孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  6月に上院改選 改選内容・改選後の動きに対する軍部の対応は? 混乱の可能性も

2024-05-11 23:27:34 | 東南アジア

(23年7月、「前進党」ピタ-党首の首相選出を阻んだ上院に抗議する前進党の支持者=ロイター【5月10日 日経】)

【現行の軍部任命上院が任期満了で、職業や専門分野別の立候補者の互選方式による改選】
タイでは軍部が任命する議員で構成される上院が、民主派勢力の議会での勢力拡大にブレーキをかけて、軍部主導の政治を維持する装置となっていました。

実際に、先の総選挙で第一党となった王制改革を掲げる革新的な「前進党」は、上院が軍部に掌握されている状況で政権獲得を阻まれることにもなりました。

その上院が任期満了となり、新たな互選方式で改選されます。

****軍任命のタイ上院、任期満了 新選出方式は業種別互選*****
タイ上院議員の任期が満了し、新たな方式での選出手続きの実施が11日、官報で公表された。

2014年のクーデターで軍が実権を握ったタイは19年に民政移管したが、上院議員は軍が任命しており、首相指名選挙などで影響力を保っていた。

新方式は職業や専門分野別に立候補を受け付けて互選で実施、結果は7月ごろまでに判明する見込み。
新方式でも国民に直接投票の機会はないが、定数250を200に削減。上下両院で実施していた首相指名選挙への上院の参加権を廃止する。【5月11日 共同】
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どうして軍部は権力の基盤ともなっていた上院を手放すようなことになったのか?

【軍事政権下の2017年憲法と、その2017年憲法に定められた新たな上院の仕組み】
今回の上院改選は、軍事政権下の2017年憲法の規定によるものです。

そこで、タイの2017年憲法制定に至る経緯を振り返ると以下のようにも。当時はタクシン派と反タクシン派の対立で政治が混乱しており、クーデターで権力を掌握した軍部は、将来的な民政移管を前提としつつ、タクシン派の権力獲得を阻止することを狙っていました。

****2017年憲法の起草過程と議会・選挙制度****
(中略)1990年代の民主化政治改革運動を背景に制定された1997年憲法は,タイで最も民主的な憲法といわれた。

しかしながら,2006年クーデタで追放されたタクシン元首相を支持するタクシン派と反タクシン派との対立が顕在化するなか,反タクシン派は,タクシン派の政党が台頭した背景に1997年憲法の議会・選挙制度があるとみて,その見直しを求めた。

2006年クーデタ後に制定された2007年憲法には反タクシン派の主張が反映されたにもかかわらず,2008年および 2011年の総選挙におけるタクシン派政党の勝利を阻止できなかった。

2014年クーデタで再びタクシン派を政権から引きずり下ろした対抗勢力は,2017年憲法で議会・選挙制度のさらなる変更を試みた。  

他方,2014年クーデタ以降のタイ政治においては,タクシン派と反タクシン派との対立軸に加えて,軍事政権の長期化とそれに対する反発という構図も鮮明になってきた。

2014年クーデタによって権力を掌握したプラユット政権は,政治安定のため国家改革の必要性を主張し,軍事政権を維持するための制度を2017年憲法にも盛り込ませた。(後略)【2020年 JETRO 今泉慎也氏 「タイ2019年総選挙 : 軍事政権の統括と新政権の展望」】
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こうした経緯で軍事政権によって制定された2017年憲法は、民政移管後の上院の在り方を規定しています。

****公選制から非公選へ逆戻りした上院****
2017年憲法の特徴として最も注目すべきは上院である。

タイにおいては1946年の憲法で下院と上院の二院制が採用されたが,1991年憲法までは,上院議員はすべて国王によって任命された。上院議員には軍・警察を含む官僚出身者が多く含まれていた。

1990年代の憲法改革においては,上院議員を選挙で選ぶことの是非が最大の争点のひとつであった。多くの論争の末,1997年憲法において,上院議員は完全に公選とされた。

憲法起草過程において上院に党派政治が浸透することへの強い危惧が表明されたことから,上院議員の資格要件として政党へ所属してはならないことが明記された。

しかしながら,実際の上院議員選挙では政党との関係が深い議員が多く含まれ,党派性を払拭するという意図は十分に果たされなかった。  

この経緯をふまえ,つぎの2007年憲法は上院議員150人のうち76人を公選(県を選挙区とし,各選挙区議員1人を選挙。なお,後に県の数が増えて77人),残りを「選出」(selection)するとした。

この「選出」という語が,上院議員について用いられたのは2007年憲法からで,従来の憲法における国王による「任命」とは異なることを強調する。(中略)

この上院議員の選出は,2007年憲法によって設置される上院議員選出委員会によって行われる(2007年憲法第113条)。同委員会は,憲法裁判所長官,オンブズマン長,国家汚職防止摘発委員会委員長,国家会計委員会委員長,最高裁判所裁判官(裁判官会議が委任),最高行政裁判所裁判官(裁判官会議で委任)によって構成される(第113条)。

選出委員会は,選挙委員会が,学術,公共,民間,職業およびその他の5つのセクターからまとめた名簿のなかから上院議員を選出する。(中略)

2017年憲法はさらに踏み込んで,上院議員をすべて非公選に戻してしまった。そして,その選出方法として,候補者による「互選」という新たな手法を導入した。 

被選挙権を有する者はすべて行政,司法,農民,産業,公衆衛生,女性,高齢者・障害者などの10のグループに分けられ,いずれかのグループから誰でも立候補することが認められる。

選出は,各グループの代表から選出された候補者の互選による。つまり候補者が自分以外の者に投票することによって選出される。

まず郡レベルで候補者のなかから選出が行われ,各郡で選出された者のなかから県レベルの候補者が選出される。最終的には,全国レベルで上院議員200人が選出されるというものである(一連のプロセスは選挙委員会によって管理される)。  

しかしながら,憲法の経過規定により,最初の上院議員は,この方式ではなく,NCPO選出の250人が国王により任命された(部分的には上記の互選方式も実施)。(後略)【同上】
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上記のように、2017年憲法では、国民一般の公選ではなく、職業や専門分野別の立候補者の互選を郡・県・全国レベルの三段階で行う方式になっていますが、経過措置的に最初の上院議員は軍事政権が選出した者を国王が任命することとなっていました。

その最初の経過措置的な上院議員の任期が満了し、2017年憲法が規定する「互選」による選挙が今般初めて行われる・・・ということです。

【改選でどのような政治勢力が伸張するのか、予想される前進党解党命令と世論反発・・・軍部の対応は波乱含み】
軍事政権としては、上記のような互選制度によって、民政移管を前提としつつもタクシン派などの拡大を阻止できると考えたのでしょう。

現在は、軍部とタクシン派は大連立を組むという、当時では考えられない状況になっていますが、タクシン派以上の脅威として、革新的な「前進党」が拡大しました。

そこで、選出規則では「前進党」を支持する若者らが多用するSNSの選挙利用を規制する措置なども定められています。

ただ、実際どのような者が選出されるのか、軍部が警戒するような民主派勢力が拡大するのか・・・不透明で、選出過程に対する軍部の干渉も懸念されます。

そうした事情もあって、スムーズに上院改選が進行するのかどうか危ぶまれてもいます。

****タイ、政情再混乱の懸念 国軍影響下の上院が任期満了****
(中略)
民政移管に向けて17年に制定された憲法の規定により、上院は今回の任期満了に伴い投票権を失う。

今後は下院だけの投票で首相選出が可能となる。前進党と貢献党は23年の総選挙後に連立を模索したものの頓挫した経緯がある。両党が再び手を組めば下院過半数となり、親軍政党を排除して新政権を樹立できる。

17年制定の憲法下で初となる上院選の結果次第では、国軍の政治への影響力はさらに弱まる。新議員は農業や教育などの職業団体から選出される。6月から選挙が始まり、7月初旬にも正式結果が公表される見通しだ。

こうした不利な状況に直面する国軍は民主派への圧力を強めている。上院が人事への拒否権を持つ憲法裁判所や選挙管理委員会は、民主派が不利となる判断を連発してきた。

憲法裁は1月末、前進党が23年の総選挙で王室に関する不敬罪の改正を公約に掲げたことを違憲と判断した。

6月後半から7月ごろに解党命令を出すとの見方もある。バンコクの外交筋は「国軍は民主派を弱体化させる最適なタイミングとして上院選の投票終了後を狙っている」と指摘する。

選管は4月下旬に公表した上院選の手続き規則で、候補者の個人情報をSNSなどで公開することを禁じた。SNSを通じて若者からの支持を伸ばした前進党を標的にしたとみられる。

上院選の手続きがスムーズに運ぶかも不透明だ。法政大の浅見靖仁教授は「上院選のルールは不明瞭な点が多い」と指摘する。国軍を中心とする保守派が規則を都合よく適用し、民主派の候補者が当選しても当選無効の訴えが相次ぐ可能性があるという。

タイでは1932年の立憲革命以降に軍事クーデターが未遂を含めて19回起きた。国軍は国内対立を収めることに主眼を置き、政治に関与し続けてきた。上院の任期満了により民主派が勢いづけば、国軍が強硬手段に動き、情勢が再び混乱する恐れもある。【5月10日 日経】
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今回選出される上院議員は首相選出に関与しないと憲法規定されていますので、タクシン派与党「貢献党」が「前進党」と再び手を組むと、軍部を排除した政権も可能になります。

その「前進党」については、憲法裁判所は4月3日解党の是非について審理を始めることを決めています。すでに今年1月には、2023年の総選挙で王室批判に厳罰を科す不敬罪の改正を公約に掲げたことが、立憲君主制の転覆をはかる憲法違反に当たる、と憲法裁は判断しており、この判断に基づき選挙管理委員会が解党を請求しています。

上院改選の動向、改選後の政局の動き、予想される「前進党」解党命令と世論の反発・・・こうしたものを睨んで軍部がどうのように動くのか波乱含みの状況です。
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フィリピン  中国と前政権との“密約”、現政権との“合意”問題過熱

2024-05-10 23:36:24 | 東南アジア

(共同記者会見する(左から)米国のオースティン国防長官、オーストラリアのマールズ国防相、木原防衛相、フィリピンのテオドロ国防相=2日、米ハワイ 【5月4日 西日本】)

【対中国強硬姿勢のフィリピン アメリカなど西側との関係強化】
フィリピンと中国の南シナ海での領有権争いは、依然として小競り合いが絶えません。

****中国海警局の船が放水、フィリピン当局の船が「損傷」 南シナ海で緊張高まる****
フィリピン政府は中国と領有権を争う南シナ海で30日、中国側からの放水で補給船が損傷したと発表しました。また、航路を妨害するブイが設置されていることも確認したということです。

南シナ海のスカボロー礁付近で30日午前に撮影された映像では、中国海警局の船2隻がフィリピン当局の補給船を挟み込み、両側から放水している様子が映っています。

フィリピン政府によりますと、この放水により燃料や食料を積んでいた補給船の一部が損傷したということです。

また、去年9月に南シナ海の海上に中国側が設置した妨害するためのブイを、フィリピン当局が撤去しましたが、中国側が再び、およそ380メートルのブイを設置したことを確認したということです。航路を妨害するためのものだとみられ、両国の間で再び緊張が高まっています。【4月30日 日テレNEWS】
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こうした中国との緊張が続く中で、フィリピンはアメリカを始めとする日本を含む西側との協調路線を強めています。

****日本、アメリカ、オーストラリア、フィリピン 南シナ海で初の共同訓練****
中国とフィリピンが領有権を争い緊張が高まる南シナ海で、日本、アメリカ、オーストラリア、フィリピンの4か国による初めての共同訓練が行われました。

南シナ海を巡っては、フィリピンと中国が互いに領有権を主張し、フィリピン側の船が中国当局の船から放水を受けるなど、衝突する事案が相次いでいます。

こうした中、7日、南シナ海のフィリピンの排他的経済水域で、日本の海上自衛隊とアメリカ、オーストラリア、フィリピンの軍が「海上協同活動」と位置づける初めての共同訓練を実施しました。(中略)

海洋進出を強める中国を念頭に、来週にアメリカで行われる予定の日米比3か国の首脳会談を前に、結束を示す狙いとみられます。

一方で、AP通信によりますと、中国の海軍と空軍が合同で7日、南シナ海のパトロールを行っていて、共同訓練をけん制する狙いとみられます。【4月7日 日テレNEWS】
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****米軍とフィリピン軍が合同演習 南シナ海EEZでの海上演習も****
米軍とフィリピン軍による定例の合同軍事演習「バリカタン」が22日、フィリピンで始まった。今回は初めての試みとして、中国が威圧的行動を強める南シナ海の排他的経済水域(EEZ)内で海上演習を実施するほか、米軍の中距離ミサイルの発射装置の配備訓練も行う。
 
米インド太平洋軍などによると、演習には1万6000人以上が参加し、5月10日まで行われる。初めて招かれたフランス軍に加え、フィリピンと「訪問軍地位協定」を結ぶオーストラリア軍が正式に参加。日本や韓国、インド、ベトナムなど14カ国もオブザーバーとして加わる。

実施場所は、フィリピンと中国などが領有権を争う南沙(英語名スプラトリー)諸島に近いパラワン島や台湾に近いルソン島が中心。敵艦を撃沈させる演習のほか、敵に占領された島を奪還する訓練も実施される。

米海兵隊のジャーニー中将は「バリカタンは単なる演習ではなく、我々が互いに決意を共有していることを示すものだ。地域の平和と安定のために重要だ」としている。【4月23日 毎日】
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また、フィリピンのマルコス大統領は「軍に死者が出れば、アメリカが相互防衛条約を発動する可能性がある」と、中国を牽制しています。

****フィリピン大統領「軍に死者出れば米比相互防衛条約を発動」中国の“威圧的な行動”をけん制****
南シナ海での中国側の威圧的な行動でフィリピン側に負傷者が相次ぐなか、マルコス大統領は「軍に死者が出れば、アメリカが相互防衛条約を発動する可能性がある」との考えを示しました。

フィリピン マルコス大統領 「フィリピンは南シナ海で、違法で攻撃的かつ無責任な行動のターゲットになっている」

フィリピンで15日、外国メディア向けに会見を行ったマルコス大統領は、中国の威圧的な行動を念頭に、「あらゆる手段を講じて主権を守る必要がある」と強調しました。

両国が領有権を争う南シナ海の南沙諸島では先月以降、中国艦船がフィリピン軍の駐留拠点に向かう船舶に放水などを繰り返していて、フィリピンの乗組員にけが人が相次ぐ事態となっています。

マルコス大統領は「フィリピン軍に死者が出た場合、アメリカが相互防衛条約を発動する可能性がある」との考えを示し、中国側をけん制しました。

また、日本との間で交渉が進むフィリピン軍と自衛隊の「円滑化協定」については、「もうすぐ締結できるだろう」としています。【4月16日 TBS NEWS DIG】
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【前政権との“密約”、現政権との“合意”問題で中比バトル】
こうした海上でのホットな争いと並行して、最近中比間でバトル状態になっているのがフィリピンのドゥテルテ前政権との“密約”、そしてマルコス現政権との“合意”問題。

****中国政府が南シナ海めぐるフィリピンとの「密約」を暴露 マルコス大統領「引き継ぎはなかった」****
中国政府は南シナ海での領有権をめぐり緊張が高まるフィリピンとの関係について、前の政権との間では対立を避けるために「紳士協定」を結んでいたと明かしました。

フィリピンにある中国大使館は18日、中国とフィリピンの間で領有権を争っている南シナ海のアユンギン礁をめぐり、前のドゥテルテ政権時代には「平和を維持し、紛争を防止する」という内容の紳士協定を結んでいたと明らかにしました。

アユンギン礁では、フィリピンが実効支配の拠点にするため古い軍艦を座礁させ、フィリピン軍の兵士を常駐させていますが、中国海警局の艦船は生活物資を運ぶフィリピンの船に対し放水砲を発射するなど妨害を繰り返し、緊張が高まっています。

また、中国大使館は今年初めにはマルコス政権とも「生活物資の輸送に対する新たな合意を両国間で行ったが、フィリピンが一方的に破棄した」とも主張しています。

フィリピンをめぐっては11日、日本・アメリカとの3か国による首脳会談が初めて行われ、海上自衛隊やアメリカ軍も加わった合同パトロール計画も発表されるなど日米がフィリピンを支援する姿勢を鮮明にしたことから、中国との対立がますます激しさを増しています。

今のマルコス政権は、この協定の存在を認めていないことから、中国政府としては公にすることで政権に揺さぶりをかけたい狙いがあります。一方、マルコス大統領は前政権が結んだとされる協定について「引き継ぎはなかった」と強調しています。

フィリピン マルコス大統領 「密約だろうが紳士協定だろうが、我々はそのことを知らされていなかった。誰かこのことを知っている人はいるか?どんな経緯があり、何が起きたんだ?」

マルコス氏は「協定があるとすれば撤回する」として中国に妥協しない姿勢を示していますが、中国側が指摘する現政権との「新たな合意」についてはコメントしていません。【4月19日 TBS NEWS DIG】
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****フィリピン国防省 “対立管理のためマルコス政権と合意”の中国主張に「プロパガンダ」と反論、南シナ海領有権めぐり激しい神経戦****
中国とフィリピンが領有権を争う南シナ海をめぐり、「対立を管理するための両国間の合意をマルコス政権が一方的に破棄した」とする中国側の主張について、フィリピン国防省は「中国のプロパガンダだ」として合意の存在を否定しました。

南シナ海のアユンギン礁では、フィリピン軍が実効支配拠点として座礁させた軍艦への補給活動に中国側が反発し、放水などの妨害を繰り返しています。

こうした対立の背景について、フィリピンにある中国大使館は、今年初めにマルコス政権との間で「対立を管理する新たな合意を結んだが、フィリピンが一方的に破棄した」などと主張していました。

これについて、フィリピン国防省は27日に発表した声明で、「中国側とのいかなる合意も知らない」と合意の存在を否定したうえで、「国防省は去年から、中国政府と一切連絡を取っていない」と強調。「中国のプロパガンダの一環だ」として、緊張の原因は中国側にあると反論しました。

中国政府は前のドゥテルテ政権時にも、アユンギン礁での対立を避けるため、「紳士協定」が結ばれていたと発表していますが、マルコス大統領は「もし協定があるとすれば撤回する」と反発していて、激しい神経戦が続いています。【4月28日 TBS NEWS DIG】
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ドゥテルテ前政権時代の協定だか密約だかについて、一般論で言えば、「引き継いでいない」「もし協定があるとすれば撤回する」というのは、中国からすれば腹立たしい対応でしょう。(もし日本が韓国の前政権との結んだ協定について、韓国新政権が同様主張をすれば、日本世論は激高するでしょう。「密約」とはそういうもの・・・でしょうか)

そういう腹立たしさもあってか、中国側はマルコス現政権との“合意”についてリーク戦術に。

****中国、フィリピンメディアに当局との電話内容を流す 南シナ海問題****
フィリピンが軍事拠点とする南シナ海、アユンギン礁(英語名セカンドトーマス礁)を巡り、フィリピンと中国が対立している問題で、フィリピン当局との電話協議内容とされる記録を中国側が一部のフィリピンメディアに対して一方的に公開し、フィリピン政府が強く反発している。

フィリピン紙マニラ・タイムズ(電子版)は7日に中国側に提供されたとして、1月に行われた中国外交官と比軍高官間の12分にわたる電話の記録を公開した。

フィリピン軍西部方面隊のカルロス司令官と中国側外交官が、アユンギン礁の補給活動について協議したとする内容だ。中国側が補給は水と食料に限り、2日前に中国側に知らせることや、両国とも1隻の船しか用いないとする「新モデル」を提案すると、カルロス氏が上層部も同モデルを「承認した」と伝えたとしている。

比政府はこれまで、「新モデル」とされる取り決めの存在を否定しており、中国側は、それを覆す「証拠」として記録を流出させたとみられる。

フィリピンのテオドロ国防相は中国は偽情報を出す傾向が強いとして「記録」の信ぴょう性に疑念を示したうえで「(無断で通話内容を録音したとすれば)国内の盗聴法に違反する可能性がある」と批判した。テオドロ氏は、南シナ海を巡る国際的な取り決めを結べるのは大統領だけだとも強調した。

フィリピンメディアによると、中国側と通話したとされるカルロス氏は7日以降、休暇を取っているという。

一方、中国外務省の林剣副報道局長は8日の定例記者会見で在マニラ中国大使館が関連するフィリピン側とのやりとりの内容を公開したと認めた上で「経緯は明白で証拠は固く、誰にも否定できない」と主張した。フィリピン側は情報を公開した中国外交官について調査する姿勢を見せている。【5月9日 毎日】
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フィリピン側は「国防省は去年から、中国政府と一切連絡を取っていない」としていましたが、上記「証拠」が真実なら、フィリピン側主張がウソだったことになりますが、いずれにしてもフィリピン側は大統領が承認していないものは意味がないと突っぱねる構えです。

