孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  兵士投降など劣勢が報じられる国軍 中国は国境での軍事演習やヤンゴンへの艦船入港

2023-12-11 23:17:01 | ミャンマー

(ミャンマーの紛争地図:独立系メディア出典【12月11日 Newsweek】 赤色が濃いほど戦闘が激しい地域です)

【「劣勢」が伝えられる国軍 「対話」の呼び掛けも】
国軍支配の軍事政権に対する少数民族武装勢力の攻勢が拡大しているミャンマーの状況については、11月25日ブログ“ミャンマー  拡大する少数民族武装勢力の攻勢 注目される中国の動向”でも取り上げたところで、その後も情勢は大きくは変わっていません。

ただ、衝突が起きている地域での国軍側の「劣勢」を報じる記事が増えています。
国軍からは「投降」が相次いでおり、兵士不足にもなっているようで、国軍は脱走兵とその家族に対し、「脱走兵で復帰を希望する者は、近隣の基地で再び軍務に就くことができる」と異例の軍務復帰を呼びかける事態にもなっています。

本来は最大20年の禁錮刑が科される脱走に関して、国軍は脱走の罪や、脱走後に犯した軽犯罪は問わない姿勢を示しています。それだけ状況が苦しいのでしょう。

国軍の兵力低下は今に始まったものでもなく、米シンクタンク「米国平和研究所」は5月、クーデター後の民主派勢力などとの武力衝突で、1万3千人が死傷し、8千人が脱走したと、また、かつて30万~40万人とされた国軍兵は半分程度にとどまると分析しています。

国軍に抵抗を続ける民主派の「統一政府(NUG)」は11月30日の声明で、約3年間で国軍兵士や警察官が計1万4千人脱走し、NUGが保護していると主張しています。

戦闘で劣勢にも立たされている国軍は、これまでの強硬路線から、対話を呼び掛ける姿勢に変化を見せています。

****ミャンマー軍トップが一転対話呼びかけ「政治的解決が必要」 抵抗勢力の一斉攻撃で対応苦慮か***
ミャンマーの民主派勢力などが、クーデターで実権を握った軍への一斉攻撃を強めるなか、軍のトップは「政治的な解決が必要だ」として対話を呼びかけました。徹底的に報復するとの立場を強調してきた軍トップとしては、異例の発言です。

ミャンマーでは今年10月下旬以降、北東部シャン州や東部カヤー州など各地で、少数民族や民主派の武装勢力が軍に対する一斉攻撃を激化。軍の拠点や近隣国との貿易ルートである幹線道路を占拠するなど攻勢を強めています。

こうしたなか、軍トップのミン・アウン・フライン総司令官は4日、軍政幹部らを集めた評議会で、「武装勢力が国の経済と国民の生活を苦しめている」と非難したうえで、「政治的な解決が必要だ」と強調しました。

各地で空爆を繰り返すなど、強硬姿勢を貫いてきた軍トップが、異例の対話を呼びかけた形です。

態度を軟化させた背景には、戦闘で軍が劣勢に立たされているとの見方があり、複数の現地メディアによると、少なくとも500人の兵士が降伏したということです。

一方、ロイター通信によりますと、各地の武装勢力を支援している民主派組織のNUG=国民統一政府は、軍が政治に関与しないことを保証するまで対話には応じない姿勢を示しています。【12月6日 TBS NEWS DIG】
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戦闘地域は、首都ネピドーなど中心部を取り囲む形で周縁部の地方に広がっており、国軍支配の打倒を目指す民主派「統一政府(NUG)」は、これを機に首都ネピドーや最大都市ヤンゴンでも攻撃を仕掛けたい意向のようです。

国軍側も“イラワジによると、国軍はネピドーで約1万4000人の部隊の追加動員を始めた。主要都市への戦闘の波及を防ぐため、防御態勢を強化している模様だ。”【12月2日 読売】と警戒を強めています。

ただ、辺境地域を根拠地とする少数民族武装勢力が都市部まで兵力を進めるのには物資の補給などの兵站の問題があること、また、武装勢力側に「地の利」がある山岳部ゲリラ戦と都市部の戦いはまた様相が異なることから、「一気に都市部に戦闘が拡大」というのは難しいのでは・・・というのが常識的な見方でしょう。

もっとも、力で維持してきた権力が、国民の抵抗で一気に崩れるという事例も少なからずあるのも事実ですが。

****ミャンマー 戦闘激化で軍兵士投降相次ぐ 軍将校が内情明らかに****
ミャンマーでクーデター後、実権をにぎる軍と少数民族の武装勢力や民主派勢力との戦闘が激しさを増し、軍の兵士の投降が相次ぐ異例の事態となっています。投降したミャンマー軍の将校が、NHKのインタビューに応じ、軍内部の統制が乱れ、士気が低下している内情を明らかにしました。

ミャンマーでは、ことし10月27日に3つの少数民族の武装勢力が東部シャン州で一斉に攻撃を開始し、民主派勢力とも連携して攻勢を強めています。

ミャンマー軍はおととしのクーデター後初めて各地で守勢に立たされていて、民主派勢力の組織「国民統一政府」は、先月29日までに541人の兵士が投降したと明らかにしています。

こうした中南東部カレン州で少数民族の武装勢力、KNU=カレン民族同盟に投降した軍の将校が、少数民族側の監督下でNHKのインタビューに応じました。

この将校は先月、橋を守っていた際に2日半にわたって攻撃をうけ、孤立無援のなか20人の部下とともに投降をしたということで、当時の状況について「53人いた部下のうち、25人が戦死した。生きていられるだけ自分たちは幸運だった」と投降するほかに選択肢はなかったと語りました。

そのうえで「私はみずからの身を守るため、投降する道を選び、その判断に悔いはない。ほかの兵士もみずからのため、行動する時だ」と投降を呼びかけました。

また軍トップのミン・アウン・フライン司令官については、「道を踏み外しつつある。軍内部で司令官の指導力を信じる者はもはやいない。軍にいる兵士やスタッフで以前のように彼を信奉する者はいない」と述べ、軍内部で統制が乱れ、士気が低下している状況を明らかにしました。

投降した軍の兵士たちは比較的自由な生活を許されている様子ですが、少数民族側が撮影した映像では橋の前に整列して軍の攻撃によって犠牲となった人たちを追悼する敬礼を強いられている姿も写っていて、市民に銃口を向けてきた軍への反発の根強さもうかがわせています。

ミャンマー軍の兵士は家族とともに軍の施設内で集団生活を送り、相互監視や上官による洗脳で、命令に背けない環境に置かれているとみられ、兵士の投降が相次ぐのは異例の事態です。

軍の報道官は4日、国営メディアを通じて「通告なく軍から離れた兵士が軍に戻ってくるなら、無許可欠務とするだけで軍務への復帰を認める」と呼びかけていて、兵員が不足している状況を事実上、認めています。

専門家「奇襲のような形で攻撃受け投降のケース増加」
ミャンマー情勢に詳しい京都大学東南アジア地域研究研究所の中西嘉宏准教授は、兵士の投降が相次ぐ背景について「国境に近い地域などで軍が劣勢になるなか、前線の兵士が時には奇襲のような形で攻撃を受け、耐えきれずに投降するケースが増えている」と分析しています。

その上で「命の危険があれば軍から逃げ出す兵士もいて、士気は決して高くない。これまで軍に多くの兵士を供給していた地域を軍側が統治できなくなっていて、戦闘が激しい地域には兵士を送ることができず、ローテーションもできなくなっている」と述べ、兵士の不足や士気の低下も一因にあると指摘しています。

そして「抵抗勢力は、軍に対抗し、軍が統治している地域を少しでも自分たちのものにしたいという点で利益が一致している。そのため、かつてよりも連携が取れるようになってきたことは大きな転換点といえる」と評価しました。

一方で今後の展開については「現在戦闘が行われている山岳地帯や自然環境の厳しい地域とは異なり、内陸の平野部に入るほどゲリラ戦に限界があるため火力に勝る軍側が巻き返す可能性が高い。

抵抗勢力としても一般市民への被害が出る都市部での戦闘はなるべく避けたいと考えていて慎重になるだろう」と述べ、軍事的な手段だけでは事態が一気に進展することはないという見通しを示しました。

その上で政治的な解決の可能性については「軍がこれまでの弾圧の責任を取るというプロセスがなければ対話は成立しないだろう。責任をとるべきと考える人たちが軍内で出てくることを期待して抵抗勢力は圧力をかけている。そのためならたとえ長期間でも抵抗を続ける覚悟が少数民族勢力の中にも民主派勢力の中にもあるようだ」と述べました。(後略)【12月9日 NHK】
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少数民族武装勢力及び民主派の攻勢がこれ以上に広がるかどうかについては、上記のような戦術的問題以上に、そもそも高度な自治権や辺境地域での利権確保を主な目的とする少数民族側と、国軍支配打倒を目標とする民主派勢力の共闘拡大がどこまで可能なのか?という問題があります。

共闘を拡大・深化させるには、多数派ビルマ族が少数民族の権利拡大を容認することが必要になりますが、共闘したい民主派勢力はともかく、一般国民の意識がそこまで及んでいるのか?

【中国 国境で軍事演習 ヤンゴンに艦船入港 その意図は?】
上記のような少数民族武装勢力や民主派の動向と並んで注目されるのが、これまでも指摘してきたように中国の動向です。

中国は「一帯一路」事業で軍事政権とも結びつきがありますが、かねてより、一部の少数民族武装勢力への支援も行っていると言われています。

今回の衝突は「一帯一路」事業のルート上で起きており、事業を危うくします。

また、国境付近での中国系詐欺グループ摘発に軍事政権が積極的でなかったことに、中国は強い苛立ちを示しています。

そうした状況で、少数民族支援に関する中国への抗議デモ(政権寄り団体が実行)を軍事政権は容認するなど、中国と軍事政権の間には一定の緊張も見られます。

中国の動向が注目されるなか、中国は国境付近で軍事演習を実施。

****中国軍、南西部の国境付近で演習 ミャンマー「結びつき強固」****
中国軍はミャンマーとの国境付近で25日から「戦闘訓練活動」を開始すると発表した。「部隊の迅速な機動性、国境封鎖、射撃能力を検証する」ことが目的と、ソーシャルメディア(SNS)の微信(ウィーチャット)に投稿した。

ミャンマーに隣接する雲南省政府は、演習が28日まで行われると明らかにした。

ミャンマー軍事政権のゾーミントゥン報道官はSNSに、中国から演習について通知を受けていると投稿した。国境付近の「安定と平和の維持」を目的としており、ミャンマーの内政に干渉しない中国の政策を損なうものではないとの認識を示した。

「中国とミャンマーの軍事的結びつきは強固であり、両軍の協力関係は友好的で強まっている」とした。

ミャンマー国営メディアは24日、中国からミャンマーに物資を運ぶトラックの車列が中国と国境を接するシャン州のムセ町で炎上したと報じた。反政府勢力の攻撃としている。【11月26日 ロイター】
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どういう意図を持った演習だったのか? 軍事政権と武装勢力、どちらへ圧力をかけようとしているのか?
下記記事は中国と特定の武装勢力のつながりを強調した記事ですが、いまひとつ主旨が判然としません。

****ミャンマー分裂?内戦拡大で中国が軍事介入の構え****
<ミャンマーと中国との国境で、中国の人民解放軍が実弾による射撃訓練を実施。戦闘の波及に備える中国の西側へのメッセージは>

中国軍は11月25日、ミャンマーとの南部国境付近で行った大規模な軍事訓練の様子を撮影した画像を公開した。ミャンマーでは、軍事政権と反政府勢力との戦闘が続き、国境を越えて拡大しそうな勢いになっている。

中国人民解放軍(PLA)の南方戦域司令部は「中国・ミャンマー国境の中国側で実施中の実弾射撃演習において、榴弾砲と対砲台レーダーを配備した」と、中国国営のタブロイド紙環球時報は報じている.

同紙は、人民解放軍が「隣国で武力衝突が起きているので、国家主権と国境の安定を守るために部隊の戦闘能力をテストし、示そうとした」と伝えた。

この演習のタイミングと、それが地域の安全保障に与える潜在的な影響について、国際的な注目が集まっている。環球時報によれば、今回の演習は「年次訓練計画の一部であり、戦域司令部の軍事ユニットの迅速な機動性および国境封鎖と射撃能力をテストすることを目的としている」という。

中国はミャンマーの反軍事政権連合内の特定の勢力を支援しているが、これはリスクが大きい戦略だ。オブザーバーに言わせれば、ミャンマーの内戦に中国が積極的に関与するのは、非常に厄介なことになりかねない。

ミャンマーの分裂に備えて
「一種の民族的な利害関係から始まった戦いが、ミャンマー国家と国防軍に対する戦いとなれば、まったく別の性格を帯びるかもしれない。中国がそれを望んでいるとは思えない」と、ロンドン大学東洋アフリカ学院の上級講師アビナッシュ・パリワルは本誌の取材に答えた。

「ミャンマーの分裂は現実になる可能性がかなり高い。ミャンマーの大統領でさえ、そう公言している」とパリワルは言う。

中国は、軍事政権の収入源となっているミャンマー国内の違法行為に対抗する計画の一環として、集中的な賭博取締り作戦を実施している。

軍事政権は、2021年にアウン・サン・スー・チーが率いる民主的に選出された政府を打倒して以来、「三同胞連合」と呼ばれる、3つの少数民族の武装勢力の連合体との抗争を繰り広げてきた。

AP通信によれば、軍事政権打倒をめざす自称反乱軍は26日、いくつかの町を占領したという。そのなかには、中国との国境の町ムセにある5つの主要な交易拠点のひとつ、キン・サン・チョート国境ゲートも含まれている。
ミャンマー軍に対する少数民族連合の攻勢から数週間、状況は著しく変化したが、政府の対応はまだ明らかではない。

軍事政権は27日、中国が軍事訓練を行っていることは認識していると述べた。
パリワルは、人民解放軍の動きはミャンマー内戦への対応であるだけでなく、国境地帯の安定化を目指す立場から、中国がより広く西側に向けて発したメッセージでもあると指摘する。

11月8日付の米国平和研究所の報告書の中で、アナリストのプリシラ・クラップとジェイソン・タワーは次のように書いている。「ミャンマーの反軍政闘争は今のところ、軍を政府から排除するという中核の目的においては団結している。だが今後、異なる民族の寄せ集めである抵抗勢力の団結や協調が崩れた場合、中国はミャンマーよりも中国の国益のために、ある勢力を別の勢力と戦わせるような工作を行う危険がある」【11月29日 Newsweek】
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上記記事は、中国と特定武装勢力との関係を重視しているようですが、「ある勢力を別の勢力と戦わせるような工作を行う」ような軍事介入まで考えているのかは疑問です。

更に中国は艦船をヤンゴン・ティラワ港に入港させています。

****ミャンマーに中国艦入港=国境情勢不安、警戒強める****
ミャンマーの中国大使館は28日、中国海軍のミサイル駆逐艦やフリゲート艦が27日、最大都市ヤンゴンのティラワ港に入港したと発表した。

中国国境に近いミャンマー北東部で国軍と少数民族武装勢力の戦闘が激化しており、中国は警戒を強めている。国軍側との軍事的連携を示すことで、武装勢力をけん制する狙いがあるとみられる。

ロイター通信などによると、入港した艦艇は計3隻で約700人が乗船。中国側は「親善訪問」としているが、国軍と合同演習を行うと報じられている。【11月29日 時事】 
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上記記事は中国の意図を“国軍側との軍事的連携を示すことで、武装勢力をけん制する狙い”としています。ただ、中国からは明確に武装勢力を批判するような発言もなされていません。しばらくは様子見でしょうか。

【ヤンゴンなど都市部はまだ平穏ではあるが・・・】
戦闘拡大に伴い市民生活への影響が大きくなっていいます。“国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、11月23日までに市民200人が死亡し、33万5000人が自宅を追われた。クーデター以降の国内避難民は計200万人以上に上る。”【12月2日 読売】

ヤンゴンなど都市部はまだ平穏なようです。

****【1027作戦】以降のヤンゴンの様子****
(中略)
この流れで年内にもヤンゴンを含む大都市での戦闘が行われるのではないか?という話や2024年の2月を前に(クーデターから3年を迎える前に)首都ネピドーを奪還するべく最大規模の戦闘が行われるのではないか?などの話が出ていたりするようですが、勿論真偽は全くわかりません。

冒頭でもお伝えした通り、ここヤンゴンにいる分には「本当にそんな事が同じ国で起こっているのか?」と思う位静かです。しかし、何の変化もないかというとそんな事もありません。

生活上の変化で言えばここ数日対ドルに対してチャットがかなり下がっています。(中略)ガソリンの値段もドンドン上がっています。そして供給量自体も減ってガソリンスタンドには長蛇の列です。

停電に関して、毎日4時間だったものが数日前に隔日で8時間になりました。
ヤンゴンでもそれなりに大変そうなので地方はもっと大変なのだろうと想像します。(中略)

ミャンマー人の友人より夜の自転車移動は辞めるよう言われる
学校などに軍が駐留するようになったのですが、その兵士たちが夜になると近所を徘徊し出歩いている若者などを連行していくそうです。

何か物を運ばせるなど強制労働を科したり適当な罪状を付けてどこかへ連れて行ってしまうそうです。本当かどうか確認しようもないのですが、そのまま軍に入れられる事もあるそうです。

こういった動きに巻き込まれる可能性があるので夜は自転車で移動しないようにと注意されました。(後略)【12月11日 新町智哉氏 Newsweek】
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【追記 中国を介した停戦交渉も】
****軍政、中国介し停戦模索か ミャンマー、武装勢力会談****
ミャンマー軍事政権は11日、少数民族武装勢力が北東部で10月下旬に開始した国軍拠点への一斉攻撃を巡り、中国の仲介で、主導した3勢力の代表者と会談したと発表した。

戦闘に関して政治的な解決策を模索したとしている。武装勢力側は会談の有無を発表しておらず、停戦や和平につながるかどうかは不明だ。
 
国軍のゾーミントゥン報道官が明らかにした。年内にも再度会談する可能性があるとしている。
 
中国外務省の毛寧副報道局長は11日の記者会見で「ミャンマー情勢が緩和することは各方面の利益に合致し、中国とミャンマー国境の安定維持に利する」と述べた。【12月11日 共同】
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イラン  人権問題の改善が望めない国内状況

2023-12-10 23:33:06 | イラン

(イラン西部サケズ出身のマサ・アミニさんは2022年9月、髪の毛を覆うよう女性に義務づけた法律に違反したとして道徳警察に逮捕された。意識不明に陥り、3日後に死亡した。【12月10日 BBC】)

【事前審査で改革派や保守穏健派の排除が進む国会議員選挙】
イラン関連ニュースは、主にパレスチナ・ハマス、更にはレバノン・ヒズボラ、イエメン・フーシ派、イラク・シリアの親イラン勢力の後ろ盾としてのイランの存在・影響に関するものや、アメリカとの関係、核合意関連など対外関係に関するものがメインですが、今回はイラン国内に関する動向を中心に取り上げます。

もちろん、国内政状況は対外関係に影響済ます。例えば、国内で高まる不満から国民の目をそらすために、ことさらに対外関係で緊張を演出するなど。

イランでは来年3月に国会議員選挙が行われますが、イラン特有の選挙制度である「事前審査」によって、ライシ政権に批判的な改革派や保守穏健派は多くが失格となり選挙にのぞめない状況です。

****イラン国会議員選挙、事前審査で立候補登録者の28%「失格」…政権批判勢力を排除****
イランで来年3月1日に予定される国会議員選挙(定数290)で、立候補登録者の28%が事前の審査で「失格」扱いとなった。保守強硬派のエブラヒム・ライシ政権下では批判勢力の排除が進んでおり、今後2回の事前審査で失格者が増える可能性もある。

内務省の選挙管理委員会は11日、最終登録者は2万4982人だったと発表した。今回からオンライン登録が導入され、前回2020年の約1・5倍と過去最多だった。審査結果は本人に個別通知され、失格の具体的な理由は公表されない。

イラン各紙が14日までに報道した独自調査を本紙がまとめたところ、少なくとも現職25人の「失格」が判明。改革派のほか、政権に批判的な保守強硬派も含まれていた。改革派の元議員も軒並み失格となった。

事前審査は3段階で、最終的には保守派が独占する選挙監督機関「護憲評議会」が決定する。前回の国会議員選では、改革派や保守穏健派の現職議員が大量に失格扱いとなり、保守強硬派が勢力を拡大した。

事前審査には今回から、精鋭軍事組織「革命防衛隊」の情報部門が加わり、活動で得た記録を提供している。改革派の有力政治家らは、失格は目に見えているとして早々に不出馬を表明した。【11月14日 読売】
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昨日取り上げた香港の区議会議員選挙同様に、「選挙」というものが形骸化して民意を反映せず、権力維持の道具となりつつあるとも言えます。

