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“男のためのガーデニング”改め

『はたよしこという衝動』~ボーダレス・アートミュージアムNO-MA企画展~

2021-07-03 18:12:22 | アート・ライブ・読書
 はたよしこさんは、絵本作家であるとともに「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」アートディレクターでもあり、知的障がい者支援施設「武庫川すずかけ作業所」(西宮市)で絵画クラブを主宰されてきた方だそうです。
また、日本全国の障がいのある人の作品の調査・発掘を行い、ドキュメンタリー映画の企画制作や2010年のパリ市立美術館主催の「アール・ブリュット・ジャポネ」展も手がけた方だといいます。

「NO-MA美術館」は障がい者アートや現代アートをボーダレスに企画展示する美術館ですが、はたさんはアートディレクターとしてNO-MAの創立前から関わり、20本以上の展覧会を企画されたという。
今回の『はたよしこという衝動』展は、はたよしこさんの活動の軌跡をたどりながら、アールブリュット作家たちの表現の衝動に触れるような企画展となっています。



【1.Replay】ではまず入館してすぐの場所に設けられた暗室と蔵の中の2カ所での展示になる。
暗室では「ムラギしマナヴ≪アロアンヌ製造中止≫」「と「吉田格也≪鶴の恩返し又は夕鶴≫」のボーダレスなコラボ作品が展示。

吉田格也さんは、小学校の頃に隣のクラスの出し物として上演された演劇を、記号化された不思議な図形が並ぶ絵巻物に描くとともに、テーマソングを唄っている。
ムラギしマナヴさんはその絵巻をアニメ作品に読み替えて映像での表現を試みています。



橋脇健一≪無題≫は、腕時計で測りながら一枚の絵を一分ちょうどで描くといい、家族からは“写真を撮っているつもりなんだと思う。”と言われているとるそうです。
時計や窓など同じモチーフの絵が描かれているが、それらの絵は壁面を覆うように展示されており、これは過去の美術展ではたさんが展示した手法のReplayだという。



「すずかけ絵画クラブ」は、はたさんが兵庫県西宮市の障がい者施設で始めた絵画クラブだといいます。
尼崎昌弘 ≪花魁≫はすずかけ絵画クラブの初期メンバーで30年近く油絵を描いてきた尼崎さんの力強くもインパクトのある作品です。



舛次崇さんは黒を基調としてアイボリーの背景色を使って花瓶に活けられた花を描かれています。
左から《植木鉢の花Ⅳ》《花瓶の花 カラー2》《ローラーと花瓶とカエデ》。
描く題材ははたさんがテーブルの上にモティーフを置いてセッティングされていたそうです。



富塚純光さんは、思いつくことを全てメモし、日々描き溜める膨大な量の記憶の中から選びだした一枚を、月に一度行われる絵画クラブに来て描くのだという。
その事実と空想の入り混じった物語は、描き続けるうちにストーリーが分からなくなってしまうため、スタッフが一名つきっきりになって、過程をデータ化されているそうです。
物語は《明るい話 正しい人-衣を投げつけた一休さん-》《丹波篠山お城ドーナッツ》《明るい話 正しい人-心がけ一つ-》。どの絵にも物語があるようです。



三角形の記号が描かれた作品は、安田文春 さんの《on the maunten(夏)》《お花と三角形と四角形のみなさん》《さんかくけいのみなさん》。
周囲の人がこれは何かをイメージして描いているのかと議論していたら「これは、さんかくけいのみなさんでございますよ」と答えたといいます。感性の妙を感じます。



安田さんの絵にインスパイヤされて、はたよしこさんが描いたのは絵本《さんかっけいのみなさん》。
アールブリュットは“専門的な美術教育を受けていない人が、湧き上がる衝動に従って自分のために制作するアート”と定義されていますが、美術教育を受けているはたさんがアールブリュットの感性に影響を受け作品を作る。
こういう現象は今後も増えてくるのではないでしょうか。



3つ目のカテゴリーは2階にあり、「信楽青年寮と田島征三」。
滋賀県は障がい者福祉に力を入れている県で、その施設のひとつに信楽青年寮があり、絵本作家の田島征三さんが自著で紹介されているのを読んで、はたさんは興味をひかれたといいます。

信楽は土の良さから陶芸が盛んな地で、粘土のアールブリュット作家を多く輩出しています。
伊藤善彦さんの《鬼の顔》では丸い穴状のものが密集していて顔なのかどうかよく分かりませんが、じっと見ていると角や口があり顔に見えてくる不思議な作品でうs。



パステル調の色彩でたくさんの顔が描かれているのは村田清司さんの《無題》。
絵はとても柔らかい印象を受けますが、それもそのはず和紙に描かれています。
村田さんは施設では最初は「紙漉き班」にいたそうで、施設で漉いた紙に描かれているのでしょう。やさしいタッチの絵ですね。



なんともいえないレトロな味わいのある作品は犬伏大助さんの《無題》で、映画のポスターを模して描かれています。
幼い頃に新作映画のロードショーが来る前に、看板屋さんが大きな看板に映画の絵を描いていた記憶があります。
本当に絵を描いているのを見たのか、映画の中での1シーンで見たのか分からないほどボンヤリとした記憶なんですが、そんな記憶への郷愁を思い出させてくれるような作品です。



描かれているポスターは昭和30年~40年代前半くらいの映画でしょうか?
クレイジーキャッツ、長谷川和夫、勝新太郎、舟木一夫、若乃花...名前は知っていますが、全盛期にはまだ当方は生まれていませんでしたしし、1969年生まれの犬伏さんも生まれていない。
「男はつらいよ」は27作目、昭和56年に公開された映画でマドンナは松坂慶子。もう40年も前の映画だ。



美術展は、犬伏大助さん川村紀子さん木村茜さんを紹介した「DNA パラダイス――全国の作者との出会い」に
続いて「はたよしこの絵本」のカテゴリーとなります。
はたよしこさんの絵本や原画が並ぶ中、興味深かったのは、はたさんがアートデレクションをつとめられた企画展のチラシです。
どのチラシを見てもワクワクするような企画となっていますが、当方が初めてNOMA美術館に訪れた時の「鳥の目から世界を見る(2015年)」は、はたさんのキュレーションによるものでした。



最後に蔵の中で展示されている高嶺格さんの《水位と体内音》のインスタレーションを見る。
この作品はNO-MAのオープン企画展で公開された作品のReplayで、全裸の女性が水中を漂う映像作品。
“胎内回帰のような感覚を呼び起こす”とのキャプションがありましたが、むしろ死や漂う魂のような印象を受けてしまう作品で、現代アートの難解さを感じる作品でした。





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