情報リークで面子が潰れたフィリピンは、情報流出に関与した中国大使館員を国外追放する方針を発表しています。

****フィリピン、中国大使館員を国外追放へ 軍高官との電話記録を流出****
フィリピンが軍事拠点を置く南シナ海のアユンギン礁(英語名セカンドトーマス礁)を巡り、マニラの中国大使館が比軍高官との電話協議とされる記録を流出させた問題で、フィリピンのアニョ国家安全保障補佐官は10日、流出に関与した大使館員を国外追放する方針を発表した。

アニョ氏は声明で、中国大使館が「偽情報の拡散を度々指揮している」とし、「重罰を与えなければならない」と指摘した。マルコス大統領が承認すれば、館員は国外追放となる。

中国外務省の林剣副報道局長は10日の記者会見で「軽挙妄動をしないよう厳しく要求する」と反発した。

フィリピン紙マニラ・タイムズ(電子版)は、中国大使館側から提供されたとして、1月に行われた比軍西部方面隊のカルロス司令官と中国外交官との電話協議の記録を公開。アユンギン礁の軍拠点への補給活動を制限する中国側の提案について、比軍上層部が承認したとする内容だった。(後略)【5月10日 毎日】
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【マルコス政権の対中国強硬路線を訝しむ指摘も】
マルコス政権の対中国強硬路線は、日本を含めた西側にとっては好ましいもので、フィリピンをバックアップして・・・となるでしょうが、フィリピン自身にとってはこういう方向(中国に対し強硬路線をとり、アメリカに傾斜する戦略)がメリットがあるのか批判的に見る指摘もあります。

****日本以上に「アメリカの『駒』」状態。フィリピンはなぜ豹変したのか?****
4月11日に初めて実現した日米比の3カ国首脳会談を経て、フィリピンのマルコス大統領の中国に対する発言が強硬になっているようです。軍への攻撃を一切許さないと警告。

これに中国が激しく反応しなかったことを「救い」と捉えるのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、ASEAN諸国を含めて両国のこれまでの関係性を解説。微妙に保ってきたバランスをフィリピンが壊そうとする意図と、中国の冷静さの理由を探っています。

いまや日本以上の「アメリカの『駒』」と中国が呼ぶフィリピンが豹変した理由
日本、アメリカ、フィリピンの3カ国の首脳がワシントンで、初の首脳会談を行ったのは先月11日(日本時間12日午前5時20分)のことだ。3カ国首脳は、中国による南シナ海や東シナ海における力による一方的な現状変更の試みに反対し、毅然として対応することを確認したという。

フィリピンが、ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の時代から大きくその面貌を変えたことの仕上げのような会談だった。訪米中のフィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は、終始にこやかで上機嫌だった。

米中が互いに影響力を競い合う世界において、その最前線となりつつある東南アジアの発展途上国のトップが、アメリカとの関係強化を喜ぶのは珍しいことではない。だが、たいていの国は米中の対立からは距離を置き、両方に良い顔を見せながら自国利益を追求する、賢い外交を展開してきた。

フィリピンが特殊なのは、訪米から帰国した直後からマルコスが米比の相互防衛条約を持ち出し、中国を挑発する発言を繰り返したことだ。

マルコスは、南シナ海の南沙諸島にある仁愛礁(アユンギン礁=セカンド・トーマス礁)で繰り広げられる中国との領有権をめぐる攻防について、「軍以外からの攻撃を受けた場合であっても、フィリピンの軍人に死者が出れば米比相互防衛条約が発動されるとして、アメリカに軍事的な対応を求める考えを示した」(NHK 4月15日)という。

海をめぐる対立では、緊張が一気にエスカレートすることを回避するため、互いの国が海上での法執行機関を前面に立てて対応するのが一般的だ。マルコスの今回の発言は、わざわざそうした緩衝材を無効にする意味を含む。しかも相手が民間の船(漁船など)であっても、米軍に行動を求めるというのだから、尋常ではない。

こうした発言はこれまで東南アジア諸国連合(ASEAN)が米中の対立を嫌い、「巻き込まれ」を回避してきた努力にも反する。アメリカがマルコスの要請に軽々に応じるとは思えないが、あまりに無責任な発言といわざるをえない。

救いは、いまのところ中国側が激しい反応を見せていないことだ。かつてはフィリピン産バナナの輸入規制を強め、輸送中のバナナを大量に腐らせるなど強硬に反応したが、そうした対抗策も発動されていない。

その理由はいつくか考えられる。まずマルコスの言動の裏側にアメリカという振付師がいて、中国が騒げば騒ぐほどその術中に嵌ることを中国自身がよく知っていることだ。

またフィリピン以外のASEAN諸国との関係を重視する中国がこの海域での対立をエスカレートさせたくないと判断した可能性だ。さらに緊張を高めることで経済発展のチャンスが失われるデメリットを考え、行動を抑制しているということだ。

だが、そうした動機のなかでも最も重要なのは中国がこれを「マルコスの個人的な事情」と見ている点だ。というのもドゥテルテ時代まで静かだった仁愛礁でにわかに緊張を高めても、フィリピンの国としての利益はほとんど見当たらないからだ。

ASEANの国々にとって中国が重要なパートナーであることは言を俟たない。多くの国は中国が最大の貿易相手だ。中国と対立するデメリットは計り知れない。実際、ドゥテルテ時代には仁愛礁での揉め事はほとんどなく、経済関係も順調だった。過去のメルマガでも指摘したように、両国間には現状維持を目的とした「紳士協定」が存在し、機能してきたからだ。

「紳士協定」とは「フィリピン側が仁愛礁の建造物の修繕や新設を行わない見返りとして、中国が食糧補給を容認する」こと。逆に「中国は、軍事拠点化したミスチーフ礁に構造物を新たに設置しないこと」を約したものとされる。対立をうまく管理し、貿易のメリットを享受しようとした両国の知恵だ。

そのバランスをわざわざ壊すメリットはどこにあるのだろうか──【5月9日 富坂聰氏 MAG2NEWS】
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「マルコスの個人的な事情」とは何でしょうか?
中国との緊張関係を演出して、国内の求心力を高めること? あるいは、親中前政権との違いを押し出すことで、ドゥテルテ家とのバトル・権力闘争を優位に展開したいこと?

なお、富坂氏は、日本の中国認識が偏った一面的なものと批判し、“「反中」亡国論・・・日本が中国抜きでは生きていけない真の理由”といった著作もあるようです。
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ロシア  戦術核配備の演習 「核戦力部隊は常に臨戦態勢」 「国家元首には恐るべき決断が必要」

2024-05-09 23:17:13 | ロシア

(「紛争が絶えないため、国家元首は時に運命的で恐るべき決断を下さなければならない」とのキリル総主教の話を伏し目がちに聞くプーチン大統領【5月8日 テレ朝news】)

【ウクライナ支援体制を強化する欧米】
ウクライナに対し物量に勝るロシアが優位に戦局を展開している現状ですが、ロシア・プーチン大統領としても今後に楽観はできない状況にあります。

ウクライナの苦境に反応して、西側の支援体制はむしろ強化される方向にあります。一番は5月5日ブログ“ウクライナ  物量に勝る露軍に対し後退 米の支援再開で立て直し図る 長距離ATACMS実戦投入”でも取り上げたようにアメリカが約610億ドル(約9・4兆円)の支援法案を可決して、ウクライナへの大規模な武器提供を再開したことです。アメリカの武器支援にはロシア領内を脅かしかねない長距離ATACMSも含まれています。

更にイギリス・キャメロン外相はウクライナのロシア本土攻撃を容認する発言を行っています。
また、フランス・マクロン大統領はウクライナが窮地に陥れば西側は地上部隊派遣の選択肢を「排除すべきでない」との考えを繰り返し表明しています。

欧州はウクライナ支援・対ロシア防衛強化の方向でまとまりつつあります。

****仏独も国防政策の転換を本格化 欧州の対ロシア防衛態勢確立へ英国との結束がカギ****
ロシアによるウクライナ侵略を受け、英国がウクライナ支援と対露防衛を主導する方針を打ち出す中、これまで経済的思惑に根差した対露融和姿勢が目についたフランスやドイツも国防政策の転換を本格化させた。

マクロン仏大統領は4月29日、英誌エコノミスト(電子版)とのインタビューで、米欧諸国はウクライナへの地上部隊派遣の選択肢を「排除すべきでない」と改めて主張した。

欧米の軍事専門家が本紙に語ったところでは、露軍が前線での攻勢を強め、ウクライナ軍が防衛に集中する必要が強まった場合、米欧がウクライナ西部の後方地帯に軍部隊を投入して兵站を担当することが想定の一つに挙げられている。

フランスには対米自主外交を唱えたドゴール元大統領の流れをくむ「ドゴール主義」の伝統が残る。ウクライナを巡る米国の関与低下が懸念される中、マクロン氏の発言は「欧州自主防衛」の強化に向けた流れの中で存在感の発揮を図っている可能性もある。

ドイツは、2022年に独軍の再建に1千億ユーロ(約16兆6千億円)を投じると表明した。このまま国防費が拡大すれば数年内に国内総生産(GDP)比3・5%に達する見通しだ。国内では11年に停止された徴兵制の再開に向けた議論も活発化しつつある。

米国では、民主党と共和党の大多数がウクライナ戦争の勝利とプーチン露政権への対抗の重要性を掲げる一方、中国こそが自国の最大脅威だとする見方が超党派で共有されている。
誰が次の米大統領になるにせよ、米国が対外戦略の軸足を中国に移し、欧州の比重を相対的に低下させるのは避けられそうにない。

英国の軍事専門家は「米国の欧州戦略の行方に左右されることなく欧州が対露防衛態勢を確立するには、英仏独が結束を強めることが肝要だ」と強調した。【5月8日 産経】
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【効果を発揮するアメリカのロシアへの二次制裁】
また、経済の面でも、アメリカが昨年末に発動した対ロシア制裁が相当に効果を発揮しそうな流れで、これまでロシアにとって最大の実質的支援国であった中国の金融機関の腰が引け始めています。

****【牙を剥くロシアへの二次制裁】「プーチンの戦争」支えた対中貿易に異変、禁輸分野からふさがれる“抜け穴”****
ウクライナ侵攻を続けるロシアを経済面から支えてきた中国との貿易関係に異変が起きている。米国のバイデン政権が昨年末、対ロシア貿易にかかわる中国の銀行に対する制裁圧力を高めたことをうけ、彼らがロシアとの取引から次々と手を引き始めているためだ。同様の動きは、経済面ではロシア寄りだった中国以外の第三国にも広がっている。

バイデン政権は金融分野以外でも、5月にはロシアによる化学兵器使用を認定するなど、対露制裁圧力を高めている。米議会でようやく巨額の対ウクライナ支援が可決され、停滞していた軍事支援の再開にめどが立つなか、11月の米大統領選に向けて、戦況でも確実に成果を出そうとしている米政権の狙いもうかがえる。

「中国との取引が止まった」
「昨年12月、浙江省の銀行が、制裁対象である〝一部の物資〟の支払いを止めたと通告してきた。しかし数週間後には、通貨や商品の種類にかかわらず、ロシアの(企業による)すべての取引を止めたと通告してきたんだ」

中国から機械製品を買い付けていたというロシア中部イジェフスクの同国企業関係者は、中国からの商品購入が突然困難になった状況を、ロシアメディアに打ち明けた。商品の支払いなどの取引を仲介していたのは、中国・浙江省の銀行だ。

このロシア企業関係者によれば、ロシアとの取引を止めたのは、同銀だけではないという。「中国のほかの大手銀行も、私たちの会社の外貨建て口座を凍結した」。浙江省は、中国企業の対ロシア輸出の拠点とみなされていた地域で、打撃の深刻さがうかがえた。

2022年2月に始まったウクライナ侵攻以降、欧米や日本などはロシアの戦争継続能力を削ぐために、経済、金融分野で大規模な対ロシア制裁を科した。

しかし、それらは当初狙った成果を上げることなく、ロシア経済は地盤沈下を避け、さらに成長軌道にすら乗りつつある。中国やインド、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)などが、ロシアの主力輸出品である原油を大量に買い付けたためだ。

特に中国は、原油の大量購入のみならず、ロシアに対し半導体や電子回路、工作機械など、軍事転用が可能な民生用製品の輸出を継続したとされる。結果、ロシアは防衛産業の立て直しに成功し、ロシア軍の戦争継続能力は維持された。中国とロシアの貿易額は、ウクライナ侵攻がはじまった22年に、輸出入ともに実に、前年比で二桁増の伸びとなっていた。

制裁を強化
そのような状況に変化が起きたのは昨年12月のことだ。米バイデン政権は新たに、ロシアによる制裁回避に関与した第三国の銀行に対して、二次制裁を科す方針を表明。ロシアの軍事産業を支える個人や企業との取引を行ったなどと判断される金融機関を対象とした。

米国内などで事業を営む第三国の金融機関には命取りとなる制裁で、これが対ロシアビジネスを事実上支えてきた中国の銀行の動きを封じ込めた。ロシア企業は、中国からの製品購入で支払いを行うことができなくなった。

ロシア側の報道によれば、米国の制裁導入後、中国の銀行は相次ぎロシアビジネスの見直しを開始した。取引に関与している人物や企業がロシアと関係を持っているかどうかが詳細に調べられるようになり、ロシアの市民権を持つ人物が社長を務める中国企業なども、銀行口座を開設できないなどの事態が発生した。2月ごろからは、中国の銀行から「この取引は当行の内部規定に反している」などと理由で、ロシア側からの支払いが返金されるケースが相次いだという。

米政府は手を緩めていない。(中略)

一連の事態は中国以外の国の金融機関にも当然、影響を及ぼしている。米シンクタンクによれば、バイデン政権の制裁導入を受け、トルコの銀行は24年初頭から、ロシアとの金融分野でのつながりをほぼ完全に解消したという。UAEの銀行も、ロシアからの撤退を開始した。

多くのロシア企業のビジネス拠点として知られるキプロスも、米連邦捜査局(FBI)と金融分野の調査で協力を開始したという。インドも、ロシアからの原油輸入の減少が指摘されている。

ロシア経済への影響は
(中略)今回の制裁強化により変化が生まれる可能性がある。特に輸入の停滞は、ロシア国内のインフレ懸念を高める。(中略)

ロシア経済は完成品を輸入に頼る構造となっており、輸入の停滞は物価上昇を引き起こしやすく、政権の中心的な支持層である年金受給者らをはじめロシア国民の生活に打撃を与える。

インフレが引き起こす市民生活への打撃は、ソ連崩壊後のハイパーインフレの記憶を持つ人々に強い心理的影響があり、過去にも繰り返し政権への脅威となっていた。プーチン政権が最も注意せねばならない経済指標とされる。(後略)【5月8日 WEDGE】
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中国の1〜4月の累計での輸出動向については“ウクライナ侵略後も密接な経済関係を保つロシアとの貿易総額は4・7%増だったが、輸出は1・9%減とマイナスだった。米国が昨年末に発動した対露追加制裁が影響した可能性がある。”【5月9日 産経】

バイデン大統領としても、11月の大統領選挙に向けてウクライナ情勢の悪化、あるいは大規模支援でも情勢が改善しない事態は大きな打撃となりますので、対ロシア制裁強化でロシアに有効に打撃を与えている成果をアピールしたい思惑があります。

【現状は優勢でも見えない終わり 今後への不安 「国家元首には恐るべき決断が必要だ」(キリル総主教)】
****ウクライナ、防御戦立て直し 侵略長期化と対露制裁でプーチン体制の不安要因にも****
ロシアのプーチン大統領が7日、就任式を経て新たな6年間の任期に入る。プーチン氏にとって最大の課題であるウクライナ侵略では露軍が優勢にあるものの、ウクライナも態勢の立て直しを進めており、終わりが見えない。

欧米主導の対露経済制裁は今後も露経済をむしばんでいくとする観測も強く、プーチン氏の政治基盤が今後6年間、盤石であり続ける保証はない。

露軍は最激戦地の東部ドネツク州を中心に攻勢を継続している。(中略)露軍の戦力も損耗しており、攻勢をどこまで維持できるかは見通せない。

プーチン氏は露経済が堅調であり、対露制裁を「打破した」と繰り返してきた。ただ、露専門家やメディアは、経済を押し上げている主な要因は軍需生産の拡大であり、景気の継続性や将来性には疑念が残ると指摘している。

ロシアは国家歳入の3〜4割を占める石油・天然ガス輸出で、制裁前の主要販売先だった欧州での減少分を中国やインドなどでの増加分で補えなえておらず、財政赤字が増加。機械や電子機器、部品などの供給で依存してきた欧米の供給網から切り離されたロシアの生産力の低下が本格化するのは、これからだとする分析もある。【5月7日 産経】
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そうしたなかで、ロシアでは・・・・

****ロシア正教トップがプーチン大統領に「恐るべき決断必要」****
ロシア正教会のトップが通算5期目の任期を始めたプーチン大統領に対し、「国家元首には恐るべき決断が必要だ」などと述べました。

キリル総主教 「紛争が絶えないため、国家元首は時に運命的で恐るべき決断を下さなければならない」

ロシア正教会のキリル総主教は7日、プーチン大統領の通算5期目の就任式後にクレムリン内の教会でプーチン氏への特別礼拝を行いました。

その後の演説で、「国家元首が恐るべき決断を下さなければ国民、国家が危険に陥る可能性がある」などと述べました。

さらにプーチン大統領を中世ロシアの英雄でドイツ騎士団を打ち破ったアレクサンドル・ネフスキーに重ね、「ネフスキーは敵を容赦しなかったことで聖人となった」などと述べました。 ウクライナへの侵攻を正当化するとともに、さらなる攻撃の激化などを後押しする発言とみられます。

プーチン大統領は伏し目がちにキリル総主教の演説を聞いていました。

また、キリル総主教は演説の最後に「神よ、プーチン大統領がいつまでも権力の座にとどまりますように」と、プーチン氏の終身大統領を望むような発言をしましたが、ロシア正教会の公式映像からは削除されています。【5月8日 テレ朝news】
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ロシア正教会のキリル総主教は熱烈なプーチン支持者であり、ロシア正教会とプーチン政権は一体となって、これまもロシアの独自性を強調・強化してきています。

ですからキリル総主教がプーチン大統領を褒め称えるのは何ら不思議はありませんが、「国家元首は時に運命的で恐るべき決断を下さなければならない」とは何を意味しているのでしょう。

おりしも、ロシアは戦術核兵器の演習計画を公表しています。

“ロシア国防省は6日、ウクライナ侵攻の拠点となる南部軍管区で、プーチン大統領の指示を受けて「非戦略核兵器」の使用を想定した演習の準備を始めたと発表した。戦術核兵器を意味するとみられる。核使用も辞さないとの姿勢を示してウクライナ支援を続ける欧米を威圧する狙いだ。”【5月6日 毎日】

****ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではない」****
タス通信によると、ロシアのプーチン大統領は9日、同国が戦術核兵器配備の演習を計画していることについて「異例なことではない」との認識を示した。

ロシア政府は6日、フランス、英国、米国からの脅威を受けて、軍事演習の一環で戦術核兵器配備の演習を実施すると表明した。

プーチン氏は「何も異例なことではない。計画されたものだ」とし「これは訓練だ」と述べた。
同氏は隣国ベラルーシに対し、6日発表した核演習の一部に参加するよう提案したとし「定期的に行っている。今回は3段階に分けて行う。2回目にベラルーシの盟友が共同行動に参加する」と述べた。

プーチン氏と同席したベラルーシのルカシェンコ大統領は、こうした演習は3回目だとし「ロシアでは恐らく数十回あっただろう。われわれもそれに合わせる。私がロシア国防相から聞いた話では、一般幕僚がすでに指示の実行を開始している」と述べた。

プーチン氏は昨年、一部の戦術核兵器をベラルーシに移転したと表明した。【5月9日 ロイター】
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また、プーチン大統領は「わが戦略部隊(核戦力部隊)は常に臨戦態勢にある」とも。

****プーチン大統領「核戦力は臨戦態勢」 対独戦勝式典で欧米威圧 軍事パレードの規模縮小続く****
ロシアは第二次世界大戦の対ドイツ戦勝記念日である9日、首都モスクワの「赤の広場」や各地で恒例の軍事パレードを行った。

プーチン大統領はモスクワの式典で「何者にもロシアを脅かすことは許さない。わが戦略部隊(核戦力部隊)は常に臨戦態勢にある」と演説。ウクライナ侵略で対立する欧米諸国を威圧した。一方、パレードの規模は縮小傾向が続き、露軍の損耗を示唆した。

プーチン氏は演説で「欧米のエリート」が世界の対立や紛争を激化させていると主張し、ウクライナ侵略を「ネオナチとの戦い」と改めて正当化した。侵略を対独戦と重ねて国民の愛国心を鼓舞し、支持拡大を図った。「(第二次大戦で)日本の侵略に立ち向かった中国国民の勇気に敬意を表す」とも述べ、近く訪問する中国との連帯を強調した。

