10年前、胃のGIST(粘膜下腫瘍)を切除するため、
腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)を受けた。内科医が内視鏡(胃カメラ)を使って正確な胃の切除箇所を特定し、外科医が腹腔鏡で胃の外側から棒状の鉗子で患部に迫る。
胃の内側と外側から2人の医師が協力して切除する術式で、切り取った病変部はお臍や口から出すという。私の場合は、腹腔内部に飛び散らないよう、胃の外側から病変をくり抜き、外側から胃を縫合する。病変は胃の内側から内視鏡を使って口から出す。腹腔鏡だけの手術よりも、腫瘍だけをピンポイントに切除出来るのが特徴だ。
説明を受けた時は驚いた。ドクターXなのか。
開腹しないから回復も早いし切除が必要最小限なので傷跡も少ない。技術力がいるが、担当医師達は経験豊富で恵まれていた。新しい術式はがん研有明病院で開発され前年に保険適用になったばかりだった。
手術後は年2回のCTと年1回の胃カメラで経過観察を続けて来た。10年の間に、担当医は何度も変わり(2年転勤かな)、今日の医師は今回が初めてだった。前の患者が退室してから、カルテを読み込んでいたのか5分以上置いて呼ばれた。
「初めまして。検査結果異常なしです。10年経ちましたので無事卒業です。」
最後になるので、ちょっと質問してみた。
「執刀医からは癌と言われたのですが。」
「GISTは腫瘍の大きさと核分裂数で再発リスクを評価しており、切除後に行った病理診断はローリスクの癌ということがわかった。」
…癌と聞いて手術したのに、10年前はがん診断の50万円が保険会社から出なかった。保険会社はWHOブルーブックの腫瘍の大きさと核分裂数の表を根拠に、ローリスクの癌には癌診断の保険金を支払わないと言う。
再発リスクが少ないのは嬉しいけど、保険金貰えないのは残念だった。
「転移するリスクは、腹腔内部ですか?」
「肝臓が多い。あとは他の臓器ですね。」
…経過観察のCTのおかげで、沖縄から戻った4年前、胸腺に腫瘍が見つかり、開胸手術。
胃の手術の際に、胸腺に影があり、呼吸器外科の医師も疑って毎回経過観察をしていたのだった。
胸腺癌ではなく胸腺腫と診断され、良かったと思って手術給付金を申請したら、癌診断の50万円が振り込まれて驚いた。どちらも癌に変わりがなく、進行速度が違うらしい。
胃GISTの癌細胞が転移して胸腺腫になった可能性を聞いてみたかったのだが、無関係だった。

10年の間に、病院に新棟が出来た。ここは旧棟の玄関受付ホールを食堂にリフォームした。診察や会計の待ち時間を表示板を見ながら休憩や食事をすることができるようになった。旧棟を知る人には快適で綺麗な病院になって嬉しい。
新棟の院長は待合室や廊下にペタペタ紙を貼るのを禁じていたが、ジワジワとペタペタ紙が貼られ始めているのが気になる。
セロテープの跡がくっきり残ってしまう。郵便局みたいにならないで。