す方針を確認しました。

国営の新華社通信によりますと、中国共産党は8日に習近平国家主席が主宰する重要会議「中央政治局会議」を開きました。

このなかで習近平国家主席は安定的な経済成長を実現するために内需の拡大とともに、「質の高い発展」を目指す方針を示し、積極的な財政政策を継続することを確認しました。

会議では汚職を取り締まる「反腐敗闘争」を強化する方針も示されました。

秦剛・前外相や李尚福・前国防相が相次いで解任される中、党として引き締めを強める狙いとみられます。【12月8日 TBS NEWS DIG】
******************

「内需の拡大」というお題目はいいとして、具体策となると中央政府も苦しいところでしょう。もっとも、不動産不況を解消し、経済を活性化させる「奥の手」(「禁じ手」?)がない訳ではありません。

周知のように中国では、都市戸籍と農村戸籍に分かれており、農村戸籍の者は都市における住宅取得や経済活動が著しく制約されています。

この戸籍制度をなくしてしまえば、あるいは、容易に「都市戸籍」を入手できるようにすれば、農村から都市へ人々が流入し、住宅購入・経済活動も一気に拡大します。土地に住民が縛り付けられ、都市・農村に大きな格差が生じている社会の「歪み」も是正できます。

ただ、そうした都市への人口移動は都市の財政負担を重くするため、なかなかそこに踏み切れない・・という事情もあるようです。

****中国の矛盾示す戸籍制度、改革阻む社会不安の恐怖****
中国では、1950年代を起源とする戸籍制度がいよいよなくなるのではないか――。最近数カ月の当局の言動を受け、一部エコノミストの間にはこうした期待が広がっている。

中国中部の河南省で、ヤン・グアンさん(45)が一介の農民から外車を乗り回して2件の不動産を所有するビジネスマンへと飛躍できたのは、同国で誰もが欲しがる「都市戸籍」を入手したからだ。

河南省の省都、鄭州市に住むヤンさんは、医療や教育、ローンその他行政サービス給付が出生地と結びつき、農村から都市に移住するには許可申請手続きが必要な中国の戸籍制度(戸口)を、国家が全ての人民に牛の耳にあるような「識別票」を付けている、と表現する。

ヤンさんは「この識別票によって各人が享受できる権利にはさまざまな差が生まれ、果たすべき義務も違ってくる」と述べた。一般的に都市戸籍は、農村戸籍よりも経済発展に伴う多くの恩恵に浴することができる。

2000年代初め、鄭州市が住居を購入した人に対して、一時的に都市戸籍を付与する措置を打ち出すと、ヤンさんはその機会をとらえ、事業者登録をした上で同市全域に店を開いて、自らの運命を好転させたのだ。

1950年代を起源とするこの戸籍制度がいよいよなくなるのではないか――。最近数カ月の当局の言動を受け、一部エコノミストの間にはこうした期待が広がっている。

背景には、不動産市場の不況が続き、消費が低迷する中で、より多くの人々を都市に呼び込んで経済のてこ入れを図ることが焦眉の急になっているという事情がある。

中国公安省は8月、人口300万人までの都市の戸籍制度廃止と、人口300万─500万人の都市部での戸籍制度の大幅な制限緩和をすると宣言。浙江省と江蘇省は、新たな居住者に対してほぼ完全に門戸を開く計画を発表した。

ただ、中央政府の戸籍制度に関する議論に参加している2人の関係者はロイターに、改革は停滞しており、特に大都市では大きく局面が打開される公算は乏しいと明かした。

その裏側には、戸籍制度改革を巡る当局のジレンマが透けて見える。経済的な面からは改革に強い妥当性が認められる半面、社会の安定を損ねるのではないかとの懸念や、重い借金を背負う各都市にさらなる費用負担が加わる可能性が、改革を断固進めることに「二の足」を踏ませているからだ。

華夏新供給経済学研究院の創始者で、戸籍問題を含めて政府に政策助言を行っているジャー・カン氏は「戸籍改革はなかなか受け入れるのが難しい。単純に望ましいというだけで可能になる話ではない」と述べた。

ジャー氏によると、中央政府も地方政府も戸籍制度の制限緩和に反対ではないが、実行できるかどうかは各都市の予算と行政サービス能力に左右されるという。

複数の政策アドバイザーは、最大級の都市の場合は供給できる住宅が限られるし、環境汚染や渋滞に直面しており、それらがより多くの人口を吸収する上で制約になると説明した。

また、中小都市ならば新規住宅は有り余っているが、借金が膨れ上がっているので医療や介護、教育といったサービスを拡充する余裕はない。

2人目の政策アドバイザーは「中国の都市化は質的にはみすぼらしい」と自嘲した。

中国では過去40年間で起業のチャンスが広がり、交通インフラや住宅への投資が実施されたのに伴って、大半の都市の規模が劇的に拡大したものの、いわゆる都市化率は先進諸国の80─90%という水準をかなり下回っている。

現在、人口14億人のうち都市部に居住するのは約65%と2013年の55%から高まった。だが、都市戸籍取得者は48%で、実際の居住者とのかい離はずっと埋まらない。

中国の農村戸籍は土地使用権と結びついていて、農村から都市への出稼ぎ労働者が、特に経済が振るわない時期に都市戸籍を申請しようとしない原因とみられる。農村戸籍のままなら、都市で仕事が見つからなくても地元に戻って農業で暮らしていけるという、ある種の保険の役割を果たしているのがその理由だ。

共産主義の中国は、土地の私有は認められず、使用権を自由に売買することもできない。

2人目の政策アドバイザーは「土地制度の改革を前に進めなければならない。多くの土地が有効活用されていない」と提言したが、指導部は積極的に動いていないと付け加えた。

<消費抑える出稼ぎ労働者>
戸籍制度は、毛沢東政権時代の飢饉において、食糧配給と人民の出生地をひも付けし、飢えた農民が大挙して都市に流入するのを防ぐ目的で導入された。

この都市戸籍と農村戸籍を厳密に分ける仕組みにより、約3億人に上る出稼ぎ労働者の多くは、行政サービスを受けられる範囲が限られてしまう。

都市住民に比べれば医療費の還付額は少ないし、退職までの積立金でも雇い主からの拠出金は得られない。

結果として彼らは所得をより多く貯蓄に回し、マクロ的には当局が経済成長のより明確なけん引役になって欲しいと考えている家計消費が上向かない。

人民銀行(中央銀行)のアドバイザーの1人は、出稼ぎ労働者の消費額は都市戸籍取得者を23%ほど下回っており、中国の国内消費に換算すると国内総生産(GDP)の1.7%、2兆元(2810億ドル)を逸失している可能性があると推計する。

中国では、供給過剰に陥っている集合住宅の需要喚起も必要不可欠の課題だ。GDPの約25%を占める不動産市場は、民間デベロッパーの相次ぐデフォルト(債務不履行)で混乱が続いている。

ハーバード大学のマーティン・ワイト教授は、出稼ぎ労働者と都市住民の間での扱いがより公平になり、前者の雇用や福祉サービスの環境が上向き、住宅を買えるようになれば、不動産市場は相当程度改善すると予想した。

<天国と地獄>
ただ、中国指導部にとって、制御不能なほどの人数が都市に流入すれば、リスクをもたらしかねない。

2017年には、北京で出稼ぎ労働者の居住地域に火事が発生した後、市当局は都市戸籍を持たない人々を「追放」する取り組みに乗り出し、中国では珍しい政府への批判が高まった。

北京や上海、深セン、広州といった巨大都市は、社会の安定や調和の観点からこの先何年も、新たな人口流入に窓を開く「チャンスはない」とジャー氏は言い切る。

こうした中でビジネスマンへの転身に成功した鄭州市のヤンさんは、都市戸籍取得の前と後では生活が一変したと改めて振り返った。

当初は地方からの出稼ぎ労働者が暮らす地域で無許可の小さなコンビニを営み、警察の目を逃れて公園にわらを敷いて眠った夜も少なくなかったヤンさんだが、都市戸籍を得ると先行きが急に明るくなったという。

今や事業を拡大するとともに、都市戸籍取得者だけが許される二つ目の住居を購入。自家用車も手に入れて、活動的な社会生活を楽しんでいる。【12月10日 ロイター】
*************************

戸籍制度の緩和は、コロナ前にひと頃話題になっていましたが、コロナによる移動禁止もあって最近はあまり耳にしません。

この中国の戸籍制度の問題は、昨日ブログで取り上げた欧米先進国の移民問題へのジレンマにも似ています。

生産活動の担い手としての移民労働は欲しいが、大量の移民流入で社会混乱が生じるのは困る・・・中国における都市へ流入する農民は、一種の移民みたいなものかも。

いずれにしても、中国経済は立て直しが必要とされていますが、欧米・日本なら「大いに議論して、解決策を・・・」となるところですが、中国は違います。

経済に対する批判的な論評を違法行為として処罰する可能性があるという、いかにも中国政治の現実を示す話も。

****中国国家安全省 経済への批判的論評を処罰する可能性に言及 経済悪化の隠ぺいにつながるとの指摘も****
中国経済が減速するなか、中国政府は経済に対する批判的な論評を違法行為として処罰する可能性を示唆しました。

スパイ行為の取り締まりなどを行う国家安全省はSNS上に「中国経済を貶めるさまざまな常とう句が次々に登場するが、その本質は『中国の衰退』といううその言説を作り上げ、中国の特色ある社会主義体制を攻撃し続けることにある」と投稿しました。

「国家安全保障を危うくする違法行為や犯罪行為を断固として取り締まり、処罰する」などとして、中国経済に対する批判的な論評を違法行為として処罰する可能性に言及しました。

習近平指導部は今月11日から2日間、来年の経済政策の方針を決める「中央経済工作会議」を行い、そのなかで「世論の指導を強化し、中国経済の未来は明るいと宣伝しなくてはならない」と言及しています。

今回の措置はこの方針を受けたもので、中国経済が減速するなか、政府に対する批判的な意見を封じ込める狙いがあるものとみられます。

ただ、こうした措置は、経済悪化の事実を隠蔽することにつながりかねないという指摘や、言論空間のさらなる締め付け強化になるとの懸念が広がっています。【12月17日 TBS NEWS DIG】
****************

「中国経済の未来は明るいと宣伝しなくてはならない」・・・・新型コロナ感染流行初期、原因不明の肺炎とされていた頃にコロナウイルス感染の事実を発信したものの、「インターネット上で虚偽の内容を掲載した」として、2020年1月3日に訓戒処分を下され、その後自身もコロナ感染で死亡した李文亮医師に象徴される中国政治の隠蔽体質は、共産党一党支配の政治体制と不可分のものであり、決して改善しないもののようです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

移民急増が西側諸国共通の政治問題に 各国とも対応に苦慮

2023-12-17 23:32:53 | 難民・移民

(人口に占める年間純移民数の割合【12月15日 WSJ】)

【アメリカ 大統領選挙における最大の争点 バイデン再選戦略を危うくする】
アメリカでは移民流入が大きな問題となっており、移民に対する厳しい姿勢をとるトランプ前大統領の支持率を押し上げ、比較的寛容な民主党・バイデン大統領の再選戦略を危うくしています。

*****移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に****
(中略)ジョー・バイデン米大統領の再選の可能性をインフレよりも大きく損ないかねない問題がある。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の最新の世論調査によると、来年の大統領選挙における最大の争点として移民問題を挙げた回答者の数は、インフレと答えた人の2倍に上った。国境管理に関するバイデン氏の不支持率は支持率を37ポイント上回った。インフレに関してはその差は36ポイントだった。(中略)

米国では、移民反対派は、年齢が高めで保守的な白人有権者に集中している傾向がある。だが、テシェイラ氏は、多くのヒスパニック系有権者も不法移民の急増に衝撃を受けていると指摘した。

ドナルド・トランプ前大統領は移民に対して暴言を吐くことが多く、厳しい政策を取ったが、それにもかかわらず彼を支持する人がこれほど多い理由の一つはここにある。

皮肉なことだが、世論調査会社ギャラップによれば、トランプ氏の大統領在任中、移民の増加に対する国民の支持はおおむね上昇していた。バイデン氏が大統領になり、不法入国が急増した後、その支持は消えてしまった。このことは、国境の危機の解決が、バイデン氏の政治的な先行きだけでなく、移民政策そのものの将来にとってプラスになることを示している。【12月15日 WSJ】
************************

【フランス 左右両サイドからの批判で移民法案が審議されないまま否決】
移民問題への対応で苦慮しているのはアメリカだけでなく、欧州各国、カナダ、オーストラリアなど、いわゆる西側先進国も同様です。

フランスでは、政府が提案した新たな移民法案が議論されないまま否決される異例の事態が起きています。
不法移民への対応を厳格化する一方、外国人労働者の受け入れを進める法案で、外国人の犯罪者や難民申請が認められなかった不法滞在者の国外退去を迅速化するとともに、建設や飲食など人手不足の産業で働く不法移民に滞在許可を与えて労働者として受け入れる内容。

マクロン大統領が昨年の再選時から実現を公約として掲げていたものですが、その中道的な内容が右からは「手ぬるい」、左からは「移民を犯罪者扱いしている」と反対を受けたことで、審議前に却下されました。