赤の広場でのパレードには9千人超の軍人と約70超の兵器が参加。戦闘車両や核搭載可能な短距離弾道ミサイル「イスカンデルM」、大陸間弾道ミサイル「ヤルス」などが登場した。

ただ、参加した兵器の数は昨年より減少した。昨年は軍人約8千人と100超の兵器が参加。侵略開始直後の2022年は軍人約1万1千人と約130の兵器が、21年は軍人約1万2千人と約190の兵器が参加した。

パレードには、旧ソ連圏からベラルーシのルカシェンコ大統領や中央アジア5カ国の首脳が出席した。一方、ロシアとの確執を深めているアルメニアのパシニャン首相は欠席。アゼルバイジャンのアリエフ大統領も国内行事を優先して欠席し、旧ソ連圏でのロシアの影響力低下を示唆した。【5月9日 産経】
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西側のウクライナ支援強化、アメリカの制裁強化・・・というなかではロシアとしても長期戦を戦うのは決して楽観できる状況ではありません。

ここにきての戦術核兵器の演習計画、核兵器への言及はそうした西側に対し「いよいよの場合は戦術核兵器使用も辞さない」との牽制でしょうか。それが「国家元首は時に運命的で恐るべき決断を下さなければならない」ということでしょうか。

【核拡散の流れ】
ロシア以外でも、イラン最高指導者ハメネイ師の顧問であるカマル・ハラジ氏は、自国の存立がイスラエルによって脅かされれば核ドクトリンを変更すると述べています。【5月9日 ロイターより】

あるいは、ドイツでは“もしトラ”で核武装論が。“11月の米大統領選を前に、ドイツで独自の核武装論が浮上した。ウクライナ戦争でロシアが勢いづく中、米国で同盟軽視のトランプ政権復活の可能性が浮上し、「米国の『核の傘』に頼れなくなる」という不安が現実味を帯びたためだ。”【5月1日 産経】

韓国では、“北朝鮮の核・ミサイルの脅威を受け、韓国で核武装を求める議論が高まっている。米韓同盟を重視する尹錫悦ユンソンニョル大統領は慎重だが、与党議員らは「米国の『核の傘』に頼らない国防力が必要」などと主張する”“シンクタンク「峨山政策研究院」が昨年5月に発表した世論調査では核武装に賛成する韓国人が70%に上った”【1月4日 東京】

核軍縮は一向に進まず、現実世界では核拡散、ひいては核使用の危険性増大の流れにあります。
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AIの軍事利用 ウクライナのドローン イスラエルのガザ攻撃では民間人犠牲拡大の一因とも

2024-05-08 23:37:02 | 軍事・兵器

(【4月25日 NHK】)

【ウクライナ ドローンにAI利用】
先ほど夕食をとりながらTVをチラ見していたら、NHKのクローズアップ現代でAIの軍事利用を取り上げていました。

****“AI兵器”が戦場に 第3の軍事革命・その先に何が****
AIの軍事利用が急速に進み、これまでの概念を覆す兵器が次々登場している。

実戦への導入も始まり、ロシアを相手に劣勢のウクライナは戦局打開のために国を挙げてAI兵器の開発を進める。イスラエルのガザ地区への攻撃でもAIシステムが利用され、民間人の犠牲者増加につながっている可能性も。

人間が関与せず攻撃まで遂行する“究極のAI兵器”の誕生も現実味を帯びている。戦場でいま何が?開発に歯止めはかけられるのか?【5月8日 NHK クローズアップ現代】
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“第3の軍事革命”・・・第1が火薬、第2が核兵器、そして第3がAI

ウクライナのAI利用として取り上げていたのがドローンへのAI利用です。
ロシアに対し物量で劣るウクライナがその劣勢を幾分補うべく活用していたのがドローンですが、そのドローンもロシア側も大量に使用するようになっただけでなく、妨害電波で操縦不能になるという弱点も表面化しています。

そこでドローンにAIを組み込み、妨害電波にあっても自力で攻撃目標に到達・攻撃できるようにしているとのこと。

ウクライナが戦場で使用しているAIドローンとはややレベルが異なりますが、アメリカなどが開発しているAI自律飛行機は有人戦闘機と模擬空中戦を行えるほどに進歩しているようです。

****AI試験機とF16戦闘機が初の模擬戦 米空軍「飛躍的進歩」****
米空軍と国防高等研究計画局(DARPA)は、人工知能(AI)による自律飛行試験機が2023年9月にF16戦闘機との空中近接戦闘(ドッグファイト)の模擬戦を初めて実施したと発表した。

事故を起こさずに無事に模擬戦は終了。勝敗は明らかにされていないが、米軍は「良いパフォーマンスを見せ、航空宇宙分野の飛躍的進歩となった」と評価した。

米メディアによると、試験機はF16をベースに改良されたもので、性能を確かめたり、緊急時に操縦を代わったりするために2人が搭乗していた。有人のF16との1対1の模擬戦は2週間にわたって実施。試験機は最高時速1920キロで、垂直方向への飛行も行い、搭乗員に操縦を交代する場面もなかった。

米空軍は、F22ステルス戦闘機の後継機開発を含む「次世代航空優勢(NGAD)」計画を進めている。主力の有人戦闘機は、センサーやミサイル発射の機能を担う多数の無人戦闘機とネットワーク化して運用する構想を描いている。AI自律飛行機の試験成果も、無人機開発に生かされる見通しだ。【4月23日 毎日】
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ドローンにAIを組み込んだものではなく、もともとの有人戦闘機をAIで自律飛行させるもののようです。それなら機体の飛行性能も有人戦闘機と変わりませんので、あとは人間とAIのどっちが操縦の腕が優れているかという話になります。

AIはベテラン操縦士の技量を数か月でマスターしたとか。状況分析・反応の早さ・能力については人間はAIに到底及ばないでしょう。

【「AIが2年で人間を超える」(イーロン・マスク氏)】
話が軍事利用からそれますが、以前から議論されているAIは人間の能力を超えるのか、それはいつなのかという議論について・・・・

****「AIが2年で人間を超える」 イーロン・マスク氏が予測****
米企業家のイーロン・マスク氏は8日、人工知能(AI)が2年以内には人間よりも賢くなるとの予測を述べた。X(旧ツイッター)の音声サービス「スペース」で行われたインタビューで答えた。

マスク氏は、最も賢い人間よりも賢いAIの登場は「恐らく来年か、2年以内だろう」と述べた。マスク氏はAIの危険性と規制の必要性を唱える一方で、自身も生成AIを開発する企業「x(エックス)AI」を立ち上げている。

AIを巡っては、開発に適している米エヌビディア製の半導体の争奪戦が企業間で生じている。【4月9日 共同】
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訪中したマスク氏は“マスク氏はSNSでことし、AI開発に100億ドル、日本円でおよそ1兆5800億円を費やす方針であると明らかにしました。 自動運転技術などを念頭に置いているとみられ、マスク氏は「このレベルで支出できない企業は競争できない」と強調しています。”【4月29日 TBS NEWS DIG】

AIの“賢さ”の意味合いはよくわかりませんが、巨大企業が開発するAIが人間の能力を超え、やがて社会全般をコントロールする日も近いのかも・・・ターミネーターの世界の幕開けです。

【イスラエル ガザ攻撃での民間人犠牲者拡大の背景にAI利用の人物標的攻撃があるとの調査報告】
イスラエルのガザ攻撃では、ガザ保健当局発表で3万人を超える民間人犠牲者が出ているとのこと(2月29日時点)ですが、これほどの多大な民間人犠牲者が出ている一因にイスラエル軍によるAI利用があるとも指摘されています。

イスラエル軍はハマス戦闘員の特定、追尾・探索にAIを利用しているが、当該人物への攻撃は人間の判断でやっているとしています。

しかし、どういう情報をもとに戦闘員と特定するのか、人間の判断で攻撃というのは形式的なもので、実際にはAIの指示どおりに動いているだけではないのかという疑問、攻撃の際の民間人被害をどのように考慮しているのかという疑問などもあります。

AIが“標的”を探索特定してから人間がその者への攻撃を判断する時間的余裕は20秒とのことで、ゴム印を書類に次々に押すようにAI指示どおりの攻撃をしているのが実態であるとも。

****ガザの3万7千人を標的化:AIマシーン「ラベンダー」の存在明らかに イスラエル独立メディアが調査報道****
イスラエルの独立系ネットメディア「+972マガジン」とローカル・コールは共同取材チームでイスラエル軍がガザ攻撃で使用している人工頭脳(AI)マシン「ラベンダー(Lavender)」についての長文の調査報道を公開した。(中略)

取材はイスラエル軍情報部門に属し、今回のガザ攻撃に参加し、ハマスやイスラム聖戦の工作員・戦闘員の暗殺作戦のために標的を生成するAIマシンの使用に直接関与していた6人の将兵にインタビューをし、情報源としているという。

■AIの指示を『あたかもそれが人間の決定のように』
情報関係者への取材に基づいて、記事では「ラベンダーは、特にガザ戦争初期段階において、前例のないパレスチナ爆撃で中心的な役割を果たしてきた。実際、情報源によると、軍事作戦に対するAIマシンの影響は、彼らは本質的にAI マシンの指示を『あたかもそれが人間の決定であるかのように 』処理した」と書いている。

ラベンダー・AIマシンは、ハマスとイスラム聖戦の軍事部門に所属している疑いのある、すべての工作員を潜在的な「人物標的」としてマークするように設計されている。調査報道に証言した4人の軍情報部兵士によると、「下位の工作員まで含む37000人を工作員リストとして標的にした」という。

私(川上)がガザの取材を通して知る限りでは、37000人を工作員リスト というのは、想像できない数字である。ハマスの戦闘員の名簿は公開されているわけではなく、戦闘員は自分が戦闘員であることを家族や隣人にも言っていないのが普通である。つまり、ラベンダー・マシーンがマークする「暗殺リスト」は、上級の幹部など既に知られたメンバー以外は、様々な情報を重ね合わせて推定されたものでしかない。

■ラベンダーを動かす軍情報部エリート部隊「8200」
この記事は、ラベンダーがどのように工作員の標的を生成するかについても書いている。ラベンダーを動かしている軍情報部のエリート情報部隊「8200」の司令官が、匿名で書いたAI関連の著作が紹介され、その中でラベンダーと同様の「標的生成」マシンを構築するための短いガイドが出ているという。

このガイドには、個々の人物の危険評価を行う「数百、数千の特徴」から、既に知られている戦闘員の通信ソフト「Whatsapp」のグループに入っているとか、数か月ごとに携帯電話を変更するとか、頻繁に住所を変更するなど、 いくつかの特徴を示している。

「視覚情報、携帯電話情報、ソーシャルメディア接続、戦場の情報、電話連絡先、写真」など特徴となる条件を人間が選び、AIマシンが与えられた膨大な住民データを特徴をもとに独自に分類する。

■AIで「ガザの住民を1 から 100 までの危険評価」
+972マガジン に証言した兵士は次のように語っている。
「ラベンダー・システムはガザのほぼすべての人物に 1 から 100 までの危険評価を与え、彼らが戦闘員である可能性がどれほど高いかを示している。ラベンダーは、訓練データとして機械に情報が供給された既知のハマスとイスラム聖戦の工作員の特徴を学習する。そして、これらの同じ特徴を一般の集団の中で見つけ、いくつかの特徴を持っていると判明された個人は高い危険評価に達し、自動的に殺害の潜在的な標的になる」

■イスラエル軍の230 万ガザ住民の大量監視システムが基に
このようなAI標的評価システムが機能するためには、対象となるガザ住民の包括的なデータが必要となるが、それはイスラエル軍が「230 万人のガザ住民のほとんどの情報を収集する大量監視システム」で集められた個人データが、ラベンダーシステムに入力されることになる。

つまり、既に確認されているハマスの工作員・戦闘員についての特徴が徹底的に分析され、その人物とSNSなどで連絡をとっている人々や、その人物と似た情報の特徴を持つ人々が、危険人物評価にかけられるということだ。

一見合理的に思えるかもしれないが、ハマスの工作員・戦闘員という認定は、推測でしかない。推定をいくら重ねても、ハマスの工作員・戦闘員を完全に割り出すことはできない。(後略)【4月9日 川上泰徳氏 YAHOO!ニュース】
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230 万ガザ住民の大量監視システムをもとに様々な個人情報による推測・推定・・・当然“誤り”も生じます。
誤りの割合は10%とも。

****「10%の誤り」知りながらAI活用か ガザ、民間人被害が拡大 イスラエルのネット雑誌報じる****
イスラエルがパレスチナ自治区ガザで行ったイスラム原理主義組織ハマスへの攻撃で、「10%」の誤った標的を選定する恐れがある人工知能(AI)を活用したとの観測が出ている。ガザでは民間人の犠牲が急増し、米欧がイスラエルに標的を絞って精密攻撃を行うよう求めた経緯がある。(中略)

AIはハマスの奇襲を受けた昨年10月7日からの数週間で、住民3万7千人とその自宅を攻撃対象候補に選定した。うち数百件を無作為抽出して人間の手で確認したところ、90%はハマスと関係があったことが判明し、軍はAIに依存するようになったとしている。

証言によると、AIは対象人物が帰宅した時点で通知する仕組みで、同居する妻子らに多数の犠牲者が出た。国連は2月、ガザの死者の70%は女性と子供だと推計している。AIが帰宅を確認した標的が数時間後の爆撃時、別の場所に移っていたこともあった。

AIがハマス戦闘員と同じ氏名の人や、戦闘員が以前使った携帯を持っていた人を誤って攻撃対象候補に挙げた事例もあった。ある情報機関員は「(AIの対象選定は)現実と結びついていない」と証言した。

軍はハマス幹部1人を殺害するのに百人以上の民間人が犠牲になる攻撃も許可した。「幹部は病的な興奮状態」で「もっと標的(の情報)をよこせ」と要求したとの証言もあった。

軍は同誌に対し、AIは標的選定の「補助用具」に過ぎず、依存していないと主張した。(後略)【5月7日 産経】
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【確認作業なしにAIが特定した者を「ゴム印押す」ように人間が実行、家族の家を爆撃する方がはるかに簡単、重要でない人物に対して高価な爆弾を無駄にしたくないから“愚かな”爆弾使用】
“誤り”を犯すのはAIでも人間でも同じです。 NHKクロ現では、イスラエルのAI開発関係者は、AIを使わなければもっと犠牲者は増加したはず・・・とも主張していました。

問題はAIシステムの運用の仕方にあったように思えます。

なぜAIの曖昧な推定をもとに、民間人犠牲が生じる攻撃がなされるようになったのか・・・以前は「上位の軍事工作員」だけが人物標的にされており、そのような危険人物については、攻撃時に家族など民間人犠牲が生じても止むを得ないという判断がありました。逆に言えば、軍事的に重要ではない「下位の工作員」を殺害するのに空爆することはできないという判断にもなります。

しかし、昨年10月7日以降、イスラエル軍は「ハマスでの階級や軍事的重要性に関係なく、軍事部門のすべての工作員を人物目標として指定することを決定した」とのこと。

標的の範囲がいきなり広がったために、以前は、一人の人物標的(「上位の軍事工作員」)の殺害を許可するために、軍情報部が行っていた確認のための作業ができなくなりました。

****AI使用した攻撃で、人間は「ゴム印押すだけの役割」****
取材源によると、以前の戦争では、一人の人物標的の殺害を許可するために、担当将校はその人物が確かにハマスの軍事部門の上位メンバーであったという証拠を照合し、彼がどこに住んでいたか、彼の連絡先情報を見つけ、最後には彼が家にいることをリアルタイムで確認する作業を行っていた。

しかし、今回のガザ攻撃の初期段階で、軍がラベンダー・システムが作成する殺害リストを採用することを承認したことで、「人間の職員はAIシステムの決定に対してゴム印を推すだけの役割を果たすことが多かった。通常、彼らは爆撃を許可する前にラベンダーのマークが付けられた標的が男性であることだけを確認して、一つの標的の確認に約 20 秒だけ使った」と情報関係者は証言した。

■標的を追跡し、帰宅を知らせる「父さんはどこ?」システム
さらに、イスラエル軍は標的となった人物が夜、家族全員と一緒にいるに時に攻撃するのが通例だったという。情報筋によると、「(軍事拠点を爆撃するよりも)家族の家を爆撃する方がはるかに簡単だからだ 」という。

さらに、標的が家に戻ったことを追跡する「父さんはどこ?(Where’s Daddy? ) 」と呼ばれるAI自動化システムが使用されたことも、今回の調査報道で初めて明らかになったという。

「父さんはどこ?」システムでは、ラベンダーによって標的とされた人物を継続的に監視下に置き、彼らが家に足を踏み入れたらアラートを出して知らせる。それによって、空爆が指令され、家を破壊する。

このシステムは、ラベンダーと組み合わせで、標的と一緒に家にいた家族全員が殺害する致命的な効果を上げたと、情報関係者は+972マガジンに語った。

■工作員一人の殺害に「10人の妻と子供」の巻き添え
このことについて、標的作戦室の士官は取材に対して、「例えば、ハマスの工作員一人に加えて、家の中の民間人10人を計算すれば、通常、それら 10人は女性と子供になる。ばかげているが、殺した人々のほとんどは女性と子供ということになる」と語った。

「父さんはどこ?」システムが夜、標的の人物が自宅に入ったとアラートが出ても、実際に空爆するのは未明になるなど、時間差があり、標的攻撃の直前に標的が実際にその場所にいるかどうかのリアルタイムの確認はないため、標的の人物は一時的に家に戻っただけで、その後、家を出て、空爆して死んだのは妻と子供だったり、または夜中に家族全員が別の家に移ったために、空爆して死んだのは、何も知らない周辺住民家族だけだったという例も実際にあったとしている。

■下位の戦闘員の標的は無誘導の“愚かな” 爆弾使用
さらに悪いことに、ラベンダーがマークした下位の戦闘員とされる人物を標的にする時には、軍は無誘導ミサイルを使用することを求めたという。

一般に無誘導ミサイル は衛星で誘導されピンポイントで標的を攻撃できる“賢い” 精密爆弾とは対照的に “愚かな” 爆弾として知られている。そのために、居住者が住む建物全体が破壊され、多くの死傷者が発生する可能性があった。

+972マガジンの取材に応じた情報将校は「重要でない人物に対して高価な爆弾を無駄にしたくない。それは国家にとって非常に高価であり、精密爆弾は不足している」 と述べた。

別の情報関係者は、自らラベンダーがマークした若手工作員とされる数百の個人の家を爆撃することを許可したと述べた。それらの攻撃の多くは民間人と家族全員を殺害し、「巻き添え被害」となった。【前出 YAHOO!ニュース】
*********************

確認作業なしにAIが特定した者を「ゴム印押す」ように人間が実行、家族の家を爆撃する方がはるかに簡単、重要でない人物に対して高価な爆弾を無駄にしたくないから“愚かな” 爆弾使用・・・なんともやりきれない戦争の実態です。民間人犠牲が膨らむのも当然でしょう。

****「10%誤り」認識なら人道法違反の可能性 防衛大学校・黒崎将広教授(国際法)****
報道が事実であれば、10%は間違える可能性があることを知りながらAIを使用したことになり、ジュネーブ諸条約や追加議定書などで構成される国際人道法に違反した可能性がある。

標的の評価を間違えて攻撃した場合、民間施設や民間人と区別して軍事目標を攻撃するよう定めた「区別原則」違反に問われる。

結果的に正しい標的を攻撃した場合でも、10%誤る可能性を防ぐ措置を取っていなければ、民間施設や民間人への誤った攻撃を防ぐ義務があると定めた「予防原則」違反となり得る。

イスラエルは追加議定書には不参加だが、この2つの原則は慣習法として順守する立場をとっている。

ハマスの司令官を攻撃する際、多数の民間人が巻き添えになってもよいとの命令をイスラエル軍が下していたとしても、ただちに違反にはならないが、標的を10%間違える可能性があると知っていて攻撃したのなら無視できない。

特に、敵対行為に直接参加していない民間人などの非軍事目標を直接攻撃する可能性を知っていたのであれば、故意の区別原則違反となり戦争犯罪に該当し、国際刑事裁判所(ICC)の訴追対象になると思う。

AIの軍事利用については規制の議論が進んでいる。人間の指揮命令系統の下で運用し、責任の所在を明確にすることが目的だ。米国が主導して作成された政治宣言には日本など50を超える国・地域が支持表明している。

昨年11月には米ニューヨークでこの宣言に関する初会合が開かれており、イスラエルとハマスの戦闘がAI規制の機運を醸成したことは間違いない。(談)【5月7日 産経】
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AIの軍事利用でも、もっとも議論になるのはAIが独自の判断で人間を殺す・・・自律型兵器システム(AIを使って人間の関与なしに敵を攻撃する兵器システム)ですが、アメリカ、ロシア、中国といった軍事大国の思惑もあって規制の議論が進みません。 そのあたりの話は長くなるので、また別機会に。
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イギリス  不法入国者のルワンダ強制移送 法案成立で7月までに始動予定