大統領選挙は2025年中頃に予定されてますが、いずれにしても自由な民意が封じ込まれた状況で、現在の保守強硬派ライシ政権の体制が続くような情勢です。

【昨年9月の抗議行動を力で封じ込めた当局】
イランでは昨年9月、髪の毛を覆うよう女性に義務づけた法律に違反したとして、クルド系女性が宗教警察に逮捕され、その後に死亡した事件をきっかけに、ヒジャブの被り方だけでなく、経済状況、更には強権的な現行政治体制への不満が噴出し、大規模なデモが拡散しましたが、当局は力でこの動きを封じ込めています。

昨年の抗議デモ拡散時に当局が行った暴力は激しく、ノルウェーに拠点を置く人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」は、デモの参加者530人以上が死亡したと指摘しています。拘束者は数千人。その他に性暴力も。

****イラン治安要員、抗議デモ参加者をレイプ アムネスティ****
イランの治安要員が昨年9月以降、全国に広がった抗議デモを弾圧する際に拘束した市民にレイプや性暴力を行っていたとする報告書を国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが6日、公表した。

イランでは昨年9月、ヒジャブの着用方法をめぐり警察に逮捕されたマフサ・アミニさんが死亡したことをきっかけに抗議デモが全土に拡大。当局の激しい弾圧により、人権活動家によれば数百人が死亡、国連発表では数千人が拘束され、デモは年末までに沈静化した。

アムネスティは、安全な通信プラットフォームを通じて、遠隔で被害者や目撃者と面談して証言を集めた。
デモ参加者への性暴力は45件に上り、発生場所は半数以上の州に及んでいる。このためアムネスティは、実際の数はこれを大きく上回る可能性があるとの懸念を示している。

45件の事例のうち16件はレイプで、被害者の内訳は女性6人、男性7人、14歳の少女1人、16歳と17歳の少年2人だった。うち女性4人と男性2人は、最大10人の男性治安要員に集団レイプされたという。

性器を殴られた、強制的に裸にされたといったレイプ以外の性暴力を受けた29人の被害についても報告されている。

性加害を行ったのは、イラン革命防衛隊の隊員や民兵組織「バシジ」のメンバー、情報省の職員、警察官だという。

アニェス・カラマール事務総長は「私たちの調査で、イランの情報機関や治安当局が、12歳の子どもを含めデモ参加者を拷問・処罰し、心身に永続的なダメージを与えるためにレイプや性暴力を利用していた実態が明らかになった」と指摘した。

11月24日にイラン当局に調査結果を知らせたが、「今のところ何のコメントも得られていない」という。
アムネスティによれば、大半の被害者は報復を恐れて訴えを起こしていない。また、検察に訴えても黙殺されているという。

カラマール氏は、「国内で裁きが下される見通しが立たない中、国際社会には被害を受けた生存者に寄り添い、正義を追求する義務がある」と訴えた。 【12月6日 AFP】
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政権批判を行った者への「粛清」は今も続いています。

****イラン、反政府デモにからみ男性を密かに処刑か=人権団体****
イランで昨年起きた反政府抗議にからみ、同国政府が男性1人の死刑を密かに執行していたことがわかった。関係筋がBBCペルシャ語に語った。

ミラド・ゾフレヴァンドさん(21)は23日朝、西部ハマダンの刑務所内で処刑されたという。少数民族クルド系の人権団体「Hengaw」が、処刑の報告を受けたとしている。

イランの司法当局からは、この件についての発表はない。ゾフレヴァンドさんは、抗議活動中にイラン革命防衛隊の隊員1人を殺害したとして、有罪判決を受けていた。

情報筋によると、ゾフレヴァンドさんは勾留中から裁判に至るまで、弁護士との接触を拒否されていた。ゾフレヴァンドさんの処刑が確認された場合、昨年の抗議運動以降に処刑されたのは計8人となる。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は最近の報告書で、これまでの7件の死刑執行についての情報が、「司法プロセスが、適正な手続きと公正な裁判の要件を満たしていないことを示している」と警告していた。

また、「適切かつ時宜にかなった法的代理人との接触はしばしば拒否され、拷問の結果得られたかもしれない自白の強要も報告されている」とした。

イランでは昨年9月、髪の毛を覆うよう女性に義務づけた法律に違反したとして、クルド系女性のマサ・アミニさん(22)が道徳警察に逮捕され、その後に死亡した。

これを受け、各地で反政府デモが活発化したが、当局は抗議参加者を「暴徒」として暴力的に弾圧。数百人が殺害され、数千人が拘束された。

BBCペルシャ語が話を聞いた情報筋2組によると、ゾフレヴァンドさんは23日未明に、ハマダン中央刑務所で処刑された。しかし、ゾフレヴァンドさんの遺体はこの日の午後まで遺族に引き渡されなかったという。

人権団体「Hengaw」は声明で、ゾフレヴァンドさんは処刑が間近に迫っていることも知らされておらず、家族との最終的な面会も認められていないと述べた。

また、この処刑は「生命に対する権利を侵害するだけでなく、被拘束者とその家族の人権を著しく侵害するものだ」と強く非難した。

さらに、イランにおける軍事、政治、経済の主要勢力である革命防衛隊が、死刑を執行するよう当局に圧力をかけたと主張した。(中略)

ハマダンの検察当局は先週、最高裁判所支部が、革命防衛隊の情報部員アリ・ナザリ氏殺害の罪で有罪判決を受けた被告に下された死刑判決を確定したと発表していた。

当局はこの被告を特定していなかったが、人権弁護団体「ダドバン」は関係筋の話として、これがゾフレヴァンドさんだと指摘していた。また、ゾフレヴァンドさんの家族に、ゾフレヴァンドさんの件を公表しないよう圧力がかかっていたと報告した。

ナザリ氏は昨年10月、ハマダンのマライエル大学医学部で学生たちが行っていたデモに対処していた際、マスクをかぶった男5人に撃たれて死亡した。検察は、ゾフレヴァンドさんがこのうちの1人だとして追及していたと報じられている。

イランの年間の死刑執行数は、中国に次いで世界で2番目に多い。
グテーレス国連事務総長の報告書は、イランは「非常に気がかりな速度で」死刑を執行しており、今年は7月までにで少なくとも419人を死刑にしたと指摘。2022年の同時期と比べ、30%増加している。【11月25日 BBC】
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秘密裏に処刑し、そのことを公表しないように遺族に圧力をかける・・・昨年のような大きな混乱の火種にならないように・・・との考えでしょう。裏を返せば、いつでも火が付きかねない不満の温床が存在しているということでもあります。

【抗議再燃を警戒】
きっかけとなったマフサ・アミニさんへは欧州議会から「思想と自由のためのサハロフ賞」が贈られましたが、授賞式に出席しようとした遺族は阻止されたようです。この問題への遺族の発言によって抗議が再燃するのを当局は恐れているのでしょう。

****スカーフ着用めぐり死亡のイラン人女性家族、当局が出国阻止 仏で娘の「人権賞」受賞を予定****
イランで2022年に、髪の毛を覆うよう女性に義務づけた法律に違反したとして道徳警察に逮捕され、その後に死亡したクルド系女性マサ・アミニさん(22)の家族が、イラン当局にフランスへの渡航を阻止された。家族の弁護士が9日に明らかにした。家族はフランスで、アミニさんの死後に授与が決まった、優れた人権活動家を称える賞を受け取る予定だった。

弁護士によると、アミニさんの両親ときょうだいは、飛行機に搭乗するのを阻止され、パスポートを没収された。

欧州議会は、優れた人権活動家に贈る「思想と自由のためのサハロフ賞」をアミニさんに授与。アミニさんの家族はこれを受け取るため、フランス東部ストラスブールに向かおうとしていた。

弁護士は、アミニさんの家族は有効なビザ(査証)があるにも関わらず出国を禁止されたと主張した。(中略)

欧州議会は10月、アミニさんと、アミニさんの死がきっかけとなった「女性、命、自由」のスローガンを掲げる世界的運動に、「サハロフ賞」を授与すると発表した。(中略)

「犠牲者家族が国際社会で話すことを阻止するため、(イラン当局者が)これほど動員されたのは初めて」だという。
欧州議会のロベルタ・メツォラ議長は、一家の渡航を禁止する「決定の撤回」をイランに求めた。(中略)

アミニさんの死から1年となった9月16日、父親アムジャドさんがイラン革命防衛隊(IRGC)に拘束され、娘の命日の追悼をやめるよう警告されたと、クルド人支援団体「Hengaw」や、ノルウェー拠点の人権団体イラン・ヒューマン・ライツ(IHR)などが報告している。

世界各地では数千人が、この節目の日に街頭に出て抗議活動を行った。アムジャドさんはその後、釈放された。【12月10日 BBC】
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イラン人権問題での受賞者ということでは、「イランにおける女性の弾圧に抵抗し、すべての人々の人権と自由を促進する戦いに対して」ノーベル平和賞が授与された女性人権活動家ナルゲス・モハンマディさんがいますが、彼女は“2016年にイラン当局に拘束され「社会体制を脅かすプロパガンダ」を理由に禁固16年を宣告されている。2020年には一時釈放されたが2022年に再び拘束され、エヴィーン刑務所に収監された。”【ウィキペディア】という状況にあります。

ノーベル平和賞受賞式は今日10日ですが、もちろん出席できません。獄中の彼女への締め付けも厳しくなっているようです。

****イラン女性活動家、電話禁止 平和賞授与前に発信妨害か****
今年のノーベル平和賞授賞が決まったイランの女性人権活動家ナルゲス・モハンマディさん(51)が投獄されている首都テヘランの刑務所で外部との電話と面会を禁止されたことが分かった。モハンマディさんのインスタグラムが3日、明らかにした。平和賞授賞式を10日に控え、イラン当局には刑務所からの発信を妨害する狙いがありそうだ。

モハンマディさんは当局からの圧力が強まっても「私を黙らせることはできない」と強調した。刑務所側が11月30日にこの措置を決定。これまでイラン在住のきょうだい2人に限って電話が許可されていたという。インスタグラムは家族が投稿している。【12月4日 共同】
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オスロで今日行われた授賞式では、モハンマディさんに代わり、双子の子どもがメダルを受け取っています。
モハマディさんは授賞式に合わせてハンガーストライキを始めたそうです。

****ノーベル平和賞のイラン女性人権活動家 授賞式に合わせハンスト開始****
女性の権利保護などを訴えノーベル平和賞に決まったイランの女性人権活動家が、10日に行われる授賞式に合わせて収監先の刑務所で、新たなハンガーストライキを始めることを記者会見を開いた家族が明らかにしました。

ノーベル平和賞に決まったイランの女性人権活動家、ナルゲス・モハマディさんの夫や双子の子どもたちが授賞式を前にノルウェーのオスロで9日、記者会見を行いました。

3人はフランスに亡命中で、モハマディさんが10日の授賞式に合わせ、イランで差別の対象となっている宗教的少数派への連帯を示すためにハンストを始めると明らかにしました。

また、娘のキアナさんがモハマディさんからのメッセージを代読し、「イランは国際社会の支援を必要としている。反体制派などの声を世界に伝えるメディアの役割は非常に重要だ」と述べました。

キアナさんはモハマディさんと最後に会ったのは9歳の時で、「再び会えるのは30年後か、40年後かもしれない。でも、そうしたことはどうでもよく、母は心の中で、闘う意義のある価値観として生き続けている」と語りました。

モハマディさんは女性の権利保護や死刑廃止を訴えてきましたが、イラン当局に繰り返し拘束され現在も、反国家的なプロパガンダを拡散した罪で刑務所に収監されていて、授賞式は家族が代理で出席する予定です。【12月10日 TBS NEWS DIG】
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なお、モハマディさんは11月にもハンストを行っています。

****ノーベル平和賞の活動家、ハンスト終える スカーフ着用なしで病院移送へ―イラン****
今年のノーベル平和賞受賞が決まったイラン女性人権活動家ナルゲス・モハンマディ氏(51)は9日、インスタグラムに投稿された声明で、イランで義務付けられているスカーフを着用せずに、収監中の刑務所から治療のため病院に移ることを当局が認めたと明らかにした。同氏は、受刑者の医療制限やスカーフ着用に抗議するため、6日から始めていたハンガーストライキを終えたという。

イランでは公共の場で、頭部を覆うスカーフの着用が女性に義務付けられている。当局は、モハンマディ氏がスカーフ着用を拒否したことから病院への移送を認めず、同氏はハンストを開始。ノルウェー・ノーベル賞委員会は声明で「病院に行くためにスカーフを強制するのは非人道的だ」などと当局を非難していた。【11月11日 時事】
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イランのこうした人道状況は、冒頭の国会議員選挙関連記事に見るように、選挙という本来の民主的手法では改善が期待できません。
一方で、抗議デモといった直接行動に対しては、欧米・日本と異なり情報が遮断されているイランにあっては当局のなりふり構わぬ暴力がふるわれ、多大の犠牲者が発生します。

ではどうすれば改善するのか・・・イランに限らず、強権支配国家に共通する問題でもあり、容易に答えの出ない問題ですが、国際社会の圧力は必要でしょう。

****米政府 人権侵害関与として中国やイランの高官らの制裁発表****
アメリカ政府は強制労働などの人権侵害に関与したとして中国やイランなど13カ国、37人を制裁の対象に加えたと発表しました。

アメリカ国務省のブリンケン長官は8日の声明で、「アメリカは紛争に関連する性暴力、強制労働、国境を越えた抑圧など世界で最も困難で有害な人権侵害に対処する」と強調しました。

長年、問題視している中国については、新疆ウイグル自治区での長期に及ぶ身柄の拘束など「深刻な人権侵害」に関与しているとして、中国政府の高官を制裁の対象にしています。

また、イスラム主義組織「タリバン」の幹部については、アフガニスタンで女性教育の制限などに関与していると指摘しています。

イランの情報機関の幹部2人に関しては、革命防衛隊の司令官を殺害された報復でアメリカ政府高官の暗殺計画などのために工作員を雇ったとして、アメリカ国内の資産凍結などの制裁を科したということです。【12月9日 テレ朝news】
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もっとも、上記のような程度の制裁は形式的なもので、実効はまったく期待できません。
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香港  民主派立候補ゼロの区議会選 香港民主主義への葬送曲 亡命周庭氏の続く戦い

2023-12-09 23:38:52 | 東アジア

(香港で9日、区議会選候補者ののぼり旗を前に、「あなたの一票が必要だ」と呼びかける運動員ら=白山泉撮影【12月9日 東京】 有権者からは「選びようがない」との声も)

【区議会(地方議会)選 制度変更で民主派立候補ゼロ 予想される低投票率】
香港では大規模な抗議活動の翌年、2020年の6月30日に反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」が施行されました。これにより「1国2制度」は完全に形骸化し、「中国化」が進み、香港の民主主義は「終わった」と言えます。

従来は直接投票枠が大半を占めていた区議会(地方議会)選は、前回(2019年11月)選挙で反政府・反中デモの影響もあって民主派が8割超の議席を獲得するなど、香港で最も民意を反映する選挙でしたが、それも・・・

****市民が選べるのは452→88と激減 香港政府が区議会の選挙制度変更案を発表****
香港政府は地方議会に当たる区議会の選挙制度について、大幅な変更案を発表しました。市民が直接投票で選べる枠が激減することになりそうです。

香港政府は2日、政府トップの李家超行政長官らが会見を行い、区議会の選挙制度の変更案を発表しました。
これまで市民が直接投票で選べる枠は452と全体の9割以上を占めていましたが、変更案では2割程度の88に激減します。かわって、政府による委任枠などが大幅に増えるということです。

政府はおととしから区議会議員に対し、政府に忠誠を誓う「宣誓」を義務付けるなどしていて、大量の民主派議員が辞職に追い込まれたほか、議員資格を失いました。

李長官は「香港に忠誠を尽くさず、法を守らない人だけを除外する」としていますが、民主派は区議会から一掃されることになりそうです。【5月3日 TBS NEWS DIG】
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単に直接投票枠が激減しただけでなく、立候補のためのハードルも設けられ、今月10日に行われる香港区議会(地方議会)選には民主派からの立候補はゼロに。 それに伴い、住民の関心も極度に低下しています。

****香港区議会選、10日に投開票 「沈黙の選挙」投票率は20%台か****
4年に一度の香港区議会(地方議会)選は10日、投開票が行われる。

選挙制度が民主派に不利になるように変更されてから初めて実施される区議会選で、すでに親中派の圧勝が決まっている。有権者の関心は極めて低く、2019年の前回選で過去最高の71%を記録した投票率がどこまで落ち込むのかが最大の焦点だ。

中国の習近平政権と、李家超行政長官率いる香港政府にとっては、19〜20年の反香港政府・反中国共産党デモ後に進めてきた「愛国者治港」(愛国者による香港統治)を完成させる重要な選挙。香港警察は21年の立法会(議会)選、22年の行政長官選を上回る過去最大の約1万2千人を動員して警戒に当たる。

「12・10はみんな投票しましょう!」「皆さんの一票は重要です!」
香港の繁華街コーズウェイベイ(銅鑼湾)で9日午後、区議会選に出馬した親中派陣営から掛け声が上がった。

しかし足を止める市民はいない。20歳の女性は「関心はありません。私の生活に関係する選挙とは思いませんから」と冷たい。

今年7月に変更された新たな選挙制度は、全18区で計479あった議席を計470に削減し、このうち住民による直接投票枠を452から88に減らすというものだ。90%を超えていた直接投票枠の割合が19%に激減し、新たに行政長官が選ぶ委任枠などが設けられた。

しかも、直接投票枠で立候補するにはまず、親中派で構成される地区委員会などの委員の推薦が必要。その上で、香港政府の幹部らから成る資格審査委員会による「愛国者か否か」の審査を突破しなければならない。(中略)

今回、民主党など民主派政党は地区委などの推薦を得られず、一人も立候補できなかった。
民主派の元区議は「区議会選を話題にする市民はいない。沈黙の選挙が今の香港を表している。(直接投票枠の)投票率は20%台に落ち込むのでは」と話している。【12月9日 産経】
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【香港民主主義の終焉】
ここ数か月に報じられた香港関連のニュースをランダムに拾っても、香港民主主義の終焉を強く感じます。

****香港民主派、公民党が解散 国安法締め付けで打撃****
香港の民主派政党、公民党は27日に総会を開き、党を解散することを決めた。近く正式に解党手続きを始める。香港メディアなどが伝えた。2020年に香港国家安全維持法(国安法)が施行されて以降、香港当局が民主派への締め付けを強化し、党勢が弱まっていた。

同党を巡っては、多くの党員が海外に脱出したほか、香港立法会(議会)選挙に向けて民主派が実施した予備選に絡み、幹部らが国安法違反で起訴されるなど打撃を受けていた。

同党の梁家傑主席は「(結党から)16年で最高峰に達することはできなかったが、公民党は歩むべき道を歩んできた。民主派政党としての終点に行き着いた」と述べた。【5月27日 共同】
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****“花を持つだけ”で連行、「ふるさとバザー」で封じられた追悼集会 天安門事件から34年が経った香港で今起きていること****
「私たちはいつからスマホのライトをつけるだけで警察に取り囲われるようになったんだ……」6月4日の夜、香港中心部にある公園で私の近くにいた女性はこう嘆いた。

女性の目線の先にはベンチに座り、無言で手に持っているスマホのライトをつける1人の男性がいた。そして周辺には優に10人は超える多くの警察官が男性を取り囲み、スマホのライトを消すように促していた。

なぜ、スマホのライトをつける行為が問題になるのか。それは過去に香港で行われていた天安門事件の追悼集会で象徴となっていたロウソクの火を彷彿させるというのが理由だ。

また、公園の外にも大量の警察官が投入されていた。警察官は市民が上下黒の服を着ているだけで呼び止め、スマホの写真をチェックしたり、所持品の検査や職務質問を繰り返し行った。

そして、天安門事件に関する書籍やビラを持った人、花束を持った活動家などを発見するとすぐに取り囲み、次々と待機していた警察車両に乗せた。しかし、連行される人は誰1人として声を荒らげることはなかった。それは過剰とも言える警察の対応に無言で抗議しているようだった。(後略)【6月8日 FNNプライムオンライン】
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****香港シンクタンク「政府の提言」により天安門事件の世論調査の公開を取りやめ 93年から継続調査****
香港のシンクタンク「香港民意研究所」は、34年前に起きた「天安門事件」に関する調査結果の公表を取りやめたと発表しました。政府からの提言だということです。