****移民法案、国民議会で議論されないまま否決****
リュマニテ紙は「Défait(負けた)」、リベラシオン紙は「却下されたダルマナン(内相)」と一面に。

ダルマナン内相が国民議会に提出した新しい移民法案が、昨晩(12月11日)、審議されないまま却下された。エコロジー党(EELV)が提出した事前否決動議が賛成270票と反対265票で法案が否決となった。(中略)

ダルマナン内相の法案は、極右・右派からは規制のゆるさが、また左派からは、この国は移民を受け入れてきたゆえの豊かさがあることや、移民なしにはコロナ禍で国を動かなかったことを忘れ犯罪者扱いする差別的な見方が批判され、否決動議への賛成票が多くなった。

ダルマナン内相はマクロン大統領に辞任を申し出たが、大統領は拒否。政府は今日12日、国民議会議員7人と元老院議員7人で構成される委員会Commission mixte paritaire に付す意向を示している。【12月12日 Ovni】
******************

【イギリス 不法移民のルワンダへの移民強制移送法案 何とか下院通過したものの、「不十分」と与党内に不満】
イギリス・スナク政権は入国した不法移民のルワンダへの強制移送を可能とするための法案で難しい対応が続いています。

最高裁が先月、ルワンダへの強制移送は違法だと判断したため、ルワンダと新たな条約を締結するなど補強対策を講じたうえで下院での可決には漕ぎつけましたが、保守党内部には「これでは不十分」との不満が残っています。

****英下院でルワンダへの移民移送法案可決、スナク政権はひとまず窮地脱出****
英議会下院で12日、入国した不法移民のルワンダへの強制移送を可能とするための法案が可決された。より厳格な移民規制を求める与党保守党の右派による造反の懸念が広がっていた中で、スナク首相にとっては否決により政権が大打撃を受ける事態はひとまず回避された形だ。

スナク氏はX(旧ツイッター)への投稿で「わが国に誰がやってくるのかを決めるのは犯罪組織でも外国の裁判所でもなく、英国民であるべきだ、というのがこの法律の趣旨だ」と述べた。

英政府は昨年、小型ボートで英仏海峡を渡る密入国者への対策として、不法移民を亡命希望者としてルワンダに受け入れてもらう取り決めを結んだ。

ところが英最高裁が先月、ルワンダへの強制移送は違法だと判断したため、スナク氏はルワンダとの間で移民を安全ではない第三国に送還しないよう保証することを柱とする新たな条約を締結。さらにルワンダを「安全な国」と定義して移送できるようにする法案を下院に提出した。

ただ保守党の右派は、この法案では不法移民の移送を阻止する目的で訴訟などの法的手段を行使された場合、十分に対抗できないと主張し、反発を強めていた。

法案は賛成313人、反対269人で承認。保守党議員350人は賛成票を投じるよう党議拘束がかけられたが、約40人は投票しなかったもよう。

採決直前に右派議員の1人は、右派グループ全体として法案に賛成するのを控え、投票を棄権することを決めたと明かしていた。

この議員は、昨年6月に欧州人権裁判所が移民移送の差し止め命令を下した事態を挙げて、そうした形で移送が阻止されない確実な仕組みが法案に盛り込まれない限り、今後の議会手続きにおいて反対姿勢を続けていくと強調。

来年予定される総選挙を控え、野党労働党に支持率で大きく水をあけられている保守党が内部の足並みの乱れを解消する見通しは立たず、スナク氏も厳しい政権運営が続きそうだ。【12月13日 ロイター】
********************

【ドイツ 移民排斥の右翼政党支持率が急速に高まる】
ドイツでは、ナチス・ドイツの犯罪を矮小化し、イスラム教徒、黒人らを中傷し、排外主義を標榜して難民対応で厳しい姿勢をとる右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が第2位にまで上昇し、連立与党各党は支持率が低下しています。

****ドイツで右翼政党支持率急上昇 難民政策・経済政策への不満が後押し****
独右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が第2位にまで上昇し、来年の3つの州議会選挙で勝者となる可能性が出てきた。「ナチスの過去との対決」を地道に続けてきたドイツで右翼政党が躍進する理由は、市民の現政権の難民政策・経済政策への強い不満だ。

約1年半で支持率が10ポイント増加
ドイツの世論調査機関アレンスバッハ人口動態研究所(中略)が今年10月6日〜19日に1010人の市民を対象に行った世論調査によると、AfDの支持率は19%で、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の34%に次いで第2位だった。

AfDの支持率は、去年5月の9%から今年10月までに10ポイントも増えた。

逆にオラフ・ショルツ首相率いる社会民主党(SPD)の支持率は、同じ時期に24%から17%に7ポイント下落した。緑の党の支持率も、同時期に20.5%から13%に7.5ポイント減った。連立与党の一党・自由民主党(FDP)への支持率も同時期に8%から5%に下がった。(中略)SPD、緑の党、FDPの三党の支持率を合計しても35%にしかならず、過半数には達しない。

AfDの支持率は、特に旧東ドイツで高い。(中略)このためドイツの論壇では、「来年9月の3つの州での州議会選挙で、AfDが最も多い得票率を確保して勝利する可能性がある」という見方が出ている。(中略)

AfDの躍進の主な理由は、二つある。それは、難民急増に対する市民の不安・不満の強まり、ショルツ政権の経済政策・環境政策への不満だ。

(中略)問題は、EU(欧州連合)に入った多くの亡命申請者が、まるで磁石に引き寄せられるように、ドイツを目指す点だ。EU統計局によると、今年上半期にEU域内で初めて亡命を申請した外国人の数は51万9000人(前年同期比で28%の増加)だった。この内約30%がドイツで亡命を申請している。

2022年にはEU全体で約88万人が亡命を申請したが、その内約22万人がドイツで亡命を申請した。EU加盟国の中で最も多い数だ。EUでの亡命申請者数のほぼ4人に1人がドイツにやって来るのだ。

なぜドイツは、亡命申請者の間で人気があるのか。この国の亡命申請規定は他の国に比べて寛容であり、到着後の待遇も比較的良い。この国では基本法(憲法)の中で亡命権が保障されている他、亡命が認められた場合に支払われる援助金などの金額が、他の国に比べて多い。長期間にわたって仕事が見つからないと、地方自治体が住宅を斡旋してくれる。生活保護の他に、家賃や健康保険などの社会保険料も国が払ってくれる。

難民たちはそのことをよく知っているので、イタリアやギリシャからEUに入域しても、結局ドイツへ行って亡命を申請する傾向が強い。

ドイツ政府は、外国人が「亡命を希望する」と言った場合、審査する間とりあえずその外国人の滞在を許さなくてはならない。EUではダブリン協定によって、最初に到着した国で亡命を申請しなくてはならないことになっている。だが欧州大陸では、ほとんどの国がシェンゲン協定に基づいて国境検査を廃止しているので、亡命申請者は自由に国から国へと移動できるのだ。

悲鳴を上げる地方自治体
亡命申請者のために寝泊まりする場所や食事などを用意するのは、地方自治体である。市町村からは、「もうこれ以上亡命申請者を受け入れるのは、不可能だ」という声が強まっている。(中略)

ドイツ南部のアウグスブルクに住むドイツ人の年金生活者は、「難民問題の根っこにあるのは、庶民の妬みだ」と言った。彼は、「多くのドイツ人が、家賃が安いアパートを見つけられずに困っている。だが難民たちは、国にアパートを見つけてもらい、家賃まで払ってもらえる。インフレのために、市電やバスの切符の値段もどんどん高くなっている。しかし難民たちは、公共交通機関の切符も国から支給される。このため、人々が難民に対して悪い感情を抱くのだ」と語る。

(中略)難民の中には、働かなくても4人家族で毎月約2800ユーロ(44万8000円・1ユーロ=160円換算)の援助金を国から支給されている人もいる。これは、ドイツの最低賃金で働く市民の毎月の収入約3000ユーロと大して変わらない。援助金が潤沢だと、必死で仕事を見つけようとする意欲も減る。これでは、額に汗して働く庶民が亡命申請者を妬むのも無理はない。(中略)

このためショルツ政権は11月7日に16の州政府首相たちとの協議の結果、亡命申請者への援助金などの削減や国境検査の強化、亡命申請が却下された外国人の国外退去の促進、州政府への難民対策援助金の増額などの対策を発表した。

政府は難民に現金を支給するのをやめて、商品などを買えるクーポン券に切り替える。外国人が、祖国の家族に送金するためにドイツに来るのを防ぐためだ。

外国人のドイツ到着後に亡命申請を審査すると、長い時間がかかるので、ショルツ政権は各国と協議して、外国人が欧州に到着する前に、域外で亡命申請を審査する制度が可能かどうかについて検討することも約束した。

亡命申請者は、原則としてドイツ到着後最初の3カ月間〜9カ月間は労働を禁止されているが、今後は法律を改正して、労働を奨励する。

しかしCDUのフリードリヒ・メルツ党首は、「政府の措置は不十分だ」と厳しく非難。AfDのアリス・ヴァイデル共同党首も、「これらの措置では、今ドイツが目指している亡命申請者数の大幅な削減を実現することはできない。亡命申請制度を根本的に変えることが不可欠だ」と発言した。

AfDは、憲法で保障されている亡命権の廃止を要求している。緑の党などのリベラル勢力は、亡命権の廃止に反対している。緑の党は、亡命申請者の権利の急激な制約については、批判的だ。このことが、市民の間で緑の党への支持が減る一因となっている。(後略)【11月22日 新潮社Foresight】
******************

【オーストラリア、カナダでも対応に苦慮】
“オーストラリアでは、昨年発足した労働党政権が移民受け入れの目標を引き上げた後、入国者が急増し、世論の不支持率が急上昇した。政権は今週、ビザ(査証)発給要件を厳格化し、「移住者を持続可能な水準に戻す」と表明した。”【前出 12月15日 WSJ“移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に”】

****豪、留学生・低技能労働者のビザ規則厳格化 移民受け入れ半減へ****
オーストラリアは11日、留学生と低技能労働者のビザ規則を厳格化すると明らかにした。豪政府は同国の移民制度は「崩壊した」との認識を示しており、今後2年間で移民受け入れ数を半減させることを目指す。

新たな政策の下では留学生は英語テストでより高い点数を得る必要があり、2回目のビザ申請にはより厳しい審査が課されることになる。

オニール内相は会見で「新政策により移民の数は正常に戻る」と説明。「数字だけの問題ではない。わが国の未来に関わる話だ」とした。

アルバニージー首相は週末に、移民の数を「持続可能なレベル」に戻す必要があると述べ、「システムは崩壊している」と主張していた。

オーストラリアでは移民数(ネットベース)が2022─23年に、過去最多の51万人に達したと予想されている。新型コロナウイルス禍後の人手不足を補うため移民の受け入れを増やしたが、急激な移民増加で家賃が高騰しホームレスが増えるなど、弊害も指摘されている。【12月11日 ロイター】
*********************

“カナダの自由党政権は移民を経済成長の支えとしてきたが、同様に世論の反対が強まり、支持率は急低下している。政権は新規の移民の受け入れ目標を引き上げるのをやめるとともに、先週には「パピーミル(利益追求のために劣悪な環境で犬を大量繁殖させる悪質業者)」のようだと称される学校を厳重に取り締まると約束した。こうした学校は低い基準で卒業証書を出すことで外国人学生を集めている。”【前出 12月15日 WSJ“移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に”】

【西側共通の政治問題に 移民流入スピードのコントロールが重要】
各国ともそれぞれの事情・背景があっての問題ですが、“最近の移民急増は、スピードが速く、混乱を招いている”ということで、排斥に走るのではなく、対応がとれるように流入スピードのコントロールが重要でしょう。

*****移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に****
米英豪などで抑制できない政府に反感
(中略)
移民には、迫害や貧困から逃れてきた人々に安らぎを与えたり、受け入れ国の社会を豊かにしたりするなど、数量化できないメリットがある。

しかし、移民受け入れの通常の理由は経済的なものだ。企業は、労働力不足緩和のために外国人労働者を求めている。

しかし近年は、受け入れ国の一般市民にとっての経済的利益が、それほど明確ではなくなってきている。連邦準備制度理事会(FRB)当局者らは、移民によって労働力の供給が増え、賃金が抑制されたことが、今年の米国のインフレ抑制に役立ったとしている。しかし、米国生まれの労働者がそれを歓迎するだろうか。

一方、豪州では、移民が住宅不足を悪化させているとの不満が国民の間で広がっている。ニュージーランドの中央銀行は、移民の流入で住宅価格に上昇圧力がかかっているため、利上げが必要になるかもしれないとしている。カナダの世論調査会社レジェ・マーケティングの調査によると、カナダ人の75%は移民が住宅市場を圧迫していると考えている。医療と学校を圧迫しているとみている人の割合はそれぞれ73%と63%だった。

特定技能を持つ移民に対しては、国民からの支持がより高くなるのが常だ。それは、こうした移民が既存労働力の生産性を高めるからだ。豪州とカナダは、切実に必要な技能を持つ移民をターゲットにすることで、長い間移民への支持を維持してきた。だが、両国とも、移民の内訳は逆方向へと動いている。

豪政府が今年公表した報告書によれば、同国には就労が認められている一時滞在ビザ保有者が180万人いるが、その多くは低賃金の仕事にしか就けておらず、家族に合流するため、あるいは人道的プログラムにより永住が認められた移民も同様だという。