2024-05-07 23:08:40 | 難民・移民

(2021年11月24日、英国ダンジネスの海岸に上陸する移民たち【4月27日 JBpress】)

【紆余曲折を経て、不法入国者「ルワンダ強制移送法案」成立】
イギリスにたどり着いた一部の難民申請者を第三国である東アフリカのルワンダへと移送するための法案が4月23日未明、英議会を通過しました。

ルワンダ移送後に難民として認められた場合、彼らはイギリスではなくルワンダに再定住することになります。

計画はジョンソン元首相時代に始まりましたが、移送先ルワンダでの人権保護や移民支援体制を不安視する声も強く、法案成立までには紆余曲折がありました。

スナク政権が計画の実現にこだわる理由の一つは、年内にも実施される見通しの総選挙で、不法移民に反感を抱く保守派支持層にアピールしたいとの狙いがあります。保守党は最大野党の労働党に支持率で大きくリードされ、前哨戦とされる補選や地方選挙でも保守党は大敗し、次回総選挙で敗北・下野が現実味を帯びています。

****映画「ホテル・ルワンダ」の舞台に不法移民を送り込む…英国の計画に物議  安住できるか?大虐殺乗り越え「奇跡」の復興遂げた国の実情とは****
1994年の大虐殺を題材とした映画「ホテル・ルワンダ」で知られるルワンダ。アフリカ中部にある人口約1400万人の小さな国が今、世界の注目を集めている。庇護を求めて英国にたどり着いた不法移民を、6500キロも離れたルワンダに移送するという英政府の計画が物議を醸しているからだ。

大虐殺を乗り越え、ルワンダは「アフリカの奇跡」とも呼ばれる復興を遂げた。政府関係者は「悲劇を経験したからこそ、希望を与える国になりたい」と受け入れ準備を進めるが、人権保護や移民支援体制を不安視する声もある。ルワンダは移民にとって「安住の地」となり得るのか。現地を訪れて、実情を探った。

▽「ボートを止める」
英国はこれまで、アフリカや中東などから多くの移民や難民を受け入れてきた歴史がある。

しかし近年、英仏海峡を小型ボートで渡って入国する不法移民が急増。2022年は前年の約1・6倍の約4万5千人を記録し、亡命申請者の数も8万9千人以上に達した。審査を待つ人々を収容する費用も膨らみ、負担を強いられる国民の間で反発が高まってきている。

そこで英政府が打ち出したのが、ルワンダへの移送計画だ。2022年4月、当時のジョンソン首相(保守党)はルワンダ政府との協定を発表した。

合意によると、移民らはルワンダに移送されて亡命申請の審査手続きをし、申請が認められれば原則、ルワンダ国内で定住することになる。ルワンダ政府が申請審査や社会統合への支援を担い、英政府がその費用などを負担する仕組みだ。

保守党政権は「ボートを止める」とのスローガンを掲げ、不法移民に厳格な姿勢で臨む。ジョンソン氏は「ルワンダは世界で最も安全な国の一つだ。難民受け入れの実績もある」と訴えたが、移民を「国外追放」し、対応を丸投げするやり方に、難民支援団体などは「自国に送還される恐れがある」「非人道的だ」などと反発。

計画中止を求めて提訴したが、英高等法院と上級審の控訴院はいずれも移送を認め、第1陣が6月14日夜に出発する予定だった。

しかしその直前、欧州人権裁判所が、「難民認定を受けるための公平かつ効率的な手続きにアクセスできなくなる」とのUNHCRの懸念などを踏まえ、移送を差し止める仮処分を決定。これを受け、英政府は移送中止を余儀なくされた。

ジョンソン氏退任後も方針に変更はなく、スナク現首相も計画を推し進める。しかし、2023年11月、英最高裁は「移民が母国に送還される危険がある」とし、計画は違法との判断を下した。

国内の法律の壁にも直面したスナク氏は12月、ルワンダ政府との間で新たな条約を締結した。ルワンダが移民らの安全や支援を確保し、母国や安全ではない第三国に送還・移送しないよう保証することを柱とし、安全性への懸念を払拭する内容になっている。

さらに、ルワンダは「安全な国」だと定義し、移送を阻む裁判所の命令や拘束力を回避できるような仕組みを盛り込んだ法案も提出。早期に成立させて計画を実行できるように急ぐ。【3月8日 47NEWS】
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【受入国ルワンダの実情】
カネで移民対応を他国に丸投げしてしまうことへの“そもそも”の疑問もありますが、ルワンダの受け入れ態勢については以下のようにも。

****悲劇からの発展****
人権重視の欧州の価値観では「危険な国」との烙印を押されるルワンダの実情はどうなのか。そんな思いを胸に今年1月中旬、現地に赴いた。

ルワンダは面積が四国の約1・4倍。多数派のフツ人と少数派のツチ人が長年対立し、1994年にフツ人主体の政府軍や民兵がツチ人やフツ人穏健派ら約80万人を虐殺した惨劇の歴史がある。

1994年以降実権を握るカガメ大統領は民族和解を推進。外国投資の呼び込みにも取り組み、2022年の国内総生産(GDP)成長率は8・2%に達した。

首都キガリには経済成長の象徴でもある高層ビルが立ち並ぶ。国際会議場や高級ホテルもあり、インターネットが利用できるカフェでは若い人たちが集っていた。道路はゴミがなく清潔で、国民も穏やかだ。生活は決して裕福とはいえず、発展途上の国であることは否定できないものの、30年前の惨劇からは想像がつかないほど穏やかな時間が流れていた。

英国からの移民の受け入れ先となる施設「ホープ・ホステル」は、キガリの高台に建つ。「ゲストとして来て、友達として帰ってください」。敷地の入り口には歓迎の看板が掲げられていた。

ツインルームが50部屋あり、約100人を収容できる。吹き抜けの構造で日当たりがよく、イスラム教の礼拝室のほか、医務室やサッカー場なども備えている。

「快適に過ごせるよう、万全の準備を整えている」。手入れや掃除の行き届いた施設を案内しながら、運営責任者のバキナ・イスマイルさんが胸を張った。維持費は英政府が支出しているという。

ルワンダはこれまで、近隣のブルンジやコンゴ(旧ザイール)などから約13万人の難民を受け入れてきた。政府当局者らは、民族対立に伴う大虐殺の痛みが難民支援の根底にあると語る。

2019年にはUNHCRなどと協力して人道支援メカニズムを立ち上げ、ルワンダ南東部ガショラの難民キャンプで、密航業者らが暗躍するリビアから移送されてきた難民の欧州への再定住支援にも取り組んでいる。

UNHCRのグレース・アティムさんによると、キャンプには約700人が身を寄せ、1日3回の食事のほか、生活に必要な物資や現金などが支給される。難民認定の審査や再定住先の調整をUNHCRが担い、難民たちは審査や受け入れ先の決定を待つ間、語学や職業訓練などの支援も受けられる。

「やっと安全を感じられる」。祖国エチオピアから逃れてきたイェシアレムさん(26)が生後8カ月の娘ソリヤナちゃんを抱きながらほほえんだ。

エチオピアを出た後、スーダンで誘拐され、拘束先のリビアで倉庫に数カ月間も監禁されて「何度もレイプされた」という。夫とは離れ離れになり、定住希望先もどこにするかまだ何も決めていないが、「人生に希望を持てるようになった」とうれしそうに話した。

取材に訪れた日も、複数の難民たちがスーツケースや荷物を手にキャンプを旅立っていった。「カナダに向かうんだ」。1人の若い男性が晴れやかな表情で手を振り、ワゴン車に乗り込んだ。

また大学では、2023年4月から戦闘が続くスーダンから逃れてきた医学生たちを受け入れ、学業継続の支援をしている。南部フイエにあるルワンダ大の医学部で学ぶアルワ・アブドゥラヒムさん(18)は「安心して勉強が続けられて幸せだ」と支援に感謝した。【3月8日 47NEWS】
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ルワンダにおけるジェノサイドの実態については上記のような「フツによるツチ虐殺」という“一般的通説”以外に、カガメ氏率いるツチ人武装勢力の関与など異論もあって、話はそう単純ではなさそうです。

それはさてき、上記を読む限りは難民支援に理解がある“安全な国”との印象もありますが、一方で、ルワンダにおけるカガメ政権による野党弾圧なども問題視されています。

英紙オブザーバーは1月下旬、イギリス内務省が昨年、迫害の恐れがあるとしてルワンダの野党支持者ら4人を難民認定していたと報じました。オブザーバーは、この難民認定について「ルワンダは安全だという政府の主張に疑問を投げかけるものだ」と指摘しています。

****責任転嫁…英国に厳しい目****
ルワンダ政府には、大虐殺という負のイメージを払拭し、難民問題に貢献する国を目指したいという思いがある。

ただ、カガメ政権は野党弾圧などの強権的な側面も問題視される。移送計画を巡っても「自国に送還しない」との英政府との合意が守られない懸念がある。

難民問題を担当するルワンダ緊急事態省のハビンシュティ次官は取材に対し「強制送還は絶対にない」と断言した。「ルワンダ国民は自らが難民となり、他国に支援された経験がある。だからこそ支援を進め、アフリカの中で難民問題の解決に貢献できる国になりたい」とも強調した。

だが、計画により苦境に追い込まれた人もいる。受け入れ先の宿泊施設には元々、大虐殺で家族や住居を失った人々が生活していたが、英国との計画合意に伴い退去を強いられた。居住者らにはルワンダ政府からわずかな生活支援金が支払われただけだという。

UNHCRルワンダ事務所のリリー・カーライル報道官は、ルワンダ政府の努力を評価しつつも「包括的な支援策はあるが、資金や制度が不十分だ」と指摘する。難民たちの雇用の機会は乏しく、社会統合も容易ではない。先進国のような経済的な恩恵を受けられる状況ではないという。

移民移送計画ついては、亡命申請者を保護するという「国際的な連帯と責任分担の基本原則」に反し、責任を他国に転嫁する英国の方針に一番の問題があるとして、厳しい目を向けた。亡命申請の審査手続きにUNHCRが関与せず、ルワンダ政府が独自で実施することも問題視した。(後略)【3月8日 47NEWS】
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【隣国アイルランドは反発】
スナク首相は、法案がすでに“抑止力”として機能しているとアピールしています。

****ルワンダへの移民移送法案、既に「抑止力」として機能 英首相****
英国のリシ・スナク首相は27日に公開された英スカイニューズのインタビューで、亡命希望者が同国から隣国アイルランドに流れているのは、不法入国した移民をアフリカ中部ルワンダに強制移送することを定めた法案が既に抑止力として機能している証拠だと述べた。同法案は今週、英議会を通過した。

アイルランドのヘレン・ マッケンティー法相は今週、同国での難民認定申請者の約80%は、英国の北アイルランドから陸路で入国したとの推計を、議会の委員会で明らかにした。

この推計についてスナク氏は、同法案が抑止力として「既に効果を発揮している」ことを示すものだとの見解を示した上で、「わが国に不法入国しても、滞在できないと分かっていれば、(不法移民が)来る可能性は大きく低下する。だからこそルワンダ計画は非常に重要なのだ」と説明した。

また、「不法移民は世界的な課題であるからこそ、複数の国が第三国とのパートナーシップについて話している」とも述べた。 【4月28日 AFP】AFPBB News
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スナク首相は効果をアピールしていますが、かわりに亡命希望者が流入するアイルランドは反発しています。

****イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非難轟々...「それぞれの理由」とは****
(中略)
隣国アイルランドも反発している。移送を危惧する人々がイギリスから流れ込む事態を懸念する同国は、北アイルランド経由の不法移民をイギリスに送還する法律を、5月末までに整備すると発表。
だがスナクは送還者受け入れに消極的で、混乱が続きそうだ。【5月7日 Newsweek】
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【亡命希望者らの宿泊費用1日15億円 世論の難民への反感も】
法案成立を後押ししている世論の難民への厳しい見方の背景には大きな経済的負担の問題もあります。
イギリス政府は、この負担を減らそうとしていますが、「隔離」との批判もあります。

****1日15億円…亡命希望者らの宿泊費用 イギリスで支援者らと警察が衝突****
不法入国した移民をアフリカのルワンダに移送する法律が成立したイギリスで、亡命申請中の移民などの移送を巡って支援者らが警察と衝突しました。

2日、ロンドン市内のホテルに滞在していた亡命希望者や不法移民が移民専用の宿泊施設に移送される予定でしたが、支援者らが妨害工作を行いました。支援者らは警察と衝突し、45人が拘束されました。

亡命申請中の移民
「(移民専用宿泊施設に移送を通知する)手紙を先週、受け取った」「3日間眠られなかった。正しくなく、むなしい日々を送っている」

亡命申請中の移民らはホテルなどでの滞在が認められていますが、宿泊費用として一日あたり800万ポンド=およそ15億円をイギリス政府が負担しています。

政府は「納税者の負担が大きく、ホテルの空室不足が観光にも影響を与えている」とし、地方の港に移民専用の宿泊施設を設け、移送を進めています。

移民らは施設から外出が可能ですが、人権団体などが「水上刑務所のようだ」と非難しています。

イギリスでは先月、2022年1月以降に不法入国した移民に対して亡命申請を認めず、ルワンダに強制移送する法律が成立しました。

地元メディアは内務省関係者の話として「今回移送される人は、ルワンダに移送される対象者ではない」と報じています。【5月3日 テレ朝news】
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イギリスがEUを離脱した最大の理由は、難民の流入を防止できるということでした。それだけ難民流入増加に対する世論の反発が大きいということでしょう。

イギリスだけでなく、そうした国民を顧みない既成政治・一部政治エリートによって自国がよそ者のために犠牲になっているという感情、難民に使うカネがあるなら自分たちの生活を何とかして欲しいという声が、欧州の極右勢力拡大や、アメリカの根強いトランプ支持の背景にあります。

ただ、「自分たちの生活が苦しいのは“あいつら”のせいだ」「“あいつら”のせいで犯罪が増える」という“わかりやすい”主張は、本当にそうなのか・・・冷静に考えてみる必要があります。

同じく移民の急増に悩むイタリアやデンマークも、イギリスのような政策を採用することを検討しているとのことです。

****英、亡命希望者をルワンダに初移送****
英国は、難民と認定しなかった亡命希望者1人をアフリカ中部ルワンダに初めて移送した。英メディアが4月30日に報じた。不法移民をルワンダに強制移送する法案は論争を呼ぶ中、先週、英議会で可決された。ただし、この男性は同法とは別の枠組みとされる。

リシ・スナク首相は、年内に実施されるとみられる総選挙をにらみ、支持率で最大野党・労働党の後塵(こうじん)を拝している状況に巻き返しを図るため、不法移民対策を優先課題の一つに掲げている。(中略)

ルワンダに移送された移民は、難民認定申請が認められた場合は同国に在留できるが、英国に戻ることはできない。
スナク政権は7月までに強制移送を開始するとしている。

複数メディアによれば、4月29日に英国を出発したアフリカ出身の男性は、昨年末に難民認定申請を却下された後、4月に成立した同法とは別の任意の制度で、ルワンダの首都キガリへの移送に同意していたとされる。サン紙は、男性はキガリ行きの民間便で出国したと報じている。

タイムズ紙が引用した政府筋の情報によると、男性は出国に同意した見返りに、最高で3000ポンド(約59万円)を受け取ることになっている。 【5月1日 AFP】
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ロシア  外国人労働者排斥の一方で経済は労働者不足 戦争が惹起する諸問題 当局は統制強化

2024-05-06 23:49:11 | ロシア

(【23年12月11日 NHK 極東サハリンで戦死者が急増 戦死者を悼む遺族】)

【テロ事件で高まる中央アジア労働者への警戒感・排斥 しかし、労働力不足のロシア経済にとっては不可欠】
3月22日に起きた140人以上が死亡したロシア・モスクワ郊外のコンサートホールでの銃乱射テロについては、「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、実行犯とされた中央アジア・タジキスタン人4人らが起訴されています。

この事件を受けて、もともと中央アジア労働者への蔑視もあったロシアでは更に外国人への警戒感が強まり、治安当局は不法移民の取り締まりを強化しています。

ただロシアはウクライナ侵攻の長期化で労働力が不足しており、ロシア経済には移民が欠かせないという事情も抱えています。

ロシア科学アカデミー経済研究所によると、侵攻が始まった2022年以降に労働者不足が深刻化し、23年末時点で480万人の人手が足りていないとされています。【4月21日 時事より】

****【ロシアの柔らかい脇腹とは?】テロ事件があぶり出すロシア経済のアキレス腱、プーチンが“切れない”旧ソ連最貧国との関係****
モスクワ郊外で起きた大規模テロ事件を契機に高まった中央アジア移民排斥の風潮に、ロシアのプーチン政権が苦慮している。ウクライナ侵攻を受けた徴兵増や、若年層の国外脱出で国内の労働者不足が深刻化するなか、移民労働者の減少はロシア経済の回復に打撃となるためだ。

移民規制はテロ実行犯の出身国であるタジキスタンの政治・経済に打撃を与え、親ロシアのラフモン政権を揺るがしかねない。“ロシアの柔らかい脇腹”とも称される中央アジアの不安定化は、過激主義に傾倒する若者をさらに増大させ、ロシアを一層のテロの脅威にさらす危険性もある。

殺害予告
「一体、どうしていいのか分からない。私は妊娠をしているのに、怖くて外に出ることもできない」 
ロシア西部の都市イワノボで、理髪店を営む女性は現地メディアの取材にそう打ち明けたという。彼女の店では、テロ事件の実行犯とされるタジキスタン出身の容疑者が働いていた。男を雇っていた事実を恨まれ、女性の家には彼女の殺害を予告する脅迫電話が鳴り続けた。

テロ実行犯として拘束された4人の男は皆、旧ソ連・タジキスタン出身者だった。当局により拘束された男はいずれも、顔が腫れ上がるなど拷問によるものと思われる跡があった。右側の耳に、大きな包帯を当てていた容疑者の一人は、当局による尋問のさなかに、片耳を切り落とされていたとの報道もある。

そのような姿をあえてさらしたのは、当局が強硬な姿勢で取り締まりを行うことをアピールする狙いもあったもようだ。モスクワ市民が広く知る人気のコンサートホールで銃を乱射し、140人以上が犠牲になった今回のテロ事件。そのような蛮行の発生を食い止められなかった当局が、少しでも国民の支持を回復するには、犯人らへの苛烈な取り締まりをあからさまにさらすほかはなかった。

怒りは当然、一般市民にも広がった。タジク人が運転するタクシーが乗車拒否されたり、暴行される事態も発生したほか、タジク人が経営する店舗が放火されるなどのケースも報じられている。

労働移民に対する警察の尋問が強化されただけでなく、警官が労働者から、金品を巻き上げるケースもあったという。ネット上では、有力ブロガーらが労働移民の徹底排除を要求する主張を繰り広げ、「殺害しても構わない」などの過激主張も行われた。政界でも移民規制強化を求める声が上がった。

移民に依存するも、低位に見るロシア社会
ただロシアにとり、安易な移民規制強化は決して容易ではない。ロシア経済は中央アジア諸国出身者の労働力に、深く依存しているためだ。

ロシアでは、約1億4000万人の人口のうち、約5%にあたる700万人あまりが外国からの移民とされ、さらにその8割はタジクやウズベキスタン、キルギスなど中央アジア出身者とされる。多くは、労働目的の移民とみられ、タジク出身者は100万人程度とされる。相当な規模を占めているのが実情だ。

「ロシア経済における多くの分野は、移民に深く依存している。それらの分野は彼らなしで、安定的な展開は見込めない」。ドイツを拠点とするカーネギー・ロシア・ユーラシア・センターの中央アジア専門家、チムール・ウメロフ氏は米メディアにそう断じた。

実際、モスクワなどの大都市では、店舗や清掃、ドライバー、また理髪店など、どこでもタジクなど中央アジア出身者を見かける。ロシア経済を底辺で支えているのが、中央アジア出身の移民労働者だ。

一方で、彼らはロシア人と共存しているように見えるが、実際には多くのロシア人は、彼らが社会の低位にいるとみなしている。今回のような事件が発生すれば、即座に民族的な憎悪の対象となることは不思議ではない。

深刻な労働者不足
ただ、ロシアの労働力はすでに、深刻な不足に陥っている。ウクライナ侵攻を受け、ロシアではIT分野の専門家や弁護士、芸術家、デザイナーなど、今後成長が期待される分野を中心に、若年層の国外脱出が相次いだ。侵攻開始直後に非営利団体が実施した推計では、これらの業態の従事者を中心に、約30万人がロシアを脱出したとされる。