「香港民意研究所」は、政治家の支持率や政策に関する世論調査を行うシンクタンクで、1989年に北京で民主化を求める学生らを軍が制圧した「天安門事件」に関する世論調査の結果を6日に公開する予定でした。

しかし、研究所はホームページ上で調査結果の公開を取りやめたと発表しました。理由については、政府がリスクについて検討し、研究所に対し提案を行ったためとしています。

世論調査は1993年から複数の同じ質問で行われていて、「事件への中国政府の対応は正しかったと思うか」との質問に対し、去年は「正しい」と回答したのが22.8%、「間違っている」は45.3%でした。【6月8日 TBS NEWS DIG】
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****香港で民主派メディアまた閉鎖、創設者「自由な発言不可能に」****
香港の民主派オンラインラジオ「民間電台(Citizens' Radio)」は30日、最後の番組を放送し、約20年の歴史に幕を閉じた。創設者は、銀行口座凍結で寄付金が受け取れなくなったと説明、香港は危険な政治状況に直面していると懸念を示した。

民間電台は、民主派活動家の曾健成氏が2005年に立ち上げた広東語の放送局。当局を批判する辛らつなトーク番組や報道の自由を訴える活動で安定した支持を得てきた。

曾氏は、最後の放送を前に記者団に「香港の政治は崖のような変化に直面している。たとえ番組にゲストを招いたとしても(超えてはならない)レッドラインがあらゆるところに存在し、自由に発言することはできない」と述べた。

また、恒生銀行がさまざまな理由を使って民間電台の口座を凍結したため、寄付金の受け取りや資金の引き出しが不可能になったとし「財源は限られており、8月までの家賃しか支払えない」と説明した。

一方、民間電台の司会者、ジミー・パン氏は「マイクを切ったからといってもう発言できないということではない」と強調した。

香港では2020年に反中的な動きを取り締まる香港国家安全維持法(国安法)が施行されて以降、 民主派の日刊紙・「蘋果日報(アップル・デイリー)」や「立場新聞(スタンド・ニュース)」などが相次いで廃刊に追い込まれている。【7月3日 ロイター】
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****香港人の海外移住止まらず 政府の人材誘致計画で進む〝中国化〟****
香港国家安全維持法(国安法)が施行されて30日で3年。香港の厳格な新型コロナウイルス対策に加え、国安法によって言論の自由などが失われたことや、愛国教育が加速する学校で子弟を学ばせることを嫌う富裕層の海外移住が止まらず、人材流出が続いている。

香港当局は人材誘致計画を打ち出したものの、中国本土から希望者が殺到。〝香港の中国化〟が一層進む結果となっている。

香港からの報道によると、直近の3年間で労働人口は約18万人減少したとされる。香港の経済団体、香港総商会が今月初めに発表した調査結果でも、74%の香港企業が人材不足に直面し、そのうち約7割が理由として「社員の海外移住」を挙げている。

香港政府は昨年末、人材誘致計画を発表。高学歴保持者や、研究分野で一定の成果を出した人などを対象に「ビザ(査証)発行の手続き簡易化」などの優遇策を打ち出した。しかし香港紙、明報によると、2月までに申請が認可された8797件のうち、中国本土からが8325件と95%を占めた。欧米日からの応募はほとんどなかったという。

台湾在住の香港出身の人権派弁護士、桑普氏は「自由のない街に人材が集まる訳がない」と話している。【6月29日 産経】
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【カナダ亡命の周庭氏 香港は現在「恐怖に満ちた場所」 当局は「生涯にわたって追跡」 亡命後も続く当局との戦い】
こうした状況で数日前に話題なったのが「民主の女神」とも呼ばれ、日本語が出来ることで日本にも馴染みが深かった周庭氏のカナダ亡命。

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周庭さんは、2014年に行われた民主的な選挙を求める抗議活動「雨傘運動」の中心メンバーで、民主化運動の「女神」とも呼ばれていました。

雨傘を広げて警察と衝突する市民(2014年9月28日)日本の音楽やアニメが好きで、独学で覚えたという流ちょうな日本語で香港の民主化に向けた支援を訴えてきました。

日本記者クラブでの会見(2019年6月10日)2019年6月の大規模な抗議デモに関連して、違法な集会への参加をあおった罪で実刑判決を受け、2021年6月に刑務所から出所。

これとは別に、2020年8月、外国の勢力と結託して国家の安全に危害を加えたなどとして香港国家安全維持法に違反した疑いでも逮捕され、その後、保釈されましたが、今も当局による捜査が続いています。【12月7日 NHK】
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****香港民主活動家の周庭氏、カナダに事実上の亡命へ****
香港の民主活動家、周庭氏(27)は3日、自身のインスタグラムでカナダに事実上亡命することを明らかにした。カナダへの留学のため既に香港を去っているという周氏は、今月中に香港に戻って当局へ報告する義務があるが、身の安全や健康状態を考えて帰らないと決断。「恐らくは生涯を通じて(香港には)戻らない」と述べた。

2020年11月に無許可デモなどの罪で10カ月の実刑判決を受け、21年6月に出所した後、初めて公式の情報発信を行った形だ。

20年の民主化要求デモで中心となった周氏ら若手活動家の団体は、香港国家安全維持法(国安法)施行直後に解散。数多くの活動家が拘束され、西側諸国の一部は同法が人権弾圧の手段に利用されていると批判した。

周氏はこの3年間、当局からの圧力でうつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)などと診断されたことや、出所後もあくまで保釈身分のままに置かれ、パスポートも管理されていたことを明かした。

またトロントの大学が受け入れに応じてくれた後、今年になって警察がようやくパスポートの返還に同意したものの、海外留学と引き換えに中国本土の「愛国的な」施設などの訪問を強要されたという。【12月4日 ロイター】
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周庭氏は香港が現在「恐怖に満ちた場所」になったと語っており、“数年にわたる中国当局による激しい追及で、メンタルヘルス(こころの健康)に不調をきたし、頻繁にパニック発作を起こしていると話した。就職活動や、銀行口座を開くといった日常的な活動にも支障が出ているという。 BBCの取材に対し周氏は、「こんな制限の中でいったいどうやって、今後10年、20年、30年を生きろと?」と話した。”【12月7日 BBC】

“海外留学と引き換えに中国本土の「愛国的な」施設などの訪問を強要”・・・いわゆる“愛国教育”による“洗脳”とも。 カナダでの生活も中国・香港当局の「長い手」に怯えながら・・・ということにもなりそうです。

****カナダに“亡命”した周庭さん 中共の洗脳教育をくぐり抜けても、今後も微妙な状況が続く事情****
(中略)
深センでの「愛国教育」
周さんが亡命を決心した背景には、中国当局の“圧力”があったと見られる。その苦労は並大抵のものではなかったようだ。

「裁判では全面的に罪を認めました。収監中には励ましのクリスマスカードを送る支援運動が行われましたが、周さんは政治的な発言を全く行わないことで中国当局に反省の意を示すことを選んだのです。模範囚として刑期が短縮され、21年に出所しましたが、当局がパスポートを差し押さえるなど、自由に生活できる環境ではなかったようです。悩み抜いた彼女は、カナダへの留学を決断し、香港政府に申請しました」(産経新聞の香港支局長を務め、中国の政治経済に精通するジャーナリストの福島香織氏)

当局の態度は厳しかった。「今後は一切、政治運動に関与しない」といった誓約書を提出させたほか、中国本土の深センで“愛国教育”を受けさせた可能性があるという。(中略)彼女にとっては屈辱的な日々だったのではないかと想像していますし、心身共に傷ついたのではないでしょうか。(中略)(同・福島氏)

中国側の計算
(中略)「家族は香港に残っているという報道もあり、“人質”となってしまう危険性があります。(中略)」

そもそも、なぜ香港当局が留学を許可したのかという点も重要だ。福島氏も「周さんの側からすると、ダメ元で申請したら、なぜか通ったのかもしれません」と指摘する。

「筋金入りの運動家とは扱いを変えている可能性もあります。例えば、香港政府に対する厳しい報道で知られた日刊紙『蘋果日報(アップルデイリー)』の創業者・黎智英(ジミー・ライ)氏は依然として収監されています。周さんはメディアの注目度が高いため、中国政府にとっても宣伝効果が期待できます。厳しい条件を課した上でカナダ留学など一定の自由を認めることにより、『我々には寛大なところもある』と国際世論にアピールできると計算しているのかもしれません」(同・福島氏)

盗聴や尾行の可能性
これから周さんを待ち受ける日々は、文字通りの綱渡りだという。中国の批判を再開すれば不利になるのは明らかだが、沈黙を貫くのも賢明ではないという。

「黙っていると、身の安全が保証されません。雄弁と同じように沈黙も不利なのです。彼女が声明を出したのも、特にメディアに関心を持ってもらうことで、自分を守ってもらおうと考えたのでしょう。今後は綱渡りの日々になると思いますが、それは正しい戦略です。周さんは今後も何らかの発言を続けていくはずですし、だからこそ日本のメディアの取材申請にも応じたのでしょう」(同・福島氏)

カナダという国は、周さんの安全という観点からすると危険も少なくないという。
「中国当局が在外華人の監視拠点として使う『中国海外警察署』を、勝手に第三国内に設置していることが問題視されたことがありました。

当初からカナダは監視の行動が活発で、警察署はカナダ国内でも早くから大きな問題になりました。カナダには大きな華人社会が存在するので、当局は目を光らせる必要があるのです。ターゲットに対する盗聴や尾行、嫌がらせなどが確認されており、周さんにも同じことが起きる可能性があります」(同・福島氏)(後略)【12月7日 デイリー新潮】
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香港政府トップの李家超(ジョン・リー)行政長官は5日、「自ら出頭しない限り、生涯にわたって追跡されることになる」と警告しています。
香港当局は、海外に逃れた民主化活動家には懸賞金を懸けて拘束しようとしています。

****英在住の香港民主活動家「命がますます危険に」 当局が懸賞金****
香港当局はこのほど、中国国外に逃れた民主化活動家8人について、拘束につながる情報に100万香港ドル(約1800万円)の懸賞金をかけた。そのうちの1人で、現在はイギリスに住んでいる羅冠聰(ネイサン・ロー)氏はBBCに対し、自分の命がますます危険にさらされたと話した。

香港では2019年の大規模な民主化デモ以降、当局による活動家への抑圧が激化している。羅氏を含む8人は、2020年に導入された「香港国家安全維持法」(国安法)で、外国勢力と結託した疑いで指名手配されている。有罪となった場合、最高で無期懲役となる可能性がある。

イギリスのジェイムズ・クレヴァリー外相は、「中国が国内外の個人を脅迫し、黙らせようとするいかなる試みも容認しない」と述べた。「我々は中国政府に対し国安法の撤廃を求めるとともに、香港当局には自由と民主主義のために立ち上がった人々を狙うのをやめるよう要請する」(後略)【7月5日 BBC】
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目立つ存在でもあった周庭氏に対しては以前からいろんな意見もあるところですが、これからも中国・香港当局との長い戦いが続くのは間違いなさそうです。
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アフガニスタン  中国は政権承認も視野に大使受入れ パキスタンとの関係は悪化

2023-12-08 23:28:18 | アフガン・パキスタン

(【12月7日 日経】左が駐中国大使に就いたビラル・カリミ氏と思われます)

【中国 タリバン暫定政権の大使受入れ 政権承認も視野に】
アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが復権して2年以上が経過しています。
タリバンは、2年の節目にあたる8月には記念式典も開催しています。

****タリバン「米国追放」祝う 復権2年、治安改善を強調****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は15日、復権から2年を記念する式典を開いた。国営テレビが伝えた。

暫定政権のハナフィ第2副首相は演説で「アフガンに不安をもたらした米国などの侵略者を追放した」と主張、戦闘が終わり治安が改善したと強調した。暫定政権は米国に対する「ジハード(聖戦)勝利の日」として同日を祝日とした。

女性の教育や就労の制限を強める暫定政権を承認した国は一つもない。国民の貧困は深刻な状態で、治安面以外の統治は機能していないのが実態だ。首都カブールでは人権活動家が15日、政権に対する抗議デモを予定している。【8月15日 共同】
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一方、タリバンに抵抗する勢力は今月3日からオーストリア・ウィーンで会合を持っています。

****アフガン民主化の計画合意 ウィーンで反タリバン勢力****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権に対抗する「国民抵抗戦線」(NRF)など反タリバン勢力は3〜5日にオーストリアのウィーンで会合を開き、アフガン民主化に向けて結束して行動するための計画で合意した。多様な民族や異なる政治的立場を尊重する内容という。

反タリバン勢力がウィーンで会合を開くのは4月に続き3回目。北東部パンジシール州を中心に活動するNRFの指導者アフマド・マスード氏や崩壊した民主政権の閣僚、活動家ら約50人が参加した。少数民族や女性を含む政権樹立を求め、タリバンを交渉の席に着かせるため武装闘争が必要だと主張している。【12月6日 共同】
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アフガニスタン国内である程度の力を有しているのは、北東部パンジシール州を中心に活動するアフマド・マスード氏が率いるタジク人勢力ぐらいですが、“民主化に向けて結束して行動するための計画で合意”とは言うものの、具体的な道筋はほとんど描けていないのが実情でしょう。

タリバン支配が長期化して、目立った抵抗勢力の活動もない・・・ということになれば、“タリバン暫定政権を承認した国は一つもない”という現状も変化してきます。

タリバン承認の先鞭をつけそうなのが中国。

****中国、タリバン承認視野か 大使受け入れ、改革促す****
中国はアフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が派遣した大使を世界で初めて受け入れた。タリバンを正統な政権として承認することを視野に入れているもようだ。

習近平指導部はアフガンの国際社会復帰を後押ししながら、暫定政権に「穏健な政策」を取るよう政治改革を促し、踏み込んだ対応を取った。

中国はタリバンの後ろ盾となり、2021年に米軍が撤退したアフガンで影響力を拡大する狙い。ただ、武力で政権を奪取し女子教育を認めないタリバン暫定政権を承認した国はなく、強権支配を容認すれば米欧から批判されるのは必至だ。【12月6日 共同】
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中国外務省の汪文斌副報道局長は、5日の定例記者会見で「アフガンが国際社会から排除されるべきではない」としたうえで、タリバンへは「国際社会の期待に応え、穏健で慎重な内政・外交政策を進めるよう期待する」と述べています。

中国のアフガニスタンへの接近の目的はアフガニスタンの豊かな地下資源とも言われており、10月の「一帯一路フォーラム」にもタリバンを招待しています。

****タリバン、「一帯一路」フォーラム参加へ 中国との関係強化****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは、中国が17─18日に北京で開催する「一帯一路フォーラム」に参加する。中国との関係を強化する。アフガンの商業・産業省報道官がロイターに明らかにした。(中略)

今回の会議は、中国の習近平国家主席が提唱する広域経済圏構想「一帯一路」の10周年に合わせて開かれる。

アフガン当局は2010年、国内に銅、金、リチウムなど推定1兆─3兆ドル相当の未開発鉱床があると述べたが、現在の推定価値は不明。

中国はアフガン東部の巨大な銅鉱山を開発する可能性について協議を進めている。
同報道官によると、アジジ氏はアフガン北部のワハーン回廊に中国への直結道路を建設する計画について中国との協議を継続する。

中国、タリバン、パキスタンの当局者は5月、一帯一路の対象にアフガンを加え、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)をアフガン国境まで拡大する意向を示している。

タリバン政権を正式に承認した国はないが、中国政府は先に、新たな駐アフガン大使を任命。タリバン暫定政権発足後に外国の大使が任命されたのは初めてだ。中国はアフガンの鉱山事業に投資している。【10月16日 ロイター】
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“強権支配を容認すれば米欧から批判されるのは必至・・・”とは言え、かねてより欧米と対立している中国としては“今更”といったところもあるでしょう。 

ただ、経済状態がよくない中国としても、今この時期に欧米との軋轢を強めるのは得策ではないとの考えもあると思われますので、タリバン暫定政権承認まで至るのかどうかは不透明です。

****習近平氏がEU首脳と会談 「国際協調」の方向に舵を切る中国****
元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が12月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国・習近平国家主席とEU首脳らとの会談について解説した。

中国の習近平国家主席がEU首脳らと会談
欧州連合(EU)のミシェル大統領とフォンデアライエン欧州委員長は12月7日、中国の習近平国家主席と北京で会談した。イタリアが中国の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱を中国側へ正式に通知したことを踏まえ、習指導部は中国離れが広がらないようヨーロッパをつなぎ止めたい考えとみられる。

ヨーロッパとの関係修復も狙いか
飯田)11月には米中首脳会談もありました。そしてEU首脳との会談があり、最近の習主席は外交でいろいろ出てきますが、どんな狙いがあると分析しますか?

兼原)ヨーロッパは日米欧など、中国以外での経済が大きいのです。中国はこれを分断しないといけないので、一生懸命ヨーロッパを分断しようとしています。しかし、日米は離れないので、ヨーロッパを取りにいく。

ヨーロッパはどちらかと言うと経済の方に関心があるので、中国はそこに目をつけていますが、なかなかうまくいっていないと思います。

ヨーロッパ側もアメリカと切れるわけにはいきませんし、中国は独裁主義で人権侵害が激しい。経済は大事ですが、「どうなのかな」とヨーロッパは考え始めているのです。中国は弱いところを取りにいくので、東欧の小さい国から取っていく。(中略)

それがまた「分断しにきた」という話になり、ヨーロッパ側が怒ったのです。上手くいっていないので、それを修復する意味もあると思います。

国際協調の方に舵を切る中国
兼原)中国はいま経済がよくありません。ロックダウンをやりすぎたのです。(中略)

私たちも長い間正座していましたが、足が痛いと言いながらも立ち上がって元気になり、最近は物価も上がって消費が伸びているではないですか。

しかし、習近平さんはやりすぎて血が通わなくなり、壊死と言うと言いすぎですが、もはや血が通わないのです。消費が伸びなくなってしまった。だったら自由にすればいいのですが、習近平さんは自由にさせることが嫌いなので、半分締め付けながら進めるため、物価(指数)も0%からマイナスになっている。とにかく経済を何とかしたいのでしょうね。(中略)

最近は「一帯一路」もうまくいっていません。先日、首脳会合を開きましたが、以前は三十数ヵ国が来たのです。それが二十数ヵ国くらいに減ってしまった。ヨーロッパはハンガリーくらいで、イタリアもやめてしまいました。アフガニスタンのタリバンを呼ぶなど、「何をやっているのか」という感じです。(中略)

アメリカに対しても修復に入っているので、「いまは喧嘩するときではない」という方針なのだと思います。(後略)【12月8日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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【タリバン暫定政権とパキスタンの関係は悪化 パキスタン当局によるアフガニスタン不法滞在者強制送還には国連機関も批判】
一方、独自性を主張するタリバン暫定政権と、タリバンを育て、支えてきたパキスタンとの関係がギクシャクしていること、イスラム過激派のテロに手を焼くパキスタンがテロの温床となっていると考える国内アフガニスタン難民をアフガニスタンに強制送還していることは、これまでも取り上げてきました。


****凄まじい数のアフガン難民がパキスタンから強制送還される理由****

パキスタンから追い出され、アフガニスタンへの帰還を余儀なくされる人々

パキスタン政府は10月はじめ、不法滞在の外国人に対する規制を強め、強制送還を実施すると発表した。実際に11月1日から、国外退去に従わない人たちの逮捕・強制送還を始めている。

これに関して国連の人権当局は、「人権の大惨事」を防ぐために強制送還を避けるようパキスタン政府に訴えている。

不法滞在の移民の数は?
パキスタンによる今回の措置は「主にアフガニスタン移民をターゲットにしているとみられている」と米紙「ニューヨーク・タイムズ」は報じる。

同国には、長年にわたってアフガニスタンの人々を受け入れてきた歴史がある。カタールメディア「アルジャジーラ」はこう解説する。

「1970年代後半から1980年代にかけて、ソ連による侵攻を受け、数万人のアフガニスタン人がパキスタンに逃亡した。さらに9.11の同時多発テロ事件後、米国の攻撃を受けたことで、また多くのアフガニスタン人が流入した。そして2021年にタリバンが政権を握ると、60万から80万人のアフガニスタン人がパキスタンに到着したと考えられている」

パキスタン政府によれば、10月31日より以前、約400万人の外国人が国内にいた。そのうち約380万人がアフガニスタン人だったという。そして政府承認の滞在資格を得ているアフガニスタン人は、そのうち220万人。160万人以上が不法滞在扱いであり、なかにはパキスタン生まれで、アフガニスタンに行ったこともない人々もいる。