国民の「高技能移民に対する支持は強い」が、低賃金労働者の移民に対する支持は「そこまで明確ではない」と同報告書は指摘している。米国への不法移民は一般的に、米国生まれの国民より教育レベルも英語力も低い。

人口構造の変化は本来ゆっくりと起きるものだが、多くの人にとって、最近の移民急増は、スピードが速く、混乱を招いている。カナダ、豪州、英国への移民流入はいずれも過去最高となっている。(後略)【12月15日 WSJ】
***********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イスラエル  ガザでの戦闘「次の段階へ移行」 これまで水面下ではハマスを支援してきた戦略が破綻

2023-12-16 22:49:09 | パレスチナ

(イスラム組織ハマスに拘束されていた人質3人への誤射を巡り、抗議する人々=イスラエル中部テルアビブで2023年12月15日、ロイター【12月16日 毎日】 人質は白旗を掲げていたとも)

【「次の段階へ移行」 ハマス指導者を狙った戦闘形態に移行 具体的な時期や戦闘規模については不明】
イスラエル軍の激しい攻撃が続くパレスチナ・ガザ地区出の戦いが転機を迎えたのか・・・

****イスラエルの作戦「次の段階へ移行」 米高官会見、ハマス指導者を標的に****
米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は15日、イスラエル軍のパレスチナ自治区ガザでの軍事作戦が、イスラム原理主義組織ハマスの指導者に標的を絞った「次の段階へ移行」すると述べた。

訪問先のイスラエルで記者会見し、同国と移行時期について話し合っていることを明らかにした。米政権は民間人被害を伴う大規模な戦闘から縮小するようイスラエルに要請していた。

サリバン氏は14日、イスラエルのネタニヤフ首相らと会談。米メディアによるとイスラエルのガラント国防相は、サリバン氏に「ハマス壊滅の戦いは数カ月以上続く」と述べ、壊滅作戦を継続する方針を伝達していた。

サリバン氏はイスラエル側に、数週間内に大規模攻撃を終え、ハマス指導者を狙った戦闘形態に移行するよう要請した。

サリバン氏は15日の会見で、イスラエル軍がハマス戦闘員を標的とし、民間人を巻き添えにしない努力の「成果を確認」したいとも話した。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、バイデン米大統領は「3週間程度」で戦闘形態を転換するよう望んでいる。

サリバン氏とイスラエル側の会談ではガザの戦後処理も話し合われた。サリバン氏は14日、現地テレビで、占領地ヨルダン川西岸とガザに分裂する自治区が「パレスチナ自治政府の下で結びつく必要がある」と話した。

米政権はパレスチナ国家とイスラエルの「2国家共存」による和平実現に向け、ガザ統治を自治政府に委ねるのが望ましいとの立場だ。ネタニヤフ政権は2国家案そのものに否定的で、溝が縮まるかが焦点となる。【12月15日 産経】
******************

イスラエル側も同意したようですが、詳細はまだ不明です。

****米、戦闘規模縮小でイスラエルと合意=時期や規模は示さず****
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は15日、オンラインでの記者会見で、パレスチナ自治区ガザでの軍事作戦の規模縮小を巡り、イスラエル側と「一般合意」したと明らかにした。ただ、具体的な時期や規模については触れなかった。【12月16日 時事】 
*******************

【相次ぐイスラエル軍の不祥事 その意味でも「転機」かも】
イスラエルとしても、軍の不祥事が相次いでおり、そろそろ「次」を考える必要がある次期かも。
不祥事の最大のものは、誤って人質を殺害してしまったというもの。

****イスラエル軍、ガザで人質3人を誤って殺害=報道官****
イスラエル軍の報道官は15日、パレスチナ地区ガザでイスラム組織ハマスに拘束されている人質3人を戦闘中に誤って殺害したと発表した。現在調査が進められているという。

イスラエル軍は声明で、ガザ地区での激しい戦闘中に「3人のイスラエル人質が脅威と認識され、その結果、部隊が発砲し、3人は殺害された」とした。

ネタニヤフ首相は「イスラエル国民全体とともに、深い悲しみに頭を下げ、3人の死を悼む」とする声明を発表した。

イスラエル軍はハマスと激しい戦闘を繰り広げているが、ハマス戦闘員は民間人のような服装をしていることが多いという。

ガザ地区にはなお約100人の人質が拘束されている。イスラエル軍はこの日、民間人1人と兵士2人の遺体を収容したと発表した。【12月16日 ロイター】
********************

イスラエル国内で人質救出を最優先すべきとの声が強い中で、ハマスへの攻撃を優先させてきたネタニヤフ首相としては責任を追求されることにもなるでしょう。

その他にも・・・

****モスクでユダヤ教の歌を歌う・商店を破壊、イスラエル兵の規律乱れる…映像や画像の投稿も****
パレスチナ自治区ガザとヨルダン川西岸で戦闘を続けるイスラエル兵の規律の乱れが目立っている。占領したモスク(イスラム教礼拝所)でユダヤ教の歌を歌ったり、商店を破壊したりする映像がSNS上で拡散している。軍の報道官は「兵士の行為は軍の価値観に反する」と火消しに追われ、パレスチナ人の反発は強まるばかりだ。

西岸北部のジェニン難民キャンプのモスクでは、イスラエル兵がマイクを使ってユダヤ教の光の祭り「ハヌカ」の歌を歌った。「我々は暗闇を追い払うためにやってきた」というヘブライ語の歌詞をイスラム教徒のパレスチナ人住民に聞かせた。

同キャンプでは14日まで3日間にわたりイスラエル軍の侵攻が続き、11人が殺害された。パレスチナ自治政府の議長府報道官は「恥ずかしい行為だ」と非難し、「この地域を宗教戦争に引き込む」と警告した。

ガザ北部ジャバリヤでは、イスラエル兵が商店の棚にある商品を周囲に投げつけ、棚を倒した。同僚の兵士からは笑い声が上がった。軍には予備役が多く、若い兵士らがふざけ半分で撮影した映像や画像をX(旧ツイッター)に投稿している。軍は行為にかかわった兵士を任務から外した。【12月15日 読売】
********************

****中東テレビのカメラマン死亡 イスラエル軍、救急活動を妨害か****
中東の衛星テレビ、アルジャジーラは15日、同社のカメラマン、サーメル・アブダッカ氏(45)がパレスチナ自治区ガザ南部ハンユニスでイスラエル軍の攻撃により死亡したと発表した。軍が5時間以上救急活動を妨害したとし、「人道に対する罪だ」と激しく指弾した。


米ニューヨークに本部を置く民間団体、ジャーナリスト保護委員会(CPJ)によると、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まった10月7日以降、死亡したメディア関係者は今月15日時点で計64人。レバノン南部では、軍が意図的に記者を殺害したとの調査もあり、批判が高まる。【12月16日 共同】
**********************

【「ポスト・ハマス」の青写真では米・イスラエルに溝 「2国家共存」を認めないネタニヤフ政権】
大規模攻撃を終え、民間人を巻き添えにしない形で、ハマス指導者を狙った戦闘形態に・・・というのはよいとしても、問題は以前から指摘しているように、「ポスト・ハマス」の青写真の合意がないこと。

冒頭記事にあるように、アメリカはパレスチナ自治政府がヨルダン川西岸に加えてガザ地区の支配も回復したうえで、パレスチナ国家とイスラエルの「2国家共存」による和平実現を目指すとしていますが、ネタニヤフ首相はこうした考えを否定しています。

****ガザとヨルダン川西岸、「刷新された」パレスチナ自治政府が統治すべき=米高官****
米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は14日、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区とガザ地区は「刷新され、活性化された」パレスチナ自治政府が統治する必要があると述べた。

イスラエル訪問中のサリバン氏は地元のテレビ局チャンネル12とのインタビューで、「最終的にはヨルダン川西岸とガザの統治を結び付ける必要があり、刷新され活性化されたパレスチナ自治政府の下で、結び付けられる必要がある」と述べた。

それが何を意味するのかという質問に対しては「イスラエル政府だけでなく、まずパレスチナ側との集中的な協議が必要ということだ。しかしそれには改革が必要で、パレスチナ自治政府の統治への取り組み方を刷新する必要があるだろう」と応じた。(後略)【12月15日 ロイター】
******************

****駐英イスラエル大使、2国家解決は「絶対にノー」****
イスラエルのツィピ・ホトベリ駐英大使は14日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの掃討作戦終了後も、イスラエルとパレスチナ国家が共存する「2国家解決」を受け入れるつもりはないと述べた。

ホトベリ氏は英スカイニューズに対し、英政府と国連が長年にわたりオスロ合意(パレスチナ暫定自治宣言)に基づき、パレスチナ国家を樹立すべきだとの立場を取っているのはあり得ないとし、「答えは絶対にノーだ」と述べた。

(中略)ホトベリ氏は「オスロ合意が失敗したのは、パレスチナ人が隣国にイスラエルを持つことを望まなかったからだ。このことを今のイスラエルは理解している。世界も知るべきだ」「パレスチナ人はヨルダン川から地中海まで(英委任統治領パレスチナ全域)の1国家を望んでいる」と述べた。

「あなた方はなぜ全く機能せず、パレスチナ側にこうした過激な人々を生み出した案(2国家解決)に固執するのか」と続けた。(後略)【12月15日 AFP】AFPBB News
******************

【自治政府 かねてよりの腐敗で住民支持を失っており、「改革」が必要】
かねてより「2国家共存」を主張してきたパレスチナ自治政府は当然の如く、アメリカ案を歓迎しています。

*****「ガザはパレスチナ国家と不可分」 アッバス議長****
パレスチナ自治政府のマハムード・アッバス議長は15日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸の本部で米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と会談し、「ガザ地区はパレスチナ国家の不可分の一部だ」と述べた。

アッバス氏は「パレスチナ国家の一部について、分離または隔離しようとする試みは容認できない」と強調した。

(中略)これに先立ちサリバン氏は、イスラエルのテルアビブで同国の高官と会談した後の会見で、イスラム組織ハマス掃討後のガザについて、「イスラエルが長期にわたってガザを占領もしくは再占領するのは道理にかなっておらず、適切でもない」「ガザの統治、行政、治安維持は最終的に、パレスチナ人に移管されなければならない」と述べていた。 【12月16日 AFP】
*******************

ただ、問題は腐敗した自治政府が住民の信頼を失っており、(敗北も予想される)選挙もできない状況が続いていることです。「刷新され、活性化された」パレスチナ自治政府に生まれ変わる必要があります。

【ネタニヤフ政権 これまで水面下ではハマスを支援 ハマスとの戦闘をコントロールする戦略が破綻】
一方、これまでのガザ地区への関与の責任を問われるのはイスラエル・ネタニヤフ政権です。ヨルダン川西岸とガザの一元支配と言う考えも、これまでのネタニヤフ政権の戦略とは異なります。

現在ハマスへの激しい攻撃を行っているように、イスラエルの存在を認めていないハマスと、ハマスをテロ組織と見なすイスラエルは“不倶戴天の敵”と思われていますが、実は水面下ではイスラエルはこれまでハマスのガザ地区支配を支援してきたとも言われています。

ありえないような指摘ですが、「敵の敵は味方」ということからすれば、イスラエル保守派にとってパレスチナ国家を主張する自治政府が敵であり、その敵に盾突き、弱体化させるハマスは「味方」ともなります。

イスラエル保守派にとっても、ハマスにとっても、「2国家共存」といった和平は受け入れがたいものであり、そうした合意を潰すという共通の利害を有するとも言えます。

****日本のテレビが触れないタブー、#イスラエル は #ハマス を支援してきた!― #ガザ 攻撃の闇****
(中略)ハマスについて、日本のテレビ報道の中で語られていない重要な問題があります。それは、イスラエルのネタニヤフ首相ら同国の右派政治家達が、ハマスを利用し支援してきたことです。この問題は、現在のガザ攻撃にも大きく関係しているのです。(中略)

〇ハマスへの資金移送を容認してきたネタニヤフ首相
ある意味、ネタニヤフ首相は、ハマスにとって最大の「支援者」の一人だとも言えるのかもしれません。

ハマスにとって最も重要なスポンサーは、中東の石油・ガス産出国の一角、カタールです。このカタールからのハマスへの送金を見逃してきた、いや、むしろ庇ってきたのは、あろうことか、イスラエルの首相であるネタニヤフ氏であることが、現地紙「エルサレルム・ポスト」「タイムズ・オブ・イスラエル」等、複数のメディアで暴露されているのです。

これらの報道によれば、2019年にネタニヤフ首相は与党の会議の中で、「パレスチナ国家に反対する人々はガザへの資金移送を支持すべきだ」と語ったとされています。また現地紙「ハアレツ」は「ネタニヤフ氏は過去14年、ハマスの権力を強化させ続けてきた」と批判しています(2023年10月20日付のコラム)。
なぜ、ネタニヤフ氏はハマスを支援するようなことをしてきたのでしょうか?それは、現地報道で暴露された発言などからもうかがい知れる、ネタニヤフ氏含むイスラエルの右派政治家の中東和平に対するスタンスがあります。