同時期に脱出できたのは、資金面で余裕がある限られた層であり、その後も一定規模の脱出が続いた可能性が高い。海外生活で資金が底をつき、やむなく帰国したケースもあるが、外国でも収入を得られる術があるロシア人の多くが、海外移住を希望していることは従前から知られている。

加えて、徴兵の拡大がある。侵攻開始から約半年が過ぎた段階で、ロシアは「部分動員」との名目で、約30万人の若者を追加動員した。徴兵は特に、人口が希薄なシベリアや極東など地方を中心に実施されたとみられ、このような動きは特に、地方経済にとり打撃になる。

ロシア科学アカデミーによれば、同国では2023年に約480万人の労働者不足が発生していたという。ロシア経済は、中国やインド向けなど、欧米諸国の制裁を回避して行われた原油などの資源輸出増や、軍需産業への投資とみられる公共投資の拡大などを背景に、制裁による経済の落ち込みを抑え込んだ。すでに、回復フェーズに入っているが、労働力不足は新たな経済発展の芽を摘む結果につながるのは必至だ。

持ちつ持たれつのタジキスタンとの関係
ただ、ロシアによる移民規制の動きは、ロシアでの出稼ぎ収入に依存するタジク経済や、同国を率いるラフモン政権に厳しい打撃を与えかねない。

さらに同国の不安定化は、ロシアを標的とするイスラム国(IS)などのテロ集団の伸長につながりかねない矛盾をはらんでいる。

タジキスタンは1991年に旧ソ連から独立したが、独立後に内戦が激化し、和平に至ったもののイスラム系野党は活動が禁じられた。90年代から続くラフモン政権は独裁体制を強め、深刻な汚職体質も指摘されている。

タジクの1人当たりの国内総生産(GDP)は約1000ドル(約15万円)と、旧ソ連で最低水準にとどまっていて、GDPの約3割は、ロシアなど海外からの出稼ぎ労働者による送金とも指摘されている。

そのように経済基盤がぜい弱なタジクにとり、ロシアによる労働移民の規制強化は深刻な脅威となる。ロシアは移民受け入れでタジク経済を事実上支えているほか、ロシア陸軍がタジク国内に駐留するなど、軍事・経済両面で深い関係を持つ。プーチン政権は、事実上ラフモン政権の後ろ盾といえ、そのような政権を窮地に追い込むことは、プーチン氏にとっても得策ではない。

さらに、タジク経済の一層の悪化は、同国の不安定化を招き、ISのさらなる伸長と、ロシアへの流入増を招きかねない。ただ移民規制を強化しなければ、結局はそれも、ロシアへのISの流入増を引き起こす結果につながる。

タジクなど中央アジアやロシア南部のカフカス地方はもともと、“ソ連の柔らかい脇腹”と呼ばれ、ロシアにとり慎重な対応が求められる地域だ。ロシア経済は欧米の制裁網をかいくぐり成長が加速しつつあるが、戦争を背景にした労働力減少という思わぬ弱点をさらけだした格好だ。【4月23日 WEDGE】
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【膨大な戦死者で、早期の終戦を望む声も】
ロシアの労働者不足を深刻化させている大きな理由のひとつは上記記事にもあるようにウクライナ侵攻を受けた徴兵増や、若年層の国外脱出。 単に徴兵されるだけでなく、生きて戻れない者も。

****ロシア軍の死者15万人 仏推計****
フランスのステファヌ・セジュルネ外相は3日公開のインタビューで、ウクライナ侵攻によるロシア軍側の死傷者は50万人で、うち15万人が死亡したとの推計を公表した。

独立メディア「ノーバヤ・ガゼータ欧州」のインタビューで語った。同メディアは2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して間もなく、ロシア独立系紙ノーバヤ・ガゼータの亡命記者らによって立ち上げられた。

セジュルネ氏は「欧州とそのパートナーは、必要な限り団結し、断固たる態度を取り続ける。ロシアの軍事的失敗は既に明らかだ。われわれはロシア軍の死傷者は50万人で、うち15万人が死亡したと見積もっている」と語った。
「これはいったい何のためなのか」「一言で言えば、無駄だった」と続けた。

ロシア軍の死傷者数について、同国側は公表していない。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今年2月、18万人が死亡したと発表した。

英国は、約45万人が死傷したとの推計を公表している。
英BBCは4月、独自調査を基に、5万人超が死亡したと報じた。 【5月4日 AFP】
******************

15万人という数字の信ぴょう性はともかく、かつてのアフガニスタン侵攻の9年間で出した約1万5千人の死者数を数倍上回る死者数を出しているのは確かです。

プーチン政権は社会の動揺を回避するため、動員は地方出身者や少数民族に偏る形で行われ、モスクワなど都市部への影響を極力薄めようとしています。

それでも、これだけ死者が増えると、動員が集中する地方などでは批判・不満も出てきます。

****「犠牲はもうたくさん」 ロシア兵遺族、極東に慰霊碑****
ウクライナ侵攻に多くの兵士が出征しているロシア極東ウラジオストクで25日、戦死者の慰霊碑建立式典が行われた。最愛の人を失った遺族は涙を流しながら花を手向けた。プーチン政権が侵攻継続に固執する中、遺族らは「犠牲はもうたくさん。早期終戦を望む」と訴えた。

市街地の外れの広大な墓地の一角に石畳が敷かれ、侵攻が始まった2022年に死亡した兵士72人の墓石と、72人の名前を刻んだ慰霊碑が完成した。

ウラジオストクに司令部を置くロシア太平洋艦隊のベレゾフスキー副司令官は式典で「ネオナチ(ウクライナのゼレンスキー政権)に対する勝利のために命をささげた」と兵士をたたえた。

22年11月にウクライナ東部ドネツク州で一人息子のニキータ・リャミンさん=当時(22)=を亡くした母マリーナさん(51)は「死の1カ月前に電話で、私を安心させようと何も問題はないと言った最後に『母さん、とても怖いんだ』と漏らした」と振り返り「死が無駄ではなく、祖国にとって意味を持つことを願う」と語った。【4月26日 共同】
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【兵員不足の軍は受刑者や外国人を勧誘 そのことの弊害も】
地方や少数民族に偏った動員でも足りずに、受刑者を恩赦釈放を見返りに勧誘したり、怪しげな方法で外国人をリクルートしたりも。

しかし、受刑者が帰還後に再び犯罪を犯すことも社会問題化しています。

****ロシアで元囚人の帰還兵による凶悪犯罪相次ぐ 2年間で市民100人超死亡****
ロシアのオンラインメディア「ビョルストカ」は26日、ウクライナ侵略に従軍した後に帰還した元兵士が、殺人や傷害致死事件、交通事故などにより過去2年間で少なくとも市民ら107人を死亡させたと報じた。殺人事件の多くは、一定期間の従軍と引き変えに恩赦で釈放された元囚人による犯行だったという。

ビョルストカは、集計は報道や裁判記録など公開情報のみに基づくもので、実際にはさらに多いのは確実だとした。

ロシアはウクライナの前線に送る兵員を確保するため、恩赦による釈放を見返りに凶悪犯を含む多数の囚人を軍に勧誘した。今回の報道は、恩赦で釈放された元囚人らが帰還後に露社会の治安を悪化させている実情を浮き彫りにした。

ビョルストカによると、帰還兵が起こしたことが確認された殺人事件は計55件で、被害者は計76人。うち36件が元囚人による犯行だった。帰還兵による傷害致死事件も18件あり、18人が死亡。さらに、帰還兵は交通事故で11人を死亡させたほか、薬物事件でも2人を死亡させたという。【4月27日 産経】
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戦場における国際法遵守も怪しいところです。

外国人については、「グルカ兵」の伝統もあるネパール人兵士の集団脱走・不当な扱いなどが問題化しています

****ロシア軍からネパール人兵士が集団脱走 無謀な命令や給与の不払いなどが原因か****
ウクライナ国防省情報総局は1日、ロシアが実効支配するウクライナ東部ルハンシク州のロシア軍部隊から、ネパール人兵士が集団で脱走しているとして資料を公開しました。

脱走の理由としては、犠牲を顧みない「肉弾攻撃」や、死が確実な命令を拒否した際に行われる超法規的な処刑、給与の不払いなどが挙げられています。

ウクライナ国防省情報総局は、ネパール人兵士らが母国に戻ったとしてもロシア軍の一員としてウクライナへの敵対行為に参加したことで、訴追される可能性があると指摘しています。

ネパールでは、山岳民族出身の「グルカ兵」が協定で認められたイギリス軍やインド軍に所属する以外は、国民が外国の軍隊に入ることは禁止されています。

ネパール外務省はロシアに対して、兵役に就いているネパール人兵士を帰国させることや、新たな採用をやめることを求めています。

イギリスBBCによりますと、ロシア軍に入隊したネパール人は少なくとも数百人に上るとみられています。また、ウクライナとの戦争が長期化する中、ロシア軍はネパールのほかにもジョージアやシリア、リビアなどからも兵士を集めているとされています。【5月3日 ABEMA Times】
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【戦争遂行に批判的な言動への締め付けを強める当局】
当局は、厭戦気分の拡散・社会の動揺を防ぐため、戦争遂行に批判的な言動への締め付けを強めています。

****「ナワリヌイ氏陣営の動画チャンネルに協力」ロシア人ジャーナリスト2人逮捕 “過激派”参加容疑 外国メディアでの仕事も****
ロシアの反体制派指導者で今年2月に死亡したナワリヌイ氏の陣営が運営する動画投稿サイトのチャンネルに協力したとして、外国の通信社などでも働いてきたロシア人ジャーナリスト2人が逮捕されました。

モスクワの裁判所は27日、ナワリヌイ氏の陣営が運営する動画投稿サイトのチャンネルのために映像や画像の素材を準備したとして、ジャーナリストのガボフ氏を「過激派組織」に参加した疑いで逮捕したと明らかにしました。
ガボフ氏はロイター通信など国内外の複数のメディアで働いたことがあるということです。

また、ロシア北部ムルマンスク州では、AP通信などで働いた経験のあるジャーナリストのカレリン氏が同様の容疑で逮捕されました。

AP通信は声明で「カレリン氏の拘束を憂慮している。追加情報を求めている」としています。

プーチン政権は政権を批判する活動を厳しく取締まり、言論統制を一層強めています。【4月28日 TBS NEWS DIG】
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****街頭インタビューに答えた男性に強制労働5年判決 ロシア裁判所****
ロシアの首都モスクワの裁判所は22日、米系メディアの街頭インタビューでロシア軍に関する意見を述べたモスクワ市の男性(39)に対し、ロシア軍に関する虚偽の情報を意図的に広めた罪で強制労働5年の判決を言い渡した。ロイター通信などが報じた。

ロイターによると、男性はロシアによるウクライナ侵攻開始から5カ月後の2022年7月、米政府系「ラジオ自由欧州・ラジオ自由(RFE・RL)の街頭インタビューに応じた。ロシアと北大西洋条約機構軍(NATO)の緊張緩和が必要かという取材記者からの問いに、「もちろん必要で、私たちの政府次第だ。問題を生み出したのはロシアで、NATOに問題はない」と答えた。また、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで起きた虐殺については、ロシア軍が「理由もなく」民間人を殺害したと語った。

男性は23年3月に暴動行為の容疑で当局に拘束され、ウクライナ侵攻後に設けられた戦時下の検閲法に違反したとして訴追された。

ロシアの人権団体「OVDインフォ」によると、男性は部分的に罪を認めているが、自分の意見が政治的な憎悪によるものだとする判決内容には異を唱えているという。

同団体によると、ロシアでは少なくとも1万9855人が反戦の意見を表明したとして拘束されている。

ロシア政府は今年2月、RFE・RLを好ましくない機関に指定し、ロシア国内での活動を禁じた。またRFE・RLの読者なども訴追の対象になるとしている。【4月23日 毎日】
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こうした状況で、“ロシアで新たな野党設立へ 大統領選出馬阻止された女性 事実上の「反プーチン」勢力”【5月2日 テレ朝news】という動きも報じられています。

政党として正式に登録し、9月の統一地方選に候補者を擁立したい考えとのことですが、まっとうなプーチン批判・戦争批判が許される状況にありませんので、どこまで現実のものになるのかは不透明です。
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ウクライナ  物量に勝る露軍に対し後退 米の支援再開で立て直し図る 長距離ATACMS実戦投入

2024-05-05 23:16:11 | 欧州情勢

(長距離射程の地対地ミサイルATACMS(エイタクムス)【5月2日 Newsweek】 かなりごっつい兵器です)

【物量に勝るロシア軍の攻勢で後退を余儀なくされているウクライナ】
ウクライナの戦況は、大砲・ミサイルを撃ち合う古典的な「陣取り合戦」的な様相を呈し、物量に勝るロシアが、アメリカの支援が国内の与野党対立で滞りがちなウクライナをジワジワと押しているような状況です。

****ウクライナ総司令官、東部前線「状況悪化」 ロ軍攻勢で後退****
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は28日、東部戦線で部隊が3つの村から新たな陣地に後退したと明らかにした。

通信アプリのテレグラムで「前線の状況は悪化している」と述べ、2月にロシア軍が制圧したアブデーフカの北西およびマリンカの西側が「最も困難」な状況だとした。

ゼレンスキー大統領は28日に米民主党のジェフリーズ下院院内総務と会談し、防空システム「パトリオット」が早急に必要だと強調した。

シルスキー氏によると、部隊はアブデーフカの北の2つの村と、マリンカに近い村に新たな陣地を構えた。これらの地域では、ロシア軍が制圧には至っていないものの「戦術的に一定の成功」を収めているという。

ロシア軍は要衝アブデーフカを制圧後、じりじりと進軍している。

シルスキー氏は、新たな要衝となっているチャソフヤールとその北東の村が「最もホットな場所」とした。ロシア国防省は、チャソフヤール付近でウクライナの反撃を退けたと発表した。

シルスキー氏はさらに、北東部の第2の都市ハリコフへのロシア軍増派を注視していると述べた。ロシアが北部攻勢を準備する兆候はないとしたものの、ウクライナ軍の態勢を強化したと説明した。【4月29日 ロイター】
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「最もホットな場所」チャソフヤールについては、ウクライナ側の見解でも“陥落も時間の問題”とも。

****要衝陥落「時間の問題」 兵器不足、交渉も視野****
ウクライナ国防省情報総局のスキビツキー副局長は4日までに英誌エコノミストの取材に応じ、東部ドネツク州の要衝チャソフヤールがロシア軍に制圧されるのは「時間の問題」だと語った。ウクライナ軍は砲弾や兵器が不足しており「全ては備蓄と供給次第だ」と強調した。

ロシア軍を国境まで押し戻せたとしても戦争は終わらず、交渉を通じた終結しか道はないとの見方も示した。両軍は交渉の可能性を視野に、自国が「最も有利な立場」となるために攻防を続けていると述べた。

ドネツク州のロシア側実効支配地域「ドネツク人民共和国」の軍関係者は4日、タス通信に対し、チャソフヤールをロシア側が事実上包囲したと語った。チャソフヤールに入る複数の主要道路がロシア側の射程内に入っており、ウクライナ側は兵員や兵器を補充できないと説明した。

ウクライナ軍にとって、高台に位置するチャソフヤールは東部前線での重要拠点。スキビツキー氏は、ロシア軍が東部ハリコフ州や北東部スムイ州周辺でも攻撃準備を進め、兵力拡大を図っていると指摘した。【5月5日 共同】
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【双方とも、クラスター爆弾使用 相手側のインフラ施設攻撃】
互いに厳しい消耗戦が続く中で、人道的建前より軍事的有効性が優先しがちです。

****南部攻撃にクラスター弾 検事総長、ロシアを非難****
ウクライナのコスチン検事総長は4月30日、南部オデッサで29日にあったロシア軍のミサイル攻撃について、クラスター(集束)弾が使われたと発表した。クラスター弾は親爆弾から多数の子爆弾を広範囲にまき散らす。コスチン氏は「可能な限り多くの民間人を殺害しようとした」と非難した。

コスチン氏によると、弾道ミサイルの弾頭にクラスター弾が使われ、半径1.5キロにわたって金属片が飛び散った。オデッサの攻撃では5人が死亡し、30人以上が負傷した。

ロシアは2022年2月の侵攻開始の直後からクラスター弾を多用。一方のウクライナも、米国供与のクラスター弾を実戦に投入している。【5月1日 共同】
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そして戦場での陣取り合戦と並行して、発電所などインフラ施設を狙った相手方の体力消耗を意図したボディーブローのような攻撃の応酬ともなっています。

****ウクライナのエネルギー関連施設に大規模ミサイル攻撃 4つの発電所に被害、一方ロシアでは製油所などにドローン攻撃、インフラ施設への攻撃の応酬激化****
ウクライナのエネルギー関連施設にロシアのミサイルなどによる大規模な攻撃があり、4つの発電所が被害を受けました。一方、ウクライナもロシア南部の製油所などをドローンで攻撃していて、双方によるインフラ施設への攻撃の応酬が激化しています。

ウクライナのエネルギー省などによりますと、26日夜から27日未明にかけて、中部ドニプロペトロウシク州や西部リビウ州などのエネルギー関連施設に攻撃がありました。

ウクライナの電力会社によりますと、4つの火力発電所が深刻な被害を受け、発電所の作業員1人がケガをしたということです。

ゼレンスキー大統領は27日、ロシアが様々な種類のミサイルで攻撃を行った、として非難。各国に対し、地対空ミサイルシステム「パトリオット」が「最低でも7基必要だ」と改めて訴えました。

一方、ロシア国防省は、26日夜、ウクライナから発射されたドローンを南部のクラスノダール地方で66機撃墜したと発表しました。また、ロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島でも2機のドローンを撃墜したとしています。

ロシア国営のタス通信などによりますと、クラスノダール地方では27日未明に製油所がウクライナのドローン攻撃を受け、火災が発生。部分的に操業が停止されたということです。

ロイター通信は、ウクライナ当局者の話として、ウクライナ保安局がロシアのクラスノダール地方の2つの製油所と、軍用飛行場にドローン攻撃を行ったと報じています。【4月28日 TBS NEWS DIG】
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【アメリカの支援再開でウクライナの戦線立て直し期待】
苦境にあるウクライナにとっての希望はアメリカの支援再開。

****米国が支援再開 ウクライナ“戦線立て直し”は? 最前線の兵士からは歓声も****
昨年末から途絶えていた米国からのウクライナへの軍事支援が再開される見通しとなった。(4月)24日、約610億ドル(約9兆4000億円)規模の対ウクライナ追加軍事支援予算が成立した。バイデン大統領は、「ウクライナ東部の塹壕で歓声が沸き起こっているとの報告があった。兵士は下院の採決を見ながら、歓声を上げていた」と語った。

今回の予算成立の当日、バイデン米大統領は第一弾として、10億ドル(約1580億円)の兵器供給を承認した。対空ミサイル「スティンガー」、対戦車ミサイル「TOW」、対戦車ミサイル「ジャベリン」、歩兵戦闘車「ブラッドレー」、105ミリ、155ミリの砲弾などがウクライナに供給される。

また、スナク英首相が23日にポーランドを訪問し、ウクライナに対して5億ポンド(約960億円)に及ぶ追加の軍事支援を約束した。1月に英国から実施された支援の合計は約30億ポンド(5880億円)に上る。

英国からの支援には、巡航ミサイル「ストームシャドー」などのミサイル1600発、弾薬400万発が含まれ、過去最大規模の軍事装備品の供与となる。

一方、ウクライナへの支援を協議する国際会議が26日、ドイツ西部のラムシュタイン米空軍基地で開かれ、会議に出席したゼレンスキー大統領は、「長距離兵器と防空システムが必要だ。2024年の年初以来、ロシア軍が9000発以上の誘導滑空爆弾を使用している」と報告した。

ウクライナ政府は24日、兵役の対象年齢にある男性国民に対し、パスポートの発給など領事サービスの提供を一時的に停止する規則を承認したと発表した。ロシアの侵攻により、軍の人員不足が深刻化する中、動員対象年齢の男性の帰国を促す思惑があると見られる。

また、ウクライナは今月、動員に関する法改正を実施した。徴兵年齢を27歳から25歳に引き下げた。3年後に動員が解除される条項は削除された。(後略)【4月28日 テレ朝news】
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【多数の兵役逃れ 受入国でも厳しい対応に】
上記記事後半の兵員不足の問題については、ウクライナ国民全員積極的に戦争に参加している訳ではなく、「こんな戦争で死にたくない」という者は当然に多数存在しますし、一部は兵役逃れという形にも。ウクライナ当局はそうした兵役逃れを厳しく取り締まっています。

****兵役逃れで越境30人死亡 戦死者増え戦力低下****
ウクライナ国境警備隊のデムチェンコ報道官はロシアによる2022年2月の侵攻開始後、兵役逃れでウクライナから「約30人が違法に国境を越えようとして死亡した」と述べた。地元メディアが29日に報じたインタビューで語った。