パキスタンの命じた出国期限は11月1日午前0時だった。以降、これまでに20万人以上のアフガン人がアフガニスタンに入国したと見られている。

なぜ強硬な姿勢をとるのか
今回の措置の背景には、パキスタン国内で武力攻撃が急増していることがある。これは「アフガニスタンの武装組織による戦闘員、そして移民のせいだ」とパキスタン政府は主張しているのだ。

「『不法』難民の国外追放が決定された10月3日、パキスタンのサルフラズ・ブグティ内相は、今年国内で起きた24件の自爆テロのうち、14件はアフガニスタン人によるものだと述べた」という。

関係悪化の原因のひとつとしてアルジャジーラが指摘しているのは、パキスタン・タリバン運動(TTP)と呼ばれる武装集団だ。

「2007年に設立されたTTPは、組織の目標について、イスラム法の強硬な解釈をパキスタンに浸透させることと述べている。このグループは1年前、パキスタン政府との停戦協定を破棄した後、数百件の致命的な攻撃をおこなったとして告発されていた」

パキスタン側は、このTTPとアフガニスタンのタリバン政権は繋がっていると考えているのだ。なお、アフガニスタンはこれを否定している。【11月11日 COURRiER Japon】
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当然ながら、タリバン弾圧を逃れてパキスタンに来たアフガニスタン人も多数存在しますので、このような者の強制送還は人権問題になります。

一方で、タリバン暫定政権側もパキスタンのこのような強制送還を批判しています。
“背景には、経済や雇用が悪化する中で多数の送還を受け入れれば、いっそう国内が混乱しかねないという懸念もありそうです。さらに、別の懸念も指摘されているんです。”【11月13日 NHK】

パキスタン同様に多くのアフガニスタン難民を受け入れてきたイランも強制送還措置をとっているようです。

****イランもアフガン人を強制退去させている****
「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」は、イランから帰国するアフガニスタン人も急増していると報じている。同国はパキスタンと同様の措置をとっているからだ。

「今年の8月だけで約4万6000人のアフガニスタン人がイランからアフガニスタンに自主的に帰国し、さらにその後、4万3000人が書類不備を理由に国外追放されている」という。そして「イラン政府は11月以降、臨時就労許可を持つアフガニスタン人の求職活動を禁止」している。

ラジオ・フリー・ヨーロッパによれば、イランも40年以上にわたってアフガニスタン人を受け入れてきた。その数は数百万人にのぼるが、イラン政府は、アフガニスタン人受け入れに対する「国際援助の不足にしばしば不満を抱いてきた」という。

2021年8月にタリバンが政権を掌握した際、国を出た360万人のアフガニスタン人のうち、70%以上がイランに入国している。【前出 COURRiER Japon】
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当然ながら難民問題を扱う国連の機関はこうした強制送還を批判しています

****アフガン強制送還は「命が失われるおそれ」UNHCRが見直し求める****
パキスタン政府が不法滞在しているアフガニスタン人を強制的に帰国させていることに対し、難民問題を扱う国連の機関が「多くの人命が失われるおそれがある」として、見直すよう強く求めました。

パキスタン政府は先月、テロ対策として不法滞在している170万人のアフガニスタン人に対し、今月1日までに国外に退去するよう命じたうえで、従わなければ強制送還すると警告していました。

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所の担当者は21日、国外退去命令が出されてからパキスタン国内でアフガニスタン人に対する逮捕や拘束、強制送還などの件数が急激に増えていると指摘。

推計で37万人以上がアフガニスタンに帰国し、その大部分が女性や子どもなどの弱い立場の人々で、現地では最低気温が氷点下となっていることなどから、「適切な収容施設がなければ人命が失われるおそれがある」と警告しました。

そして、「アフガニスタンへの帰国はいかなる場合でも安全で自発的なものでなくてはならない」としたうえで、保護が必要な人々に適切な処置を行うようパキスタン政府に求めました。【11月23日 TBS NEWS DIG】
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タリバン暫定政権とパキスタンの不和は下記のようなニュースにも現れています。

****「ようこそ」の看板めぐり検問所一時閉鎖 パキスタン・アフガン国境****
パキスタン・アフガニスタン国境で最も通行量が多いトルカム 検問所が6日、「パキスタンへようこそ」と書かれた看板が原因で一時閉鎖された。

パキスタンとアフガニスタンの関係はここ数か月で一段と悪化している。パキスタンはイスラム主義組織タリバンが、アフガニスタンからパキスタンを攻撃する武装勢力について対策を講じていないと非難している。一方、タリバンはこの主張を否定している。

武装勢力による攻撃激化を受け、パキスタン政府は不法滞在しているアフガニスタン人に自主退去を促し、従わなければ強制送還を行うと発表。国連によると、10月以降40万人以上がアフガニスタンに帰国した。

帰国を選んだ人の多くは、交易の要所であるトルカム検問所を利用した。同検問所は今年、両国の緊張の高まりを受け、頻繁に閉鎖している。

両国とも、今回の一時閉鎖について互いを非難している。
パキスタン側の検問所の高官はAFPに、閉鎖は「パキスタン政府の強制送還方針に不満を持ったタリバン」によるもので、「看板の設置は口実にすぎない」と話した。この高官は匿名を希望した。

しかし、両国当局によると、パキスタン当局はその後、看板の撤去を命じた。(中略)

検問所があるナンガルハル州当局のクライシ・バドルーン氏によると、看板はパキスタンによって撤去された。また「協議の結果、パキスタンは新しい看板を設置しないことに合意した」とAFPに話した。

バドルーン氏は先に、パキスタンはこの看板を隠れみのにして、アフガニスタン側の領土を侵害する新たな検問所の設置をたくらんでいる疑いがあると主張していた。

歴代アフガニスタン政府は、英国支配時代に定められたパキスタンとの国境を認めていない。 【12月7日 AFP】
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「パキスタンへようこそ」という看板がなぜ問題になるのか・・・要領を得ない記事ですが、両国関係が悪化しているのは間違いないようです。

全くの想像ですが、パキスタン側には「これまでさんざん支援して、ここまで育ててやったのに。恩知らずめが!」という思い、タリバン側には「いつまでも上から目線でものを言ってくる。ウザい奴だ! アフガニスタンは自分たちが統治する国だ」という思いがあるのでしょう。

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アメリカ  若い世代で広がるパレスチナ支持 世代間の溝 一方で、根深いイスラム嫌悪も

2023-12-07 22:25:34 | アメリカ

(米マサチューセッツ大学アマースト校の学長オフィスの前で抗議デモを行う学生たち(10月)【12月1日 WSJ】)

【キャンパスを席巻するパレスチナを支持する抗議デモ 「抑圧者vs被抑圧者」という若者の世界観】
パレスチナ・ガザ地区におけるイスラエルとハマスの戦争、ガザ住民の惨状は、従来からイスラエル支持の立場にあるアメリカ社会にあっても、特に若い世代の「パレスチナ支持」拡大という形で大きな影響を与えており、従来どおりイスラエル支持の上の世代との溝を深めています。

その様相はベトナム戦争当時の若者の「反戦」、それに対する上の世代の反発をも連想させます。

****米大学でのガザ攻撃抗議 世代間の溝あらわ****
「抑圧者vs被抑圧者」という若者の世界観、上の世代と相いれず

3年前、米マサチューセッツ大学アマースト校に入学したエリン・マレンさん(21)は、新型コロナウイルス禍で疲弊し、政治デモに参加する意欲もなかった。だが先月、彼女は後ろ手に手錠をかけられ、アマーストの刑務所の拘置施設にいた。パレスチナ自治区ガザで起きた紛争への抗議活動で逮捕された57人の学生の1人だった。

マレンさんは白人で、カトリック教徒として育てられた両親を持ち、アッパーミドルクラス(上位中間層)が暮らすボストン郊外で大きくなった。彼女の政治的「覚醒」は――現在大学に通う同世代の大学生らとともに――ベトナム戦争以来見られなかった米大学キャンパスでの騒乱が急増する要因となっている。

パレスチナを支持する抗議デモの波はキャンパスを席巻し、緊張の高まりやデモに抗議する反対デモ、場合によっては暴力につながっている。ガザ紛争によって世代間の溝も露呈する格好となり、上の世代の米国人は抗議デモの規模と激しさに驚いている。

マレンさんなどパレスチナを支持する大学デモ参加者たちは、世界は抑圧される者と抑圧する者に分断されているという確固たる信念が、自分たちの行動主義の根底にあると話している。

彼らによると、この見解はさまざまな集団が経験する苦難に当てはまるという。例えば、低所得者世帯は立ち退きを迫られ、黒人や褐色人種は警察から残忍な扱いを受け、安全な避難場所を求める移民は国境で入国拒否される。現在の紛争で言えば、パレスチナ人は領土の支配権をイスラエルから奪還できずにいる。

「ガザは二者間の戦争ではない」とマレンさんは言う。「いま起きているのは抑圧者に対する被抑圧者の抵抗なのだ」

米国がテロリスト組織に指定するイスラム組織ハマスに対するデモ参加者の共感は、傍観者を時にあぜんとさせ、いら立たせる。ハーバード大学とハリスの世論調査によると、パレスチナ人の怒り・不満によってハマスの10月のイスラエル攻撃は正当化されたと考える人は18~24歳の米国人の約半数を占める。これに対し、65歳以上ではわずか9%だ。

パレスチナを支持するイベントの参加者には多様な学生団体が含まれる。自分たちの支持する大義とガザ地区のパレスチナ住民の窮状は直接関連づけられる、と彼らは主張する。

今月のある抗議イベントでは主催者の「占領に反対するペンシルベニア大学学生組織(PAO)」の呼びかけに対し、ペンシルベニア大の化石燃料企業への投資に反対する「フォッシル・フリー・ペン」、学内の警察取り締まりに反対する「ポリス・フリー・ペン」、「チャイナタウン保存のための学生組織(SPOC)」などが応じ、大学理事会の会議開催に合わせてデモを実施した。(中略)

世代間の変化
現在の大学生が小学校に入学したのは、火災訓練の代わりに銃乱射事件の訓練が始まり、親たちが2008年の景気後退に直面していた頃だ。成長するにつれ、気候変動危機が注目を集め、2016年にドナルド・トランプ氏が米大統領に選ばれたのを機に地域社会は二極化した。

コロナ下で学校が閉鎖され、黒人男性ジョージ・フロイドさん殺害事件後には抗議デモで街路が封鎖された。彼らはいま所得格差が過去最大級に広がった社会に出て行く準備をする中、高い比率で広がる不安やうつと闘っている。

ピュー・リサーチの2022年の世論調査によると、18~29歳の層で社会主義に賛成する人は約半数に上り、市場経済を支持する人の割合よりも多い。多くの人々は市場経済が彼らの直面する複合的な災難の原因だと考えている。(中略)

デモや公式声明の中で、(ハマスの)この攻撃を「武装蜂起」や「抵抗行動」と呼ぶデモ参加者もいる。だがそのような位置づけは特にユダヤ人指導者には許しがたいものだ。彼らは大学管理者に対し、こうした表現を反ユダヤ主義的だと非難するよう求めている。

キャンパス内でパレスチナの大義を支持する多くの人々は、公然と発言するのは気が引けると話す。嫌がらせを受けたり、反ユダヤ主義者と呼ばれたりすることを恐れるためだ。

ハーバード大やコロンビア大などでは、ハマスの攻撃に関してイスラエルを非難した学生の名前と顔を電光掲示板に表示したトラックがキャンパス周辺を走行した。多くの集会では、参加者に匿名性を守るマスクを着用し、写真を撮影せず、取材記者を避けるよう促している。

各大学の学長らは、言論の自由を擁護し、激怒する卒業生をなだめ、ユダヤ系やアラブ系の学生が嫌がらせを受けないようにすることの間でバランスに苦慮している。各大学はここ数週間、反ユダヤ主義の高まりに対処する諮問委員会やタスクフォース、研究センターの設置を相次ぎ発表している。

コロンビア大学では、イスラエルを支持する集会の宣伝ポスターをはがした女子学生に対し、抗議した男子学生が木製の棒で殴られた。テュレーン大学とマサチューセッツ大学では、パレスチナ支持者が抗議デモの最中にユダヤ人学生を殴打した。コーネル大学では、ユダヤ教の食事規定に従った食堂を銃撃すると脅した疑いで学生が起訴された。さらに全米各地の大学生が、ガザ地区でハマスの人質になっているイスラエル人のポスターを引き剝がしたり、落書きで汚したりしている。

「決して屈しない」
全米の抗議デモで目を引くテーマの一つは「入植者植民地主義」、すなわち入植者が先住民を追い出し、暴力的に帝国を建設することへの反対だ。シオニズム――ユダヤ人国家としてのイスラエルを支持すること――は、かつて欧州が米州大陸やアフリカを植民地化したのを現代に置き換えた形だと大学デモ参加者たちの多くは考えている。

「われわれは植民地支配者やその同調者に決して屈しない」。ジョージ・ワシントン大学の「パレスチナの正義のための学生組織」はインスタグラムのアカウントでこう述べた。「入植者の植民地は滅び、われらの土地は解放され、われわれは再び故郷に戻るだろう」

米大学ではアフリカ系米国人や女性・ジェンダー、中東などの研究分野で、かつて社会から取り残されていたコミュニティーの歴史や経験を学ぶ授業が増えている。人種的に多様化した学生層に対応するため、各大学では約50年前から、欧米の規範を超えた分野を取り扱う講座に注目し始めた。(中略)

冒頭のマサチューセッツ大学のマレンさんは、ハマス批判は多くの場合、パレスチナ運動の正当性を損なうために利用されると指摘。彼女は「関係する全ての人々に深い共感」を覚えるとし、10月7日の攻撃を容認はしないが、いわれのないものではなかったと語る。

イスラエルは、パレスチナ人を「(ガザという)屋根のない監獄、すなわち強制収容所」に閉じ込めることで、暴力のお膳立てをした、と彼女は言う。「メディアの描き方では、その状況が非常に理解しづらいが、実際にはかなり分かりやすい構図の紛争だ」(後略)【12月1日 WSJ】
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いつも言うように、国家としてのイスラエルの政策・行動への批判が「反ユダヤ主義」として括られ、タブー視されることには違和感を感じます。

ただ、アメリカ社会にあっては「イスラエル批判=反ユダヤ主義」というとらえ方が根強くあるようです。

【対応を迫られる大学当局】
上記記事にもあるように、ハーバード大学など多くの大学で、上の世代である卒業生からの学生のパレスチナ支持行動への激しい批判もあって(寄付金などに直結します)、学生の行動を封じ込めようとしています。

それでもイスラエル支持の米議会には不満なようで、大学学長が議会の公聴会で詰問されており、学長は学内での「反ユダヤ主義」拡大への懸念を表明しています。

****学内で反ユダヤ主義、劇的拡大 ハーバード大学長が議会で懸念****
米ハーバード大のゲイ学長は5日、下院教育労働委員会の公聴会で、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まって以降、学内で「反ユダヤ主義が劇的に拡大している」と懸念を示した。マサチューセッツ工科大(MIT)とペンシルベニア大の学長も出席し、同様の見解を示した。

ハーバード大ではハマスがイスラエルに奇襲を仕掛けた10月7日、学生団体が「責任は全面的にイスラエルにある」としてパレスチナへの抑圧的な政策を問題視する声明を発表。投資会社の経営者らが「関係した学生は雇用しない」として氏名の公表を大学側に求めるなど混乱が続いている。【12月6日 共同】
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ただ、ハーバード大学長が「表現の自由」にも一定に配慮する発言をしたことで、「反ユダヤ主義」を容認しているとの批判に曝されているとか。

****米ハーバード大学長、非難の矢面に 「反ユダヤ主義容認」発言受け****
米ハーバード大学のクローディン・ゲイ学長は5日、下院教育労働委員会の公聴会で、学内で反ユダヤ主義的な言動が拡大する中、言論の自由を優先する考えを示した。反ユダヤ主義を容認していると受け止められ、一部議員が辞任を要求するなど、非難の矢面に立たされている。
 
公聴会ではエリス・ステファニック議員(共和党)が、一部学生が新たなインティファーダ(反イスラエル闘争)を呼び掛けていることについて、「イスラエルおよび世界でユダヤ人に対するジェノサイド(大量殺害)」を扇動しているに等しいと指摘。ゲイ学長に、そうした言動は大学の行動規範に反しないかただした。

ゲイ学長はそれに対し「反対意見や、攻撃的な、もしくは憎悪に基づいた意見であっても、われわれは表現の自由に対するコミットメントを奉じている」と説明。ただし「いじめやハラスメント(嫌がらせ)、脅迫など、規範を侵害する発言についてはわれわれは行動を起こす」と述べた。

これを受けてステファニック議員は即時辞任を要求。上院のテッド・クルーズ上院議員(共和党)は「恥ずべき」発言だと批判した。

大学への寄付者らも、ゲイ学長に対し、より明示的なイスラエル支持と、親パレスチナの学生グループへの非難を打ち出すよう求めた。

こうした批判を受け、ゲイ学長は6日、SNSで、誤解があったとし、「ユダヤ人社会もしくは特定の宗教・人種グループへの暴力やジェノサイドを呼び掛けることは卑劣な行為であり、ハーバードに居場所はない。本学のユダヤ人学生を脅す者には責任を取ってもらう」と述べた。 【12月7日 AFP】AFPBB News
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【「自由」「民主主義」のリベラルなイメージとは異なるアメリカの保守的な価値観】
こうした「パレスチナ支持」「反イスラエル」といった「異論」への徹底した嫌悪・封じ込めを求める動きというのは、近年のアメリカ社会の中絶規制、反移民の強硬策、教育現場でのLGBTや人種に言及する本の「禁書」扱いなどと相まって、アメリカ社会のコア部分に存在する極めて保守的な価値観を改めて感じます。

考えてみれば、黒人差別をなくすための公民権法が成立したのがわずか60年ほど前の1964年で、それまでは人種差別が許容されていた社会でもありますから、「自由」「民主主義」のリベラルなイメージとは異なる保守的な価値観が根深く存在するのも当然のことかも。

そうした価値観・感情は短期的には「トランプ政治」で盛り上がりを見せていますが、長期的には非白人が増加するなかで次第に追い詰められていくことにも。その時、追い詰められた側の危機感が何を起こすのか・・・議会襲撃のような「茶番」ではすまないものも・・・・ドラマ「侍女の物語」が描くような暴力的な力によって支配される超保守的・差別的社会も全くの絵空事ではないのかも・・・。

アメリカの場合、通常時に州知事の指揮下で治安維持(暴動鎮圧)や災害救援などにあたる州兵が存在(陸軍だけでなく空軍も 最大規模はテキサス州の2万1000人 小国の国軍並みです)しますので、クーデターや内戦の可能性も否定できません。議会襲撃事件では暴徒鎮圧で動員されましたが、逆の立場で関与する可能性も・・・。

【根深いイスラム嫌悪も表面化】
若い世代を中心としたパレスチナ支持(上の世代が言うところの「反ユダヤ主義」)が広がる一方で、根深い反イスラム感情、「イスラム嫌悪」もまた表面化しています。

****6歳少年がイスラム教徒だとして刺され死亡、憎悪犯罪で家主起訴 アメリカ****
米イリノイ州で14日、イスラム教徒だという理由で6歳の少年が刃物で殺害されたほか、女性(32)がけがを負う事件があり、家主(71)が殺人とヘイトクライム(憎悪犯罪)などの罪で起訴された。被害者2人は親子とされる。
ジョセフ・ズーバ被告は、第1級殺人、第1級殺人未遂、ヘイトクライム、加重暴行の罪で起訴された。

ウィル郡保安官事務所は15日の声明で、パレスチナのイスラム組織ハマスとイスラエルの軍事衝突が、今回の事件の背景にあると説明した。(後略)【10月16日 BBC】
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バイデン政権も“来年の大統領選に向けてアラブ系の支持をつなぎ止めたい”との思惑もあって、対応を。

****米国内の「イスラム嫌悪」に対抗する国家戦略策定へ バイデン政権****
ホワイトハウスはアメリカ国内の「イスラモフォビア=(イスラム嫌悪)」の広がりに対抗する国家戦略を策定すると発表しました。
シカゴ近郊で先月14日に、パレスチナ系の6歳の少年がイスラム教徒だという理由で、大家の男に刃物で殺害されるなど、アメリカではイスラエルとハマスの衝突以降、イスラム教徒を標的としたヘイトクライムへの懸念が高まっています。

ホワイトハウスは1日の声明で、バイデン政権としてアメリカにおける「イスラモフォビア=(イスラム嫌悪)」に対抗する初の国家戦略を策定するとし、誰もが安心して生活できる自由を確保すると強調しました。