1993年、米国の仲介でまとまったオスロ合意による中東和平で核となるのが、パレスチナが将来、国家として独立しイスラエルと平和的に共存する、いわゆる「二国家共存」です。

しかし、ネタニヤフ氏ら、イスラエルの右派政治家達は、当時から「二国家共存」に反対してきました。それは彼らが、オスロ合意に沿ってパレスチナ国家となるはずのヨルダン川西岸までイスラエルの領土だとする「大イスラエル主義」に固執しているからです。

オスロ合意後、パレスチナ自治政府が発足しましたが、その主流派のファタハのライバル関係にあるのが、ハマスなのです。つまり、ネタニヤフ氏らイスラエル右派政治家達にとって、イスラエルとの衝突を続けるハマスが勢力を強め、対イスラエル穏健派のファタハと対立していた方が、中東和平による「二国家共存」の実現阻止という点で都合が良いのです。

実は、ハマスが穏健化する機会がオスロ合意後の流れの中で幾度かあったのですが、それをことごとく拒んできたのが、イスラエルの右派政権でした。

中でも、衝撃的だったのは、2004年3月、ハマスの創設者で精神的指導者であったヤシン師が、イスラエル軍の攻撃ヘリによるミサイル攻撃で殺害されたことです。

ハマス側は当然、激怒。イスラエルに全面戦争を宣言することになりますが、生前、ヤシン師はその態度を軟化させ、イスラエルとの停戦を主張していたのでした。つまり、中東和平を支持していたヤシン師を殺害することでハマスを過激化させることにより、当時のイスラエルのシャロン政権は「二国家共存」への道を頓挫させたのです。

〇中東和平を阻止してきたネタニヤフ首相
1996年から現在に至るまで、実に6度もイスラエルの首相となっているネタニヤフ氏も、中東和平の枠組みを揺るがし続けてきました。

ネタニヤフ政権が続く中で、激増したのがヨルダン川西岸のユダヤ人入植地です。入植地の人口は、2000年代には20万人程度であったのが、現在は約50万人にも倍増しています。

こうした入植地はパレスチナ人の家々を破壊し、土地を奪って建設される上、入植者の中には武装して近隣のパレスチナ人の村々を襲うテロリストの様な過激派も少なからずいます。(中略)

その入植者達を護るためイスラエル軍も来るので、入植地建設は、イスラエルによるパレスチナ占領を固定化し、拡大させていくものです。

入植地の拡大から、ヨルダン川西岸やエルサレム周辺でも、パレスチナ側とイスラエル側の衝突は続いてきましたが、こうした衝突を利用し、「強いリーダー」をアピールしてきたことが、ネタニヤフ氏が権力を維持し続けてきた要因でもあるのです。

しかし、入植地の建設は、ヨルダン川西岸の住民達だけでなく、ハマスも強く憤ってきました。今回の大規模襲撃についてのハマスの声明の中でも入植地について言及しているのです。

ガザでの「草刈り戦略」
紛争を「適度なもの」にコントロールしながら、政権運営や外交安全保障政策に利用する―そうした戦略はガザにも適用されていきました。

イスラエルは、ガザに対し、2008年末から2009年1月、2012年、2014年、2021年、2022年と大規模な攻撃を行いました。これはハマス等のガザの武装勢力を生かさず殺さずにする、つまり、現地武装勢力が或る程度力を蓄えてきたら打撃を与えるということを数年おきに繰り返すもので、伸びてきた草を刈るというイメージから「草刈り戦略」とも呼ばれています。

米国の軍事シンクタンク「ランド研究所」が2017年にまとめた報告書は、イスラエルはハマスを殲滅することはできるが、権力の空白でのガザの混乱に対する責任を取ることを嫌い、またより過激な組織が台頭する可能性から、ハマスを殲滅することはしなかったと分析しています。つまり、ネタニヤフ氏らイスラエルにとってハマスは、いわば、利用するのにちょうど良い程度の脅威だったのです。

(中略)これまでのガザ攻撃でのイスラエル側の被害はガザのそれにくらべれば、10~30分の1程度と少なく、ネタニヤフ首相らイスラエルの右派政治家達は、「紛争をコントロールできている」と考えていたようです。それが過信であったことを示したのが、今回のハマス等によるイスラエル側への襲撃だったのでした。

〇ネタニヤフ首相の責任を追及しない日本のメディア
ハマスを利用することで、中東和平に背を向けてきたネタニヤフ首相の戦略が、今回のハマス等による大規模襲撃を招いたとの指摘は、イスラエルの各メディアで指摘されていることです。しかし、日本のメディア、特にテレビでは、「いつ地上軍が侵攻するのか」と表面的な解説ばかりで、この間のイスラエルの右派政権の対パレスチナ政策の問題を批判的に分析するというような解説はほとんどありません。(中略)【10月26日 志葉玲氏 YAHOO!ニュース】
********************

“このカタールからのハマスへの送金を見逃してきた、いや、むしろ庇ってきたのは、あろうことか、イスラエルの首相であるネタニヤフ氏である”ということ、加えて、ネタニヤフ政権のこうしたハマス支援を“米国のオバマ、トランプ、バイデンという歴代政権も支持した”ということを“なぜハマスは戦闘を続けられるのか イスラエルの誤算”【12月14日 WEDGE】も指摘しています。

ネタニヤフ首相がイスラエルで問われているのは、単にハマスの奇襲を防止できなかった責任だけでなく、これまでの「紛争をコントロールできている」という考えからハマスを水面下で支援してきた戦略が破綻した責任です。

それだけに、ネタニヤフ首相としては何としてもハマスを根絶やしに・・・と突き進んでいるのでしょう。

上記のような指摘に関して言えば、カタールからの資金援助は「民生用」ということで行われていたもので、これをハマスが軍事目的にかすめ取っていたこと、そのことをイスラエルが承知していたことも事実でしょうが、イスラエル側に自治政府弱体化・「二国家共存」否定のためにハマスを利用するという明確な意図があったのかどうかは微妙かも。ただ、ハマスが資金を利用してもコントロールできるし、結果的には保守派の目的に沿うという考えはあったのかも。

もし、こうしたカタールからの支援がなかったら、「天井のない監獄」とも言われていたガザの住民生活は更に厳しいものになっていただろうとも思えますので、どうすべきだったかのかも併せて議論する必要があるでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

COP28 「化石燃料からの脱却」などを採択 実効性は今後の取組次第 消極姿勢目立つ日本

2023-12-15 23:03:44 | 環境

(「気候変動パフォーマンス指数(CCPI)」2024年版。赤くなるほど評価が低い【12月9日 Newsweek】 日本は・・・真っ赤 順位は63か国プラスEU中で、前回より更に低下して58位 日本より下の国があまりない・・・という評価)

【化石燃料全般の抑制に初めて言及 「化石燃料からの脱却」合意の舞台裏】
国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は会期を1日延長した13日、「化石燃料からの脱却」などにより温室効果ガスの大幅削減を進めるとした成果文書を採択しました。

「石炭火力発電の段階的削減」を打ち出したおととしの会議から前進し、対象を石油や天然ガスを含む化石燃料全体へと拡大した形となっています。

****化石燃料からの「脱却」表明 COP28が文書採択****
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は13日、会期を延長して全体会合を行った。

2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標の達成に向け、「化石燃料からの脱却」を盛り込んだ成果文書を採択した。

文書採択の瞬間、各国代表団などが詰めかけた会場は大きな拍手に包まれた。温暖化の主な原因とされる石油や天然ガス、石炭など化石燃料全般の抑制にCOPの成果文書が言及するのは初めて。対策が講じられていない石炭火力の段階的削減を加速させる方針も確認した。

成果文書は観測史上、今年は「最も暑い年」になるとし、産業革命前からの気温上昇を「1・5度」に抑える世界共通の目標達成に向け、「緊急に行動する必要性」を強調した。

また、30年までに世界の再生可能エネルギーの発電能力を3倍に増やすとした上で、原子力のほか温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を地中に貯留するといった排出削減の技術開発を加速させるとした。

COP28では世界の温暖化防止の進捗が初めて評価され、取り組みが不十分であることを確認。各国が25年までに策定する排出削減目標で進捗評価との関係を明示するよう求め、削減強化を促した。

昨年、創設が決まった気象災害に伴う「損失と損害」の基金には、多くの国が資金拠出を表明し、基金の運用開始に道筋をつける成果を挙げた。【12月13日 産経】
********************

化石燃料(つまり石油も含む)への言及にはサウジなど産油国からの強い抵抗があって難航したようです。

会期終了を翌日に控えた11日、議長国UAEが公表した文書案から、それまで選択肢にあった化石燃料の「段階的廃止」の文言が消えたことが判明して議論を呼びましたが、これは各国の危機感を煽り、合意への道筋をつけるための事務局サイドの戦略だったとか。

****「歴史的」な化石燃料言及 COP28、曲折の末の妥協****
(中略)
地球温暖化対策では、産業革命前からの気温上昇を「1.5度」に抑えることが世界共通の目標。だが、国連の科学的知見では、すでに1.1度上昇している。各国が現在の温室効果ガス排出削減目標をすべて達成しても、2.1〜2.8度上がる見込みだ。

石油や天然ガス、石炭などの化石燃料は燃やすと二酸化炭素が発生し、温暖化の主な要因となる。会議で大きなテーマになったのは、1.5度目標の達成が困難になりつつあるからだ。

海面上昇の脅威に見舞われる太平洋のマーシャル諸島など島嶼(とうしょ)国や、排出削減の技術開発が進む欧米は、会議前半から化石燃料の「段階的廃止」を訴えた。

シェールオイルの恩恵を受ける米国は世界屈指の原油生産国だが、「バイデン大統領は来年行われる大統領選で、環境問題に冷淡なトランプ前大統領に押されている。環境に熱心な姿勢をアピールする狙いもあるのでは」(会議筋)との見方も聞かれた。

一方、サウジアラビアやイラン、イラクなど中東の産油諸国は当初、化石燃料への言及に強く反対した。ロイター通信によるとサウジが主導する石油輸出国機構(OPEC)加盟諸国は世界の原油埋蔵量の8割を擁し、サウジでは原油売却益が国庫収入の75%を占める。産業多角化と雇用創出は道半ばで、他の中東産油国も大差はない。一足飛びに「脱化石燃料」に踏み出せない事情がある。

隔たりが埋まらないまま迎えた11日。会期終了を翌日に控えて議長国UAEが公表した文書案から、それまで選択肢にあった「段階的廃止」の文言が消えたことが判明した。

「これでは署名できない」「表現を強めるべきだ」。島嶼国や欧米から批判が殺到した。各国は会期を越えて13日未明も協議を重ね、同日昼前に「化石燃料からの脱却」の文言で合意にこぎ着けた。

「夜を徹して協議した。各国は自国の利益を越えて共通の利益を優先した」。議長のジャベルUAE産業・先端技術相がこう述べて小づちをたたくと、会場では各国代表らが立ち上がって拍手し、歓声が飛んだ。

合意に至る経過を振り返ると、議長が土壇場で「段階的廃止」の一文がない文書案を公表したことが転換点になったことが分かる。COP28の事務局幹部は「ボールはあなたたちの方にある」と述べて各国の危機感をあおり、本音をぶつけ合うよう求めた。対立構図を浮き彫りにして事態の打開を促す狙いだった。

UAEはアラブで唯一、原発を稼働させて一足先にエネルギー供給源の分散化に着手。観光など産業多角化が進んでいる国だ。

一方、サウジが譲歩した理由について英BBC放送(電子版)は、「脱却」の道筋が柔軟に解釈できる内容だったことに加え、「会議を崩壊させたとみなされることを望まなかった」と分析した。

妥協の産物にもみえる合意の成立で、化石燃料からの脱却は進むのか。BBCが報じた複数の科学者のコメントでは賛否が割れた。マーシャル諸島の代表は文書採択後、「難問を解決するために来たが、その代わりにもろくて水漏れするカヌーを作ってしまった」と述べ、将来への懸念を隠さなかった。【12月14日 産経】
***********************

“外交的合意”では対立する双方が“都合よく”解釈できる余地を残した玉虫色にすることで、本来なら合意できないところを「合意」する・・・そういうケースが多い、例えば“ひとつの中国”とか。

それでも「合意」することに意味があり、決裂するよりもずっとまし・・・とも言えます。その“曖昧さ”を云々するのは野暮というもの・・・か。

【サウジアラビア 石油輸出には影響を与えないとの認識】
サウジアラビアは“「脱却」の道筋が柔軟に解釈できる”と考えているようです。

****サウジ、COP28合意を支持 石油輸出に影響なし****
サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は13日、同国は国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の最終合意を支持すると述べた。

サウジ国営テレビのアルアラビアとのインタビューで「今ある合意では、(化石燃料の)即時的かつ段階的廃止という問題は葬り去られた」とし、サウジの石油輸出には影響を与えないとの認識を示した。

COP28では、約200カ国の代表が最悪の気候変動を回避するために化石燃料からの脱却を進めることで合意。ただ、石油・ガス・石炭の「段階的に廃止」を成果文書に盛り込むよう求める動きに対し、サウジを中心とする石油輸出国機構(OPEC)は特定の燃料に言及しないよう求めていた。

成果文書は「公正かつ秩序だった公平な方法でエネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却を図り、2050年までに(温室ガス排出の)実質ゼロを達成する」とした。【12月14日 ロイター】
**********************