侵攻が長期化し戦死者が膨らむ中、兵員不足による戦力低下が懸念材料となっている。ゼレンスキー大統領は4月、兵力確保のため、動員対象年齢の引き下げなどに関する法案に署名した。

デムチェンコ氏は「毎日約120人の出国を拒絶している」と述べた。兵役逃れを手助けする450の犯罪集団を摘発したとも明らかにした。隣接するモルドバやルーマニアに違法に越境するには険しい山を歩き川を横切る必要があり、川でおぼれて死亡する例が少なくない。(後略)【4月30日 共同】
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越境で30人死亡というのは少ないような気もしますが、もしそういうことであれば、戦争に参加するよりはるかにリスクは低い選択ということになります。

ただ、ウクライナを支援する隣接する国のウクライナ出国者への対応は厳しくなっています。

****徴兵逃れのウクライナ人「保護しない」 ポーランド高官****
ポーランドのアンジェイ・セジュナ外務次官は4月30日、自国に滞在している徴兵を逃れたウクライナ人を「保護」しない意向を表明した。ポーランドはこの問題について、欧州連合に対応を求めている。(中略)

国連難民高等弁務官事務所によると、今年2月時点でポーランドでは95万2104人のウクライナ人が難民登録されており、このうち16%に当たる15万2656人が徴兵対象年齢に当たる。

セジュナ氏は公共放送ポーランド・テレビに対し、「わが国が徴兵忌避者を保護することは決してない」と主張。
徴兵対象年齢のウクライナ人男性の扱いについて、現時点でウクライナから正式な要請は受けていないとした上で、「要請があれば、国内法と欧州法にのっとって行動する」と述べた。

ポーランドとリトアニアは先週、それぞれ自国に滞在している徴兵対象年齢のウクライナ人男性の帰国を支援する用意があると表明した。

ポーランドのブワディスワフ・コシニャクカミシュ国防相は、ウクライナから徴兵対象者の移送支援を要請された場合、ポーランドは同意するかとの質問に対しては「すべては可能だ」と回答。4月30日には、この問題に関して「欧州の解決策」を求めた。 【5月1日 AFP】
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徴兵対象者を強制送還して戦場に送り込むのか・・・ポーランドなども悩ましい判断でしょう。自国判断ではなくEUの判断に委ねたいところ。

【アメリカ 「ゲームチェンジャー」とも期待される長距離射程のATACMS供与】
アメリカの武器支援に話を戻すと、注目されている兵器がATACMS(エイタクムス)という長距離ミサイル。

アメリカはロシア領内攻撃も可能になる長距離の兵器は出し渋っていましたが、高機動ロケット砲システム(HIMARS)に続いて、戦況の悪化に促される形で、最大射程300キロメートルとより長距離のATACMSを秘密裏に提供しているようです。

****ウクライナ「ゲームチェンジャー」の期待 米ATACMS供与、すでに実戦使用****
ロシアの侵略を受けるウクライナに対し、米政府が長射程の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」の供与に踏み切った。米国が供与してきた兵器では最長の射程で、すでに相当数が極秘裏に輸送された。24日に米国で成立したウクライナ向け緊急支援の予算を財源にして供与量を増やす。

ウクライナが戦闘の膠着(こうちゃく)を脱し、反攻に出る「ゲームチェンジャーとなる可能性」(米紙ワシントン・ポスト)が期待されている。(中略)

ATACMSの射程は300キロ超で、占領地奥深くの露軍拠点に打撃を加えられる。ロイター通信によると、17日には前線から165キロ離れたクリミア半島の飛行場攻撃で使用された。

ウクライナは一昨年秋からATACMS供与を求めていたが、米側が在庫不足を理由に渋っていた。露国内への攻撃に使われ、米露の直接衝突に発展するリスクを懸念したとみられる。

サリバン氏によると、バイデン大統領が2月、ウクライナ領内での使用を条件に「相当数の供給」を指示し、3月に輸送を開始した。供与に踏み切ったのは、米防衛産業の供給態勢が整い、露軍が北朝鮮製の弾道ミサイルで民間インフラへの攻撃を激化させたからだとしている。

バイデン氏はロシアの侵略開始以降、西側仕様の戦車やF16戦闘機など、ウクライナが求めた兵器供与を許可するまでに長時間を要した。プーチン露大統領が軍事行動をエスカレートさせるリスクを測ったためだが、そのたびに「時機を逸した」と野党・共和党や軍事専門家に批判された。

緊急予算は、ATACMS供与をわざわざ明記し、大統領が国益上の理由で供与を中止する際には説明を求める条文も盛り込んだ。議会はバイデン氏の腰が引けるのを警戒したようだ。

米シンクタンク「戦争研究所」は24日、供与の遅れにより、露軍はATACMSの効果を減らすための「時間的猶予」を得た可能性があると指摘。その一方、「十分な量が届けば、ウクライナは露軍の補給を劣化させ、後方の航空基地を脅かせる」と分析した。【4月26日 産経】
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このATACMSにクラスター弾を積んで、支配地域から100kmほども離れた場所に集結するロシア兵を狙って大きな被害を与える様子を写す動画も拡散しています。

ロシアにとっても、ウクライナにとっても、極めて核心的重要性を持つのがクリミアですが、そのクリミアへの物資を支える大動脈がクリミア大橋。

これまでもウクライナは2022年10月と23年7月の2回、クリミア大橋への攻撃を行ってはいますが、戦術的には、射程の長いATACMSを使えば攻撃はより容易になると思われます。防空システムを突破する対応が必要にはなりますが。

****ウクライナ軍、長距離ミサイルATACMSでクリミア大橋の攻撃を計画? レーダー撹乱用の米製デコイも使用****
<4月末にもアメリカから供与を受けたばかりの長距離ミサイル「ATACMS」がクリミア半島に飛来、橋は一時通行止めに>

ウクライナ軍が先週、アメリカから供与を受けたばかりの長距離ミサイルATACMS(最大射程300キロ)を使って、ロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島を攻撃。これにより、ロシア本土とクリミア半島を結ぶクリミア大橋が一時的に通行停止となった。

クリミア大橋に関する交通情報を定期的に更新しているテレグラムのチャンネルが、4月30日午前1時25分に「クリミア大橋は一時的に車両通行止めとなっている」との情報を投稿した。その後、通行止めは解除された。ロシア国防省は、6発のATACMSを迎撃したと発表した。

道路橋と鉄道橋が並行する全長約19キロメートルのクリミア大橋は、ロシア軍の重要な補給路として利用されており、ロシア軍がウクライナ南部で攻勢を維持する上できわめて重要な存在だ。クリミア奪還を目指すウクライナ側は2022年10月と2023年7月にこのクリミア大橋を攻撃しており、今後も攻撃を行うと宣言している。

ロシア軍が占拠しているウクライナ南部ザポリッジャで活動する親ロシア団体「We Are Together With Russia(我々はロシアと共にある)」の代表で軍事ブロガーのウラジーミル・ロゴフはテレグラムに投稿を行い、ウクライナ軍が4月29日の夜間にクリミア半島に向けてATACMSを発射したと述べた。

「ウクライナ軍が今夜、クリミア共和国に向けてミサイルを発射した」とロゴフは投稿し、さらにこう続けた。「クリミア半島の上空で、ロシア軍の防空システムが作動した。最新情報によれば、我々の防空システムは素晴らしい仕事をした」

米国製のデコイでレーダー撹乱か
(中略)ロシアの軍事ブロガーの間では、ウクライナ軍がクリミア大橋の攻撃を準備しているのではないか、との危惧が高まっている。

ロシア国防省とつながりのあるテレグラムチャンネル「Rybar(リバル)」は4月下旬、ウクライナ軍がクリミア半島への新たな攻撃の準備として、ロシア軍の防空システムとレーダーをかく乱するために、電子妨害能力を持つ米国製ADM-160B MALD(ミニチュア空中発射デコイ)ミサイルを発射した可能性があると伝えた。

同チャンネルは、クリミア大橋への攻撃はロシアのウラジーミル・プーチン大統領の就任式よりも前に行われる可能性があると予想している。プーチンは3月に行われたロシア大統領選挙で勝利し、5月7日に通算5期目の就任式を迎える。

「ウクライナ当局は、象徴的なものが大好きだ。それを考えると、注目度の高いクリミア大橋を再び標的にする可能性はある」とRybarは予想した。【5月2日 Newsweek】
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アメリカは能力的にはロシア領内攻撃も可能なATACMSを供与していますが、イギリスからもロシア領内攻撃を認める発言が。
「ウクライナにはイギリスが供与した兵器でロシア領内の標的を攻撃する権利があり、実際に行うかどうかはウクライナ次第だ」(5月2日 キャメロン外相)

ウクライナ側の苦戦で、米英ともになりふり構っていられない状況にもなっているようです。
5月7日のプーチン大統領の就任式・・・二日後です。何か大きな作戦が行われるのでしょうか。
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欧州  脱「中国依存」の動き 警戒する習近平主席訪中 「欧州は米の属国集団ではない」マクロン氏

2024-05-04 23:10:46 | 欧州情勢

(【22年1月7日 伊藤さゆり氏 ニッセイ基礎研究所「変わるEUの対中スタンス-日本はどう向き合うべきか?」】)

【中国の過剰生産能力問題】
中国における公的な補助金などに支援された過剰生産能力が海外への格安の輸出へと向かい、輸出先経済に大きな被害を与えている・・・という過剰生産能力を最近アメリカがしきりに主張しています。


****中国、過剰生産能力を問題視する米国非難、「いかなる選択肢も排除せず」と米財務長官****
中国は自国の過剰生産能力を問題視する米国をこれまでで最も激しい調子で非難した、と米ブルームバーグ通信が伝えた。

イエレン米財務長官は「追加関税の可能性をも含め中国の過剰生産能力への対応で米国はいかなる選択肢も排除しない」との考えを表明。中国側のいら立ちが高まっている。

中国政府は減速する経済の新たな成長源を模索。製造業に資金を投入し電気自動車(EV)やバッテリー、再生可能エネルギーといった新たな産業に力を注いでいる。

こうした中、米中関係の安定化を試すさまざまな問題が生じている。バイデン米大統領は中国からの鉄鋼・アルミニウム輸入のうち、現在の関税率が0%ないし7.5%の製品について税率を25%に引き上げるよう提案。中国は「排外主義的だ」と反発した

ブルームバーグ通信によると、イエレン氏は14日放送された米CNNの番組で「中国が過剰生産能力を持つ分野で、われわれの市場に中国からの輸出が急増する可能性を懸念している」と発言。「私は彼らとの話し合いの中で、これが米国だけでなく、欧州や日本、さらにインド、メキシコ、ブラジルといった新興国市場にとっても懸念事項であることを明確に伝えてきた」と語った。

イエレン氏は4月上旬に訪中し、中国の「不公正な経済慣行」を批判。中国に進出している米国およびその他の外国企業に対する不当な扱いや特定分野での過剰生産への補助金を通じた世界市場わい曲などへの懸念を強調した。

米国による追加関税の可能性を問われると、イエレン氏は「可能性のある対応策として何も排除するつもりはない。だが、われわれはこの関係を本当に責任を持って管理したいと思っている」と答えた。

米通商代表部(USTR)は中国造船業の不公正慣行の調査を開始すると発表。議会は動画共有アプリ「TikTok」を親会社の字節跳動(バイトダンス)から切り離そうと取り組んでいる。

これに対し、中国外交部の23日の声明によると、同部の北米大洋州司に属する匿名の当局者は直近のブリーフィングで、米国の批判には「競争上より有利な地位と市場での優位性を得るために中国の産業発展を制限・抑制しようとする悪意が含まれている」と言及。「露骨な経済的強制であり、いじめだ」と訴えた。

ブルームバーグ通信は「今回の当局者の発言は中国政府のいら立ちが高まっていることを示唆している」と指摘。同当局者は「米国は中国を封じ込める戦略をかたくなに進めており、中国の内政に干渉し、中国のイメージを傷付け、中国の利益を害する間違った言動を続けている。われわれはこれに断固として反対し、対抗する」と主張したという。【4月26日 レコードチャイナ】
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26日に訪中したブリンケン米国務長官と王毅政治局員兼外相や、習近平国家主席との会談しました。
バイデン政権としては、これから11月までは大統領選挙に専念することになるので、この時点で米中間の対話継続を確認したかったと思われます。

ただ、バイデン政権は共和党からは対中国「弱腰」を批判される立場にあります。選挙戦のなかで対中国強硬姿勢で自国労働者の雇用維持をバイデン・トランプ両氏が争うことにもなりがちで、上記記事にもあるバイデン米大統領による中国からの鉄鋼・アルミニウム輸入に関する関税引上げなどもそうした動きです。

中国としては、アメリカのこうした動きへの警戒感を強めています。

【欧州でもEVや太陽光パネルで中国製品への警告・調査】
中国の「過剰生産能力」を問題視しているのはアメリカだけでなく、欧州も同じです。
欧州のシンクタンク「輸送と環境(T&E)」の分析によると、23年にEUで販売されたEVのおよそ19.5%が中国製だったとのことで、24年には25%にもなるとの予測も。

****欧州委、中国EV3社に情報提供不十分と警告 反補助金調査****
欧州連合(EU)欧州委員会は、中国製電気自動車(EV)の補助金調査で、中国のメーカー3社に対し十分な情報を提供していないと警告した。関係者が明らかにした。

比亜迪(BYD) 、上海汽車(SAIC) 、吉利汽車の3社が提供した情報が不十分だと結論づけた場合、欧州委は、他の情報・データを使って関税を計算する可能性がある。

この種の警告は、EUの通商関連の事案で頻繁に起こっている。企業側は警告に対し説明する権利を有するという。
吉利汽車はコメントを控えた。BYDのコメントは得られていない。

上海汽車は対話アプリ「微信(ウィーチャット)」で、世界貿易機関(WTO)とEUの規則に従って欧州委に「全面的に協力」し、反補助金調査に関連する必要な情報を全て提供したとした上で「バッテリーの設計など商業的に機密性の高い情報はこのカテゴリーに属すべきではない」と主張。欧州委がバッテリーの設計などに関する情報を要求したかどうかに関する質問にはコメントを控えた。

在EU中国商工会議所(CCCEU)は、欧州委の指摘には根拠がなく、中国の企業は複数回のアンケート調査に参加し、現地査察を支援してきたと反論。詳細な書類提出の厳しい期限、証拠提出能力を超える要求、事業上機密となるサプライヤー情報の要求などEUの要求の一部は過剰との見方を示した。

中国EVへの調査は昨年10月4日に正式に始まり、最長で13カ月に及ぶ可能性がある。欧州委は調査開始から9カ月後に暫定的な反補助金関税を課すことができる。【5月4日 ロイター】
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EUにおける太陽光パネルや素材では中国製のシェアが9割を占めています。
しかし、安価な中国産抜きでは脱炭素目標も実現困難ですし、関連産業も回らなくなってしまいます。また、安価な中国製品のおかげで太陽光発電が普及したという現実もあります。

****脱炭素「中国抜き」でやれるのか 太陽光パネルで欧州ジレンマ、産業界は悲鳴****
再生可能エネルギーの普及を目指す欧州連合(EU)が4月、中国製の太陽光パネル流入に対抗し、不正競争の疑いで調査に入った。EU域内の環境産業を守る狙いあるが、「太陽光発電の普及には安価な中国製は必要」の声も根強く、ジレンマに立たされている。

米国、インドの保護策でしわ寄せ?
調査はEU欧州委員会が4月3日に開始した。中国2社が国家補助金を受けてEU市場に参入し、競争をゆがめた疑いがあるとしている。

担当のブルトン欧州委員は「太陽光パネルはEUにとって戦略的な重要物資だ」と述べ、経済安全保障の重要性を強調した。EUは中国政策で「リスク軽減」を掲げ、供給網の依存脱却を目指している。

EUでは太陽光パネルや素材のうち、中国製のシェアが9割を占める。欧州の業界団体代表は2月、「政治が手を打たなければ、数カ月で大半の企業がつぶれる」と対応を求めていた。

「エコ先進地」として有名なドイツでは、太陽光発電大手マイヤー・ブルガーが工場閉鎖を表明した。500人の雇用喪失になる。同社は声明で、中国の過剰生産品が世界市場にあふれ、米国やインドが国内産業保護に動く中、欧州が受け皿にされていると警告した。

EUは温室効果ガス排出量を「実質ゼロ」にする環境技術で、2030年までに製造シェアを40%にする目標を掲げる。太陽光発電は、その柱のひとつ。

フランスのルメール財務相は4月初め、国内のパネル大手に対する補助金支給を発表し、「国産推進に向けて汗をかく」と述べた。ドイツも新たな補助金を検討。国内産業の保護に動く。

ロシア産ガス高騰で、新設100万件
「中国リスク」に警戒が高まる一方、安価な中国製のおかげで太陽光発電が飛躍的に普及したという現実もある。
EUでは22年、ロシアのウクライナ侵略で対露エネルギー禁輸を発動した結果、ガスと電気価格が急騰した。これが契機となって住宅のベランダや駐車場に太陽光パネル設置が進展。ドイツでは昨年、新規設置が22年比で倍増し、100万件に達した。中国製は独製より3割安いという。

欧州シンクタンク「ブリューゲル」のベン・マクウィリアム研究員は、太陽光パネルでは中国リスクは薄いと指摘する。

「太陽光パネルは供給過剰で、EUには1年分以上の在庫がある」と述べ、中国が市場独占で価格操作したり、禁輸したりしても政治的圧力にはつながらないと分析する。補助金でEU企業を支えても競争力はつかず、脱炭素化を遅らせるだけだとして、「欧州は一定量の在庫を確保しながら、光吸収効率の向上など技術開発に重点を置くべき」と訴える。

太陽光パネルをめぐるEUと中国の貿易摩擦は2013年にも起きた。当時、EUは中国製パネルに47・7%の反ダンピング(不当廉売)課税をかけようとしたが、中国が報復を表明し、最低価格を設ける妥協策で決着した。(三井美奈)【5月2日 産経】
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【欧州における脱「中国依存」の動きに対抗して、習近平主席が訪欧】
こうした欧州における脱「中国依存」の動きに対抗する狙いもあって、習近平国家主席が5〜10日にフランス、セルビア、ハンガリーを訪れます。

ただ、欧州はウクライナをめぐってロシアと厳しく対立しており、中国はそのロシアを支える立場にもありますので、習近平主席としても対欧州戦略は対ロ関係とのバランスをとる必要もあります。

*****習近平氏が5日から5年ぶりに訪欧、米国の対中圧力に対抗 欧州の足並み乱す狙いも****
中国の習近平国家主席は5〜10日にフランス、セルビア、ハンガリーを訪れる。今年初の外遊で、訪欧は新型コロナウイルス禍前の2019年以来。

米国が呼び掛ける対中圧力の強化に対抗するとともに、中国依存を低減する「デリスク(リスク回避)」に傾く欧州諸国の足並みを乱そうとする思惑がうかがえる。

中国外務省は習氏訪欧を「中国と欧州の関係全体の発展に重要な意義がある」と強調。北京の外交筋は「対米、対欧をにらんで入念に練られた訪問先だ」と指摘する。

鍵は経済分野のつながり
中国は、伝統的に独自外交を重視するフランスとの関係強化を図り、米主導の対中包囲網にくさびを打ち込むことを狙う。鍵は経済分野のつながりだ。

昨年4月のマクロン仏大統領訪中では、欧州航空機大手エアバスの旅客機160機を中国に納入することで合意しており、今回も経済をテコにフランスを引き寄せる思惑とみられる。今年4月に訪中したドイツのショルツ首相とも経済協力を確認している。

欧州連合(EU)が対中依存低減で結束しないよう働きかけることも重要なテーマとなる。
EU側が中国の電気自動車(EV)の政府補助金を巡り調査を進めるなど、双方の経済摩擦が激しさを増しているだけになおさらだ。

ハンガリーは「一帯一路」通じ関係近く
ハンガリーとは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を通じて関係が近い。今年下半期にEU議長国を務めるため、中国にとって戦略的価値が高い国だ。ハンガリーは工場誘致を期待しているもようで、中国EV最大手の比亜迪(BYD)がハンガリーでの工場建設を決めたほか、中国自動車大手、長城汽車の工場建設計画も報じられる。

セルビアへの訪問は、1999年5月7日に当時のユーゴスラビアの首都ベオグラード(現セルビア)の中国大使館を北大西洋条約機構(NATO)軍が誤爆してから25年の節目と重なる。現地の追悼行事に習氏が出席し、米主導のNATOへの批判を展開することが見込まれる。

ロシアのウクライナ侵略を巡っても、今月中旬のプーチン露大統領の訪中見通しが報じられる中、習氏が欧州とロシアの間でどうバランスをとるか注目される。【5月4日 産経】
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【安全保障で欧州の主権を主張するマクロン大統領「欧州はアメリカの属国集団ではない」】
一方、安全保障面でみると、欧州を支えるのがアメリカとの協調によるNATO体制ですが、“例によって”フランス・マクロン大統領が「欧州はアメリカの属国集団ではない」と、欧州の主権をアピールしています。