アラブ系アメリカ人の間では、イスラエルへの支持を表明したバイデン大統領への不満が高まっていて、最新の調査ではバイデン氏の支持率が急落しています。

今回の国家戦略策定の背景には、来年の大統領選に向けてアラブ系の支持をつなぎ止めたいという思惑もうかがえます。【11月2日 テレ朝news】
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殺人にまで至るのは「病気」のなせるところでしょうが、もっと一般的なものの方が怖いかも。

****アメリカン航空、「パレスチナ」と書かれたトレーナーの乗客に「脱がなければ、警察に」と指示か****
アメリカン航空は、「パレスチナ」と書かれたトレーナーを着ていた乗客に対して、客室乗務員が「脱がなければ警察に通報する」といった趣旨の話をしたとされる事案について現在調査中と発表した。(中略)

X(旧Twitter)での投稿によると、この出来事は11月28日、アメリカ・ニューヨークからアリゾナ州フェニックスへの午後12時59分のフライトで起こったという。そこで客室乗務員は乗客のトレーナーが「政治的」で問題だと述べたという。(中略)

アメリカ・アラブ反差別委員会もアメリカン航空を非難し、この出来事は「差別的であるだけでなく、パレスチナ人とそのアイデンティティーに対する広い偏見に寄与している」との声明を発表した。

イスラエルとハマスとの紛争は、反ユダヤ主義やイスラム恐怖症の脅威、ハラスメントや差別的犯罪の増加につながっている。(後略)【12月4日 HUFFPOST】
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パレスチナ  ヨルダン川西岸地区で増加するユダヤ人入植者の暴力

2023-12-06 23:15:11 | パレスチナ

(ヨルダン川西岸でイスラエルの警察ともみ合うパレスチナの老人【12月5日 Newsweek】)

【ガザに注目が向いている状況で進む、西岸地区でのユダヤ人入植者の暴力・土地収奪】
パレスチナ・ガザ地区での惨状は連日多くが報じられていますが、パレスチナのもう一つのエリア、ヨルダン川西岸地区でもユダヤ人入植者による暴力が増加しています。

ハマスが実効支配するガザ地区に対し、ヨルダン川西岸地区はパレスチナ自治政府が統治する・・・ということになっていますが、(国際社会が国際法違反と批判するなかで)イスラエル政府の承認のもとでユダヤ人入植地が違法に拡大し、そのユダヤ人区域とパレスチナ人区域は壁で隔てられ、パレスチナ人区域は寸断される状況にもなっています。

また、西岸地区の多くの地域はイスラエル軍が警察権を持つ「B地区」(2000年時点で面積の23.8%)、行政権及び警察権を持つ「C地区」(60%以上)となっていて、自治政府の権限が及ばない地域が大半を占めています。(自治政府が行政権及び警察権を持つ「A地区」は17.2%)

“地区の面積は5,660km2だが、統治者によって3つの区分に分けられる。総人口は約380万人(2020年時点)であり、内訳はパレスチナ人が約309万人(81.2%)、ユダヤ人入植者が約71万人(18.8%)となっている。”【ウィキペディア】

このように西岸地区が入植地によって蚕食されている状況は、将来的なパレスチナ国家樹立にとって大きな問題となっています。

****ヨルダン川西岸で入植者急襲 村を追い出されるパレスチナ人****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸にあるベドウィン(遊牧民)の村、ワディシークの住民約200人は、ヒツジやヤギを連れて徒歩で逃げた。1時間後、村には誰もいなくなった。

イスラエルとハマスの武力衝突が始まってから5日後の10月12日、イスラエル人数十人が押し寄せて、1時間以内に村から出ていくよう告げられたと住民の一人は話す。数十人の中には、入植者や兵士、警察官がいた。

住民の話によると、普段から村に対して嫌がらせをしていた入植者も交ざっていて、そのうちの何人かは軍服を着ていた。現場には、軍や警察の車両もあった。

AFPは、当時の状況についての取材を何度も求めたが、イスラエル軍からのコメントはまだない。(中略)

ワディシーク村は、西岸の主要都市ラマラから東に約10キロに位置する。現在は、十数家族と共に北方の村タイベに避難しているという村の指導者アブ・バシャールさんは、「襲撃に対する報復攻撃がわれわれに向けられている」と語った。

ガザでの武力衝突は、ヨルダン川西岸にも不穏な影響を及ぼしており、10月7日のハマスによる奇襲以降、イスラエル兵や入植者との衝突で110人以上が命を落としている。

1967年の第3次中東戦争で占領された西岸には約300万人のパレスチナ人が暮らす。域内にはイスラエル人入植地が各地に点在しており、入植者の数は49万人にも上る。しかし、本来これは国際法を破る行為だ。

衝突を機に、パレスチナ人への入植者による違法行為は2倍以上に急増している。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、脅迫、窃盗、襲撃など1日で平均3~8件発生している。

次に狙われるのは自分が暮らす村と不安を隠せない様子でAFPの取材に応じたのは、西岸のラマラとエリコの中間に位置する別のベドウィンの村に暮らすアリア・ムリハトさんだ。

「(夜は)安心して眠ることができない。悪夢のようだ」とし、「衝突が始まってから、入植者たちはより多くの武器を持つようになった」と訴える。

「入植者とイスラエル軍とによって、わたしたちは新たな『ナクバ』を経験している」
ナクバとは、アラビア語で災厄の意味を持つ。1948年のイスラエル建国宣言を受けての第1次中東戦争で、約76万人のパレスチナ人が追放された悲劇を指す。

OCHAによると、10月7日以降にヨルダン川西岸で避難を余儀なくされた人は607人に上っている。そのうちの半数以上は子どもだ。それ以前の避難者数は、1年半で1100人だった。

 ■「全てが破壊されていた」
1週間後、荷物を取りに行くためにワディシーク村への帰還が許された。村の指導者であるバシャールさんは「全てが破壊されていた。動物の餌もまき散らされていた」とAFPに説明した。

AFP取材班も、荒らされた家々を目の当たりにした。たんすは空っぽになり、子どもたちのベッドも破壊されていた。カーテンは引き裂かれ、紙くずやサンダル、おもちゃなどが床に散乱していた。

村内と周辺では、入植者が乗る車両がうろついていた。一部はイスラエルの旗を掲げていた。バシャールさんは「私たちを追い出して、土地を奪取するための長期的な計画だ。ガザでの衝突に注意が向いているうちに進めようと思ったのだろう」と話した。

イスラエルの人権活動家ガイ・ハーシュフェルドさんもバシャールさんと同じ見方を示す。「入植者はこの衝突を好機とみて、『C地域』からユダヤ人以外を全て追い出そうとしている」

ハーシュフェルドさんが言う「C地域」とは、イスラエル軍が全権を持つ被占領地を指し、西岸の60%に及ぶ。

実際のところ、入植者たちの行動はイスラエル社会でもあまり良くは思われていない。それでも、右派のベンヤミン・ネタニヤフ政権からは強力な支持が得られている。

西岸にはイスラエル兵が多数配置されているものの「軍は入植者による暴力に対しては介入しない」と、人道支援の調整を行うNGO「ヨルダン川西岸保護コンソーシアム」のアレグラ・パチェコ代表は話す。 「イスラエル兵の存在により、さらなる暴力行為につながることが多い」 【11月2日 AFP】
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****ヨルダン川西岸で激化する、イスラエル人入植者によるパレスチナ人への暴力行為...住民が語るその実態 “LEAVE OR DIE”****
<「私には未来が見えない。それでも自由主義世界の良心がこの状況を変え一筋の希望の光を見せてくれると信じ、どうにか私たちは生きている」イスラエルの人権擁護団体の職員は取材にこう語った>

パレスチナ自治区ガザ地区で戦闘が続くなか、ヨルダン川西岸ではイスラエル人入植者によるパレスチナ人への暴力行為が激しさを増している。

イスラエルの人権擁護団体ブツェレムの職員で西岸に住むナセル・ナワジャにスレート誌記者のアイマン・イスマイルが取材し、実態を聞いた。以下はナワジャの話をイスマイルが書き起こし、編集したものだ。
◇ ◇ ◇

イスラエル人入植者はまるで兵士だ。パレスチナ人への襲撃作戦を遂行しようと、軍服姿で家々に夜襲をかける。白昼堂々と来ることもある。私たちを殴り、暴力行為が記録されないようにスマホを取り上げ、踏みつぶし、金品を奪う。そして最後には決まってこう脅す。「24時間以内に出ていかなければ撃ち殺す」
彼らは既に6つの村から、全住民を力ずくで退去させた。

私は生まれたときから西岸C地区のスシヤ村で暮らしている。パレスチナ人の小さな村だ。世界の目がガザに向いているのをいいことに、入植者たちはテロと暴力でC地区を支配し、土地を乗っ取ろうとしている。彼らは逮捕されるべき犯罪者だが、今では彼らが法律と化している。

3年前から暴力は日に日に増えてきた。入植地の近くで暮らしていれば、乱暴な連中の顔は分かる。4日前の夜、彼らは私の近所の家を襲い、男の住人4人を銃で脅して外に追い立てた。そして家の所有者の頭にM16自動小銃を突き付け、「死にたくなければ出ていけ」と恫喝した。

これほど恐ろしい思いをするのは初めてだ。イスラエルの警察に助けを求めたが、今は戦時だから何もできないとあしらわれた。戦争が起きてから増えたのは確かだが、暴力自体はイスラム組織ハマスがイスラエルに奇襲を仕掛けた10月7日の前から存在していた。

10月16日、1人の入植者がブルドーザーで私たちの村に押し入り、その様子をイスラエル軍の兵士たちはただ見ていた。以来、村は完全に包囲されている。水も医療も物資もなく、薬も手に入らない。入植者が道路を封鎖しテロ行為を行うので、子供は学校にも行けない。

彼らは道路を破壊し、オリーブ畑の木々を根こそぎにし、井戸とソーラーパネルを壊した。こうした狼藉を働く入植者をイスラエル軍は保護し、警察は見て見ぬふりをする。

パレスチナ人の命は軽いから、反撃どころか抗議すらできない。文句を言えば、その場で撃たれる。数日前も近くの村である家が略奪に遭い、放火された。殺されたパレスチナ人も大勢いる。罪に問われないと分かっているから、入植者はこんなまねをするのだ。

私たちに逃げ場はない。パレスチナ自治政府は無力で、自分たちの領土でさえ入植者に手出しができない。(後略)
【12月5日 Newsweek】
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【“一般的なイスラエル人は、パレスチナのテロリストと、テロの恐怖に怯えているパレスチナ人を区別しようとしていない”】
西岸地区におけるユダヤ人入植者の暴力増加は、ハマスの攻撃によって、“一般的なイスラエル人は、パレスチナのテロリストと、テロの恐怖に怯えているパレスチナ人を区別しようとしていない”という状況が背景にあります。

****「テロリストと一般人を区別していない」ガザ以外のパレスチナ自治区で、イスラエル人入植者の暴力が増加****
(中略)イスラエル政府は、パレスチナ自治区に自国の市民を移住させるという 入植政策 をとっている。政府は、西岸地区に移住した入植者に対し、住宅や教育、イスラエル国内までの交通を提供している。

一方、パレスチナ人に対する政策は厳しい。国際社会の意見に反しイスラエルはその違法性を否定しているが、パレスチナ人の家や土地を奪い、道路の通行を禁止するほか、電気や水などのインフラを断つなど、生活が困難な環境に追い込んでいる。

壁の建設で進む分断
2002年から、イスラエルと西岸地区を隔てる巨大な分離壁が建設されている。
分離壁は、イスラエルと西岸地区の境界線を超えて、イスラエル人専用の道路や、入植者が暮らす土地とつながっており、パレスチナ人の村を飛び地状態に分断している。

国連人道問題調整事務所 によると、イスラエルとハマスの軍事衝突以降、西岸地区における入植者の暴力行為が倍増したという。

家を襲い放火…。入植者が集団で暴力、死者100人越えか
一部のイスラエル人入植者が、パレスチナ人の家を襲い、 破壊行為や放火 といった暴力行為をはたらく事態が相次いでいる。1000人ほどの入植者がガソリンを持って集まり、パレスチナ人の村を丸ごと 焼き払う 事件もあった。

入植者による1日あたりの暴力事件は、10月6日まで平均3件だったのに対し、ハマスが突如イスラエルを攻撃した10月7日以降、平均7件にまで増えている。

時事通信 によると、11月6日の時点で、イスラエル軍や入植者との衝突により、110人以上のパレスチナ人が命を落としている。

イスラエル人活動家の思い「支援はないに等しい」
アリク・アッシャーマンさんは、イスラエルと占領地の人権保護活動に取り組むイスラエルの団体「人権のためのラビ」の事務局長だ。

アルジャジーラ によると、ヨルダン川西岸地区に暮らすパレスチナ人のうち、8万〜10万世帯が、オリーブやオリーブオイルの生産を主な、あるいは二次的な収入源として暮らしている。

入植者による暴力は、オリーブ収穫期に増加する傾向にあるため、「人権のためのラビ」は収穫期にオリーブ園にパレスチナ農民と同行し、入植者から保護する活動に励んでいる。(中略)

「ハマスがイスラエルに対して行ったことについては、なんの言い訳も、説明も、正当化もできない」
「でも今や、一般的なイスラエル人は、パレスチナのテロリストと、テロの恐怖に怯えているパレスチナ人を区別しようとしていない」

アッシャーマンさんは、28年間、活動に従事している。「消極的」だとは言うが、活動に賛同して支援してくれるイスラエル人も多くいたという。
「いまはもう、そういった人々はいなくなった。支援はないに等しい」【11月21日 BuzzFeed】
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【ようやくアメリカも批判 イスラエル政府も 実効性は疑問】
上記のような西岸地区におけるユダヤ人入植者の暴力に対し、イスラエルを支持するアメリカも“容認しない”との姿勢を見せています。

****米、入植者のビザ発給制限へ=西岸での襲撃容認せず****
ブリンケン米国務長官は5日、イスラエルが占領するヨルダン川西岸で激化するパレスチナ人襲撃を巡り、関与したユダヤ人入植者に対し、ビザの発給を制限する方針を発表した。家族も対象となる可能性があり、バイデン政権として西岸での暴力を容認しない厳しい姿勢を示す狙いがある。

ブリンケン氏は声明で「西岸の市民へのあらゆる暴力行為の責任を追及し続ける」と強調した。対象者は「西岸の平和と安全、安定を損なう行為に関与したとみられる個人」で、暴力に加え、生活必需品の入手を不当に妨げる行為も含まれる。

パレスチナ当局によると、イスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃した10月7日以降、西岸などで260人以上が死亡した。入植者の活動を監視する人権団体はロイター通信に対し、西岸での暴力事件の件数が今年、15年ぶりの高い水準を記録したと説明している。【12月6日 時事】
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もちろん、ビザの発給を制限だけでは何の効果もないでしょう。アメリカが本気で“容認しない”と言うなら、イスラエル政府に強く働きかける必要があります。

そうした何らかの働きかけがあったのか、イスラエル政府も一応形の上では・・・ 

****イスラエル国防相、ヨルダン川西岸入植者による暴力急増を非難****
イスラエルのガラント国防相は5日、ヨルダン川西岸地区のイスラエル人入植者によるパレスチナ人への暴力を非難し、法治国家では武力を行使する権限があるのは警察と軍隊だけだと述べた。

ガラント氏は記者会見で、「悲しいことに、過激派による暴力事件が起きており、われわれはこれを非難しなければならない」と述べた。

ヨルダン川西岸地区では、イスラエル人による入植地が拡大する中、ここ数カ月で暴力事件が急増している。【12月6日 ロイター】
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ガラント国防相はネタニヤフ首相が進める司法改革に反対し国防相を解任されかけた人物ですが、入植活動を推進する極右政治家も参加するネタニヤフ政権においてどこまで統一的なものとなっているのか、更に、実効性があるのか・・・わかりません。

【戦闘員1人につき民間人2人犠牲・・・「非常に良い比率だ」】
“一般的なイスラエル人は、パレスチナのテロリストと、テロの恐怖に怯えているパレスチナ人を区別しようとしていない”ということでは、ガザ地区における多大なパレスチナ民間人の犠牲に対するイスラエル側の“鈍感さ”も同根でしょうか。

****戦闘員1人につき民間人2人犠牲…イスラエル軍「良い比率」 苦言も****
イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続く中、AFP通信は4日、1万6000人を超すパレスチナ側の死者のうち、ハマス戦闘員が約5000人に上ると報じた。民間人の死者は約1万人となり、計算上は戦闘員の2倍となっているが、イスラエル軍のコンリクス報道官はこの数字について「非常に良い比率だ」と答え、議論を呼んでいる。

コンリクス氏は4日放映された米CNNの番組で、「他の都市部で市民を人間の盾として使っているテロ組織と軍の紛争に比べれば、この比率はとても良く、世界で唯一だろう」と言明。この発言がテロ組織の戦闘員の殺害を優先し、民間人の犠牲をいとわないとも受け取られた。(中略)

コンリクス氏の発言を受け、国連事務総長のドゥジャリク報道官は5日の記者会見で「悪趣味だ」と評し、市民の犠牲を減らすという最優先事項が「成功しているとは言えない」と苦言を呈した。

コンリクス氏も5日になり、死者数は確定していないと述べ、自身の発言について「言葉をもっと選ぶべきだった」とCNNに釈明した。【12月6日 毎日】
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【イスラエル警察 ハマスの性暴力を報告】
イスラエル側の暴力だけを取り上げるのは片手落ちで不公平でしょうから、ハマス側の暴力についても。
ハマスは否定していますが・・・

****ハマス、イスラエル奇襲時の性暴力疑惑を否定****
イスラム組織ハマスは4日、10月7日のイスラエルへの越境攻撃の際に、同組織の戦闘員が民間人にレイプなどの性暴力を行ったとされる批判を「根拠のないうそ」として全面的に否定した。

イスラエル警察は、ハマス戦闘員がキブツ(生活共同体)や基地を襲撃した際、レイプから遺体損壊に至るまでの性暴力を行った証拠を集めたと発表した。

これに対しハマスは、「パレスチナのレジスタンスであるわれわれを極悪視するため、根拠のないうそや疑惑を広めるシオニストによるキャンペーン」の一環だと非難。イスラエルの女性団体や人権団体による主張についても、10月7日の戦闘開始以来イスラエルが繰り返している「うそ」の一つだと一蹴した。

イスラエルでは先週、警察幹部が議員らに対し、目撃者、医療従事者、病理学者から「衝撃的な証言1500件以上」を捜査当局が収集したと報告。

「少女らが上半身も下半身も衣服をはぎ取られたり」、若い女性が集団レイプされ、手足を切断されて殺害されたりという悲惨な目撃証言もあったと語った。

さらに、「性器や腹部、脚、臀部(でんぶ)」を負傷し、「乳房を切除」されるか、「銃創」を負っていたという証言もあり、初動要員は「両手を後ろ手に縛られ、陰部から血を流している女性の遺体」もあったと話していると述べた。

ハマス襲撃時のジェンダーに基づく暴力に関する調査委員会の委員長は先月、「10月7日に(ハマスに)レイプなどの性暴力を受けた被害者の大多数は殺害されており、証言は得られない」と述べた。(後略) 【12月5日 AFP】
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上記のハマスの性暴力に関する報告を受け、アメリカのバイデン大統領は5日、「ここ数週間、生存者や目撃者が想像を絶する残酷さの恐ろしい証言を共有している」と述べ、国際社会に対し、非難するよう呼びかけています。

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パレスチナ  ネタニヤフ首相は「ポスト・ハマス」をどうする? 「2国家共存」を求める国際社会

2023-12-05 23:32:15 | パレスチナ

(パレスチナ自治区ガザ地区南部ラファで、イスラエル軍の爆撃が再開し、負傷した少年を抱いて運ぶ男性(2023年12月1日撮影)【12月1日 AFP】)

【「避難先」の南部も戦場に 更なる避難を強いられるガザ住民】
イスラエル軍とハマスの戦闘が再開したパレスチナ・ガザ地区では、北部からの避難民が集まる南部へ戦場が拡大しています。

****北部の軍事作戦「ほぼ完了」イスラエル軍、南部へ 人道危機拡大か****
イスラエル軍幹部は4日、軍が運営するラジオで、パレスチナ自治区ガザ地区北部での軍事作戦について「ほぼ完了した」と述べ、北部での軍事目標の達成は間近だとの認識を示した。ロイター通信が報じた。

この幹部は「(イスラム組織)ハマスの壊滅に向け、ガザ地区の別の場所で地上作戦を拡大しつつある」とも語った。イスラエル軍は南部への侵攻を進めており、人道危機が拡大する恐れが強まっている。

イスラエル軍は4日、X(ツイッター)への投稿で、ガザ地区第2の都市・南部ハンユニスの約4分の1のエリアから住民に避難するよう勧告した。中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」は住民の話として、4日早朝からイスラエル軍の戦車が東側からハンユニスに向けて進軍を始めたと伝えた。空爆や砲撃も激化しているという。