サウジアラビアが余裕を持って対応できるということは、「化石燃料からの脱却」は実質的にはあまり進まない・・・ということにもなりますが、どうでしょうか・・・。いずれにしても実効性は今後の取組次第です。

【日本 石炭火力廃止への取り組みの“消極さ”が目立つ 中国・インドよりも低い評価も】
一方、今回COP28では日本の石炭火力廃止への取り組みの“消極さ”も目立ちました。

先進国に対して2030年までに石炭火力の廃止を求めている、イギリスとカナダが主導する脱石炭連盟(PPCA)に日本は参加しませんでした。

電力の2割を石炭に頼るアメリカですら参加を表明するまかで、G7で日本だけ取り残されている形にもなっています。期限を切られることが日本としては許容できなようです。

また、石炭への民間融資をやめ、地域のエネルギー移行を支える取り組みである、フランスとアメリカが主導して立ち上げた石炭火力発電からの脱却を目指す有志国連合への参加も見送りました。

日本は、現在のエネルギー基本計画では30年度でも電源の約2割を石炭火力に頼ることになっています。もちろん日本には日本の事情があっての話ではありますが。

****COP28で発足の「脱石炭」連合、日本は参加見送る 圧力警戒か****
アラブ首長国連邦で開催中の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、「脱石炭」を巡り欧米各国と日本の間の溝が深まっている。

日本政府代表団は3日、フランスと米国が主導して立ち上げた石炭火力発電からの脱却を目指す有志国連合への参加を見送ったことを明らかにした。

この連合はCOP28での首脳級会合(1、2日)に合わせて設立され、米仏の他、カナダ、欧州連合(EU)など9カ国・地域が参加している。

主要7カ国(G7)は2022年に天然ガスを含む全ての化石燃料事業への公的支援停止に合意しているが、この連合ではさらに踏み込み、民間金融機関に対し、石炭火力への新規融資停止を促す仕組み作りを目指す。

日本政府代表団は3日、COP28会場内での記者会見で、フランス側から参加要請を受けたことを明らかにしたうえで「(民間融資停止に向けた)検討手続きが明確でなく、現時点で参加の立場は取っていない」(経済産業省の交渉担当者)などと説明した。

同じく脱石炭を目指す別の組織「脱石炭連盟(PPCA)」は2日、米国やチェコなどが新たに加盟したと発表した。PPCAは17年、英国とカナダの主導で発足し、参加国の多くは既設も含めた石炭火力の全廃時期を公表している。米国などの加盟で参加国は57カ国となり、G7で未参加は日本だけになった。

日本は、エネルギーの安定供給のためとして、30年度時点で総発電量の19%を石炭火力でまかなう計画だ。岸田文雄首相は1日の首脳級会合で「排出削減対策の講じられていない石炭火力の建設を終了していく」と表明したが、既設の発電所の廃止時期は示さなかった。

PPCAは米仏が設立した有志国連合と「連携する用意がある」と表明している。日本は全廃時期を示していないことへの圧力が強まることを警戒して連合への参加を見送った可能性もある。【12月4日 毎日】
***************

石炭火力について岸田首相はCOP28で「排出削減対策のない新規の国内石炭火力発電所の建設を終了する」と表明しました。

ただ、運転中の石炭火力発電は約170基もあり、これをどうするのか・・・・

日本政府はアンモニアを混焼する実験段階の技術を使うことで、合意文書で削減対象外となる「排出対策がある石炭火力」だと解釈して延命を図る戦略です。

日本のこのような姿勢は、結局石炭火力の延命を図るものとして批判もあります。温暖化対策に後ろ向きな国にNGOが贈る「化石賞」に、日本は期間中2回選ばれています。

COP28閉幕後、伊藤環境相は記者団に「この10年で早く移行していくが、化石燃料をゼロにするということではないと思う」とし、「可能な限り化石燃料の比率を減らす」と述べるにとどめました。

言っている事に間違いはないにしても、このような発言からは、「化石燃料からの脱却」を強力に推し進めようという意気込みは全く感じられません。

****奮起****
各国は今後、35年までの排出削減を見通す次期目標の策定に入る。交渉で影が薄かった日本の対応には不安が残る。

日本は今年、先進7カ国(G7)議長国として「排出削減措置が取られていない化石燃料使用の段階的廃止」の方針をまとめた。だが、COP28では化石燃料を巡る表現を強めるよう目立った動きをしなかった。

背景には、二酸化炭素(CO2)の排出削減策を取り入れながら化石燃料を使い続けたい本音がある。石炭火力発電には燃焼時にCO2の出ないアンモニアを混ぜるなどの手段を想定。だがこの方法は当面、ガス火力より排出が多い見込みだ。

地球環境市民会議の早川光俊専務理事は「途上国に資金支援もしているのに、現状では何をしても尊敬されない」と語る。

政府は現行計画で、再エネを30年度の発電量の36~38%に到達させることを目指している。来年は国連に提出する次期の排出削減目標の土台となる、エネルギー基本計画の改定が見込まれる。早川さんは「今の目標は低すぎる。太陽光も風力ももっと増やす余地はある」と奮起を促した。【12月15日 共同】
*********************

****どこまで落ちる日本…COP28で不名誉な「化石賞」2回、気候変動対策は世界58位に沈む現状****
<ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー安全保障への懸念が強まり、多くの国で気候変動政策が停滞している>

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で8日、恒例の「気候変動パフォーマンス指数(CCPI)」2024年版が発表された。

COP28で2度にわたって不名誉な「今日の化石賞」に選ばれた日本は63カ国と欧州連合(EU)の中で前年の50位からさらにランクを8つ下げ、58位に沈んだ。 

環境や気候変動問題のシンクタンク「ジャーマンウォッチ」と「ニュークライメート・インスティチュート」、国際環境団体のネットワーク「CANインターナショナル」が05年から19年連続で発表している。

昨年のロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー安全保障への懸念が強まり、多くの国で気候変動政策が停滞している。 

63カ国とEUで世界の温室効果ガス排出量の9割以上を占める。多くの国が再生可能エネルギーへの移行を加速させている。しかし世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて摂氏1.5度に抑えるパリ協定の目標に沿った行動をとった国は一つもなく、上位3位まで該当国なしだった。 

今回もデンマークが最高位の4位で、エストニア、フィリピンがそれに続く。 

2大排出国の中国は前回と同じ51位で、米国は前回より5つ順位を下げて57位。日本、台湾(61位)、韓国(64位)は、石炭を消費しながらも急ピッチで気候変動対策を進める中国より評価が低かった。

COP28議長国のアラブ首長国連邦(UAE)、イラン、サウジアラビアが最下位の65位から67位までを占めた。 

■日本は良い目標が設定されていない
共同執筆者の一人、ニュークライメート・インスティチュートのニクラス・ヘーネ教授は「自然エネルギーがブームとなり、各国政府は継続的に自然エネルギー目標を更新している。

一方で気候変動政策の策定は全般的に鈍化した。比較的野心的な気候政策を行っている国のデンマークでさえ昨年10月の総選挙以降、気候変動対策がほぼ停止している」と指摘する。(中略)

日本がランクを落としていることについて、ブルク氏は筆者の質問に「日本の評価が低いのはすべてのセクターで非常に低い目標を設定していることや、1人当たり排出量に大きく関係している。温室効果ガスや再エネ、エネルギー消費に関して良い目標が設定されていない。ただ、新しい再エネ発電の建設を始めているのは良いトレンドだ」と答えた。 

世界の統計サイト「ワールドメーター」によると、日本の1人当たり二酸化炭素排出量は9.76トンで世界26位。ブルク氏は「日本が石炭や他のエネルギー源に対して自然エネルギーを増強する傾向を続けるならランキングが上昇するチャンスはある。しかし過去に比べてはるかに速いスピードでなければならない」と警鐘を鳴らす。 

日本の「取り残され感」はCOP28でもはや決定的となった。(後略)【12月9日 木村正人氏 Newsweek】
*****************

中国やインドより評価が低いというのは釈然としませんが、改善に向けたアグレッシブな取り組みが見られない・・・ということでの低評価でしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ  中絶禁止をめぐるせめぎあい 来年大統領選挙にも大きく影響

2023-12-14 22:36:38 | アメリカ


(米国の中絶規制の現状【6月25日 毎日】 前回大統領選挙結果とほぼ重なり合います)

【選挙を左右する中絶問題】
アメリカ社会を分断する「文化戦争」、その中核に人工中絶をめぐる問題があり、大統領選挙の行方にも大きく影響する・・・といった話は、これまでも再三取り上げてきました。

昨年6月にアメリカ連邦最高裁が、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェード判決」を覆し、その最高裁の判断を受け、中絶を全面禁止する州は13州に達しています。規制強化を狙う中絶反対派と中絶権利擁護派の対立は収まる気配がなく、2024年の大統領選で重要な争点になります。

****米有権者の約3割が人工妊娠中絶に対する立場で投票先を判断、世論調査****
米国調査会社のギャラップは6月21日、人工妊娠中絶は、支持する有権者にとって依然として重要な問題との調査結果を発表した。

2023年5月1~24日に実施した本調査によると、「人工妊娠中絶に関して自分と同じ立場をとる候補者にのみ投票する」と回答した有権者は、1992年の調査開始以降最高の28%となった。

「人工妊娠中絶に関して自分と同じ立場をとる候補者にのみ投票する」と回答した有権者を立場別でみると、人工妊娠中絶支持派が33%、反対派が23%で、支持派の方が人工妊娠中絶の問題を重視する傾向にある。(中略)

また、「人工妊娠中絶の問題は重要でない」と回答した有権者は、1992年の調査開始以降最低の14%となった。2015年は28%、2022年は16%と下降傾向が続いていた。

なお、「人工妊娠中絶に関する候補者の立場は多くの重要な要素の1つにすぎない」と回答した有権者は56%で、2019年の48%から上昇傾向にある。

ギャラップは調査結果の総括として、2022年6月24日に連邦最高裁判所が女性の人工妊娠中絶権を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」の破棄をきっかけに人工妊娠中絶の支持派が増え、投票の際に候補者の人工妊娠中絶に対する立場を重視するようになったと指摘している。

減少傾向にある人工妊娠中絶の反対派は以前ほどこの問題に熱心でなくなっており、有権者にとっては、現行法の維持よりも、人工妊娠中絶を認める法改正を望む気持ちの方が強いことがわかるとしている。

(注)共和党は623人、民主党は511人を対象に調査。【6月23日 吉田奈津絵氏 JETRO】
***********************

【争点化は民主党・バイデン大統領に有利に作用】
昨年12月に行われた中間選挙で、苦戦が予想されていた民主党が踏みとどまったのも、中絶支持派が民主党候補に投票したことが大きな要因とされています。

共和党支持層でも女性の場合、共和党サイドが進める過激な中絶禁止には難色を示す者が少なくなく、この問題が争点となることは中絶支持派の民主党・バイデン政権にとっては数少ない(唯一?)有利なポイントともいわれており、実際、11月初旬に行われた各州の住民投票・選挙でも、総じて中絶支持・民主党サイドが勝利しています。

****米オハイオ州でも中絶規制にNO 住民投票で擁護派の勝利続く****
米中西部オハイオ州で7日、人工妊娠中絶を選ぶ権利を明文化する州憲法改正の是非を問う住民投票があり、賛成多数で承認されることが確実となった。AP通信が報じた。

連邦最高裁が2022年6月に各州による中絶禁止を容認して以降、州単位の住民投票では中絶擁護派が勝利を続けており、保守色が強まるオハイオ州でも中絶規制強化への抵抗感が示された。

住民投票では、州憲法に「中絶を含む生殖医療を受ける個人の権利」を明文化する是非が問われた。米メディアによると、同州では妊娠22週までの中絶が合法だが、22年の最高裁判決後に一時「妊娠6週より後の中絶禁止」を定めた州法が発効。レイプや近親相姦(そうかん)による妊娠も例外としない極端な州法だった。

州裁判所の判断で州法の施行は差し止められているが、州最高裁で審理が続いており、中絶擁護派は「州憲法に中絶を選ぶ権利を明文化しなければ、州法施行を止められない」と訴えていた。

最高裁判決以降、22年に計6州で行われた住民投票では、いずれも中絶擁護派が勝利している。バイデン大統領は7日夜に声明を出し、「米国民は再び、基本的な自由を守るために投票した」とオハイオ州憲法改正を歓迎した。

今回の住民投票では、中絶を争点に据えた場合に民主党が有利になることも実証された。バイデン氏は再選を目指す24年大統領選で共和党のトランプ前大統領と再対決する可能性を念頭に、「オハイオの人々は、極端な中絶禁止を課そうとするMAGA(トランプ派)共和党の試みを拒絶した」と強調した。

20年大統領選ではバイデン氏が当選したが、オハイオ州ではトランプ氏が勝利。24年大統領選でも2大政党の候補による接戦が予想されている。【11月8日 毎日】
****************

****ケンタッキー州知事選で民主勝利 厳格な中絶規制の共和党及ばず****
来年11月の米大統領選に向けた前哨戦と位置付けられている南部ケンタッキー州知事選が7日投開票され、民主党の現職ビシア知事(45)の当選が確実になった。米主要メディアが報じた。人工妊娠中絶の是非が争点となり、厳格な中絶規制を支持する共和党の黒人キャメロン州司法長官(37)は及ばなかった。