****新防衛戦略の策定提案へ=「欧州、属国集団にあらず」―仏大統領****
フランスのマクロン大統領は25日の演説で、ウクライナへの侵攻を続けるロシアが「際限なく攻撃的」になっていると指摘し、欧州が脅威に立ち向かうには「信頼できる防衛戦略」が必要だと述べた。欧州各国に対し、戦略の策定を近く提案するという。

演説では、欧州の「主権」を強化するという持論も展開。「米国に米国の優先事項があるのは当然」であり、欧州が「米国の属国集団ではないと証明できる」ことが重要だと主張した。

その上で、激変する世界の中で手をこまねいていれば「欧州は消滅する可能性がある」と警告。生き残りは「われわれの選択に懸かっている。(決断するのは)今だ」と訴えた。【4月25日 時事】 
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フランスの対米追随を嫌う独自路線は今に始まった話でありません。NATOにしてもドゴール時代に一度脱退しています。

フランス原子力空母のNATO演習参加にしても、フランス国内には「アメリカへの属国化だ」との批判が左右両方からあるとか。

****仏海軍の原子力空母、NATO演習に初参加 “米への属国化”批判も****
フランス海軍の原子力空母「シャルル・ドゴール」が26日、北大西洋条約機構(NATO)軍の合同演習に初めて参加した。シャルル・ドゴールは米国以外が保有する唯一の原子力空母で、防衛の独立を志向する伝統があるフランスでは、米国主導のNATOの指揮下に入ることに批判も出ている。

合同演習は東欧での有事を想定し、地中海で5月10日まで実施される。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年2月以降では最大規模で、加盟国が作戦時の連携を向上させる狙いがある。フランスのほか、イタリア、スペイン、トルコなどの艦船20隻が参加する。シャルル・ドゴールは全長約262メートル、全幅約64メートルの大型空母で、ラファール戦闘機など40機を搭載する

フランスは第二次世界大戦後、独立独歩の外交、安全保障を目指し、核軍備はその要となってきた。米国の欧州への関与拡大を嫌うドゴール大統領(当時)が1966年、NATOの軍事機構から脱退し、サルコジ政権の09年に復帰した歴史がある。

01年に就航した原子力空母はドゴール氏の名を冠し、仏独自の安全保障政策の象徴だっただけに、今回の演習参加には反発の声が上がる。

極右政党「愛国党」のフィリッポ党首はX(ツイッター)に「信じられない。フランスのNATO、すなわち米国への歴史的服従だ」と投稿した。急進左派「不服従のフランス」創始者のメランション氏も「悲嘆。公然の属国化」と書き込み、批判した。【4月27日 毎日】
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【マクロン大統領のウクライナへの地上軍派遣発言では欧州内部からの反発も】
フランスという国にしても、マクロン大統領の個人的性格としても、独自の立場をアピールして、欧州をリードする立場にないと気が済まないようで・・・・

マクロン大統領のウクライナへの地上軍派遣発言もそうしたもののひとつでしょう。地上軍派遣発言は英独など欧州各国からの反発を招きましたが、引っ込めた訳ではないようです。
ロシアは当然反発を強めています。

****ロシア、地上部隊派遣に再言及の仏マクロン氏を非難 英外相にも反発****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領が西側諸国の地上部隊をウクライナに派遣する可能性を「排除しない」と改めて表明したのに対し、ロシア大統領府(クレムリン)が3日、反発した。

マクロン氏は2日付の英誌エコノミストのインタビューで、ロシアがウクライナの前線を突破し、ウクライナ政府から要請があれば、西側諸国の部隊をウクライナに派遣する問題が生じるのは「当然だ」と述べた。

これに対し、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は会見で、「非常に重大で危険な発言だ」「(マクロン氏は)ウクライナでの紛争に地上で直接関与する可能性に絶えず言及し続けている」と非難した。

さらに、英国のデービッド・キャメロン外相がウクライナによるロシア国内への攻撃を擁護したことについても、「危険」で「戦争の規模を拡大させる」発言だと反発した。(後略)【5月4日 AFP】
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マクロン大統領は3月5日、訪問先のチェコ・プラハで、ロシアの侵攻を受けるウクライナの同盟国が行動を強める時が来たと述べ、欧州で「弱腰にならない」ことが近く適切になるとの見方を示しています。

もっとも、フランスはウクライナを巡るロシア制裁に関して当初は、ロシアとの外交や経済的な関係を考慮して対話と外交的解決を重視し、他の欧州諸国と比較して消極的な立場を取っていました。何がマクロン大統領の心境の変化をもたらしたのでしょうか。
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中東情勢  イランの攻撃に際し中東諸国がイスラエルに協力 米はイスラエル・サウジ関係を再仲介

2024-05-03 23:16:49 | 中東情勢

(バイデン米政権とサウジアラビアが安全保障や民生用原子力に関する協定で合意に近づいていることが、事情に詳しい複数の関係者の話で分かった。写真はジッダに到着したブリンケン米国務長官。3月代表撮影【5月3日 ロイター】)

【「全面戦争」は回避しつつ面子は保つ・・・緻密に練られた報復の応酬】
4月1日、イスラエルによると思われるミサイルで、シリアの首都ダマスカスにあるイランの大使館施設が攻撃され、イラン革命防衛隊の司令官が死亡。

これを受けての13~14日のイランによるイスラエル本土攻撃、更に、19日のイスラエルによるイランの核開発の中心地域への精密攻撃という報復の応酬は、これまでの支援組織などを使った「影の戦争」が「国家間の戦争」にエスカレートする危険を世界に知らしめました。

しかし一方で、「国家間の戦争」のリスクは当事者であるイラン・イスラエルが一番真剣に認識しているところで、今回の報復の応酬は、そうした全面戦争に発展するリスクを極力排除しつつ、国内外に対し自国の面子を保てる攻撃を行うという、“緻密に練られた”シナリオを基づくものでもありました。

*****【緻密に練られたチキンレース】イランとイスラエルの報復合戦でも「全面戦争」は回避****
米国と秘密接触し事前通告
イランの動きはイスラエルとの全面戦争も辞さないというギャンブル的な振る舞いのように見えるが、実際には水面下で周到な根回しとしたたかな計算をしているのも事実だ。それはイスラエルの後ろ盾である米国との秘密接触を重ねていたことに表れている。

ベイルート筋などによると、イランはカタールやオマーンで行われているパレスチナ自治区ガザの停戦交渉を利用、米側と秘密接触を続けていたもようだ。イスラエル攻撃の数日前には、攻撃に踏み切ることを米側に伝え、攻撃直前にも最終通告していたという。

大半の攻撃は砂漠など過疎地域を狙ったもので、時間のかかる無人機を弾道ミサイルの前に先行発射し、迎撃の準備を与えた。米側は秘密接触について否定している。

イスラエルはイランのミサイルや無人機の99%を撃墜したと発表したが、その裏には米英仏軍とヨルダンも参加した防衛作戦があった。サウジアラビアなども米国を通してイスラエルに情報提供したようだ。

米軍だけで70発以上を撃墜したが、イラン側の事前通告がなければ、イスラエルの防空網がいかに優れていても、これほどの成果は挙げられなかっただろう。

イスラエル、精密攻撃で警告
イスラエルはイランのミサイル攻撃にどう反撃するか、迷いに迷った。戦時内閣では、ガンツ元国防相らがイランへの速やかな反撃を主張、これにガラント国防相らが米国との調整が必要だとして反対し、対イラン最強硬派のネタニヤフ首相はなかなか決断できなかった。

イスラエルはイスラム組織ハマスとのガザ戦争を抱え、住民ら約150万人が避難する南部ラファへの侵攻準備を進めている。北方のレバノン国境ではヒズボラとの交戦が激化しており、いまイランと全面戦争に突入する余裕は事実上ない状況だ。頼みの綱は米国のバイデン政権だった。

だが、パレスチナ住民の犠牲を顧みないイスラエルのやり方を批判してきたバイデン大統領はネタニヤフ首相との会談で、イラン攻撃に「米国が加担しない」ことを通告、自制を強く要求した。首相は米国から支援が得られないこともあって大規模攻撃を断念、限定的な攻撃にとどめる決断を余儀なくされた。

イスラエルが選択したのはイランの“虎の子”の核施設周辺を攻撃し、「いつでも破壊できる」と警告することだった。イラン側の再報復を招かないよう損害を最小限に抑えながら、イランにイスラエルの高度な軍事力を見せつけ、直接攻撃を繰り返させない戦略だ。イスラエルはナタンズの核施設を守る防衛システムを精密攻撃して実証した。

イスラエルはこの攻撃については一切発表していない。米国もブリンケン国務長官が「米国は攻撃には一切関与していない」と発言しただけで、ホワイトハウスは政府内に厳重なかん口令を敷いた。イランを刺激しないためだ。ガザ戦争で国際的に孤立していたイスラエルのイメージは改善、米下院は20日、約4兆円に上るイスラエル支援の緊急予算案を可決した。

攻撃をないものにしたイラン
現地メディアなどによると、イスラエルは4月19日未明、14日のイランのミサイル攻撃の反撃として、イラン中部イスファハン州の「第8シエカリ空軍基地」にミサイル3発を撃ち込んだ。ドローン(無人機)も攻撃に参加した。ミサイルのうち少なくとも1発は空軍機から発射されたという。

この攻撃でイラン側のS300対空レーダーシステムが破壊された。イスファハン州はイランのミサイルなどの兵器生産の拠点であり、ナタンズにはイラン核開発の中核施設がある。このレーダーシステムはこうした重要施設を防衛するためのものだったが、攻撃を全く探知できなかった。

特筆されるべきはイスラエルの攻撃に対するイラン側の対応だ。国営メディアはイスファハン近郊で侵入した「不審物」を迎撃したと報じただけで、イスラエルの攻撃であることには言及していない。革命防衛隊に近いタスムニ通信はイスラエルの攻撃を「虚偽」だと否定さえした。(中略)

「イラン側はイスラエルの反撃をなかったものにしたいのだ。経済的な苦境の中、これ以上イスラエルと事を構えるのを避けたいのが本音。ハメネイ師ら指導部にとってはイスラエル本土を直接攻撃してみせることがなにより必要だった。目的を達成した今は幕引きを図るのに必死だ」(ベイルート筋)。

中東最大の軍事大国であるイスラエルを国家として攻撃したのは1991年の湾岸戦争時のイラク以来であり、イランがイスラエルや米国と対決する「抵抗枢軸」の旗頭として、軍事力の誇示に成功したのは確かだ。イランの「代理人」であるレバノンのシーア派組織ヒズボラやイエメンのフーシ派などはあらためてイランへの信頼感を高めるとみられる。

なによりも「イランにはうかつに手は出せない」という抑止力をイスラエル側に植え付けた意味は大きい。短期的には「勝利者はイラン」と言えるのではないか。

だが、攻撃を受け、イランの通貨リアルは対ドルレートで最安値を付け、インフレも30%を超えたまま。経済的苦境はさらに深まった格好だ。

イスラエルとアラブの和解の流れ加速も
イランとイスラエルは今回、互いの国土を直接攻撃したことで、これまでの「影の戦争」を国家同士の戦争へと変質させた。衝突拡大には至っていないが、偶発的なきっかけで全面戦争に突入しかねない「ガラスの均衡」と言える。ガザ戦争が終結しない限り、イスラエルとヒズボラの交戦は当面続くだろう。

一方でアラブ世界には負の副産物も生まれた。イランへの恐怖心である。
ペルシャ湾岸諸国はイランの革命輸出を恐れ、それがイスラエルとの和解の一因となった。ガザ戦争の長期化でイスラエルへの忌避感が高まっていたが、イランのミサイル攻撃で潮目が変わった。

アラブの盟主であるサウジがイスラエルとの和解の気運を加速するかもしれない。【4月24日 WEDGE(文章の順序を変更して再構成しました)】
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【ヨルダンやサウジアラビアなど中東諸国がイスラエルに協力】
イランはイスラエル本土攻撃を決行するものの、時間のかかる無人機を使用、過疎地域を狙う、アメリカの事前通告しておくということで、イスラエルが確実に迎撃して被害は最小に抑えられることを前提としたものでした。

イスラエルは大規模攻撃は控えるものの、イラン中枢部を狙って、いつでも防空体制を突破できることを知らしめるという限定作戦を実施。

こうした“緻密に練られた”シナリオと同時に興味深いのは、ヨルダンやサウジアラビアなど中東諸国がイスラエルに協力したことです。

****イラン無人機を迎撃したヨルダン、「自衛のため」強調 疑問の声も****
イランによるイスラエル攻撃を巡り、ヨルダンの動きが議論を呼んでいる。パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘を巡り、アラブ国家としてイスラエルに対する批判を強めていたにもかかわらず、イランの無人機を領空で迎撃し、イスラエルを支援する形となったためだ。

ヨルダンはイスラエルと中東戦争を戦った経緯があるだけに、イスラエルでは歓迎ムードが漂うが、イスラム圏の市民の間には疑問を呈する声もあるようだ。

「ヨルダンはイランの無人機や航空機が領空に侵入すれば、撃ち落とす用意がある」。ロイター通信などによると、イランが多数の無人機を発射したと報じられた直後の13日夜、中東の治安関係者はこう語り、ヨルダン軍が迎撃態勢を取っていることを明らかにした。

一方、イラン軍関係者は「ヨルダンの動きを注視している。(イスラエルを防衛する)行動があれば、彼らが次の標的になる」とけん制。だが、ヨルダンは領空を通過したイランの無人機の一部を迎撃した。ヨルダンのサファディ外相は14日、ヨルダンを標的にするとのイラン側の発言が報じられたことを受け、イラン大使を呼び出して抗議したという。

ヨルダンはイスラエルと4度にわたる戦争を戦い、1967年の第3次中東戦争ではヨルダン川西岸と東エルサレムをイスラエルに占領された。200万人を超えるパレスチナ難民を含め、人口の約7割がパレスチナ系住民とされる。

ただ、94年にはアラブ諸国としてはエジプトに続き2番目にイスラエルと国交を正常化。米国とも友好関係を維持しており、米軍も過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を支援するために駐留を続けている。

今回、迎撃に参加したのは、米国などとの関係を重視したほか、イスラエルで被害が拡大すれば紛争が拡大し、自国も巻き込まれる恐れがあったためとみられる。米紙ニューヨーク・タイムズによると、ヨルダン政府は14日の声明で、迎撃した無人機やミサイルについて「人口密集地の住民を危険にさらさないために実施した」とし、あくまでも自衛のためだったと強調した。(後略)【4月16日 毎日】
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今回のヨルダンの対応については、あくまでも「自国の領空保護が目的」であり、(対イスラエル対応の変更など)それ以上の“深読み”はしないほうがいいとの指摘も。
それにしても、中東ヨルダンがイスラエルへの攻撃を迎撃阻止するというのは興味深いことです。

サウジアラビア・UAEについては・・・

****サウジやUAE、イスラエルなどにイランの攻撃情報共有****
サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)はイスラエルや米国に対し、イランから得た攻撃情報を事前に共有していたと、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが15日報じた。イランがイスラエルに向けて発射したドローン(無人機)やミサイルの効果的な迎撃につながったとみられるという。

WSJによると1日に起きたシリアのイラン大使館周辺への空爆を受け、米国が中東各国にイランの報復に関する情報共有や迎撃への協力を要請。中東の国々は当初は対立に巻き込まれることを懸念して消極的だったものの、最終的に同意したという。

サウジとUAEは機密情報の共有に同意したほか、ヨルダンは米国やその他の国の戦闘機の領空使用を許可し、迎撃も支援するとした。イランはサウジなどの湾岸諸国に対し、イスラエルへの攻撃2日前に計画を説明した。(後略)【4月16日 日経】
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【アメリカの中東戦略再開 サウジアラビアとイスラエルの国交正常化を再び仲介】
こうしたヨルダンやサウジアラビアの“イスラエル支援”は、パレスチナ情勢を受けてとん挫していた感のあるアメリカの中東戦略の転換点ともなりうるとの見方もあります。

****イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイスラエル支援「中東におけるバイデン外交の転換点へ」****
<イランのイスラエル攻撃の撃退に、ヨルダンやサウジなど湾岸諸国が協力した戦略的な理由とは? 中東での大展開に、バイデン外交の方向転換はあるか?>

長年にわたる「影の戦争」が、ついに直接攻撃になった。イランが4月13~14日、イスラエルに向けて300機以上のドローン(無人機)や複数のミサイルを発射。イスラエルの領土を標的にしたのは、これが初めてだ。

イスラエルが4月1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館を空爆したことへの報復だった今回の攻撃では、もう1つの前代未聞の出来事が起きた。アラブ諸国がイラン撃退に協力したのだ。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、ヨルダンはイランのドローンやミサイルを多数迎撃し、アメリカなどの戦闘機に領空使用を許可した。アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアはイランから得ていた攻撃情報を、アメリカやイスラエルと事前に共有したという。

パレスチナ自治区ガザで続く戦争は、中東各地でイスラエルへの怒りをかき立てている。それでも今回の出来事は、ふらつきながらも芽生え始めた「対イラン中東同盟」の最初の試金石になった。

「湾岸諸国の行動は国益を最優先する姿勢を維持していることの表れだ」と、複数の米政権で中東和平交渉に携わったアーロン・ミラーは指摘する。「重要なのは協力自体ではなく、協力があり得ない状況でそれが実現したことだ」

ガザでのイスラエル軍の焦土作戦や人道危機の悪化に、欧米がいら立ちを募らせるなか、イランの攻撃はイスラエルが直面する脅威に改めて注目を集めた。イスラエル政府はこれを機に、イランの孤立を深めようと動いている。(中略)

アラブの現実主義ゆえ?
今回のアラブ諸国の協力を深読みしてはならないと、元米当局者はクギを刺す。現実主義の所産である可能性が高いからだ。「ヨルダンの行動は主に地域的計算に基づき、自国の領空保護が目的だ」と、米国防総省の元上級顧問ビラル・Y・サーブは語る。

サウジアラビアは自国の関与が目立たないようにしているようだ。サウジアラビア系のニュース専門衛星テレビ局アルアラビアは4月15日、匿名の情報提供者の発言として迎撃に参加したことを否定し、同国の微妙な立場が浮き彫りになった。

「ガザ戦争は終わっていない」と、ミラーは言う。「イランに敵対していると受け取られかねない連携を正式化することには、多くの国が慎重になるはずだ」

アメリカは1月、サウジアラビアとの防衛協定に向けた協議を再開した。協定の実現は、イスラエルとサウジアラビアの関係正常化を仲介しようとするジョー・バイデン米大統領の取り組みの大前提だ。

今回の出来事は、バイデン外交の転換点になるかもしれないと、オバマ政権でイスラエル・パレスチナ交渉特使上級顧問を務めたダビド・マコフスキーは話す。

「バイデン政権が(サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子と)新たな道を探っても驚きではない。『中東で大展開があった。この際、方向転換してはどうか?』と」【4月23日 Newsweek】
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実際にサウジアラビアとイスラエルの国交正常化交渉が、アメリカの仲介で再び動き出しています。ただ、ガザでの戦闘開始以前に比べて、サウジアラビアにとって「パレスチナ国家樹立」がより優先的なものとなっており、イスラエルがそこで譲歩しない限りは進展は難しいかも。

****サウジ・イスラエルの国交正常化交渉、米の仲介で再始動…「パレスチナ国家樹立」巡りなお溝****
サウジアラビアとイスラエルの国交正常化交渉が、米国の仲介で再び動き出している。正常化の見返りをめぐるサウジと米国間の協議が合意間近との観測もある。

パレスチナ自治区ガザでの戦闘を受け、サウジは「パレスチナ国家樹立」への道筋を示すよう強く求めているが、イスラエルとの隔たりは大きく、和解への道のりはなお険しい。

サウジの首都リヤドで4月末に開かれた世界経済フォーラム特別会合。急きょ追加されたセッションに登壇した米国のブリンケン国務長官は、「米国とサウジの合意はもうすぐだ」と強調した。サウジのファイサル・ビン・ファルハン外相も別の場で「協議はほとんど終わった」と語った。

米国はサウジがイスラエルとの国交を正常化する見返りとして、サウジとの安全保障協力強化や原子力発電所開発の支援に加え、パレスチナ国家樹立に向けた交渉の後押しを提案しているとされる。

最大の焦点となるパレスチナ問題について、ブリンケン氏は会合で「正常化の進展にはガザの平穏とパレスチナ国家への確かな道筋が必要」と述べた。ファイサル氏も「パレスチナ国家樹立への確実で不可逆な道が欠かせない」と訴えた。

ブリンケン氏は4月末のサウジ訪問で、実権を握るムハンマド・ビン・サルマン皇太子やファイサル氏と会談し、詰めの議論を行ったとみられる。

アラブ諸国は近年、イスラエルに接近し、2020年にアラブ首長国連邦などが国交を正常化した。そこで優先されたのは、パレスチナ国家樹立の「大義」よりも安全保障や経済面での実利だった。