ロイター通信などによると、イスラエル軍が「避難先」としている南部ラファでも空爆があり、複数の住宅が倒壊した。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のラザリーニ事務局長は4日、「イスラエル軍はハンユニスからラファへ避難するよう命じ、(同地への)空爆を続けている。避難勧告はパニックや恐怖、不安を生み出している」と批判した。

作戦完了が近いとされながらも、ガザ地区北部でも激しい戦闘が続いている。パレスチナメディアは4日、ガザ市で住民が避難していた2カ所の学校がイスラエル軍の攻撃を受け、少なくとも50人が死亡したと報じた。また、パレスチナの主要通信会社はガザ市を含む北部で主要ネットワークが機能しなくなり、通信ができなくなったと伝えている。

こうした中、赤十字国際委員会のスポリアリッチ委員長は4日、ガザ地区の病院を視察し、「(支援物資を積んだ)トラックを増やすだけでは解決できない状況がある。国際社会が直面している道徳の破綻を変えなければならない」と訴えた。

当局によると、これまでの戦闘による死者数は、イスラエル側が約1200人、ガザ側が1万5899人。ガザの保健当局は、死者の約7割が女性と子供だとしている。【12月5日 毎日】
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【戦闘再開・拡大の背景にイスラエル右派勢力の存在か】
イスラエル側とパレスチナ側の犠牲者の「極端なアンバランス」は“いつものこと”ではありますが、連日増え続けるガザ地区住民の膨大な犠牲、とりわけ、攻撃するから南に行けと言われ、南に逃げるとそこにもまた空爆、更に他に行けと言われる・・・といったイスラエルの徹底した、あるいは執拗な、あるいは無慈悲な攻撃に対してはアラブ諸国・イランだけでなく欧米社会でも批判的に見る向きがあります。

フランス・イギリスなどでは停戦を求める大規模なデモが繰り返され、イスラエルを支えるアメリカでも、若い世代ではイスラエルよりパレスチナ側に共感を示す声が上回るような状況になっており、バイデン大統領の再選戦略にも影響しています。

イスラエル国内では以前からハマスへの攻撃と人質救出のどちらを優先するかで議論があります。イスラエル世論は人質救出優先を望む声が強いものの、現実のイスラエル軍の戦闘再開・徹底した攻撃の背景として、ネタニヤフ首相が右派勢力に引きずられているとの指摘も。

****ガザ戦闘再開 バイデン大統領「2国家共存」は米国内向けの発言でしかない****
ジャーナリストの須田慎一郎が12月4日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。イスラエル・ハマス紛争について解説した。

イスラエル軍の戦闘再開から2日間で200人が死亡
パレスチナ自治区ガザで戦闘を再開したイスラエル軍は、残る人質の解放とイスラム組織ハマスの壊滅を目指すとして、全域で激しい攻撃を続けている。ガザ地区の保健当局は戦闘再開から2日間で200人が死亡、負傷者は600人近くに上ると発表した。 

飯田)イスラエル軍の参謀総長は、ガザ南部で作戦を開始し、地上作戦も開始したと発表しました。「北部と同様の戦いを南部でも行う」と強調しています。 

須田)国際世論からの反発もあると思いますが、なぜイスラエルがこのように行動するかについては、イスラエル国内の政治情勢を見なければ理解できないと思います。現状、イスラエルの国会議員数は120人だと言われています。イスラエルは小党乱立の状況にあるので、連立政権を組んで61議席以上を獲らないと過半数が得られず、政権が維持できないのです。 

連立政権を維持するために極右政党を呼び込み、ガザ制圧に大きな影響を与えてしまった
須田)中道右派の政党である国家団結党が、長らくイスラエルの連立与党に入っていたのですが、それがネタニヤフ首相と仲違いになり、出ていってしまいました。12議席あったものを穴埋めするため、宗教右派・極右政党を呼び込んでしまったという背景があるのです。(中略)

その政党はパレスチナの存在そのものを認めていません。「ヨルダン川西岸もガザも、すべてイスラエルのものだ」と主張しており、それが今回のガザ制圧に大きな影響を与えているのです。

ネタニヤフ政権後、どのような連立与党の枠組みになるのかが今後に影響する
須田)ところが今回、戦時内閣が発足しました。国家団結党が戦時内閣に入ってきたことを受け、バランスを取る必要があり、一時休戦の運びになった。

しかし、宗教右派が反発したので戦闘再開となり、今後はこのバランスのなかで進んでいくと考えると、おそらくネタニヤフ首相の政治生命は短期間で途絶えるのだと思います。そのため、次の連立与党がどんな枠組みになるかによって、今後に大きく影響するでしょう。 

飯田)国内世論や政治情勢に、戦況も引っ張られていくのですか? 
須田)完全に引きずられていますね。 (中略)国内世論を考えると、多くの人質が取られたことに対して、解放を求める世論が強まりましたが、戦時内閣ができて国家団結党が入ってくるまでは「人質はどうでもいい、とにかく制圧する」というところに重点が置かれていました。これが問題だったのです。

バイデン大統領の「2国家共存」は米国内世論向けの発言で最終的な着地点が見えない
飯田)「今後どのようなものをつくるか」は、まだ議論になっていない感じですか? 

須田)宗教右派がいるところを考えると、ガザばかり注目されていますが、ヨルダン川西岸ではかなりの数の死傷者がパレスチナ側に出ています。なおかつ、入植地が拡大していくなかで、バイデン大統領が言う最終的な着地点の「2国家共存」は見通せない状況です。あれはバイデン大統領の、米国内の世論に向けた発言でしかありません。「仲介役がいない、最終的な着地点が見えない」ということが最も問題だと思います。【12月4日 ニッポン放送】
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【見えない最終的な着地点】
パレスチナの問題は、現在の膨大な犠牲者増加が止まらないこと、そしてもうひとつは「最終的な着地点が見えない」こと、つまり、仮にハマス勢力を力で一掃したとしても、その後のガザ統治をどうするのか青写真がないことです。

ハマス勢力一掃については、ガザでの戦闘以外に、イスラエル側の以下のような計画も報じられています。

****イスラエル、世界各地のハマス指導者殺害を計画****
暗殺計画は数十年にわたって秘密裏に行ってきた作戦の延長線上にある

イスラエルの情報機関は、世界各地にいるイスラム組織ハマスの指導者の殺害に向け準備を進めている。イスラエル政府当局者らが明らかにした。計画はガザ地区での戦争が落ち着き次第実施されるとみられ、10月7日に発生した虐殺に関与した戦闘員を数年かけて追い詰める作戦だという。

イスラエルの各情報機関はベンヤミン・ネタニヤフ首相の命令を受け、レバノン、トルコ、カタールにいるハマス指導者を捕らえる計画を取りまとめている。カタールのドーハでは長年にわたり、ハマスの政治局がオフィスを構えている。

暗殺計画はイスラエルが数十年にわたって秘密裏に行ってきた作戦の延長線上にあるもので、これらはハリウッドでは伝説として取り上げられる一方、世界からは非難を受けてきた。イスラエルの暗殺者らは女装してパレスチナ人の戦闘員をレバノンで追跡し、あるいは、観光客のふりをしてドバイでハマス指導者を殺害してきた。

 米政府はハマスをテロ組織に指定しているが、カタールやレバノン、イラン、ロシア、トルコといった国は、長年にわたり同組織に一定の保護を提供している。一方でイスラエルも外交危機を避けるため、パレスチナ人戦闘員を標的にすることを控えてきた。

ネタニヤフ氏は1997年に、ヨルダンでハマスの指導者ハレド・メシャール氏の毒殺を命じたが失敗。今回の新たな計画はネタニヤフ氏にとって、2回目のチャンスとなる。(中略)

イスラエルは通常、このような取り組みを公表しない。だが政府指導部は10月7日の襲撃を巡り、責任者全員を追い詰める意図を明らかにすることに関しほとんどためらいを見せていない。

イスラエル政府当局者らによれば、同国はすでにガザ地区内でハマス指導者の殺害や逮捕に取り組んでいる。また、当局者らは、イスラエルの指導者にとって今問われているのは、世界各地にいるハマスの指導者を殺害すべきかどうかでなく、どこで、どのように殺すかということだと述べた。【12月1日 WSJ】
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****イスラエル、ハマス戦闘員の「ガザ追放」検討****
米・イスラエルは数千人の下級戦闘員をガザから追放する案を議論

イスラエル軍がガザ地区でイスラム組織ハマスの幹部を標的にした新たな攻撃の準備を進める中、イスラエルの軍事・政治指導者たちは、ハマスの権力基盤である数千人の戦闘員の処遇をどうするのかという難題に直面している。

この難題に対処するため、イスラエルと米国の当局者の一部は戦争終結を早める方法として、数千人の下級戦闘員をガザ地区から追放する案を議論している。

この案は、1982年にイスラエルがレバノンの首都ベイルートを包囲した際、米国が仲介役を務め、パレスチナ解放機構(PLO)のヤセル・アラファト議長と数千人の戦闘員がベイルートから退去するのを認めた協定をほうふつさせる。

イスラエルと米国は、戦争終結後に誰がガザを統治するのか、また、10月7日の(ハマスによる奇襲の)ようなイスラエル史上最悪の攻撃を二度と起こさせないようにするにはどうすればいいのか、といった問題について協議を進めており、ハマスの戦闘員を追放する可能性もそうした協議の一環で浮上した。

ハマス追放後のガザの統治方法に関する提案の一つは、まずは「ハマスのいない安全地帯」を創設し、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の支援を受けた新たなガザ当局がその統治主体になるというものだ。この案はイスラエル軍のシンクタンクが作成し、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がその内容を確認した。

ハマスの戦闘員とその家族をガザ地区から退去させることについては、米国とイスラエルが別途協議しており、その目的は、一部のハマス戦闘員に撤退戦略を提供し、戦闘終結後のガザ再建を容易にすることにある。(後略)【11月30日 WSJ】
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ハマス指導者を暗殺しようが(他国での暗殺は国際問題になります)、戦闘員数千人を追放しようが(どこに追放するのでしょうか? ヨルダン側西岸?)、問題はその後のガザ地区の統治です。

“サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の支援を受けた新たなガザ当局がその統治主体になる”・・・新たなガザ当局とは? パレスチナ自治政府との関係は? 

【パレスチナ自治政府によるガザ地区統治を認めないネタニヤフ首相 実質的にはイスラエル軍による支配か】
いくつもの???が付きますが、そもそもネタニヤフ首相が同意するのか? 首相はパレスチナ自治政府による統治や「2国家共存」には反対しており、イスラエルの支配のもとでのガザ統治を主張しています。

****イスラエル首相、現状のパレスチナ自治政府によるガザ管理に反対****
イスラエルのネタニヤフ首相は12日、パレスチナ自治区ガザ地区について、現状のパレスチナ自治政府が管理すべきではないと強調した。

パレスチナ自治政府のアッバス議長は10日、ガザ地区の統治に自治政府が役割を果たせる可能性があるとの見方を表明。

しかし、ネタニヤフ氏は11日の記者会見で、自治政府は学校でイスラエル憎悪をあおる授業を組み込んでるほか、イスラエルで拘束されているパレスチナ人の家族に給与を与える制度もあるとして改めて不満を示し、そのような組織がガザを管理すべきではないと訴えた。

同氏はさらに、12日に米NBCニュースに対しガザには「別の当局、管理機関が必要だ」と強調。どのような組織か問われると「それを言うのは時期尚早だ」と応じた。

アッバス議長の報道官ルデイネ氏はロイターに対し、イスラエルはヨルダン川西岸地区とガザの分裂を永続させようとしていると非難。そのような試みは失敗すると述べた。【11月13日 ロイター】
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「別の当局、管理機関」とは何か? イスラエル軍の傀儡機関みたいなものを考えているのでしょう。いずれにしても、実質的なガザ占領を続ける考えのようです。

【パレスチナ自治政府によるガザ地区統治、「2国家共存」を求める国際社会】
しかし、ガザ地区統治はパレスチナ自治政府によるしかない、そのうえでイスラエルとパレスチナの「2国家共存」を・・・・というのが国際社会の声です。

****イスラエル・パレスチナ 中仏首脳“2国家共存が根本的な解決”****
中国の習近平国家主席とフランスのマクロン大統領が20日、電話で会談し、両首脳はイスラエル・パレスチナ情勢のさらなる悪化の回避が急務であり、「2国家共存」が根本的な解決方法だという認識で一致しました。(後略)【11月21日 NHK】
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****ガザ統治責任は「パレスチナ自治政府が負うことが重要」 国連事務総長****
国連のグテレス事務総長は20日の記者会見で、イスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの戦闘が終結した後のパレスチナ自治区ガザの統治のあり方について、パレスチナとイスラエルの2国家共存による最終的な解決を目指し「パレスチナ自治政府が責任を負うことが重要だ」と指摘した。

グテレス氏は、パレスチナ自治政府にガザを統治する責任を持たせるための「移行期間」を設けたうえで、アラブ諸国や米国などが仲介し「移行の条件を整える必要がある」と語った。ガザを国連の保護下に置く手法については「解決策だと思わない」と否定した。(後略)【11月21日 産経】
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日本政府も同じ立場で、岸田首相は12月1日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでイスラエルのヘルツォグ大統領と会談した際に、中東情勢の安定に向けてイスラエルと将来のパレスチナ国家が共存する「2国家解決」をめざす方針の再確認を呼びかけています。

アメリカもイスラエルのガザ地区占領に反対しています。

****ガザ占領「間違いだと伝えた」と米大統領****
バイデン米大統領は記者会見で、パレスチナ自治区ガザの占領は間違っているとイスラエルに伝えたと明らかにした。イスラム組織ハマスの掃討で民間人に被害が出ないよう最大限に注意を払うべきだとも述べた。【11月16日 共同】
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****「ポスト・ハマス」で綱引き激化****
戦争に終わりが見えない中、イスラエルのネタニヤフ首相と米国のバイデン大統領との間で、「ポスト・ハマス」(ハマス以後)のガザ統治を巡って綱引きも激しくなっている。

火を付けたのはネタニヤフ首相だ。首相は12日、米テレビとのインタビューで、戦後もガザの治安の責任を担うと述べ、ガザの占領を続ける考えを明らかにした。  

だが、これにはバイデン政権が反発。バイデン大統領自身が18日付のワシントン・ポストに寄稿し、イスラエルの占領に反対する考えを表明、イスラエルとパレスチナ独立国家による「2国家共存」が永続的な中東和平の道だとして、イスラエル側に譲歩を迫った。  

大統領はガザの統治は最終的にパレスチナ自治政府に委ねるべきだとの見解を示し、それまでの間、戦後のガザの治安を守るために「国際社会の支援」が必要であることを強調した。

大統領の頭にある「国際社会」とは「アラブ平和維持軍」とみられており、すでにアラブ諸国の一部には打診しているようだ。  

しかし、ネタニヤフ首相はハマスのテロを非難しないようなアラブ側にガザの治安は任せられないと強く反対しており、すでに停戦をめぐって緊張している両国に新たな難題が持ち上がった格好だ。ハマスに捕らわれた人質解放交渉でも対立しており、ここにきて米、イスラエルの軋みが目立ってきた。【11月21日 WEDGE「ハマス主力は南部へ逃走か ガザ戦争は第二段階に」】
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戦争後の青写真もないまま戦争を行っても仕方がないというのが常識的発想ですが、ネタニヤフ首相及び右派勢力の頭には「ハマスを叩き潰せ!」ということしかないようにも見えます。

イスラエル軍によるガザ占領も頭にあるようですが、それはイスラエルが民主主義を捨て、暴力によってパレスチナ人を支配する強権的植民地支配国家に堕ちることを意味します。

最後はガザ地区住民200万人の追放でしょうか? それはかつてユダヤ人が受けた迫害と同質であり、明確な人道に対する罪です。
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ロシア  強まる伝統的価値観重視の流れ

2023-12-04 23:01:22 | ロシア

(ロシアのプーチン大統領の成果をアピールする博覧会。写真は併合したウクライナ南部クリミア半島のブース=2日、モスクワ【11月6日 時事】)

【三選出馬が予定されれているプーチン大統領 西側の攻撃からロシアの伝統的価値観を守ることを掲げると思われる】
ロシアでは来年3月に予定されている大統領選挙にプーチン大統領が立候補するものと思われますが、現在モスクワで開催されている「ロシア」博覧会も自身のこれまでの実績をアピールする事実上の選挙活動とも見られています。

博覧会はことし3月、プーチン大統領の大統領令によって開催が決まったもので、来年4月中旬まで、およそ半年間にわたり開催されます。

なお、2020年7月の憲法改正案の賛否を問う全国投票で賛成が78.1%と承認に必要な投票者の過半数を超え、改憲の実現が決まりました。これにより、プーチン大統領は三選が可能になり、新たに2期12年、83歳になる2036年までの続投が可能になっています。

****ロシア プーチン大統領 今月にも大統領選立候補表明の見方****
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は来年3月に予定されている大統領選挙に向けて、今月にも立候補を表明するという見方が出ています。首都モスクワではロシアの発展を誇示する大規模な博覧会が開かれていて、メディアは大統領の業績をアピールする事実上の選挙活動が始まったと伝えています。

ロシアの首都モスクワでは先月初旬から「ロシア」と名付けられた大規模な博覧会が開かれていて、東京ドーム70個分にあたる広大な敷地の中心部では、ロシアが誇る宇宙や原子力の技術が紹介されています。

また、世界最大の領土に広がる80以上の地域に関するブースでは産業や文化の魅力が紹介されるなど、博覧会はプーチン大統領の政策によってロシアが発展したと誇示する内容が中心となっています。

一方、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアや、去年、併合を宣言したウクライナ東部と南部の4つの州を紹介するブースも設置され、軍事侵攻の成果を強調しています。

会場を訪れた女性は「ロシアへの誇りを感じた。ことしはいろいろあったが、ロシアは繁栄している」と話し、大学生の男性は「ロシアにはすばらしい未来がある」と話していました。

ロシアで来年3月に行われる予定の大統領選挙を巡って今月、日程などが議会で正式に決まる見通しで、プーチン大統領は今月14日に開く予定の大規模な記者会見や国民との対話形式のイベントなどで立候補を表明するという見方がロシアメディアや専門家の間で出ています。

独立系メディアは、博覧会が開催されたことで、すでにプーチン大統領の業績をアピールする事実上の選挙活動が始まったと伝えています。(中略)

専門家「最もありそうなのは惰性のシナリオ」
ロシアの内政に詳しいカーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのアンドレイ・コレスニコフ上級研究員はNHKのインタビューに対して、大規模な博覧会を開催しているプーチン政権のねらいについて、「これは政権による壮大な劇場だ。特別軍事作戦は深刻な衝撃だったため、大統領選挙を前に国民を落ち着かせ、すべては計画通りに進んでいて何の心配もいらないのだと示すことが非常に重要となっている」と指摘しました。

また、コレスニコフ氏は「『国民の全員を戦場にあるざんごうに引きずり込むわけでもなく、大部分の国民は正常な生活ができるのです。だからすべてにおいてプーチン氏を支持してください』という一種の社会契約といえる」と述べ、プーチン政権は現時点では総動員には踏み切らず、社会の混乱を回避しようとしているとして、支持を訴えているとしています。

その上で、プーチン氏が進める選挙活動に関して、「活動の主な内容は、『西側が制裁を科し、ハイブリッド戦争を仕掛けている状況の中でも発展できるのだ。そして、私たちは伝統的な価値観を守る必要に迫られている』と訴えることだ。活動の中心には伝統的な価値観が置かれるだろう」と述べ、国家の存亡をかけた戦いが続いていると国民に訴えることで、大統領のもとでの結束を促していくと指摘しました。

また、「プーチン氏にとっては、この半軍事的で半ば全体主義的な国家、社会の状態がかなり好都合だ」と述べ、情報統制なども強化することで、前回2018年の選挙を上回る80%の得票率を目標に圧勝を演出しようとしているとしています。

そのうえで、「クレムリンと体制側の唯一の目標は権力の維持だ。国民の幸福への配慮ではない。選挙後に何かが根本的に変わるとは思えない。最もありそうなのは惰性のシナリオだ」と述べ、ロシアの将来に悲観的な見方を示しました。【12月1日 NHK】
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プーチン大統領の欧米的なリベラルな価値観への嫌悪は昔からのもので、2019年にも・・・

****リベラルな価値観は時代遅れ、西側諸国で拒絶─プーチン大統領=FT紙****
ロシアのプーチン大統領は、自由主義(リベラル)的な価値観について、西側諸国の多くの人々が拒絶しているため、時代遅れのものとなったとの見解を示した。

プーチン大統領は27日付の英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙に掲載されたインタビューで、ドイツのメルケル首相は中東からの移民・難民に対しリベラルな政策を導入したことで基本的な誤りを犯したと指摘。