バイデン民主党政権にとって追い風となり、キャメロン氏を推薦した共和党のトランプ前大統領には打撃となる。ビシア氏は中絶の権利を擁護し、竜巻や洪水などの災害対応で指導力を発揮したことを評価された。

中絶の権利を巡っては最高裁が昨年6月、中絶を憲法上の権利だと認めた1973年の判決を覆した。世論調査では米国民の多くが権利を尊重すべきだと回答しており、民主党陣営は今後も争点化を進めるとみられる。

ビシア氏はキャメロン氏について、レイプや近親相姦による妊娠を例外としない厳格な中絶規制を支持していたと指摘。「被害者より強姦犯に多くの権利を与えている。間違っている」と批判してきた。【11月8日 共同】
**********************

【共和党主導州で止まらない中絶禁止の流れ】
しかし、共和党が主導する州での中絶禁止の流れは止まっていません。

****米テキサス州最高裁、先天性疾患胎児の中絶認める地裁判断覆す****
米テキサス州で、妊娠中の胎児に先天性疾患が見つかったとする女性が、人工妊娠中絶の許可を求めて同州を相手取って起こした訴訟で、州の最高裁判所は11日、緊急中絶を認めるとした地方裁判所の判断を覆した。原告の代理人弁護士によると、女性は最高裁判断が出る数時間前に、中絶処置を受けるため同州を離れたという。

ダラス・フォートワース都市圏在住の2児の母、ケイト・コックスさんは妊娠20週目を過ぎている。胎児は染色体異常による先天性疾患「フルエドワーズ症候群」で、出産前に死亡する確率が高く、生まれても数日しか生きられないとされる。

医師らは、人工中絶処置を行わなければ、子宮摘出や命にかかわる危険があると判断。コックスさんは先週、中絶の許可を求めてテキサス州を提訴し、トラビス州地裁は中絶を認める判断を下していた。

しかし、これを受けてテキサス州のケン・パクストン司法長官が、直ちに州最高裁に上訴するとともに、コックスさんの中絶処置を行った医師を訴追すると警告していた。

コックスさんと夫、医師の代理として訴状を提出した「性と生殖に関する権利センター」のナンシー・ノーサップ代表は、コックスさんが他州に移ったことについて、「母体の健康が危険にさらされている。緊急治療室への出入りを繰り返してきた原告は、これ以上待てなかった。これが、裁判官や政治家が妊婦に関する判断を下してはならない理由だ。医師ではないのだ」と非難した。

一方、テキサス州最高裁の判事らは、本件は司法が介入すべき問題ではないとの所感を示し、今回の判断は、本件について医師が「合理的な医療的判断」に基づいて人命を救うために必要と判断した場合には中絶処置を禁じるものではなく、もし原告が(同州における中絶禁止の)例外に当たるのならば、「裁判所命令は必要ない」と述べた。

同権利センターの専属弁護士、モリー・デュアン氏は「もしテキサス州でコックスさんが中絶処置を受けられないなら、誰が受けられるのか。本件は、例外が機能せず、中絶禁止法がある州での妊娠は危険だということを証明している」と指摘した。

ノーサップ氏も、「コックスさんには州外に行く手立てがあったが、大半の人にはなく、こうした状況は死刑宣告になりかねない」と非難した。

米最高裁は2022年6月、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた判決を覆す判断を下した。
テキサス州は、レイプや近親姦(かん)による妊娠でも中絶を認めない厳格な中絶禁止法を施行。また中絶手術を受けた本人だけでなく、中絶に協力した人を市民が告発できる州法がある。

中絶手術を行った医師に対しては、99年以下の禁錮と10万ドル(約1500万円)以下の罰金が科された上、医師免許が剥奪される可能性がある。 【12月12日 AFP】
*******************

レイプによる妊娠でも、母体に危険があっても中絶は認めない・・・政策というより、「信仰」の問題のようにも見えます。

“テキサス州最高裁の判事らは、本件は司法が介入すべき問題ではないとの所感を示し、今回の判断は、本件について医師が「合理的な医療的判断」に基づいて人命を救うために必要と判断した場合には中絶処置を禁じるものではなく、もし原告が(同州における中絶禁止の)例外に当たるのならば、「裁判所命令は必要ない」と述べた。”・・・・いささか詭弁の類でしょう。

実際に医師が「合理的な医療的判断」に基づいて人命を救うために必要と判断して中絶したら、当局から中絶禁止の例外には相当しないと訴えられ、高額罰金・医師免許剥奪ともなり、どの医師もそんなリスクをおかして中絶手術はしないでしょう。

禁止州以外での手術も現実には困難がつきまといます。

********************
州外での中絶は、医療費に加えて交通費や宿泊費、子どもがいる場合は育児費など、多額の費用がかかる。

また、支援団体や中絶手術が合法である州の医療機関には、州外からの患者が次々に押し寄せている状態だ。

中絶の権利を擁護する団体「プランド・ペアレントフッド」ロッキー山脈支部のエイドリアン・マンサネレスCEOは、2023年6月のハフポストUS版の取材で「1年で50%も増加しました」と語っている。

また、同団体セントルイス地域と南西ミズーリの医療責任者であるコリーン・マクニコラス医師は「妊娠中絶のインフラはすでに脆弱であり、利用できるクリニックはますます少なくなっています」と述べている。【12月12日 HUFFPOST】
******************

【最高裁 来年6月に中絶薬の流通規制について判断】
中絶手術が難しいなら中絶薬(日本では最近、薬局購入の試験運用がスタート)で・・・ということで、中絶薬への需要が増えていますが、ここにも規制の波が。

****米最高裁 中絶薬の規制を審理 来年7月までに判断の見通し****
アメリカ連邦最高裁は、薬で人工妊娠中絶を行う経口中絶薬の流通規制について審理すると決定しました。中絶を巡る議論は来年の大統領選挙の大きな争点です。

連邦最高裁が審理するのは、アメリカ国内で2000年に保健当局が承認した経口中絶薬、「ミフェプリストン」の流通規制です。

ミフェプリストンを巡っては連邦控訴裁が8月、処方の条件として医師との対面での診察を義務付け、郵送を禁じる判断を下したことに司法省が反発し、最高裁での審理を求めていました。

CNNは来年7月までに最高裁の判断が下される見通しだと伝えています。

連邦最高裁の判事9人のうち、6人が中絶に反対する保守派で、去年6月には「中絶は憲法で認められた女性の権利だ」とする従来の判断を覆したことで、クリニックなどが相次いで閉鎖していて、経口中絶薬の需要が高まっています。

ホワイトハウスは声明で、「全米で女性の自由に対する前例のない攻撃が起きている」と述べ、懸念を示しました。

来年11月に迫る大統領選挙で中絶問題は、結果を左右する大きな争点なだけに最高裁の判断に注目が集まります。【12月14日 テレ朝news】
*********************

常識的に考えると、最高裁判事の構成からして郵送禁止などの厳しい判断が示されることになるようにも思えます。
ただ、「選挙」という点では、11月の大統領選挙前に最高裁の厳しい判断が示されと、批判の高まりで「争点」化するかも。 非常に本末転倒の議論ですが。

【中絶禁止で出産数は増加】
なお、昨年の最高裁判断を受けて中絶禁止州が増えたことで、出生数が増加したとも。

****中絶禁止広まる米国、年間出生数が3万2000人増****
米国で、人工妊娠中絶が憲法上の権利として認められなくなって以降、年間出生数が約3万2000人増えたことを示す分析結果が公表された。 

米最高裁判所は2022年6月、中絶を憲法で保障された権利として認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆した。これを受け、多くの州で中絶が非合法化された。 

米ジョージア工科大学、米ミドルベリー大学、ドイツの労働経済研究所(IZA)の研究チームは、2023年1~6月のデータを分析した報告書を発表。

それによると、中絶が禁止された州では、中絶が引き続き合法な州と比較し、出生数が平均2.3%増加していた。(ただし、テキサス州はロー対ウェイド判決が覆される前に中絶を事実上禁止していたため、今回の分析では除外された) 

年齢別では、20~24歳の女性が最も影響を受け、出生数は3.3%増加。25~29歳は2.8%増、30~44歳は2%増だった。人種別では、ヒスパニック系女性が4.7%増、白人女性が3%増、黒人女性が3.8%増だった。 

(中略) 米疾病対策センター(CDC)が22日に発表した別の報告書によると、米国では最高裁による判決前の2021年、中絶が増加傾向にあった。中絶の報告件数は前年比5%増の62万2108件で、15~44歳の女性1000人当たり11.6件だった。

ただし、カリフォルニア、メリーランド、ニューハンプシャー、ニュージャージーの各州はCDCに中絶件数を報告していないため、このデータは不完全なものとなっている。【11月24日 Forbes】
**********************

どこまで正確な統計分析か、本当に中絶禁止の影響なのか・・・そこらは慎重になるべきですか、いずれにしても「結果」であり、出生数への影響からこの問題を議論するのも本末転倒。
問題は望まれる出産だたったのか、出産の結果、母子は幸せになったのか・・・ということでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イスラエル・ネタニヤフ首相と米・バイデン政権の溝が鮮明に

2023-12-13 23:32:46 | パレスチナ

(ガザ地区南部ラファは12日にかけて夜通し空爆に見舞われた。画像は破壊された家屋を見つめるパレスチナ人(12日、ラファ)【12月13日 BBC】 
また、イスラエル軍は、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区のジェニンで、「対テロ」作戦を開始したと発表しています。 更に、ガザ地区ではトンネルへの海水注入も ネタニヤフ首相には攻撃の手を緩める兆しはありません。)

【国連総会「人道目的の即時停戦」を求める決議 イスラエル・アメリカの孤立化】
国連安全保障理事会は12月8日、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの紛争について、人道的な即時停戦を求める決議案を採決しまたが、アメリカが拒否権を行使し否決されました。

これを受けて、今度は国連総会の場で、改めて「人道目的の即時停戦」を求める決議がなされました。

****ガザ停戦決議に153カ国賛成=米・イスラエル孤立鮮明―国連総会****
国連総会は12日、イスラエルが侵攻するパレスチナ自治区ガザに関する緊急特別会合を開き、「人道目的の即時停戦」を求める決議を日仏中ロなど153カ国の圧倒的賛成多数で採択した。

反対はイスラエルや米国など10カ国だけで、ガザ情勢を巡る両国の国際的孤立が鮮明となった。英独伊など23カ国は棄権した。

総会決議に法的拘束力はないが、ガザの人道危機が長期化する中、国際社会の総意として軍事作戦を続けるイスラエルとその後ろ盾の米国に停戦を強く訴えた形だ。パレスチナのマンスール国連大使は「総会が力強いメッセージを発した歴史的な日だ」と採択を歓迎した。

決議は中東・イスラム諸国を代表してエジプトが提出した。停戦に加え、民間人の保護やガザで拘束されている全ての人質の即時解放を要求している。イスラエルと交戦するイスラム組織ハマスには言及していない。【12月13日 時事】 
******************

この動きは、いくつかの重要なポイントを意味しています。
ひとつは、国連、特に安保理が大国の対立・拒否権によってウクライナでも、パレスチナでも有効な対応ができないという以前からの問題。

二つ目は、アメリカがイスラエル支持という基本姿勢を崩していないということ。

そして三つ目は、国際社会のイスラエルに対する視線は厳しさを増しており、イスラエル及びそれを支持するアメリカの立場は孤立化の流れにあること。

10月27日に国連総会が「人道的休戦」を求める決議を採択した際には121カ国が賛成しました。その後ガザ地区での惨状が大きく報じられる状況で、前回は棄権したフィンランドやアルバニアなど欧州の多くの国が賛成に回り、日本やカナダも賛成に転じました。

【バイデン政権支持基盤でもイスラエル批判強まる】
アメリカの基本姿勢は、ユダヤ人社会の政治への大きな影響力もあって従来からイスラエル支持であり、国内世論も全体してはイスラエル支持が過半を占めています。

****米国民55%イスラエル支持 有力紙調査、党派別で差****
米有力紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は11日、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザでの作戦を米国民の55%が支持しているとの世論調査結果を発表した。

イスラエルの対応が過剰だと考えるのは25%。民主党と共和党の支持層で回答に大きな差があり、来年の大統領選で主要な論点の一つになる可能性がある。

停戦を求める国際世論が高まり、米国内では若者を中心に作戦への抗議デモが起きているが、全体的には依然としてイスラエル寄りである実態が浮き彫りとなった。

調査は11月29日〜12月4日、有権者1500人に実施した。【12月12日 共同】
*******************

しかし、“ギャラップ社が11月1~21日に実施した世論調査によると、民主党員の63%がガザ地区でのイスラエルの軍事行動を支持しないと回答した。また、民主党員で35歳未満の67%、有色人種の64%が不支持を表明している。”【12月12日 NRI】というように、バイデン政権の支持基盤の民主党支持層、特に若い世代や非白人においてイスラエルへの批判的見方が強まっており、このままではただでさえ苦戦予想の次期大統領選挙にも影響してきます。