長年イスラエルと対立してきたイスラム教スンニ派の盟主サウジも、最大の脅威であるシーア派大国イランを封じ込めて地域の安定を図り、脱石油依存に向けた経済多角化を推進するため、イスラエルとの関係を強化したいという思惑があった。ムハンマド皇太子はイスラエルを「潜在的な同盟国」とまで評した。

だが、ガザの戦闘で情勢は一変した。アラブ圏で反イスラエル感情が噴き出すと、交渉は凍結されたとみられていた。その中で再び動き出した背景には、秋の大統領選に向け、外交で得点を稼ぎたいバイデン米政権の思惑がある。交渉が成立すれば、中東の対立の構図を根底から変える「歴史的和平」となるからだ。

ただ、サウジの政治評論家ムバラク・アラアティ氏は「ガザ戦争で状況は複雑になった。サウジも国交正常化による経済面などでの期待は大きいが、今はパレスチナ国家樹立を優先せざるを得ない」と指摘する。

イスラエルとの和解に対し、サウジ国内での反対は根強い。22年の米研究機関の調査では、国交正常化に「賛成」との回答は5%にとどまった。サウジの会社社長(45)は「パレスチナ国家実現まで和解するべきでない」と言い切った。

ガザで戦闘が続く限り、イスラエルへの反発は収まらず、最南部ラファに侵攻すれば、交渉はさらに難しくなるとみられる。それでも、アラアティ氏は「中東では物事が突然動く。イスラエル次第で一気に進む可能性もある」との見方を示した。【5月3日 読売】
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先ずは、アメリカとサウジアラビアの間の安全保障協定合意の方向で動いているようです。

****米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関係正常化の一環*****
バイデン米政権とサウジアラビアが安全保障や民生用原子力に関する協定で合意に近づいていることが、事情に詳しい複数の関係者の話で分かった。

関係者によると、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘勃発を受けて頓挫したサウジとイスラエルの関係正常化計画を再び軌道に乗せることを目的とした提案などが草案に記されている。

ただ、米国とサウジは現時点で2国間の安全保障協定を巡る交渉を優先しており、この協定はイスラエルに提示する、より広範なパッケージの一部になるという。

米国務省のミラー報道官は2日、パッケージの米・サウジ部分について「合意が非常に近い」と述べ、「非常に短期間で」詳細がまとまる可能性があるとした。

湾岸諸国の外交官やワシントンの関係筋によると、この計画はサウジが中国製兵器の購入を停止し、中国からの投資受け入れを制限する見返りに、米国がサウジ防衛を正式に保証するとともに、サウジがより先進的な米国製兵器にアクセスできるようにする内容になる見通し。(後略)【5月3日 ロイター】
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中国  個人破産制度のない社会での不良債務者 改めて「信用スコア」の話

2024-05-02 22:57:27 | 中国

(高スコアを得ることに対するインセンティブ例 芝麻信用(ジーマ信用・セサミクレジット)は、信用情報のネガティブ面のチェックよりも、行動を「良い方向」に導こうという明確な意図を持っている点が大きな特徴。【リース株式会社HP】とのことです)

【個人破産制度がない中国 不良債務者への扱いは?】
中国の不動産不況やイマイチ盛り上がらない個人消費はよく論じられていますが、「ああ、そうなんだ・・・」と思ったのは、中国では個人破産は認められていないということ。 では借金を抱えて滞納するような人はどうなるのか?

****中国の不良債務者に罰、旅行も高速列車も禁止****
急増する借金滞納者を取り締まる政府、給料の差し押さえも

チン・フアンシェンさんはかつて都会でもっと良い生活を送ることを夢見ていた。16歳で故郷の村を離れ、工場で働き始めた頃のことだ。

40代を迎えた今、彼女は4万ドル(約600万円)の借金を抱え、基本給は月400ドルだ。借金取りにしつこく追われている。高速鉄道の切符を買うことが禁じられているが、これは借金滞納者が政府に科される罰則の一つに過ぎない。

古びた鈍行列車に乗るしかないチンさんは、時折、周囲の乗客を見回してこう思う。「この人たちもみな私のような不良債務者なのだろうか」

借金とそれを返済しなければ処罰される制度が、中国全土の人々に重くのしかかっている。中国政府は滞納者の給料を差し押さえたり、政府の仕事に就くことを制限したり、高速鉄道や飛行機の利用を控えさせるなどして彼らを取り締まっている。

彼らの多くは多額の保険に加入することを禁じられ、休暇に出掛けることや高級ホテルに泊まることが許されない。これに従わなければ、当局に拘束されることがある。

公表されている政府のブラックリストに掲載された借金滞納者の人数は、2019年末以来50%近く増加し、現在は830万人に達する。裁判所がブラックリストに載せるのは、返済を求める判決を履行しない場合や、法的手続きに協力的でないと見なされた場合だ。

米国とは異なり、中国では自己破産を宣言して借金を帳消しにし、人生の次の段階に進むことを、大半の人々が――不運続きだった人も含めて――認められていない。

家計債務は過去5年間で50%急増し、今や約11兆ドルに達している。米国人の債務額である17兆5000億ドルよりは少ないが、所得水準がはるかに低い中国にとっては巨額だ。

住宅価格が下落し、デフレのリスクが定着しつつあり、失業が長引く課題となるなか、中国の指導部は人々の支出を増やすことに躍起となっている。

だが借金返済が1ドル増えれば、新しい服の購入や休暇旅行に回せる資金が1ドル減る。借金滞納で罰を受けるかもしれない脅威が、多くの世帯のお金の使い方を保守的にしている。

中国国家統計局が16日発表した1-3月期の小売売上高は前年同期比4.7%増と、国内総生産(GDP)伸び率の同5.3%を下回った。国民の多くが支出を抑える一方で、政府は製造業と輸出を急加速させることを優先し、この戦略は西側との貿易摩擦を悪化させている。

こうした状況下で、米アップルや米化粧品大手エスティローダー、米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)などの西側企業は、中国市場の売上高が減少している。

個人債務急増の背景
中国で長く続いた住宅ブームは、個人債務が増加する大きな原因になった。多くの人々が住宅購入のために借金を増やす必要があったからだ。

一部の購入者は投資目的でより多くの物件を購入するために借金を重ね、時には空き家のまま放置した。ブームが去り、価格が急落した今、手に負えない債務を抱えた人々が大勢いる。

不動産調査会社の中国指数研究院(チャイナ・インデックス・アカデミー)によると、競売に付された差し押さえ物件の数は2023年に43%増加し、約40万件だったという。

また個人債務の増加は、景気が低迷するなか、出費を賄うためにクレジットカードを使ったり、個人信用枠を利用したりする人が増えた結果でもある。

多くのエコノミストは、米国のような金融危機が中国で近く起きる可能性は低いと話している。国家が銀行システムを管理しているため、緊急事態が起きれば、政府が損失を吸収し、資本を注入できる。家計債務も過去2年間、ほぼ横ばい状態だ。余剰資金を買い物や株式投資ではなく、借金返済に回すことを優先する人が多いためだ。

借り手に厳しい制度
中国はかねて個人消費を拡大させようと努めてきた。伝統的なインフラと不動産市場拡大への経済の依存を和らげるためだ。銀行が新規発行するクレジットカードは年間数千万枚に上り、カード債務残高は2018年から23年の間に50%急増して1兆ドルを優に超えている。

支付宝(アリペイ)や微信(ウィーチャット)のような民間テック企業のアプリも、電子決済システムの人気上昇につれ、消費者ローンの普及に一役買うようになった。

だが借金が返済できなくなれば、個人の所得が国に差し押さえられる。債務者の生活費はわずかしか残らない。

そこへブラックリストに載った人々を相手にする闇市場が現れた。ある事例では、上海当局が、債務者に代わって高速鉄道の切符を予約・購入するダフ屋の一味を摘発した。地元裁判所によると、2021年初め、このサービスを利用していた債務者を当局が突き止め、身柄を拘束した。

現行制度は、苦しむ個人を犠牲にして債権者――権力を持つ国有機関が多い――の保護を重視している。この問題を研究する学者たちは、中国が早急に全国的な個人破産制度を整える必要があると話している。不良債権のコストを債権者と債務者に強制的に分担させることで、習近平国家主席が掲げる格差解消の目標(共同富裕)を達成するためだという。

「個人破産制度は富の再分配のメカニズムだ」。破産政策について政府に助言している学者の李曙光氏は昨夏、中国のオンライン雑誌の論評にこう書いている。(後略)【4月23日 WSJ】
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【「信用スコア」の活用が進む中国】
この記事を読んで思い出したのは、中国では民間企業による「信用スコア」制度が普及しているということ。
様々な個人情報を網羅して個人の信用度を格付けするこの制度では、上記のチンさんのような返済滞納者は単に高速鉄道や飛行機に乗れないといった話だけではなく、生活の多くの面で不利益を被るのではないのでしょうか?

個人生活の全てが監視・統制されるディストピア社会の象徴とも見らることが多い「信用スコア」の話は、2019年に「幸福な監視国家・中国」(梶谷懐・高口康太著)が出版された頃は盛んに論じられていましたが、最近はあまり関連記事を見ていません。どうなっているのでしょうか?

****あなたの信用度は何点? 知っておきたいトレンドワード30:信用スコア****
AIを活用して個人の「信用度」を数値化した信用スコアリングサービスが社会的に認知されはじめている一方で、先行国では課題も顕在化しつつある。信用スコアとは何か、そのメリットや課題、海外や日本での活用状況について解説する。

信用スコアとは
「信用スコア」とは、属性情報、金融情報、行動情報などを用いて、AIを使って個人の信用力を数値化したもの。分析して弾きだされた数値は、融資やローンなどの申し込みに対して「この人はどの程度信用できるか」の判断や、割引やポイント還元など優待サービス提供などに活用されます。

信用情報との違いは
よく似たものにローンの申し込みなどに際して使われる「信用情報」があります。信用情報は国内に3社ある信用情報機関が取り扱い、クレジットやローンの契約などの際にクレジット会社が顧客の信用を判断するための参考資料として使用されます。

信用スコアとの大きな違いは活用するデータ量です。信用情報はクレジットカードや割賦販売、各種ローンなどの契約内容や支払い状況などの客観的な取引事実に加え、年収や住宅情報、勤務先、公共料金等の支払い状況など、資産や支払いに関連した情報を登録したものです。そのため主な使用先はクレジットカード会社や銀行など金融機関、保険会社や保証会社、消費者金融、信販会社などです。

信用情報は信用情報機関とクレジットカード会社などの利用企業との間だけでやり取りされ、仮に審査に落ちてもどんな情報を見てどう判断されたのか、個人が知ることはできません。

一方信用スコアはスコアリングサービス提供企業が「個人の信用度」を算出するにあたり、信用情報に加えて学歴や職業、SNS使用履歴や購買履歴など、個人に紐づいたよりセンシティブな情報も判断材料として使います。

また、信用情報は支払い状況や残債など客観的な事実のため、信用情報機関によって信用度が異なることは考えられませんが、信用スコアの場合はスコアリングを行う会社によって判断材料として使用する項目やAIによる重みづけは異なるため、同じ人物でも会社によって数値が異なることが考えられます。

ユーザー個人が自らのデータを提供してスコアを算出し、スコアを活用する場合もありますが、スコアリングサービス運営会社が自ら保有するサービスや提携企業を通じて情報収集を行う場合もあります。

信用スコアを活用するメリット
信用スコアの数値が高いことで得られるメリットには、個人の信用度が多様な基準に基づいて数値化されることによって、フリーランスや非正規労働者、外国人など、信用情報に基づく審査基準では金融サービスを受けるのが難しかった人でも比較的融資を受けやすくなる場合がある点が挙げられます。

また、ローンの承認やクレジットカードの発行だけでなく、スコアに応じて金利が優遇されたり、後払いが可能になったり保証金が不要になるなどの優遇措置を受けやすくなる、スコアが高いほど転職や婚活で希望が通りやすくなる、割引や非金融のオプションサービスを受けられるといったメリットも想定されます。

さらに、オンラインでの取引で出品者やユーザーの評価に信用スコアが反映されるようになれば、サービスを安心して利用・提供できるようになります。

信用スコアの活用が進んでいる中国では、不正行為が減った、マナーが良くなった、病院の混雑が緩和されたなどの変化がみられているそうです。

信用スコアの活用によるリスクや課題
信用スコアのリスクとしては、やはり個人情報やプライバシーに対する課題が挙げられます。Web上での行動やSNS使用履歴、決済アプリの利用履歴などの情報を知らないうちに収集されたり分析されたりするのではと抵抗感を抱いたり、情報漏洩を心配する人も少なくありません。

また、膨大な情報をもとに複雑な処理(ディープラーニング)をしてAIが分析・数値化するため、アルゴリズムやプロセスが見えません。そのため仮に低いスコアを出されて悪影響を受けたとしても、なぜ低い評価になったのかスコアリングサービス提供企業すら説明できない場合があります。

実際に中国では「アリババ以外のネット通販会社を利用するとマイナス評価になる」といった噂が飛び交っているようです。評価基準が明確ではないにもかかわらず、信用スコアによってサービスを利用できる人と利用できない人が出てくるといった状況も懸念されます。

さらに信用スコアの利用拡大によって新たな格差や差別の拡大につながりかねないという懸念もあります。意図せずバイアスがかかるなど、必ずしも正しいとは限らない数値に基づく信用システムで一度低い評価を受けてしまうと、あらゆる社会サービスから除外されて抜け出しにくくなるリスクがあるわけです。性別や宗教、人種や出身国などによって信用スコアの数値に影響があるとしたら、それが差別につながる恐れもあります。

たとえば、アメリカで保有資産が同じにもかかわらず女性であることで信用スコアを下げられ、利用限度額に大きな差がつけられたのではないかと問題になった事例があります。同様に「年収や職業など他の条件が同じでも性別を男性から女性にするだけでスコアが下がる」と指摘されたケースは日本でも見られました。

海外での信用スコアの活用状況
信用スコアの活用が最も進んでいるのが中国とアメリカです。特に保証金や先払い制度が根強い中国では社会インフラにもなっており、信用スコアが高いことで享受できるメリットも高くなっています。

中国はアリペイの機能の一つである「芝麻信用」がほぼ独占状態で、12億人ともいわれるアリペイユーザーの膨大な情報を分析し、「学歴」「勤務先」「資産」「返済」「人脈」「行動」の6つを評価軸として350点~950点の範囲で信用スコアを算出。高スコアの場合、優遇金利でローンが組めるほか、賃貸契約の際に敷金が免除になる、出国手続きが簡素化される、シェアサイクルや電気自動車レンタル、ホテル予約の保証金免除などの優遇が受けられます。

アメリカで利用されている信用スコアで代表的なのは、Equifax、TransUnion、Experianの三大信用調査機関が採用している「FICOスコア」です。1956年から活用され、返済履歴、借入残高、信用履歴の長さ、クレジットの種類と構成、そして新規クレジットの5つの要素で採点を行なっていて、算出にあたって性別や年齢、住所、収入といった個人情報は使用していないと言われています。そのため算出根拠データは信用情報に近いですが、スコアを個人が把握できる点と、利用範囲が幅広い点が異なります。

スコアは300点~850点の範囲で採点されていて、760点以上がエクセレント、725点以上がベリーグッド、660点以上がグッド、660点未満がサブプライムと呼ばれています。スコアは預金利子やローン金利だけでなく、就職や入居審査にも影響するため、生活への影響はかなり大きくなっています。

また近年フィリピンなど金融口座開設率がまだまだ低い国で、デジタル銀行など振興勢力が信用スコアを活用し始めるなど、急速に活用が広がりはじめています。 現状日本国内ではまだ活用シーンは少ないですが、今後海外とビジネスをする際には信用スコアが必要になってくるかもしれません。

日本での信用スコアの状況
日本ではプライバシーや個人情報保護法のハードルもあり、活用の動きは始まったばかりでまだまだ浸透していない状況です。(中略)

AIの技術が進化し、ビッグデータの解析がより複雑化、精緻化されていくに従って、信用スコアを利用した新しいサービスが生まれてくるかもしれません。

信用スコアによる与信の自動化によって、金融機会の拡大や個人間取引の安全性などに期待が寄せられる一方で、「AI(IT企業)が人に点数をつけて評価する」ことに対する根強い抵抗感や、個人情報の取り扱いに対する不安、差別や偏見を生み出す危険性に対する対応が求められます。(後略)【3月14日 コクヨファニチャー-】
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【ディストピア社会ではないとの指摘も】
前期のように、“個人生活の全てが監視・統制されるディストピア社会の象徴とも見らることが多い”とネガティブな面で語られることが多い「信用スコア」「信用システム」ですが、そのポジティブな面、改善・進化している面の指摘もあります。

****監視とスコア付けで国民を支配する中国「社会信用システム」のヤバすぎる進化****
(中略)
「社会信用システム」の役割とは?
「社会信用システム」といわれると、全ての人の行動を徹底的に監視してそうなイメージです。しかし、中国で運用されている社会信用システムは実際のところ、市民の行動を監視するだけのものではなく、市民にとって役に立つ部分もあったようです。

中国の社会信用システムは現在「3つの役割」を果たしています。

【1】財政対策
(中略)消費が拡大すれば中国の経済を立て直すことができます。ただ、以前の中国で銀行やクレジットカードなどの信用情報を持っているのは人口のわずか5分の1しかいませんでした。当然、銀行やクレジットカードがなければ、ローンを組むことができません。ローンが組めないなら、お金を使うこともできません。

一方、銀行口座を持たない人口の多くは、WeChatやAliPayといった中国のアプリを日常的に利用しています。そこで「すべてのデータを使って信用スコアを作る」というアイディアが考えられ、アリババグループのアント・フィナンシャルなどを含む8つの企業がシステムを構築しました。

【2】市民の評価
以前の中国では粉ミルクに有毒化学物質が使用されるという食品問題や、政治家や公務員の汚職が社会問題になっていました。これらの問題は、中国社会全体の信頼の欠如につながると政府は懸念しました。

そこで中国政府は、都市に市民の行動を評価するシステムを作るよう指示します。しかし、細かいルールは各都市にゆだねられていたため、それぞれ独自のルールと報酬で評価システムを導入することになりました。

例えば「タバコを5本吸うごとに3ポイント」「15,000歩歩くごとに5ポイント」加算すると発表した都市もあれば、「市民一人ひとりにAからDまでの成績をつける」という都市もありました。これらのルールは市民から非現実的だと非難されました。ただし、中国政府はこのような問題だらけのシステムを評価していないようです。

【3】進化した「ブラックリスト」
以前は、各省庁が個別に記録を管理していたため、例えば税務当局の規則に違反しても、食品検査官には知られずに済んでいました。つまり、ブラックリストが共有されていなかったということです。

現在では、各省庁がそのデータを内部だけでなく一般市民とも共有することになっており、企業名を検索して評判の良い企業かどうかを判断することができます。

このように中国の社会信用システムは市民だけを監視するのではなく「財政対策」「市民の評価」「データの共有」といった目的で運用されているのです。【2023年7月1日 AppBank】
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ただ“中国政府は、都市に市民の行動を評価するシステムを作るよう指示”というのは、やはり怖い。どういう基準で評価されるのか? 政府の施策に批判的な傾向がデータ的に窺えると、信用度が低くなり多くのサービスから締め出されることも。

あるいは、狙い撃ち的に政府が「望ましくない人物」と判断した者の信用度が低くなるとか・・・。
評価基準がブラックボックスだけに対処しようもない。

コロナ禍ときも、中国中部の河南省にある複数の銀行で預金が引き出せなくなったトラブルをめぐり、省都・鄭州市当局が新型コロナ対策のアプリ「健康コード」を不正操作して預金者が抗議に集まるのを妨害しようとしたとしたことが発覚しました。

なお、中国でも個人情報利用は一定に制限されてはいるようです。

****中国、顔認証技術の利用に関する規則案発表****
中国のインターネット規制当局である国家インターネット情報弁公室(CAC)は8日、顔認識技術を使用する際のセキュリティー管理に関する規則案を発表した。

規則案によると、顔認識技術を使用できるのは特定の目的と十分な必要性がある場合に限られ、厳しい保護措置を講じる必要がある。 

さらに、使用には個人の同意も必要になる。目的を達成できる生体認証以外の技術がある場合にはそれを優先的に選択すべきだとしている。

生体認証、特に顔認証は中国で広く普及し、ゴミ収集からトイレットペーパーのホルダーなどあらゆるものに使われており、規制当局や国民の間で懸念が出ている。

中国はデータ規制の強化に動いており、2021年には企業による顧客データの乱用を取り締まるため、個人のプライバシーに初めて焦点を当てた個人情報保護法が施行された。【2023年8月8日 ロイター】
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