「リベラルな概念は何もする必要がないことを前提としている。移民・難民は殺人などの罪を犯しても、移民・難民としての権利が守られなくてはならないため、責任を免れる。これは一体どのような権利なのか。いかなる犯罪も罰せられなくてはならない」と述べた。

その上で「リベラルな概念は時代遅れのものとなった。国民の大多数の利益と相反するものとなっている」とし、「多くの人々にとり、伝統的な価値観はリベラルな価値観よりも安定的で重要なものになっている。リベラルな価値観は消滅しつつあると考えている」と述べた。【2019年6月28日 ロイター】
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プーチン大統領が欧米的なリベラルな価値観に代えて重視するのがロシアの伝統的価値観。上記記事にもあるように、大統領選挙立候補にあたっては、西側からの攻撃から伝統的な価値観を守る必要に迫られているという主張が根幹になると思われます。

欧米との対立が露わになっているロシア・プーチン政権にとっては、伝統的価値観重視は欧米との対抗軸としての意味合いもあります。

【伝統的価値観重視でロシア正教会とも一致】
そうしたロシアの伝統的価値観重視を後押ししているのがロシア正教会で、プーチン大統領の支持基盤ともなっています。

****ロシア総主教、プーチン氏支持 正教会、侵攻で関係深化****
ロシア正教会最高位のキリル総主教は28日、モスクワで開かれた会議で演説し、プーチン大統領が国家発展のための職務を続けるよう期待を示した。タス通信などが伝えた。来年3月の大統領選で立候補が確実視されているプーチン氏への事実上の支持表明とみられる。

プーチン氏も南部ソチからオンラインで会議に参加し、ウクライナ侵攻に参加する軍人や家族への正教会による支援に謝意を表明した。侵攻を通じた政権と正教会の一層の緊密化が示された。

会議はロシアの伝統的価値観の維持を目的に正教会などが主導して開催した。【11月29日 共同】
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【ロシア最高裁 LGBTなど性的少数者の権利を擁護する活動を事実上、非合法化する判断】
こうしたで伝統的価値観重視はすでに現実に大きな流れとなっています。

****LGBT擁護活動を非合法化=架空団体を「過激派」認定―ロシア最高裁****
ロシア最高裁は30日、LGBTなど性的少数者の権利を擁護する活動を事実上、非合法化する判断を下した。プーチン大統領の通算5選出馬が見込まれる大統領選を来年3月に予定する中、人権を重視するリベラル派を萎縮させるとともに、伝統的価値観を重んじるロシア正教会を含む保守派に配慮したとみられている。

今回の判断は、法務省が「『国際LGBT運動』という団体を過激派と認定するべきだ」と申し立てたことを受けて出された。最高裁は、同団体を「過激派と見なす」と決定し、ロシアでの活動を禁じた。

しかし、ロシアでこの名称の団体は存在しない。米政府系メディアによると、同省が申し立てを行った後、ロシアの性的少数者が新団体「国際LGBT運動」を発足させると表明し、法廷で争うことを望んだが、最高裁が出廷を認めたのは法務省だけだった。【12月1日 時事】 
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ロシアでは同性愛そのものが違法とされている訳ではありませんが、そうしたものを公の場で広めようとする運動(と当局がみな行為)が非合法と判断されています。

今後、LGBT運動への参加や資金提供だけではなく、LGBTについて、声を上げる場合でも罪に問われる可能性があります。

判決文の全文は公表されておらず、具体的にどのような行為が禁止されるのかあいまいにすることで不安をあおり、活動を一層制限する狙いだとみられます。

例えば、レインボーカラーの服を着て外出した場合なども当局の判断次第では非合法活動と見なされるのかも。

ロシアでは昨年11月に同性愛に関する宣伝禁止法を強化する法案も可決成立しています。

****ロシア下院、「同性愛宣伝禁止法」改正案を可決 映画や書籍も規制対象****
ロシア下院は23日、同性愛に関する宣伝禁止法を強化する法案を、賛成397、反対および棄権0の全会一致で可決した。近く上院で承認され、ウラジーミル・プーチン大統領の署名を経て成立する見通し。

法案は、同性愛に関する宣伝を禁止する、いわゆる「ゲイ・プロパガンダ」禁止法の規制を拡大する内容。書籍や映画、オンラインなどで同性愛を流布することが違法とされ、違反者には重い罰則が科せられる。

同法は、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官が「表現の自由への打撃」と批判したことから「ブリンケンへの回答」法とも呼ばれている。

活動家たちは、ロシアのLGBT(性的マイノリティー)コミュニティーをさらに抑圧しようとする試みだと指摘している。

法案が成立するには上院の承認とプーチン大統領の署名が必要となるが、これらは事務的な手続きとみられている。

「同性間の関係」の流布を禁止
物議を醸している「ゲイ・プロパガンダ」法の原案は2013年に承認された。子どもたちの間で「非伝統的な性的関係に関する流布」、つまり同性間の関係を描写したものを広めることを禁止している。

同法はマスメディアや広告で同性間の関係を肯定的に描写することを、ポルノの配布や暴力の促進、人種・民族・宗教的緊張の扇動と同類としている。

LGBTを肯定的に表現した広告や書籍、映画が禁止されることから、出版社からはロシアの古典文学に影響を及ぼしかねないという懸念が上がっている。

LGBTに関するオンライン上の議論もブロックされる可能性がある。LGBTのスローガンやシンボルが描かれた商品の販売も禁止される。

違反者には最大40万ルーブル(約92万円)の罰金が科される。企業の場合は最大500万ルーブル(約1150万円)の罰金を支払うよう命じられる可能性がある。

外国人や無国籍者は同法に従わない場合、収監あるいはロシアから追放される恐れがある。

LGBTへの攻撃の波を懸念
人権活動家やLGBT団体は、規制の拡大はLGBTコミュニティーのあらゆる行為や公の発言が犯罪行為とされることを意味すると指摘している。

ロシアに拠点を置くLGBT支援団体「Vykhod」のクセニア・ミハイロワ氏は、9年前に最初の禁止法が導入されたことでゲイ・コミュニティーへの攻撃の波が引き起こされたと述べた。

ミハイロワ氏はロイター通信に対し、改正案が事実上「国家はLGBTへの暴力に反対しないとしている」ことから、LGBTへの攻撃の「津波」が起こるだろうと語った。

ブリンケン米国務長官は23日、「法案を取り下げて、すべての人の人権と尊厳を尊重する」ようロシアに求めた。

議会で「ブリンケンへの回答法」だと述べたヴャチェスラフ・ヴォロージン下院議長は、西側諸国が広めた「闇」であるLGBTの価値観からロシアを守るためのものだと主張した。

プーチン大統領は反同性愛の論調を政治課題の要としている。
最近の演説では、欧州でゲイやトランスジェンダーの権利が推進されていることを例に挙げ、西側が「公然たる悪魔主義に向かっている」と非難している。【2022年11月25日 BBC】
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なお、ロシアの同性愛に関する宣伝禁止法については、2014年のソチオリンピックでもロシアの人権侵害を象徴するものとして欧米で批判が高まり、アメリカのオバマ大統領(当時 以下同)やフランスのオランド大統領、イギリスキャメロン首相ら欧米諸国首脳がの開幕式への出席を見送る事態にもなっています。

【外国人のロシア批判を禁じる動き】
ロシア的価値観に従うことはロシア国民だけでなく、外国人にも求められます。

****ロシアへの「忠誠承諾書」、外国人に署名強制へ 法案準備と報道****
ロシア内務省は、同国に対する「忠誠承諾書」への署名を外国人に強制する法案を準備している。外国人が政府の政策を批判することなどを禁じる。

国営タス通信によると、ロシアに入国する外国人は「ロシア連邦の公的機関の活動を妨げ、いかなる形であれ、ロシア連邦の対外・国内国家政策、公的機関およびその当局者の信用を傷つけること」が禁止される。

また、伝統的な家族観に背くことや、「ソ連国民の祖国防衛における偉業とファシズムに対する勝利への貢献に関する歴史的真実を歪曲すること」も禁じられるという。

ロイターはこの法案を独自に確認できていない。内務省からは今のところコメントを得られていない。

ロイターの調べでは法案はまだ議会に正式に提出されていない。

タス通信は、外国人が承諾書に反した場合の罰則には触れていない。【11月29日 ロシア】
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“具体的には、ウクライナ侵攻下のロシアの内政・外交を批判したり、性的少数者の権利を主張して伝統的価値観を否定したりすることを禁止する”【11月29日 時事】

ロシアはプーチン大統領のもと、ますます欧米・日本とは異なる社会に向かって突き進んでいます。
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南米ガイアナ  石油がもたらした「富」と「不安」、そして隣国ベネズエラとの緊張も

2023-12-03 23:23:54 | ラテンアメリカ

(【11月30日 時事】)

【「最貧国」ガイアナを石油が突如「エネルギー大国」に】
「ガイアナ」と聞いて、その位置がわかる人は少ないでしょう。私も知りませんでした。アメリカのキリスト教系新宗教団体「人民寺院」の集団自殺事件(1978年 信者918名が集団自殺もしくは殺害)があった国と聞けば、「ああ、あそこね・・・」って感じ。

南米大陸の北部、カリブ海に面する南米の小国で、西隣がベネズエラ、南はブラジルに接しています。経済的にはコメ・バナナ・砂糖などの農業、ボーキサイト・金などの鉱業がメイン。最近は石油資源開発も。

本州よりやや小さい国土に約81万人が暮らしています。

歴史的には“ガイアナはオランダ、その後イギリスの植民地であり、1966年に独立を達成した。国民の多くは、アフリカ系とインド系の子孫で構成されているが、先住民族、ヨーロッパ系、中国系の住民もいる。公用語は英語。”【ウィキペディア】と移民が多い国家です。人口の4割をインド系が占め、アリ大統領もインド系です。

この「最貧国」ガイアナを石油が突如「エネルギー大国」に変えようとしています。膨大な「富」をもたらしながら。しかし石油がもたらすものは「富」だけではないようです。

****巨大油田に沸くガイアナ、小国が手にした富と不安****
この都市の新しいスーパーマーケットには、米テキサス産ステーキ肉で最高級のプライムリブアイが並んでいる。最近開業したウオーターフロントのホテルには1泊750ドル(約11万円)のエグゼクティブ・スイートがある。ガイアナ代表のクリケットチーム「アマゾン・ウォリアーズ」は新スタジアム建設を計画しており、来春に着工する。
 
南米ガイアナに今、マネーが流入している。国際通貨基金(IMF)によると、西半球の最貧国の一つだった同国は、世界で最も急成長する経済国へと急速な発展を遂げている。この変貌ぶりを端的に物語るのが、クリケット代表チームのユニホームに、同国の北方約4800キロメートルに本社を置く米石油大手エクソンモービルの名前があることだ。

ガイアナは突如、次のエネルギー大国となった。エクソンとそのパートナーである同業の米ヘスと中国海洋石油(CNOOC)は、2015年に始まった一連の油田発見のおかげで、ガイアナ沖合に眠る110億バレル超の石油を見つけ出した。その恩恵は今後数十年にわたって続く可能性がある。(中略)

首都ジョージタウンに向かう航空便は今や、このチャンスに乗じようとする外国からの油田労働者で満杯となり、米シェブロンはこの幸運に一部あやかろうと、ヘスを530億ドル(約8兆円)で買収することで先月下旬に合意した。ヘスがガイアナの油田開発事業に持つ約3分の1の権益を取得することが主な目的だった。

「これは世界で類を見ないものだ」。シェブロンのマイク・ワース最高経営責任者(CEO)はインタビューでそう語った。「過去10年で最大の発見となる高品質の資源であり(中略)、比類なき成長の可能性を秘めている」

IMFによると、ガイアナの政府収入は2017年以降、3倍に増えた。経済規模も同じく3倍になった。同国は9月末時点で石油収入と天然資源ファンドのロイヤルティー(使用料)ですでに18億8000万ドルを得ていた。
石油輸出国機構(OPEC)はガイアナに最新の加盟国となり、サウジアラビアやイラクの仲間入りをするよう働きかけている。今のところガイアナは独立性を維持し、石油を好きなだけ生産したい考えだ。

今回の発見はあまりにも貴重なため、エクソンとパートナー企業は石油事業でもガイアナという国にも、抜かりなく自分たちの足跡を残そうとしている。

エクソンは、ジャングルに覆われた旧英植民地である同国の経済や国内全域のコミュニティー支援に10億ドル近くを費やし、アジアやアフリカの他のフロンティア市場よりもはるかに多くの投資を行っている。

ジョージタウンの道路脇や空港にはエクソンの看板がおいかぶさるように立ち並ぶ。求人広告のほか、海洋ガス田で採取した天然ガスを燃料とする発電所建設によって国内電力がより安価になるとうたったものもある。

またエクソンは完成後に物資の自由な流れを可能にするものの赤字営業となる港湾開発に資金援助を行い、女性の地位向上を目指す会議や起業家ワークショップ、地元の環境保護団体にも資金をつぎ込んでいる。

この違和感のある新しい現実は、地元住民の間に警戒感を引き起こしている。自国がエクソンの子会社と化すことを懸念する声もある。エクソンへの監視強化を求める一連の訴訟も起きている。

国境を接するベネズエラは、ガイアナが競争入札にかける油田の一部は自国の領土だと主張。100年以上前にさかのぼる領土問題が再燃している。

降って湧いた幸運
エクソンとヘスは当初、ガイアナ沖のスタブローク鉱区と呼ばれる場所でこれほど大規模な油田が発見されるとは想像もしなかった。約10年前、世界中を飛び回っていた米ヘスのジョン・ヘスCEOは地図上でガイアナという国を指し示せなかった。(中略)

ガイアナの国民1人当たり国内総生産(GDP)は、今後3~4年でメキシコやブラジルの水準に到達する見通しだという。(中略)

ガイアナの石油ブームは同国の不動産にも予期せぬ幸運をもたらしている。新しいショッピングモールや道路、高級コンドミニアムが石油業界の従業員や経営幹部のために次々と建設されている。ガイアナの伝統的な鉱業・製材分野の投資家や実業家は、不動産価格上昇をチャンスとみて利益を得ようとしている。(中略)

鮮魚店を営むクリフトン・アンダーソンさんは、石油がガイアナの恩恵になることを疑問視する平均的ガイアナ人がよく言うせりふを口にした。「現時点では、政府がエクソンの傘下に入ったようなものだ」。彼はこう話し、石油ブームで生活費が上昇したと不満を訴えた。(中略)

エクソンとそのパートナー企業は今のところ、ガイアナの難しい政治環境にうまく対応している。同国は1966年に独立するまで英植民地だった。それ以降、アフリカ系黒人奴隷の子孫とインド系契約労働移民の子孫という二大民族間の対立が鮮明となっている。

「われわれはガイアナに滞在する訪問客だ。当社の存在によって市民が恩恵を受けることは必要不可欠だ」とエクソンの広報担当者ミシェル・グレイ氏は言う。「当社は貢献することを誇りに思い、何十年にもわたり繁栄を共有するのを楽しみにしている」

ガイアナの政治は、人種に基づく緊張や脆弱(ぜいじゃく)な制度、汚職によって混乱してきた。主に二つの政治運動がこれを支配し、一方を主導するのはインド系ガイアナ人、もう一つはアフリカ系ガイアナ人だ。この状況が経済発展を妨げ、多くの市民が国外へ逃げ出す理由になった、とエコノミストや政府当局者は話している。【11月13日 WSJ】
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「資源」の存在が腐敗・汚職の蔓延、民族紛争をもたらし、社会の発展の足かせにもなってしまう「資源の呪い」はしばしば目にするところですが、ガイアナにもその不安があります。

【隣国ベネズエラ 領有権を主張し国民投票へ】
ガイアナの場合、もっと差し迫った不安もあります。隣国ベネズエラとの緊張です。ベネズエラは石油が眠るエセキボ地域を自国領と主張しています。この国境紛争は1899年以来のものですが、「石油の発見」によって俄かにきな臭くなる可能性が出ています。

****隣国の7割が「自国領」 ベネズエラ、ガイアナと対立―南米****
強権姿勢を強める南米ベネズエラの反米左派マドゥロ政権が、隣の小国ガイアナの国土の約7割を占める地域を自国領と主張し、12月3日の国民投票を通じ「奪還」に向けた機運を高めようとしている。

反発するガイアナは国際司法裁判所(ICJ)に対し投票差し止めなど暫定措置を求め、米国との軍事協力も模索。双方は一歩も譲らない姿勢だ。

ベネズエラが領有権を訴えているのは、16万平方キロに及ぶ「エセキボ地域」。1899年の国際仲裁裁定で当時英領だったガイアナの領土と認められたが、ベネズエラは仲裁には不正があったとして無効を主張している。

ガイアナの沖合では、2015年に石油メジャーの米エクソンモービルが大規模油田を発見したのを皮切りに、油田が相次ぎ確認された。ガイアナはオイルマネーで潤い、国際通貨基金(IMF)によれば今年の経済成長率は38%が見込まれる。経済的な思惑も絡み、ベネズエラ側の要求は最近になって高まった。

ベネズエラの国民投票では、仲裁裁定を拒否するかや、係争地を最終的に自国領とするかなどを問う。マドゥロ大統領は投票を控え、領土を取り戻すため「国が一体になっている」と強調した。投票で国民の支持を得て、主張の正当性をアピールする狙いがあるとみられる。

一方、ガイアナは仲裁裁定を「最終決着」と見なしている。ジャグデオ副大統領は24日、国益を守るため、外国軍の基地建設など「全ての選択肢がある」と表明。米国防総省の担当者らが近くガイアナを訪問すると明らかにした。

ICJは28日、ガイアナの求める暫定措置に関して、12月1日に判断を示すと発表した。(後略)【11月30日 時事】
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国際司法裁判所(ICJ)は「現状変更」は認めないとしながらも、ベネズエラの国民投票には言及せず、ベネズエラ・マドゥロ政権は投票を強行する構えです。

****領有権巡る国民投票、予定通り=国際司法裁は中止に言及せず―南米ベネズエラ****
南米ベネズエラ政府は1日、領有権を主張している隣国ガイアナ内の「エセキボ地域」の帰属などを問うため、国民投票を予定通り3日に実施すると発表した。

国際司法裁判所(ICJ)が1日の判断で、同地域の「現状変更」は認めないとしたが、ガイアナが求めた投票の中止には言及しなかったため、問題なしと判断した。

エセキボ地域はガイアナの国土の約7割を占める。近年になり、同国沖合で海底油田が相次ぎ発見されて以降、ベネズエラが圧力を強化。投票を控えて緊迫感が高まる中、両国と国境を接するブラジルも軍による監視を強めている。

ICJは1日、エセキボ地域を「ガイアナが管理し、支配している」と認定。ベネズエラは現状変更につながる行動を控えるべきだとする判断を示した。【12月2日 時事】
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ベネズエラと日本は13時間の時差がありますので、そろそろ国民投票が始まっている時間ですが・・・。(その関係の報道は明日以降でしょう)

【マドゥロ政権 自らの失政から国民の目をそらそうとするポピュリズム的政治手法】
国民投票を強行しようとするマドゥロ政権の意図は経済破綻の失政から国民の目をそらしたいポピュリズム的動機によるものに思えますが、(すでに十分な石油資源を持ちながら、設備老朽化などで十分に活用できていない)ベネズエラがたとえどれだけ資源を獲得してもマドゥロ政権下の腐敗と非効率な体制では大きな利益を国民にもたらすことはないようにも思えます。

****「ガイアナ危機」はあり得るのか ベネズエラ、油田地域併合へ国民投票****
ベネズエラの国会(透明性が低く、非民主的な機関に成り下がっている)は、隣国ガイアナ西部のエセキボ(エセキバ)地域の地位を決める国民投票を、12月3日に実施することを承認した。

国際的な注目を浴びないように、ウクライナとイスラエルの危機が同時に進む時期を見計らって決められた、非常に重要な動きだ。

問題は、エセキボはベネズエラの一部ではなく、スペイン帝国の時代以降、一度もそうだったことはないという点に尽きる。ガイアナの国土のおよそ3分の2を占め、石油資源の豊富なエセキボは、ガイアナの一部として国際的に認められてもいる。

ガイアナは、英植民地時代の1899年に国際仲裁裁定で定められた現在の国境が有効だという立場だ。これに対してベネズエラは、エセキボ地域の東を南北に流れるエセキボ川が自然の国境になっていると主張し、1899年の裁定は「無効だ」と退けている。(中略)

エセキボは両国間の長年の懸案だったが、今回の国民投票の動きまで、ベネズエラが現状変更を積極的に進めようとしている兆候はなかった。

このタイミングでの国民投票は、ニコラス・マドゥロ大統領の決断が国内政治に動機づけられていることを強く示唆する。同時に、領土拡大によって国を豊かにできるかもしれないという判断もあるのかもしれない。

だが、仮にベネズエラ(世界最大の原油埋蔵量を誇る)がさらに石油資源を獲得できたとしても、現在保有する原油の輸出にすら自国の問題で支障が出ている状況を見れば、国の役に立つとはとても思えない。

ウクライナでの戦争の影響でロシア産原油が西側市場から締め出され、さらに中東でも緊張が激化するなかで、米国はベネズエラと外交面で再び関わりをもつようになった。

米国はベネズエラのチャビスタ(チャベス派、ウーゴ・チャベス前大統領の支持者)左派政権に対する制裁を徐々に緩和しながら、ベネズエラ産原油をひっそりと世界市場に復帰させた。

しかし、制裁の緩和がベネズエラの自由な選挙につながると米政権が考えているのだとしたら、それは間違いだ。マドゥロとそのチャビスタ体制はロシアと中国に支えられており、キューバの共産主義者たちと同様、自発的に権力を手放そうとはしないだろう。

新たな石油収入によって持ち直したマドゥロ政権は、国民の関心を次期選挙(編集注:政府と野党側は2024年後半の大統領選挙の実施で合意している)からそらそうともしている。国民投票はそれに好都合だ。

この国民投票はナショナリズムをあおるだろうし、エセキボに関する政府の立場は反チャビスタの野党勢力の間でも受けがいいから、選挙戦でマドゥロにとって有利に働く可能性すらある。

ベネズエラ国民の間ではマドゥロ政権による数多くの破滅的な政策に対する反発が広がっているが、エセキボに関する政府の立場はおおむね支持されている。

政権側はエセキボをめぐる国民投票に、危機などの際に支持率が高まる「旗下結集効果」を期待しているとも考えられる。野党の指導者らを、国益に反して米国に同調する裏切り者として印象づける機会にしようとも考えているかもしれない。

エセキボをめぐる最近の対立が、この地域での莫大な石油の発見と関係している点は否定できない。2015年以来、米エクソンモービルをはじめとする石油会社はガイアナで46の油田を発見しており、直近では10月に発表されたものを含め今年も4つ見つかっている。ガイアナの原油埋蔵量は110億バレルを超える可能性があり、開発されれば国民はクウェートやアラブ首長国連邦(UAE)よりも豊かなになるだろう。

ガイアナもベネズエラも、エセキボにはきわめて大きな経済チャンスがあると認識している。ガイアナはすでに国民1人あたりの原油埋蔵量が世界最大だが、新たな油田は途方もない富をもたらす可能性がある。その可能性を感じているということなのだろう、ガイアナ政府は掘削の入札を実施し、エクソンモービル、米シェブロン、英BP、仏トタルエナジーズ、地元企業連合シスプロなどが応札している。

マドゥロは国境をめぐる危機、さらにはガイアナに対する侵略を利用して、みずからの権威主義体制の正統性を強固にすることを狙っているのかもしれない。

だが、マドゥロはエセキボの併合を強行した場合の影響について過小評価しているのではないか。ウクライナ、イスラエル、アジア太平洋で世界的な安全保障上の危機や懸念が相次ぐなかで、米国が新たな紛争を、それも自国の「裏庭」での紛争を容認するはずがない。

米国のスーパーメジャー(国際石油資本)も関与するなか、ブライアン・ニコルズ米国務次官補(西半球担当)はガイアナの資源開発権を支持すると述べ、ガイアナを支持する姿勢を打ち出している。カリブ共同体(カリコム)と米州機構(OAS)はいずれもベネズエラが計画する国民投票を違法とみなしている。ベネズエラ、ガイアナ両国と国境を接するブラジルも平和的な解決を呼びかけている。

ベネズエラがエセキボの併合を追求するのは重大な誤りであり、制裁と大量の国民の国外脱出によって荒廃している経済にもまったく利益にならないだろう。

石油資源を新たに獲得したところで、腐敗した無能な社会主義政権から輸出できるようになる見込みは薄く、国は救えない。

ベネズエラの指導部はそれを知ったうえで、国の将来の方向性を決める重要な選挙に先立ち、みずからの政治資本を蓄え、政敵に裏切り者の烙印を押すために、国民投票を利用する腹積もりなのかもしれない。

だが実際の意図が何にせよ、マドゥロは、崩れつつある体制を領土の拡大で救済しようとして失敗した2つの歴史的事例を思い出すべきだ。アルゼンチンの軍事政権による1982年の英領フォークランド侵攻と、イラクのサダム・フセインによる1990年のクウェート侵攻である。どちらも、ナショナリズムの武器化は長続きしないことを示す結果になった。次にどう行動するか、マドゥロは慎重に考えるべきだろう。【12月2日 Forbes】
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今の国際情勢で、国民投票結果を受けて実際に軍事行動に出るような事態は考えにくいところですが、国民に人気のあるこの問題を煽ることで求心力を回復させることへの効果はあるでしょう。そのあたりがマドゥロ政権の狙いと考えられます。

もっとも、アルゼンチンのフォークランドに関する主張も当初はそんな感じでしたが、イギリスとの間のエスカレーションによって、実際の紛争に突入する結果にもなっていますが。

なお、“両国と国境を接するブラジルも軍による監視を強めている”【前出 時事】と、ブラジルも警戒を強めています。
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COP28  石炭火力廃止で日本にかかる圧力 洋上風力発電にも問題 日米など、原発「50年までに3倍」

2023-12-02 22:25:04 | 環境

(【SOLAR JOURNAL】)

【モディ首相「ごく一部の人類がやみくもに自然を搾取してきたことで、いま人類全体がその代償を払わなければならなくなっている」】
気候変動問題を話し合う国際会議「COP28」が30日、UAE(=アラブ首長国連邦)のドバイで開幕しました。
焦点は化石燃料の扱い。温室効果ガスを大量に排出する化石燃料の削減といった具体的な方策を打ち出せるかどうかが焦点となります。

****COP28 首脳級会合 途上国の首脳 “化石燃料 大幅な削減を”****
UAE=アラブ首長国連邦で開かれている気候変動対策を話し合う国連の会議、COP28は1日、首脳級会合が行われ、気候変動による被害を受ける途上国の首脳からは、再生可能エネルギーの拡大や化石燃料の大幅な削減を求める声があがりました。一方、化石燃料の削減をめぐっては各国の間で意見に隔たりもあり、今後の交渉の争点になっています。(中略)

この中で、気候変動による影響がとりわけ深刻な途上国の首脳などからは、現状の対策では気温の上昇を抑えられないとして被害に対する資金提供や、化石燃料の大幅な削減を求める声が上がりました。

このうち、インド洋の島国セーシェルのラムカラワン大統領は「島国は気候変動の最前線で、高潮でインフラが被害を受け、国民の生活が危険にさらされている」と述べ、さらなる被害への対策などのため資金提供が必要だと訴えました。

また、深刻な干ばつに見舞われたケニアのルト大統領は「このままでは世界の気温は3度上昇するかもしれない。大胆なエネルギーの転換や、化石燃料への依存度の大幅な削減のための仕組みが必要だ」と述べ、再生可能エネルギーの拡大や化石燃料からの脱却を訴えました。

こうした訴えに対し、フランスのマクロン大統領は「G7の各国は、手本を見せるため、2030年ごろまでに石炭への依存をやめなければいけない」と述べ化石燃料からの脱却を推し進めていくという考えを示しました。

ただ、化石燃料の削減をめぐっては、国連のグテーレス事務総長がすべての化石燃料の段階的な廃止を目指すべきだとしていますが、新興国や先進国のなかには慎重な意見もあり、今後の交渉の争点になっています。

インド モディ首相「グローバルサウスにしわ寄せ」
インドのモディ首相は、COP28で行われている首脳級会合の演説で「インドは、2030年までに化石燃料以外のエネルギーの割合を50%にまで増やす方針だ」と強調し、再生可能エネルギーの導入を積極的に進めていることをアピールしました。

その上で、「前世紀までの間違いを正す時間はあまりない。ごく一部の人類がやみくもに自然を搾取してきたことで、いま人類全体がその代償を払わなければならなくなっている。とりわけグローバルサウスの国々の住民にしわ寄せがいっている」と訴えこれまで二酸化炭素を大量に排出してきた先進国が責任をもって、気候変動の影響を受けている途上国を支援しなければならないという考えを強調しました。

ブラジル ルーラ大統領「アマゾン川の水位は過去最低」
ブラジルのルーラ大統領は1日、COP28で行われている首脳級会合の演説で、南米のアマゾン川が流れるブラジル北部で続く記録的な干ばつについて触れ「アマゾン川の水位は過去120年間で最低となった。世界最大の淡水の水源であるこの地で起きるとは想像もできなかった」と述べ、気候変動の影響が深刻化していると訴えました。

そして、途上国が気候変動対策を進めるためには、先進国の支援が欠かせないとした上で、これまで約束してきた年間1000億ドルという支援が実現していないとして、「容認できない」と非難しました。

イギリス チャールズ国王「実際に行動することが必要」
イギリスのチャールズ国王が、UAE=アラブ首長国連邦で開幕したCOP28に参加し、1日、演説しました。国王は環境問題に長年取り組んでいて、COPへの参加は去年9月に即位してから初めてです。

チャールズ国王は、干ばつや洪水などによる被害を受けている国々に言及し、「最も脆弱な犠牲者の増加を食い止めるためには、実際に行動することが必要だ」と強調しました。そして、世界の気候変動対策が「軌道から大きく外れている」と懸念を示した上で、「COP28が真の変革に向けた重要な転機となることを、心から祈っている」と述べました。【12月2日 NHK】
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【石炭火力 マクロン大統領、禁止に向けた有志連合を発足 岸田首相、全廃時期は示さず】
化石燃料、特にCO2排出が多い石炭の使用をどのように減らしていくのかが問われていますが、上記記事にもあるようにフランス・マクロン大統領は「G7が手本を示す」ことを主張しています。

****マクロン仏大統領、G7に2030年までの石炭火力「終止符」を要請****
フランスのマクロン大統領は1日、アラブ首長国連邦(UAE)で開催されている国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の演説で、主要7カ国(G7)は2030年までに石炭火力発電に「終止符を打つ」よう促した。石炭火力への依存度が高く、廃止の年限を定めていない日本に公の場で圧力を強めた形だ。

首脳級会合で演説したマクロン氏は、二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭への投資は「実にばかげたことだ」と指摘。地球の平均気温の上昇幅を産業革命前と比べ1・5度に抑える目標の達成に向け、先進国は模範を示した上で、途上国の石炭火力からの移行を支援すべきだとした。フランスはCOP28で米国と共に石炭火力の禁止に向けた有志連合を発足させる方針。

岸田文雄首相は1日の演説で、国内でCO2の排出削減対策を講じていない石炭火力は新設しないと表明したが、稼働中の発電所の廃止時期には言及しなかった。

今年4月のG7気候・エネルギー・環境相会合では、英国や米国などが共同声明に石炭火力の廃止時期を明記することを求めたが、日本の反対で見送られた経緯がある。国連のグテレス事務総長も、経済協力開発機構(OECD)の加盟国は30年までに、それ以外の国は40年までに石炭火力を段階的に廃止するよう求めてきた。

COP28では、成果文書に石炭を含むすべての化石燃料の段階的廃止・削減を目指す方針を明記できるかどうかが大きな焦点になっている。【12月2日 毎日】
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石炭依存については、フランスは発電電力に原発の占める割合が6割を超えているのに対し、日本は原発の割合がかつては3割超だったが現在は1割以下となっているという“事情”の違いもあります。(それが石炭火力継続の理由になるかどうかは賛否があるところですが)

岸田首相は排出削減対策の取られていない石炭火力発電所の新規建設を「終了する」と表明したものの、石炭火力の全廃時期は示していません。こうした日本の対応に対しては、化石燃料の延命策との批判も根強くあります。

****岸田首相、排出削減対策ない火力発電の新規建設終了を表明 COP28****
岸田文雄首相は1日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されている国連の気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の首脳級会合で演説した。温室効果ガスの排出削減対策の取られていない石炭火力発電所の新規建設を「終了する」と表明。議長国のUAEなどが掲げる、世界全体の再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍にするとの目標に賛同する姿勢を示した。

排出削減対策の取られていない石炭火力発電を巡っては、今年5月に広島市で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の首脳宣言で「建設終了に向けて取り組む」と明記したが、日本政府として国際社会に発信するのは初。首相はCOP28の場で表明することで日本の取り組みへの理解を得たい考えだ。

一方、日本は既存火力の排出削減策として、石炭にアンモニアや水素を混ぜて二酸化炭素(CO2)の排出を減らす「混焼」やCO2回収・貯留技術(CCS)を進め、石炭火力をできるだけ長く利用する方針で、石炭火力の全廃時期は示していない。混焼を巡っては欧州などから化石燃料の延命策との批判も根強い。(後略)【12月1日 毎日】
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【洋上風力発電 コスト上昇、大型化の弊害、中国依存などの問題に直面】
化石燃料に代わる発電として期待される再生可能エネルギーが風力発電、特に大型の洋上風力発電ですが、ここにきて問題が指摘されています。

****「嵐」に見舞われる欧州洋上風力発電、脱炭素目標に黄信号****
洋上風力発電業界は、サプライチェーン(供給網)の混乱、風力発電装置の設計上の問題、コストの上昇などが重なり、嵐のような逆風にさらされている。このため数十件の開発プロジェクトに支障が生じており、各国の気候変動目標の達成にも影響が及ぶ恐れがある。

化石燃料への依存度を引き下げる競争により、メーカーや部品サプライヤーには、よりクリーンなエネルギーの需要の高まりに応じるよう圧力が掛かっている。

特に2030年までにエネルギーの42.5%を再生可能エネルギーで賄うという法的拘束力を持つ目標を最終決定している欧州連合(EU)では、プレッシャーが顕著だ。

業界団体のウインドヨーロッパによると、EUが再生可能エネルギーの比率を現在の32%から新たな目標の42.5%に引き上げるには、風力発電容量を今の205ギガワット(GW)から420GWへと2倍以上に引き上げ、洋上風力発電容量は17GWを103GWへと大幅に増やす必要がある。

しかし、今年に入って英国、オランダ、ノルウェーの洋上プロジェクトが、コスト高と供給網の制約のために延期または棚上げになった。また、英国では再生可能エネルギー向け補助金の入札で、洋上風力開発業者からの応札が皆無だった。

ジュピター・アセット・マネジメントの投資マネジャー、ジョン・ウォレス氏は「もし、これがプロジェクトの長期休止につながれば、2030年の再生可能エネルギー目標の多くは、達成が厳しくなるに違いない」と話す。

EUが今年、新たな再生可能エネルギー目標で合意する以前から、オルステッド、シェル、エクイノール、風力タービンメーカーのシーメンス・ガメサといった企業が、洋上風力産業の規模は気候変動目標の達成に不十分だと警告していた。

新型コロナウイルスのパンデミックを発端とする供給網の混乱は、ウクライナ戦争で一段と深刻化。一方で、輸送コストや原材料費の高騰、金利の上昇、インフレで利益が圧迫されている風力発電事業者もある。

ドイツのエネルギー大手RWEのマルクス・クレッバー最高経営責任者(CEO)は交流サイト(SNS)への投稿で、洋上風力発電産業は急速な拡大が予想されるタイミングでさまざまな問題が重なり、気候変動目標の達成が危うくなっているとの見方を示した。

<巨大化のわな>
洋上風力発電は過去20年間に急成長を遂げ、一部の国ではコストが化石燃料と同等か、それ以下になった。だが、タービンをより大きく、より効率的にしようとする開発競争が性急すぎたのではないかといった指摘が、経営者やアナリストの中から出ている。

タービンの大きさは10年ごとにおよそ2倍になり、2021年と22年に稼働した最大級のタービンはブレードの長さが110メートル、出力が12─15メガワット(MW)もある。

しかし、大型化すればするほど故障しやすくなると、コンサルタント会社サンダー・サイド・エナジーのアナリスト、ロブ・ウェスト氏は指摘する。ブレードは大きくなればなるほどたわみが大きくなり、より剛性の高い補強材が必要になるという。(後略)【10月1日 ロイター】
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ブレードの長さが110メートル・・・信じられないような規模です。「そりゃ、安定性に問題が出るだろう」と素人は考えます。

洋上風力発電については、インフレや金利上昇でコストが膨らんでいること、大型化に伴う問題などのほか、「中国依存」と言う問題も指摘されています。

****米欧で逆風の洋上風力 インフレで建設費高騰、採算合わず****
再生可能エネルギーの切り札として米欧で展開されてきた洋上風力事業が逆風にさらされている。インフレや金利上昇でコストが膨らみ、事業の中止や延期が相次ぐ。

発電量が大きい洋上風力の計画がつまずけば各国の気候変動対策に影響を及ぼしかねず、米自治体や欧州連合(EU)は支援に向けて動き出した。安価な中国製の風力タービンが世界市場を席巻する中、中国依存の課題も浮上している。

崩壊する事業
「洋上風力事業は高インフレと金利上昇という巨大な嵐に見舞われている」
洋上風力最大手のオーステッド(デンマーク)のマーズ・ニッパー最高経営責任者(CEO)は11月1日、そう打ち明けた。(中略)

英石油大手BPも7〜9月期決算で、ノルウェーの同業エクイノールと進める米東部ニューヨーク州沖の洋上風力の減損を計上した。損失が相次ぐ事態を受け、BPの低炭素部門の責任者、アンニャイサベル・ドツェンラス氏は「米国の洋上風力の業界は根本的に崩壊している」と述べた。

欧州でも同様の動きが広がる。スウェーデンの電力大手バッテンフォールは7月、英国の大型洋上風力プロジェクトを停止すると発表した。英国の約150万世帯に電力を供給する予定だったが、開発コストが最大で40%上がることが判明し、見直しを迫られた。エクイノールもノルウェー沖で計画した大型洋上風力の建設を無期限で延期した。(中略)

中国依存も課題に
一方、中国は世界の風力発電市場に攻勢を強め、22年に世界で導入された風力タービンのうち約6割を中国勢が占めた。安価な中国製は欧州メーカーの経営を悪化させている。欧州風力エネルギー協会は、EUがロシア産天然ガスに依存したことでエネルギー危機に陥った教訓をもとに「このままでは依存先が露産から中国産に置き換わる」と危機感を示した。

EUは中国依存を減らす姿勢を鮮明にしており、メディアによると、欧州委には中国からの輸入の一部制限を支持する声もある。欧州委は関税の上乗せを判断するため、中国が補助金支援で欧州での競争を阻害していないかを調査することを検討しているという。【12月2日 産経】
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【原発 「2050年までに世界全体の原子力発電の設備容量3倍を目指す」、日本も賛同】
化石燃料は減らさなければいけない、洋上風力発電も困難に直面している・・・ということで、改めてその必要性が主張されているのが原発。

原発による世界の発電量は2011年の福島第一原発の事故以降、やや落ち込みましたが、現在は回復傾向にあります。特に中国での複数の新設が進んでいます。世界全体では2023年時点で436基で、発電電力の約10%をまかなっています。発電量はアメリカが最も多く、中国、フランスと続いています。

****「2050年までに世界で原子力発電3倍」 日本も賛同 COP28*****
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、米政府は2日、日本を含む22カ国が「2050年までに世界全体の原子力発電の設備容量3倍を目指す」宣言に参加したと発表した。

宣言では、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べ1・5度に抑える目標を達成する
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ために、原子力が重要な役割を果たしていると指摘。「エネルギー安全保障に利点がある」などとしている。

日本では、5月に原発の60年超運転を可能にした「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が成立。原発回帰の方針に転換したが、その姿勢が鮮明になった格好だ。

日米以外では、英国やフランス、UAE、韓国などが参加した。【12月2日 毎日】
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原発については、安全性や廃棄物の扱いで議論があるのは言うまでもないところ。

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ジョン・ケリー米大統領特使(気候変動問題担当)は、「われわれは、原子力が他のすべてのエネルギー源に完全に取って代わると主張しているわけではない」

「しかし、科学と現実、エビデンスは、原子力なしでは2050年までに温室効果ガスの排出量を正味ゼロにするのは不可能だと示している」と主張。「(原子力の利用は)科学的な現実にすぎない。政治もイデオロギーも関係ない」と訴えた。【12月2日 AFP】
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どうでしょうか・・・この議論はさんざん繰り返されているところで、ほとんど歩み寄りは期待できない問題ですので今回はパスします。
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