国際社会においても、国連総会決議に日本・欧州諸国を含めて賛成153か国に増加し、反対は10か国のみということで、その差は歴然としています。こうした状況を利用して中国・ロシアがアメリカの国際的影響力を削ぐ働きかけを強めています。

【米 イスラエル・ネタニヤフ首相に自制を求め、「2国家共存」を目指す姿勢を強める】
上記のような国内・国際状況を踏まえれば、バイデン政権としては、表向きのイスラエル支持は変えないものの、なるべく早期にパレスチナ情勢を収拾すべく、ネタニヤフ首相には自制を強く求める・・・というのが本音でしょう。

バイデン大統領、政権高官の発言も、当初の「イスラエルの自衛権の支持」から、「イスラエルに対し、ガザの民間人の保護を求めてより公に圧力をかけること」に重心が移りつつあります。

更に、紛争終結後はガザ地区を含めたパレスチナ統治を自治政府に委ねる「2国家共存」を改めて前面に出すようになっています。

そのあたりが明確になってきたのが11月に中東・イスラエルを訪問したブリンケン長官の発言です。

****米国務長官、イスラエル首相と会談 民間人保護の具体的措置を検討****
ブリンケン米国務長官は3日、訪問先のイスラエル中部テルアビブでネタニヤフ首相と会談した。イスラエルがイスラム組織ハマスが支配するパレスチナ自治区ガザ地区への攻勢を強めるなか、戦時下での民間人保護やハマスが拉致した人質の解放に向けた取り組みなどについて協議した。

ブリンケン氏は2日に米国を出発する際、記者団に対し、民間人の犠牲を最小限に抑えるための「具体的な措置」についてネタニヤフ氏らと検討すると説明した。イスラエル軍のガザ地区への地上作戦の激化により民間人の死傷者が拡大していることから、イスラエルの「自衛権」行使に理解を示しながらも国際法の順守を改めて促した。

ブリンケン氏は記者団に「民主主義国家は民間人を守るためにあらゆることをする責任がある」と強調。ハマスが民間人を「人間の盾」にしていることから、民間人保護が「非常に困難になっている」と説明した。

ネタニヤフ氏との会談では、ガザ地区への人道支援の拡大や、パレスチナ国家の樹立を前提としたイスラエルとの「2国家共存」の重要性も訴えた。(後略)【11月3日 毎日】
*********************

****紛争後のガザはパレスチナが統治を、ブリンケン米国務長官が見解****
ブリンケン米国務長官は8日、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が終わり次第、パレスチナ自治区ガザはパレスチナが統治すべきだと述べ、イスラエルが無期限に治安維持の責任を負うというネタニヤフ首相の考えに否定的な見解を示した。

ハマスの戦闘員がイスラエルに奇襲をかけ1400人を殺害してから1カ月が経過し、米政府はイスラエルやアラブの指導者たちとの間で、ハマスが支配しないガザの将来について話し合いを始めている。

まだ具体的な計画は出てきていないが、ブリンケン氏は8日、この問題に関してこれまでで最も包括的なコメントを発表した。

東京での記者会見では「紛争終結後のガザ再占領はない。ガザの封鎖・包囲や、ガザの領土縮小もない」と表明。紛争終結時には「ある程度の移行期間」が必要かもしれないが、危機後のガザの統治にはパレスチナの声が含まれるべきだと述べた。

ネタニヤフ首相は6日、ABCニュースのインタビューで、戦闘終了後に誰がガザを統治すべきかとの問いに「イスラエルが無期限で治安全般の責任を担う。われわれが治安の責任を担わなければ何が起こるか見てきたからだ」と応じた。【11月9日 ロイター】
**********************

【鮮明になってきたネタニヤフ首相と米・バイデン政権の溝】
こうしたアメリカの姿勢の変化は、イスラエル、特にネタニヤフ首相とは一致していません。

そうしたアメリカとイスラエルの溝(あるいは、バイデン政権の強硬策を続けるネタニヤフ首相への苛立ち)を報じる記事が、今日は目立ちました。

バイデン大統領はネタニヤフ首相に対し「無差別爆撃によって、その支持を失い始めている」と警告。

****「無差別爆撃」は国際社会の支持失う バイデン氏、イスラエルに警告****
ジョー・バイデン米大統領は12日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対し、同国はパレスチナ自治区ガザ地区への「無差別爆撃」によって、イスラム組織ハマス掃討作戦への国際社会の支持を失う恐れがあると警告した。

バイデン氏は首都ワシントンで開かれた集会で、イスラエルは10月7日のハマスによる奇襲攻撃後、「世界中の大半から支持」されたが、「無差別爆撃によって、その支持を失い始めている」と述べた。

ネタニヤフ氏に第2次世界大戦で連合国がドイツを「じゅうたん爆撃」し、日本に原爆を投下したことを引き合いに出されたが、戦後、「同じことが繰り返されないように」国際機関が設立されたのだと説明し、2001年9月11日に起きた米同時多発攻撃の後、米国は「過ち」を犯したと繰り返し伝えたという。

バイデン氏はネタニヤフ氏について、自身が率いる対パレスチナ強硬派による右派連立政権に関して「厳しい決断」を迫られていると指摘。「彼は良い友人だが、政権と共に変わらなければならないと思う。この政権のせいで、彼は身動きが取れなくなっている」と述べた。

ネタニヤフ政権については、「イスラエル史上最も保守的」で、イスラエルとパレスチナが共存する「2国家解決」を望んでいないとの認識を示した。

バイデン氏の発言は、ハマス掃討後のガザの統治をめぐるイスラエルと米国の溝の広がりを浮き彫りにしている。米政府は、パレスチナ自治政府がガザを統治すべきだと訴えているが、イスラエルでは冷ややかに受け止められている。

ネタニヤフ氏は12日のバイデン氏との協議後、ハマス掃討後のガザの統治の在り方について、米国との間に「見解の相違」があると述べた。

「合意に達する」ことを願うとした上で、1993年にパレスチナの暫定自治を認めたイスラエルとパレスチナ解放機構とのパレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)に言及し、「オスロ合意の過ちは繰り返さない」と明言した。 【12月13日 AFP】
********************

ネタニヤフ首相「オスロ合意の過ち」・・・・ネタニヤフ首相が何を指しているかは言及していません。おそらくハマスのテロにイスラエルの安全が脅かされているということを言いたいのでしょう。

バイデン大統領「この政権のせいで、彼は身動きが取れなくなっている」・・・・「最も右寄りの政権」と評される現在のネタニヤフ政権に対し、極右閣僚の交代を求めているといえます。
かなり厳しい要求です。

ネタニヤフ首相の強硬姿勢は変わっていません。かねてより議論のあったトンネルへの海水注入も開始。

****イスラエル軍、ガザのトンネルに海水注入=ハマス壊滅作戦、効果に疑問も****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は12日、米当局者の話として、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザの地下に張り巡らされているイスラム組織ハマスのトンネル網に海水の注入を始めたと伝えた。

ハマス戦闘員らが隠れる地下トンネルの攻略にてこずる中、水を使って地上へ追い出し、ハマス壊滅を急ぐ狙いだ。ただ、バイデン米政権内には効果を疑問視する声もあるという。

同紙によると、イスラエルは11月に地中海から水をくみ上げるポンプを設置。海水注入は初期段階で、今後数週間に及ぶ可能性がある。【12月13日 時事】 
*******************

どれだけ実効性があるのか? 中にいる人質はどうなるのか?

実効性というより、あくまでもハマス壊滅を目指すという国内外への政治的メッセージの意味合いが強いとの指摘もあります。

ただ、「人質が犠牲になっても止むを得ない」という姿勢は、人質救出を求めるイスラエル国内世論の批判を強めるかも。 いまもガザ地区で拘束されている人質135人のうち19人の死亡を確認したと、ロイター通信が報じています。

(ネタニヤフ首相は拒否しているものの)ポスト・ハマスの青写真としてアメリカ側が改めて強調している「2国家共存(解決)」へのステップ、そのハードル、それでも他に方法はない・・・等については話が長くなりますので、また別の機会に。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

台湾  気掛かりな台湾軍と中国の関係 中国との距離を左右する総統選 議会選は与党苦戦予測も

2023-12-12 23:17:14 | 東アジア

(【12月9日 TBS NEWS DIG】 台湾総統選へむけて中国が取引に「政治的圧力」をかける台湾の果物「釈迦頭」)

【台湾陸軍中佐の中国への亡命計画発覚で改めて想起される台湾軍と中国の関係】
台湾陸軍中佐の中国への亡命計画発覚の話題・・・ヘリで中国空母に着艦という派手な方法ですが、中台間は往来がありますので亡命しようと思えばいくらでも簡単に亡命できると思うのですが・・・・よくわかりません。中国側は指定したヘリコプターが欲しかったのでしょうか?

****台湾陸軍中佐、中国への“亡命計画”…当局が拘束 約22億円の報酬など見返り****
台湾陸軍の中佐が約22億円の報酬などの見返りに、中国軍の空母にヘリコプターで着艦し、亡命しようとしたとして、台湾当局に拘束されていたことがわかりました。

台湾メディアによりますと、台湾陸軍の中佐は中国のスパイの男と知り合い、タイで中国側の当局者と面会した際、亡命の計画を持ちかけられたということです。

計画は今年6月、台湾軍のヘリコプターを操縦し、演習のため台湾海峡を航行する中国軍の空母「山東」に着艦し、亡命するというものでした。操縦するヘリコプターは大型の輸送用を指定され、見返りとして約22億円の報酬と、中佐の家族にタイのビザを提供することなどが約束されたということです。計画は事前に明らかになり、中佐は台湾当局に拘束されました。

台湾国防部は、「中国による潜入工作の手段と方法が多元化しており、台湾軍は全面的に安全措置を強化する」とコメントしています。【12月12日 日テレNEWS】
********************

台湾軍と中国の間の不祥事は他にもあるようです。

****台湾軍の兵士らが中国軍と“共謀”の事件相次ぎ台湾の国防部長が捜査中と認める****
台湾軍の兵士らが中国軍と共謀し、スパイ行為に加担したとされる事件が相次ぎ、台湾国防部長も捜査中であると認めました。

台湾メディアによりますと、陸軍の現役兵士が中国側から20億円以上の報酬を提示され、軍のヘリコプターを操縦して中国に亡命する計画が内部告発されました。

さらに台湾軍の幹部を養成する国防大学の教授が自身が経営する会社を通して中国軍に機密情報を漏らしていた疑いがあるとして拘束されました。

台湾・立法院で一連の事件について問われた国防部長は教授や兵士は当局に拘束されたことを認め、「重大事件と受け止め絶対に見逃さないように対処する」としています。【テレ朝news】
*******************

こういう状況から思い出すのは、3月5日ブログ“台湾 軍幹部の9割ほどは退役後中国に渡る 中国への情報提供が常態化・・・との日本メディア報道も”でも取り上げた日経記事。

台湾軍人の多くが退役後は中国関連のビジネスをしており、「軍幹部の9割ほどは退役後に中国に渡る」という台湾軍の中国とズブズブの関係をスクープした記事です。

****「それでも中国が好きだ」 台湾軍に潜む死角****
台湾、知られざる素顔① ルポ迫真
「おかげで中国での商売が駄目になった。レストランは閉め、台湾に帰って出直しだ」
台湾人の50代男性、鄭宗賢(仮名)は最近まで中国に脅されていた。2010年代、台湾軍で幹部を務めた鄭。退役後は「軍幹部OBのお決まりのルート」(軍関係者)に乗り、中国で商売を得た。台湾軍の情報を中国側に提供できるうちは商売は順調だった。

だが次第に行き詰まる。軍を離れ、中国に提供できる情報が減ったからだ。同じ台湾軍に入隊した息子に情報を頼ったが、息子は応じなかった。

「用無し」となった鄭に、中国は容赦しない。レストランは当局の嫌がらせで閉鎖に追い込まれた。だが鄭は「それでも中国が好きだ。恨みはない」と振り返る。

台湾統一を掲げる中国が実際に軍事侵攻したら――。向き合う台湾軍の事情は複雑だ。
もともと中国がルーツ。49年、国民党軍は共産党軍に敗れ、台湾に逃れた。中国大陸の奪還を誓ったが、夢に終わる。国民党軍は結局、台湾を守る「台湾軍」として衣替えを余儀なくされた。

その屈辱が軍内に強く残る。「我々こそ中国だと、今なお台湾独立に反対する教育が軍内で盛んだ」(軍事専門家)
17万人を抱える台湾軍では将校などの幹部も依然、中国人を親などに持つ中国ルーツの「外省人」が牛耳る旧習が続く。歴代国防部長(大臣)も外省人がほぼ独占する。

「そんな軍が有事で中国と戦えるはずがない。軍幹部の9割ほどは退役後、中国に渡る。軍の情報提供を見返りに金稼ぎし、腐敗が常態化している」(関係者)。鄭もそんな一人だった。

1月初旬。台湾高等検察署(高検)高雄分署は台湾軍の機密情報を中国側に漏らしたとして、元上校(大佐)と現役将校の計4人を拘束した。

2週間後には元立法委員(国会議員)の羅志明と海軍元少将が、台湾高雄地方検察署(地検)に取り調べを受けたことが判明。中国の統一工作などに便宜を図ったとされた。2021年には国防部ナンバー3の副部長(国防次官)の張哲平まで捜査対象となった。

「いまだに中国に協力するスパイが軍に多いことが台湾最大の問題だ」。ある陸軍OBはこう明かす。米国が長年、台湾への武器売却や支援に慎重だったのも中国への情報流出を恐れたためだ。

「私は今日、台湾軍がいかに優れているかを台湾の人にも見せたく、ここに来ました。台湾のみなさん、安心ください」
軍による中国への情報漏洩発覚が続いたさなかの1月13日。総統の蔡英文(ツァイ・インウェン)は、軍事基地がある北部・新竹を視察し、報道陣を前に軍を持ち上げた。

「新たな軍をつくろう」。7年前。蔡は就任早々、軍改革を訴えた。中国の圧力が強まるなかメスを入れなければ、いずれ台湾のアキレス腱(けん)になると踏んだ。この1年間で30回近く軍の現場に足を運んだ。寄り添う姿勢をアピールしたが「軍は終始、中国に強硬な蔡の改革案に抵抗し続けた」(専門家)。蔡は軍を掌握できていない。(後略)【2月28日 日経】
****************

この記事に台湾軍関係者は激怒。日経に対する嫌がらせも。

****日経報道「台湾軍OBの多くが中国に情報提供」に台湾軍関係者ら“激怒”****
日本経済新聞が2月28日付で発表した記事「『それでも中国が好きだ』 台湾軍に潜む死角 台湾、知られざる素顔(1)」に、台湾軍関係者が激怒した。(中略)

日本経済新聞台北市局では、入り口に「正体不明の液体」が撒(ま)かれた。ネットには、「(自分が)抗議のために尿を撒いた」とする投稿が寄せられた。

台湾で退役軍人関連の行政を所管する国軍退除役官兵輔導委員会の馮世寛主任委員は2日、(中略)「でたらめだ」と述べた。

台湾メディアの自由時報は、この時の馮主任委員の様子を「(日本メディアによる)汚い言い方に対して、怒りをもって『でたらめだ』と吐き捨てた」と紹介した。馮主任委員は、さらに露骨なスラングを使って日経新聞記事を罵倒したという。(中略)

中華民国国防部(台湾国防省)は1日夜、日本経済新聞の記事について「この度の報道については根拠がなく、事実関係も検証していない。これは、(台湾)国軍軍人の士気を損なうものであり、部隊の団結を分断し、いたずらに味方を傷つけ敵を喜ばせるだけであり、台湾海峡およびインド太平洋地域の平和と安定にプラスにならない」などと表明した。

台湾国防省はさらに、「スパイ事件についてはパターンを分析しており、関連する予防策をすでに策定している」、「近年ではスパイ検挙事例のほとんどが、将校や兵士が自発的に検挙したものであり、敵の浸透に対する国軍の阻止対策が草の根レベルで根付き、効果を発揮していることが明らかになっている」と紹介した。(後略)【3月4日 レコードチャイナ】
*******************

今回の台湾陸軍中佐亡命計画発覚で、日経は「我々の報道が正しかった」と言うのかと思っていましたが、そういうこともないようです。台湾軍との軋轢をあまり蒸し返したくないのでしょうか。

【総統選挙 野党候補一本化失敗で与党有利? 国民党追い上げの報道も】
その台湾と中国との距離を左右するのが来年1月13日に行われる台湾総統選挙。
周知のように、比較的中国に近い野党側は中国の要請もあるとされる候補者一本化を試みましたが、土壇場で破綻するという結果に。

このため総統選挙は中国と距離を置く与党側有利・・・と言われています。

****野党共闘不発で台湾総統選への中国関与は強まるか****
(中略)
来年1月13日の総統選挙を控えて、台湾の政治状況は大きく揺れ動いている。なかでも、野党・国民党と民衆党の候補者「一本化」が出来るかどうかが、大きな注目点であった。

国民党・候友宜(前新北市市長)と民衆党・柯文哲(前台北市市長)の間で「一本化」のための交渉が行われたが、届け出日までに結局、交渉は成立しなかった。

他方、与党・民進党からの候補者は頼清徳(蔡英文政権の現副総統)であり、これから三者の間で、三つどもえの選挙戦が行われることとなる。11月24日の締切日までに野党の「一本化」が出来なかったことから、これから与党民進党・頼清徳にとって有利な展開になるのではないかとの見方が強まりつつある。

(中略)国民党と民衆党との間で、いずれを野党共闘の主人公とするかについて結論が出せなかった段階で、元総統(国民党)であった馬英九を入れて協議が行われた。

馬はこの時の協議の「仲介者」という立場であり、国民党の侯友宜により近い立場で、この「一本化」のための仲介を行ったものと考えられる。この馬の仲介の結果、侯友宜と柯文哲の間の妥協が成立したかに見えた。

しかし、この協議の結果に民衆党の支持者から異論が続出し、柯自身も「自分はもともと蚊やゴキブリや国民党は好きではない」と言っていたこともあり、この協議はご破算になったという。

中国が選挙動静に牽制
目下の段階での複数の世論調査の結果をみれば、総統候補として頼清徳を挙げるものは、30数%、侯友宜20%、柯文哲20%となっている。また、頼清徳は自らの副総統候補として最近まで駐米台湾協会(AIT)代表であった蕭美琴を指名した。

その他、無所属の出馬に必要な署名を集めた台湾の大手企業・鴻海精密工業の創業者・郭台銘は不出馬を発表した。支持率の低迷以外に、中国当局が鴻海の現地企業を税務調査し、圧力をかけたことも、同人不出馬の背景にあるのではないかとの憶測が流れていることは注視に値する。

中国で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室は11月24日、台湾野党が総統選候補の一本化に失敗したことを受けて、「台湾は平和か戦争か、繁栄か衰退かという選択を迫られている」とする報道官コメントを出し、民進党政権の継続を牽制した。

他方、民進党の頼清徳は談話の中で「台湾を引き続き安定した道に乗せ、国際社会の中に入っていく」とし、「一つの中国という古い道に後戻りしない」として、蔡英文下の現状維持路線を踏襲するとの決意を述べている。【12月12日 WEDGE】
**********************

もっとも、ここにきて国民党・侯友宜氏が追い上げているとの報道も。

****台湾、最大野党結束で追い上げ 総統選へ1カ月、接戦も****
来年1月13日の台湾総統選まで1カ月。与党、民主進歩党(民進党)の頼清徳副総統(64)がリードするが、対中融和路線の最大野党、国民党の侯友宜・新北市長(66)が党内を固めて急速に追い上げ、接戦となる可能性が出てきた。同時実施の立法委員(国会議員)選で民進党が過半数を確保できるかどうかも焦点だ。

最重要争点は対中姿勢。頼氏は今月10日、中国との対話を重視する侯氏と第2野党、台湾民衆党の柯文哲・前台北市長(64)のいずれも中国が求める「一つの中国」を主張していると批判。「中国に取り込まれ、世界(の支持)を失うことがあってはならない」と訴えた。【12月12日 共同】
*****************

国民党の侯友宜氏の追い上げ理由については、上記記事では“党内を固めて”とだけしかなく、よくわかりません。
中国の影響という指摘も。

****侯友宜氏の支持率が上昇****
飯田)ここへきて柯文哲氏の支持率が「グン」と落ち、侯友宜氏の支持率が上がってきています。
青山(作家で自由民主党・参議院議員の青山繁晴氏))もちろん中国の影響です。
飯田)やはりその部分があるのですね。
青山)「負けたと見せかけて」ということではありませんが、民進党の頼清徳さんの人気が盛り上がらないのを、中国は利用しているのだと思います。侯友宜さんにお会いしたことがありますが、とても人柄のいい人です。しかし、あえて言うと警察出身であり、どこか地方の警察署長のような感じなのです。少し無理があるのではないでしょうか。【12月12日 ニッポン放送NEWS ONLINE “習近平国家主席の「影響力の衰え」を表す台湾総統選の状況”】
*****************

もっとも、上記の青山氏の発言も具体的な“中国の影響”については語っていません。

中国としても、露骨な方法では台湾世論の神経を逆撫でして逆効果になりますので、慎重に、かつ、中国の存在を意識させる形で・・・と難しいところ。

一番効果的なのは、貿易関係でしょう。

****台湾総統選へむけ「政治的圧力」か 中国政府 国民党地盤の果物の輸入業者を大幅増****
中国政府は、台湾産の果物「釈迦頭」について、輸入業者を大幅に増やすと発表しました。「釈迦頭」の産地は野党、国民党の地盤で、来年1月の総統選を前に国民党を支持すれば経済的利益があるとアピールする狙いがあるものとみられます。

中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室は8日、台湾産の果物「釈迦頭」について、およそ1300の業者に対し、中国への輸入を認めると発表しました。

「釈迦頭」をめぐってはおととし9月、「害虫が検出された」として突如、中国への輸入が禁止になりましたが、今月から再開されていました。

今回の措置について台湾事務弁公室の報道官は、「台湾独立に反対し、中国の検査基準に従っている限り、農水産物の輸入再開を支持する」と説明しています。

「釈迦頭」の生産が盛んな台湾南東部の台東県は、中国に対し融和的な政策をとる野党・国民党の地盤で、今回の措置の背景には、国民党を支持すれば経済的利益があるとアピールすることで、与党・民進党を揺さぶり、政治的圧力をかける狙いがあるものとみられます。【12月9日 TBS NEWS DIG】
******************

【与党苦戦が予想されている立法委員(国会議員)選 長期政権の腐敗か】
総統選挙での国民党の追い上げや中国の画策についてはよくわかりませんが、もともと同時に行われる立法委員(国会議員)選では与党側の苦戦が予想されていました。

理由のひとつは、与党側に相次ぐ不祥事・汚職にあるようです。

****台湾の異変、崩れる民進党の支持基盤 少数与党転落も****
「みんなで政権交代を成し遂げよう。立法委員(国会議員)選で過半数の議席を獲得するぞ!」
10月28日夜。台湾南部、高雄市の中心部にある繁華街。最大野党・国民党の所属で、同市6区から出馬する陳美雅氏がマイクを握り、こぶしを振り上げると、集まった数万人の支持者らが一斉に歓声をあげた。かつてなら見られない光景が今、ここ高雄に広がる。

この地は与党・民主進歩党(民進党)が全8議席を独占する地盤。1979年、国民党政権が民主派勢力を弾圧した「美麗島事件」を契機に全土に民主化運動が広がり、民進党結党の原点ともなった伝統の支持基盤だ。

だが10月、高雄選出の民進党議員と中国人女性の醜聞がメディアに報じられると、地元で怒りの声が収まらなくなった。

同議員は、中国が軍事的威嚇を強めるなか、安全保障問題の専門家として名をはせていた。それだけに「台湾の機密情報が女性経由で中国に流れた可能性がある。民進党に裏切られた思いだ」。高雄で暮らす60歳の男性もそう声を震わせた。

民進党は急ぎ、幹部会議を開催。総統選に立候補する党主席の頼清徳副総統を先頭に対応に追われ、同議員の次期立法委員選挙への出馬禁止を決めた。代わって後継候補に立てたのが1993年生まれの「アイドル」市議、黄捷氏。蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と頼氏自らも慌てて高雄入り。応援演説に回る姿はむしろ、有権者に「追い込まれている」と印象づけるドタバタぶりとも言えた。

「違法に私腹を肥やすのか?」
台湾東部・宜蘭県の中心部にそびえるビル。その壁一面には、与党・民進党候補者が農地に自宅を建てる「農地転用」をしていたとの疑惑を追及する看板が、今でも堂々と掲げられている。

宜蘭県の選挙区では12年間、民進党が議席を守り続けてきた。だが5月、同党の現職議員に汚職の疑いが浮上。24年の立候補を取りやめる騒ぎが起きたばかり。ここ宜蘭にも不穏な空気が漂う。

ある大手企業の経営幹部は「民進党は長年、政権を預かってきたことでかなりの気の緩みがある」と指摘。高雄の化学メーカーに勤める34歳の男性も「蔡氏率いる民進党政権の8年間で、北部と南部の経済格差は縮まらず、若者の生活は日に日に苦しくなった。もう政権交代すべき時だ」と、いら立ちを隠さない。

台湾の立法院(国会)は一院制で113議席。そのうち民進党は現在、62議席を占め、単独で過半数を維持する。だからこそ、この8年間にわたる蔡政権では、中国に対抗し、思うような政権のかじ取りができた。だが今回の選挙で仮に6議席を失えば頼氏が総統選で勝っても、少数与党に転落する可能性は十分ある。

国家政策研究基金会で、国民党の選挙参謀役を務める柯志恩執行長は「民進党関係者による腐敗や汚職を巡る疑惑が今、絶えない。国民党が政権を奪取したら直ちに特別調査チームを組み、疑惑を正す」と息巻く。

国民党による長期独裁政権で腐敗も進んだ台湾では、00年に初めて陳水扁元総統による民進党政権が誕生し、初の政権交代を成し遂げた。そこから2期8年ごと、民進党と国民党が交互に入れ替わり政権を担ってきたのが台湾政治の歴史だ。

その順番に沿えば24年、8年ぶりに国民党が政権を奪取してもおかしくはない。大勝負まで残り1カ月。与党・民進党に残された時間は少ない。【12月12日 日経】
********************

やはり「長期政権は腐敗する」ということのようです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする